説明

研磨布

【課題】被研磨物のうねりを良好に維持しつつ、研磨レートを高めることを目的とする。
【解決手段】基材層2と前記基材層2上に形成された多孔質の研磨層3とを備える研磨布であって、研磨層3の比表面積を0.5〜1.0m/gとしており、これによって、研磨層の表面が、砥粒が付着し易い適度な粗さとなって、被研磨物のうねりを良好に維持しつつ、研磨レートを高めることができ、また、予備研磨の立ち上げに要する時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク用基板や半導体ウェハなどの研磨に好適な研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク用基板の一次研磨には、例えば、スエード調の研磨布が使用される。このスエード調の研磨布は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂フィルムや不織布等にウレタン樹脂を含浸させた基材に、ウレタン樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)などの水溶性有機溶媒に溶解させたウレタン樹脂溶液を塗布し、これを凝固液で処理して多数の気泡を有する多孔質の銀面層を形成し、前記銀面層の表面を研削加工してナップ層とし、基材層と多数の気泡を有するナップ層とからなるスエード調の研磨布を得るものである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−59356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかるスエード調の研磨布は、研磨装置に取り付けて装置を立ち上げた研磨初期には、研磨レートも低く、研磨後のハードディスク用基板のうねりも大きく、このため、実際の製品であるハードディスク用基板を研磨する本研磨の前に、ダミー基板を研磨する予備研磨を行い、所定の研磨レートが得られるとともに、研磨後のダミー基板のうねりが低減されたことを確認した後、本研磨に移行するようにしている。
【0004】
ハードディスク用基板のうねりは、スエード調の研磨布の表面粗さの転写等が寄与していると考えられ、上記の予備研磨に要する時間を短縮するとともに、ハードディスク用基板のうねりを低減するために、従来では、スエード調の研磨布の表面粗さを低減するようにしている。
【0005】
しかしながら、研磨布の表面粗さを低減すると、研磨レートが低くなり、また、予備研磨による立ち上げに長時間を要し、スループットが低下してしまう。したがって、従来のように、スエード調の研磨布の表面粗さを低減するという手法では、ハードディスク用基板のうねりを良好に維持しつつ、研磨レートを確保するのは困難である。
【0006】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、被研磨物のうねりを良好に維持しつつ、研磨レートを高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般に研磨は、研磨スラリー中の砥粒が、研磨布に付着して切れ刃となって行われると考えられ、研磨レートを高めるには、砥粒が研磨布に付着しやすい方がよいと考えられる。したがって、従来のように、研磨布の表面粗さを低減するだけでは、研磨レートの低下は避けられず、研磨レートを高めるには、研磨布の表面を、砥粒が付着し易い適度な粗さにする必要があると考えられる。
【0008】
本件発明者は、上記知見に基づいて鋭意研究した結果、研磨布における研磨層の比表面積を、研磨布表面の粗さの指標とすることができ、前記比表面積が、特定の範囲にあるときに、砥粒が付着し易い適度な粗さとなり、被研磨物のうねりを良好に維持しつつ、研磨レートを高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の研磨布は、基材層と前記基材層上に形成された多孔質の研磨層とを備える研磨布であって、前記研磨層の比表面積が0.5〜1.0m/gである。
【0010】
この研磨層の比表面積は、基材層を取り除いた研磨層について測定される比表面積であり、この比表面積はBET法により測定することができる。
【0011】
本発明によると、研磨層の比表面積を0.5〜1.0m/gとすることにより、研磨層の表面が、砥粒が付着し易い適度な粗さとなって、被研磨物のうねりを良好に維持しつつ、研磨レートを高めることができ、また、予備研磨の立ち上げに要する時間を短縮することができる。
【0012】
本発明の一つの実施形態では、圧縮率が10%以下である。
【0013】
この実施形態によると、研磨圧力に影響されにくく、研磨レートだけでなく微小うねりに関しても安定した研磨が可能である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、前記多孔質の研磨層は、前記基材層の表面に樹脂溶液を塗布して湿式凝固した後に、湿式凝固した樹脂の表面を研削して形成される。
【0015】
また、本発明の研磨布は、ハードディスク用基板の研磨に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、研磨層の研磨面の比表面積を0.5〜1.0m/gとしているので、研磨層の表面が、砥粒が付着し易い適度な粗さとなって、被研磨物のうねりを良好に維持しつつ、研磨レートを高めることができ、また、予備研磨の立ち上げに要する時間を短縮して、スループットを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面によって本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る研磨布の概略断面図である。
【0019】
この実施形態の研磨布1は、基材層2と、この基材層2上に形成された多数の気泡を有する研磨層であるナップ層3とを備えている。
【0020】
基材層2としては、例えば、PETフィルムや他のポリエステル系フィルムやオレフィン系フィルムなどの樹脂フィルムを用いてもよく、また、樹脂フィルムに限らず、ポリアミド系、ポリエステル系等の不織布(フェルト)にウレタン樹脂を含浸したもの(ウレタン樹脂含浸不織布)であってもよい。
【0021】
研磨層であるナップ層3を形成するための樹脂溶液は、例えば、ウレタン樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)などの水溶性有機溶媒に溶解させたものである。ウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などのウレタン樹脂を用いることができ、異なる種類のウレタン樹脂をブレンドしてもよい。
【0022】
ウレタン樹脂を溶解させる水溶性有機溶媒としては、上述のジメチルホルムアミドの他、例えば、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等の溶媒を用いることができる。
【0023】
また、ウレタン樹脂を溶解した有機溶媒には、カーボンブラック等の充填剤や界面活性剤等の分散安定剤を添加してもよい。
【0024】
次に、上記構成の研磨布の製造方法を説明する。
【0025】
この実施形態の研磨布の製造方法では、ウレタン樹脂および界面活性剤等を、ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解させて混合し、脱泡、濾過を行って、ウレタン樹脂溶液を作製する。
【0026】
このウレタン樹脂溶液を、基材、例えば、PETフィルムの表面に塗布し、湿式凝固させ、洗浄して溶媒を除去した後、表面をバフ研削して気泡を開口させて基材層2の表面にナップ層3を形成して、図1の研磨布1を得る。
【0027】
上記バフ研削は、例えば、図2に示すように、送りロール4によって矢符A方向に搬送される研磨布1aに対して、矢符B方向に回転する研削ロール5を圧接させて行なう。なお、バフ研削に代えて、表面をスライスしてもよい。
【0028】
この実施形態の研磨布は、研磨層であるナップ層3の比表面積が0.5〜1.0m/gであり、好ましくは、0.7〜0.9m/gである。
【0029】
かかる比表面積の研磨布は、上述のバフ研削における研削量や研磨布の送り速度等の条件、あるいは、樹脂組成や湿式凝固させる際の条件などの調整によって得ることができる。
【0030】
この比表面積は、後述のようにクリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法により測定される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明する。
【0032】
先ず、実施例及び比較例に先立って研磨布が研磨能力を発現するために、研磨スラリーの何が寄与しているのか検証するための検証試験を行った。
【0033】
Ni−Alディスクの一次研磨で一般的に用いられる通常の酸/アルミナ系の研磨スラリーと、酸のみで砥粒なしの酸水溶液とをそれぞれ用いて、Ni−Alディスクを研磨し、研磨レートを比較した。
【0034】
前記酸/アルミナ系の研磨スラリーとして、(株)フジミインコーポレーテッド製Disk−liteを希釈倍率2:1で用い、砥粒なしの酸水溶液については、塩酸にて前記研磨スラリーと同じpHに調整した酸水溶液を用いた。
【0035】
この研磨では、研磨機として、ムサシノ電子(株)製のMA200D(枚葉・片面研磨機)を、研磨パッドとして、ニッタ・ハース(株)製のSupreme RN−Hを使用し、回転数100rpm、圧力96gf/cm、スラリー流量40mL/min、研磨時間5minとし、3.5インチのNi−Alディスクを被研磨物として5回研磨を行った。
【0036】
その結果を、表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、砥粒なしの酸水溶液の場合は、研磨レートが、0.0012μm/minであって、ほぼゼロであるのに対して、酸/アルミナ系の研磨スラリーの場合は、研磨レートが0.29μm/mimであった。
【0039】
このことから、研磨スラリー中の砥粒が、研磨布に付着して切れ刃となって、研磨可能になることが分る。
【0040】
また、砥粒が付着して研磨できるということから察するに、研磨布表面の開口した孔(ポア)ではなく、表面壁部の砥粒がディスク用基板に接触することが研磨の機構と考えられる。したがって、高い研磨レートを得るには、砥粒をナップ層の壁面に吸着させることができる、すなわち、砥粒が付着しやすい方がよいと考えられ、ナップ層の表面が適度な粗さになっている必要がある。
【0041】
この実施形態では、この適度な粗さの指標として、ナップ層の比表面積を用いるものであり、上述のように前記比表面積を、0.5〜1.0m/gとしている。
【0042】
次に、ナップ層の比表面積が異なる比較例および実施例の研磨布サンプルを作製した。すなわち、基材層上のナップ層の比表面積が、0.5m/g未満である比較例の研磨布サンプルA〜C、前記比表面積が0.5〜1.0m/gである実施例の研磨布サンプルD,E、および、前記比表面積が1.0m/gを越える比較例の研磨布サンプルFを作製した。なお、比較例の研磨布サンプルAは、極端に比表面積の少ないサンプルを得るために、同様なウレタン樹脂を乾式発泡させた壁面が滑らかな研磨布サンプルである。
【0043】
表2に、各研磨布サンプルA〜Fの厚み、ナップ層厚み、圧縮率、表面粗さRa、比表面積(BET)を示す。この表2には、後述の研磨特性の評価に用いた比表面積が、0.5〜1.0m/gである実施例の研磨布サンプルG,Hも併せて示している。
【0044】
【表2】

【0045】
圧縮率は、サンプルに初期荷重300gf/cm(30KPa)を1分間かけたときの厚みT1を測定し、続けて第二荷重1800gf/cm(180KPa)を1分間かけたときの厚みT2を測定し、次式によって算出した。
【0046】
圧縮率(%)={(T1−T2)/T1}×100
表面粗さRaは、接触式表面粗さ計である、東京精密製Surfcom480Aを用いて、JIS B0601−1994に準拠して次のように行った。すなわち、測定長12.5mm、カットオフ値2.5mm、測定速度0.3mm/sec、測定力0.07gf、円錐ダイヤモンド端子Rtip=10μm、θ=90°として測定した。
【0047】
比表面積の測定は、次のようにして行った。
・測定装置:全自動ガス吸着量測定装置オートソーブ−1−C/VP/TCD/MS(ユアサアイオニクス株式会社製)
・測定原理:定容法による全自動ガス吸着量測定
・吸着ガス:クリプトンガス
・測定範囲:0.005m以上(表面積)
0.001cc(細孔容積検出限界)
・P/P0(相対圧)測定点:0.075−0.30吸着側13点
・サンプルセル:薄膜用セル ステム外径12mm
・サンプル処理:サンプルをエタノールに数時間浸漬後接着層(基材)を取り除き、室温で放置してエタノールを揮発させた後、測定セルに入れて80℃真空下で60分間脱気
・測定回数:同一試料を2回
以上の各研磨布サンプルA〜Fについて、上記の研磨条件、すなわち、研磨機として、ムサシノ電子(株)製のMA200D(枚葉・片面研磨機)を、研磨パッドとして、ニッタ・ハース(株)製のSupreme RN−Hを使用し、研磨スラリーとして、(株)フジミインコーポレーテッド製Disk−liteを希釈倍率2:1で使用し、回転数100rpm、圧力96gf/cm、スラリー流量40mL/min、研磨時間5minとし、3.5インチのNi−Alディスクを被研磨物として研磨を行い、研磨レートの推移を比較した。
【0048】
その結果を、図3に示す。
【0049】
比表面積が、0.5m/g未満である比較例の研磨布サンプルA〜C(黒菱形、黒三角、黒丸)は、研磨レートが0.1〜0.2μm/min程度と終始低いままで立ち上がらない。
【0050】
これに対して、比表面積が、0.5m/g〜1.0m/gの実施例の研磨布サンプルD,E(白丸、白四角)は、研磨開始から5ランのうちに0.4μm/min前後と比較例のサンプルA〜Cの数倍の研磨レートに達し、終始高い値を安定して維持している。
【0051】
また、比表面積が、1.0m/gを越える比較例の研磨布サンプルF(白三角)は、研磨直後は非常に高い研磨レートが得られるが、最終的には、実施例の研磨布サンプルD,Eの水準より研磨レートは低下した。これは、スラリー砥粒が目詰まりしたことによると考えられる。研磨レートが不安定ということは、研磨時間を常にモニターし、調整する必要があり、また研磨レートの低下も早期に発生し、短寿命になるため事実上使用が困難である。
【0052】
次に、より最適な研磨ができる研磨特性を検討するため、上記実施例の研磨布サンプルDとほぼ同じ比表面積で圧縮率が異なる上述の表2の実施例の研磨布サンプルG,Hを作製した。各研磨布サンプルD、G、Hの圧縮率は、表2に示すように、4.7%、8.5%、16.9%である。
【0053】
これら3種類の実施例の研磨布サンプルD、G、Hについて異なる研磨圧力(70gf/cm、96gf/cm、132gf/cm)下で、立ち上げ回数、研磨レート、研磨温度の比較を行い、また、KLA-Tencor社製のP12を用いてディスクの微小うねりを計測した。
【0054】
その結果を、表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
研磨布サンプルD、G、Hの内、研磨布サンプルDは研磨条件に性能が左右されにくく、安定した立ち上がりや微小うねりの値が得られた。一方の軟質品である研磨布サンプルG、Hは、高圧条件では研磨レートの立ち上がり早く、研磨レートも高く、また低圧条件にするとその逆が起きた。一方うねりの値は、中間の研磨圧力96gf/cmの時が最も良好であった。
【0057】
研磨レートの出方や値については、研磨布の変形によって接触面積が増加した結果と考えられる。一方微小うねりの値が低圧、高圧で悪いのは、低圧では研磨できておらず、また、高圧では研磨温度が高く過度のエッチングが進んで面荒れが起きたためと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ハードディスク用基板、半導体ウェハや精密ガラス基板などの研磨に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一つの実施の形態に係る研磨布の概略断面図である。
【図2】研削加工を示す概略構成図である。
【図3】実施例および比較例の研磨レートの推移を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 研磨布
2 基材層
3 ナップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と前記基材層上に形成された多孔質の研磨層とを備える研磨布であって、
前記研磨層の比表面積が0.5〜1.0m/gであることを特徴とする研磨布。
【請求項2】
圧縮率が、10%以下である請求項1に記載の研磨布。
【請求項3】
前記多孔質の研磨層は、前記基材層の表面に樹脂溶液を塗布して湿式凝固した後に、湿式凝固した樹脂の表面を研削して形成される請求項1または2に記載の研磨布。
【請求項4】
ハードディスク用基板の研磨に用いられる請求項1ないし3のいずれか一項に記載の研磨布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−153004(P2010−153004A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332476(P2008−332476)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】