説明

研磨パッド用素材の製造方法

【課題】均質性や平滑性に優れながら、耐久性に優れる研磨パッド用素材の製造方法を提供すること。
【解決手段】開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面に、高分子弾性体の溶剤を塗布し乾燥することを特徴とする研磨パッド用素材の製造方法。さらには、表面に塗布する溶剤が有機溶剤であることや、溶剤の塗布方法がグラビアロール処理であること、高分子弾性体からなる多孔層が、湿式凝固法によるものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド用素材の製造方法に関し、さらに詳しくは精密機器に用いられる基盤やレンズ、液晶ガラス等における研磨加工に最適に用いられる研磨パッド用素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年コンピューターなどの情報処理技術の発達に伴い、磁気記録媒体やシリコンウエハーに対する高精度の表面仕上げが要求されている。例えば磁気記録媒体のハードディスク等を製造する場合、アルミニウム、ガラス等の表面を平滑化するために研磨する加工が行われている。そしてこの研磨加工には、高分子弾性体の多孔シートが広く用いられている。高分子からできた弾性体は、さらに多孔化することによってより柔軟になり、研磨物に傷を与えることを有効に防止しうる研磨布となるのである。そしてこの研磨加工時に用いられる多孔シート状物においては、より高い均質性と平滑性が要求されてきている。高くなった研磨物の仕上がりに対する要求特性を、十分に満たせるように加工しうる素材が求められているのである。
【0003】
このような研磨加工に用いられる多孔シートとしては、例えばポリウレタンの発泡体を作成し、それをフィルム、不織布、織布などからなる支持体の表面に張り合わせる製造方法が用いられている(特許文献1など)。しかしポリウレタンの発泡体として、圧縮特性に優れる湿式凝固ポリウレタンを用いた場合には、平滑性に劣るという問題があった。そこで例えば、あらかじめ表面または裏面を研磨して平滑にしてから張り合わせる方法が、上記特許文献では提案されている。しかし、まだその平滑性については満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−175576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、均質性や平滑性に優れながら、耐久性に優れる研磨パッド用素材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の研磨パッド用素材の製造方法は、開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面に、高分子弾性体の溶剤を塗布し乾燥することを特徴とする。
さらには、表面に塗布する溶剤が有機溶剤であることや、溶剤の塗布方法がグラビアロール処理であること、高分子弾性体からなる多孔層が、湿式凝固法によるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、均質性や平滑性に優れながら、耐久性に優れる研磨パッド用素材の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の研磨パッド用素材の製造方法は、開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面に、高分子弾性体の溶剤を塗布することを必須としている。
この本発明の製造方法のより具体的な方法としては、例えば研磨パッド用素材の基体となるフィルムや不織布などのシート上に、多孔層を形成させた後、表面を研磨処理するなどして開口部を生じさせ、その開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面に、多孔層を構成する高分子弾性体の溶剤を塗布する方法である。
【0009】
本発明の製造方法では、このように研磨パッド用素材表層の多孔層を構成する高分子弾性体の溶剤を、その表面に塗布することが必要であるが、好ましい溶剤としては通常有機溶剤を挙げることができ、有機溶剤の種類としては、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、トルエンなどが一般的である。中でも本発明の製造方法では、多孔層を成形する高分子弾性重合体の良溶媒として知られているジメチルアミド(DMF)を用いることが好ましい。このときジメチルホルムアミド単独でも良いが、溶剤塗布による表面形態の変化を調整するためには、良溶媒のジメチルホルムアミドの他に、メチルエチルケトン等の他の有機溶剤を含んだ混合溶剤を用いることが好ましい。
【0010】
また塗布する方法としてはさまざまな方法が可能だが、特にグラビアロールによるコーティング方法が、塗布量の調整が容易であり、その塗布による素材表面の変化状況を微妙に調整しうるために好ましく用いられる。
【0011】
本発明の製造方法においては、このように塗布液や塗布条件を変更することにより、その表面状態を変化させうる。例えば塗布液について良溶解性のジメチルホルムアミドを単独で用いる場合には、逆に塗布方法としては、グラビアロールの番手の大きい、すなわちメッシュが多く、溝が小さいロールを選択し、処理液の保持量を下げることにより、バランスをとることも可能である。このとき通常は、ジメチルホルムアミドに、メチルエチルケトンなどの他の溶剤を混合する場合、ジメチルホルムアミドの含有率(重量比)は、50〜100重量%の範囲であることが好ましく、特には75〜85重量%の範囲が好ましい。ジメチルホルムアミドの重量比率が少ないと、多孔層の開孔された高分子弾性重合体の表面が溶解しにくくなり、本発明の効果が発揮しにくい傾向にある。またジメチルホルムアミド以外の成分としては、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を用いても良いし、場合によっては混合できる範囲で水等を併用しても良い。
【0012】
また、塗布液の多孔層表面への溶剤の塗布目付量の範囲としては、0.1〜100g/mの範囲が好ましく、特に好ましくは1〜40g/mであることが好ましい。塗布量が多すぎる場合、多孔層の開口部表面だけにとどまらず、孔の内部にまで塗布液が浸透する傾向にある。内部に浸透した塗布液は多孔層内の多孔の壁を溶解させ多孔構造を破壊する傾向にある。隣り合う多孔間の壁が溶解し消滅することにより、複数の多孔が連通して巨孔となってしまうのである。このように多孔構造が消滅すると、研磨加工時に研磨パッド用素材が加圧された際に、部分的な圧縮変形不良や、圧力がかからない状態でも厚みが回復せず凹みが発生することにより、十分な研磨ができない傾向にある。逆に塗布量が少なくなりすぎた場合には、塗布ムラにより本発明の平滑性向上効果が阻害される傾向にある。
【0013】
このような塗布量をグラビア法にて実現するためには、用いるグラビアロールのメッシュの範囲は、70〜300メッシュの範囲であることが、さらには150〜220メッシュであることが好ましい。メッシュを小さくすると、通常溝の深さを増加するために、グラビアロールが処理液を保持する量が増加するし、不均一な塗布となりやすい傾向にある。逆にメッシュを大きくした場合には、メッシュ数は大きくなるものの、溝ごとに各メッシュに保持される処理液量が少なくなり、十分な平滑化効果が得られない。
【0014】
本発明ではこのように溶剤を塗布した後に乾燥するが、温度としては110〜150℃の範囲が好ましく、ジメチルホルムアミドとメチルエチルケトンを用いた場合には115〜125℃の範囲の温度がもっとも好ましい。処理液塗布後に素早く有機溶剤を気化させることにより、開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面において、処理液によって多孔層を構成する高分子弾性体が必要以上に再溶解されることを防ぎ、開口部の多孔の孔が塞がれることを防止するためである。このように適切に乾燥することにより、高分子弾性体の再溶解を防ぎ、多孔層表面の開口を確保することができる。
【0015】
本発明の製造方法に用いられる研磨パッド用素材は、開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層を有するシートである。このようなシートは例えば、研磨パッド用素材の基体となるフィルムや不織布などのシート上に、多孔層を形成させた後、表面を研磨処理するなどして開口部を生じさせることによって製造することができる。
【0016】
この素材の多孔層の支持体となる基体(シート)としては、その形態が不織布、織物、フィルム等のシート状物であればいずれも利用できるが、特には均質な厚みと硬度を持ったプラスチックシートであるこことが好ましく、さらに研磨パッド用素材の均質な厚みを達成するためには、フィルム状であることが好ましい。
【0017】
基体を構成する素材としては、主にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)などの素材が挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)がその均質性と取り扱いやすさから良好な素材として選定されうる。また、基体がフィルム状であるとき、その厚みは10〜300μmの範囲であることが好ましく、100μm〜250μmの範囲がより好ましい。
【0018】
フィルムの厚みが薄いと後の多孔層等の成膜加工時に、折れたりシワになったりと加工が困難になる傾向にある。逆に厚いと取り扱いは楽になり、加工性は向上するものの、得られた素材の剛性が高く、ロール状に巻き取るなどの加工が困難になり、また得られた素材に巻き癖が付きやすく、最終的な研磨パッドに加工した後に、そりが発生するなどの問題が発生する懸念がある。
【0019】
またこの素材の多孔層の支持体となる基体としては、シート状物の上に接着層が存在することが好ましい。接着層としては高分子弾性体が用いられるが、さらには末端にイソシアネート基などの反応性の高い架橋剤を含んでいることが好ましい。
【0020】
特に多孔層にウレタン樹脂を用いた場合、ウレタン基と反応性の高い置換基を持つ架橋剤が、接着層に存在することが好ましい。基体を構成するフィルムと、その上に存在する多孔層を形成する高分子弾性体との間で架橋反応が起こり、研磨パッド用素材の剥離が発生しにくくなるためである。
【0021】
接着層の厚みとしては5〜50μmの範囲が好ましく、5〜35μmの範囲がより好ましい。接着層の厚みが薄すぎる場合、コーティング装置等の加工装置におけるちょっとした歪み等で接着不良等を起こす傾向が有る。一方厚すぎる場合は、接着層の厚さが素材の硬さに影響を及ぼすようになり好ましくない傾向にある。素材の剛性が高くなるとロール状に巻き取る際の加工性などが悪化する傾向にある。さらに素材に巻き癖が付き、最終的な研磨パットに加工した後に、そりが発生するなどの問題点が発生しやすい傾向にある。
【0022】
またこのような接着層を成膜する場合、その塗布後の乾燥温度は100℃以下であることが、特には70〜80℃が好ましく、成膜後なるべく早いタイミングでその上に多孔層を成膜することが好ましい。このような低い温度にて乾燥させることにより、接着処理液を完全に乾燥することなく、その上に引き続き塗布する多孔層との接着性をより高めることが可能となる。また本発明ではこのような乾燥を行うことにより、接着層の塗布ムラや、別途接着加工を行う場合に起こりがちな加圧、加熱による接着剤の流動を、有効に抑えることが可能となったのである。また、接着層を乾燥した後、多孔層の成形までに高温下に暴露したり、長時間放置したりすると同様に架橋剤の反応基が反応してしまうため、好ましくない。多孔層と接着層との間に剥がれが発生しやすくなるからである。
【0023】
本発明の製造方法では、その表面に開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層が存在する研磨パッド用素材が用いられる。この多孔層は、先に述べた基体層、または基体層と接着層の上に直接、成形したものであることが好ましい。そのように直接成形することにより、多孔層形成後の剥離工程であるとか、接着孔工程等を省くことができ、平滑性を高めることが可能となる。
【0024】
また、従来技術と同じく別途多孔膜を作成して張り付ける工程を採用してもよいが、この場合には、フィルム、接着層、多孔層のそれぞれの厚さ斑が加算されやすいという難点がある。逆に、直接各層を形成した場合には、次の層は前の工程の薄い部分に厚く、厚い部分に薄く塗布されることにより厚さが平均化され、平滑性が向上する。また、直接塗布した場合には、多孔層の多孔構造を損なうことなく、特に圧縮による疲労性を向上させる効果がある。別途多孔膜を作成した場合にはその剥離工程、接着工程等にて多孔構造が崩れたり、表面や裏面のスキン層が損なわれる傾向があるからである。
【0025】
この多孔層を形成する高分子弾性体としては、次のようなものを用いることができる。例えばポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマー等が挙げられるが、なかでもポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー等のポリウレタン系のエラストマーであることが好ましい。これらポリウレタン系エラストマーは、例えば平均分子量500〜4000のポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリエステル・エーテルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリカーボネートグリコール等から選ばれた、一種または二種以上のポリマーグリコールと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレジンイソシアネート、トリレジンイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の有機ジイソシアネートと、低分子グリコール、ジアミン、ヒドラジン、または有機酸ヒドラジッド、アミノ酸ヒドラジッド等のヒドラジン誘導体等から選ばれた鎖伸長剤を反応させて得られるものである。
【0026】
また、ここで用いられる高分子弾性体の100%モジュラスとしては、2〜30MPaの間であることが好ましい。モジュラスが低すぎると、高分子弾性体中の結晶成分が極端に少なく、成膜時に安定したフィルムを成型しにくいため、使用することが困難な傾向にある。逆に高すぎても、反対に結晶成分が多く弾性挙動が少なくなり、加工時の圧力の分散が不均一となり、研磨加工に用いた場合に、被研磨体表面にマイクロスクラッチなどの欠点が発生しやすくなる傾向にある。
【0027】
このような高分子弾性体からなる多孔層は、基体上、好ましくは接着層を有する基体上に、高分子弾性体の有機溶剤溶液をコーティングし、水を含む凝固浴中にて湿式凝固させて得ることができる。このとき、多孔形状をおむすび型の大きな孔と微多孔からなる断面多孔となるように調整するために、多孔構造を調整する添加剤を加えることが好ましい。多孔層の厚さとしては200〜1000μmの範囲が好ましく、さらには500〜900μmの範囲が好ましい。
【0028】
このような高分子弾性体からなる湿式成膜フィルムからなる多孔層は、その厚み方向に適度のクッション性を発揮するために、被研磨物への表面密着性やフィット性に優れ、研磨パッドとしての性能の安定化に寄与するものである。
【0029】
さらに本発明に用いる研磨パッド用素材では、多孔層を成形させた後、または研磨等により開口部を形成した後に、加熱プレスによりに表面の平滑性を向上させることが好ましい。
【0030】
加熱プレスの条件は、温度は60〜130℃の範囲が好ましく、圧力は1〜5000kg/cm、さらに好ましくは1〜10kg/cmの範囲であることが好ましい。また、プレスにおける圧縮率は、プレス前の厚みに対し30〜95%の範囲が好ましい。これらの条件は、プレス後の仕上がり面を観て調整することが好ましい。加熱プレス処理時に低い温度では表面の平滑性の向上効果が不十分になる傾向にある。一方高すぎると、多孔層の多孔構造がつぶれる傾向にあり、表面の開口部にも悪影響を及ぼす傾向にある。また、上記の圧縮率の数値が低い場合も、圧縮の程度が高いために多孔構造がつぶれる傾向にある。逆に圧縮率の数値が高い場合は、表面の平滑性を十分に高めることが困難となる傾向にある。加熱プレスの方法は、平滑な金属ロール間でプレスする方法や片方のみ平滑な金属ロールでプレスする方法、平滑なフィルムと熱ロールにて行う方法などを採用することができる。
【0031】
そしてこの加熱プレスを行った、あるいは行っていないシート状物は、その最表面をさらに研磨処理することにより、表面に多孔を露出させ、開口部を形成する。開口部により、研磨液(スラリー)を安定して被研磨物に作用させることが可能となるのである。さらに開口の後に加熱プレスを行うことも好ましい。
【0032】
さらに、研磨パッド用素材の作成方法を具体的に述べると、多孔層の表面を開孔するためには、多孔シート状物の多孔層の深さが所定の長さになるように、砥粒付きサンドペーパーを用いて多孔シート状物の研磨加工処理を行う。砥粒付きサンドペーパーの番手としては、研磨量に応じて#120〜#1000から適宜選択して使用することができる。研磨パッド用素材としては、多孔層表面の孔径(開口径)は、20〜130μmの範囲であることが好ましく、30〜100μmがより好ましい。孔径が小さい場合、研磨加工時に用いるスラリー(研磨液)の多孔層内での循環不良や、研磨加工時の削り粉が開口部入り口あるいは、多孔内部に詰まる傾向にある。この場合、スラリーの循環が妨げられ、研磨加工に時間を要する上、被研磨物が所望の研磨表面を得られない傾向にある。また、孔径が大きすぎる場合、研磨パッド表面の被研磨物と接触する面積が減ることとなり、スラリーの循環量こそ増えるものの、研磨レートが低下する等、研磨加工の非効率化をもたらす傾向にある。多孔層表面と被研磨物の間に存在し得るスラリーが減少することにより、物理化学的な研削仕事量の低下を招いてしまうためである。
【0033】
本発明の製造方法は、このような開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面に、高分子弾性体の溶剤を塗布し乾燥するものである。このような本発明の製造方法により得られた研磨パッド用素材は、高分子弾性体の溶剤を塗布し、例えばいわゆるグラビア処理により溶解された多孔層表面近傍では、グラビア処理前に存在した微多孔が無くなり、大きな多孔構造のみが存在し、高分子弾性体が充実する構造となる。ポリウレタン等の高分子弾性体の充実部分の長さとしては、多孔層表面から50〜200μmの範囲であることが好ましく、さらには120μm以内であることが好ましい。それ以外の多孔層の部分には、多孔を有するものである。
【0034】
このような研磨パッド用素材は、開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面は、高分子弾性体の溶剤を含む処理液により溶解されて、表面粗さの低い表面が形成されている。得られた研磨パッド用素材の表面粗さの範囲としては、算術平均表面粗さ(以下、Raと記載する)として0〜50μmであることが好ましい。
【0035】
そしてこのような本発明の製造方法にて得られた研磨パッド用素材は、研磨加工に好適に用いることができる。中でも、精密機器に用いられる基盤やレンズ、液晶ガラス等における研磨加工に用いることが好ましい。研磨加工の方法としては、被研磨物の両面に研磨加工を同時に行う方法や、被研磨物を保持しながら片面のみに研磨加工を実施する方法があるが、本発明の製造方法により得られた研磨パッド用素材はいずれの方法にも好ましく用いられるものである。
【0036】
研磨加工に用いる場合には、研磨パッド用素材の多孔層が存在しない裏面側に両面テープを接着し、使用する研磨機の加圧定盤にあったサイズにカットし、研磨加工機の定盤に両面テープを用いて接着することにより、研磨パッドとして用いることができるのである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお濃度は特に記載のない限り重量%で、算術平均表面粗さRaは下記の方法にて測定した。
【0038】
(1)算術平均表面粗さRa
表面粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製、品番SJ−301)にてJIS B0601:1994に基づき、カットオフ値(λc:粗さ曲線断面曲線から波長の長い成分(うねり成分や形状精度成分)を除去する長さ)2.5mm、評価長さ12.5mm、使用測定検出器先端のR:10μm(SR10検出器)の設定にて測定した。
Ra=1/L∫|F(x)|dx
(積分範囲0→L(エル))
【0039】
[実施例1]
接着処理液として、高分子弾性体である接着剤(大日精化株式会社製、ポリエステルポリオール系接着剤、E−256)と、架橋剤であるイソシアネートとを、重量比100:10となるように混合し、固形分濃度を25%となるよう溶剤で調整した接着処理液を準備した。
そして厚さ190μmのポリエステル(PET)フィルム上に、上記接着処理液を、クリアランス100μmの条件にてコーティングし、80℃の乾燥機で2分乾燥させ、ポリエステルフィルム上に25μmの接着層を形成し、一旦巻き取ったベース基材を得た。巻き取り時には、接着層のタック性(粘着性)はなくなっていた。なお、接着層等の厚さは、一般の厚さ計で測定した。その後、サンプリングしたサンプルの断面層を、電子顕微鏡及びマイクロスコープで測定したところ膜厚は24μmであった。
【0040】
次に得られたベース基材の接着層の上に、100%モジュラスが7MPaであるポリエーテルエステル系ポリウレタンの20%濃度ジメチルホルムアミド(DMF)溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを800g/mとなるようにコーティングした。その後、10%DMF水溶液の水バス(凝固浴)中で凝固し、十分に水洗を行った後、140℃で乾燥し多孔シート状物を得た。
得られた多孔シート状物の表面を#150のサンドペーパーでバフ処理することで表面の微多孔を除いた孔の径が30〜70μmの範囲で分布する開口部を形成したシート状物とした。
さらに、ロールプレス機を用い、鏡面ロールを120℃に加熱した状態で圧力5kg/cmの条件にて、得られたシート状物に加熱プレスを行い、多孔層の表面平滑化を行った。
【0041】
次に、ジメチルホルムアミド及びメチルエチルケトンを80%/20%の混合比率にて混合し、処理液を準備した。グラビアコート処理機にて、グラビアロールメッシュ#200のロールを用い、表面平滑化を行った開口部を有する多孔層の表面に、処理液をグラビア処理し、20g/m塗布した。次いで、120℃にて乾燥処理し、接着剤中の架橋剤の硬化も平行して進行させた。乾燥後、断面構造を観察したところ、多孔層の厚さは650μmであり、充実部分の長さは、80μmであった。
得られたシートの多孔層の存在していない面に両面テープを貼り付け、研磨パッド用素材とした。得られた研磨パッド用素材の物性を測定したところ、研磨パッドの表面粗さは、Ra=4.53μm、摩擦抵抗値は、0.29と低いものであった。研磨パッドの表面平滑性の向上により被研磨体との接触面積が増えたと考えられるにもかかわらず、摩擦抵抗は充分に低いものであった。
またこの研磨パッド用素材を研磨に用いたところ、研磨加工を行った後のサファイアガラスの表面粗さは、Ra=0.01μmであり、本発明の製造方法によって得られた研磨パッドにより、高い表面平滑性が達成できた。
【0042】
[実施例2]
ベース基材として、ポリエステル(PET)フィルムの代わりに、不織布に高分子弾性体を含浸した基材を用いた。すなわち、ポリエステル不織布(目付340g/m、密度0.34g/cm)にポリエーテルエステル系ポリウレタンの20%濃度溶液を含浸処理し、10%DMF水溶液の水バス中で凝固し、十分に水洗を行った後140℃で乾燥し、厚み調整のために、#600のサンドペーパーでバフ処理してポリウレタン含浸不織布(目付250g/m、密度0.31g/cm)を用いた。またこのベース基材は、ポリエステルフィルムと異なり接着剤層は有さないものであった。
このベース基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法でベース基材上に開口部を有する多孔層を成形し、加熱プレス及びグラビア処理を行い、多孔層の厚さが600μmである研磨パッドを得た。
得られた研磨パッド用素材の表面粗さは、Ra=5.21μm、摩擦抵抗値は、0.31と低くなり、研磨後のサファイアガラスの表面粗さは、Ra=0.02μmで、優れた被研磨体(サファイアガラス)の表面平滑性を達成できる研磨パッド用素材であった。
【0043】
[比較例1]
溶剤を多孔層表面にグラビア処理しない点以外は、実施例1と同様の方法で研磨パッド素材を得た。得られた研磨パッド用素材の表面粗さは、Ra=6.71μm、摩擦抵抗値は、0.55と高く、研磨後のサファイアガラスの表面粗さは、Ra=0.05μmで、被研磨体(サファイアガラス)の表面平滑性が十分達成できない研磨パッド用素材であった。
【0044】
[比較例2]
溶剤を多孔層表面にグラビア処理しない点以外は、実施例2と同様の方法で研磨パッドを得た。得られた研磨パッド用素材の表面粗さは、Ra=7.79μm、摩擦抵抗値は、0.57と高く、研磨後のサファイアガラスの表面粗さは、Ra=0.06μmで、被研磨体(サファイアガラス)の表面平滑性が十分達成できない研磨パッド用素材であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する高分子弾性体からなる多孔層の表面に、高分子弾性体の溶剤を塗布し乾燥することを特徴とする研磨パッド用素材の製造方法。
【請求項2】
表面に塗布する溶剤が有機溶剤である請求項1記載の研磨パッド用素材の製造方法。
【請求項3】
溶剤の塗布方法がグラビアロール処理である請求項1または2に記載の研磨パッド用素材の製造方法。
【請求項4】
高分子弾性体からなる多孔層が、湿式凝固法によるものである請求項1〜3記載のいずれか1項記載の研磨パッド用素材の製造方法。

【公開番号】特開2011−224701(P2011−224701A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95889(P2010−95889)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】