説明

砂移動防止工法、それを用いた砂地における植生の形成・改良方法

【課題】砂嚢の材料として、軽量で折りたたみ性に優れることにより、輸送が砂漠地帯などでも容易であり、かつ設置の作業性が良好で作業者の負荷を軽減し、資源の使用を極少とすることができる砂嚢を用いた、砂移動防止工法およびこれによる植生の改良方法を提供すること、さらに砂嚢自体の風力等による変化を少なくして砂移動防止効果およびこれによる植生の改良効果を十分に発揮させること。
【解決手段】筒状編地で形成される筒状内部に砂が充填された柱状砂嚢の複数本を交差させて、砂地面上に載置し、砂の移動を防止するようにした砂移動防止工法において、交差部を除く砂嚢の両側面に空気二次流の発生を阻害する物体を設置する砂移動防止工法、また、かかる砂移動防止工法を用いて砂の移動を防止するとともに、交差して載置された柱状砂嚢の間で露出している砂地面において育成を所望する植物を育成し、該砂地面の植生を変える砂地における植生の形成・改良方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂漠地帯や砂丘、海岸などの広く地表面が砂で覆われている場所において、その砂が長年の風力などにより移動することを防止する砂移動防止工法に関し、また、そのような砂移動防止工法を用いて、砂地において、所望するように植生を形成したり改良したりする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砂漠地帯や砂丘、海岸などの広く地表面が砂で覆われている場所であって、その砂が風力などにより激しく移動する場所の典型的な例として、中国内蒙古地区には強風によって移動、拡大する流動砂丘地帯がある。この地帯での砂漠化は、カシミヤ山羊や羊の過放牧および流砂が植物を埋もれさせることで拡大すると言われている。この砂は、近隣の村や中国沿海地域の砂塵害、さらには韓国、日本の黄砂害の原因と言われており、この地域からの砂の巻上げに起因する被害を軽減したいという要望は中国内のみならず日本においても高まっている。
【0003】
同地区は、降水量が砂漠地としては多く地下水位も高いため、強風による地面表層付近の砂流動を抑制して砂を定着させることで緑化が可能であると考えられており、それを実現する手法として、古くから、草方格と呼ばれる手法が用いられている。
【0004】
この草方格と呼ばれる緑化手法は、麦わらを利用した治砂手法であり、砂地表面に1m間隔などで格子状の線を引き、該格子の線に沿ってスコップを使って溝を掘り、その溝に麦わら等を立て、格子線内の裸地に種子を蒔き、全体として砂が移動しにくい状態を形成するとともに牧草の育成を図っていくというものである。しかし、麦わら等は、その調達が容易でなく、嵩張るため現地までの輸送が困難であり(砂地上での輸送が必要となる)、さらには麦わら等が劣化するために2〜3年で差し替える必要があるなど設置後の維持、管理に問題があった。
【0005】
他にも、土砂の流出などを防止する工法としては、例えば、古タイヤを地中に埋め込んで固定、配列するという手法(例えば、特許文献1)や、また、特定の構造と素材からなる土嚢を地盤に固定、連結するという手法(例えば、特許文献2)などが提案されているが、広大な流動砂丘地帯や砂丘で効率良く砂を定着させるという方法は、いまだ実現されていない。
【0006】
また、そのような広大な流動砂丘地帯や砂丘などで、効率良く砂を定着させ得るとともに、効率良くその地を緑化することを可能とする手法もいまだ実現されていないのである。
【特許文献1】特開2000−34709号公報
【特許文献2】特開2005−68832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したような背景技術や、近年の自然環境問題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、砂嚢の材料として、軽量で折りたたみ性に優れることにより、輸送が砂漠地帯などでも容易であり、かつ設置の作業性が良好で作業者の負荷を軽減し、資源の使用を極少とすることができる砂嚢を用いた、砂移動防止工法およびこれによる植生の改良方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明のさらなる目的は、風、雨水、動物の接触等の外力が砂嚢に作用した場合でも砂嚢自体を変化させることなく、その効果を発揮させることである。とりわけ風速が大きい環境や風向の変化が少ない条件において、砂嚢周囲の砂地面の浸食を防止することにより、載置した砂嚢の移動や砂嚢内部からの砂漏出を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の砂移動防止工法は、上述した課題を解決するために、下記(1)の構成を有するものである。
(1)筒状編地で形成される筒状内部に砂が充填された柱状砂嚢の複数本を交差させて砂地面上に載置し、砂の移動を防止するようにした砂移動防止工法であって、載置した柱状砂嚢の交差部を除く両側に空気二次流の発生を阻害する手段を設けたことを特徴とする砂移動防止工法において、より具体的に好ましくは以下の(2)〜(6)のいずれかの構成からなるものである。
(2)前記空気二次流の発生を阻害する手段が、砂で斜面を形成することである上記(1)記載の砂移動防止工法。
(3)載置した柱状砂嚢の上側に砂をかけ、柱状砂嚢周囲に任意の地形を形成した後、前記斜面を形成するのに不要な砂を風食作用で除去することにより、所望の形状の砂の斜面を形成する上記(2)記載の砂移動防止工法。
(4)前記柱状砂嚢の載置ピッチが3〜20本/10mであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の砂移動防止工法。
(5)前記柱状砂嚢の断面積が20〜400cmであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の砂移動防止工法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の砂移動防止工法を用いて砂の移動を防止するとともに、交差して載置された柱状砂嚢の間で露出している砂地面において育成を所望する植物を育成し、該砂地面の植生を変えることを特徴とする砂地における植生の形成・改良方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の砂移動防止工法によれば、施工現場の砂を砂嚢内に詰めるため輸送が容易であり、砂嚢袋自体も軽量で折りたたみ性に優れるため輸送が容易である。設置の作業性が良好で作業者の負荷を軽減できる。さらに小量の砂嚢で効率よく砂の移動を抑制するため、資源の使用を極小化できる。これらに加え、風、雨水、動物の接触等の外力が砂嚢に作用した場合でも砂嚢自体を変化させることなく、その効果を発揮させる。とりわけ風速が大きい環境や風向の変化が少ない条件において、砂嚢周囲の砂地面の浸食を防止することにより、載置した砂嚢の移動や砂嚢内部からの砂漏出を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
本発明の砂移動防止工法は、筒状編地で形成される筒状内部に砂が充填された柱状砂嚢の複数本を交差させて、砂地面上に載置し、砂の移動を防止するようにした砂移動防止工法である。
【0013】
本発明において、筒状編地とは繊維糸を筒状に編成したものであり、砂を詰めた後、その両端を砂が漏れないように加工し、いわゆる砂嚢袋として使用する。筒状編地とすることにより、縫い合わせ部分や縫い目から細かい砂が漏れ出したり砂嚢が破れたりするのを防ぐことができる。また、細長い形状の円柱状砂嚢を効率良く形成することが可能で、設置面積が広い場合の設置作業性にも優れる。砂が漏れないように両端を閉じる方法は、縫製や接着、融着、結び目をつくる、あるいは、別途用意した紐で縛る等の種々の方法を採ることができるが、なかでも紐で縛る方法が安価、容易で確実に閉じることができるためより好ましい。
【0014】
上記の砂嚢の形成は、施工する砂地の現地で行うことができ、その現地までは、砂の入っていない連続した筒状の編地として、適宜の巻き体に形成して運搬をすることができる。そして現地で、適宜の長さに切断したのち、一端を閉じて、砂を充填・封入して他端を閉じるのである。
【0015】
また、両端以外の中央部における任意の位置にいずれかの方法にて封鎖する加工を行うことは、施工時の取り扱い性や施工後の環境変化に対し、内容物である砂の不要な移動を抑制できるため、好ましく用いられる。なお、織物は、筒状の形状とするために縫製が必要となるか、袋織を行うために特殊な織機が必要となるため適さない。また、織物は、一般には編地よりも伸び縮みしにくいものであり、特に、地面の凹凸等にフィットして載置されることができず、砂嚢として、砂の移動防止効果をうまく発揮することができない。
【0016】
不織布も同様に縫製が必要となるため適さなく、また、砂が充填されるような丈夫な不織布は、一般に柔軟性が乏しく、やはり、地面の凹凸等にフィットして載置されることができないことから好ましくない。また、ブロー成形等の手法によるプラスチック製のフィルムやシート状物は一般に軽量であるが、引張、引裂強度や耐摩耗性、耐久性に劣るため適さないものであり、また、伸び縮み性がほとんどないために、上述の織物や不織布と同様に、地面の凹凸等にフィットして載置されることができないことから好ましくない。
【0017】
本発明において、砂嚢は、筒状編地に砂を詰めることにより形成されるため、円柱とほぼ同様な形状となるが、載置したときに、内容物である砂の自重により、円柱状から変形したとしても構わない。
【0018】
編地は、伸び縮み性が良好であり、内部の砂の自重により、また地面の凹凸状態に応じても、容易に変形することができるので、地面に隙間を生ずることなくフィットして載置されることになるので、砂移動防止効果が大きく好ましいのである。特に、載置されてから後も、時が経つにつれて砂地面の凹凸状態が変化していくときでも、該凹凸状態に追従してフィットしていくことができる点で、筒状編地で形成されることが重要なものである。
【0019】
砂嚢の載置方法は、複数の砂嚢を交差させて配置するものである。交差点を設けることで、砂の流動、飛散を効果的に抑制できる。交差する形態・方法は、特に限定されるものではなく、例えば、3本の砂嚢を1点で交差させ三角形を形成するように配列、交差する方法なども可能であるが、本発明者らの知見によれば、格子状を形成するように直交させる方法が施工作業性の観点から好ましい。交差することにより、段差が生ずるが、本発明では、筒状編地で砂嚢を形成しているため、編地の持つ伸縮性によってその段差部分でも良くフィットして地面との隙間がないように載置することが容易に可能である。
【0020】
本発明においては、載置した柱状砂嚢の交差部を除いた部分の両側に空気二次流の発生を阻害する手段を設けることが必要である。発明者らの研究によれば、断面が略円形の柱状砂嚢を砂地面上に載置するのみでは、風がふいた際に、図3に示すように砂嚢両側に二次流5が発生し、風力が大きい場合砂嚢の風が吹いて来る側の砂を巻き上げる作用をもたらすことがある。極端に風が大きい条件や風が継続的に続く条件では、風による浸食すなわち風食により砂嚢周囲の砂地面がえぐられて斜面が形成され(図4における二次流により風食された部分6)、砂嚢が転がったりずれたりして部分的に移動する現象が発生したり(図4)、風が砂嚢の下部の砂を取り除いてしまって部分的に砂嚢が浮いてしまい、風が砂嚢の下側を吹き抜けるという現象が起きる。このような現象が起きると柱状砂嚢は蛇行した状態になったり、部分的に宙づりになった状態となり、砂移動防止という目的を達成することができない。そこで、交差部を除く砂嚢の両側に空気二次流の発生を阻害する手段を設けることにより、前記現象の発生を効果的に防ぐものである。なお、砂嚢の交差部においては、下側の砂嚢は上側の砂嚢の重みで変形し、さらに砂嚢の交差により砂嚢両側での二次流5の発生が比較的少なく砂を巻き上げる作用が少ないこと、下側の砂嚢は上側の砂嚢の重みで拘束されて移動しにくいこと等のため前記現象は発生しにくい。そのため、砂嚢の交差部においては、必ずしも砂嚢の両側に空気二次流の発生を阻害する手段を設ける必要はない。
【0021】
空気二次流の発生を阻害する手段としては、空気二次流の発生を阻害する物体、例えば長方形の板や、図5のように直径が小さい別の柱状砂嚢等を砂嚢の両側に設置することが挙げられる。空気二次流の発生を阻害する物体として、直径が小さい別の柱状砂嚢を用いるとき、その直径は1〜5cmが好ましい。直径が1cmより小さい場合、二次流の発生を阻害する効果が小さく、5cmより大きい場合、該砂嚢の側面に大きな二次流が発生するため、浸食等の問題が起こるおそれがある。
【0022】
その他、空気二次流の発生を阻害する手段としては、現地の砂を使うことが、異質なものを持ち込み、新たな自然環境の破壊を引き起こすというような心配や危険もほとんどないという観点からもより好ましい。すなわち、砂嚢両側において砂地面から砂嚢上部に向かってなだらかな斜面を形成するよう砂を成形し、さらに好ましくはその斜面の角度を最大の部分において砂地表面に対して10〜60°とすることである。ここで、傾斜角の最大部とは例えば図2であれば、傾斜角8を意味する。このような状態にすれば風力の大きい条件でも二次流の発生が極めて少なく、砂嚢の安定化に貢献する。前記斜面を形成する方法としては、砂嚢の両側から砂を寄せて斜面を形成する方法もあるが、砂嚢上部から斜面を形成するのに十分な量の砂をかけることが好ましい。この方法によれば、砂嚢の上にかかった余分な砂は風食すなわち風による浸食を受けて飛ばされ、わざわざ斜面を成形する必要がない上に、風食により流線型のなだらかな美しい斜面が形成されるため、最も好ましく用いられる。この場合、傾斜角8は砂の安息角に落ち着く。なお、余分な砂が風食を受けるほどに風力がない条件では、柱状砂嚢の間で露出している砂地面においても砂を移動させるほどの風力がない状態であり、砂嚢による砂移動防止効果が必要とされるほどの風力が発生すれば、前記の余分な砂は風食を受けるのである。
【0023】
本発明において、柱状砂嚢の載置ピッチは3〜20本/10mとすることが好ましい。3本/10m未満では、砂嚢の断面積を大きくしても、区画した砂地の中央部分の裸地が広く、砂の流動、飛散が大きく、砂を定着させることが難しい場合がある。また、20本/10mを超えると交差点部分が多く、砂嚢の変化は起きにくいため、本工法を適用する必要性が低い。
【0024】
かかる砂を詰めた状態における柱状砂嚢の長手方向に直交する面における断面積は、好ましくは20〜400cmである。20cmより小さい場合には、砂嚢として砂地を押さえる効果および風を遮る効果が小さくなり、所期の効果を得ることは難しくなる方向であり、たとえ、載置ピッチを密にしても砂の移動を効果的に抑制できないことがある。また、砂嚢直径が小さいため二次流が発生しにくく、たとえ発生しても小さく弱いものであり、本工法を適用する必要性が低い。一方、400cmより大きい場合には重量が大きくなるため、作業性が悪くなるのに対して、砂地を安定させる効果は、もはやその重量に見合った増大はしないものであり、効率的でなくなってくる。したがって、砂の移動をある程度の期間防止して、該地面の有効活用を早期に図るとの観点からは好ましくないのである。砂嚢袋の長さは任意であるが、1〜20m程度で連続したものが作業性に優れるため、好ましい。
【0025】
柱状砂嚢の断面積と載置ピッチを、上述した好ましい範囲で適宜に組合わせることは、砂移動防止の効果の大小や期間、さらに植生の変更完了時期などとも関係することであり重要なものである。
【0026】
本発明において、砂嚢内に詰める砂は任意のものでよいが、施工対象現場の砂を用いることが、輸送効率を高め、かつ現地の環境や生物生態系を不必要に変化させないことから好ましい。
【0027】
砂嚢袋内に詰める砂の体積は0.1〜50m/100mであることが好ましい。0.1m/100m未満の場合、砂嚢袋の断面積、載置ピッチ、交差方法などを調整したとしても、所期の目的である砂の移動防止効果を良好に得ることが難しい方向である。また、50m/100mを超えると、小量の砂嚢で効率良く砂の移動を抑制し、資源の使用を極小化するという本発明の所期の目的に合致しない方向である。本発明の工法においては、単位面積当たりの砂嚢使用量が、好ましくは、50m/100m以下にできる。
【0028】
砂嚢袋内に砂を詰める方法は、特に限定されるものではないが、例えば、特開2005−110590号公報に示されているような、筒型アダプターを使用し、該筒型アダプターに砂(培養土)を入れ、これを筒状生地へ移す方法、さらに筒型アダプターにホッパーを取り付けた装置を使用することが作業性に優れ好ましい。より好ましくは、該装置の脚に柔らかい砂地への埋没防止を考慮した幅広の車輪を取り付け、砂を詰めると同時に該装置を載置方向に移動させることにより砂嚢の作成と同時に載置することができ、砂嚢を運搬する作業を簡略化できる。
【0029】
本発明において、筒状編地に用いられる繊維材料としては、天然繊維、再生繊維、合成繊維等のいずれの繊維でも可能であり、また、そのいずれかの繊維の複数種類を、混紡、混繊、あるいは交編等の手段により混用することも可能である。
【0030】
天然繊維、再生繊維は、本来、いずれも生物由来の原料からなり生分解性を有しているものなので、本発明に用いた際には砂地が安定し、植物が根を張り定着して、最終的に、当該砂嚢が不要になった場合でも回収する必要はないため、好ましく用いられる。
【0031】
合成繊維は品質が安定した長繊維が安価に得られるため、編地を製造するまでの加工性に優れ、一般に天然繊維、再生繊維に比し耐久性に優れるため、施工後の維持管理が容易であり、好ましく用いられる。
【0032】
本発明において、最も好ましくはポリ乳酸繊維が用いられるものである。ポリ乳酸繊維は、植物由来のバイオマスを原料とし、生分解性を持つ上に、合成繊維の良さである安定した品質の長繊維が安価に得られ、適度な強度、耐熱性を有するため加工が容易である。さらに耐光性に優れ、適度な耐久性を併せ持つため、施工した後、砂地が安定し、植物が根を張り定着して、砂嚢が不要になるまでの期間である2年〜5年以上の耐久性、耐光、耐候性を有しつつ、最終的には二酸化炭素と水に分解するため、後処理が不要で環境にやさしい繊維であるという大きな利点を有するためである。
【0033】
本発明において、ポリ乳酸繊維とは、ポリ乳酸系樹脂を溶融紡糸法によって繊維化したものである。ここで、乳酸系ポリマーとは、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー、ブレンドポリマーを含むものである。乳酸系ポリマーの重量平均分子量は、一般に5〜50万である。また、乳酸系ポリマーにおけるL−乳酸単位、D−乳酸単位の構成モル比L/Dは、100/0〜0/100のいずれであってもよいが、高い融点を得るにはL乳酸あるいはD乳酸いずれかの単位を75モル%以上、さらに高い融点を得るにはL乳酸あるいはD乳酸のいずれかの単位を90モル%以上含むことが好ましい。
【0034】
乳酸コポリマーは、乳酸モノマーまたはラクチドと共重合可能な他の成分とが共重合されたものである。このような他の成分としては、2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、及びこれらの種々の構成成分よりなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。また、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を使用して高分子量化する方法、あるいはカーボネート化合物を用いて脂肪族ポリエステルカーボネートを得る方法を使用してもよい。
【0035】
さらに、乳酸系ポリマーの性質が損なわれない範囲で、酸化防止剤等の添加剤や粒子を含有しているものであってもよい。ポリ乳酸繊維糸を用いる場合、本発明では、ポリ乳酸繊維のカルボキシル末端量が10当量/t以下とすることも好ましい。該カルボキシル末端量が10当量/t以下であると、ポリ乳酸繊維の加水分解を抑制できる。ポリ乳酸繊維のカルボキシル末端量を10当量/t以下にする方法としては、原料樹脂の段階で、例えば脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物や、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの付加反応型の化合物などをポリ乳酸のカルボキシル末端に反応させて封鎖すればよい。後者の付加反応型の化合物を用いれば、例えば、アルコールとカルボキシル基の脱水縮合反応による末端封鎖のように余分な副生成物を反応系外に排出する必要がないため、ポリ乳酸を溶融紡糸する際に付加反応型の化合物を添加・混合・反応させることができるため、実用的に十分高い分子量や耐熱性および耐加水分解性を兼ね備えた反応形成物を得るにあたり有利である。
【0036】
上記付加反応型化合物の中でもポリ乳酸にカルボジイミド化合物を添加する方法が好ましい。ポリ乳酸ポリマーまたはそれに含まれるオリゴマーの反応活性末端をカルボジイミド化合物で封鎖することにより、ポリマー中の反応活性末端を不活性化しポリ乳酸の加水分解を抑制するものである。ここでいうカルボジイミド化合物は、例えば、特開平11−80522号公報記載のようにジイソシアネート化合物を重合したものが好適に用いられるが、中でも4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドの重合体やテトラメチルキシリレンカルボジイミドの重合体やその末端をポリエチレングリコール等で封鎖したものが好ましい。
【0037】
カルボジイミド化合物はポリ乳酸ポリマーおよびそれに含まれるオリゴマーの反応活性末端をカルボジイミド化合物で封鎖することにより、ポリマー中の反応活性末端を不活性化しポリ乳酸の加水分解を抑制するものである。この反応活性末端は水酸基、カルボキシル基があるが、カルボジイミド化合物はカルボキシル基の封鎖性に優れている。カルボジイミド化合物の添加量はカルボキシル末端量に対して決める。さらに、ラクチド等の残存オリゴマーも加水分解によりカルボキシル末端を生じることから、ポリマーのカルボキシル末端だけでなく、残存オリゴマーやモノマー由来のものも併せたトータルカルボキシル末端量の2倍当量以下とすることが好ましい。末端封鎖によりトータルカルボキシル末端濃度はポリ乳酸全体に対し、10当量/t以下であると耐加水分解性を飛躍的に向上することができ好ましい。
【0038】
筒状編地を製編する方法としては、各種の従来からある編機、編組織を採用することが可能であるが、筒状の編地を製編できる丸編機で平編組織とすることが生産性に優れ、好適に用いられる。
【0039】
本発明に使用される筒状編地は、そのJIS L 1018 8.10に基づいて測定するカバーファクターが5〜20であることが好ましい。カバーファクターがこの範囲内であれば、一般に施工作業中および設置後の環境中における編目からの砂の漏出を少なくすることができる。特に限定されないが、砂の漏出に耐えることができる耐久性、強度などの点から、好ましい目付としては50〜500g/mの範囲内、好ましい編糸の太さは50〜500デシテックスの範囲内である。
【0040】
さらに、本発明の砂移動防止工法によれば、従来は流動していたような砂地が安定化することから、本発明の工法を用いるとともに、該砂地面(砂嚢の間の地表面、その周辺など)には、植生を希望する植物の種子を蒔いたり、その苗を植えることにより、所望する植物が育つ環境を醸成し該土地の植生を改良することもできるものである。
【0041】
砂の移動防止効果だけであれば、半永久的に砂嚢として存在しその効果が単に持続されれば十分なものかもしれないが、それでは、自然な環境の維持という点ではそぐわない点もある。ポリ乳酸繊維を用いて、砂嚢として砂の移動防止効果をある期間は良好に発揮しつつ、その期間内に同時に植生をある程度改良することもできて、その後は「自然に任せること」は、環境保全上、非常に有用なものである。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、物性の測定には以下の方法を用いた。
【0043】
A.カバーファクター
JIS L 1018 8.10(1999)に基づいて測定した。恒重式番手で表示される繊維は繊度(テックス)に換算して求めた。
【0044】
B.砂嚢の断面積
平坦な面に直線状に置かれた砂嚢の長手方向に直交する断面について、最大直径および最小直径をそれぞれ測定し、その平均値を平均直径とする。この平均直径を両端部からそれぞれ15cmの部位および中央部3点(封鎖する加工を行った部分を除く)の合計5点について求め、更にその平均値を算出して直径D(cm)とした。これを基に以下の式により砂嚢の断面積A(cm)を算出した。
【0045】
A=D×π/4
ここで、π:円周率
C.載置対象の砂地面積に対し砂嚢内に詰められている砂の体積
載置対象の砂地面が10mを1辺とする正方形より大きい場合、無作為に規定した正方形内部における砂嚢断面積、長さを測定することにより求める。載置対象の砂地面が上記に満たない場合、最外周に載置した砂嚢袋を結ぶ仮想線によって囲まれる面積を測定し、100mに換算する。三角形の場合は、底辺の長さおよび高さを測定する地面に起伏があり、どの辺を底辺とみなすかにより面積が変化する場合は、3辺のそれぞれを底辺とみなしそれぞれについて底辺の長さおよび高さを求め、計算される面積を平均して求める。
【0046】
四角形以上の多角形の場合は、任意の三角形に分割し、それぞれの面積を求めて合計する。その以外の曲線形状の場合は、三角形もしくは四角形で近似する。なお、測定において地面に起伏がある場合は、ロープなどの紐状のものを地面に沿わせることにより測定する。
【0047】
D.相対粘度
0.01g/mLの98%硫酸溶液を調整し25℃で測定した。
【0048】
E.溶融粘度
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、チッソ雰囲気下において測定温度を240℃に設定し、せん断速度1216sec−1で3回測定し、平均値を溶融粘度とした。
【0049】
実施例1
ポリ乳酸樹脂(相対粘度3.42、溶融粘度200Pa・sec−1、融点168℃)を従来から知られている方法で溶融紡糸し、106デシテックス、26フィラメントの半延伸糸を得た。これを2本混繊して延伸−仮撚加工を行い、84デシテックス、26フィラメント双糸の2ヒーター仮撚加工糸を得た。これを釜径3.5インチ(8.89cm)、22ゲージ丸編機を使用して平編し、カバーファクター12.3の筒状編地を得た。この筒状編地の一端を紐で縛って閉じ、他方より砂をいっぱいに詰めながら2〜3m間隔で紐を用いて閉じつつ、10mの砂嚢を22本作成した。
【0050】
砂嚢の断面積は50.2cm、1本の砂嚢内に詰めた砂の体積は0.050mであった。したがって、砂地面積100mに対して詰められている砂の体積は1.10mであった。
【0051】
これを比較的風速が大きく、風向変化の少ない砂丘のほぼ平面な砂地面100mに、直交して交差するように格子状にピッチ10本/10mで載置したのち、周辺の砂を砂嚢上部より10m当たり約0.05mの砂をかけた。1週間後に砂嚢周囲の状態を観察したところ、図2のように砂嚢上部約半分が露出し、これを上面とするなだらかな土手状の形状に変化していた。このとき、斜面の傾斜角は29°であった。その後さらに2ヵ月間放置し、その間の砂地の高さ変化および砂嚢の形状変化を観察したが、変化は見られなく砂の移動防止効果は大であった。
【0052】
実施例2
実施例1と同様に砂嚢を作成し、これを比較的風速が大きく、風向変化の少ない砂丘のほぼ平面な砂地面100mに直交して交差するように格子状にピッチ10本/10mで載置した。この砂嚢とは別に同種の仮撚加工糸を用いた直径約2cmの筒状編み地を用意して、これに砂を充填し、断面積3.2cmの小さな砂嚢を作成した。これを断面積50.2cmの砂嚢の交差部を除く部分の両側になるべく密着するように設置した。1週間後に砂嚢周囲の状態を観察したところ、砂嚢の間に砂が堆積している部分があったが、それ以外に変化はなく安定していた。その後さらに2ヵ月間放置し、その間の砂地の高さ変化および砂嚢の形状変化を観察したが、変化は見られなく砂の移動防止効果は大であった。
【0053】
比較例1
実施例1と同様に砂嚢を作成、これを比較的風速が大きく、風向変化の少ない砂丘のほぼ平面な砂地面100mに実施例1と同様に載置し、砂をかけることなく、そのまま1週間放置したのち砂嚢周囲の状態を観察した。その結果、ほとんどの区画において交差部分以外の砂嚢が同一の方向に蛇行していた。さらにそのうち数カ所は砂嚢の下の砂が風食され、砂嚢内部の砂が漏出していた。蛇行部分は美観を損ねる上、さらに浸食が進むおそれがあったため直線状に載置し直す必要があった。漏出部分については砂地を安定させる効果が期待できないため、再度砂を充填する必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の砂移動防止工法は、流動する砂漠地帯あるいは砂地近隣の砂飛散による被害を少なくする砂移動防止効果の大きな工法として、採用することができる。
【0055】
さらに、砂地が安定することから、本発明の工法を用いるとともに、該工法が適用される砂地面に植生を所望する植物の種子を蒔いたり苗を植えることにより、所望する植物が育つ土壌環境を醸成し、改良することもできるものである。
【0056】
以上により、自然な地球環境を維持する上で、非常に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】柱状砂嚢の複数本を交差させて砂地面上に載置した状態をモデル的に示した外観概略図である。
【図2】実施例1に従って実施している一態様を示したもので、載置・砂かけ1週間後の状態をモデル的に示した断面図である。
【図3】比較例1で実施した砂嚢の載置方法とその周囲の空気の流れをモデル的に示した断面図である。
【図4】二次流により柱状砂嚢の片側(風が吹いてくる側)の下部が風食された時の現象の例をモデル的に示した断面図である。
【図5】空気二次流の発生を阻害する手段として、小さな砂嚢を設置した態様(実施例2)をモデル的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1:流動砂丘地帯などの砂地
1a:流動砂丘地帯などの砂地面
2:柱状砂嚢
3:砂嚢の上部よりかけた砂で、風食後に残ったもの
4:主流
5:二次流
6:二次流により風食された部分
7:断面積の小さな砂嚢
8:傾斜角の最大部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状編地で形成される筒状内部に砂が充填された柱状砂嚢の複数本を交差させて砂地面上に載置し、砂の移動を防止するようにした砂移動防止工法であって、載置した柱状砂嚢の交差部を除く両側に空気二次流の発生を阻害する手段を設けたことを特徴とする砂移動防止工法。
【請求項2】
前記空気二次流の発生を阻害する手段が、砂で斜面を形成することである請求項1記載の砂移動防止工法。
【請求項3】
載置した柱状砂嚢の上側に砂をかけ、柱状砂嚢周囲に任意の地形を形成した後、前記斜面を形成するのに不要な砂を風食作用で除去することにより、所望の形状の砂の斜面を形成する請求項2記載の砂移動防止工法。
【請求項4】
前記柱状砂嚢の載置ピッチが3〜20本/10mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の砂移動防止工法。
【請求項5】
前記柱状砂嚢の断面積が20〜400cmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の砂移動防止工法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の砂移動防止工法を用いて砂の移動を防止するとともに、交差して載置された柱状砂嚢の間で露出している砂地面において育成を所望する植物を育成し、該砂地面の植生を変えることを特徴とする砂地における植生の形成・改良方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−299304(P2009−299304A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152612(P2008−152612)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】