説明

石膏含有残渣・強酸性残渣の有効利用を前提とした燃料電池発電システム

【課題】 生物系バイオマスを硫酸糖化した後に発生する残渣及び糖化物を有効利用するシステムを提供する。
【解決手段】生物系バイオマスを細分化・粉砕後、硫酸糖化した上で中和して得た糖化液を、グルコース燃料電池に用いるか、若しくは当該糖化液に、有機酸産生菌、有機酸及びエタノール産生酵母、アミノ酸発酵菌、核酸発酵菌、微生物蛋白関係菌、生理活性物質産生菌、生理活性蛋白・ペプチド生産菌、産業用酵素産生菌、植物成長促進微生物のいずれかを植菌し培養する事によって有機酸、エタノール、アミノ酸、生理活性物質、生理活性蛋白・ペプチド、産業用酵素、微生物蛋白、プロバイオティクス剤、生物肥料の生産を行うと同時に、中和後の固液分離によって発生する石膏を含むバイオマス残渣を、塩類集積土壌・アルカリ土壌等用の土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、建築用石膏資材等として活用する事を特徴とする資源循環方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲藁等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスを硫酸糖化した後に発生する強酸性残渣、若しくは糖化物を生石灰等で中和した後に発生する石膏含有残渣を、アルカリ土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、石膏系建築資材として有効利用する事を前提とした上で、糖化液中のグルコース等の有機物を用いた燃料電池発電及び有用物質生産を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に関する技術開発は近年、急激に増加しているが、(体内埋め込み機器用以外の)グルコース燃料電池に関する報告は少なく(文献:「血液で発電する電池を開発、体内埋め込み医療具に利用」読売新聞、2005.5.13)、専門家間でさえ燃料電池分野全体に占めるこの技術の重要性が必ずしも理解されている状況にない。それはこの技術で水素供給源として用いるグルコース等の単糖のマクロな供給源が、経済システムの中で回転できる形では確保できていないからである(なお、体内埋め込み機器で用いられているミクロな供給源としては血糖が利用されている)。
グルコース燃料電池のマクロな水素供給源として古くから生物系廃棄物の利用が専門家間で言及されている(文献:谷口功、「グルコース酸化用機能性電極の開発とグルコース−空気電池の作製」月刊エコインダストリー、Vol.10,No.4,p36−45、2005)が、現時点では、この生物系廃棄物からグルコースを経済的に取り出す方法及び社会制度が確立できていない。そして、それが本技術のマクロな社会適用の最大のネックになっていると考えられる。
一方、生物系廃棄物自体はグルコース燃料電池のマクロなグルコース供給源として十分な利用規模を持ち、1億2千万人余りの日本国民全体の家庭電力使用量を賄える規模に到達している。その計算根拠を以下に示す。
1モルのグルコースを(自然界の光合成の逆反応で)完全に二酸化炭素と水に転換した場合、1モルのグルコースから12モルの電子を取り出す事ができる。電子1モル96500C(クーロン)であるから,96500×12クーロンを取り出す事が可能である.そうなると,1Ah(1Aで1時間流したときの電気量)は3600クーロンなので1モルのグルコースで96500×12÷3600=約322Ah。つまり322Aを1時間取り出せる事になる。実際の電力はこのグルコース燃料極と組み合わせる酸素極との兼ね合いで電圧が決まるので,先ほどの電気量に取り出しうる電圧を掛け合わせれば,電力(Wh)となり、仮に0.7Vの場合、322×0.7=約225Whとなる。グルコースの分子量は180なのでこれをグルコース1gあたりに換算すると1.25Whとなる。その場合、一般家庭の平均年間電力使用量3600kWhはグルコース2.88トンからの発電量に相当する。これをグルコースポリマーであるセルロースを45%含む稲藁に換算すると稲藁6.22トンに相当する。一方、我が国の生物系廃棄物は年間3.20億トン。これが全て稲藁と同程度のグルコースを含む場合、驚くべき事に年間5160万世帯の電力がグルコース燃料電池で賄える計算になる。一世帯3名とした場合、日本の人口1億2000万人余全員が恩恵を受ける計算となる。また、この計算はグルコースのみに限定して行われたものであるが、キシロース等のC5糖も電力転換可能なので、その分は更なる電力生産が可能となる。但し、生物系廃棄物の全てが稲藁と同程度の糖を含有している訳ではないので、その点は補正が必要である。
本発明はこの日本国民全員の家庭電力を賄えるだけの潜在性を有する生物系廃棄物バイオマスから経済システムの中で回転できる形でグルコース等の単糖を取り出す方法に関したものである。すなわち、稲藁、刈草等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスを糖化するコストを、糖化ステップで発生する廃棄物を有価物(土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、若しくは建築用石膏資材)に転換する事によって糖化コストをゼロ若しくは逆に黒字にし、糖化コストのために今まで使えなかった生物系バイオマスを燃料電池発電及び有用物質生産に利用可能とした。後50年と言われる石油資源、後70年と言われるウラン資源を持続的に活用するためにも、本発明を用いた段階的な社会システム転換が望まれよう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、稲藁等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスを硫酸糖化した後に発生する強酸性残渣、若しくは糖化物を生石灰等で中和した後に発生する石膏含有残渣を、アルカリ土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、石膏系建築資材として有効利用する事を前提とした上で、糖化液中のグルコース等の有機物を用いた燃料電池発電及び有用物質生産を行うシステムを提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、(1)稲藁、刈草等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスを必要に応じて細分化・粉砕後、硫酸糖化した上で酸化カルシウム(若しくは炭酸カルシウム)で中和して得た(セルロース、ヘミセルロース、澱粉等由来の)グルコース、キシロース等の単糖を大量に含む糖化液を、そのままグルコース燃料電池等による燃料電池発電に用いるか、若しくは、当該糖化液に、乳酸・コハク酸等有機酸産生菌、有機酸及びエタノール産生酵母、アミノ酸発酵菌、イノシン等核酸発酵菌、微生物蛋白(SCP)関係菌、抗生物質等生理活性物質産生菌、生理活性蛋白・ペプチド生産菌、産業用酵素産生菌、植物成長促進微生物(PGPR、菌根菌、窒素固定菌)のいずれかを植菌し培養する事によって各種有機酸、エタノール、アミノ酸、イノシン等核酸、抗生物質等生理活性物質、生理活性蛋白・ペプチド、産業用酵素、微生物蛋白(SCP)、プロバイオティクス剤、生物肥料のいずれかの生産を行うと同時に、中和後の固液分離によって発生する石膏を含むバイオマス残渣を、塩類集積土壌・アルカリ土壌等用の土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、若しくは建築用石膏資材等のいずれかとして活用する事を特徴とする資源循環方法、(2)1において、木質・草本系バイオマスを硫酸糖化後に発生した強酸性バイオマス残渣を中和せずそのままアルカリ土壌改良剤、若しくはアルカリ廃棄物の中和剤として用いる資源循環方法、(3)1、2において固液分離後の液体部分の有価物発酵後に各々の有価物を分離抽出した後に生じる残渣、若しくは発酵液を用いて肥料、土壌改良材、プロバイオティクス剤、微生物タンパク(SCP)等を製造する方法、(4)1〜3の方法を用いた二酸化炭素排出量の抑制方法の計4技術を適用すればよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明を適用すれば、高い糖化コストのために、従来、十分に活用されていなかった稲藁等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスからの燃料電池発電及び有用物質生産が可能となるだけでなく、硫酸糖化過程で発生する残渣をアルカリ土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、建築用素材として有効活用する事が可能となる。それによって、廃棄物処理の面でも地域雇用創出の面でも石油資源節約の面でも、そして二酸化炭素排出抑制の面でも社会貢献を行う事が可能となろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。まず、稲藁等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスを必要に応じて粉砕後、硫酸糖化する。硫酸糖化方法は濃硫酸法でも希硫酸法でもよい。ただ糖化後の残渣を石膏ボード等の建築用資材として再利用する場合は希硫酸法では石膏生産量が少なく後で石膏を別途添加せねばならない状況になるので効率的ではなく硫酸の消費量が多い濃硫酸法の方が良い。その一方で糖化後の残渣を塩類集積土壌・アルカリ土壌等用の土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材として再利用する場合はバイオマス残渣の割合が石膏量よりも多い方が望ましいので希硫酸法を選択するのが望ましい。なお、この硫酸糖化過程で発生するバイオマス残渣は(グルコースポリマーである)セルロースや(キシロース等C5糖を含むポリマー)であるヘミセルロースが除かれた状況になっているものと推測される。
【0007】
濃硫酸法、希硫酸法のいずれにせよ硫酸糖化した後、中和せずに固液分離して得たバイオマス残渣は強酸性の硫酸を含むが、それをそのまま強度のアルカリ土壌や非ナトリウム型の塩類集積土壌の土壌改良材に用いるのが望ましい。と言うのは石膏(硫酸カルシウム)では強度にアルカリ化が進行した土壌では作用しにくいだけでなく、ナトリウム型でない塩類集積土壌にはカルシウムイオンは作用しにくいからである。実際、メキシコでアルカリ化が進行している農地では石膏ではなく硫酸を施用してpHをコントロールしているケースも報告されている(文献:遠藤常嘉、山本定博、本名俊正、高島雅子、飯村康二、ラウル・ロペス、マリオ・ペンソン、「メキシコ・バハカリフォルニア半島中央部に分布する潅漑農地の塩類動態」、日本土壌肥料学会雑誌、第71巻、第1号、p.18−26、2000)。しかしながら、液体である硫酸を農地に入れた場合、雨水や潅漑水等で添加した硫酸が洗い流されやすく地下水汚染等の二次汚染が懸念される。そういった場合、上で述べた「硫酸を含んだバイオマス残渣」を土壌のアルカリ度の進行状況にあわせ施用量を調節して農地に投入する方向性は有効に働くであろう。そういった意味で木質・草本系バイオマスを硫酸糖化後にすぐ固液分離し、あえて中和しないバイオマス残渣は、そのままで(アルカリ土壌及び非ナトリウム型の塩類集積土壌用の)土壌改良材として活用できるものと考えられる。なお、本資材を農耕地に施用する際に注意せねばならない事は本資材のC/N比が非常に高いという点である。従って作物が窒素飢餓を引き起こさぬように糞尿などの窒素源を同時に添加する事が必要であろう。ところで、以上述べてきたこの方法論をとる場合は硫酸糖化後に固液分離した後で液体部分(すなわち糖化液)を生石灰等で中和し、次の発酵生産ステップに進める事になる。
【0008】
次に木質。草本系バイオマスを硫酸糖化した後、中和せずに固液分離して得たバイオマス残渣を石膏系資材として活用する場合の方法論について説明する。この場合はバイオマスを硫酸糖化した後に固液分離する前に生石灰等で中和するのが望ましい。そうしないと固体部分と液体部分の双方で別々に中和ステップが入るので製造コストがかかるためである。中和は生石灰が望ましいが、石灰でも良い。その場合は水産業で出る貝殻等の廃棄物が活用可能である。ただ炭酸カルシウムで中和する場合、弱アルカリであるため強酸の硫酸を中和するには相当の時間と量が必要となる。そういった意味で水に溶ければ強アルカリの水酸化カルシウムになる生石灰の方が扱いやすいだろう。また炭酸カルシウムの場合は中和の過程で二酸化炭素が発生するので二酸化炭素排出権市場での競争力は低下する。中和し固液分離を行った後に発生したバイオマス残渣は中和の過程で発生した硫酸カルシウム、すなわち石膏が混ざっている状態になっている。前述したように濃硫酸法を用いた場合はこの石膏の割合が希硫酸法の場合よりも多くなっており、その場合は残渣が含まれたままで建築用石膏ボードとして活用するのが望ましい。建築資材として用いるならば石膏の中に一定割合でバイオマス残渣が混ざっていても性能に大きな影響が出るものではなく特にグリーン購入法の適用を受ければ市場で流通可能であろう。また石膏に一定割合で混ざったバイオマス残渣が建築素材に保水性、保温性、ホルムアルデヒド吸収性などの何らかの機能を持たせる可能性もあり今後検討していく必要がある。
【0009】
なお硫酸カルシウム(すなわち石膏)はナトリウム系塩類集積土壌等に対する有効な土壌改良材であり土壌の物理性が改善できる事が知られているので、「石膏系土壌改良材」としてそのまま資源化する事も可能である。硫酸カルシウムによるナトリウム土壌の改良効果自体は1950年代に米国で開発された後(文献:U.S.Salinity Labo.Staff、Diagnosis and Improvement of Saline and Alkali Soils、U.S.Dept.Agri.Handbook.60:48−54.1953)、世界中で用いられ近年では松本らによる中国河北省でのポプラ植林におけるアルカリ土壌改良でも用いられている(文献:松本聰,中野圭一,雷 玉平,石川祐一.「中国河北省九連城地域のアルカリ土壌改良と植林」、日本土壌肥料学会講演要旨集.50:163、2004)。塩類集積土壌・アルカリ土壌に対する土壌改良の基本は土壌のナトリウムコロイドをカルシウムイオンで置換し、構造性の優れたカルシウムコロイドを生成させると共に、土壌pHを低下させることにある。この場合、ナトリウムイオンとの置換を着実に行わせるには、溶解度積定数の低いカルシウム塩を用いることが重要で、難溶性塩である硫酸カルシウム(2水塩)が有効に働く事が報告されているが(文献:松本聰、日本農芸化学会シンポジウム「地球環境の再生へ向けて」世界の問題土壌とその再生への要素技術の開発、2000)、現時点では十分には普及していないためもあり、中国、オーストラリアをはじめ世界各国で塩類集積による土壌荒廃が問題となっている事を考えれば、本資材が我が国の新たな輸出品に加わる可能性もあろう。また必要ならば本資材に窒素源を別途添加しC/N比を整えて肥料化、堆肥化する事も可能と考えられる。なお、その場合の窒素源として糞尿を用いれば資源循環上、更に望ましいだろう。また肥料として用いる場合はカルシウムが特に豊富な肥料としての機能性を持つ側面もあり有効利用が望まれる。
【0010】
ところで秋田県においては農業用排水に代掻きに起因するSS(浮遊懸濁物)が大量に含まれ八郎潟残存湖水質問題の主因になっていると報告されている(文献:近藤正、「水の循環・利用・汚濁機構と定量評価」、平成11〜13年度科学研究費補助金研究成果報告書「限界閉鎖系水圏環境における環境保全型農法の高度化と測定評価に関する研究」、p.34)が、石膏に含まれるカルシウムイオンはSSの分散を抑止する効果もあるので、実施例でモデル実験結果を示したが、そのようなケースでは本資材を施用する事によって水質問題を軽減できる可能性も考えられる。このカルシウムイオンによる土壌分散抑止効果を活用した本残渣資材を今後、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材として、国内外の土木現場において幅広く利用する事が可能であろう。
【0011】
次に硫酸糖化後に中和した糖化液の活用方法について述べる。ここで得られた糖化液の組成は用いたバイオマスの組成によって異なるが、例えば稲藁の場合は元々セルロース45%、ヘミセルロース30%、その他リグニン等25%という組成であるので(文献:山地憲治、小木知子、湯川英明、酒井正康、渡邊裕、遠藤真弘、正田剛、横山伸也、大内健二、杉浦純、美濃輪智朗、木田建次、小寺栄、『バイオマスエネルギーの特性とエネルギー変換・利用技術 地域特性にあった技術選定・最適プロセスの構築から事業採算性・市場展望まで』、株式会社エヌ・ティー・エス、2002)、糖化液にはセルロース由来のグルコースが45%、ヘミセルロース由来のキシロースが30%の他様々な抽出物が含まれた液体が得られる事になる。驚くべき事にこの糖化液のグルコース量はトヨタ自動車株式会社が生分解性プラスチック用乳酸の生産のために利用しているサツマイモ(グルコースポリマーである澱粉含量20%)より多く、稲藁という廃棄物であるのにも関わらず、サツマイモよりもむしろ乳酸発酵に適している成分になっている。
【0012】
実際、発明者らは酵母Kluyveromyces themotoleransを小麦ふすま糖化液に植菌し3日間、25℃で静置培養したところ小麦ふすま1kgあたりの乳酸生産量31.3±3.3gにも昇っている事が確認できている。この数値は驚くべき事にジャガイモ可食部からの乳酸生産収率(モンサント社の乳酸転換実質効率を当てはめた場合)と大きくは変わらないが、乳酸生産のための最適化条件(培養日数、pH、温度、酸素条件、栄養条件等)を検討していない段階での数値であるから、今後、更に生産量は改善できる事が期待される。従って簡単な実験であるが本実験結果一つとっても生分解性プラスチックを製造するに当たって今後は貴重な農作物可食部を使う理由がなくなる事が予想できる。農業系廃棄物で十分であろう。
【0013】
なおここで用いた酵母は醸造用酵母でありエタノール発酵出来る事も知られている。現在、ブラジルやアメリカ合衆国ではトウモロコシやサトウキビの可食部をエタノール発酵させて得たエタノールで自動車燃料(ガソホール)の一部を賄っているだけでなく、エタノールは燃料電池の水素供給源としても機能する事が知られている。従って、本小麦廃棄物糖化液に適当な株の酵母を植菌し培養する事によって生分解性プラスチック製造に必要な乳酸等の「素材」だけでなく、燃料電池用水素供給源やガソホールとして利用可能なエタノール等の「エネルギー」も同時生産する事が可能となる。
【0014】
更に、発明者らは稲藁や小麦廃棄物糖化液が、他に栄養物質を添加していないにも関わらず、酵母や乳酸菌だけでなく様々な微生物の良好な増殖基質になる事も見出している。これが意味する事は当該バイオマス糖化液は乳酸・コハク酸等の有機酸産生菌やエタノール発酵菌の増殖基質になるだけでなく、アミノ酸発酵菌、イノシン等核酸発酵菌、微生物蛋白(SCP)関係菌、抗生物質等生理活性物質産生菌、(遺伝子組み替え菌を含む)生理活性蛋白・ペプチド生産菌、産業用酵素産生菌、植物成長促進微生物(PGPR、菌根菌、窒素固定菌)等にとっても良好な増殖基質になる可能性が高い事を意味している。本方法論で糖化液を得る上での糖化コストが(土壌改良材や建築資材の製品化によって)事実上ゼロになる事と稲藁・麦藁等の木質・草本系バイオマスの原料費が廃棄物故にゼロである事を併せて考えると、当該糖化液は、あらゆる発酵産業にとって安価かつ良好な増殖基質になりえ、各種有機酸、エタノール、アミノ酸、イノシン等核酸、抗生物質等生理活性物質、生理活性蛋白・ペプチド、産業用酵素、微生物蛋白(SCP)、プロバイオティクス剤、生物肥料を生産するにあたって有効である可能性を示唆しているものと考えられる。なお、糖化に用いるバイオマスによって成分は変わってくるので、用いる微生物の種類によっては必要に応じて別途、栄養物質を補強してもよいであろう。また、このような発酵生産を行った後の残渣は、用いる微生物によっては、肥料、土壌改良材、プロバイオティクス剤として活用する事が可能であり、そういった形で資源循環を徹底的に実体経済に載せる事が肝要である。
【0015】
ところで、前述したように燃料電池分野では数年前からグルコース燃料電池が開発され体内埋め込み型機器の微小電源として使われているだけでなく(文献:「血液で発電する電池を開発、体内埋め込み医療具に利用」読売新聞、2005.5.13)、最近では廃木材等を用いた発電システムも提案されている(文献:谷口功、「グルコース酸化用機能性電極の開発とグルコース−空気電池の作製」月刊エコインダストリー、Vol.10,No.4,p36−45、2005)が、廃木材等の木質・草本系の廃棄物バイオマスを糖化するコストが高く採算が合わないために、事実上、使えない状態にある。従ってこのグルコース燃料電池の分野において本発明を適用する事によって木質・草本系バイオマスの糖化コストをゼロにし、そこで得られたグルコース及びキシロースを大量に含む糖化液から燃料電池発電を行えば、前述のように我が国の生物系廃棄物を全て処理すれば日本国民全体の家庭消費電力全体を賄えるポテンシャルがある事を考えれば、エネルギー分野で構造改革が起こるかもしれない。
【0016】
なお、ここで重要なのはC6糖であるグルコースのみ電力転換するのではなく、グルコン酸やグルコノラクトン等のグルコースの分解産物や、ヘミセルロースの分解産物の1つであるキシロース等のC5糖からも発電できるシステムを活用する事である。そのためには各分解産物を含む各関連物質ごとにデヒドロゲナーゼを取得した上でメディエーターと共に電極に固定させる方法を用いるか、あるいは広い範囲の有機物から電子を取り出せる電極を使う必要がある。実際、銀及び塩化銀を用いた金属電極ではグルコースからだけでなくキシロース、マンノース、ガラクトースからも電力転換する事は既に可能になっている(文献:谷口功、「グルコース酸化用機能性電極の開発とグルコース−空気電池の作製」月刊エコインダストリー、Vol.10,No.4,p36−45、2005)。純系ではなく様々な有機物を含む複合系であるバイオマス糖化液を用いる以上、多様な有機物から水素を一括取得できる電極を活用する事が重要と言えよう。
【0017】
以上、述べてきた方法を用いる事によって現在、農作物の可食部を利用するポリ乳酸系生分解性プラスチック業界で認められているカーボンニュートラル以上の二酸化炭素排出量抑制効果が期待できる。この方法を用いれば用いたバイオマスを一切焼却しないので発生する二酸化炭素量は糖化液の発酵過程で発生する微生物による二酸化炭素発生に限定できる。これは現在、木質・草本系バイオマスの大半が焼却されそこで発生している二酸化炭素量と比べると微々たるものである。また本方法で得られたエタノール若しくはグルコースを用いた燃料電池発電量が従来の火力発電による発電量の代替になりうるならば、今まで火力発電で発生していた二酸化炭素も節減できる事になる。また本方法で得られたエタノールやグルコースを含む糖化液を水素供給源とする自動車、船舶、家電等が稼働すれば自動車等の排気ガスから発生している二酸化炭素量も削減できる。二酸化炭素が本当に地球温暖化に大きく影響しているのかは専門家の間でも議論が分かれているが、少なくとも京都議定書で日本政府が国際社会に公約した二酸化炭素削減量を確保したり、ウォール街で一部稼働している二酸化炭素排出権市場を有利に進める上では有効に働く事は間違いないだろう。
【実施例】
【0018】
(実施例1)松葉50gおよび松の樹皮50gを鋏等で裁断しミルで粉砕後,濃硫酸10mLを予め加えた蒸留水比を加え,懸濁した上で120℃,3時間,加温加圧処理後,酸化カルシウムでpH7.5に調整した。吸引濾過で固液分離し,硫酸カルシウム・有機物残渣を主成分とする濁水発生抑制剤と糖化液を得た。代掻き開始後に秋田県南秋田郡大潟村内農業用幹線用水路で微細土壌粒子が懸濁した濁水を採取した。500Lビーカーに,濁水400mL,もしくは濁水400mLおよび濁水発生抑制剤5.0gを添加した。緩やかに撹拌した後,静置した。18時間後に,適宜希釈後,JIS K0102に則り,濁度を測定した。すなわち,1mg/Lカオリン懸濁液の波長660nmにおける吸光度を濁度1度とし,0〜100mg/Lのカオリン懸濁液を用いて作成した検量線から,試料の吸光度を測定し,濁度に換算した。その結果,原水の濁度が280度,18時間、静置後に160度までしか低下しなかったのに対して,濁水発生抑制剤5.0gを添加することにより,濁度は18度まで顕著に低下した。この結果は,本濁水発生抑制剤が,原水に含まれる微細土壌粒子を効果的に凝集・沈降させ,排水への環境汚濁を抑制できることを示唆している。
【0019】
(実施例2)小麦ふすま100gに濃硫酸10mlを予め加えた蒸留水1Lを加え懸濁した上で、120℃、3時間、加温加圧処理後、吸引濾過で固液分離し糖化液を得た。得られた糖化液を酸化カルシウムでpH7.5に中和後、硫酸カルシウムを主とする沈殿物を吸引濾過で除いた上で1Lにフィルアップした。得られた糖化液を10ml三角フラスコに20mlずつ分注しシリコ栓を設定した上でオートクレーブ滅菌し稲藁糖化液培地とした。次にこの培地に以下の3種の微生物を各々植菌した。用いた微生物は以下の通りである。(1)クルイエロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)(2)サッカロマイセス・サケ(Saccharomyces sake)、(3)バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)NBRC12714。3日間、25℃で静置培養後、培養液を遠心分離し上清をSepPak(C18)でクリーンアップし、2種類の条件でHPLC分析した。一つめの条件は逆相ODS−HPLC(カラム:Mightysil RP−18GP Aqua、4.6×250mm、移動相:0.1vol%H3P04,H20/CH3CN=97.5/2.5、流速:1.0ml/min、検出:UV215nm)で、二つめの条件はイオン交換HPLC(カラム:Waters Organic Acid Column7.8×300mm、移動相:3mM HCl04、流速:1.0ml/min、検出:UV215nm)を用い、双方の分析条件の両方が乳酸標準物質と一致する事を確認した上で各々の物質の定量を行い、稲藁1kgあたりに換算した場合、各々何gの乳酸生産性を有しているかを推定した結果、それぞれ31.3±3.3g、14.7±1.7g、32.0±6.4gという数値を示していた。このうちバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)に関してはL乳酸のみを選択的に生産しているものと考えられる。なお、HPLC/UVだけでなく、より精密性が高いLC/MS/MSを用いても同様な結果が得られた。また、ここではデータを示さないが、稲藁に関してもやや収量に劣るものの同様な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明を適用すれば、高い糖化コストのために、従来、十分に活用されていなかった稲藁等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスからの燃料電池発電及び有用物質生産が可能となるだけでなく、硫酸糖化過程で発生する残渣をアルカリ土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、建築用素材として有効活用する事が可能となる。それによって、廃棄物処理の面でも地域雇用創出の面でも石油資源節約の面でも、そして二酸化炭素排出抑制の面でも社会貢献を行う事が可能となろう。また、その上に二酸化炭素排出量削減や資源循環を通した環境保全にも貢献できる。そして、このようなバイオコンビナートをインターネットのような分散型かつ双方向的な素材&エネルギー源(素材・エネルギーウェブ)として世界各地の農村地域に段階的に設立していく事により都市部に偏った富や雇用を分散させる事も可能となろう。すなわち、素材及びエネルギーを世界的規模で民主化し新しい形の世界経済をもたらす可能性が考えられる。本発明は21世紀後半型の新しい形でのグローバリゼーション(ポスト・グローバリゼーション)につながるかもしれない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
稲藁、刈草等の木質・草本系バイオマス、活性汚泥等の糞尿系バイオマス、食品産業廃棄物、古紙、生ゴミを含む全て生物系バイオマスを必要に応じて細分化・粉砕後、硫酸糖化した上で酸化カルシウム(若しくは炭酸カルシウム)で中和して得た(セルロース、ヘミセルロース、澱粉等由来の)グルコース、キシロース等の単糖を大量に含む糖化液を、そのままグルコース燃料電池等による燃料電池発電に用いるか、若しくは、当該糖化液に、乳酸・コハク酸等有機酸産生菌、有機酸及びエタノール産生酵母、アミノ酸発酵菌、イノシン等核酸発酵菌、微生物蛋白(SCP)関係菌、抗生物質等生理活性物質産生菌、生理活性蛋白・ペプチド生産菌、産業用酵素産生菌、植物成長促進微生物(PGPR、菌根菌、窒素固定菌)のいずれかを植菌し培養する事によって各種有機酸、エタノール、アミノ酸、イノシン等核酸、抗生物質等生理活性物質、生理活性蛋白・ペプチド、産業用酵素、微生物蛋白(SCP)、プロバイオティクス剤、生物肥料のいずれかの生産を行うと同時に、中和後の固液分離によって発生する石膏を含むバイオマス残渣を、塩類集積土壌・アルカリ土壌等用の土壌改良材、濁水抑制材、微細土壌流出抑制材、堆肥化素材、若しくは建築用石膏資材等のいずれかとして活用する事を特徴とする資源循環方法。
【請求項2】
請求項1において、木質・草本系バイオマスを硫酸糖化後に発生した強酸性バイオマス残渣を中和せずそのままアルカリ土壌改良剤、若しくはアルカリ廃棄物の中和剤として用いる資源循環方法。
【請求項3】
請求項1、2において固液分離後の液体部分の有価物発酵後に各々の有価物を分離抽出した後に生じる残渣、若しくは発酵液を用いて肥料、土壌改良材、プロバイオティクス剤、微生物タンパク(SCP)等を製造する方法。
【請求項4】
請求項1〜3の方法を用いた二酸化炭素排出量の抑制方法。

【公開番号】特開2006−326562(P2006−326562A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176918(P2005−176918)
【出願日】平成17年5月21日(2005.5.21)
【出願人】(500412183)
【Fターム(参考)】