説明

破壊原因推定装置及び破壊原因推定方法

【課題】 目視や光学顕微鏡等では判別不能な破面が発生する金属材料の破壊原因を正確に推定することを目的とする。
【解決手段】 被破壊材料の破面から所定の深さの領域における結晶方位分布を検出し、当該結晶方位分布に基づき前記被破壊材料の破壊原因を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破壊原因推定装置及び破壊原因推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料が破損した場合に破壊原因を推定する方法として、実際に破損した金属材料の破面状態と、過去の事例から得られた破面状態データとを比較評価するフラクトグラフィが知られている。このようなフラクトグラフィでは、例えば、目視、光学顕微鏡等によって破面状態を観察している。例えば、特開2001−249088号公報には、X線回折法を用いて破面状態を正確に観察して破壊原因を推定する方法が開示されている。この方法は、添加物が添加された被破壊対象物(金属材料)の破面にX線を照射し、当該破面において回折された回折X線の強度を、回折角をパラメータとするX線回折プロファイルとして検出し、該X線回折プロファイルにおける所定回折面でのX線強度比又は半価幅の少なくとも一方を読み取り、読み取った値を予め設定された基準値と比較することによって破壊原因を推定するものである。
【特許文献1】特開2001−249088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ガスタービンエンジン用のタービン翼等に用いられるNi基合金及びNi基単結晶合金のように、他の鉄鋼やAl合金等とは異なり、疲労破壊によって破壊した場合の破面と、強制破壊によって破壊した場合の破面とでは同様にヘキ開状の破面になり、ストライエーションのような疲労破壊独特の破面状態も観察できない金属材料も存在する。このように破壊モードに関わらずヘキ開状の破面を生じる金属材料の破壊原因を推定する場合、従来のフラクトグラフィのような目視や光学顕微鏡等によって破面状態を観察する方法では、破壊原因の推定は困難であった。また、上記従来技術では、ガスタービンエンジンに用いられるタービン翼等のような高温に晒される金属材料の破面を観察する場合、当該破面に酸化物が付着することによりX線の入射を阻害するため正確な測定結果が得られないという問題があった。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、目視や光学顕微鏡等では判別不能な破面が発生する金属材料の破壊原因を正確に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、破壊原因推定装置に係る第1の解決手段として、チャンバ内に設置された被破壊材料に対して電子線を走査上に照射する電子線照射手段と、前記被破壊材料に照射された電子線が後方散乱することで形成された菊池パターンを撮影する撮影手段と、当該撮影手段によって撮影された菊池パターンを画像処理することにより前記被破壊材料の破面から所定の深さの領域における結晶方位分布を生成する画像処理手段と、前記画像処理手段によって生成された結晶方位分布に基づいて前記被破壊材料の破壊原因を推定する破壊原因推定手段とを具備する、という手段を採用する。
【0006】
また、本発明では、破壊原因推定装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手
段において、前記画像処理手段は、前記破面から所定の深さの領域において結晶方位分布を当該破面と平行且つ線状に所定の長さ分生成し、前記破壊原因推定手段は、前記結晶方位分布における方位差と所定の閾値との大小を比較することにより前記被破壊材料の破壊原因を、疲労破壊若しくは強制破壊に分類する、という手段を採用する。
【0007】
また、本発明では、破壊原因推定装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決
手段において、破壊原因が疲労破壊に分類された場合において、前記画像処理手段は、所定の結晶面方向から観た結晶方位分布を生成し、前記破壊原因推定手段は、前記結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が検出された場合、低サイクル疲労(LCF:Low Cycle Fatigue)破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は高サイクル疲労(HCF:High Cycle Fatigue)破壊と推定する、という手段を採用する。
【0008】
また、本発明では、破壊原因推定装置に係る第4の解決手段として、上記第2の解決手
段において、破壊原因が強制破壊に分類された場合において、前記画像処理手段は、所定の結晶面方向から観た結晶方位分布を生成し、前記破壊原因推定手段は、前記結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が他の結晶面方向に沿って検出された場合、高速変形破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は低速変形破壊と推定する、という手段を採用する。
【0009】
また、本発明では、破壊原因推定装置に係る第5の解決手段として、上記第1〜4いず
れかの解決手段において、前記被破壊材料は、Ni基合金若しくはNi基単結晶合金であることを特徴とする。
【0010】
一方、本発明では、破壊原因推定方法に係る第1の解決手段として、被破壊材料の破面
から所定の深さの領域における結晶方位分布を検出し、当該結晶方位分布に基づき前記被破壊材料の破壊原因を推定する、という手段を採用する。
【0011】
また、本発明では、破壊原因推定方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手
段において、前記破面から所定の深さの領域において結晶方位分布を当該破面と平行且つ
線状に所定の長さ分検出し、検出された結晶方位分布における方位差と所定の閾値との大
小を比較することにより前記被破壊材料の破壊原因を、疲労破壊若しくは強制破壊に分類
する、という手段を採用する。
【0012】
また、本発明では、破壊原因推定方法に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手
段において、破壊原因が疲労破壊に分類された場合において、所定の結晶面方向から観た結晶方位分布を検出し、当該結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が検出された場合、低サイクル疲労(LCF:Low Cycle Fatigue)破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は高サイクル疲労(HCF:High Cycle Fatigue)破壊と推定する、という手段を採用する。
【0013】
また、本発明では、破壊原因推定方法に係る第4の解決手段として、上記第2の解決手
段において、破壊原因が強制破壊に分類された場合において、所定の結晶面方向から観た結晶方位分布を検出し、当該結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が他の結晶面方向に沿って検出された場合、高速変形破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は低速変形破壊と推定する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被破壊材料の破面から所定の深さの領域における結晶方位分布に基づいて前記被破壊材料の破壊原因を推定するので、従来のフラクトグラフィのような目視や光学顕微鏡等によって破面状態を観察する方法では破壊原因の推定は困難であった破面(ヘキ開状の破面等)が生じる被破壊材料の破壊原因を推定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る破壊原因推定装置の構成概略図である。この図に示すように、本破壊原因推定装置は、PC(Personal Computer)1、SEM(Scanning Electron Microscope)制御ユニット2、電子線照射部3、真空チャンバ4、試料用ステージ5、ステージ制御ユニット6、カメラ7及びカメラ制御ユニット8から構成されている。また、符号Xは、Ni基合金またはNi基単結晶合金で製造されたガスタービンエンジン用のタービン翼であり、破損後にヘキ開状の破面が発生したもの(被破壊材料)である。なお、本破壊原因推定装置は、SEMを用いたEBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)法により、被破壊材料Xの破面から所定の深さの領域における結晶方位分布を検出し、当該結晶方位分布に基づいて破壊原因を推定するものである。
【0016】
PC1は、図1に示すように、画像処理部1b及び破壊原因推定部1cを内部に備える制御部1a、記憶部1d及び表示部1eから構成されている。制御部1aは、記憶部1dに予め記憶されているEBSP法用のソフトウエアに基づいて画像処理部1b、破壊原因推定部1c、SEM制御ユニット2、ステージ制御ユニット6及びカメラ制御ユニット8を制御している。
【0017】
画像処理部1bは、制御部1aの制御の下、カメラ制御ユニット8から入力される画像信号、つまりカメラ7によって撮影された菊池パターン画像をEBSP法に基づいて画像処理し、被破壊材料X上において電子線が照射されたポイント(照射ポイント)の結晶方位を判定すると共に、電子線が走査上に照射された被破壊材料X上の各照射ポイント毎に得られた結晶方位を当該各照射ポイントの位置情報と共に順次記憶部1dに記憶させる。さらに、画像処理部1bは、記憶部1dに記憶された上記位置情報と、当該位置情報に対応する結晶方位とに基づいて被破壊材料Xの破面から所定の深さの領域における結晶方位分布データを作成し、当該結晶方位分布データを示す分布データ信号を破壊原因推定部1cに出力する。
【0018】
破壊原因推定部1cは、制御部1aの制御の下、上記画像処理部1bから入力される分布データ信号、つまり結晶方位分布データと、記憶部1dに予め記憶されている基準結晶方位分布データとを基に所定の判断基準に従って被破壊材料Xの破壊原因を推定し、その推定結果を示す推定結果信号を表示部1eに出力する。この破壊原因推定部1cにおける破壊原因推定処理についての詳細は後述する。
【0019】
記憶部1dは、制御部1aが実行するEBSP法用のソフトウエアや他のシステムプログラム等を予め記憶すると共に、画像処理部1bの要求に応じて電子線が走査上に照射された被破壊材料X上の各照射ポイント毎に得られた結晶方位を当該各照射ポイントの位置情報と共に順次記憶し、また記憶した位置情報及び結晶方位を画像処理部1bに出力する。また、この記憶部1dは、破壊原因推定処理に必要な基準結晶方位分布データを予め記憶しており、破壊原因推定部1cの要求に応じて上記基準結晶方位分布データを破壊原因推定部1cに出力する。表示部1eは、例えば液晶モニタであり、破壊原因推定部1cから入力される推定結果信号を基に、被破壊材料Xの破壊原因の推定結果を表示する。
【0020】
SEM制御ユニット2は、PC1における制御部1aの制御の下、電子線照射部3の電子線照射動作を制御する。より具体的には、SEM制御ユニット2は、電子線照射部3から照射される電子線の照射エネルギ、照射タイミング、走査方向等を制御するものである。
電子線照射部3は、電子銃3a、電子レンズ3b、対物レンズ3c及び走査コイル3dから構成されている。電子銃3aは、SEM制御ユニット2の制御の下、所定の加速電圧によって電子線を電子レンズ3bに出射する。電子レンズ3bは、電子銃3aから入射された電子線を収束させて対物レンズ3cに出射する。対物レンズ3cは、電子レンズ3bから入射された電子線が被破壊材料X上で焦点を結ぶように当該電子線を被破壊材料X上の照射ポイントに照射する。上記電子レンズ3bと対物レンズ3cとの間には走査コイル3dが設けられており、当該走査コイル3dは、SEM制御ユニット2の制御の下、対物レンズ3cに対する電子線の入射方向を変化させる。これにより電子線は、走査状に被破壊材料Xに照射されることになる。
【0021】
真空チャンバ4は、上記電子線照射部3の直下に連結され、図示しない真空ポンプによって内部気圧を高真空状態まで降下可能なチャンバであり、試料用ステージ5及びカメラ7を内部に備えている。試料用ステージ5は、被破壊材料Xを載せるための円盤形状のステージであり、図示しない5軸制御モータによって5軸方向に駆動可能に真空チャンバ4の内部に設けられている。ここで5軸とは、XYZ方向とR方向(つまり試料用ステージ5の回転方向)と、T方向(つまり試料用ステージ5の傾斜方向)を指す。ステージ制御ユニット6は、PC1における制御部1aの制御の下、上記試料用ステージ5(具体的には5軸制御モータ)の駆動制御を行う。つまり、ステージ制御ユニット6は、5軸制御モータの駆動を制御することにより、試料用ステージ5の傾斜角や回転角、XYZ座標を規定する。
【0022】
カメラ7は、例えば高感度のCCD(Charge Coupled Devices)カメラ等であり、真空チャンバ4内部に電子線の照射方向に対して略垂直となるように設けられ、被破壊材料Xに電子線が照射されることによって生じる電子後方散乱解析像(菊池パターン)を撮影し、
この菊池パターン画像を示す画像信号をカメラ制御ユニット8に出力する。カメラ制御ユニット8は、PC1における制御部1aの制御の下、上記カメラ7の撮影タイミング、露光時間、焦点合わせ等の制御を行うと共に、カメラ7から入力される画像信号を画像処理部1bに出力する。
【0023】
なお、本破壊原因推定装置は従来のSEM装置を流用できるため、図示は省略したが、被破壊材料Xに電子線が照射されることで発生する2次電子を検出し、当該2次電子の発生量を輝度信号に変換してPC1の制御部1aに出力する2次電子検出部が真空チャンバ4内部に設けられており、制御部1aは、当該2次電子検出部から入力される輝度信号に基づいてSEM画像を表示部1eに表示させる機能を備えている。
【0024】
このように構成された本破壊原因推定装置の破壊原因推定処理手順について、図2のフローチャートを用いて以下説明する。
【0025】
まず、被破壊材料Xの加工を行う(ステップS1)。この加工とは、図3に示すように、まず被破壊材料Xの破面10に対してAu(金)蒸着を行い、その上からNi電解メッキを施す。そして、破面10においてヘキ開面11が110面方向になるように、被破壊材料Xを所定の厚さに切断する。当該切断後、切断面12に研磨もしくは電解研磨を施す。これにて、被破壊材料Xの加工は完了である。
【0026】
次に、上記のように加工を終えた被破壊材料Xを本破壊原因推定装置の試料用ステージ5に設置する(ステップS2)。具体的には、真空ポンプを操作して真空チャンバ4の内部を大気圧に戻し、試料挿入ロッドに被破壊材料Xを取り付け、真空チャンバ4に設けられた試料取入れ口(図示せず)より上記試料挿入ロッドを挿入し、被破壊材料Xを試料用ステージ5上に設置する。この時、試料用ステージ5を水平に対して略直角に傾斜させた場合に、破面10に電子線が照射されるように被破壊材料Xを設置する。被破壊材料Xの設置が完了したら試料挿入ロッドを取り除き、真空ポンプを操作して真空チャンバ4の内部気圧を所定の気圧(高真空)まで降下させる。
【0027】
続いて、電子線の照射開始位置を決定する(ステップS3)。この場合、本破壊原因推定装置のSEM機能を用いる。つまり、電子線照射部3より電子線を被破壊材料Xに照射し、PC1の表示部1eに表示されるSEM画像を確認しながら所望の照射開始位置を決定するのである。ここで、5軸制御モータの操作により試料用ステージ5を、図4に示すように水平に対して70°程度に傾斜させる。また、EBSP法によって結晶方位分布データを作成する測定領域13は、図3に示すように、ヘキ開面11を含む幅約30μm、破面10からの深さ約60μm程の領域が好ましいので、当該測定領域13を1μmステップで順次走査可能な電子線の照射開始位置を決定する。
【0028】
そして、電子線の照射開始位置決定後、PC1においてEBSP法により結晶方位を検出するためのソフトウエアを立ち上げ、電子線の照射を開始する(ステップS4)。PC1(具体的には制御部1a)は、EBSP法用のソフトウエアに基づいてSEM制御ユニット2を制御し、当該制御により電子線は上記測定領域13に1μmステップで走査状に照射され、当該照射によって生じる電子後方散乱解析像(菊池パターン)が各照射ポイント毎にカメラ7で撮影される。カメラ7は、各照射ポイント毎に撮影した菊池パターン画像を示す画像信号をカメラ制御ユニット8を介して画像処理部1bに順次出力する。画像処理部1bは、上記のように入力される画像信号、つまり菊池パターン画像をEBSP法に基づいて画像処理し、各照射ポイント毎の結晶方位を判定すると共に、当該結晶方位を各照射ポイントの位置情報と共に順次記憶部1dに記憶させる(ステップS5)。なお、上記測定領域13の大きさや走査ステップ量は可変設定可能である。
【0029】
上記ステップS5において、測定領域13の全照射ポイントにおける結晶方位の判定が終了すると、画像処理部1bは、記憶部1dに記憶されている各照射ポイントの位置情報及び結晶方位を取得し、当該位置情報及び結晶方位を基に測定領域13における結晶方位分布データ(結晶方位差プロファイル、結晶方位差マップ)を作成する(ステップS6)。ところで、この結晶方位分布が破壊モードによって異なれば、当該結晶方位分布を観察することによって破壊モード、すなわち被破壊材料Xの破壊原因を推定することが可能である。本願発明者は、この結晶方位分布に着目し、各破壊モードにおける結晶方位分布の特徴を調査し、以下のような調査結果を得るに至った。
【0030】
[高サイクル疲労(HCF:High Cycle Fatigue)破壊の場合]
被破壊材料Xとしては、Ni基合金またはNi基単結晶合金で製造された金属材料を雰囲気温度約800°C下でHCF試験を行い、当該HCF試験によって破損し、ヘキ開状の破面が発生したものを用いた。そして、上記ステップS1〜S6と同様な処理を行い、
CDM(Crystal Direction Map)モードを用いて図5(a)に示すような、測定領域13の結晶方位差マップを作成する。このCDMモードは、所定の結晶面方向、つまりヘキ開面11(110面)方向から観た各照射ポイントにおける結晶方位のずれ角(結晶方位差)をマッピングするモードであり、EBSP法用のソフトウエアに付属する既存の機能である。この図5(a)では、色が黒に近い程大きな結晶方位差が発生していることを示す。
【0031】
また、図5(a)に示すように、ヘキ開面11から深さ20μm程の位置に、当該ヘキ開面11と平行に長さ30μm程のライン状の領域(ライン状領域20)を想定し、MP(Misorientation Profile)モードを用いて、図5(b)のようなライン状領域20における結晶方位差プロファイルを作成する。このMPモードは、一方の照射ポイントと他方の照射ポイントとの間における結晶方位差をライン状に抽出するモードであり、CDMモードと同様にEBSP法用のソフトウエアに付属する既存の機能である。この図5(b)からわかるように、高サイクル疲労破壊の場合、上記ライン状領域20において結晶方位差は2°以下に収まることがわかる。
【0032】
[低サイクル疲労(LCF:Low Cycle Fatigue)破壊の場合]
被破壊材料Xとしては、Ni基合金またはNi基単結晶合金で製造された金属材料を雰囲気温度約800°C下でLCF試験を行い、当該LCF試験によって破損し、ヘキ開状の破面が発生したものを用いた。図6(a)にCDMモードで作成した結晶方位差マップを示す。この図からわかるように、低サイクル疲労破壊の場合、大きな特徴として1°程度の結晶方位差を持つ帯状の分布(バンド)が確認できる。また、図6(b)に示すMPモードで作成した結晶方位差プロファイルからわかるように、低サイクル疲労破壊の場合も上記高サイクル疲労破壊と同様にライン状領域20において結晶方位差は2°以下に収まることがわかる。
【0033】
[低速変形破壊(強制破壊)の場合]
被破壊材料Xとしては、Ni基合金またはNi基単結晶合金で製造された金属材料を雰囲気温度約800°C下で低速(5mm/min)引張試験を行い、当該低速引張試験によって破損し、ヘキ開状の破面が発生したものを用いた。図7(a)にCDMモードで作成した結晶方位差マップを示す。この図からわかるように、低速変形破壊の場合、全体的に大きな結晶方位差または小さな結晶方位差を持つブロードな分布領域は確認されるが、所定の結晶方位差を持つバンドは確認できない。また、図7(b)に示すMPモードで作成した結晶方位差プロファイルからわかるように、低速変形破壊の場合、ライン状領域20において結晶方位差は2°を大きく越え、4°程度にまでなることがわかる。
【0034】
[高速変形破壊(強制破壊)の場合]
被破壊材料Xとしては、Ni基合金またはNi基単結晶合金で製造された金属材料を雰囲気温度約800°C下で高速(500mm/min)引張試験を行い、当該高速引張試験によって破損し、ヘキ開状の破面が発生したものを用いた。図8(a)にCDMモードで作成した結晶方位差マップを示す。この図からわかるように、高速変形破壊の場合、大きな特徴として数度程度の結晶方位差を持つバンドが111面方向に沿って発生しているのを確認できる。また、図8(b)に示すMPモードで作成した結晶方位差プロファイルからわかるように、高速変形破壊の場合、上記低速変形破壊と同様に、ライン状領域20において結晶方位差は2°を大きく越え、5°程度にまでなることがわかる。
【0035】
以上の調査結果を総合すると、以下のような判断基準によって破壊原因の推定が可能である。
(1)ライン状領域20における結晶方位差が2°以下の場合は疲労破壊、2°より大きい場合は強制破壊と分類する。
(2)上記(1)で疲労破壊と分類された場合、数度程度の結晶方位差を持つバンドが確認されれば低サイクル疲労破壊、当該バンドが確認されなければ高サイクル疲労破壊と推定する。また、上記(1)で強制破壊と分類された場合、数度程度の結晶方位差を持つバンドが111面方向に沿って確認されれば高速変形破壊、当該バンドが確認されなければ低速変形破壊と推定する。
【0036】
では、上記の調査結果を踏まえて図2に戻って説明すると、ステップS6において、画像処理部1bは、結晶方位分布データとして、MPモードによってライン状領域20における結晶方位差プロファイルを作成すると共にCDMモードによって測定領域13における結晶方位差マップを作成し、当該結晶方位差プロファイル及び結晶方位差マップを破壊原因推定部1cに出力する。
【0037】
破壊原因推定部1cは、まず結晶方位差プロファイル、すなわちライン状領域20における結晶方位差と所定の閾値(つまり2°)との比較を行う(ステップS7)。このステップS7において、「YES」、すなわちライン状領域20における結晶方位差が2°以下に収まった場合、破壊原因推定部1cは、被破壊材料Xの破壊原因を疲労破壊に分類する(ステップS8)。そして、破壊原因推定部1cは、画像処理部1bから入力された結晶方位差マップと記憶部1dに記憶されている基準結晶方位分布データとの比較を行う(ステップS9)。ここで、基準結晶方位分布データは、図5(a)、図6(a)、図7(a)、図8(a)に示す結晶方位差マップの調査結果データである。よって、ステップS9において、破壊原因推定部1cは、画像処理部1bから入力された結晶方位差マップと図5(a)、図6(a)に示す調査結果データとのマッチングを行う。
【0038】
上記ステップS9において、「NO」、すなわち画像処理部1bから入力された結晶方位差マップと図5(a)、図6(a)に示す調査結果データとのマッチングを行い、図5(a)とマッチした(数度程度の結晶方位差を持つバンドが確認されなかった)場合、破壊原因推定部1cは、被破壊材料Xの破壊原因を高サイクル疲労破壊と推定し(ステップS10)、推定結果を表示部1eに表示させる。一方、上記ステップS9において、「YES」、すなわち画像処理部1bから入力された結晶方位差マップと図5(a)、図6(a)に示す調査結果データとのマッチングを行い、図6(a)とマッチした(数度程度の結晶方位差を持つバンドが確認された)場合、破壊原因推定部1cは、被破壊材料Xの破壊原因を低サイクル疲労破壊と推定し(ステップS11)、推定結果を表示部1eに表示させる。
【0039】
また、ステップS7において、「NO」、すなわちライン状領域20における結晶方位差が2°より大きい場合、破壊原因推定部1cは、被破壊材料Xの破壊原因を強制破壊に分類する(ステップS12)。そして、破壊原因推定部1cは、画像処理部1bから入力された結晶方位差マップと記憶部1dに記憶されている図7(a)、図8(a)の調査結果データとのマッチングを行う(ステップS13)。
【0040】
上記ステップS13において、「YES」、すなわち画像処理部1bから入力された結晶方位差マップと図7(a)、図8(a)に示す調査結果データとのマッチングを行い、図8(a)とマッチした(数度程度の結晶方位差を持つバンドが111面方向に沿って確認された)場合、破壊原因推定部1cは、被破壊材料Xの破壊原因を高速変形破壊と推定し(ステップS14)、推定結果を表示部1eに表示させる。一方、上記ステップS13において、「NO」、すなわち画像処理部1bから入力された結晶方位差マップと図7(a)、図8(a)に示す調査結果データとのマッチングを行い、図7(a)とマッチした(111面方向に沿って発生する数度程度の結晶方位差を持つバンドが確認されなかった)場合、破壊原因推定部1cは、被破壊材料Xの破壊原因を低速変形破壊と推定し(ステップS15)、推定結果を表示部1eに表示させる。
【0041】
以上のように、本実施形態によれば、従来のフラクトグラフィのような目視や光学顕微鏡等によって破面状態を観察する方法では破壊原因の推定は困難であった破面(ヘキ開状の破面等)が生じる被破壊材料Xの破壊原因を、結晶方位分布、すなわちライン状領域20における結晶方位差プロファイルと測定領域13における結晶方位差マップとに基づいて推定することが可能である。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
【0043】
(1)上記実施形態では、被破壊材料XとしてNi基合金またはNi基単結晶合金で製造された金属材料を用いて説明したが、このような金属材料に限らず、従来のフラクトグラフィのような目視や光学顕微鏡等によって破面状態を観察する方法では破壊原因の推定は困難であった破面(ヘキ開状の破面等)が生じる金属材料であれば破壊原因を推定することが可能である。また、他の金属材料の破壊原因を推定する場合は、当該金属材料の結晶構造に合わせて、図2のフローチャートのステップS7で用いた閾値等を変更しても良い。
【0044】
(2)上記実施形態では、結晶方位分布を求めるためにEBSP法を用いたが、これに限らず、他の方法を用いても良い。
【0045】
(3)上記実施形態では、破壊原因を強制破壊と分類した場合に、破壊原因が高速変形破壊であるか、低速変形破壊であるかを推定したが、これに加えて、どのくらいの速度による引張応力による破壊が起きたかを推定するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る破壊原因推定装置の構成概略図である。
【図2】本発明の一実施形態における破壊原因推定手順を示すフローチャート図である。
【図3】本発明の一実施形態における被破壊材料Xの加工方法の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態における被破壊材料Xへの電子線の照射方法の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態における高サイクル疲労破壊の場合における結晶方位分布の調査結果である。
【図6】本発明の一実施形態における低サイクル疲労破壊の場合における結晶方位分布の調査結果である。
【図7】本発明の一実施形態における低速変形破壊の場合における結晶方位分布の調査結果である。
【図8】本発明の一実施形態における高速変形破壊の場合における結晶方位分布の調査結果である。
【符号の説明】
【0047】
1…PC(Personal Computer)、2…SEM(Scanning Electron Microscope)制御ユニット、3…電子線照射部、4…真空チャンバ、5…試料用ステージ、6…ステージ制御ユニット、7…カメラ、8…カメラ制御ユニット、X…被破壊材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に設置された被破壊材料に対して電子線を走査上に照射する電子線照射手段と、
前記被破壊材料に照射された電子線が後方散乱することで形成された菊池パターンを撮影する撮影手段と、
当該撮影手段によって撮影された菊池パターンを画像処理することにより前記被破壊材料の破面から所定の深さの領域における結晶方位分布を生成する画像処理手段と、
前記画像処理手段によって生成された結晶方位分布に基づいて前記被破壊材料の破壊原
因を推定する破壊原因推定手段と
を具備することを特徴とする破壊原因推定装置。
【請求項2】
前記画像処理手段は、前記破面から所定の深さの領域において結晶方位分布を当該破面
と平行且つ線状に所定の長さ分生成し、
前記破壊原因推定手段は、前記結晶方位分布における方位差と所定の閾値との大小を比
較することにより前記被破壊材料の破壊原因を、疲労破壊若しくは強制破壊に分類するこ
とを特徴とする請求項1記載の破壊原因推定装置。
【請求項3】
破壊原因が疲労破壊に分類された場合において、
前記画像処理手段は、所定の結晶面方向から観た結晶方位分布を生成し、
前記破壊原因推定手段は、前記結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が検
出された場合、低サイクル疲労(LCF:Low Cycle Fatigue)破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は高サイクル疲労(HCF:High Cycle Fatigue)破壊と推定することを特徴とする請求項2記載の破壊原因推定装置。
【請求項4】
破壊原因が強制破壊に分類された場合において、
前記画像処理手段は、所定の結晶面方向から観た結晶方位分布を生成し、
前記破壊原因推定手段は、前記結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が他の結晶面方向に沿って検出された場合、高速変形破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は低速変形破壊と推定することを特徴とする請求項2記載の破壊原因推定装置。
【請求項5】
前記被破壊材料は、Ni基合金若しくはNi基単結晶合金であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の破壊原因推定装置。
【請求項6】
被破壊材料の破面から所定の深さの領域における結晶方位分布を検出し、当該結晶方位
分布に基づき前記被破壊材料の破壊原因を推定することを特徴とする破壊原因推定方法。
【請求項7】
前記破面から所定の深さの領域において結晶方位分布を当該破面と平行且つ線状に所定
の長さ分検出し、検出された結晶方位分布における方位差と所定の閾値との大小を比較することにより前記被破壊材料の破壊原因を、疲労破壊若しくは強制破壊に分類することを
特徴とする請求項6記載の破壊原因推定方法。
【請求項8】
破壊原因が疲労破壊に分類された場合において、所定の結晶面方向から観た結晶方位分
布を検出し、当該結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が検出された場合、低サイクル疲労(LCF:Low Cycle Fatigue)破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は高サイクル疲労(HCF:High Cycle Fatigue)破壊と推定することを特徴とする請求項7記載の破壊原因推定方法。
【請求項9】
破壊原因が強制破壊に分類された場合において、所定の結晶面方向から観た結晶方位分
布を検出し、当該結晶方位分布において所定の方位差を持つ帯状分布が他の結晶面方向に沿って検出された場合、高速変形破壊と推定し、また、前記帯状分布が検出されない場合は低速変形破壊と推定することを特徴とする請求項7記載の破壊原因推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−57240(P2007−57240A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239498(P2005−239498)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】