説明

石英ガラス基板の製造方法

【課題】石英ガラス板材を均一な肉厚で接合でき、接合部における気泡の混入を抑制すると共に、接合部の垂れ下がりを抑制する。
【解決手段】石英ガラス板材A,Bの接合端面の断面形状を、該石英ガラス板材の厚さ寸法をDとしたとき、端面先端部からの寸法が0.25D乃至0.75Dの範囲内にある前記石英ガラス板材の上下面の2点と、前記石英ガラス板材の厚さ方向の中心を基準にDの±10%以内の端面先端部の1点を通る放物線によって構成される凸曲面に形成する工程と、接合する各石英ガラス板材を水平状態に支持し、接合する端面A1,B1同士を対向させる工程と、前記石英ガラス板材の上下に、接合端面の長手方向に沿って所定ピッチで設けられた複数のバーナノズルを接合端面の長手方向に沿って揺動させながら接合端面に火炎を当て、接合端面を溶融する工程と、接合端面同士を押し合わせ、溶着する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石英ガラス基板の製造方法及びこの製造方法に用いられる石英ガラス板材に関し、特に複数の石英ガラス板材を溶着して接合する石英ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ところで、近年においては、大型のガラス板の需要が増し、複数の石英ガラス板材を接合することによって、大型の石英ガラス基板を製造することが行なわれている。
例えば、特許文献1には、接合する石英ガラス板材を縦置きに対置し、縦方向に延びる接合部(端面)を左右両側から加熱溶融し、溶融した接合部を押圧力によって溶着する製造方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示された製造方法にあっては、石英ガラス板材を縦置きにした場合、バーナノズルは縦方向に並べて設けられるが、接合部をバーナで加熱する際に火炎が空気より軽いため上方に向けて火炎流が形成され、接合部(縦方向に延びる端面)の上部と下部とで温度差(加熱ムラ)が生じ、接合部を均一な状態で接合し難いという課題があった。
また、一辺の長さが1000mmを超えるような大型の石英ガラス板材を縦置にするために、高精度の平面度を維持しつつ、支持できないという課題があった。
【0004】
また、前記課題を解決するものとして、二つの石英ガラス板材の接合部(端面)同士を水平状態で対置し、接合部を上下両側から加熱溶融し、溶融した接合部を押圧力によって接合する製造方法が、特許文献2において提案されている。
この特許文献2に示された石英ガラス基板の製造方法について、図7に基づいて更に説明する。
【0005】
この製造方法に用いられる溶接装置100は、レール108a,108b上を移動可能に構成されたバーナスタンド102と、前記バーナスタンド102に保持され、燃料ガスを供給するパイプ103a,103bと、前記パイプ103bに接続されたバーナ部105とを備え、前記バーナ部105は、コ字状のパイプ106a,106bと、相対向してコ字状のパイプに設けられた複数のノズル107a,107bとを有し、前記バーナ部105が、前記石英ガラス板材110,111の接合部に沿って移動可能に構成されている。
【0006】
次に、前記溶接装置100を用いて石英ガラス板材110,111を接合する方法について説明する。
まず、石英ガラス板材110,111を支持台109a,109b上に載置し、石英ガラス板材110,111の端面を合わせる。そして、相対向してコ字状のパイプ106a,106bに形成されたノズル107a、107bの略中間に、石英ガラス板材110,111が位置するように調整する。
【0007】
その後、ノズル107a,107bに点火すると共に、バーナスタンド102をレール108a,108bに沿って移動させ(図中の矢印方向)、石英ガラス板材110,111の接合部を加熱し、その接合部を溶融する。
その後、支持台109a,109bをレール109e,109fに沿って矢印方向に移動させることにより、石英ガラス板材110,111に一定の外力Pを加え、石英ガラス板材110,111を押し合わせ、溶着させる。なお、図中、符号109c、109dは石英ガラス板材110,111の移動を阻止するストッパである。
この後、一定の冷却時間をおくことによって、石英ガラス板材110,111は接合される。
【0008】
【特許文献1】特開2005−289696号公報
【特許文献2】特開2003−26433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献2に開示の製造方法にあっては、接合部に気泡を混入させないために石英ガラス板材の接合部を十分に溶融する必要があるが、接合部を長時間加熱し溶融すると、接合部が自重で下方に垂れ下がるという課題があった。
【0010】
本願出願人は、平面度よく支持でき、石英ガラス板材の一辺の長さ方向で温度差が生じ難い、特許文献2に示された石英ガラス板材の接合部(端面)同士を水平状態で接合する製造方法を前提として、更に均一な肉厚で接合でき、接合部における気泡の混入を抑制すると共に、接合部の垂れ下がりを抑制できる石英ガラス基板の製造方法を鋭意研究した。
【0011】
そして、石英ガラス板材の接合部(端面)の断面形状が気泡の混入に影響を与えていることを知見した。
即ち、図8(a)に示すように石英ガラス板材110,111の端面110a,111aが平坦面の場合、図8(b)のように相対向する端面110a,111aの上下(左右)両側から火炎Fを当てて加熱すると、その際、石英ガラス板材110,111の厚さ方向での加熱ムラが生じ、端面110a,111aが凹状になる(図8(c))。
その状態で端面110a,111aを押し合わせると(図8(d))、気泡Cが混入する(図8(e))ことを知見した。
【0012】
本発明は、石英ガラス板材の接合部(端面)同士を水平状態で接合する製造方法を前提とし、石英ガラス板材の接合部(端面)の断面形状が気泡の混入に影響を与えるとの知見に基づきなされたものである。
そして、本発明の目的とするところは、石英ガラス板材を均一な肉厚で接合でき、接合部における気泡の混入を抑制すると共に、接合部の垂れ下がりを抑制することのできる石英ガラス基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した目的を達成するため、本発明に係る石英ガラス基板の製造方法は、複数の石英ガラス板材を接合することによって製造される石英ガラス基板の製造方法であって、接合する前記石英ガラス板材の接合端面の断面形状を、該石英ガラス板材の厚さ寸法をDとしたとき、端面先端部からの寸法が0.25D乃至0.75Dの範囲内にある前記石英ガラス板材の上下面の2点と、前記石英ガラス板材の厚さ方向の中心を基準にDの±10%以内の端面先端部の1点を通る放物線によって構成される凸曲面に形成する工程と、接合する各石英ガラス板材を水平状態に支持し、接合する端面同士を対向させる工程と、前記水平状態に支持された石英ガラス板材の上下に、接合端面の長手方向に沿って所定ピッチで設けられた複数のバーナノズルを、前記接合端面の長手方向に沿って揺動させながら前記接合端面に火炎を当て、前記接合端面を溶融する工程と、溶融された前記接合端面同士を押し合わせ、溶着する工程とを含むことを特徴としている。
【0014】
このように、接合する前記石英ガラス板材の接合端面の断面形状を、石英ガラス板材の上下面の2点と前記石英ガラス板材の厚さ方向中心線上の1点を通る放物線によって構成される凸曲面に形成し、且つ、複数のバーナノズルを、前記接合端面の長手方向に沿って揺動させながら前記接合端面に火炎を当てるため、接合部は厚さ方向での加熱ムラが殆ど生じることなく均一に加熱され、溶着面に垂れ下がりが生じることもなく均一な厚さで接合でき、接合部の気泡の混入を抑制することができる。
【0015】
特に、前記石英ガラス板材の接合端面に形成されている凸曲面は、石英ガラス板材の厚さ寸法をDとすれば、端面先端部からの寸法が0.25D乃至0.75Dの範囲内で形成されていることが望ましく、前記バーナノズルの揺動速度が30mm/sec以上100mm/sec以下の範囲内であることが望ましい。
また、前記複数のバーナノズル間のピッチ寸法は、噴射する火炎の幅の3倍以上4倍以下の範囲で設定されることが望ましく、前記複数のバーナノズルを、前記接合端面の長手方向に沿って揺動させる振幅は、少なくとも前記バーナノズル間のピッチ寸法であることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、石英ガラス板材の接合の際、接合部は厚さ方向での加熱ムラが殆ど生じることなく均一に加熱され、溶着面に垂れ下がりが生じることもなく均一な厚さで接合でき、接合部の気泡の混入を抑制することができる石英ガラス基板の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の石英ガラス基板の製造方法に係る一実施形態について図を用いて説明する。図1は本発明の石英ガラス基板の製造方法に用いられる溶接装置の概略構成を示す側面図であって、基本的には図7に示した溶接装置と同様な構成になされている。
【0018】
即ち、図示するように、溶接装置100は、水平状態で支持される板状の石英ガラス板材A,Bの接合部(接合端面)に対し、上下方向から酸水素火炎を噴射するバーナ部1,2を備えている。そして、前記石英ガラス板材A,Bはそれぞれ、レール109e,109f上を移動可能に設けられた支持台109a,109b上に複数の支柱3を介して略水平状態に支持されている。
【0019】
また、支持台109a,109bの上面には、石英ガラス板材A,Bの後端面と当接し、石英ガラス板材A,Bの横移動を阻止するストッパ109c,109dが設けられている。
ここで、前記したように、支持台109a,109bはレール109e,109f上を移動可能であるため、支持台109a,109bが互いに向かい合う方向に移動することによって、石英ガラス板材A,Bの後端面にストッパ109c,109dから所定の圧力が加えられ、接合部(接合端面)全体が均一な圧力によって押し合わされるようになされている。
【0020】
また、図7に示した溶接装置と異なり、支持台109a,109bには、複数の支柱3がそれぞれ独立した昇降機構により昇降可能に設けられており、大型の石英ガラス板材であっても、支柱3ごとに高さ調整することにより、平面度を容易に維持できるように構成されている。また、支柱3はカーボンにより形成され、高熱の影響を受けないように構成されている。
【0021】
また、図1には示さないが、図7に示した溶接装置と同様に、移動可能に構成されたバーナスタンド102と、前記バーナスタンドに保持され、燃料ガスを供給するパイプ103a,103bと、前記パイプに接続されたバーナ部1,2とを備えている。
尚、前記バーナ部1,2は、後述するようにパイプ1a,2aと、相対向してパイプ1a,1bに設けられた複数のノズル1b,2bとを有し、前記バーナ部1,2が、前記石英ガラス板材110,111の接合部に沿って移動可能に構成されている。
【0022】
更に、前記バーナ部1,2の構成について、図2に基づいて説明する。尚、図2は、石英ガラス板材A,Bの接合部を正面としたバーナ部1,2の一部拡大図である。
前記バーナ部1は、燃料ガスが供給され、石英ガラス板材A,Bの接合部A1,B1(接合端面)に沿って、その上方に配置されるパイプ1aと、このパイプ1aにおいて下方に火炎の噴射口を向けて所定のピッチPで設けられた複数のバーナノズル1bとを備えている。
【0023】
また、バーナ部2は、燃料ガスが供給され、石英ガラス板材A,Bの接合部A1,B1(接合端面)に沿って、その下方に配置されるパイプ2aと、このパイプ2aにおいて上方に火炎の噴射口を向けて所定のピッチPで設けられた複数のバーナノズル2bとを備えている。
更に、隣り合うバーナノズル1b(2b)間のピッチ寸法Pは、加熱ムラを抑制するために火炎幅Wの3倍以上4倍以下に設定されている。
また、複数のバーナノズル1b,2bを配列する長さは、少なくとも石英ガラス板材における溶接する一辺の長さに、前記ピッチ寸法Pを加算した長さが必要である。
【0024】
また、バーナ部1、2は、火炎噴出時において、所定速度(例えば30mm/sec以上100mm/sec以下)、所定振幅(少なくともノズル1b(2b)間のピッチ寸法P)で、石英ガラス板材A,Bの接合部A1,B1の長手方向に沿って揺動するように構成されている。
即ち、バーナ部1、2のノズル1b、2bから噴出される火炎が接合部A1,B1の長手方向に沿って揺動するよう制御される。
このようにノズル1b、2bが揺動するため、バーナ部1、2からの火炎が石英ガラス板材A,Bの接合部A1,B1の長手方向に沿って均一に当たり、加熱ムラがより抑制されるようになされている。
【0025】
ここで、この溶接装置100において、接合部への気泡の混入をより防止するには、石英ガラス板材A,Bの接合部A1,B1が、図3の断面図に示すように、その断面形状が凸曲面となるよう予めR加工が施されていることが好ましい。
特に、凸曲面を構成する曲線は、図3に示すように、石英ガラス板材A(B)の厚さ寸法をD(例えばD=10mm)としたとき、端面先端部からの寸法Lが0.25D乃至0.75Dの範囲内にある石英ガラス板材A(B)の上下面の2点と、前記石英ガラス板材A(B)の厚さ方向の中心を基準にDの±10%以内の端面先端部の1点を通る放物線によって構成されることが望ましい。
尚、前記放物線が石英ガラス板材A(B)の厚さ方向の中心を基準に厚さ寸法の±10%以内の端面先端部の1点を通るように形成するのは、それが±10%を超える場合、接合部での気泡の混入や厚さのばらつきが生じやすいためである。
【0026】
このような接合部A1,B1の形状により、押し合わせた際の最初の接合部A1,B1同士の接触が、その長手方向に沿って線接触となり、押圧力によって隙間を板厚方向に徐々に狭め、空気を押し出しながら、接合することができる。
【0027】
このように構成された溶接装置100において石英ガラス板材の接合を行う場合、先ず、支持台109c,109d上に石英ガラス板材A,Bが載置される。このとき、石英ガラス板材A,Bの接合部とは反対側の後端面にそれぞれストッパ109c,109dが当接する状態となされる。
その後、バーナノズル1b、2bに点火すると共に、バーナ部1,2を接合部A1,B1の長手方向に沿って所定速度(好ましくは30mm/sec以上100mm/sec以下の範囲内)、所定のノズル間ピッチ寸法P(好ましくは火炎幅Wの3倍以上4倍以下)、所定振幅(少なくともノズル1b(2b)間のピッチ寸法P)で揺動させながら接合部A1,B1を均一に加熱し、溶融する。
【0028】
尚、上記の通りバーナ部1,2の揺動速度が30mm/sec以上100mm/sec以下の範囲内であることが好ましい理由は、30mm/sec未満に設定(バーナ部を揺動させない場合を含む)すると、揺動速度が遅いために、接合部全体に均一に火炎を当てることが出来ず、加熱ムラが生じ易くなるためであり、100mm/sec以上に設定すると、火炎に乱れが生じ、それにより加熱ムラが生じ易くなるためである。特に、バーナ部を揺動させない場合には、接合部に加熱ムラが生じ、溶着時の押し合わせが不十分となり、溶着面(石英ガラス板材)表面に凹部が発生する虞がある。
また、上記の通りノズル間ピッチ寸法Pが火炎幅Wの3倍以上4倍以下が好ましい理由は、ピッチ寸法Pが火炎幅Wの2倍以下では、隣り合う火炎が干渉し、それにより加熱ムラが生じるためであり、ピッチ寸法Pが火炎幅Wの5倍以上では、揺動距離を長くする必要があり、そのために加熱ムラが生じるためである。
【0029】
そして、支持台109a,109bをそれぞれレール109e,109fに沿って、図1の矢印方向、即ち石英ガラス板材A,Bの接合部A1,B1が向かい合う方向に移動させる。
これにより、石英ガラス板材A,Bにストッパ109c,109d側から所定の外力が加えられ、接合部A1,B1を押し合わせる。そして、この外力(押圧力)によって接合端面の隙間を板厚方向に徐々に狭め、空気を押し出しながら、溶着がなされる。
【0030】
以上のように本発明に係る実施形態によれば、接合する石英ガラス板材A(B)の接合部(接合端面)A1,B1の断面形状を、石英ガラス板材A(B)の厚さ寸法をDとしたとき、端面先端部からの寸法が0.25D乃至0.75Dの範囲内にある石英ガラス板材A(B)の上下面の2点と、石英ガラス板材A(B)の厚さ方向の中心を基準にDの±10%以内の端面先端部の1点を通る放物線によって構成される凸曲面に形成し、且つ、複数のバーナノズルを、前記接合部A1,B1の長手方向に沿って揺動させながら接合部A1,B1に火炎を当てるため、接合部A1,B1は厚さ方向での加熱ムラが殆ど生じることなく均一に加熱され、溶着面に垂れ下がりが生じることもなく均一な厚さで接合でき、接合部A1,B1の気泡の混入を抑制することができる。
また、石英ガラス板材A,Bは、独立して高さ調整を行うことのできる支柱3により平面度を維持し、均一な外力により接合部A1,B1全体が押し合わされるため、接合部A1,B1の凹凸が無くなって肉厚が均一となり、接合部A1,B1への気泡の混入を抑制することができ、接合部の機械的強度の低下を防止することができる。
【実施例】
【0031】
続いて、本発明に係る石英ガラス基板の製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施形態に示した溶接装置を用い、実際に実験を行うことにより、その効果を検証した。
【0032】
先ず、接合する石英ガラス板材の接合部(接合端面)の好ましい形状について、実験を行った。
(実験1)
板厚D=10mm、縦横寸法とも800mmの石英ガラス板材A,Bの端面A1,B1をR形状(凸曲面状)に研削加工し、図1に示す溶接装置を用いて接合(溶着)し、接合状態を検証した。
このときのバーナ部1,2は、火炎幅10mm、速度50mm/sec、ノズル1b(2b)間のピッチ寸法30mmで揺動させながら、接合部A1,B1を均一に加熱し、溶融した。
【0033】
尚、前記バーナノズル1b(2b)間のピッチ寸法Pは、加熱ムラを抑制するために火炎幅Wは10mmの3倍に設定した。
また、石英ガラス板材の溶接端面を構成する断面曲線が、図4の断面図に示すように、石英ガラス板材の上下面の2点とこの厚さ方向の中心線上にある端面先端部の1点(±0%)を通り、前記2点の位置が、端面先端部からの寸法L(0.25D(実施例1)、0.35D(実施例2)、0.5D(実施例3)、0.75D(実施例4))の範囲内となるように端面のR加工を行った。
【0034】
また、実施例5、6として、石英ガラス板材の溶接端面を構成する断面曲線が、端面先端部からの寸法L=0.5Dの範囲内にある石英ガラス板材の上下面の2点と、石英ガラス板材の厚さ方向の中心を基準に厚さ寸法の+10%(実施例5)または−10%(実施例6)の位置にある端面先端部の1点を通る放物線となる場合についても検証した。
この実施例1〜6の結果を表1に示す。
【0035】
また、比較例1として、端面のR加工を端面先端部からの寸法が0.15Dとした場合についても検証した。また、比較例2として、端面のR加工を端面先端部からの寸法が1.0Dとした場合についても、同一の実験条件で検証した。この比較例1、2の結果を表1に示す。
【0036】
(比較例3〜5)
実験1の装置を用い同一条件で、対向する石英ガラス板材A,B(板厚10mm、縦横寸法とも800mm)の接合部A1,B1間の形状が図5(a)に示すようにI型(比較例3)、図5(b)に示すようにV型(比較例4)、図5(c)に示すようにX型(比較例5)のそれぞれの場合について溶着を行い、その接合状態を検証した。この比較例3〜5の結果を表2に示す。
【0037】
(比較例6)
比較例6として、実験1の装置を用い、バーナ部の揺動を行わない場合について検証を行った。尚、石英ガラス板材の溶接端面を構成する断面曲線は、図4の断面図に示すように、石英ガラス板材の上下面の2点とこの厚さ方向の中心線上にある端面先端部の1点(±0%)を通り、前記2点の位置が、端面先端部からの寸法L=0.35Dの範囲内となるように端面のR加工を行った。この比較例6の結果を表3に示す。
【0038】
尚、表1〜3において、平面度の◎は、元の平面度50μm以下の石英ガラス板材を用いて溶着した際、平面度が100μm未満の場合を示し、×は、元の平面度50μm以下の石英ガラス板材を用いて溶着した際、平面度が100μm以上の場合を示す。
また、気泡の◎は、溶着面に肉眼で確認できる気泡が存在しない場合を示し、×は、溶着面に肉眼で確認できる気泡が存在する場合を示す。
また、凹凸の○は、接合部における石英ガラス板材表面が板厚の20〜30%突出した(凸部が形成された)場合を示し、△は、接合部における石英ガラス板材表面が板厚の5〜10%または30%を超えて突出した(凸部が形成された)場合を示し、×は、接合部における石英ガラス板材表面が凹んでいる場合を示す。
また、突出量が20〜30%が好ましい理由は、30%を超えると後工程の研削加工の際の削り量が多すぎて加工時間とコストのロスとなり、また、20%未満であると、研削加工による石英ガラス板材の平面度を調整するための削り量が少なすぎ、所定の平面度が出せない場合があるためである。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表2に示すように、比較例3(I型)の場合、接合部(接合端面)に当たる火炎が浅いために部材(板)の上下面が軟化し、接合端面の角が凸状となり、溶着面に気泡が確認された。
また、比較例4(V型)の場合、接合部の加熱ムラは無かったが、部材の表と裏で偏りがあるために溶着後の凹凸が大きい状態となった。また、面取りの偏りから、軟化中に端面の変形が発生し、溶着面には気泡混入が確認された。
更に、比較例5(X型)の場合、表裏の面取りに偏りはないが、面取り先端の肉厚が薄くなる形状のため、軟化中に先端部分が変形を起こし、その先端部の変形により溶着の最初の接点が不均一になり、このため溶着部に気泡の混入が確認された。
【0043】
また、表1の比較例2に示すように接合部のR加工が1.0Dの場合に押し付け量が増加し、R部分が変形し凹部が発生した。
実施例1〜6では、接合部に気泡の混入はなく、また、接合部が凹状となることもなく、均一に溶着することができた。
【0044】
一方、比較例1における接合部のR加工では、対向する端面が略並行となり(隙間がI字状となり)、火炎が当たる角度が浅くなった。即ち、接合部(接合端面)に当たる火炎が少ないために、部材上下面の軟化が促進されて端面角が凸状となり、接合部に加熱ムラが生じた。また、接合部に気泡が確認された。
また、比較例6のようにバーナノズルの揺動を行わない場合には、接合部における石英ガラス板材表面に凹みが生じたため、接合部の特定R形状とバーナノズルの揺動により、好ましい効果が得られることを確認した。
【0045】
このように実施例1〜6、比較例1〜6の結果、石英ガラス基板の接合部の好ましい形状は、凸曲面(R加工)であって、その凸曲面を構成する曲線は、石英ガラス板材の厚さ寸法をDとしたとき、端面先端部からの寸法Lが0.25D乃至0.75Dの範囲内にある石英ガラス板材の上下面の2点と、前記石英ガラス板材の厚さ方向の中心を基準にDの±10%以内の端面先端部の1点を通る放物線によって構成されることが好ましいことを確認した。
【0046】
次に、上述に従来技術として記した接合する石英ガラス板材を縦置きの状態で支持し溶接する方法について実験を行なった。
(実験2)
図6に示すように、板状の石英ガラス板材A、Bを縦置き(垂直)の状態で支持した。図6(a)は石英ガラス板材を縦置きに支持する溶接装置の正面図、図6(b)はその側面図である。尚、溶接装置50は、レール53上を移動可能に支持台54,55が設けられ、支持台上には、支持具56,57により石英ガラス板材A,Bがその接合端面を対向した状態で縦置きに支持される。
また、バーナ部51は、接合部の長手方向に沿って設けられた複数のバーナノズルにより、接合部に対し左右両側から火炎を当てるようになされ、さらに、バーナ支持部52により上下方向に揺動可能な構成となされている。
【0047】
この溶接装置50により、実験1に示した条件により、板厚10mm、縦横寸法共に800mm、平面度50μm以下の石英ガラス板A,Bを縦置き(垂直)に支持し、溶着を行った。
即ちバーナ部は、速度50mm/secで上下方向に揺動させながら、接合部を加熱し、溶融した。
尚、前記バーナノズル1b(2b)間のピッチ寸法Pは、加熱ムラを抑制するために火炎幅W=10mmの3倍に設定した。
また、接合端面を構成する曲面の断面曲線は、石英ガラス板材の上下面の2点とこの厚さ方向の中心線上にある端面先端部の1点(±0%)を通り、前記2点の位置が、端面先端部からの寸法L=0.35Dの範囲内となるように端面のR加工を行った。
そして、溶着前においては平面度50μm以下の状態で支持し、溶着後に平面度を測定した。この実験の結果を表4に示す。尚、表4における平面度、気泡、凹凸の評価は表1〜3と同一である。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すように、溶着時の石英ガラス板材の押し付けや熱の影響により、平面度100μm以上となった。また、溶着の際、火炎が上方になびき、石英ガラス板材の上部と下部との間に加熱ムラが生じ、溶着部を確認すると接合部に多少の凹部の発生が確認された。
このように実施例2とこの実験2との比較結果から、石英ガラス板材は横置き(水平状態)に支持して溶着を行うことが好ましいと確認した。
【0050】
以上のように、本発明の石英ガラス基板の製造方法によれば、大型の石英ガラス基板を接合する場合であっても、均一な肉厚で接合し、接合部における気泡の混入を抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の石英ガラス基板の製造方法に用いられる溶接装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】図2は、石英ガラス基板の接合部を正面としたバーナ部の一部拡大図である。
【図3】図3は、石英ガラス基板の接合部の断面図である。
【図4】図4は、実施例を説明するための石英ガラス基板の接合部の断面図である。
【図5】図5は、比較例を説明するための石英ガラス基板の接合部の断面図である。
【図6】図6は、比較例を説明するための溶接装置の概略図である。
【図7】図7は、従来の溶接装置の概略構成を示す斜視図である。
【図8】図8は、接合部をバーナ加熱する際の従来の課題を説明するための図である。
【符号の説明】
【0052】
1 バーナ部
1a パイプ
1b バーナノズル
2 バーナ部
2a パイプ
2b バーナノズル
3 支柱
100 溶接装置
109a 支持台
109b 支持台
109c ストッパ部材
109d ストッパ部材
109e レール
109f レール
A 石英ガラス基板
A1 接合部(接合端面)
B 石英ガラス基板
B1 接合部(接合端面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の石英ガラス板材を接合することによって製造される石英ガラス基板の製造方法であって、
接合する前記石英ガラス板材の接合端面の断面形状を、該石英ガラス板材の厚さ寸法をDとしたとき、端面先端部からの寸法が0.25D乃至0.75Dの範囲内にある前記石英ガラス板材の上下面の2点と、前記石英ガラス板材の厚さ方向の中心を基準にDの±10%以内の端面先端部の1点を通る放物線によって構成される凸曲面に形成する工程と、
接合する各石英ガラス板材を水平状態に支持し、接合する端面同士を対向させる工程と、
前記水平状態に支持された石英ガラス板材の上下に、接合端面の長手方向に沿って所定ピッチで設けられた複数のバーナノズルを、前記接合端面の長手方向に沿って揺動させながら前記接合端面に火炎を当て、前記接合端面を溶融する工程と、
溶融された前記接合端面同士を押し合わせ、溶着する工程とを含むことを特徴とする石英ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記バーナノズルの揺動速度が30mm/sec以上100mm/sec以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載された石英ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記複数のバーナノズル間のピッチ寸法は、噴射する火炎の幅の3倍以上4倍以下の範囲で設定されることを特徴とする請求項1に記載された石英ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記複数のバーナノズルを、前記接合端面の長手方向に沿って揺動させる振幅は、少なくとも前記バーナノズル間のピッチ寸法であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載された石英ガラス基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−242151(P2009−242151A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89369(P2008−89369)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(592104944)コバレントマテリアル徳山株式会社 (24)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】