説明

研磨バイト及びそれを用いた表面処理装置

【課題】 研磨バイト先端周辺の磁束密度を更に上げることができる研磨バイトを提供すること
【解決手段】 磁気作用により表面処理を行うための研磨バイトであり、支持体11の先端に装着する先端部磁石12と、その先端部磁石の後方に配置されるリング型磁石からなる後方部磁石14とを備える。後方部磁石の外径は、先端部磁石の外径より大きくしている。そして、先端部磁石の磁極と、後方部磁石の先端部磁石に近い側の端面の磁極が同じに構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の作用により連動して流動する磁気研磨液(ペースト材料)を用いて、金属材料や樹脂材料等の処理対象物の表面を処理する表面処理装置に用いられる研磨バイト等に関し、より具体的には処理対象が、精密機械部品や金型や樹脂製品などの複雑な凹凸形状を有する複雑形状体の表面に適する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の材料の表面を研磨したり、鏡面仕上げしたりするための技術の一つとして、いわゆる磁気研磨法と呼ばれる技術がある。この磁気研磨法は、磁性流体(MF:Magnetic Fluid)や磁気粘性流体(MRF:Magneto Rheological Fluid)を研磨粒子と混合させ、磁界により混合液を運動させることで研磨を行っている。
【0003】
研磨バイトには永久磁石を備えて磁界発生源とし、その研磨バイトの周りに磁気研磨液(ペースト材料)を付着させると、磁気吸引力によりMFやMRF中の強磁性粒子(例えば、鉄粒子),マグネタイト粒子が、多数凝集して磁気クラスタを形成する。この磁気クラスタは、磁束に沿うので研磨対象に対立して針状に多数が立ち並ぶ態様を採る。よって、磁気研磨液が研磨バイトに付着して磁気ブラシとなる。
【0004】
磁気ブラシあるいは研磨対象が回転動作することにより、両者間の相対運動により磁気ブラシが研磨対象の表面を接触した状態で移動する。その結果、研磨対象の表面の凹凸は研磨粒子を伴う磁気ブラシが研磨し、より平滑な表面を得ることができ、非接触の流体研磨が行える。
【0005】
この種の磁気研磨法を実施するための磁気研磨装置に用いられる研磨バイトは、例えば特許文献1等に開示されている。図1は係る研磨バイトの一例を示している。同図に示すように、研磨バイトの先端に永久磁石1を備えて磁場の発生源とするものである。永久磁石1は、球体形状あるいは適宜な曲面を有した曲面体形状に形成し、円柱形状の支持体2の端面に埋め込み設けて略半分が露出する状態としている。そして、その支持体2から一体に延びる軸部3を駆動手段へ連係して回転等の運動動作を行わせている。
【0006】
研磨バイトの周りに磁気研磨液(磁気ペースト6)を付着させると、磁気吸引力によりMFやMRF中の強磁性粒子(例えば鉄粒子),マグネタイト粒子が、多数凝集して磁気クラスタを形成する。この磁気クラスタは、磁束に沿うので対象物5に対立して針状に多数が立ち並ぶ態様を採る。これにより、磁気ペースト6が研磨バイト(永久磁石1)に付着して磁気ブラシとなる。そして、磁気ブラシあるいは対象物5が回転動作することにより、両者間の相対運動のため磁気ブラシが対象物5の表面を接触した状態で移動する。その結果、対象物5の表面の凹凸は研磨粒子を伴う磁気ブラシが研磨し、より平滑な表面を得ることができ、非接触の流体研磨が行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−313634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この種の磁気研磨装置は、研磨バイト(永久磁石1)と研磨の対象物5の表面との間には、一定の空間ギャップを設け、当該空間ギャップ内に介在させた磁気研磨液を用いて表面処理をする。この空間ギャップが広がりすぎると、磁束密度が低下し磁気研磨ができなくなる。
【0009】
一方、研磨対象が精密機械部品や金型や樹脂製品などの複雑な凹凸形状を有する複雑形状体の場合、表面の各所に小さい窪みや突起がある。従って、仮に研磨バイト2の研磨対象に対向する先端面の寸法・形状が大きいと、当該先端面が窪み内に入り込んだり、突起の立ち上がり部分に接近させたりすることができない。そのため、空間ギャップが広くなり十分な磁気研磨ができなくなる。
【0010】
空間ギャップをある程度の距離以内に抑えるため、研磨バイトの先端が窪み内に入り込むことができるように、研磨バイト(永久磁石)の寸法形状を小さくすることが考えられる。しかし、より磁石外径が小径になる(細くなる)につれて磁束密度は同じ磁石材質であっても研磨面積が狭くなり、更に磁極方向に沿った磁力線(研磨対象物側へ向けられた磁場の力)が発散し易い傾向にあり研磨力が著しく低下する。
【0011】
さらに、研磨対象の表面が3次元形状の場合、従来の研磨装置は、係る3次元形状に合わせて研磨バイトを移動させるために多軸切削装置や多関節ロボットに当該研磨バイトを装着することになる。そのため装置が大がかりになってしまうと言う課題がある。
【0012】
本発明は、研磨バイト先端周辺の磁束密度を更に上げることを解決課題とする。さらに、研磨バイトを装着する研磨装置として大掛かりな多軸切削装置や多関節ロボットを使わず、ハンドグラインダー(ハンドリュータ)を用い、人の手による磨きを可能にした汎用性の高い研磨ツール及び手法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明の研磨バイトは、(1)磁気作用により表面処理を行うための研磨バイトであり、先端部磁石と、その先端部磁石の後方に配置される後方部磁石とを備え、前記後方部磁石の少なくとも一部は、前記先端部磁石の外周囲より外側に位置し、前記先端部磁石の磁極と、前記後方部磁石の前記先端部磁石に近い側の端面の磁極が同じに構成した。後方部磁石の設置数は1個でも良いし複数個でも良い。表面処理は、通常の研磨処理,鏡面加工処理,切削加工処理など各種のものがある。
【0014】
先端部磁石の後方に後方部磁石を配置し、しかも後方部磁石の少なくとも一部は、先端部磁石の外周囲より外側に位置するようにし、後方部磁石からの磁力線は前方部磁石の外周囲の外側を通る。しかも、先端部磁石の磁極と、後方部磁石の先端部磁石に近い側の端面の磁極が同じになる設定としたので、磁化ベクトル3方向の内、垂直方向の成分が増し先端部磁石からの磁力線が外に広がるのが抑止されて研磨対象物へ垂直に当たるようになる。よって、先端部磁石の前方の磁束密度が向上し、研磨力等が向上する。安定的な研磨その他の表面処理が可能になる。
【0015】
(2)前記後方部磁石がリング型又は円柱磁石であって、前記先端部磁石の外形寸法より前記後方部磁石の外径が大きいこととすると良い。このようにすると、後方部磁石の外周が全体的に先端部磁石の外周を覆う構成を採ることができ、先端部磁石からの磁力線が外に広がることが全周囲方向で抑制できる。
【0016】
(3)前記後方部磁石がリング型磁石であって、前記後方部磁石を装着する支持体に対して軸方向に移動可能とし、前記後方部磁石と前記先端部磁石の相対位置調整が可能とするとよい。後方部磁石と先端部磁石の距離を変えることで先端部磁石の前方の磁束密度を変更し、研磨力等を調整可能となる。
【0017】
(4)前記後方部磁石が、電磁石又は永久磁石とするよい。電磁石とすることで先端部磁石の前方の磁束密度の調整が容易に行える。また、永久磁石とすると構成が簡単となる。(5)前記先端部磁石が、円柱型、球体型または曲面体型のいずれかであるとよい。
【0018】
(6)前記先端部磁石と前記後方部磁石との間に、非磁性材からできたカバー部材を配置するとよい。このようにすると、研磨ペーストの後方部磁石側への吸着(研磨ペーストの移動)をカバー部材で抑止することができ、先端部磁石に研磨ペーストが安定的に存在したことで先端磁石の接触も無く安定した研磨を実現することができる。
【0019】
(7)上記の(6)の発明を前提とし、前記カバー部材の外形寸法が、前記後方部磁石の外形寸法よりも大きいようにするとよい。このようにするとより確実に後方部磁石へ研磨ペーストの移動を抑止できる。
【0020】
(8)本発明の表面処理装置は、上記の(1)〜(7)のいずれかに記載の研磨バイトをハンドグラインダーの先端に装着して構成する。このようにすると、ハンドグラインダー(ハンドリュータ)を用い、人の手による磨きを可能にし、汎用性の高い研磨ツールとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、先端部磁石の前方の磁束密度を向上することができるので、先端部磁石の寸法が小さくても十分な研磨等行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の磁気研磨装置の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る研磨バイトの第1実施形態を示す図である。
【図3】作用を説明する図である。
【図4】変形例を示す図である。
【図5】変形例を示す図である。
【図6】変形例を示す図である。
【図7】変形例を示す図である。
【図8】解析条件を説明する図である。
【図9】解析パターン1〜3の解析結果(空間磁束密度)を示す図である。
【図10】解析パターン1〜3の対平面解析ポイントの磁化ベクトル(直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図11】解析パターン1〜3の対傾斜面解析ポイントの磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図12】(a)は解析パターン4、(b)は解析パターン5の解析結果(空間磁束密度)を示す図である。
【図13】(a)は解析パターン6、(b)は解析パターン7の解析結果(空間磁束密度)を示す図である。
【図14】解析パターン4〜7の対平面解析ポイントの磁化ベクトル(直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図15】解析パターン4〜7の対傾斜面解析ポイントの磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図16】解析条件を説明する図である。
【図17】解析パターン11〜13の解析結果(空間磁束密度)を示す図である。
【図18】解析パターン11〜13の対平面解析ポイントの磁化ベクトル(直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図19】解析パターン11〜13の対傾斜面解析ポイントの磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図20】解析パターン14〜16の解析結果(空間磁束密度)を示す図である。
【図21】解析パターン14〜16の対平面解析ポイントの磁化ベクトル(直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図22】解析パターン14〜16の対傾斜面解析ポイントの磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図23】解析条件を説明する図である。
【図24】解析パターン21〜23の解析結果(空間磁束密度)を示す図である。
【図25】解析パターン21〜23の対平面解析ポイントの磁化ベクトル(直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図26】解析パターン24〜26の解析結果(空間磁束密度)を示す図である。
【0023】
【図27】解析パターン24〜26の対平面解析ポイントの磁化ベクトル(直方向成分(mT))の解析結果を示す図である。
【図28】第2実施形態を説明する図である。
【図29】第2実施形態の実験条件を説明する図である。
【図30】実験結果を示す図である。
【図31】実験結果を示す図である。
【図32】実験結果を示す図である。
【図33】実験結果を示す図である。
【図34】ハンディタイプの研磨装置に適用した実施形態を説明する図である。
【図35】実験結果を示す図である。
【図36】実験結果を示す図である。
【図37】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図2は、本発明に係る研磨バイトの第1実施形態を示している。本実施形態では、非磁性体材料から形成される円柱状の支持体11の先端に、先端部磁石12を装着する。この先端部磁石12は球体形状あるいは適宜な曲面を有した曲面体形状に形成された永久磁石である。永久磁石の種類は、例えばネオジム磁石を用いる。この先端部磁石12の略半分が露出する状態で支持体11の先端埋め込み部内に装着する。この支持体11の基端側は、図示省略する駆動手段に連係され、回転等の運動動作を行わせている。この基本構成は、従来のものと同様であり、支持体11や先端部磁石12の形状等は、各種のものを用いることができる。
【0025】
本実施形態では、この支持体11の所定位置(先端部磁石12よりも後方)に後方部磁石14を装着する。後方部磁石14は、先端部磁石12を構成する永久磁石と同じネオジム磁石にて形成したが、異なる種類の永久磁石を用いても良い。さらに、永久磁石に変えて電磁石を用いても良い。
【0026】
後方部磁石14は、リング状であり、その内径は支持体11の外径と一致させている。そして、本実施形態では、先端部磁石12の直径も支持体11の外径とほぼ等しくするとともに、支持体11の中心軸上に球形の先端部磁石12の中心も配置しているので、支持体11の軸方向から投影した場合、後方部磁石14の内部空間と先端部磁石12が重なる。
【0027】
図2(b)に示すように、先端部磁石12の磁極と、後方部磁石14の先端部に近い側の端面の磁極とが同じ方向を向くように設定している。しかも、後方部磁石14は支持体11に装着されるリング型磁石であり、その外径は、先端部磁石12の外径よりも大きく、外周に突出した形態となる。このように両磁石12,14の磁極の方向を同じにすることで、外径の大きい後方部磁石14からの磁力線が、先端部磁石12の外周囲を囲むレイアウトとなることも相まって、図3(a)に示すように、先端部磁石12の磁力線が発散して磁束密度が低下するのを、後方部磁石14の磁力によって抑制する方向、すなわち、研磨対象物16に対して垂直方向へ向けさせることができ、研磨バイトの先端周辺の磁束密度を更に上げることができる。よって研磨液18の広がりも抑制でき、前方に向けて収束できる。これに対し、図3(b)に示すように、後方部磁石14を設けない従来構成のものでは、先端部磁石12による磁力線が広がり、先端部磁石12の中心から外側に離れるにつれて磁力線が外に向くようになる。よって研磨バイトの先端周辺の磁束密度が低下し、研磨液18も拡散して研磨力も弱くなる。
【0028】
図4は、第1実施形態の変形例である。第1実施形態では、後方部磁石14の形状をリング状にしたため、円柱状の支持体11の外周囲に挿入して固定するようにしたが、後方部磁石の形状は円柱状に限ることは無く、例えば円柱状にすることもできる。この場合、図4に示すように、支持体11は、先頭部磁石12を装着する第1支持体11aと、第2支持体11bを備え、第1支持体11aと第2支持体11bの間に挟み込むように円柱状の後方部磁石14′を配置する。さらに先頭部磁石12の外径(直径)より後方部磁石の外径の方が大きい設定としており、後方部磁石14′の外周部位が先頭部磁石12よりも外側に突出するレイアウトをとる。そして、この変形例においても図4(b)に示すように、先端部磁石12の磁極と、後方部磁石14′の先端部に近い側の端面の磁極とが同じ方向を向くように設定している。
【0029】
図5は、さらに別の変形例を示している。第1実施形態では、先方部磁石12の形状を球形としたが、本発明はこれに限ることはなく、図5(a)に示すように先方部磁石12′の形状を、円柱の先端を半球状に形成した曲面体としたり、図5(b)に示すように先方部磁石12″の形状を、円柱状にしたりすることもできる。なお、その他の構成並びに作用効果は上述した実施形態並びに変形例と同様であるその説明を省略する。
【0030】
さらに図6に示すように、図4に示した後方部磁石14′を円柱型磁石により構成したタイプにおいても、先方部磁石12′の形状を、円柱の先端を半球状に形成した曲面体としたり(図6(a))、方部磁石12″の形状を、円柱状にしたりする(図6(b))ようにしてもよい。なお、その他の構成並びに作用効果は上述した実施形態並びに変形例と同様であるその説明を省略する。
【0031】
図7はさらに別の変形例である。この変形例では、後方部磁石14″として、複数の磁石(例えば円柱型磁石)を用いている。図示の例では、4個の磁石を用いたがその設置数は任意である。そして図7(b)に示すように、先端部磁石12も球型に変えて曲面体や円柱型のものを用いてももちろん良い。なお、その他の構成並びに作用効果は上述した実施形態並びに変形例と同様であるその説明を省略する。
【0032】
[検証結果]
本発明の効果を実証するため以下の解析を行った。図8に示すように、球体磁石からなる先端部磁石12の直径をB、リング型磁石からなる後方部磁石14の外径をRD、内径をRd、長さをRHとする。この解析ではB=10mm、RD=20mm、Rd=10.1mm、RH=20mmで固定にした。使用する永久磁石は、共にネオジム磁石(TDK製NEOREC42SH)とした。この磁石の特性は、
残留磁束密度(Br) 1300mT
保磁力(HCB) 979 kA/m
保磁力(HCJ) >1671 kA/m
最大エネルギー積(BH)max 326kJ/m^3
とした。
【0033】
後方部磁石14の設置位置は、先端部磁石の先端から後方部磁石の先端側の端面までの距離RLで規定し、5mmで固定した。解析する磁場領域は、先端部磁石(研磨バイト)の中心からの幅方向の距離A1(7.0mm),先端部磁石の中心からの先端方向の距離A2(7.0mm),先端部磁石の中心から先端部磁石の先端までの距離A3(5.0mm)である。解析ポイントの空間点は、対平面では、先端部磁石の先端から0.5mm先のラインを1mm間隔で設定した。また、対傾斜面の解析ポイントの空間点は、先端部磁石の中心から先端に向けた直径とのなす角が45°方向に0.5mm間隔で設定した。
【0034】
さらに磁化方向は、支持体,リング型の後方部永久磁石14の軸に沿った方向とし、図8中下向き(研磨対象物側がN極:磁化1)と、図8中上向き(研磨対象物側がS極:磁化2)の2種類を想定する。先端部磁石の磁化方向は下向き(磁化1)で固定し、後方部磁石14の磁化方向をパラメータとして振った。具体的には解析パターン1は先端部磁石のみ(後方部磁石を設けないもの)とし、解析パターン2は先端部磁石と同じ方向(下向き:磁化1)とし、解析パターン3は先端部磁石と反対の方向(上向き:磁化2)に変えた。すなわち、解析パターン2が本発明に対応する実施例であり、解析パターン1はその実施例に応じた従来品に対応する比較例(従来品に対する本発明品の優位性を実証するための比較例)であり、解析パターン3は、先端部磁石と後方部磁石の磁化方向の関係を実証するための比較例である。
【0035】
図9(a),(b),(c)は、解析パターン1,2,3のそれぞれの空間磁束密度をカラー表示したものである。図9(a)の右側に、空間磁束の大きさに対する色見本をインジケータとして示している。図では、0.4から0.8Tまでを表現している。つまり、空間磁束密度が0.4の青色から始まり、空間密度が高くなるにつれて、緑色→黄色と徐々に色相が変化し、空間密度が最上位の0.8Tでは赤色となる。このインジケータの1メモリは、0.1Tである。各解析図において、左側の図示を省略したが研磨バイトの中心軸を中心に線対称となっている。
【0036】
上記の解析結果より、明らかに図9(b)に示す本発明に対応する解析パターン2が、研磨バイト先端の磁束密度が高いことが分かる。一方、補助となる後方部磁石の磁極方向が先端部磁石と反対方向とした解析パターン3は、逆効果となる。
【0037】
解析領域中の各解析ポイントの具体的な空間磁束密度は、以下に示すグラフのようになる。図10は、先端部磁石から0.5mm位置において、中心から外に向けて1mm間隔で設定した解析ポイントにおける垂直方向(磁化1と同じ)成分、すなわち、研磨対象物に向いた方向成分の磁束密度を示している。図10から明らかなように、後方部磁石(リング型磁石)の有無で、90から120mT程度の違いがでる。すなわち、従来例に対応する解析パターン1の後方部磁石を設けない研磨バイトに比べて本発明に対応する解析パターン2の後方部磁石を先端部磁石と同じ磁化方向で配置した研磨バイトは、解析ポイントの場所により相違するものの、いずれの解析ポイントの位置でも磁束密度が大きい値をとる。この差は、対平面研磨をする際に研磨に大きく影響する値である。一方、たとえ後方部磁石を配置したとしても、磁化方向が先端部磁石と後方部磁石とで逆向きにした解析パターン3は、後方部磁石を設けない解析パターン1の研磨バイトよりも90から120mT近く低下し、逆効果となることが分かる。
【0038】
図11は、先端部磁石の中心から45度傾斜面に0.5mm間隔で設定した対傾斜面解析ポイントにおける磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分)の磁束密度を示している。この磁束密度は、対傾斜面の解析ポイントの磁化ベクトルの垂直方向背の成分と水平方向の成分より求めたものである。図11から明らかなように、後方部磁石の有無で、60から100mT程度の違いがでる。すなわち、従来例に対応する解析パターン1の後方部磁石を設けない研磨バイトに比べて本発明に対応する解析パターン2の後方部磁石を先端部磁石と同じ磁化方向で配置した研磨バイトは、解析ポイントの場所により相違するものの、いずれの解析ポイントの位置でも磁束密度が大きい値をとる。この差は、対平面研磨をする際に研磨に大きく影響する値である。一方、たとえ後方部磁石を配置したとしても、磁化方向が先端部磁石と後方部磁石とで逆向きにした解析パターン3は、後方部磁石を設けない解析パターン1の研磨バイトよりも60から100mT近く低下し、逆効果となることが分かる。
【0039】
次に、後方部磁石の位置による影響について検証した。検証する空間領域を特定するA1,A2,A3はそれぞれ7,7,5として、解析パターン1〜3と同じにした。また、先端部磁石の直径Bは4mmとした。後方部磁石は、リング型磁石と円柱状磁石の2つについて検証した。リング型磁石は、外径RD=15mm,内径Rd=5.1mm,長さRH=10mmとした。円柱状磁石は、外径RD=15mm,内径Rd=0mm,長さRH=10mmとした。そして、いずれの解析パターンにおいても、先端部磁石の磁化方向は下向き(磁化1)とし、後方部磁石の磁化方向も下向き(磁化1)とした。この条件において、従来例に相当する後方部磁石を設けない解析パターン4と、後方部磁石にリング型磁石を用いた解析パターン5,6と、後方部磁石に円柱型磁石を用いた解析パターン7の4つの解析パターンを用意した。そして、後方部磁石の位置を特定する先端部磁石の先端から後方部磁石の先端側の端面までの距離RLは、解析パターン5は5mmとし、解析パターン6,7は10mmとした。
【0040】
図12,図13は、各解析パターンのそれぞれの空間磁束密度をカラー表示したものである。具体的には、図12(a)は解析パターン4、図12(b)は解析パターン5、図13(a)は解析パターン6、図13(b)は解析パターン7である。さらに、図12(a)並びに図13(b)の右側に、空間磁束の大きさに対する色見本をインジケータとして示している。
【0041】
各図を比較すると明らかなように、解析パターン4の解析結果である図12(a)に比べ、他の図はいずれも先端部磁石の前方領域において高い磁束密度が得られている。これにより、まず後方部磁石の設置位置や形状に関係無く後方部磁石を設けることの優位性が確認できる。そして、後方部磁石にリング型磁石を用いた解析パターン5(図12(b))と解析パターン6(図13(a))とを比較すると明らかなように、距離が短いRL=5mmの解析パターン5の方が先端部磁石の前方領域において高い磁束密度が得られている。そして、RL=10mmと離れているもののリング型磁石に替えて円柱状磁石を用いたものが先端部磁石の前方領域において高い磁束密度が得られている。
【0042】
よって、後方部磁石には、円柱状磁石を用いた方が磁束密度を高くする点では好ましいといえる。またこのように先方部磁石と後方部磁石との距離により先端部磁石の前方空間における磁束密度が変化する。従って、後方部磁石をリング型磁石にし、しかもそのリング型磁石を支持体に対して軸方向に移動可能に装着すると、当該リング型磁石(後方部磁石)を支持体の軸方向に位置を変えることによって先端部磁石の前方側の領域の磁束密度(研磨力)を微調整できるメリットがあるので好ましい。磁気研磨を行う上で、この先端の磁束密度の調整は重要である。
【0043】
解析領域中の各解析ポイントの具体的な空間磁束密度は、以下に示すグラフのようになる。図14は、先端部磁石から0.5mm位置において、中心から外に向けて1mm間隔で設定した解析ポイントにおける垂直方向成分、すなわち、研磨対象物に向いた方向成分の磁束密度を示している。図13から明らかなように、解析パターン4が最も空間磁束密度が低く、以下順に解析パターン6→解析パターン5→解析パターン7の順で空間磁束密度が高くなる。具体的な値としては、解析パターン5は解析パターン4に比べ150mTほど高くなる。解析パターン6は解析パターン4に対して66mTほど高くなる。さらに解析パターン7は解析パターン4に対して190mTほど高くなる。
【0044】
図15は、先端部磁石の中心から45度傾斜面に0.5mm間隔で設定した対傾斜面解析ポイントにおける磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分)の磁束密度を示している。この磁束密度は、対傾斜面の解析ポイントの磁化ベクトルの垂直方向背の成分と水平方向の成分より求めたものである。図8から明らかなように、この対傾斜面解析ポイントにおいても図11に示す対平面解析ポイントと同様に解析パターン4が最も空間磁束密度が低く、以下順に解析パターン6→解析パターン5→解析パターン7の順で空間磁束密度が高くなる。そして具体的な値としては、解析パターン5は解析パターン4に比べ130mTほど高くなる。解析パターン6は解析パターン4に対して60mTほど高くなる。さらに解析パターン7は解析パターン4に対して190mTほど高くなる。従来例に相当する後方部磁石を設けない解析パターン4のものでは、使用する上でギリギリの磁束密度が得られるにすぎなかったが、後方部磁石を配置する本発明のものは充分な磁束密度が得られ研磨効果を向上させることが可能となった。
【0045】
次に、図16に示すように、本体部分が円柱状で先端が半球面状の曲面体の先方部磁石12′と、リング型磁石からなる後方部磁石14の組み合わせからなる研磨バイトについての解析結果を説明する。解析条件は、先端部磁石12′は、本体の直径をB、軸方向の長さをBL、先端部分の半球の径をBRとする。リング型磁石からなる後方部磁石14の外径をRD、内径をRd、長さをRHとする。この解析では、B=10mm、BL=20mm、BR=5mm、RD=20mm、Rd=10.1mm、RH=20mmで固定にした。使用する永久磁石は、共にネオジム磁石(TDK製NEOREC42SH)とした。この磁石の特性は、
残留磁束密度(Br) 1300 mT
保磁力(HCB) 979 kA/m
保磁力(HCJ) >1671 kA/m
最大エネルギー積(BH)max 326kJ/m^3
とした。
【0046】
後方部磁石14の設置位置は、先端部磁石12′の先端から後方部磁石14の先端側の端面までの距離RLで規定し、5mmで固定した。解析する磁場領域は、先端部磁石12′の半球状の先端部分の中心からの幅方向の距離A1(7.0mm),当該先端部分の中心からの先端方向の距離A2(7.0mm),先端部磁石の中心から先端部磁石の先端までの距離A3(5.0mm)である。解析ポイントの空間点は、対平面では、先端部磁石の先端から0.5mm先のラインを1mm間隔で設定した。また、対傾斜面の解析ポイントの空間点は、先端部磁石の中心から先端に向けた直径とのなす角が45°方向に0.5mm間隔で設定した。
【0047】
さらに磁化方向は、支持体,リング型の後方部永久磁石14の軸に沿った方向とし、図16中下向き(研磨対象物側がN極:磁化1)と、図16中上向き(研磨対象物側がS極:磁化2)の2種類を想定する。先端部磁石12′の磁化方向は下向き(磁化1)で固定し、後方部磁石14の磁化方向をパラメータとして振った。具体的には解析パターン11は先端部磁石のみ(後方部磁石を設けないもの)とし、解析パターン12は先端部磁石と同じ方向(下向き:磁化1)とし、解析パターン13は先端部磁石と反対の方向(上向き:磁化2)に変えた。すなわち、解析パターン12が本発明に対応する実施例であり、解析パターン11はその実施例に応じた従来品に対応する比較例(従来品に対する本発明品の優位性を実証するための比較例)であり、解析パターン13は、先端部磁石と後方部磁石の磁化方向の関係を実証するための比較例である。
【0048】
図17(a),(b),(c)は、解析パターン11,12,13のそれぞれの空間磁束密度をカラー表示したものである。図17(a)の右側に、空間磁束の大きさに対する色見本をインジケータとして示している。図では、0.4から0.8Tまでを表現している。各解析図において、左側の図示を省略したが研磨バイトの中心軸を中心に線対称となっている。
【0049】
上記の解析結果より、明らかに図17(b)に示す本発明に対応する解析パターン12が、研磨バイト先端の磁束密度が高いとともに、係る高い範囲が前方に広がっていることが分かる。一方、補助となる後方部磁石の磁極方向が先端部磁石と反対方向とした解析パターン13は逆効果となる。
【0050】
解析領域中の各解析ポイントの具体的な空間磁束密度は、以下に示すグラフのようになる。図18は、先端部磁石から0.5mm位置において、中心から外に向けて1mm間隔で設定した解析ポイントにおける垂直方向(磁化1と同じ)成分、すなわち、研磨対象物に向いた方向成分の磁束密度を示している。図18から明らかなように、後方部磁石(リング型磁石)の有無で、90から120mT程度の違いがでる。すなわち、従来例に対応する解析パターン11の後方部磁石を設けない研磨バイトに比べて本発明に対応する解析パターン12の後方部磁石を先端部磁石と同じ磁化方向で配置した研磨バイトは、解析ポイントの場所により相違するものの、いずれの解析ポイントの位置でも磁束密度が大きい値をとる。この差は、対平面研磨をする際に研磨に大きく影響する値である。一方、たとえ後方部磁石を配置したとしても、磁化方向が先端部磁石と後方部磁石とで逆向きにした解析パターン13は、後方部磁石を設けない解析パターン11の研磨バイトよりも90から120mT近く低下し、逆効果となることが分かる。
【0051】
図19は、先端部磁石の先端部分の中心から45度傾斜面に0.5mm間隔で設定した対傾斜面解析ポイントにおける磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分)の磁束密度を示している。この磁束密度は、対傾斜面の解析ポイントの磁化ベクトルの垂直方向背の成分と水平方向の成分より求めたものである。図19から明らかなように、後方部磁石の有無で、60から100mT程度の違いがでる。すなわち、従来例に対応する解析パターン11の後方部磁石を設けない研磨バイトに比べて本発明に対応する解析パターン12の後方部磁石を先端部磁石と同じ磁化方向で配置した研磨バイトは、解析ポイントの場所により相違するものの、いずれの解析ポイントの位置でも磁束密度が大きい値をとる。この差は、対平面研磨をする際に研磨に大きく影響する値である。一方、たとえ後方部磁石を配置したとしても、磁化方向が先端部磁石と後方部磁石とで逆向きにした解析パターン13は、後方部磁石を設けない解析パターン11の研磨バイトよりも60から100mT近く低下し、逆効果となることが分かる。
【0052】
次に、後方部磁石の位置による影響について検証した。検証する空間領域を特定するA1,A2,A3はそれぞれ7,7,5として、解析パターン11〜13と同じにした。また、先端部磁石の本体部分の直径Bは4mmとした。後方部磁石は、リング型磁石とし、外径RD=15mm,内径Rd=5.1mm,長さRH=10mmとした。そして、いずれの解析パターンにおいても、先端部磁石の磁化方向は下向き(磁化1)とし、後方部磁石の磁化方向も下向き(磁化1)とした。この条件において、従来例に相当する後方部磁石を設けない解析パターン14と、後方部磁石にリング型磁石を用いた解析パターン15,16の3つの解析パターンを用意した。そして、後方部磁石の位置を特定する先端部磁石の先端から後方部磁石の先端側の端面までの距離RLは、解析パターン15は5mmとし、解析パターン16は10mmとした。
【0053】
図20は、各解析パターンのそれぞれの空間磁束密度をカラー表示したものである。具体的には、図20(a)は解析パターン14、図20(b)は解析パターン15、図20(c)は解析パターン16である。さらに、図20(a)の右側に、空間磁束の大きさに対する色見本をインジケータとして示している。
【0054】
各図を比較すると明らかなように、解析パターン14の解析結果である図20(a)に比べ、他の図はいずれも先端部磁石の前方領域において高い磁束密度が得られている。これにより、まず後方部磁石の設置位置や形状に関係無く後方部磁石を設けることの優位性が確認できる。そして、図20(b)に示す解析パターン15の解析結果の方が、図20に示す先端部磁石と後方部磁石との距離を離した解析パターン16よりも先端部磁石の前方領域において高い磁束密度が得られている。
【0055】
解析領域中の各解析ポイントの具体的な空間磁束密度は、以下に示すグラフのようになる。図21は、先端部磁石から0.5mm位置において、中心から外に向けて1mm間隔で設定した解析ポイントにおける垂直方向成分、すなわち、研磨対象物に向いた方向成分の磁束密度を示している。図21から明らかなように、解析パターン14が最も空間磁束密度が低く、以下順に解析パターン16→解析パターン15の順で空間磁束密度が高くなる。具体的な値としては、解析パターン15は解析パターン14に比べ145mTほど高くなる。解析パターン16は解析パターン14に比べ67mTほど高くなる。
【0056】
図22は、先端部磁石の先端部分の中心から45度傾斜面に0.5mm間隔で設定した対傾斜面解析ポイントにおける磁化ベクトル(45度傾斜面に対する垂直方向成分)の磁束密度を示している。この磁束密度は、対傾斜面の解析ポイントの磁化ベクトルの垂直方向背の成分と水平方向の成分より求めたものである。図22から明らかなように、この対傾斜面解析ポイントにおいても図21に示す対平面解析ポイントと同様に解析パターン14が最も空間磁束密度が低く、以下順に解析パターン16→解析パターン15の順で空間磁束密度が高くなる。そして具体的な値としては、解析パターン15は解析パターン14に比べ130mTほど高くなる。
【0057】
次に、図23に示すように、円柱状の先端部磁石12″と、リング型磁石からなる後方部磁石14の組み合わせからなる研磨バイトについての解析結果を説明する。解析条件は、先端部磁石12″は、直径をB、軸方向の長さをBLとする。リング型磁石からなる後方部磁石14の外径をRD、内径をRd、長さをRHとする。この解析では、B=10mm、BL=20mm、RD=20mm、Rd=10.1mm、RH=20mmで固定にした。使用する永久磁石は、共にネオジム磁石(TDK製NEOREC42SH)とした。この磁石の特性は、
残留磁束密度(Br) 1300 mT
保磁力(HCB) 979 kA/m
保磁力(HCJ) >1671 kA/m
最大エネルギー積(BH)max 326kJ/m^3
とした。
【0058】
後方部磁石14の設置位置は、先端部磁石12″の先端から後方部磁石14の先端側の端面までの距離RLで規定し、5mmで固定した。解析する磁場領域は、先端部磁石12″の中心軸からの幅方向の距離A1(7.0mm),軸方向中心位置からの先端方向の距離A2(7.0mm),軸方向中心位置から先端部磁石の先端までの距離A3(5.0mm)である。解析ポイントの空間点は、対平面では、先端部磁石の先端から0.5mm先のラインを1mm間隔で設定した。
【0059】
さらに磁化方向は、支持体,リング型の後方部永久磁石14の軸に沿った方向とし、図23中下向き(研磨対象物側がN極:磁化1)と、図23中上向き(研磨対象物側がS極:磁化2)の2種類を想定する。先端部磁石12′の磁化方向は下向き(磁化1)で固定し、後方部磁石14の磁化方向をパラメータとして振った。具体的には解析パターン21は先端部磁石のみ(後方部磁石を設けないもの)とし、解析パターン22は先端部磁石と同じ方向(下向き:磁化1)とし、解析パターン23は先端部磁石と反対の方向(上向き:磁化2)に変えた。すなわち、解析パターン22が本発明に対応する実施例であり、解析パターン21はその実施例に応じた従来品に対応する比較例(従来品に対する本発明品の優位性を実証するための比較例)であり、解析パターン23は、先端部磁石と後方部磁石の磁化方向の関係を実証するための比較例である。
【0060】
図24(a),(b),(c)は、解析パターン21,22,23のそれぞれの空間磁束密度をカラー表示したものである。図24(a)の右側に、空間磁束の大きさに対する色見本をインジケータとして示している。図では、0.4から0.8Tまでを表現している。各解析図において、左側の図示を省略したが研磨バイトの中心軸を中心に線対称となっている。
【0061】
上記の解析結果より、明らかに図24(b)に示す本発明に対応する解析パターン22が、研磨バイト先端の磁束密度が高いとともに、係る高い範囲が前方に広がっていることが分かる。一方、補助となる後方部磁石の磁極方向が先端部磁石と反対方向とした解析パターン23は逆効果となる。
【0062】
解析領域中の各解析ポイントの具体的な空間磁束密度は、以下に示すグラフのようになる。図25は、先端部磁石から0.5mm位置において、中心から外に向けて1mm間隔で設定した解析ポイントにおける垂直方向(磁化1と同じ)成分、すなわち、研磨対象物に向いた方向成分の磁束密度を示している。図25から明らかなように、後方部磁石(リング型磁石)の有無で、90mT程度の違いがでる。この差は、対平面研磨において研磨に大きく影響する。一方、たとえ後方部磁石を配置したとしても、磁化方向が先端部磁石と後方部磁石とで逆向きにした解析パターン23は、後方部磁石を設けない解析パターン21の研磨バイトよりも90mT近く低下し、逆効果となることが分かる。
【0063】
次に、後方部磁石の位置による影響について検証した。検証する空間領域を特定するA1,A2,A3はそれぞれ7,7,5として、解析パターン21〜23と同じにした。また、先端部磁石の直径Bは4mmとした。後方部磁石は、リング型磁石とし、外径RD=15mm,内径Rd=5.1mm,長さRH=10mmとした。そして、いずれの解析パターンにおいても、先端部磁石の磁化方向は下向き(磁化1)とし、後方部磁石の磁化方向も下向き(磁化1)とした。この条件において、従来例に相当する後方部磁石を設けない解析パターン24と、後方部磁石にリング型磁石を用いた解析パターン25,26の3つの解析パターンを用意した。そして、後方部磁石の位置を特定する先端部磁石の先端から後方部磁石の先端側の端面までの距離RLは、解析パターン15は5mmとし、解析パターン16は10mmとした。
【0064】
図26は、各解析パターンのそれぞれの空間磁束密度をカラー表示したものである。具体的には、図26(a)は解析パターン24、図26(b)は解析パターン25、図26(c)は解析パターン26である。さらに、図26(a)の右側に、空間磁束の大きさに対する色見本をインジケータとして示している。
【0065】
各図を比較すると明らかなように、解析パターン24の解析結果である図26(a)に比べ、他の図はいずれも先端部磁石の前方領域において高い磁束密度が得られている。これにより、まず後方部磁石の設置位置や形状に関係無く後方部磁石を設けることの優位性が確認できる。そして、図26(b)に示す解析パターン25の解析結果の方が、図26に示す先端部磁石と後方部磁石との距離を離した解析パターン26よりも先端部磁石の前方領域において高い磁束密度が得られている。
【0066】
解析領域中の各解析ポイントの具体的な空間磁束密度は、以下に示すグラフのようになる。図27は、先端部磁石から0.5mm位置において、中心から外に向けて1mm間隔で設定した解析ポイントにおける垂直方向成分、すなわち、研磨対象物に向いた方向成分の磁束密度を示している。図27から明らかなように、解析パターン24が最も空間磁束密度が低く、以下順に解析パターン26→解析パターン25の順で空間磁束密度が高くなる。具体的な値としては、解析パターン25は解析パターン24に比べ145mTほど高くなる。解析パターン26は解析パターン24に比べ67mTほど高くなる。
【0067】
上述したように先端部磁石や後方部磁石の形状に関係なく、先端部磁石の外径がφ4以下の小径であっても研磨処理するのに有効な磁束密度が得られる小径の研磨バイトを構成することが確認できる。
【0068】
図28は、本発明の第2実施形態を説明する図である。図28(a)は、上述した第1実施形態の一例として、曲面体からなる先頭部磁石12′とリング型磁石からなる後方部磁石14を用いたものである。先端部磁石12′の先には研磨ペースト18が存在する。係る磁気研磨バイトを用いて研磨処理するには、研磨バイトを回転させる。すると、図28(b)に示すように、研磨最中に研磨ペースト18の一部が飛散し、後方部磁石14の表面に吸着(移動)してしまうおそれがある。係る事態を生じると、先端部磁石12′とその先端には位置する研磨対象物との間に存在する研磨ペースト18が減少し研磨特性が不安定になってしまう。
【0069】
そこで、この第2実施形態では、後方部磁石14の先端側端面を覆うようにカバー部材を配置するようにした。具体的には、例えば図28(c)に示すような円錐台形のカバー部材20や、図28(d)に示すような平板状のカバー部材20′などの他各種の形態のものを用いることができる。いずれの場合も、その材質は非磁性材料とする。ここでは樹脂により形成している。またカバー部材の材質としては、シリコンラバーや、非磁性金属(アルミやSUS304等)、POM材やゴム系樹脂などを用いるとよい。
【0070】
さらにカバー部材20,20′の外形寸法を後方部磁石14の外径寸法より大きくすることで、後方部磁石14を囲い込み、より確実に後方部磁石14側への研磨ペースト18の吸着を回避する。さらに図28(c)に示すように、後方部磁石14の側面も覆うようにすることでより研磨ペースト18の付着が抑制できるので好ましい。なお、カバー部材20,20′と、後方部磁石14とは接触していても良いし非接触でも良い。また、各磁石の形状も任意であり、各種の形態を用いることができる。
【0071】
第2実施形態の効果を実証するため以下に示す実験を行った。図29(a)に示すように、先端部磁石12″は、円柱型磁石のものを用い後方部磁石14はリング型磁石を用いた。研磨対象物16は、SUS420J2(52HRC)平板のものを用い、基準面(初期面)として以下に示す切削加工を施した後、後方磁石にリング磁石を配置した場合と配置しない場合について、それぞれ同じ条件にて磁気研磨を実施した。
【0072】
まず切削加工条件は、切削工具としてフラットエンドミル(φ10FLAT)を用い、主軸回転数が10000rpm、工具送りスピードが1000mm/minとし、走査線加工ピッチを0.10mmとした。
【0073】
磁気研磨条件は、以下の4つ条件とし、各条件でそれぞれ研磨時間を変えて研磨処理をした。まず共通の仕様としては、図29(a)に示すように、研磨バイトの位置関係をとる。なお、条件によって後方部磁石14とカバー部材20′を設けない構成のものもある。
【0074】
条件1
先端部磁石:外径B=4mm,長さBL=20mm
後方部磁石:なし
研磨ギャップ:0.3mm
主軸回転数:1500rpm
研磨時間/送りピッチ:(a)101/10
(b)20/50
(c)10/100
走査ピッチ:0.1mm
研磨時間単位はmin/cm^2であり、送りピッチの単位はmm/minである
【0075】
条件2
先端部磁石:外径B=4mm,長さBL=20mm
後方部磁石:外径RD=11mm,内径Rd=4mm,長さRH=10mm
後方部磁石位置:RL=12mm
研磨ギャップ:0.3mm
主軸回転数:1500rpm
研磨時間/送りピッチ:(a)101/10
(b)20/50
(c)10/100
走査ピッチ:0.1mm
研磨時間単位はmin/cm^2
送りピッチの単位はmm/min
【0076】
条件3
先端部磁石:外径B=6mm,長さBL=20mm
後方部磁石:なし
研磨ギャップ:0.3mm
主軸回転数:1300rpm
研磨時間/送りピッチ:(a)101/10
(b)20/50
(c)10/100
走査ピッチ:0.1mm
研磨時間単位はmin/cm^2であり、送りピッチの単位はmm/minである
【0077】
条件4
先端部磁石:外径B=6mm,長さBL=20mm
後方部磁石:外径RD=9mm,内径Rd=6mm,長さRH=10mm
後方部磁石位置:RL=7mm
研磨ギャップ:0.3mm
主軸回転数:1300rpm
研磨時間/送りピッチ:(a)101/10
(b)20/50
(c)10/100
走査ピッチ:0.1mm
研磨時間単位はmin/cm^2
送りピッチの単位はmm/min
【0078】
磁気研磨ペーストは、FDK製磁気研磨ペースト(MPL-S2SOD)を使用し、条件1,2に対しては0.1g、条件3,4に対しては0.2gを使用した。研磨は、図29(b)に示すように1辺が10mmの正方形の研磨エリアに対して、一辺に平行で走査線ピッチを0.1mmとして研磨バイト(先端部磁石)を走査した。
【0079】
各研磨条件に従い研磨処理を行い、研磨前(初期)の粗さと研磨後の粗さを測定し、研磨が行えているかを評価した。係る表面の粗さ測定は、測定器として「三次元レーザ測定器」(KS-1100 キーエンス社製)を用い、研磨深さを求めた。研磨深さは、図30に示すように、研磨エリアを跨ぐ3本の測定ラインの研磨深さの平均値とした。各測定ラインの研磨深さは、
研磨深さ=全体Ry−(基準面Ry/2)−(研磨面Ry/2)
で求める。ここでRyは最大高さである。
【0080】
その結果、研磨後の深さは、図31〜図33に示すようになった。研磨深さ試験結果より、比較的小径であるφ4の円柱型研磨バイトを事例とした条件1と条件2との研磨深さ比較において、後方に磁石を配置した条件2が20〜30%研磨深さが深く、研磨力が高いことが確認できる(図31,図32参照)。また、φ6の円柱型研磨バイトを事例とした条件3と条件4も同様に、後方に磁石を配置した条件4が30〜50%研磨深さが深く研磨力が高いことが確認できた(図31,図33参照)。このように、実証試験よっても後方部磁石を配置した条件2及び条件4において、2割から5割の研磨力の向上が確認された。この結果は先の解析結果を裏付けるものである。
【0081】
図34は、ハンディタイプの研磨装置に適用した実施形態を示している。各図において、研磨バイト10が装着される研磨装置30は、ハンドグラインダー(ハンドリュータ)31と減速機32を備えて構成される。減速機32は、減速比が1:3.8のものを用いている。これにより研磨バイトの回転数が500〜3000rpmに調整可能となる。ハンドグラインダー31は、500〜3000rpmの回転数が出るものであれば、必ずしも減速機32は必要ではない。
【0082】
図34(a)は研磨バイト10として、先端磁石12′として円柱状の本体の先端が半球状となった曲面体(外径Bが6mm,先端部分の半径BRが3mm)のもの(弾丸型とも言う)を用い、後方部磁石14としてリング型磁石(内径Rdが6mm,外径RDが9mm,長さRHが10mm)を支持体11に装着し、さらにシリコンラバーからなる円板形のカバー部材20′を装着したものである。また、図34(b)は、同図(a)に示す構成を基本としカバー部材20して円錐台形のものに替えた。図34(c)は、後方部磁石等を装着しない従来タイプの研磨バイト9を研磨装置30に装着している。
【0083】
上記の各構成のものを用い、実際に下記の条件で磁気研磨を行った。まずいずれの構成のものも、回転数:1000rpmとした。研磨ペーストは、FDK製のMPL-PC3LBOD(主に非磁性SUS、アルミ及びポリカ用)を0.6g使用した。そして、研磨対象物は、SUS316Lの平板であり、研磨時間は1分間とした。研磨は、研磨対象物の研磨面に対して軽く押し当てながら「の」の字を描く様にハンド研磨を行った。
【0084】
図34(c)に示す従来タイプのものでは研磨バイトの先端に着いている磁気研磨ペーストが30秒過ぎたあたりから押やられ、磁石がむき出しとなり、磁石の先端部が研磨対象物に接触することが多々あった。その結果、先端磁石が接触した部分は、キズが多く発生し極端に削られ平滑ではない不均一な面に仕上がった。一方、本発明の方法は、全く接触もなく従来方法と比較して広範囲を均一に研磨することが出来た。
【0085】
このことは、図35に示す本発明方法による実験結果と、図36に示す従来方法による実験結果である粗さの評価結果からも本発明のものが従来方法より綺麗に仕上がっていることが分かる。ここで、粗さ評価条件は、測定器として「カラー3Dレーザ顕微鏡」(VK-8700 キーエンス社製)を用い、研磨前と研磨後の表面を測定し、測定項目としては粗さ(JIS1994規格)に従いRa(算術平均粗さ),Ry(最大高さ),Rz(十点平均粗さ)とした。
【0086】
また、図37は、研磨前(図37(a)と研磨後(図37(b),(c))の表面をレーザ顕微鏡で観察したものである。図37(b)に示す本発明方法による研磨結果に比べ図37(c)に示す従来方法に示す研磨結果は研磨面のキズが多く確認された。これは、解析結果で説明した通りにリング型磁石等の後方部磁石を設ける効果によって、磁化ベクトル3方向の内、垂直方向の成分が増し磁力線が研磨対象物へ垂直に当たることで安定的な研磨が可能になったことによる。
【0087】
さらに、後方部磁石と先端部磁石との間にカバー部材としてシリコンラバーを装着したことで、研磨ペーストの後方部磁石側への吸着(研磨ペーストの移動)もなく、先端部磁石に研磨ペーストが安定的に存在したことで先端磁石の接触も無く安定した研磨を実現することができる。
【0088】
[産業上の利用可能性]
本発明は、複雑形状物の磨き研磨用途として磁気研磨が使用される場合の専用磁気研磨バイトに関するものである。具体的な用途としては、金型製作時の最終表面仕上げでの磨き用途や意匠デザイン製品の外観を良くするための磨き分野として有効である。特に、平面に数ミリの凹状の段差がある底面を効率よく磨き処理が可能な研磨バイト(研磨ツール)を入れることが可能となり複雑な形状の磨き手段としても有効である。更に、大掛かりな多軸切削装置や多関節ロボットを使わず、ハンドグラインダー(ハンドリュータ)を用いた人の手による磨きを可能にした汎用性の高い研磨ツール及び研磨手法となる。
【符号の説明】
【0089】
10 研磨バイト
11 支持体
12,12′,12″ 先端部磁石
14,14′,14″ 後方部磁石
20,20′ カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気作用により表面処理を行うための研磨バイトであり、
先端部磁石と、その先端部磁石の後方に配置される後方部磁石とを備え、
前記後方部磁石の少なくとも一部は、前記先端部磁石の外周囲より外側に位置し、
前記先端部磁石の磁極と、前記後方部磁石の前記先端部磁石に近い側の端面の磁極が同じに構成されることを特徴とする研磨バイト。
【請求項2】
前記後方部磁石がリング型又は円柱磁石であって、
前記先端部磁石の外形寸法より前記後方部磁石の外径が大きいことを特徴とする請求項1に記載の研磨バイト。
【請求項3】
前記後方部磁石がリング型磁石であって、
前記後方部磁石を装着する支持体に対して軸方向に移動可能とし、前記後方部磁石と前記先端部磁石の相対位置調整が可能とすることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨バイト。
【請求項4】
前記後方部磁石が、電磁石又は永久磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の研磨バイト。
【請求項5】
前記先端部磁石が、円柱型、球体型または曲面体型のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の研磨バイト。
【請求項6】
前記先端部磁石と前記後方部磁石との間に、非磁性材からできたカバー部材を配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の研磨バイト。
【請求項7】
前記カバー部材の外形寸法が、前記後方部磁石の外形寸法よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載の研磨バイト。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の研磨バイトをハンドグラインダーの先端に装着して構成される表面処理装置。

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図31】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate


【公開番号】特開2013−94861(P2013−94861A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237852(P2011−237852)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】