説明

研磨砥石

【課題】台金の強度を確保しつつ砥粒層に内部応力による歪みが発生することによる亀裂が生じることを防止して、球面研磨を精度良く行うことができる研磨砥石を提供する。
【解決手段】研磨砥石は、鉄等によって形成された円板状の台金2の片側の面に砥粒層3が形成されてなるものであり、その反対側の面には、回転軸取付用のインロー4が設けられている。砥粒層3に近接して、台金2の線膨張率より大きく砥粒層3の線膨張率より小さい線膨張率を有する中間層7が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼球やセラミック球などの、球状の被削材の球面を研磨するために主に用いられる研磨砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼球やセラミック球などの、球状の被削材の球面を研磨するために用いられている研磨砥石の外観を図7に示す。
図7において、研磨砥石51は、鉄等によって形成された円板状の台金52の片側の面に砥粒層53が形成されてなるものであり、その反対側の面には、回転軸取付用のインロー54が設けられている。図8に、この研磨砥石51を用いて球状の被削材を研磨する様子を示す。研磨砥石51の砥粒層53が互いに向き合うように、2つの研磨砥石51を配置し、砥粒層53の表面には、溝5が形成されている。砥粒層53の幅Wは通常30mmから150mmであり、砥粒層53の厚みXは通常3mmから6mmである。球状の被削材6は、溝5内に配置され、向かい合う砥粒層53の砥粒によって研磨される。
【0003】
本研磨砥石で仕上げられる鋼球やセラミック球は、主にベアリングボールとして使用され、ベアリング製品の高精度化に伴い、組み込む鋼球やセラミック球も高精度なものが要求されている。使用する研磨砥石は、平均粒径0.5〜1.0μmの微細なダイヤモンド砥粒を用いたメタルボンド砥石が使用されている。メタルボンド砥石を使用する利点としては、長寿命で溝5の形状保持性が良いために高精度な加工が可能であることがあげられる。しかしながら、メタルボンドを使用しているために砥粒を保持する結合材強度が高く、研磨能率が低いことが欠点となる。
このような球状の被削材の球面研磨において、研磨精度や研磨能率を向上するための手段としては、ダイヤモンド砥粒の平均粒径をさらに0.1〜0.2μmに微細化することや、砥粒を保持する結合材の強度を低くして、目替わりを促進させることが考えられる。
【0004】
しかし、砥粒をさらに微細化することは、単位体積あたりの含有量が同じ場合でも、砥粒の数が増加するために、砥粒層強度が低下する。また、目替わりを促進し研磨能率を向上するためには、低強度のメタルボンドを使用する必要がある。
このように低強度の砥粒層を製造するにあたり、砥粒層焼成時に、鉄などによって形成された台金と砥粒層との間で生じる線膨張率の差により、図7に示すように、砥粒層3に亀裂8が発生する問題がある。このような亀裂8が生じると、球面研磨中に被削材に傷をつける要因となるために使用できない。
【0005】
台金と砥粒層との線膨張率の差に着目して、アルミニウム合金を用いて台金を形成し、このアルミニウム合金の線膨張率を調整して台金と砥粒層との線膨張率を近似させたメタルボンドホイールが特許文献1に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−55457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、アルミニウム合金の場合、使用環境における温度差により台金自体の膨張収縮差が大きく、2つの研磨砥石の溝中心位置にずれが生じる原因となるために、高精度を要求される本加工には不向きである。よって温度差による膨張収縮の少ない鉄台金を用いて台金を形成することが望ましい。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、鉄台金を使用し、砥粒層焼成時に、鉄台金と砥粒層との間で生じる線膨張率の差により砥粒層に亀裂が生じることを防止して、球面研磨を精度良く行うことができる研磨砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明の研磨砥石は、円板状の台金の片側の面に砥粒層が形成された研磨砥石において、台金の線膨張率より大きく砥粒層の線膨張率より小さい線膨張率を有する中間層が、台金の外周側の片方の面に設けられ、この中間層の中に、前記砥粒層がその外周側の面と内周側の面のいずれか一方または両方と、その下面が中間層に接するように形成されていることを特徴とする。
【0009】
このような線膨張率を有する中間層が設けられていることにより、砥粒層と台金との線膨張率の違いによって砥粒層内の内部応力によって発生する歪みを中間層によって吸収することができ、砥粒層に亀裂の発生を防止することができる。そのため、微細な砥粒を用い、目替わりの促進のために砥粒を保持する結合材の強度を低くしても、砥粒層での亀裂の発生を防止することができるため、研磨精度や研磨能率を向上する研磨砥石を製造することができる。
【0010】
本発明においては、前記中間層は、Cu含有量に対するSn含有量が30重量%以下のCu−Sn成分に、2.5〜20重量%のAgを添加したCu−Sn−Ag合金を主成分とすることが好ましい。Cu含有量に対するSnの含有量が30重量%以上であると、中間層の線膨張収縮量が砥粒層の線膨張収縮量を超え、砥粒層にクラックが発生しやすくなる。またAgの含有量が2.5重量%未満の場合は、中間層強度が砥粒層より小さくなり砥粒層にクラックを生ずることがあり好ましくない。
【0011】
本発明においては、中間層の線膨張率は、1.8×10-5/℃以上2.2×10-5/℃以下であることが好ましい。中間層の線膨張率が1.8×10-5/℃未満であると、砥材層内の収縮膨張が押さえられる為に内部応力が増加し、砥材層破断強度を超えクラックが発生しやすい。また2.2×10-5/℃を超える場合も同様の理由によりクラックが発生しやすい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、砥粒層と台金との線膨張率の違いによって砥粒層内の内部応力による歪みが発生することに起因する亀裂の発生を防止することができる。そのため、微細な砥粒を用い、砥粒を保持する結合材の強度を低くしも、砥粒層に亀裂を発生させずに目替わりを促進させることができ、研磨精度や研磨能率を向上することが可能な研磨砥石を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の研磨砥石をその実施の形態に基づいて説明する。
本発明の実施の形態に係る研磨砥石の基本構造は、図1に示すように、鉄等によって形成された円板状の台金2の片側の面に砥粒層3が形成されてなるものであり、その反対側の面には、回転軸取付用のインロー4が設けられている。この研磨砥石1は、砥粒層3に近接して、台金2の線膨張率より大きく砥粒層3の線膨張率より小さい線膨張率を有する中間層7を設けた点に大きな特徴を有する。この中間層7の形成の詳細を、図2に基づいて説明する。
【0014】
図2は、研磨砥石1の外周側を拡大して示しており、図2(a)では、台金2の外周側の片方の面に中間層7を設け、この中間層7中に、砥粒層3がその外周側の面3a、内周側の面3b、下面3cのいずれもが中間層7に接するように形成されている。図2(b)では、砥粒層3は、その外周側の面3aと、下面3cとが中間層7に接するように形成されている。図2(c)では、砥粒層3は、その内周側の面3bと、下面3cとが中間層7に接するように形成されている。図2(a)〜図2(c)のいずれにおいても、砥粒層3の上面3dは、中間層7の上面7aと同じ高さとなっている。
【0015】
図3も、研磨砥石1の外周側を拡大して示しており、図3においては、砥粒層3の一部が、中間層7の上方に突き出した形状となっている点が、図2に示したものと相違する。図3(a)では、台金2の外周側の片方の面に中間層7を設け、この中間層7中に、砥粒層3がその外周側の面3a、内周側の面3bの一部が中間層7に接し、下面3cが中間層7に接するように形成されている。図3(b)では、砥粒層3は、その外周側の面3aの一部と、下面3cとが中間層7に接するように形成されている。図3(c)では、砥粒層3は、その内周側の面3bの一部と、下面3cとが中間層7に接するように形成されている。図3(a)〜図3(c)のいずれにおいても、砥粒層3の上面3dは、中間層7の上面7aより高くなっている。
【0016】
また、図4も、研磨砥石1の外周側を拡大して示しており、図4においては、砥粒層3と中間層7とは、ほぼ同一の厚みを持って、台金2の外周側に設けられている。図4(a)では、台金2の外周側の片方の面に砥粒層3を設け、この砥粒層3の内周側に接するように中間層7が形成されている。図4(b)では、砥粒層3の内周側と外周側にそれぞれ接するように、中間層7が形成されている。図4(c)では、台金2の外周側に中間層7を設け、この中間層7の内周側に接するように砥粒層3が形成されている。
【0017】
中間層7は、Cu含有量に対するSn含有量が30重量%以下のCu−Sn成分に、2.5〜20重量%のAgを添加したCu−Sn−Agを主成分とし、その他、Co,Fe,Ni等の金属成分を10重量%以下含む組成となっている。中間層7をこの組成とすると、中間層7の線膨張率は、1.8×10-5/℃〜2.2×10-5/℃となる。
【0018】
以下に、具体的な作製例と試験例を示す。
図5と表1に、作製した研磨砥石の寸法及び線膨張率を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表2に、作製した研磨砥石の砥粒層の仕様を示す。
【0021】
【表2】

【0022】
線膨張率1.8×10-5/℃の中間層を設けた研磨砥石と、線膨張率2.2×10-5/℃の中間層を設けた研磨砥石と、中間層を設けない研磨砥石とを、同じ砥粒層の仕様にてそれぞれ10個製造した。その結果、中間層を設けない従来の研磨砥石(従来品)は、10枚中7枚について砥粒層に亀裂が発生したのに対して、線膨張率1.8×10-5/℃の中間層を設けた研磨砥石と、線膨張率2.2×10-5/℃の中間層を設けた研磨砥石では、それぞれ10枚とも砥粒層に亀裂は発生しなかった。これは線膨張率を有する中間層を設けたことにより、砥粒層と台金との線膨張率の違いによって砥粒層内に発生する内部応力を中間層が吸収し、砥粒層の亀裂発生を防止したためである。
また、研磨砥石(発明品)と、中間層を設けない従来の研磨砥石(従来品)研磨性能を確認する試験を行った。試験条件を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
発明品と従来品の詳細を表4に示す。
【0025】
【表4】

【0026】
発明品と従来品とについての試験結果を、図6に示す。
図6において、真球度、面粗度、加工レートを示している。いずれも従来品を100とした指数で表している。このうち、真球度と面粗度については数値が小さい程精度が良いことを示しており、真球度、面粗度、加工レートのいずれについても、発明品が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、砥粒層に内部応力による歪みが発生することによる亀裂が生じることを防止して、球面研磨を精度良く行うことができる研磨砥石として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】研磨砥石の基本構造を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る研磨砥石の外周側を拡大して示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る研磨砥石の外周側を拡大して示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る研磨砥石の外周側を拡大して示す図である。
【図5】作製した研磨砥石の寸法を示す図である。
【図6】試験結果を示す図である。
【図7】従来の研磨砥石において砥粒層に亀裂が生じている様子を示す図である。
【図8】研磨砥石を用いて球状の被削材を研磨する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 研磨砥石
2 台金
3 砥粒層
3a 外周側の面
3b 内周側の面
3c 下面
3d 上面
4 インロー
5 溝
6 被削材
7 中間層
8 亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の台金の片側の面に砥粒層が形成された研磨砥石において、台金の線膨張率より大きく砥粒層の線膨張率より小さい線膨張率を有する中間層が、台金の外周側の片方の面に設けられ、この中間層の中に、前記砥粒層がその外周側の面と内周側の面のいずれか一方または両方と、その下面が中間層に接するように形成されていることを特徴とする研磨砥石。
【請求項2】
前記中間層は、Cu含有量に対する、Sn含有量が30重量%以下のCu−Sn成分に、2.5〜20重量%のAgを添加したCu−Sn−Ag合金を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の研磨砥石。
【請求項3】
前記中間層の線膨張率は、1.8×10-5/℃以上2.2×10-5/℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の研磨砥石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−61926(P2007−61926A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248004(P2005−248004)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000111410)株式会社ノリタケスーパーアブレーシブ (73)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】