説明

硫化モリブデンアミド錯体の製造および残留活性硫黄の少ない添加剤組成物

【課題】残留活性硫黄の少ない硫化モリブデンアミド錯体を含む新規な添加剤油組成物および潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】酸性モリブデン化合物を、2:1乃至1:1の比のカルボン酸成分とポリアミン成分とから誘導したアミドと反応させる工程;そののち硫化して、油溶性硫化モリブデンと活性硫黄を得る工程;次いでそれを、工程b)の活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物で処理する工程を含む製法により製造した油溶性添加剤組成物およびそれを含む潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な潤滑油添加剤および潤滑油組成物に関する。特には、本発明は、残留活性硫黄の少ない硫化モリブデンアミド錯体を含む摩擦低減成分を含有する新規な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二硫化モリブデンは、潤滑油組成物に使用するのに望ましい添加剤として長いこと知られている。二硫化モリブデンは通常、微細に粉砕されたのち潤滑油組成物に分散され、摩擦調整作用や耐摩耗性を与える。だが、微粉砕二硫化モリブデンを使用することの主な不利益の一つに溶解度の不足がある。
【0003】
摩擦調整剤として微粉砕二硫化モリブデンを使用する代わりに、モリブデン化合物の種々の塩を含む別の手段も数多く用いられている。モリブデンジチオカルバメート類(MoDTC)やモリブデンジチオホスフェート類(MoDTP)が、摩擦調整作用を与えることは当該分野でもよく知られている。代表的なMoDTC組成物が特許文献1、2及び3に記載されていて、特許文献1には二酸化モリブデン(VI)ジアルキルジチオカルバメート類が教示されている;特許文献2には、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート類が教示され;また特許文献3には、硫黄含有モリブデン二炭化水素ジチオカルバメート組成物が教示されている。代表的なMoDTP化合物としては、特許文献4に記載されている組成物、例えばオキシモリブデンジイソプロピルホスホロジチオエートがある。
【0004】
モリブデン化合物を油に混合する別の方法は、公知の分散剤を用いて分散させた二硫化又はオキシ硫化モリブデンのコロイド複合体を製造することである。公知の分散剤としては塩基性窒素含有化合物が挙げられ、コハク酸イミド類、カルボン酸アミド類、ホスホノアミド類、チオホスホノアミド類、マンニッヒ塩基類および炭化水素ポリアミン類が含まれる。特許文献5、6及び7には、酸性モリブデン化合物と分散剤として作用する塩基性窒素化合物を含み、酸化防止剤および耐摩耗性添加剤として使用できるモリブデン化合物が教示されている。
【0005】
特許文献8には、テトラチオモリブデン酸アンモニウムと塩基性窒素化合物との反応生成物を含み、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤および摩擦調整剤として使用できる硫黄含有添加剤が開示されている。
【0006】
特許文献9には、潤滑油の清浄添加剤としてのカルボン酸アミド類の製造が教示されている。
【0007】
特許文献10には、カルボン酸のアルカリ土類金属塩とアミンとカチオンモリブデン源とを反応させること、ただし、酸基の当量数とモリブデンのモル数の比(当量:モル)は1:10乃至10:1の範囲にあり、かつ酸基の当量数とアミンのモル数の比(当量:モル)は20:1乃至1:10の範囲にある、により製造されたモリブデン含有錯体を含む、潤滑油用摩擦低減剤が記載されている。
【0008】
特許文献11には、オキシ硫化モリブデンポリアミド類を含む、淡色モリブデン化合物とポリアミド分散剤とを含有する潤滑油用酸化防止添加剤が記載されている。
【0009】
特許文献12には、耐摩耗性及び酸化防止性を示す添加剤として、潤滑油、反応性硫黄を実質的に含まない油溶性モリブデン化合物、油溶性ジアリールアミンおよびカルシウムフェネートを含有する潤滑油組成物が開示されている。
【0010】
特許文献13には、極性媒体中で、油溶性又は油分散性チオモリブデン酸塩を硫化アンモニウム化合物と反応させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3419589号明細書、ラーソン、外
【特許文献2】米国特許第3509051号明細書、ファーマー、外
【特許文献3】米国特許第4098705号明細書、サクライ、外
【特許文献4】米国特許第3494866号明細書、ローワン、外
【特許文献5】米国特許第4263152号明細書、キング、外
【特許文献6】米国特許第4261843号明細書、キング、外
【特許文献7】米国特許第4259195号明細書、キング、外
【特許文献8】米国特許第4259194号明細書、デブリーズ、外
【特許文献9】米国特許第4705643号明細書、ネモ
【特許文献10】米国特許第5468891号明細書、ウディング、外
【特許文献11】米国特許第6962896号明細書、ルーエ、Jr、外
【特許文献12】米国特許第6174842号明細書、ガット、外
【特許文献13】米国特許第7309680号明細書、ジョン、外
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献に見られる多くのモリブデン技術は、クランクケース油に中位のレベルで使用しても着色を高レベルでもたらす。非退色性(非変色性)のモリブデン源は貴重である。なぜならば、着色が激しい油は末端消費者に、油が「使用済み」であって、エンジンに最大限の保護を与えることができないとの誤解を与えるからである。このような着色が激しいモリブデン源を、低レベルで、例えば通常の酸化、堆積及び摩耗の抑制に要求されるような供給モリブデン100−150ppmにて使用すると、退色が充分でなく、依然として目に付くことがある。しかし、このような着色が激しいモリブデン源を高レベルで、例えば一般に摩擦調整に要求されるような供給モリブデン400−1000ppm(又はそれ以上)で使用すると、往々にして退色が著しい。昔から、調合済みのクランクケース油の色はASTM D6045カラースケールで決定されている。調合済み潤滑剤の許容できる暗色化の程度は取引先や用途に依存する。許容できる退色又は暗色化の程度に設定基準は無いものの、業者によっては、そのような暗色のクランクケース油を市場に出したり売ったりすることは難しいと考えるであろう。さらに、前記の特許文献に見られる多くのモリブデン技術は、硫黄を含んでいて、それもまた退色を招いている。硫黄はその形によっては、有害でもあり銅を腐食することもあるが、調合済み潤滑剤に用いたときに硫黄の混入が耐摩耗作用のような有益な特性を示したり、摩擦調整剤として作用することもある。従って、本発明の一態様は、硫化モリブデン錯体を活性硫黄有害物を低減させる化合物で処理しながら、着色と硫黄官能性が改良された錯体を製造することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、次の工程を含む、活性硫黄の減少した油溶性硫化モリブデン錯体の製造方法から得た油溶性添加剤組成物および潤滑油組成物に関する:酸性モリブデン化合物を、2:1乃至1:1の比のカルボン酸成分とポリアミン成分とから誘導したアミドと反応させる工程;そののち硫化して、油溶性硫化モリブデンにする工程;次いでそれを、工程b)の活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物で処理する工程。
【0014】
従って、本発明の一態様は、下記の工程を含む、活性硫黄の減少した油溶性硫化モリブデン錯体の製造方法に関する。
a)酸性モリブデン化合物を、C4-40脂肪族カルボン酸成分と窒素原子数2乃至10のポリアミンとのアミド反応生成物から誘導した塩基性窒素と反応させる工程、ただし、カルボン酸成分とポリアミン成分の充填モル比は約2:1乃至1:1である、
b)工程a)の生成物を、モリブデン1モル当り硫黄1乃至4モルの油溶性硫化モリブデン錯体、および活性硫黄を与える量の硫黄含有化合物と反応させる工程、そして
c)工程b)の生成物を、工程b)の活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物と反応させ、それにより工程b)の生成物中の活性硫黄を減少させる工程。
【0015】
カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比CMRは、摩擦低減性に影響を及ぼすことがあり、従って、一つの態様では、CMR約1.7:1乃至1:1に関する。別の態様では、CMRは1.7:1乃至1.3:1である。一態様ではポリアミンは、エチレンジアミンまたはポリアルキレンポリアミンであり、より好ましくはポリエチレンポリアミンであり、テトラエチレンペンタアミン、ジエチレントリアミンおよびエチレンジアミンが挙げられる。反応体およびCMRは、塩基性窒素原子当りモリブデン約0.2乃至1、より好ましくは0.2乃至0.7、更に好ましくは0.4乃至0.7原子が存在するように選ばれる。別の態様では反応体およびCMRは、塩基性窒素原子当りモリブデン約0.2乃至1原子が存在するように選ばれる。アミドは、脂肪族モノカルボン酸(特にはイソステアリン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸、更に好ましくはイソステアリン酸およびステアリン酸)と、ポリアルキレンアミンとの反応生成物によって都合良く製造できる。特には、CMRが1.7:1乃至1.3:1である、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタアミン、ジエチレントリアミン及びエチレンジアミンとのポリアミドである。
【0016】
一態様では、酸性モリブデン化合物は、促進剤、より好ましくは水と、元素硫黄源を添加したモリブデンである。この反応は希釈剤を添加して行うことが好ましい。
【0017】
ある態様では、工程b)の終了後に、活性硫黄と反応する好適な化合物を選ぶこと、そののち、得られた反応生成物の活性硫黄が減少するように好適な反応条件で進行させることに関する。工程c)で活性硫黄と反応する好適な化合物は、少なくとも一種の、ハロゲンを含まない無機塩、少なくとも一種の不飽和化合物、少なくとも一種の炭化水素亜リン酸エステル、少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物およびそれらの混合物から選ばれる。一態様では、塩基性窒素含有化合物は、少なくとも一種のアミンまたはアミドからなる群より選ばれる。別の態様では、少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物は、少なくとも一種の脂肪酸と少なくとも一種のポリアルキレンポリアミンとの反応生成物から選ばれたアミドである。一態様では、ハロゲンを含まない無機塩は、アルカリ金属塩であり、特には硫化ナトリウム水溶液であって、反応後に有機相から分離する。一態様では、少なくとも一種の不飽和化合物は、炭素原子数8乃至36の末端がモノオレフィンの脂肪族炭化水素である。別の態様では、活性硫黄と反応する化合物は、不飽和脂肪酸の原子数が8乃至22の不飽和脂肪酸アミド又は不飽和脂肪酸アミンから選ばれた不飽和脂肪酸誘導体であり、オレイルアミンが特に好ましい。別の態様では、工程c)で活性硫黄と反応する化合物は、少なくとも一種のカルボン酸とポリアルキレンポリアミンとの反応生成物から選ばれ、特にはイソステアリン酸とテトラエチレンペンタアミン、ジエチレントリアミン及びエチレンジアミンとのポリアミドであり、更に特にはイソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミドに関する。別の態様では、工程a)で用いたのと同じアミド反応生成物を更に工程c)でも用いる。
【0018】
本発明の別の態様は、主要量の潤滑粘度の油、および下記の工程を含む、活性硫黄の減少した油溶性硫化モリブデン錯体を製造するのに使用される方法により製造された少量の生成物、を含む潤滑油組成物に関する:
a)酸性モリブデン化合物を、C4-40脂肪族カルボン酸成分と窒素原子数2乃至10のポリアミンとのアミド反応生成物から誘導した塩基性窒素と反応させる工程、ただし、カルボン酸成分とポリアミン成分の充填モル比は約2:1乃至1:1である、
b)工程a)の生成物を、モリブデン1モル当り硫黄1乃至4モルの油溶性硫化モリブデン錯体、および活性硫黄を与える量の硫黄含有化合物と反応させる工程、そして
c)工程b)の生成物を、工程b)の活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物と反応させ、それにより工程b)の生成物中の活性硫黄を減少させる工程。
【0019】
分散剤、清浄剤、酸化防止剤等から選ばれた少なくとも一種の添加剤を更に含有する調合された潤滑油組成物では、油溶性硫化モリブデン錯体を、全配合潤滑油組成物に基づきモリブデン含量で約50ppm乃至5000ppm添加することができる。
【発明の効果】
【0020】
工程b)の反応生成物からの活性硫黄の少なくとも一部を、活性硫黄と反応できる少なくとも一種の化合物と反応させることによって、最終反応生成物において銅腐食性能の改善、粘度特性の改善および色属性の改善が示されることを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明には様々な変更や代替形態が可能であるが、本明細書では本発明の特定の態様について詳細に記述する。ただし、本明細書における特定の態様の記述は、本発明を開示の特定の形態に限定しようとするものではなく、むしろ反対に、本発明は、添付した特許請求の範囲で規定する本発明の真意および範囲内に含まれる全ての変更態様、等価態様および代替態様を包含することになると理解されたい。
【0022】
[定義]
以下の用語は、本明細書全体にわたって使用するが、特に断らない限り下記の意味である。
【0023】
「ポリアミン類」は、塩基性窒素を1個より多く含む有機化合物を意味する。化合物の有機部分は、脂肪族、環状又は芳香族炭素原子を含んでいてもよい。
【0024】
「ポリアルキレンアミン類」又は「ポリアルキレンポリアミン類」は、下記一般式で表される化合物を意味する。

2N(−R−NH)−H

(式中、Rは、好ましくは炭素原子数2−3のアルキレン基であり、そしてnは、約1乃至11の整数である)
【0025】
「酸化モリブデン」、「硫化モリブデン」および「オキシ硫化モリブデン」は、一般式:MoO(式中、x≧0、y≧0、かつ12≧(x+y)≧2)の化合物を意味する。
【0026】
「カルボン酸成分」は、カルボン酸類、カルボン酸塩類、無水カルボン酸類およびカルボン酸のエステル類を意味する。
【0027】
「脂肪酸」は、炭素原子数4乃至22で末端カルボキシル基を持つアルキル鎖を含む動物又は植物油脂から誘導されるか、もしくはそれに含まれているカルボン酸成分を意味する。
【0028】
「活性硫黄」は、本明細書に記載の硫化工程で存在するか又は生成する、油溶性硫化モリブデン錯体のモリブデンに化学結合していない硫黄種であって、腐食またはエラストマーシール不適合性のような有害作用を示す硫黄種を意味する。活性硫黄は、モリブデン化合物自体の一部ではなくて、モリブデン化合物の製造で取り残されたものである。また、活性硫黄は腐食性硫黄もしくはシール不適合性硫黄とも呼ばれる。活性硫黄は、先行技術において場合によって、遊離硫黄、不安定硫黄または元素硫黄とも呼ばれ、それらはいずれも「反応性」硫黄と呼ばれることもある。活性硫黄には二価硫黄や被酸化硫黄も含まれると考えられている。
【0029】
「可溶性」又は「油溶性」は、モリブデン化合物が、標準的なブレンド又は使用条件で潤滑油または濃縮物用希釈剤に油溶性であるか、もしくは可溶化することができることを意味する。
【0030】
(1)酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンと(2)アミドとの塩を含む本発明の油溶性添加剤組成物の正確な分子式は、明確ではないが、モリブデンの価数が酸素と硫黄の原子で満たされ、かつモリブデンがこれら添加剤の製造に使用されたアミドの1個以上の塩基性窒素と錯体を形成しているか、もしくはそれとの塩である化合物であると考えられる。
【0031】
[モリブデン成分]
本発明の油溶性添加剤組成物を製造するのに使用されるモリブデン成分は、一般式:MoO(式中、x≧0、y≧0、かつ12≧(x+y)≧2)を有する酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンであるモリブデン含有化合物である。モリブデン成分には如何なる酸化状態のモリブデンも含まれる。本発明の油溶性添加剤組成物の製造に使用できるモリブデン成分は、モリブデン化合物から誘導することができ、これらに限定されるものではないが、ヘキサカルボニルモリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、他のアルカリ金属モリブデン酸塩、アルカリ土類金属モリブデン酸塩、MoOCl、MoOBr、およびMoClが挙げられる。その他のモリブデン成分としては、三酸化モリブデン、テトラチオモリブデン酸アンモニウム、および二硫化モリブデンが挙げられる。好ましいモリブデン成分は、三酸化モリブデン、およびモリブデン酸やモリブデン酸アンモニウムから誘導されるような成分である。より好ましいモリブデン成分は三酸化モリブデンである。
【0032】
[硫黄源]
本発明の油溶性添加剤組成物のモリブデン成分を製造するのに硫黄源が用いられる場合には、代表的な硫黄源として、これらに限定されるものではないが、硫黄、硫化水素、一塩化硫黄、二塩化硫黄、五硫化リン、R(ただし、Rは炭化水素基、好ましくはC−C40アルキルであり、そしてxは少なくとも2である)、(NH(ただし、xは少なくとも1である)などの無機硫化物及び多硫化物、チオアセトアミド、チオ尿素、および式:RSH(ただし、Rは上に定義した通りである)のメルカプタン類を挙げることができる。また、従来の硫黄含有酸化防止剤、例えば硫化及び多硫化ワックス類、硫化オレフィン類、硫化カルボン酸エステル類および硫化エステル・オレフィン類、および硫化アルキルフェノール類及びそれらの金属塩も硫化剤として使用できる。
【0033】
好ましい硫黄源は、硫黄、硫化水素、五硫化リン、R(ただし、Rは炭化水素基、好ましくはC−C10アルキルであり、そしてxは少なくとも3である)、メルカプタン類(ただし、RはC−C10アルキルである)、無機硫化物及び多硫化物、チオアセトアミド、およびチオ尿素である。最も好ましい硫黄源は、硫黄、硫化水素、五硫化リン、および無機硫化物及び多硫化物である。
【0034】
[工程a)のアミド成分]
本発明の油溶性添加剤組成物の製造に使用されるアミド類は、カルボン酸成分とポリアミン成分との反応生成物である。アミドを生成させるカルボン酸成分とアミン成分との反応では、カルボン酸成分とアミン成分の充填モル比は約2:1乃至1:1である。好ましくはカルボン酸成分とアミン成分との充填モル比は、約1.7:1乃至1:1である。別の態様ではカルボン酸成分とアミン成分との充填モル比は、約1.5:1乃至1:1である。また別の態様では充填モル比は、約1.7:1乃至約1.3:1である。
【0035】
ある態様では、1)炭素数約4乃至40の脂肪族カルボン酸成分と、2)窒素数約2乃至10のポリアミン成分とからアミドを誘導する。好ましい態様では、カルボン酸成分はイソステアリン酸であり、そしてポリアミン成分は、テトラエチレンペンタアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミンおよびそれらの混合物からなる群より選ばれる。
【0036】
後述するカルボン酸成分とポリアミン成分とを、モリブデン成分との反応の前でも途中でも反応させてアミドにすることができる。本発明に使用できるアミド組成物としては、米国特許第3405064号明細書に開示されているものが挙げられ、その開示内容も参照内容として本明細書の記載とする。これら組成物は通常、炭素原子数が少なくとも4乃至約40で、所望により分子を油溶性にするために脂肪族側基を持つカルボン酸、カルボン酸塩、無水カルボン酸またはカルボン酸エステルを、エチレンジアミンなどのポリアミンと反応させて、アミドにすることにより製造される。好ましいのは、(1)脂肪族モノカルボン酸、例えばイソステアリン酸、ステアリン酸またはそれらの混合物と、(2)エチレンポリアミン、例えばテトラエチレンペンタアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミンまたはそれらの混合物とから製造されるようなアミド類である。本発明に使用できるアミド類は、ASTM D2896で測定して、少なくとも1個の塩基性窒素を有することが好ましい。
【0037】
[カルボン酸成分]
本発明の油溶性添加剤組成物の製造に使用されるカルボン酸成分としては、炭素原子数少なくとも4乃至100、好ましくは炭素原子数4乃至60、より好ましくは炭素原子数4乃至40、更に好ましくは炭素原子数10乃至30の脂肪族及び芳香族カルボン酸類、カルボン酸塩類、無水カルボン酸類またはカルボン酸エステル類を挙げることができる。カルボン酸、カルボン酸塩、無水カルボン酸及びカルボン酸エステルの混合物も本発明の製造に使用することができる。好ましくはカルボン酸成分は脂肪族カルボン酸である。また、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸、ペンタコシル酸、セロチン酸、ヘプタコシル酸、モンタン酸、ノナコシル酸、およびメリシン酸からなる群より特に選ばれた飽和脂肪族モノカルボン酸も適している。特に好適な脂肪族カルボン酸の例としては、イソステアリン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸およびアラキン酸などの脂肪酸を挙げることができる。特に好ましいカルボン酸成分はイソステアリン酸である。
【0038】
[ポリアミン成分]
本発明の油溶性添加剤組成物の製造に使用されるポリアミン成分としては、芳香族、環状及び脂肪族(線状及び分枝)ポリアミン類、およびそれらの混合物が挙げられる。芳香族ポリアミン類の例としては、これらに限定されるものではないが、フェニレンジアミン、2,2’−ジアミノジフェニルメタン、2,4−及び2,6−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノ−p−キシレン、多核及び縮合芳香族ポリアミン類、例えばナフチレン−1,4−ジアミン、ベンジジン、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルジアミン、および4,4’−ジアミノアゾベンゼンを挙げることができる。別の態様では、環員数約5乃至32でアミン窒素原子数約2乃至8のポリアミン類が、ポリアミン成分に含まれる。そのようなポリアミン化合物としては、ピペラジン、2−メチルピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−(2−ヒロドキシエチル)ピペラジン、1,2−ビス−(N−ピペラジニル)エタン、3−アミノピロリジン、N−(2−アミノエチル)ピロリジンのような化合物、並びにトリアザシクロノナン、テトラアザシクロドデカンなどのアザクラウン化合物を挙げることができる。
【0039】
好ましい態様では本発明の製造に使用されるポリアミン成分は、ポリアルキレンポリアミン類であり、下記一般式で表すことができる。

N(−R−NH)−H

(式中、Rは、好ましくは炭素原子数2−3のアルキレン基であり、そしてnは、1乃至11、更に好ましくは2−5の整数である)
【0040】
特定のポリアルキレンポリアミン類の例としては、これらに限定されるものではないが、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ヘキサエチレンヘプタアミン、ヘプタエチレンオクタアミン、オクタエチレンノナアミン、ノナエチレンデカアミン、デカエチレンウンデカアミン、ウンデカエチレンドデカアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラプロピレンペンタアミン、ペンタプロピレンヘキサアミン、ヘキサプロピレンヘプタアミン、ヘプタプロピレンオクタアミン、オクタプロピレンノナアミン、ノナプロピレンデカアミン、デカプロピレンウンデカアミン、ウンデカプロピレンドデカアミン、ジ(トリメチレン)トリアミン、トリ(トリメチレン)テトラアミン、テトラ(トリメチレン)ペンタアミン、ペンタ(トリメチレン)ヘキサアミン、ヘキサ(トリメチレン)ヘプタアミン、ヘプタ(トリメチレン)オクタアミン、オクタ(トリメチレン)ノナアミン、ノナ(トリメチレン)デカアミン、デカ(トリメチレン)ウンデカアミン、およびウンデカ(トリメチレン)ドデカアミンを挙げることができる。
【0041】
[活性硫黄と反応する化合物]
活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物は特に限定はなく、工程b)の反応生成物の活性硫黄分を減少させることができる如何なる化合物も含まれる。ある態様では、活性硫黄と反応できる少なくとも一種の化合物は、少なくとも一種の、ハロゲンを含まない無機塩;少なくとも一種の不飽和化合物、特にはオレフィン類および不飽和脂肪酸類と不飽和脂肪酸誘導体;少なくとも一種の炭化水素亜リン酸エステル、特には亜リン酸トリフェニル及びトリアルキル類;少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物、特にはアンモニア、炭化水素アミン類及びポリアミン類;およびそれらの混合物から選ばれる。化合物の塩基性窒素は、ASTM D2896で測定することができる。特に好ましいのは、アミド又はアミン官能基を持つ塩基性窒素化合物である。活性硫黄と反応する様々な化合物の混合物も用いることができる。
【0042】
活性硫黄を含む反応生成物の活性硫黄分を減少させるために、ハロゲンを含まない無機塩を使用することは、多くの文献に、特には米国特許第3498915号及び第4119550号明細書に開示されている。好ましい無機塩は、特には無機硫化物、特には硫化ナトリウムである。硫化ナトリウムを用いる方法の例では、硫化反応生成物と、硫化ナトリウム溶液、一般にはNaS約5乃至75%を含む水溶液とを、未反応硫黄が掃去されるのに充分な時間、未反応硫黄の量および硫化ナトリウム溶液の量や濃度にもよるが、通常は数分乃至数時間の間、一緒に混合することが処理に含まれる。処理した後、従来技術、例えばデカンテーション等により、有機相から得られた水性相を分離する。活性硫黄を掃去するのに他のアルカリ金属硫化物を使用することもできるが、経済的および効果的理由から硫化ナトリウム溶液が好ましい。
【0043】
活性硫黄を含む反応生成物の活性硫黄分を減少させるために不飽和化合物を使用することは、多くの文献に、特には米国特許第4289635号明細書に開示されている。ある態様では不飽和化合物は、少なくとも一つの非芳香族二重結合、すなわち、二個の脂肪族炭素原子を連結する二重結合を含んでいる。不飽和化合物の他の置換基の性質は、普通は本発明の重要な観点ではなく、如何なる置換基でも、潤滑環境に適合するか適合させることができ、かつ予測される反応条件で妨害をしない限り使用できる。よって、用いる反応条件で分解して有害になるほど不安定な置換化合物は、考慮に値しない。ただし、ケトまたはアルデヒドのようなある種の置換基は望ましく硫化を進める。好適な置換基の選択は、当該分野の熟練技術の範囲内にあるか、あるいは通常の試験により確認することができる。そのような置換基の代表的なものとしては、上記の置換部の何れか、並びにヒドロキシ、アミジン、アミノ、スルホニル、スルフィニル、スルホネート、ニトロ、ホスフェート、ホスフィット、およびアルカリ金属メルカプト等を挙げることができる。ある態様では不飽和化合物は無灰である。
【0044】
ある態様では少なくとも一種の不飽和化合物は、少なくとも一つの非芳香族二重結合を含む少なくとも一種の炭化水素である。別の態様では不飽和化合物は、オレフィン、すなわち、少なくとも一つの非芳香族二重結合を含む脂肪族炭化水素である。モノオレフィン及びジオレフィン化合物、特には前者が好ましく、とりわけ、末端モノオレフィン脂肪族炭化水素類(すなわち、アルファ−オレフィン類)が好ましい。炭素原子数約8乃至約36まで、特には炭素原子数約8乃至約20までのオレフィン化合物が特に望ましい。ある態様では不飽和化合物は線状アルファ−オレフィンである。アルファ−オレフィン類およびアルファ−オレフィンの混合物は市販されていて、そのような混合物は本発明に使用するのに適している。
【0045】
別の態様では不飽和化合物は、少なくとも一種の不飽和脂肪酸又は脂肪酸誘導体であり、例えば不飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミンまたは不飽和脂肪酸エステルである。好適な脂肪酸類は、天然産出植物又は動物油脂の加水分解により得ることができる。これらは通常、炭素数8乃至22の範囲、特には炭素数16乃至20の範囲にあり、オレイン酸およびリノール酸等が挙げられる。
【0046】
使用できる脂肪酸エステル類は、主に脂肪族アルコールのエステル類であり、脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール類などの一価アルコール類、並びにエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよびグリセロール等を含む多価アルコール類が挙げられる。特に好ましいのは、不飽和酸、すなわち、天然に産出した長鎖不飽和カルボン酸、特にはリノール酸及びオレイン酸のトリグリセリド類から主として誘導された脂肪油である。これら脂肪油としては、ラード油、ピーナッツ油、綿実油、大豆油およびトウモロコシ油等のような天然産出動物及び植物油が挙げられる。
【0047】
不飽和脂肪酸アミド類は、不飽和脂肪酸と少なくとも一種のアミンまたはアンモニアとの縮合反応から誘導することができる。ある態様では不飽和脂肪酸アミドは、不飽和脂肪酸とアンモニアの反応生成物であり、例えばオレイルアミドである。別の態様では不飽和脂肪酸アミドは、不飽和脂肪酸とモノアミンとの反応生成物である。別の態様では不飽和脂肪酸アミドは、不飽和脂肪酸とポリアミンの反応生成物であり、例えばポリアルキレンポリアミンである。
【0048】
不飽和脂肪アミン類は、少なくとも一種の不飽和脂肪酸をアンモニアまたはポリアミンでアミノ化した生成物により製造することができ、例えばポリアルキレンポリアミンである。好ましい不飽和脂肪アミンはオレイルアミンである。
【0049】
ある態様では少なくとも一種の不飽和脂肪酸又は脂肪酸誘導体は、少なくとも一種の不飽和脂肪酸アミドまたは不飽和脂肪酸アミンである。以降に開示するように、少なくとも一種の不飽和脂肪酸アミド又は不飽和脂肪酸アミンの使用は、不飽和との反応と同じように塩基性窒素官能基との反応によっても活性硫黄を減少させるという追加の利点がある。
【0050】
活性硫黄を含む反応生成物の活性硫黄分を減少させるために少なくとも一種の炭化水素亜リン酸エステルを使用することは、例えば米国特許第4263150号明細書に開示されている。ある態様では炭化水素亜リン酸エステルは、式:(R’O)P(式中、各R’は炭化水素系の基または水素であり、R’は1個以下で水素である)を有する。ある態様ではR’は水素または炭素数7までの炭化水素基である。別の態様ではR’はC18までのアリールであり、特にはフェニルである。ここで亜リン酸エステルの定義から明らかなように、第三級であっても第二級であってもよい。すなわち、モル当り3個又はたった2個の(それぞれ)炭化水素系の基を含んでいてよい。ある態様では炭化水素亜リン酸エステルは、少なくとも一種の第三級亜リン酸エステルである。ある態様では少なくとも一種の炭化水素亜リン酸エステルは、亜リン酸トリフェニルである。そのような炭化水素亜リン酸エステルの混合物も使用することができる。
【0051】
少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物は、ASTM D2896で滴定したときに、塩基性窒素分をゼロより多く含んでいなければならない。ある態様では本発明に使用できる少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物は、少なくとも一種のアミンまたはアミドである。ある態様では本発明に使用できる少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物は、少なくとも一種のアミンである。活性硫黄を含む反応生成物の活性硫黄分を減少させるために少なくとも一種のアミンを使用することは、例えば欧州特許第395258号明細書に開示されている。本発明に使用できるアミン類としては、式:HNRで表される飽和又は不飽和炭化水素アミン類が挙げられる(式中、Rは水素であってもよく、そしてRおよびRは独立にアルキル基、シクロアルキル基またはアルケニル基から選ばれ、それらの基の主として炭化水素の性質を変えない非炭化水素置換基で置換されたその置換部分、例えばハロ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、炭素原子数1乃至30のアルコキシまたはアシルも含まれる)。好ましいのは、炭素原子数4乃至22の第一級アルキル又はアルケニルアミン類であり、例えばn−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−ドデシルアミン、n−オクタデシルアミン、オレイルアミン、2−エチル−n−ヘキシルアミン、t−ブチルアミン、およびt−オクチルアミンである。そのようなアミンの混合物および市販の混合アミン類も使用することができ、例えばココナツアミンや牛脂アミンなど天然産出物から誘導されたものがあり、それらは炭素原子12乃至22個を含むアミンの様々な混合物、すなわちC12−14、C16−18及びC16−22アミン混合物からなる。そのような化合物の例としては、シクロヘキシルアミン、アミノメチルシクロヘキサン、シクロブチルアミン、およびシクロペンチルアミンが挙げられる。
【0052】
ある態様では本発明に使用できる少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物は、少なくとも一種のアミドである。ある態様では少なくとも一種のアミドは、少なくとも一種の脂肪酸のような少なくとも一種のカルボン酸と、少なくとも一種のポリエチレンポリアミンのような少なくとも一種のポリアミンとの反応の残留物である。ここで使用するのに適した好適なアミド類は、工程a)のアミド成分に記載されている。ある態様ではアミドは、少なくとも一種の脂肪酸を少なくとも一種のポリアルキレンポリアミンと反応させることにより得られる生成物である。ある態様ではアミドは、イソステアリン酸とジエチレントリアミン(DETA)の反応生成物である。
【0053】
ある態様では活性硫黄と反応できる少なくとも一種の化合物は、少なくとも一種の油溶性の化合物である。油溶性化合物を使用することの利点は、更なる分離工程を必要としないことにある。ある態様では活性硫黄と反応できる少なくとも一種の油溶性化合物は、少なくとも一種の不飽和化合物、少なくとも一種の炭化水素亜リン酸エステル、少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物、およびそれらの混合物から選ばれる。
【0054】
[本発明の油溶性組成物の製造方法]
本発明の製造は、モリブデン成分と工程a)のアミド成分を一緒にすることにより実施することができる。極性促進剤を任意に反応混合物に加えることができる。アミド成分は、モリブデン成分との反応に先立って生成させることもできるし、あるいはその場でカルボン酸成分とポリアミン成分とから生成させることもできる。一般的に、より好適に、また充填モル比をより細かく制御するために、モリブデンの添加の前にアミド成分を生成させる。モリブデン成分とアミドとの反応生成物を、硫黄成分と反応させることにより硫化することが好ましい。アミド成分の添加に先立って、モリブデン成分を硫黄成分と一緒にして硫化又はオキシ硫化モリブデンを生成させることにより、本発明の製造を実施してもよい。好ましい態様では、モリブデン成分とアミドを反応させて酸化モリブデンとアミドの塩にし、続いて硫黄成分で硫化して硫化又はオキシ硫化モリブデンとアミドの塩にする。反応成分の添加順序は重要ではない。反応は通常、当該分野の熟練者によく知られている方法を用いて大気圧で実施するが、所望によりそれより高い圧力でも低い圧力でも用いることができる。反応混合物を効率よく撹拌することができるように、希釈剤を使用してもよい。代表的な希釈剤は、潤滑油、および炭素と水素だけを含む液体化合物である。混合物が満足に混合できるほど充分に流動的であるなら、希釈剤は必要ではない。モリブデン成分と反応しない希釈剤が望ましい。
【0055】
任意に、極性促進剤を本発明の製造に用いることができる。極性促進剤は、モリブデン成分とポリアミン又はアミド成分の塩基性窒素との間の相互作用を容易にする。多種多様なそのような促進剤を使用することができる。代表的な促進剤としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ブチルセロソルブ、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、メチルカルビトール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチル−ジエタノール−アミン、ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、水酸化アンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、アルカリ金属水酸化物、メタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラヒドロフラン、酢酸、無機酸、および水がある。好ましいのは水およびエチレングリコールである。特に好ましいのは水である。
【0056】
通常は促進剤を別個に反応混合物に添加するが、特に水の場合には、非無水出発物質の成分として、もしくは(NHMo24・4HOのようなモリブデン成分の水和水として存在していてもよい。また、水酸化アンモニウムとして水を添加してもよい。
【0057】
本発明の油溶性添加剤組成物の一般的な製造方法は、工程a):(1)モリブデン化合物、および(2)カルボン酸とポリアミンとの充填モル比(CMR)が約2:1から1:1の間にあるカルボン酸とポリアミンとのアミドを反応させることを含んでいる。任意に、塩を生成させるために(3)極性促進剤、または(4)希釈剤、または(5)極性促進剤と希釈剤の両方を添加してもよい。混合や取扱いを容易にするために、必要ならば、希釈剤を使用して好適な粘度にする。代表的な希釈剤は、潤滑油、および炭素と水素だけを含む液体化合物である。任意に、水酸化アンモニウムも反応混合物に添加して、モリブデン酸アンモニウムの溶液にしてもよい。モリブデン成分、アミド、使用するなら極性促進剤、および使用するなら希釈剤を反応器に充填して、約200℃以下、好ましくは約70℃乃至約120℃の温度に加熱する。モリブデン成分が充分に反応するまで、温度を約200℃以下、好ましくは約70℃乃至約90℃の温度で維持する。この工程の反応時間は、一般に約1乃至約30時間、好ましくは約1乃至約10時間の範囲にある。
【0058】
反応混合物を工程b)にて、好適な圧力で200℃を越えない温度で前述した硫黄成分と更に反応させる。硫化工程は、一般に約0.5乃至約5時間、好ましくは約0.5乃至約2時間の間行う。場合によっては、硫黄成分との反応の終了前に反応混合物から極性促進剤を除去することが望ましい。
【0059】
硫黄成分は通常、モリブデン1原子当り硫黄最大12原子となるよう比率で反応混合物に充填する。ある態様では本発明の油溶性組成物のモリブデンと硫黄のモル比は、1:0乃至1:8になる。別の態様ではモリブデンと硫黄のモル比は約1:0乃至1:4である。また別の態様ではモリブデンと硫黄のモル比は約1:1乃至1:4である。また別の態様ではモリブデンと硫黄のモル比は約1:1乃至1:3である。また別の態様ではモリブデンと硫黄のモル比は約1:1乃至1:2である。
【0060】
反応混合物においてモリブデン原子とアミドが与える塩基性窒素原子との比は、塩基性窒素1原子当りモリブデン約0.01乃至4.0原子の範囲にあってよい。通常は、アミドが与える塩基性窒素1原子当りモリブデン0.01乃至2.00原子で、反応混合物を充填する。好ましくは塩基性窒素1原子当りモリブデン0.4乃至1.0原子、最も好ましくは0.4乃至0.7原子で反応混合物に加える。別の態様では塩基性窒素1原子当りモリブデン0.2乃至1.0原子、より好ましくは0.2乃至0.7原子で反応混合物に加える。
【0061】
極性促進剤は、水であることが好ましいが、通常はモリブデン1モル当り水0.1乃至50モルの比で存在する。好ましくはモリブデン1モル当り促進剤は0.5乃至25モル、最も好ましくは1.0乃至15モル存在する。
【0062】
カルボン酸成分とポリアミンとの充填モル比は重要であり、約2:1乃至1:1の範囲にあってよい。ある態様では、充填モル比は約1.7:1乃至1:1である。別の態様では、充填モル比は約1.5:1乃至1:1である。また別の態様では、充填モル比は約1.7:1乃至1.3:1である。カルボン酸成分とポリアミンとの反応で生成するアミドは、モリブデン成分を反応混合物に導入する前でも途中でも、あるいは後でも発生させることができる。
【0063】
工程b)の反応生成物を更に工程c)にて、工程b)の反応生成物に含まれる活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物と反応させる。活性硫黄は、活性硫黄を含む潤滑油組成物にさらされるエンジンの黄色金属部分やギヤ、他の構成部分、つまり銅及び銅合金構成部分に、特に悪影響を及ぼす。活性硫黄の有害作用は普通、ASTM D130試験法で測定でき、その方法は銅及び銅合金の存在下で潤滑油の安定度、特には銅腐食の程度を測定するために開発された。ある態様では本発明の工程c)を好適な条件及び量で行って、最終反応生成物を調合済み潤滑剤に使用したときに、ASTM D130腐食試験の結果が3B以上、より好ましくは2B以上、更に好ましくは1B以上、最も好ましくは1Aになるようにする。工程b)の反応生成物からの活性硫黄の少なくとも一部を、活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物と反応させることによって、最終反応生成物において銅腐食性能の改善、粘度特性の改善および色特性の改善が示されることを発見している。
【0064】
工程c)において、工程b)の反応生成物に含まれる活性硫黄と反応する好適な化合物は、工程b)の生成物に基づき0.01乃至25質量パーセント、より好ましくは1乃至15質量パーセントを占め、更に好ましくは化合物は工程b)の生成物の3乃至10質量パーセントを占める。工程b)の生成物と、工程b)の活性硫黄と反応できる少なくとも一種の化合物を反応器に充填し、そして反応に適した温度まで加熱する。一般にこの反応の温度は約200℃以下であり、好ましくは50℃乃至180℃である。別の態様では反応温度は70℃乃至150℃である。また別の態様では反応温度は100℃乃至140℃である。
【0065】
工程c)で、工程b)の生成物と、活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物との反応の時間は、反応体の性質と量、反応装置、溶媒/希釈媒体および混合度等を含む複数の要因によって変わる。反応時間は、所望する活性硫黄分の減少を完了できるほど充分に長くすべきできる。ある態様では、工程c)での反応の時間は0.5乃至20時間である。ある態様では、工程c)での反応の時間は0.5乃至10時間である。ある態様では、工程c)での反応の時間は1乃至5時間である。別の態様では、反応時間は2乃至15時間であり、あるいは一般に5乃至10時間以内で行ってもよい。
【0066】
反応混合物に空気のような酸素含有ガスを通しながら、工程c)の反応を行うことが好ましい。酸素含有ガスとの接触によって活性硫黄の減少が促進される。酸素含有ガスを供給する場合には、適正なガス分配器によって反応器全体に公平に分配すべきである。
【0067】
一般に反応の終了時点で、反応混合物から余分な水および如何なる揮発性希釈剤も取り除く。除去方法としては、これらに限定されるものではないが、反応器の温度を約200℃以下、好ましくは約70℃から約90℃の間の温度で維持しながらの、減圧蒸留または窒素ストリッピングが挙げられる。別の態様では、ストリッピング工程の温度は100℃乃至180℃である。別の態様では、ストリッピング工程の温度は100℃乃至150℃である。別の態様では、ストリッピング工程の温度は90℃乃至180℃である。水と揮発性希釈剤の除去は通常、減圧で行う。泡立ちの問題を避けるために圧力を徐々に下げてもよい。所望の圧力に達した後、ストリッピング工程を一般に約0.5乃至約5時間、好ましくは約0.5乃至約2時間の間行う。
【0068】
[添加剤濃縮物]
多くの場合において、本発明の油溶性添加剤組成物の濃縮物をキャリヤ液を用いて調製することが有利である。これら添加剤濃縮物は、取扱いや輸送の、また潤滑油基油に最後にブレンドして調合済み潤滑剤にするという便利な方法をもたらす。一般に本発明の油溶性添加剤濃縮物は、単独では調合済み潤滑剤としては使用できないか、あるいは適しておらず、油溶性添加剤濃縮物を潤滑油基材油とブレンドして調合済み潤滑剤とする。キャリヤ液が本発明の油溶性添加剤を容易に可溶化して、潤滑油基材油に容易に溶ける油添加剤濃縮物を与えることが望ましい。さらに、キャリヤ液は、例えば高揮発度や高粘度、ヘテロ原子などの不純物を含む、望ましくない如何なる性質も潤滑油基材油に持ち込まないで、そうして最終的に調合済み潤滑剤にすることが望ましい。従って、本発明は更に、不活性キャリヤ液、および本発明に係る油溶性添加剤組成物、全濃縮物に基づき2.0質量%乃至90質量%を含む、油溶性添加剤濃縮組成物を提供する。不活性キャリヤ液は潤滑油であってもよい。
【0069】
これら濃縮物は通常、本発明の油溶性添加剤組成物を約2.0質量%乃至約90質量%、好ましくは10質量%乃至50質量%含有し、更に当該分野で知られている後述の他の添加剤を一種以上含有していてもよい。濃縮物の残りは実質的に不活性なキャリヤ液である。
【0070】
[潤滑油組成物]
本発明の一態様では、本発明の油溶性添加剤組成物を潤滑粘度の基油に混合して、潤滑油組成物にすることができる。潤滑油組成物は、主要量の潤滑粘度の基油、および少量の上述した本発明の油溶性添加剤組成物を含む。
【0071】
本発明に使用することができる潤滑油としては、種々様々な炭化水素油、例えばナフテン系、パラフィン系および混合基油、並びにエステル類などの合成油を挙げることができる。また、本発明に使用することができる潤滑油としては、植物及び動物由来の油のようなバイオマスからの油も挙げられる。潤滑油は個々に使用しても組み合わせて使用してもよいが、その粘度は40℃で一般に7乃至3300cSt、通常は20乃至2000cStの範囲にある。よって基油は、精製パラフィン型基油、精製ナフテン系基油、または潤滑粘度の合成炭化水素又は非炭化水素油であってよい。また、基油は鉱油と合成油の混合物であってもよい。本発明に基油として使用される鉱油としては例えば、潤滑油組成物に通常使用されるパラフィン系、ナフテン系及びその他の油が挙げられる。合成油としては例えば、所望の粘度を有する炭化水素合成油と合成エステル類の両方およびそれらの混合物が挙げられる。炭化水素合成油としては例えば、エチレンの重合により製造された油、すなわちポリアルファオレフィン又はPAO、あるいはフィッシャー・トロプシュ法のような一酸化炭素ガスと水素ガスを用いた炭化水素合成法により製造された油を挙げることができる。使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィンの液体重合体が挙げられる。同様に、適正な粘度のアルキルベンゼン類、例えばジドデシルベンゼンも使用することができる。使用できる合成エステル類としては、モノカルボン酸及びポリカルボン酸とモノヒドロキシアルカノール及びポリオールとのエステル類が挙げられる。代表的な例としては、ジドデシルアジペート、ペンタエリトリトールテトラカプロエート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、およびジラウリルセバケート等がある。モノ及びジカルボン酸とモノ及びジヒドロキシアルカノールとの混合物から製造された複合エステル類も使用することができる。鉱油と合成油のブレンドも使用できる。
【0072】
本発明の油溶性添加剤を含有する潤滑油組成物は、従来技術に従って、本発明の油溶性添加剤を適切な量で潤滑油と混ぜ合わせることによって製造することができる。特定の基油の選択は、予測される潤滑剤の用途や他の添加剤の有無に依存する。一般に本発明の潤滑油組成物における本発明の油溶性添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき0.05から15質量%まで変動し、好ましくは0.2から1質量%まで変動する。ある態様では、潤滑油組成物のモリブデン含量は、百万分の約50部(ppm)から5000ppmの間にあり、好ましくは約90ppmから1500ppmの間にある。別の態様では、潤滑油組成物のモリブデン含量は、約500ppmから700ppmの間にある。
【0073】
[追加の添加剤]
所望により、他の添加剤が本発明の潤滑油組成物および潤滑油濃縮組成物に含まれていてもよい。これら添加剤としては、抗酸化剤又は酸化防止剤、分散剤、さび止め添加剤、および腐食防止剤等を挙げることができる。また、消泡剤、安定剤、防汚剤、粘着付与剤、チャター防止剤、滴点向上剤、スクォーク防止剤、極圧剤、および悪臭防止剤等も挙げることができる。
【0074】
下記の添加剤成分は、本発明の潤滑油組成物に好ましく用いることができる成分の一部の例である。これら追加の添加剤の例は、本発明を説明するために記すのであって、本発明を限定しようとするものではない。
【0075】
金属清浄剤
本発明に用いることができる清浄剤としては、アルキル又はアルケニル芳香族スルホネート類、カルシウムフェネート、ホウ酸化スルホネート類、多ヒドロキシアルキル又はアルケニル芳香族化合物の硫化又は未硫化金属塩類、アルキル又はアルケニルヒドロキシ芳香族スルホネート類、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルナフテネート類、アルカノール酸の金属塩類、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩類、およびそれらの化学的及び物理的混合物を挙げることができる。
【0076】
耐摩耗性添加剤
その名が意味するように、これら添加剤は可動金属部分の摩耗を低減する。そのような添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ジチオリン酸亜鉛類、カルバメート類、エステル類、およびモリブデン錯体を挙げることができる。
【0077】
さび止め添加剤(さび止め剤)
さび止め添加剤は、普段腐食にさらされる物質の腐食を低減する。さび止め添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエートを挙げることができる。さび止め添加剤として使用できる他の化合物としては、これらに限定されるものではないが、ステアリン酸および他の脂肪酸類、ジカルボン酸類、金属石鹸類、脂肪酸アミン塩類、重質スルホン酸の金属塩類、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステルを挙げることができる。
【0078】
抗乳化剤
抗乳化剤は、エマルジョンの分離を促すために使用される。抗乳化剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロック共重合体、ポリエトキシル化アルキルフェノール類、ポリエステルアミド類、エトキシル化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、ポリビニルアルコール誘導体、および陽イオン又は陰イオン高分子電解質を挙げることができる。様々な種類の重合体の混合物も使用することができる。
【0079】
摩擦調整剤
追加の摩擦調整剤を、本発明の潤滑油に添加してもよい。摩擦調整剤の例としては、これらに限定されるものではないが、脂肪アルコール類、脂肪酸類、アミン類、エトキシル化アミン類、ホウ酸化エステル類、他のエステル類、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、およびホスホン酸エステル類を挙げることができる。
【0080】
多機能添加剤
酸化防止性と耐摩耗性のような複数の特性を持つ添加剤も、本発明の潤滑油に添加してよい。多機能添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチラートアミド、アミン・モリブデン錯体、および硫黄含有モリブデン錯体を挙げることができる。
【0081】
粘度指数向上剤
粘度指数向上剤は、粘度調整剤としても知られていて、潤滑油の粘度温度特性を改善して、油の温度が変化するにつれてその粘度をより安定にする添加剤の部類からなる。粘度指数向上剤を本発明の潤滑油組成物に添加してもよい。粘度指数向上剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリメタクリレート型重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、リン硫化ポリイソブチレンのアルカリ土類金属塩類、水和スチレン・イソプレン共重合体、ポリイソブチレン、および分散型粘度指数向上剤を挙げることができる。
【0082】
流動点降下剤
流動点降下剤は、潤滑油中のろう結晶形成を抑制するように設計され、その結果流動点を下げて低温流動性能を改善する重合体である。流動点降下剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリメチルメタクリレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン重合体、およびアルキル化ポリスチレン類を挙げることができる。
【0083】
消泡剤
消泡剤は、潤滑油の泡立ち傾向を低減するために使用される。消泡剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレート重合体、アルキルアクリレート共重合体、およびジメチルシロキサン重合体などの高分子量オルガノシロキサン類を挙げることができる。
【0084】
金属不活性化剤
金属不活性化剤は、金属が油を酸化させるのを防ぐために金属表面に膜を作る。金属不活性化剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ジサリチリデンプロピレンジアミン、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ビスイミダゾールエーテル類、およびメルカプトベンズイミダゾール類を挙げることができる。
【0085】
分散剤
分散剤は、スラッジやカーボン、スス、酸化生成物、他の堆積物前駆体を拡散して凝集するのを防ぎ、結果として堆積物形成を低減し、油酸化を減らし、また粘度上昇を減らす。分散剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルケニルコハク酸イミド類、他の有機化合物で変性したアルケニルコハク酸イミド類、エチレンカーボネート又はホウ酸による後処理で変性したアルケニルコハク酸イミド類、アルカリ金属又は混合アルカリ金属、アルカリ土類金属のホウ酸塩類、水和アルカリ金属ホウ酸塩の分散物、アルカリ土類金属ホウ酸塩の分散物、およびポリアミド無灰分散剤等、またはそのような分散剤の混合物を挙げることができる。
【0086】
酸化防止剤
酸化防止剤は、スラッジ及びワニス状堆積物など酸化生成物が金属表面に形成されるのを防ぐことにより、鉱油が劣化する傾向を低減する。本発明に使用できる酸化防止剤の例としては、これらに限定されるものではないが、フェノール型(フェノール系)酸化防止剤、例えば4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデン−ビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−5−メチレン−ビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−1−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−10−ブチルベンジル)−スルフィド、およびビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)を挙げることができる。ジフェニルアミン型酸化防止剤としては、これらに限定されるものではないが、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、およびアルキル化アルファ−ナフチルアミンを挙げることができる。他の型の酸化防止剤としては、金属ジチオカルバメート(例えば、亜鉛ジチオカルバメート)、およびメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)が挙げられる。
【0087】
[用途]
本明細書に開示する油溶性添加剤組成物を含む潤滑油組成物は、潤滑油の摩擦特性を調整するための液体組成物としても、グリース組成物としても効果があり、それをクランクケース用潤滑剤として使用すれば、本発明の潤滑油で潤滑にした車両に総マイル数の改善をもたらすことができる。
【0088】
本発明の潤滑油組成物は、クロスヘッド・ディーゼルエンジンにおけるような舶用シリンダ潤滑剤、自動車や鉄道におけるようなクランクケース潤滑剤、製鋼所などの重機械類用潤滑剤に、あるいは軸受等用のグリースとして使用することができる。潤滑剤が液体であるか固体であるかは通常、増ちょう剤が存在するか否かに依る。代表的な増ちょう剤としては、ポリ酢酸尿素およびステアリン酸リチウム等が挙げられる。本発明の油溶性添加剤組成物はまた、爆発性のエマルジョン配合物において酸化防止剤、耐摩耗性添加剤としての有用性も見い出すことができる。
【0089】
[追加の用途]
本発明の油溶性添加剤組成物は、潤滑油添加剤としての使用に加えて、水素化処理触媒の前駆体としても想定することができる。本発明の油溶性添加剤組成物は、触媒前駆体として作用することができて、水素と硫黄又は硫黄担持化合物の存在下で炭化水素と接触して分解し、炭化水素質供給原料を水素化処理するための活性触媒になる。本発明の油溶性添加剤組成物を、水素と炭化水素と硫黄又は硫黄担持化合物の存在下で、例えば「油中」条件で分解温度まで加熱して分解し、水素化処理用活性触媒種にすることができる。
【0090】
炭化水素の性質は重要ではなく、一般に、非環状でも環状でも、飽和でも不飽和でも、未置換でも反応不活性に置換されていてもよい任意の炭化水素化合物を挙げることができる。好ましい炭化水素は、通常の温度で液体であるものであり、その例示としては、オクタン、トリデカン、エイコサンまたはノナコサン等のような直鎖飽和非環状炭化水素;2−ヘキセンおよび1,4−ヘキサジエン等のような直鎖不飽和非環状炭化水素;3−メチルペンタン、ネオペンタン、イソヘキサンおよび2,7,8−トリエチルデカン等のような分枝鎖飽和非環状炭化水素;3,4−ジプロピル−1,3−ヘキサジエン−5−インおよび5,5−ジメチル−1−ヘキセン等のような分枝鎖不飽和非環状炭化水素;シクロヘキサンおよび1,3−シクロヘキサジエン等のような飽和又は不飽和環状炭化水素があり;また、クメン、メシチレン、スチレン、トルエンまたはo−キシレン等のような芳香族炭化水素も挙げられる。より好ましい炭化水素は石油から誘導されたものであり、特にはバージンナフサ類、分解ナフサ類、フィッシャー・トロプシュ・ナフサ、ライトサイクルオイル、ミディアムサイクルオイルおよびヘビーサイクルオイル等とみなされる石油炭化水素の混合物が挙げられ、一般には炭素原子約5乃至約30個、好ましくは炭素原子約5乃至約20個を含み、沸点が約30℃乃至約450℃、好ましくは約150℃乃至約300℃の範囲にあるものである。本発明の油溶性添加剤組成物を分解して水素化処理触媒にするには、本発明の油溶性添加剤組成物を含んだ充填層を、水素雰囲気中で炭化水素と硫黄又は硫黄担持化合物両方と接触させて、該本発明の油溶性添加剤組成物を分解できる条件で加熱する。
【0091】
硫黄又は硫黄担持化合物は、オルガノ硫黄又は炭化水素硫黄化合物と言ってよく、分子全体で炭素−硫黄結合を一つ以上含んでいて、一般には非環式でも環式でも、飽和でも不飽和でも、置換されていても反応不活性に置換されていてもよい化合物が挙げられる。この特徴を持つ非環式化合物の例示としては、エチルスルフィド、n−ブチルスルフィド、n−ヘキシルチオール、ジエチルスルホン、アリルイソチオシアネート、ジメチルジスルフィド、エチルメチルスルホン、およびエチルメチルスルホキシド等があり;そのような特徴を持つ環式化合物としては、メチルチオフェノール、ジメチルチオフェン、4−メルカプト安息香酸、ベンゼンスルホン酸、5−ホルムアミド−ベンゾチアゾール、1−ナフタレンスルホン酸、およびジベンジルチオフェン等がある。硫黄は、少なくとも触媒に必要な所望の化学量論とするのに充分な量で存在しなければならず、好ましくはこれより過剰な量で用いられる。好適には、反応のための炭化水素と硫黄両方を、硫黄含有炭化水素化合物、例えば複素環硫黄化合物又は化合物群を使用することにより供給することができる。そのような目的に適した複素環硫黄化合物の例示としては、チオフェン、ジベンゾチオフェン、テトラフェニルチオフェン、テトラメチルジベンゾチオフェン、テトラヒドロジベンゾチオフェン、チアントレン、およびテトラメチルチアントレン等がある。本発明の触媒を生成させるのに必要な水素は、純水素でも、水素の豊富なガス混合物でも、あるいはその場で水素を発生する化合物、例えば一酸化炭素と水の混合物のような水素発生ガス、または水素供与性溶媒でもよい。
【0092】
(1)酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンと、(2)カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比(CMR)が約2:1乃至約1:1である、カルボン酸成分とポリアミン成分のアミド反応生成物との塩類では、非常に優れた摩擦低減性が実証されている。この態様は、下記の物質の塩を含む油溶性添加剤組成物に関すると言える:
(1)一般式:MoO(式中、x≧0、y≧0、かつ12≧(x+y)≧2)を有する酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンであるモリブデン成分、および
(2)カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比が約2:1乃至1:1である、カルボン酸成分とポリアミン成分の反応生成物を含むアミド。
【0093】
別の態様は、下記の成分を含む潤滑油組成物に関すると言える:
(1)潤滑粘度の油、および
(2)下記の物質の塩を含む油溶性添加剤組成物:
(a)一般式:MoO(式中、x≧0、y≧0、かつ12≧(x+y)≧2)を有する酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンであるモリブデン成分、および
(b)カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比が約2:1乃至1:1である、カルボン酸成分とポリアミン成分の反応生成物を含むアミド。
【0094】
一態様は、下記の成分を含む潤滑油濃縮組成物に関すると言える:
(1)潤滑粘度の油、および
(2)下記の物質の塩を含む油溶性添加剤組成物、約2.0質量%乃至約90質量%:
(a)一般式:MoO(式中、x≧0、y≧0、かつ12≧(x+y)≧2)を有する酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンであるモリブデン成分、および
(b)カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比が約2:1乃至1:1である、カルボン酸成分とポリアミン成分の反応生成物を含むアミド。
【0095】
上記の態様は、下記の成分を反応させて、モリブデン含有反応生成物にすることを含む油溶性組成物の製造方法に従って製造することができる:
(1)酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンであるか、あるいはそれを生成させることができるモリブデン成分、および
(2)カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比が約2:1乃至1:1である、カルボン酸成分とポリアミン成分の反応生成物を含むアミド。
モリブデン含有反応生成物を硫化して、オキシ硫化モリブデン又は硫化モリブデンとアミドの塩にすることが好ましい。
【0096】
別の態様は、下記の成分の反応生成物を含む油溶性添加剤組成物に関する:
(1)一般式:MoO(式中、x≧0、y≧0、かつ12≧(x+y)≧2)を有する酸化、硫化又はオキシ硫化モリブデンであるか、あるいはそれを生成させることができるモリブデン成分、および
(2)カルボン酸成分とポリアミン成分の充填モル比が約2:1乃至1:1である、カルボン酸成分とポリアミン成分の反応生成物を含むアミド。
この態様では、硫化又はオキシ硫化モリブデンであるか、あるいはそれを生成させることができるモリブデン成分を更に工程(2)の後に、好適な反応条件で活性硫黄と反応する成分と反応させて、それにより油溶性添加剤組成物の残留活性硫黄を減少させることができるとの、また別の態様もある。
【0097】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するために提示するのであって、決して本発明の範囲を限定するものとみなすべきではない。
【実施例】
【0098】
[実施例1(比較)]
MoOとイソステアリン酸(ISA)/テトラエチレンペンタアミン(TEPA)ポリアミドとの塩
ISA/TEPA CMR=3.15:1
丸底フラスコに、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタアミンのポリアミド(280g、ISA/TEPA CMR=3.15)、希釈油(エクソン(Exxon)100N、90g)、およびトルエン(100mL)を充填した。次いで、三酸化モリブデン(17.5g、0.12モル)、および水(25g)をフラスコに加えた。溶液を70−90℃で3−4時間加熱した。次に、硫黄(15g、0.46モル)を溶液に加え、混合物を100℃で更に2時間加熱した。水とトルエンを減圧で取り除いた。最終生成物の分析から次のことが分かった:Mo=2.9質量%、S=3.8質量%。
【0099】
[実施例2]
MoOとイソステアリン酸(ISA)/テトラエチレンペンタアミン(TEPA)ポリアミドの塩
ISA/TEPA CMR=1.3:1
丸底フラスコに、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタアミンのポリアミド(10g、ISA/TEPA CMR=1.3)、希釈油(エクソン100N、6.6g)、およびトルエン(40mL)を充填した。次いで、三酸化モリブデン(1.3g、0.009モル)、および水(2g)をフラスコに加えた。溶液を70−90℃で3−4時間加熱した。次に、硫黄(0.55g、0.017モル)を溶液に加え、混合物を100℃で更に2時間加熱した。水とトルエンを減圧で取り除いた。最終生成物の分析から次のことが分かった:Mo=4.0質量%、S=3質量%。
【0100】
[実施例3]
MoOとイソステアリン酸(ISA)/ジエチレントリアミン(DETA)ポリアミドの塩
ISA/DETA CMR=1.7:1
丸底フラスコに、イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(250g、ISA/DETA CMR=1.7)、希釈油(エクソン100N、363g)、およびトルエン(200mL)を充填した。次いで、三酸化モリブデン(46.3g、0.32モル)、および水(25g)をフラスコに加えた。溶液を70−90℃で3−4時間加熱した。次に、硫化アンモニウム(42質量%水溶液54.85mL)を溶液に加え、混合物を100℃で更に2時間加熱した。水とトルエンを減圧で取り除いた。最終生成物の分析から次のことが分かった:Mo=3.56質量%、S=2.03質量%。
【0101】
[実施例4]
MoOとイソステアリン酸(ISA)/ジエチレントリアミン(DETA)ポリアミドの塩
ISA/DETA CMR=1.3:1
丸底フラスコに、イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(400g、ISA/DETA CMR=1.3)、希釈油(エクソン100N、385g)、およびトルエン(200mL)を充填した。次いで、三酸化モリブデン(52.1g、0.36モル)、および水(40g)をフラスコに加えた。溶液を70−90℃で3−4時間加熱した。次に、硫黄(23.2g、0.72モル)を溶液に加え、混合物を100℃で更に2時間加熱した。水とトルエンを減圧で取り除いた。最終生成物の分析から次のことが分かった:Mo=3.6質量%。
【0102】
[実施例5]
MoOとイソステアリン酸(ISA)/エチレンジアミン(EDA)ポリアミドの塩
ISA/EDA CMR=1.0:1
丸底フラスコに、エチレンジアミンとイソステアリン酸のポリアミド(118g、ISA/EDA CMR=1.0)、希釈油(エクソン100N、272g)、およびトルエン(360mL)を充填した。次いで、三酸化モリブデン(18.9g、0.13モル)、および水(12g)をフラスコに加えた。溶液を70−90℃で3−4時間加熱した。次に、硫黄(8.4g、0.26モル)を溶液に加え、混合物を100℃で更に2時間加熱した。水とトルエンを減圧で取り除いた。最終生成物の分析から次のことが分かった:Mo=3.0質量%。
【0103】
[潤滑油組成物]
実施例1乃至5から下記の配合に従って、MoOとイソステアリン酸/ポリアミンアミドとの塩を含む潤滑油組成物を製造した。
(1)MoOとイソステアリン酸/ポリアミンアミドの塩(各配合物でMo含量=500ppm)
(2)無灰分散剤、4質量%
(3)アルカリ土類金属カルボキシレート清浄剤、3.01質量%
(4)アルカリ土類金属スルホネート清浄剤、0.60質量%
(5)ジアルキルジチオリン酸亜鉛、0.62質量%
(6)酸化防止剤、1.2質量%
(7)非分散型粘度指数向上剤、4.3質量%
(8)消泡剤、5ppm
(9)残りは潤滑油であった
【0104】
[実施例6(比較)]
モリブデンジチオカルバメートを含む潤滑油組成物
モリブデンジチオカルバメート(「サクラルーベ(Sakura Lube)505」、アデカUSAコーポレーション(AdekaUSA Corporation、ニュージャージー州サドルリバー)製)0.82質量%が、この潤滑油組成物の唯一のモリブデン源になったこと以外は、上記の配合に従って潤滑油組成物を製造した。Mo含量=500ppm。
【0105】
[実施例7(比較)]
オキシ硫化モリブデン/モノコハク酸イミド錯体を含む潤滑油組成物
米国特許第4263152号明細書(キング、外)に記載されているようにして、ポリイソブテニル(分子量約1000)から誘導したオキシ硫化モリブデン・モノコハク酸イミド錯体500ppmが、この潤滑油組成物の唯一のモリブデン源になったこと以外は、上記の配合に従って潤滑油組成物を製造した。
【0106】
上述した組成物について、ミニトラクション・マシン(MTM)台上試験にて摩擦性能の試験を行った。MTMは、PCSインスツルメンツ(PCS Instruments)社が製造したものであり、ステンレス鋼球(6mm)が回転ディスク(32100鋼)に載置されてなるピン・オン・ディスク構成で作動する。条件として荷重10ニュートン、速度500mm/s、温度120℃を用い、運転時間は60分である。結果は、最後10分間の平均をとったものであり、第1表にまとめて示す。
【0107】
第 1 表

実施例 種別 CMR 摩擦係数(COF)
(ISA:ポリアミン) (最後10分平均)

1 MoO/ISA/ 3.15 0.069
TEPAポリアミド
2 MoO/ISA/ 1.3 0.045
TEPAポリアミド
3 MoO/ISA/ 1.7 0.049
DETAポリアミド
4 MoO/ISA/ 1.3 0.044
DETAポリアミド
5 MoO/ISA/ 1.0 0.042
EDAアミド
6 MoDTC − 0.044
7 MoO・コハク酸 − 0.104
イミド
【0108】
第1表の実施例2−5は、モリブデン成分とカルボン酸/ポリアミン成分との塩が、カルボン酸:ポリアミンCMR約2:1乃至約1:1であるとき、本発明の潤滑油組成物の摩擦係数(COFが低いほど、摩擦低減性が良い)が、よく知られた減摩剤であるモリブデンジチオカルバメートの摩擦係数に匹敵することを示している。また、実施例2−5は、モリブデン・コハク酸イミド錯体(例えば実施例7)に比べても、非常に優れた摩擦低減性を示している。さらに、実施例2−5は、ISA:TEPAのCMRが3.15:1の潤滑油添加剤を含有する実施例1(比較)よりも、優れた摩擦低減性を示している。第1表のデータが証明するように、イソステアリン酸とポリアルキレンポリアミンのCMRを下げると、摩擦低減性が向上する。
【0109】
[実施例8]
2Lガラス反応器に、イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(467.3g、ISA/DETA CMR=1.7、ASTM D2896で測定したTBN=117mgKOH/g)、およびシェブロン(Chevron)100N基油(911.0g)を充填した。反応器を窒素ガスシールと撹拌をしながら70℃に加熱した。三酸化モリブデン(103.2g、0.72モル)、および水(88.8g)を上記の溶液に加えた。反応温度を90−95℃に上げ3時間保持して、モリブデン酸化反応を完了させた。次いで、激しく撹拌しながら、元素硫黄(34.4g、1.07モル)を反応器に充填した。反応温度を120℃に上げ、そしてNを流速180−200mL/分で吹き流すように変えた。混合物を120℃で2時間保持して硫化反応を完了させた。生成物の分析から次のことが分かった:Mo=4.0質量%、S=2.0質量%。
【0110】
[実施例9]
実施例8で製造した油溶性硫化モリブデン錯体472.0gを反応器に入れた。次いで、イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(14.4g、ISA/DETA CMR=1.7)を、更に反応器に充填して工程c)を開始した。激しく撹拌しながら、上記の混合物を窒素吹流し(180−200mL/分)下で120℃で2時間加熱した。得られた組成物について、ASTM D130試験にて銅板腐食の測定を行い、第2表の結果を得た。
【0111】
[実施例10]
実施例8で製造した油溶性硫化モリブデン錯体419.9gを反応器に入れた。次いで、イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(25.2g、ISA/DETA CMR=1.7)を、更に反応器に充填して工程c)を開始した。激しく撹拌しながら、上記の混合物を窒素吹流し(180−200mL/分)下で120℃で2時間加熱した。次に、窒素吹流しを停止し、空気を流速180−200mL/分で導入して混合物に120℃で更に1時間散布した。得られた組成物について、ASTM D130試験にて銅板腐食の測定を行い、第2表の結果を得た。
【0112】
[実施例11]
実施例8で製造した油溶性硫化モリブデン錯体410.2gを反応器に入れた。次いで、イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(41.0g、ISA/DETA CMR=1.7)を、更に反応器に充填した。激しく撹拌しながら、上記の混合物を窒素吹流し(180−200mL/分)下で120℃で2時間加熱した。得られた組成物について、ASTM D130試験にて銅板腐食の測定を行い、第2表の結果を得た。
【0113】
[実施例12]
イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(450.0g、ISA/DETA CMR=1.7)、およびシェブロン100N基油(877.2g)を、2Lガラス反応器に充填した。反応器を窒素ガスシールと撹拌をしながら70℃に加熱した。次いで、三酸化モリブデン(99.4g、0.69モル)、および水(85.5g)を上記の溶液に加えた。反応温度を85−90℃に上げ3時間保持して、モリブデン酸化反応を完了させた。元素硫黄(32.7g、1.02モル)を激しく撹拌しながら反応器に充填した。反応温度を120℃に上げ、そしてNを流速180−200mL/分で吹き流すように変えた。混合物を120℃で2時間保持して硫化反応を完了させた。次に、オレイルアミン(147.2g)を反応器に充填し、そして反応器を120℃に保った。同時に、激しく撹拌しながら空気を流速180−200mL/分で5時間反応器に散布した。分析から次のことが分かった:Mo=4.0質量%、S=2.0質量%。色<3.5(他の潤滑油添加剤および製造したモリブデン含有添加剤をモリブデン質量で500ppm含む油について、ASTM D6045で直接測定した:読取り値が低いほど試料の色が薄い)。
【0114】
第2表に、上記の実施例について、100℃及び121℃での銅板腐食(ASTM D130)の結果を示す。
【0115】
第 2 表: 工程c)の有無による銅板腐食の比較

Cu板腐食
実施例 活性硫黄と反応できる 量 100℃ 121℃
化合物の種別 (質量%) 3時間

8 無 − 3B 2C
9 ISA/DETAポリアミド 3 1B 3A
(CMR1.7)
10 ISA/DETAポリアミド 6 1A 1B
(CMR1.7)
11 ISA/DETAポリアミド 10 1A 1B
(CMR1.7)
12 オレイルアミン 10 1A 1A
【0116】
第2表に示したように、油溶性硫化モリブデン錯体の活性硫黄を減少させるために、更に、脂肪酸ポリアミド(ISA/DETAポリアミン)又は脂肪酸アミン(オレイルアミン)の反応を含む実施例9−12は、銅板腐食試験で劇的な効果を示している。
【0117】
[実施例13]
イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(483.9g、ISA/DETA CMR=1.7)、およびシェブロン100N基油(931.3g)を、2Lガラス反応器に充填した。次いで、反応器を窒素ガスシールと撹拌をしながら70℃に加熱した。三酸化モリブデン(106.9g、0.74モル)、および水(91.9g)を上記の溶液に加えた。反応温度を90−95℃に上げ3時間保持して、モリブデン酸化反応を完了させた。次に、元素硫黄(47.5g、1.48モル)を激しく撹拌しながら反応器に充填した。反応温度を120℃に上げ、そしてNを流速280−300mL/分で吹き流すように変えた。混合物を120℃で2−3時間保持して硫化反応を完了させた。色は、他の潤滑油添加剤および上記で製造したモリブデン含有添加剤をモリブデン質量で500ppm含む油について、ASTM D6045で直接測定して値<5.5であった:読取り値が低いほど試料の色が薄い。最終生成物について算出して次の通りである:Mo=4.3質量%、S=2.9質量%。
【0118】
[実施例14]
イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(131.3g、ISA/DETA CMR=1.7)、およびシェブロン100N基油(252.6g)を、500mLガラス反応器に充填した。次いで、反応器を窒素ガスシールと撹拌をしながら70℃に加熱した。三酸化モリブデン(29.0g、0.20モル)、および水(24.93g)を上記の溶液に加えた。反応温度を90℃に上げ3時間保持して、モリブデン酸化反応を完了させた。次に、元素硫黄(12.9g、0.40モル)を激しく撹拌しながら反応器に充填した。反応温度を120℃に上げ、そしてNを流速150−160mL/分で吹き流すように変えた。混合物を120℃で3時間保持して硫化反応を完了させた。色は、他の潤滑油添加剤および上記で製造したモリブデン含有添加剤をモリブデン質量で500ppm含む油について、ASTM D6045で直接測定して値4であった:読取り値が低いほど試料の色が薄い。最終生成物の分析から次のことが判明した:Mo=4.6質量%、S=2.9質量%。
【0119】
[実施例15]
500mLガラス反応器に、イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(124.3g、ISA/DETA CMR=1.7)、およびシェブロン100N基油(242.3g)を充填した。反応器を窒素ガスシールと撹拌をしながら70℃に加熱した。三酸化モリブデン(27.5g、0.19モル)、および水(17.7g)を上記の溶液に加えた。反応温度を85−90℃に上げ3時間保持して、モリブデン酸化反応を完了させた。次いで、元素硫黄(9.0g、0.28モル)を激しく撹拌しながら反応器に充填した。反応温度を120℃に上げ、そしてNを流速140−160mL/分で吹き流すように切り変えた。混合物を120℃で2時間保持して硫化反応を完了させた。次に、オレイルアミン(40.7g)を120℃の反応器に充填した。同時に、激しく撹拌しながら空気を流速90−100mL/分で4時間反応器に通した。色は、他の潤滑油添加剤および上記で製造したモリブデン含有添加剤をモリブデン質量で500ppm含む油について、ASTM D6045で直接測定して値3.5であった:読取り値が低いほど試料の色が薄い。生成物のMo及びS含量を算出して次の通りであった:Mo=4.1質量%、S=2.1質量%。
【0120】
[実施例16]
イソステアリン酸とジエチレントリアミンのポリアミド(138.2g、ISA/DETA CMR=1.7)、およびシェブロン100N基油(224.1g)を、500mLガラス反応器に入れた。反応器を窒素ガスシールと撹拌をしながら70℃に加熱した。三酸化モリブデン(30.5g、0.21モル)、および水(26.2g)を上記の溶液に加えた。反応温度を90℃に上げ3時間保持して、モリブデン酸化反応を完了させた。元素硫黄(10.2g、0.32モル)を激しく撹拌しながら反応器に充填した。反応温度を120℃に上げ、そしてNを流速80−100mL/分で吹き通すように切り変えた。混合物を120℃で2時間保持して硫化反応を完了させた。次いで、オレイルアミン(20.3g)、およびシェブロン100N基油(20.3g)を、120℃の反応器に充填した。同時に、激しく撹拌しながら空気を流速80−100mL/分で4時間反応器に散布した。色は、他の潤滑油添加剤および上記で製造したモリブデン含有添加剤をモリブデン質量で500ppm含む油について、ASTM D6045で直接測定して値4であった:読取り値が低いほど試料の色が薄い。生成物のMo及びS含量を算出して次の通りであった:Mo=4.5質量%、S=2.3質量%。
【0121】
第3表は、製造したモリブデン含有添加剤について工程c)による色と粘度の効果を示す。
【0122】
第 3 表
製造したモリブデン含有添加剤の粘度と色に対する工程c)の効果

ASTM D6045 粘度 粘度
実施例 で測定した色 60℃(cSt) 70℃(cSt)

14 4.0 1247 339
15 3.5 229 120
16 3.5 520 223

:他の潤滑油添加剤と製造したモリブデン含有添加剤をモリブデン質量で500ppm含む油について、ASTM D6045で色を直接測定した:読取り値が低いほど試料の色が薄い。
:製造したモリブデン含有添加剤についてASTM D445で粘度を測定した。
【0123】
実施例15及び16が示すように、油溶性硫化モリブデン錯体に後続してオレイルアミンを添加することによって、ASTM D6045測定で色が4.0から3.5に向上し、そして全く予測し得なかったことには、ASTM D445試験で測定して粘度効果が実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、活性硫黄の減少した油溶性硫化モリブデン錯体の製造方法:
a)酸性モリブデン化合物を、C4−40脂肪族カルボン酸成分と窒素原子数2乃至10のポリアミンとのアミド反応生成物から誘導した塩基性窒素と反応させる工程、ただし、カルボン酸成分とポリアミン成分の充填モル比は2:1乃至1:1である、
b)工程a)の生成物を、モリブデン1モル当り硫黄1乃至4モルの油溶性硫化モリブデン錯体、および活性硫黄を与える量の硫黄含有化合物と反応させる工程、そして
c)工程b)の生成物を、工程b)の活性硫黄と反応する少なくとも一種の化合物と反応させ、それにより工程b)の生成物中の活性硫黄を減少させる工程。
【請求項2】
カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比が1.7:1乃至1:1である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルボン酸成分とポリアミン成分との充填モル比が1.7:1乃至1.3:1である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ポリアミンが、下記一般式のポリアルキレンポリアミンである請求項1に記載の方法。

N(−R−NH)−H

(式中、Rは炭素原子数2−3のアルキレン基であり、そしてnは1乃至11の整数である)
【請求項5】
ポリアミンが、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)、ジエチレントリアミン(DETA)、エチレンジアミン(EDA)またはそれらの混合物である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において、塩基性窒素1原子当りモリブデン0.2乃至1原子が存在する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程a)において、塩基性窒素1原子当りモリブデン0.2乃至0.7原子が存在する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カルボン酸成分が飽和脂肪族モノカルボン酸である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
カルボン酸成分が、イソステアリン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸およびアラキン酸からなる群より選ばれる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該工程a)の反応を極性促進剤の存在下で行う請求項1に記載の方法。
【請求項11】
極性促進剤が、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ブチルセロソルブ、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、メチルカルビトール、エタノールアミン、水酸化アンモニウム、水酸化アルキルアンモニウム、金属水酸化物、N−メチル−ジエタノール−アミン、ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラヒドロフラン、水、無機酸およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
極性促進剤が水である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程b)を、硫黄、硫化水素、五硫化リン、R(ただし、RはC1−10アルキルであり、そしてxは少なくとも2である)、無機硫化物又は無機多硫化物、チオアセトアミド、チオ尿素、式:RSH(ただし、RはC1−10アルキルである)のメルカプタン類、または硫黄含有酸化防止剤から選ばれた硫黄含有化合物を用いて行う請求項1に記載の方法。
【請求項14】
モリブデン成分が、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、MoOCl、MoOBr、MoCl、三酸化モリブデンおよびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
モリブデン成分が三酸化モリブデンである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程c)で活性硫黄と反応する化合物が、少なくとも一種の、ハロゲンを含まない無機塩、少なくとも一種の不飽和化合物、少なくとも一種の炭化水素亜リン酸エステル、少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物およびそれらの混合物から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物が、少なくとも一種のアミンまたはアミドからなる群より選ばれる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも一種の塩基性窒素含有化合物が、少なくとも一種の脂肪酸と少なくとも一種のポリアルキレンポリアミンとの反応生成物から選ばれたアミドである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程c)において活性硫黄と反応する化合物が、亜リン酸トリフェニルおよび亜リン酸トリアルキルから選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項20】
工程c)において活性硫黄と反応する化合物がアルカリ金属硫化物である請求項1に記載の方法。
【請求項21】
潤滑粘度の油、および請求項1に記載の方法にて生成した生成物を含む潤滑油組成物。

【公表番号】特表2013−506661(P2013−506661A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532056(P2012−532056)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/059083
【国際公開番号】WO2011/040919
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】