説明

研磨工具用樹脂材料及びその製造方法

【課題】 サブミクロン級の微細なダイヤモンド粒子が凝集せず、一次粒子の状態で樹脂質のボンド材乃至マトリックス材中に分散して保持されている、研磨材を提供する。
【解決手段】
本発明の、整粒されたダイヤモンド粒子が、非凝集状態で個々に樹脂層で被覆されている微細ダイヤモンド分散樹脂材は、次の各段階を含有する製法により得られる:
(1) D50値平均粒径が1000nm以下の微細ダイヤモンド粉体に親水性官能基を結合乃至吸着させることにより親水性化する段階、
(2) 上記親水性化ダイヤモンド粒子を水素雰囲気中にて水素終端温度で加熱し、ダイヤモンド粒子表面を水素終端する段階、
(3) 前記の水素終端したダイヤモンド粒子、樹脂、及び有機媒質を組み合わせ、ダイヤモンド粒子が分散した懸濁液を作製する段階、
(4) 有機媒質を分離・除去して、ダイヤモンド含有樹脂を粉体乃至フレーク状で回収する段階。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨工具用樹脂材料及びその製造方法、特に精密分級されたサブミクロン級の粒度を持つダイヤモンド微細粒子を一次粒子状態(非凝集状態)で個々に樹脂層で被覆した粉体乃至微細ダイヤモンド粒子を効果的に分散させた樹脂材、並びにかかる樹脂材を利用した研磨工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密加工の急速な進歩に伴い、ダイヤモンド砥粒を用いた研磨加工の分野でも、オングストロームレベルの仕上げ面精度を目指して、より細かな砥粒を用いる傾向が顕著になり、サブミクロン級の、特に500nm以下のダイヤモンド粒子が広範に使用されるに至っている。
【0003】
一般に化学的に安定な物質と考えられているダイヤモンドであっても、粒度の減少に従って表面の性質が強く現れ、サブミクロン領域になると、乾燥状態では通常、複数個が凝集一体化した凝集粒子となっていることが認められている。従って、そのままの状態で研磨工具に固定して使用すると、見かけ上粗大粒子として挙動するので、加工面にスクラッチ傷をつける恐れがある。
【0004】
従ってこのサブミクロン領域のダイヤモンドを用いる研磨加工では、砥粒を孤立粒子の状態で油性又は水性の媒質(液体)中に分散させた遊離砥粒のスラリーとして実用に供されている。スラリー中のダイヤモンド砥粒は研磨盤や研磨布の上に保持され、加工に寄与するが、保持される率が一般に低く、加工に寄与しないまま流出してしまう砥粒の割合が無視できないレベルにある。
【0005】
サブミクロン級のダイヤモンド粉末は水系のスラリーとして用いられる場合が多く、この用途のために、ダイヤモンド粒子表面を酸化処理により積極的に親水性化することは公知である。
【特許文献1】特許第2691884号公報
【0006】
油性媒質を用いるスラリー用としての乾燥粉における凝集防止策として、本発明者らのうちの一人は先に、ダイヤモンド粒子表面に存在するダングリングボンド(未結合の結合手)に水素原子を結合させて安定化させることが有効であることを知見した。この知見に基づき、ダイヤモンド粒子表面の活性点を水素終端することにより、凝集しにくいサブミクロンダイヤモンド粉が得られている。
【特許文献2】特開2001-329252号公報
【0007】
さらに本発明者等の知見によれば、上記ダイヤモンドへの水素終端処理効果は、水素雰囲気中での加熱において500℃付近から認められる。即ち、まず赤外吸収分析において3000〜3600cm-1付近で観察される、OH伸縮に帰属する吸収ピーク高さが小さくなり、代わって表面親水性ダイヤモンドでは認められなかった、2800〜3000cm-1付近で観察されるCH伸縮に帰属する吸収ピークが現れる。この吸収ピークは600℃の加熱で顕著になり、800℃の加熱処理ではOH伸縮に帰属する吸収ピークは一般に認められないので、水素終端処理がほぼ完結したと考えられる。この間にC−O結合箇所からの酸素の脱離によって生じたダングリングボンドに水素が結合して安定化する反応も進行することが認められる。
【0008】
800℃を超えて加熱を続けても、ダイヤモンド表面からCOガスの脱離が認められることから、ダイヤモンド表面に強固に結合している酸素があると推定される。従って水素中における800℃以上の温度での加熱処理は、ダイヤモンド表面における結合酸素の除去に有効である。但し1000℃を超える加熱処理では、ダイヤモンド粉末粒子表面の構造が崩れ、非ダイヤモンド炭素に覆われた構造となり、水素終端効果が鮮明でなくなる傾向がある。
【0009】
水素終端ダイヤモンドは有機化合物からなる油性の分散媒質(有機性媒質)中に分散しやすいことから、微細ダイヤモンド粒子は、水素終端処理を施すことにより有機性媒質に対して溶解度を持つ樹脂材料中への均一分散が可能になる。本発明者らによる実験において、平均粒径50nmのサブミクロンダイヤモンドは、メタノール中で0.03%、プロパノール中で0.34%、アセトン中で0.41%までは、分散後6時間は溶剤中で懸濁状態を保つとの結果が得られた。即ちダイヤモンド表面がこれらの溶剤に濡れた状態になっていると理解される。また超音波分散直後では上記以上のダイヤモンドを擬懸濁状態で存在させることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の主な目的の一つはサブミクロン級の微細なダイヤモンド粒子が凝集せずに、即ち一次粒子の状態で樹脂質のボンド材乃至マトリックス材中に分散して保持されている、研磨材を提供することにある。別の目的は、かかる研磨材を効率的に製造できる方法を提供することにある。更に別の目的は、かかる材料を用いた研磨工具の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一つの側面において、D50値平均粒径が1000nm以下、特に500nm以下のダイヤモンド粉体を構成するダイヤモンド粒子が、非凝集状態で個々に樹脂層で被覆されていることを特徴とする、粉体乃至フレーク状の樹脂被覆微細ダイヤモンド粉体に関する。ここで用語「被覆」は、被覆されるダイヤモンド粒子と被覆材としての樹脂の相対的な容積によらず、個々のダイヤモンド粒子が、隣接する他の粒子と、樹脂により隔離されている状態を含むものとする。
【0012】
上記微細ダイヤモンド分散樹脂材は、次の各段階を含有し、かつ本発明の別の側面を構成する方法によって効果的に製造される。
(1) D50値平均粒径が1000nm以下、特に500nm以下の微細ダイヤモンド粉体に親水性官能基を結合乃至吸着させることにより親水性化する段階、
(2) 上記親水性化ダイヤモンド粒子を水素雰囲気中にて水素終端温度で加熱し、ダイヤモンド粒子表面を水素終端する段階、
(3) 前記の水素終端したダイヤモンド粒子、樹脂、及び有機媒質を組み合わせ、ダイヤモンド粒子が分散した懸濁液を作製する段階、
(4) 有機媒質を分離・除去して、ダイヤモンド含有樹脂を粉末ないしフレーク状で回収する段階。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によって、従来スラリーとしてしか利用できなかった微細なダイヤモンド粒子を、樹脂中に一次粒子として保持した構成で精密研磨加工に利用することが可能となる。
【0014】
本発明においては、砥粒を遊離砥粒のスラリーとしてではなく、工具中に保持された固定砥粒として使用することにより、砥粒の有効利用による生産性の向上、加工コストの低減に加えて、廃棄物の減量による環境保全への負荷の軽減も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の方法は微細なダイヤモンド粒子に適用可能であり、D50平均値が1000nm(1μm)以下の精密整粒されたダイヤモンド粉体(粒子集合体)に適用して、効果的に一次粒子分散体を作製することが可能である。
【0016】
本発明において、樹脂材中に分散される微細ダイヤモンド粉体の粒度は、D50値平均粒径において1000nm以下、特に500nm以下、更に好ましくは200nm以下のものが適する。粉体とは粒子の集合体を言う。粉体を構成する各粒子のサイズ(粒度)はD50値として表される平均値の両側に、分級精度により異なる分布幅を有し、これは典型的にはD50値に対するD10値及びD90値の比で特徴付けられる。本発明においては精密分級により高度に整粒された微細ダイヤモンド粉体を使用し、精密加工研磨のために、特にこれらのパラメータD10/D50及びD90/D50の比がそれぞれ1/2以上及び2以下のものが好適である。
【0017】
また個々の粒子の粒径について2000nm(2μm)以下のものが利用できる。これより大きい粒子は従来技術による乾式、湿式混合法によりマトリックス材料と混合することが可能であり、かつ通常の手法では有機性媒質中で懸濁状態を維持するのが困難であることから、本発明の処理対象から除外される。一方下限としては現時点で入手可能な最小サイズの3nmまで用いることができる。
【0018】
本発明においては、樹脂材中に分散される微細ダイヤモンドは水素終端処理により親油性乃至疎水性を付与した後、特定の有機化合物からなる分散媒乃至溶媒と組み合わされる。「組み合わせ」とは、異なる複数の物質をお互いの近く乃至周囲に存在させる操作のことで、特に第一の液体中に固体粒子や組成の異なる第二の液体を添加したりする操作を言う。この操作には後述の各種の手法が利用可能である。
【0019】
水素終端処理は、ダイヤモンド表面の炭素原子の結合手のうち、隣の炭素原子との結合に供されていない、未結合手に水素原子を付加する操作であり、この処理によってダイヤモンド粒子に親油性(疎水性)が付与される。
【0020】
上記の水素終端処理は、被処理ダイヤモンドを、予め親水化しておくことによって、効率を向上させることができる。本発明においては、親水化したダイヤモンドを被処理材として用いる。必須ではないが、特に水素終端処理に先立ち、公知の技術に基づいて親水性の官能基乃至原子団をダイヤモンド粒子表面に結合乃至吸着させることにより表面の炭素原子にC=OやC−OH結合を付与することは、極めて有効である。
【特許文献3】特許第2691884号公報
【0021】
水素終端処理は、上記のように予め親水性化したダイヤモンド粒子を水素雰囲気中にて500〜1000℃の水素終端温度温度、特に好ましくは600〜800℃で加熱することによって達成できる。
【0022】
水素終端したダイヤモンド粒子は、樹脂、及び有機溶剤と組み合わせて均一化し、ダイヤモンド粒子が分散した懸濁液を調製する。これには次のような様々な手法が用い得る。例えば、ダイヤモンド粒子を分散懸濁する媒質(分散媒)、及びマトリックス構成樹脂、即ち研磨工具等の用途においてダイヤモンド粒子を分散含有するための保持材構成成分を溶解する媒質(溶媒) として、それぞれ同種類、または相互に溶解度を持つ(相溶性の)異種の有機化合物を使用し、これらの中に溶液又は分散乃至懸濁液とした後に、両液の混合を行うことは効果的である。
【0023】
或は、水素終端ダイヤモンド粒子を有機媒質中に分散懸濁した後に、マトリックス構成樹脂を固体・粉末又は流動状態で添加して溶解し、全体の混合を行い均一化することができる。
【0024】
或はマトリックス構成樹脂を有機媒質中に溶解し、混合、均一化した後、この溶液中に水素終端ダイヤモンド粒子を添加、またはこの溶液を水素終端したダイヤモンド粒子の集合体の間隙へ浸透させることも有効である。
【0025】
マトリックス構成樹脂と組み合わされ、媒質中に分散・懸濁された微細ダイヤモンド粉体は均一に混合した後、例えば、常圧又は減圧下で加熱して分散媒質及び溶媒を蒸発・除去することにより、微細ダイヤモンド粒子を分散状態で保持した樹脂を粉体またはフレーク状で回収することができる。
【0026】
なお懸濁限界を超えてダイヤモンド粒子を懸濁状態で含有する分散媒質の場合、乾燥方法としてスプレードライを含む混合品の瞬間乾燥方式を用いることにより、樹脂とダイヤモンドとが密に混じり合った成型原料粉が得られる。
【0027】
研磨工具としての使用において、マトリックスを構成しダイヤモンド粒子を固定する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂も用いることができるが、使用の際に研磨熱によって軟化するトラブルを避ける見地からは、熱硬化性樹脂がより好ましい。このような樹脂の種類として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステルなどを挙げることができる。
【0028】
本発明で用いる有機媒質(即ち分散媒乃至溶媒)としては、上記の樹脂原料や前駆体を溶解し、かつ水素終端ダイヤモンドへの親和性が高く、さらに樹脂材料の性質が大きく変化しない比較的低い温度範囲で蒸留によって分離可能な物質、特に120℃以下の沸点を有するものが好ましい。このような有機媒質としては、アルコール類、ケトン類、鎖式炭化水素、環式炭化水素、酢酸エステルなど広い範囲から選択することができる。また、ラッカーシンナー、ウレタンシンナー、エポキシシンナー、アクリルシンナー、メラミンシンナーと称されている、シンナー類も利用可能である。
【0029】
これらの有機媒質は蒸留によって回収し、繰り返し使用に供しうることから、ダイヤモンドの分散能(懸濁限界)の低い媒質も利用できる。また減圧蒸留の手段を用いれば、樹脂材料の変質を生じない温度範囲での分散媒及び溶媒の回収が可能であるから、この意味において、低沸点という条件は有機媒質に対する必須要件ではない。
【0030】
本発明方法により処理される出発材料としてのダイヤモンド粒子は、研磨性能の観点から、静的超高圧下で合成された、即ち触媒金属の存在下で、プレスによる静的超高圧及び高温条件下で非ダイヤモンド炭素から転換、製造され、破砕及び分級工程を経た単結晶質ダイヤモンド粒子が、特に好適である。
【0031】
本発明においては、ダイヤモンド粒子表面における活性炭素原子が水素で終端され、この処理により、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による該粉末の吸収スペクトル図形において2800〜3000cm-1付近で観察されるCH伸縮に帰属する吸収ピークの高さは、3000〜3600cm-1付近で観察されるOH伸縮に帰属する吸収ピークの高さ以上とされる。
【0032】
出発材料のダイヤモンド粒子としてはまた、実質的にダイヤモンド構造を示すものであれば、例えば爆薬の爆轟(デトネーション)による動的超高圧下で合成され、解砕工程を経た多結晶質凝集粒子も、合成時に生じた凝集を解き、単一粒子に近い状態で、水中に懸濁させることができるので、同様に利用可能である。この場合、処理方法としては酸化剤を用いた200℃以上の湿式処理、或いは空気または酸化性ガスを用いた300℃以上の乾式処理が有効である。
【0033】
この処理を施したダイヤモンド表面には、親水性の、カルボニル、カルボキシル、水酸基などの酸素含有官能基が吸着ないし結合の状態で存在することが、赤外吸収分析によって確かめられている。加熱の際にこれらの官能基の脱離が引き金となって生じたダングリングボンドが起点となり、隣接粒子間に生じる結合が凝集の発端になると理解されている。
【0034】
本発明の製法で出発材料として用いるダイヤモンド粒子は、有機媒質への濡れ性、研磨性能の確保の観点から、表面がSP3構造を維持していることが望ましい。
【0035】
本発明方法においては、マトリックス樹脂中に高い分散度で微細ダイヤモンドが含有されている樹脂材が効果的に得られ、この高分散性は微細な粒径領域においても発揮される。この特徴は、研磨工具の製作過程において、従来方法ではダイヤモンド砥粒とマトリックス構成材料の樹脂との十分な混合が困難なサブミクロン領域、特にD50値平均粒径が200nm以下の粉体について、特に顕著となる。
【0036】
マトリックス樹脂中におけるダイヤモンド含有量は、個々の粒子の粒径が小さいことから、集中度換算値において50(12.5vol%)以下とするのが好ましく、25以下がより好ましい。一方、研磨工具製作の際に、サブミクロンダイヤモンド分散樹脂と、樹脂のみの粉末とを混合して金型に充填・成形することにより、ダイヤモンドを含有した樹脂塊が、樹脂地の中に島状に分散した構成とすることもできる。
【0037】
本発明においては、表面を樹脂で被覆された個々の粒子を一次粒子(単独粒子)の状態で存在させることが重要である。樹脂被覆ダイヤモンドは、有機溶媒に濡らしたダイヤモンドを、樹脂を溶解した有機溶媒中に浸漬することにより調製することができる。
【0038】
一方、有機溶媒については、樹脂材料の添加濃度を上げて溶剤の粘度を高めることにより、ダイヤモンド粒子が懸濁状態に保持される時間を増すことが可能である。ダイヤモンド粒子及び樹脂材料を添加した有機媒質は、必要に応じて撹拌、超音波照射、ビーズミル混合、ペイントシェーカー等既知の各種方法を実施して、ダイヤモンドと樹脂との均一な混合が確保されるようにする。
【0039】
ダイヤモンドと樹脂とが均一に混合された状態の有機溶媒からの有機溶媒を除去し乾燥すると、サブミクロンのダイヤモンド微粉が一次粒子状態で分散・固定された粉体又はフレーク状の樹脂材が得られる。
【0040】
得られた樹脂材は、通常の樹脂成形技術を用いて工具素材に成型することができる。特にホットプレスや射出成型といった、加熱手段を併用する加圧成型方法が好ましく、実質的に気孔を含まない、微細ダイヤモンド粒子分散工具や工具素材が得られる。気孔の存在が障害にならない場合には、流し込み成型法が利用でき、また必要に応じて圧延や、ロール成型によってシート状とすることも可能である。
【実施例1】
【0041】
砥粒としてD50値平均粒径50nmのMD50級ダイヤモンド粉体(トーメイダイヤ(株)製品)、マトリックス構成材料としてフェノール樹脂PR8000(住友ベークライト(株)製品)を用いた。MD50には表面に親水性の官能基が結合乃至吸着しているので、予備操作として水素中で700℃に保ち、ダイヤモンド粒子表面を水素で終端した。処理済みのダイヤモンド50gにメタノール500mlを加え、超音波で分散させて懸濁液とした。
【0042】
マトリックス構成材料のフェノール樹脂PR8000は、500gを秤取し、1000mlのメタノール中に溶解して透明な褐色の液とした。
【0043】
上記のフェノール樹脂を溶解した第二のメタノール液に、前記の、ダイヤモンドを懸濁した第一のメタノール液を加え、攪拌しながら加熱容器中へ滴下する手法で急速蒸留し、メタノールを分離・除去した。
【0044】
得られたダイヤモンド混入フェノール樹脂を乳鉢中で軽く潰すことにより、褐色のペレット乃至粉末状のサブミクロンダイヤモンド分散樹脂を得た。この樹脂中においてダイヤモンド粉末の凝集体は認められず、各粉末粒子は、表面がフェノール樹脂で被覆された状態であることをSEM観察により確認した。
【0045】
次いで上記の樹脂を工具成型原料粉末として用い、ラップ砥石の製作を行った。研磨仕上げした直径150mmの炭素鋼製の円板を成型金型枠内に嵌めて水平に保って成型原料粉末80gを充填して平らに均し、その上へフェノール樹脂PR8000粉末120gを平らに充填した。
【0046】
この上に押板を載せて油圧プレスで30トンの荷重を加えながら、金型を200℃に加熱して成型原料粉末とフェノール樹脂PR8000粉末とを同時に硬化させ、厚さ約8mmのラップ盤素材を得た。この素材をさらに乾燥器内で200℃に12時間保持して十分に硬化させた後、シルミン製の砥石基板上に接着剤(ボンドE250:コニシ(株)製)を用いて固定し、#800のGC砥石を用いて砥石面の面出しとツルーイングとを実施した。
【実施例2】
【0047】
平均粒径100nmのMD100級ダイヤモンド (トーメイダイヤ(株)製品)砥粒を、エポキシ樹脂(エピフォームF-246:ソマール(株)製品)中に混合した。MD100も表面は親水性であることから、実施例1と同様に予備操作の水素中700℃加熱によって、ダイヤモンド粒子表面を水素で終端した。処理済みのダイヤモンド30gにアセトン500mlを加え、超音波で分散させ懸濁液とした。
【0048】
エポキシ樹脂は、100gを秤取し、1000mlのメチルエチルケトン中に分散させて透明な溶液とした。上記のエポキシ樹脂を溶解させたメチルエチルケトンに、前記のダイヤモンド懸濁アセトンを加え、ビーズミルを用いて十分に混合し、攪拌機付きの蒸留装置により分散媒及び溶媒を蒸発・分離した。
【0049】
得られたダイヤモンド分散エポキシ樹脂は、乳鉢中で磨り潰してから80メッシュのふるいを通し、白色粉末状のサブミクロンダイヤモンド分散樹脂を得た。この樹脂に200gのトリアジン樹脂BT2680(三菱ガス化学(株)製品)粉末を加えて乾式で十分に混合し、工具成型原料粉末とした。
【0050】
次いで実施例1と同じ手法によりラップ砥石を作製した。成型金型は実施例1と同じ直径150mmであって、原料粉末160gを平らにならして充填し、押板を載せて油圧プレスで40トンの荷重を加えながら金型を230℃に加熱して硬化させ、厚さ約6.5mmのラップ盤素材を得た。
【0051】
この素材をさらに乾燥器内で230℃に12時間保持して十分に硬化させた後、シルミン製の砥石基板上に接着剤(ボンドE250:コニシ(株)製)を用いて固定し、#800のGC砥石を用いて砥石面の面出しとツルーイングとを実施した。
【実施例3】
【0052】
砥粒として一次粒子径5〜10nmと称される、比表面積300m2/gのデトネーションダイヤモンドを用いた。ダイヤモンドを保持する樹脂材料には実施例1と同じフェノール樹脂PR8000(住友ベークライト(株)製品)を用いた。
【0053】
デトネーションダイヤモンドは、まず精製処理として溶融水酸化ナトリウム中における加熱処理を行い、次いで硝酸−硫酸混液中煮沸による表面酸化処理を施して表面に親水性の官能基を形成し、さらに水素中で700℃に保ち、ダイヤモンド粒子表面を水素で終端する処理を施した。処理済みのダイヤモンド5gにメチルエチルケトン200mlを加え、超音波で分散させ、懸濁液とした。
【0054】
マトリックス材料のフェノール樹脂PR8000は、500gを秤取し、1000mlのメチルエチルケトン中に溶解し透明な褐色の溶液とした。
【0055】
上記のフェノール樹脂を溶解したメチルエチルケトン溶液に、前記のダイヤモンド分散メチルエチルケトン懸濁液を加え、超音波照射によって十分に混合し、攪拌機付きの蒸留装置を用いてメチルエチルケトンを蒸発・分離した。
【0056】
得られたダイヤモンド分散樹脂は、乳鉢中で軽く潰し、工具成型原料となる褐色粉末状のサブミクロンダイヤモンド分散樹脂とした。以上の諸工程は実施例1と同じである。
【0057】
この成型原料粉末を用いたラップ砥石の製作には砥石直径100mm用の炭素鋼製の成型金型を用いた。成型原料粉末重量50gを平らに均して、その上へフェノール樹脂PR8000粉末50gを平らに充填した。この上へ押板を載せて油圧プレスで10トンの荷重を加えながら金型を200℃に加熱することにより、成型原料粉末とフェノール樹脂PR8000粉末とを同時に硬化させ、厚さ約10mmのラップ盤素材を得た。
【0058】
この素材をさらに乾燥器内で200℃に12時間保持して十分に硬化させた後、鋼製の砥石基板上に接着剤(ボンドE250)を用いて固定し、精密仕上げ用のラップ砥石とした。
【実施例4】
【0059】
IRM 0-2級ダイヤモンド微粉(D50=950nm)20gをプロパノール1000ml中に分散させて懸濁液を調製し、またフェノール樹脂PR8000を55gプロパノール200mlに溶解した溶液を調製した。両液を超音波照射によって十分に混合し、油煎110℃による蒸留で分散媒及び溶媒を分離・回収し、12vol%のサブミクロンダイヤモンド粒子を分散保持した塊状のフェノール樹脂を得た。これを粉砕して80メッシュのふるいを通過させ、研磨砥石作製用の原料粉末とした。
【実施例5】
【0060】
砥粒としてD50平均粒径が24nmであるトーメイダイヤ(株)製のMD20級ダイヤモンド微粉、マトリックス材料として住友ベークライト製フェノール樹脂PR8000を用いた。予備操作として、MD20を9部硫酸−1部硝酸−0.5部硝酸カリ(容量比)の中での煮沸による再度の酸化処理の後、水素中で700℃に保ち、ダイヤモンド粒子表面への水素終端処理を施した。処理済みのダイヤモンド4gにアセトン1000mlを加え、超音波で分散させて懸濁液とした。
【0061】
マトリックス材料としてフェノール樹脂PR8000(粉)を200g秤取し、上記のダイヤモンド懸濁液へ少量ずつ添加して完全に溶解した。得られた粘い褐色のダイヤモンド懸濁液を蒸留して、アセトンを分離・回収した。一方、回収されたダイヤモンド混入マトリックスは、乳鉢中で軽く潰すことにより、褐色粉末状のサブミクロンダイヤモンド分散樹脂を得た。この樹脂中においてダイヤモンド粉末の凝集体は認められず、各粉末粒子は表面がフェノール樹脂で被覆された状態であることをSEM観察により確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整粒されたダイヤモンド粉体を構成するダイヤモンド粒子が、非凝集状態で個々に樹脂層で被覆されていることを特徴とする、粉体状乃至フレーク状の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項2】
ダイヤモンド粉体のD50値平均粒径が1000nm以下である、請求項1に記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項3】
ダイヤモンド粉体のD50値平均粒径が500nm以下である、請求項1又は2のいずれかに記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項4】
ダイヤモンド粉体のD50値平均粒径が200nm以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項5】
ダイヤモンド粉体のD50値平均粒径に対するD10値及びD90値の比がそれぞれ1/2以上及び2以下である、請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項6】
ダイヤモンド粒子の一次粒径が2μm以下3nm以上である、請求項1に記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項7】
ダイヤモンド粒子が、静的超高圧下で合成され破砕及び分級工程を経た単結晶質粒子である、請求項1に記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項8】
ダイヤモンド粒子が、動的超高圧下で合成され解砕工程を経た多結晶質凝集粒子である、請求項1に記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項9】
ダイヤモンド粒子表面の炭素原子がSP3構造を維持している、請求項1に記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項10】
樹脂が、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、及びメラミン系樹脂から選ばれる1種を含有する、請求項1に記載の樹脂被覆微細ダイヤモンド材。
【請求項11】
請求項1に記載の樹脂被覆微細ダイヤモンドを含有する、微細ダイヤモンド粒子分散樹脂成形材。
【請求項12】
ダイヤモンド研磨工具製作用のマトリックス材料である、請求項11に記載の微細ダイヤモンド粒子分散樹脂成形材。
【請求項13】
請求項1又は2のいずれかに記載の樹脂被覆微細ダイヤモンドを含有する、ダイヤモンド研磨工具。
【請求項14】
次の各段階を含有する、微細ダイヤモンド分散樹脂材の製造方法:
(1) D50値平均粒径が1000nm以下の微細ダイヤモンド粉体に親水性官能基を結合乃至吸着させることにより親水性化する段階、
(2) 上記親水性化ダイヤモンド粒子を水素雰囲気中にて水素終端温度で加熱し、ダイヤモンド粒子表面を水素終端する段階、
(3) 前記の水素終端したダイヤモンド粒子、樹脂、及び有機媒質を組み合わせ、ダイヤモンド粒子が分散した懸濁液を作製する段階
(4) 有機媒質を分離・除去して、ダイヤモンド含有樹脂を粉体乃至フレーク状で回収する段階。
【請求項15】
上記段階(3)において、水素終端ダイヤモンド粒子及びマトリックス構成樹脂を、それぞれ同種または異種で相溶性の有機媒質中に分散懸濁又は溶解して分散液及び懸濁液とした後に、両液の混合を行う、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記段階(3)において、水素終端したダイヤモンド粒子を有機媒質中に分散懸濁した後に、マトリックス構成樹脂を添加して溶解し、全体の混合を行う、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
上記段階(3)において、マトリックス構成樹脂を有機媒質中に溶解混合した後に水素終端ダイヤモンド粒子の添加を行う、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
上記段階(3)において、マトリックス構成樹脂を有機媒質中に溶解混合した後、水素終端ダイヤモンド粒子の集合体の間隙へ浸透させる、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
上記段階(2)において、ダイヤモンド粒子表面における活性炭素原子を水素で終端し、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による該粉末の吸収スペクトル図形において2800〜3000cm-1付近で観察されるCH伸縮に帰属する吸収ピークの高さを、3000〜3600cm-1付近で観察されるOH伸縮に帰属する吸収ピークの高さ以上とする、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
上記(1)及び(2)の段階において、微細ダイヤモンド粉体を、水素終端処理に先立ち酸化処理に供する、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
上記段階(2)において、水素終端温度が500℃以上1000℃以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
水素終端温度が600℃以上800℃以下である、請求項14又は21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
上記樹脂が熱硬化性樹脂である請求項14に記載の方法。
【請求項24】
上記樹脂がフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステルから選ばれる1種を含有する、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
上記有機媒質が、アルコール類、ケトン類、鎖式炭化水素、環式炭化水素、酢酸エステルから選ばれる1種を含有する、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
上記有機媒質が、ラッカーシンナー、ウレタンシンナー、エポキシシンナー、アクリルシンナー、メラミンシンナーから選ばれる1種を含有する、請求項14に記載の方法。

【公開番号】特開2008−115303(P2008−115303A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300941(P2006−300941)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(591285402)
【Fターム(参考)】