説明

研磨ブラシ用毛材、その製造方法および研磨ブラシ

【課題】従来の研磨ブラシ用毛材に比べ耐熱性および研磨性に優れ、特にステンレス鋼板などの乾式研磨加工に好適な研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシを提供する。
【解決手段】研磨砥材粒子を含有するポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を構成素材とするモノフィラメントからなる研磨ブラシ用毛材であって、前記モノフィラメント中の空隙率が15%以下であることを特徴とする研磨ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属鋼板の製造工程などにおいて金属表面を研磨するために使用する研磨ブラシ用毛材の改良に関し、さらに詳しくは、従来の研磨ブラシ用毛材に比べ耐熱性と耐薬品性に優れ、特にステンレス鋼板などの表面の酸液洗浄研磨加工および乾式研磨に好適な研磨ブラシ用毛材、その製造方法および研磨ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼板などの金属の表面および端面の研磨加工工程、または金属鋼板の製造工程で特に鉄板やステンレス鋼板などの表面研磨加工を行う工程において使用される研磨ブラシ用毛材としては、研磨砥材粒子を含有する合成樹脂組成物からなるモノフィラメントを素材としたものが知られており、例えば、この研磨砥材粒子を含有するモノフィラメントを研磨ブラシ用毛材として植毛したセグメントブラシ、カップブラシ、ディスクロールブラシやチャンネルロールブラシなどの研磨ブラシを、被処理物である鉄板やステンレス鋼板などの表面に押圧し、回転を付与することによって、被処理物の表面研磨加工が行われている。
【0003】
従来、研磨ブラシ用毛材の主な素材としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン610、ナイロン612,ナイロン12などのポリアミド系樹脂、およびポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂から選ばれた合成樹脂が、ブラシの種類や用途に応じて適宜使用されている。
【0004】
一方、研磨ブラシ用毛材に含有される研磨砥材粒子としては、コークス粉、ボーキサイト、酸化アルミナなどに代表されるアルミナ系砥材粒子、白ケイ石、砥粉などの炭化ケイ素系砥材粒子および人工ダイヤモンド砥材粒子などが使用されている。
【0005】
そして、これら合成樹脂と研磨砥材粒子とからなる混合物を溶融紡糸したモノフィラメントが、研磨ブラシ用毛材として従来から広く使用されてきた。
【0006】
一般に、鉄板やステンレス鋼板などの金属鋼板の表面を研磨加工するに際しては、金属鋼板に、水、アルカリ液または酸液などの冷却液または洗浄液を散布しながら研磨作業が行われてきた。
【0007】
しかし、近年では、環境問題から排水処理削減を目的に、冷却液または洗浄液の使用量を減らすことにより、排水処理量の削減が図られている。そして、冷却液または洗浄液を使用しない研磨方法が試みられているが、従来のポリアミド系樹脂およびポリエステル系樹脂を素材とする研磨ブラシを使用して、冷却液または洗浄液を使用せずに研磨を行う方法においては、研磨ブラシ毛材と被研磨物例えばステンレス鋼板との摩擦熱により、研磨ブラシ毛材が溶融してステンレス鋼板に溶着するという問題が起こっており、耐熱性の優れた研磨ブラシ毛材が要求されている。
【0008】
この要求に応えるブラシとしては、ポリアミド樹脂にアジン系化合物を含有させた組成物と研磨砥材粒子とからなる研磨ブラシ用毛材(例えば、特許文献1参照)、およびポリアミド樹脂とフッ素樹脂との組成物と研磨砥材粒子とからなる研磨ブラシ用毛材(例えば、特許文献2参照)がすでに知られており、これらの研磨ブラシ用毛材によれば、構成する合成樹脂にアジン系化合物あるいはフッ素樹脂を含有させた樹脂を使用しているため、ステンレス鋼板などの研磨時に溶着物が付着する不具合は解消するもの、研磨ブラシ毛材が溶融することによって、研磨ブラシの寿命が短くなることから耐久性の点で問題が残されていた。
【0009】
また、高融点樹脂を用いた研磨ブラシ毛材(例えば、特許文献3参照)も提案されているが、この研磨ブラシ用毛材は、耐薬品性および耐熱性の性能は満足するものである反面、研磨時に研磨ブラシ毛材から砥材粒子が脱落し易く、研磨性能が持続できないという問題があり、砥材粒子と樹脂との接着を改善するために、シランカップリング処理を施すなどの手段が取られたが、その改良効果は十分なものであるとは言えず、さらなる改善が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−145434号公報
【特許文献2】特開2004−58184号公報
【特許文献3】特許第2779238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、従来の研磨ブラシ用毛材に比べ耐熱性および研磨性に優れ、特にステンレス鋼板などの乾式研磨加工に好適な研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明によれば、研磨砥材粒子を含有するポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を構成素材とするモノフィラメントからなる研磨ブラシ用毛材であって、前記モノフィラメント中の下記式で示される空隙率が15%以下であることを特徴とする研磨ブラシ用毛材が提供される。
空隙率(%)=(A−B/C)/A×100
A;試料の体積(cm
B;試料の重さ(g)
C;試料の比重(g/cm
【0013】
なお、本発明の研磨ブラシ用毛材においては、
前記モノフィラメントの直径が0.2〜3.0mmの範囲にあること、および
前記研磨砥材粒子のJISR6001に準拠した粒度が#36〜#3000の範囲にあり、かつ前記ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物における含有量が5〜40重量%の範囲にあること
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、この条件を満たすことによって、さらに優れた効果を取得することができる。
【0014】
また、本発明の上記研磨ブラシ用毛材の製造方法は、研磨砥材粒子を含有するポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を、370〜420℃の温度で溶融混練して、口金孔から押出した後、紡出糸条をミスト冷却し、次いで200℃〜320℃の雰囲気で延伸倍率2.0〜3.0倍に延伸して得られたモノフィラメントを、所望の長さに切断することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の研磨ブラシは、前記研磨ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したものであり、特にこの研磨ブラシを金属鋼板の製造工程における金属鋼板表面の乾式研磨加工に使用した場合には、優れた効果を如何なく発揮することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の研磨ブラシ用毛材に比べ、耐熱性および研磨性に優れた研磨ブラシ用毛材が得られ、この研磨ブラシ用毛材を研磨ブラシに使用した場合には、これらの効果を如何なく発揮し、特にステンレス鋼板などの乾式研磨加工に好適な研磨ブラシが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシについて詳述する。
【0018】
本発明の研磨ブラシ用毛材は、研磨砥材粒子を含有するポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を構成素材とするモノフィラメントからなる研磨ブラシ用毛材であって、前記モノフィラメント中の上記式で示される空隙率が15%以下であることを特徴とする。
【0019】
ここで、本発明の研磨ブラシ用毛材に使用されるポリエーテルエーテルケトン樹脂の適正粘度は、MFR(379℃)が5〜30g/10分の範囲のものが、研磨砥材粒子との混連性が良く、製糸性が良好となることから好ましい。溶融粘度MFR(379℃)が5g/10分未満の場合は、砥材粒子との混連性が悪く、口金孔からの吐出状態が不安定な傾向となる。逆に、MFR(379℃)が30g/10分を越える場合は、口金から吐出状態で弛みを生じてモノフィラメントに直径斑ができやすくなるばかりか、延伸時に断糸が起こりやすい傾向となる。
【0020】
また、このモノフィラメント中の次式で示される空隙率は15%以下、特に10%以下であることが好ましい。空隙率が15%を越える場合は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と研磨砥材粒子の間にできた空洞がポリエーテルエーテルケトン樹脂と研磨砥材粒子との接着を阻害し、研磨時に砥材粒子が脱落して研磨性能が維持できなくなるため好ましくない。
空隙率(%)=(A−B/C)/A ×100
A;試料の体積(cm
B;試料の重さ(g)
C;試料の比重(g/cm
【0021】
本発明の研磨ブラシ用毛材に使用される研磨砥材粒子としては、酸化アルミナ、炭化ケイ素および人工ダイヤモンドなどが挙げられ、これらの粒度番手としては、研磨材粒度JIS R6001(1973)に準拠した粒度が#36〜#3000、特に#60〜#1000の範囲のものが好ましく使用される。
【0022】
そして、上記の研磨砥材粒子の含有量は、上記の樹脂組成物中に5〜40重量%の範囲にあることが必要であり、さらには10〜30重量%の範囲にあることがより好ましい。
【0023】
研磨砥材粒子の含有量が上記範囲を下回る場合は、研磨力に欠けた研磨ブラシ用毛材となりやすく、逆に、含有量が上記範囲を上回る場合は、モノフィラメントの強度が低下し、折損耐久性に欠けた研磨ブラシ用毛材となりやすい。
【0024】
また、研磨ブラシ用毛材の直径は0.2〜3.0mmの範囲であることが好ましく、研磨ブラシ用毛材の直径が0.2mm未満では、研磨性能を十分に満足することができず、3.0mmを越えると、口金から吐出されたポリエーテルエーテルケトン樹脂と研磨砥材粒子の混合物の冷却が不安定となり延伸性に支障をきたす傾向となる。
【0025】
次に、本発明のブラシ用毛材の構成素材であるモノフィラメントの製造方法を以下に説明する。
【0026】
まず、好ましくは溶融粘度がMFR(375℃)5〜30のポリエーテルエーテルケトン樹脂に所定量の研磨砥材粒子を含有させたポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を、2軸のエクストルダー型紡糸に供給し、370〜420℃の温度で溶融混練して、口金孔から押出した後、紡出糸条をミスト冷却し、次いで200℃〜320℃の雰囲気で延伸倍率2.0〜3.0倍に延伸することによりモノフィラメントを得る。その後は、必要に応じて、200℃〜300℃の温度で弛緩状態または緊張状態で熱処理を行ってもよい。
【0027】
上記ミスト冷却とは、口金下以降の糸条にミストが触れるようにスプレーノズルによってミストの吹き出しを行う徐冷方法である。ミストの吹き出し量は、糸条が揺れない程度のミスト量の吹き出しとすることが好ましい。ミスト量が多く糸条が揺れると糸直径の斑に生ずる傾向となる。また、ミストの吹き出しは2個以上とするのが好ましい。
【0028】
口金から吐出された糸条の冷却方法としては、水または温水などの液中で吐出された糸条を冷却する方法が一般であるが、ポリエーテルエーテルケトンを構成素材とするモノフィラメントに、通常の冷却方法を採用した場合には、糸条表面が急激に固化され、糸条中に真空ボイドが発生し易いため、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と砥材粒子間に隙間が生じて接着性能が劣る傾向となり、延伸後のモノフィラメントから砥材粒子が脱落し易くなるため好ましくない。
【0029】
そして、延伸条件の温度は200〜320℃の範囲であることがポリエーテルエーテルケトンの配向に適しており、この範囲を外れた200℃以下では延伸時に断糸が起こりやすくなり、逆に320℃以上では延伸張力が不足して適度な配向とならず、屈曲疲労性が劣る傾向となる。本発明においては、ミスト冷却による徐冷を採用することにより、空隙率が15%以下のモノフィラメントを得ることが可能となる。
【0030】
そして、上記の製造方法で得られたモノフィラメントを、所望の長さにカットすることにより、本発明の研磨ブラシ用毛材が得られるのである。
【0031】
ここで、研磨ブラシ用毛材を構成するモノフィラメントの断面形状は、円形以外にも楕円形、三角形、矩形およびその他の異形にすることができ、特に限定はされない。
【0032】
一方、本発明の研磨ブラシは、上記研磨ブラシ用毛材を使用し、公知の製造方法で得られたものであり、その形状としては、例えば、チャンネルブラシやディスクブラシロールブラシなど様々な研磨ブラシが挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げ本発明の構成および効果をさらに説明する。
【0034】
なお、以下の実施例における砥粒脱落率および屈曲疲労性の評価は下記に記載の方法で行った。
【0035】
[手揉み砥粒脱落率]
下記モノフィラメントを50mmにカットし、毛材20本の重量を測定(A)する。その後束ね、両手の人差し指と親指でつまんで往復50回揉み動作を行った後、毛材の重量を測定(B)する。この評価を5回繰り返して下式で砥粒脱落率を算出し、5回の平均値で表す。
手揉み砥粒脱落率(%)=(A−B)/A×100
【0036】
[耐熱折損耐久性]
各モノフィラメントを熱風乾燥機に入れて200℃の温度で48時間処理した後、下記の自社強制テスト方法により評価した。
【0037】
すなわち、JIS P8115記載のMIT試験機を用い、荷重15.7N(1.5kgf)、毎分175±10回の速度で、モノフィラメントを270°折り曲げ、モノフィラメントが切断するまでの往復折り曲げ回数、つまり屈曲疲労性を5回測定し、その平均値を求めた。そして、未処理のモノフィラメントの試験片について、上記と同様にして各耐屈曲疲労性を測定し、折損耐久率を次式によって算出した。
折損耐久率(%)=(A/B)×100
【0038】
[研磨量]
下記モノフィラメントを、内径45mm、外径70mm、毛丈30mmに植毛したカップ状ブラシを、ハンドグラインダーに取り付け、50Nの圧力で、12000rpmで回転させながら、真鍮金属板に接触させて、30分間研磨作業を行い削り取られた真鍮金属の重量を測定した。
【0039】
[実施例1〜3]
溶融粘度(MFR 379℃)が16g/10分のポリエーテルエーテルケトン樹脂「ダイセルエボニック(株)製VESTAKEEP4000G」に対し、シランカップリング剤「東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製SH6020」を0.2重量%被覆処理した粒度番手#100の炭化ケイ素砥材粒子(昭和電工社製)を23重量%添加した組成物を、2軸エクストルダー型紡糸機に供し、380℃の温度で溶融混練した後、押し出された糸条をミスト冷却により冷却固化した後、引き続き240℃の熱風雰囲気中で、表1に示した延伸倍率で延伸することにより、それぞれ直径1.0mmの円形断面モノフィラメントを得た。そして、得られたモノフィラメントを使用して砥粒脱落率、熱処理後の折損耐久性の評価を行った。また、研磨量は上記モノフィラメントを植毛してカップ状ブラシを加工し、研磨量の評価を行った。それらの結果を表1に併せて示す。
【0040】
[実施例4]
実施例1において、得られるモノフィラメントの直径を2.0mmに変更した以外は、同様にして同じモノフィラメントを得た。
【0041】
そして、得られたモノフィラメントを使用して砥粒脱落率、熱処理後の折損耐久性の評価を行った。また、研磨量は上記モノフィラメントを植毛してカップ状ブラシを加工し、研磨量の評価を行った。それらの結果を表1に併せて示す。
【0042】
[実施例5]
実施例1において、研磨砥材粒子を#800の炭化ケイ素砥材粒子(昭和電工社製)に、得られるモノフィラメントの直径を直径0.4mmに、それぞれ変更した以外は、同様にして同じモノフィラメントを得た。
【0043】
そして、得られたモノフィラメントを使用して砥粒脱落率、熱処理後の折損耐久性の評価を行った。また、研磨量は上記モノフィラメントを植毛してカップ状ブラシを加工し、研磨量の評価を行った。それらの結果を表1に併せて示す。
[実施例6]
実施例5において、#800の炭化ケイ素砥材粒子(昭和電工社製)の配合量を35重量%に変更した以外は、同様にして同じモノフィラメントを得た。
【0044】
そして、得られたモノフィラメントを使用して砥粒脱落率、熱処理後の折損耐久性の評価を行った。また、研磨量は上記モノフィラメントを植毛してカップ状ブラシを加工し、研磨量の評価を行った。それらの結果を表1に併せて示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1において、ミスト冷却を20℃の水中での冷却方法に変更した以外は、同様にして同じモノフィラメントを得た。
【0046】
そして、得られたモノフィラメントを使用して砥粒脱落率、熱処理後の折損耐久性の評価を行った。また、研磨量は上記モノフィラメントを植毛してカップ状ブラシを加工し、研磨量の評価を行った。それらの結果を表1に併せて示す。
【0047】
[比較例2]
比較例1において、研磨砥材粒子を#800の炭化ケイ素砥材粒子(昭和電工社製)に変更した以外は、同様にして同じモノフィラメントを得た。
【0048】
そして、得られたモノフィラメントを使用して砥粒脱落率、熱処理後の折損耐久性の評価を行った。また、研磨量は上記モノフィラメントを植毛してカップ状ブラシを加工し、研磨量の評価を行った。それらの結果を表1に併せて示す。
【0049】
[比較例3]
実施例1において、延伸倍率を4.0倍に変更した以外は、同様にして同じモノフィラメントを得た。
【0050】
そして、得られたモノフィラメントを使用して砥粒脱落率、熱処理後の折損耐久性の評価を行った。また、研磨量は上記モノフィラメントを植毛してカップ状ブラシを加工し、研磨量の評価を行った。それらの結果を表1に併せて示す。
【0051】
[比較例4]
相対粘度が3.8のN610樹脂(東レ(株)製M2041)77重量%と、シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製SH6020)を0.2重量%被覆処理した粒度番手#100の炭化ケイ素砥材粒子(昭和電工社製)23重量%との混合物をエクストルダー型紡糸機に供給し、260℃の温度で溶融混練した後、口金孔から押出した。次に押出された糸条を20℃の冷却浴で冷却固化した後、引き続き180℃の熱風雰囲気中で3.2倍に延伸することにより、直径1.0mmのモノフィラメントを得た。
【0052】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満たす研磨ブラシ用毛材(実施例1〜6)は、研磨ブラシ用毛材を構成するモノフィラメント中の空隙率を4.5〜13.5%の範囲にしたものであり、砥材粒子の脱落を抑えて耐熱折損耐久性が優れ、それに加え高い研磨性を有したものであった。
【0055】
これに対し、本発明の条件を満たさない比較例1および比較例2の口金から押し出し水中冷却して空隙率を19%にしたもの、比較例3の延伸倍率を4.0倍と大きくして空隙率を17%としたものは、いずれも砥材粒子の脱落が多いため、研磨量が少なく研削力不足であった。また、比較例4のポリアミド610樹脂を使用したものは、空隙率は14.5%であるが、30分間の研磨作業中に、摩擦により研磨ブラシ用毛材の先端が溶融して砥材粒子がポリアミド610樹脂に覆われたため研削力不足であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明の研磨ブラシ用毛材は、従来の研磨ブラシに比べ耐熱性および研磨性に優れ、この研磨ブラシ用毛材を研磨ブラシに使用した場合には、これらの効果を如何なく発揮し、特にステンレス鋼板などの酸液洗浄研磨加工に好適な研磨ブラシが得られる。したがって、本発明によれば、研磨時に冷却液および洗浄液を削減して使用することや、冷却液および洗浄液使用しないで乾式研磨加工することが可能となり、研磨業界へ貢献するところが大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨砥材粒子を含有するポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を構成素材とするモノフィラメントからなる研磨ブラシ用毛材であって、前記モノフィラメント中の下記式で示される空隙率が15%以下であることを特徴とする研磨ブラシ用毛材。
空隙率(%)=(A−B/C)/A×100
A;試料の体積(cm
B;試料の重さ(g)
C;試料の比重(g/cm
【請求項2】
前記モノフィラメントの直径が0.2〜3.0mmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の研磨ブラシ用毛材。
【請求項3】
前記研磨砥材粒子のJISR6001に準拠した粒度が#36〜#3000の範囲にあり、かつ前記ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物における含有量が5〜40重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨ブラシ用毛材。
【請求項4】
研磨砥材粒子を含有するポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を、370〜420℃の温度で溶融混練して、口金孔から押出した後、紡出糸条をミスト冷却し、次いで200℃〜320℃の雰囲気で延伸倍率2.0〜3.0倍に延伸して得られたモノフィラメントを、所望の長さに切断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨ブラシ用毛材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする研磨ブラシ。

【公開番号】特開2010−234477(P2010−234477A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84728(P2009−84728)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】