説明

硫化亜鉛ナノベルト、紫外線検知センサー及びこれらの製造法

【課題】可視域よりもはるかに高い感度を波長が紫外域で有するZnSナノベルトを提供する。
【解決手段】陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域、特に337nm付近に特徴的に存在する、ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルトが与えられる。硫化亜鉛粉末の蒸発時の昇温速度を従来よりも緩慢にすることにより、この特徴を有する新規なナノベルトが得られる。
更に、一対の金属電極間にこのナノベルトを1本あるいは複数本掛け渡すことによって、可視域に比べて紫外域にはるかに大きな感度を有する紫外線センサーが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト状に結晶化した硫化亜鉛ナノベルト及びその製造法、並びにこの硫化亜鉛ナノベルトを用いた紫外線検知センサー及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線が皮膚に当たると日焼けや皮膚がんを引き起こしやすい。そこで、その危険度を把握するためには、まず、紫外線の量を計測することが重要であり、紫外線を検知する材料や検知器の開発が強く要求されている。
近年、紫外線検出器として酸化亜鉛ナノロッド/ポリフルオレンを用いたハイブリッドフォトダイオードが検討されており、これは紫外領域において、可視光領域の1000倍の感度を示すことが報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。
しかし、酸化亜鉛結晶体は、370nm以下の紫外域での発光ピークを有するものがなかったり、あるいは可視光領域に強い発光ピークが共存したりするので、370nm以下の紫外域に発光ピークを有し、可視光領域では強い発光ピークを有しない結晶体があれば、更に高い感度の紫外線量検出器の提供が可能となるものと期待されている。
【0003】
硫化亜鉛ナノベルトに関しては、従来、BNO化合物粉末と炭素の混合物並びに硫化亜鉛粉末を離して配置し、窒素ガス/水蒸気の還元雰囲気気流中で、1600℃および1100℃にそれぞれ加熱する方法(たとえば、非特許文献2参照)、硫化亜鉛粉末と炭素粉末ならびに硫黄粉を不活性ガス(アルゴンガス)気流中で1100℃に加熱する方法(たとえば、非特許文献3参照)、硫化亜鉛ナノ粒子を酸素の存在しない状態でアルゴンガス気流中において1100℃に加熱して、シリコン基板上に堆積させる方法(たとえば、非特許文献4参照)、高純度硫化亜鉛粉末を5%水素を含むアルゴンガス気流中で1000℃に加熱して金薄膜付きシリコン基板に堆積させる方法(たとえば、非特許文献5参照)、硫化亜鉛粉末をアルゴンガス気流中で970℃に加熱して、750〜800℃に維持された金薄膜付きサファイア基板上に堆積させる方法(たとえば、非特許文献6参照)などにより製造されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、日焼けや皮膚がんを起こしやすい紫外線を、感度よく検知する材料及びこれを用いた紫外線検知器を提供することであり、あるいは、それらの製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔発明の要約〕
本発明者らは、前記非特許文献6における硫化亜鉛ナノベルトの製造方法を種々検討している過程で、ある改良された条件、すなわち、硫化亜鉛粉末の蒸発時の昇温速度を従来よりも緩慢にした条件で製造した硫化亜鉛ナノベルトは、陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域の337nm付近に特徴的に存在すると共に、可視域の発光ピークは前記紫外域の発光ピークに比べ低い硫化亜鉛ナノベルト(すなわち、従来知られていない特性を有する硫化亜鉛ナノベルト)が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明(第1の発明)は、陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域に特徴的に存在する「ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト」を提供する。
ここで、ナノベルトとは、厚みがnmオーダー(通常は100nm以下)で、幅/厚の比が5以上の大きさをもち、長さは幅よりも大きいベルト状若しくはリボン状物を意味する。
【0007】
また、本発明(第2の発明)は、上記「ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト」の製造法、すなわち、次のステップを含む硫化亜鉛ナノベルト製造法も提供する。
(1)筒状加熱炉の中央部に硫化亜鉛粉末を置き、その下流側に金薄膜付きシリコン基板を置く。
(2)前記加熱炉中の酸素が除去されるまで、その加熱炉中へ、所定の流速で不活性ガスを導入する。
(3)不活性ガスを所定の流速で導入しながら、前記加熱炉を17±5℃/minの昇温速度で室温から1000〜1200℃まで昇温させたのち、その温度で一定時間保つ。
(4)放冷後、金薄膜付きシリコン基板上に堆積した堆積物(目的物;ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト)を回収する。
【0008】
また、本発明(第3の発明)は、紫外光を受けて、その光の強さに応じた強さの電気を発生する光電変換部材を有する紫外線検知センサーであって、その光電変換部材として上記硫化亜鉛ナノベルトが用いられている紫外線検知センサー、も提供する。
【0009】
上記紫外線検知センサーは、例えば、以下の(a)〜(c)を含んで構成される紫外線検知センサーである。
(a)絶縁層に覆われたSi基板、
(b)前記絶縁層上に置かれた上記本発明の硫化亜鉛ナノベルト、及び
(c)前記硫化亜鉛ナノベルトの上に形成された2つの分離された金属電極。
【0010】
このような紫外線検知センサーは、以下の(i)及び(ii)のステップを経た製造法(第4の発明)により製造できる。
(i) 絶縁層で覆われたSi基板上に、上記本発明の硫化亜鉛ナノベルトを分散させる;
(ii)光リソグラフィーを用いて前記Si基板上にレジストパターンを形成し、金属電極用の金属材料を前記Si基板及び前記レジストパターン上に電子ビームデポジションし、その後にリフトオフプロセスを行うことにより、前記ナノベルトの上に金属電極をパターン形成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硫化亜鉛ナノベルトは、陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域に(すなわち、337nm付近に)特徴的に存在し、可視域の発光ピークは前記紫外域に存在する発光ピークに比べ低い。このような陰極線ルミネッセンススペクトルを有する硫化亜鉛ナノベルトは今までに知られておらず、新規な特性を有する硫化亜鉛ナノベルトである。
本発明の硫化亜鉛ナノベルト製造法により、上記本発明の硫化亜鉛ナノベルトを再現性よく製造できる。
本発明の紫外線検知センサーは、陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域の337nm付近に特徴的に存在し、可視域の発光ピークは前記紫外域の発光ピークに比べ低い「ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト」を光電変換部材として用いているので、可視光に鈍感で(blind)、紫外光にのみ反応し、これを感度よく検知できる。
本発明の紫外線検知センサー製造法により、上記紫外線検知センサーを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1a、bは硫化亜鉛ナノベルトの走査型電子顕微鏡像で、aは低倍率、bは高倍率である。
【図2】図2aは、硫化亜鉛ナノベルトの透過型電子顕微鏡像である。図2bは、硫化亜鉛ナノベルトのエネルギー分散型X線分析の測定結果で、横軸はエネルギー準位(Kev)、縦軸は強度(任意単位)を示す。
【図3】図3aは、硫化亜鉛ナノベルトの陰極線ルミネッセンススペクトルの図である。 図3bは、硫化亜鉛ナノベルトの種々の位置における陰極線ルミネッセンススペクトルの図である。各々、横軸は波長(nm)、縦軸はCL強度(cps)を示す。
【図4】図4aは、硫化亜鉛ナノベルトを用いて作製した紫外線検知センサーアレイの光学顕微鏡像である。図4bは、硫化亜鉛ナノベルトを用いた紫外線検知センサーの構造を示す概念図(斜視図)である。図4cは、図4a中のうちの一個の単結晶硫化亜鉛ナノベルトからなる紫外線検知センサーの走査型電子顕微鏡像で、一つの電極の幅は2μm、二つの電極間の距離は4μmである。図4dは、320nmと600nmの2つの波長で測定した電流−電圧特性の測定結果で、横軸は電圧(V)、縦軸は電流(pA)を示す。
【図5】図5aは、各波長の光を照射したときに流れた電流を測定し規格化した図で、横軸は波長(nm)、縦軸は応答度(任意単位)を示す。図5bは、320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流を測定した結果で、横軸は時間(秒)、縦軸は電流(pA)を示す。
【図6】一つの電極の幅が10μm、二つの電極間の距離は2μmの3種類(a、b、c)の紫外線検知センサーで、左側は光学顕微鏡像、中央が電流(I)−電圧(V)特性曲線、右側が320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流を測定した結果である。ここで、aは一本の(幅1〜2μmの)硫化亜鉛ナノベルトを電極間にほぼ直交するように渡し掛け、bは一本の(幅1〜2μmの)硫化亜鉛ナノベルトを電極間に斜めに渡し掛け、cでは(幅1〜2μmの)ノコギリ状の硫化亜鉛ナノベルトを電極間に渡し掛けている。
【図7】電極間距離を約50μmとした紫外線検知センサーの例で、aは低倍率SEM像、bが電流−電圧特性曲線、cが320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流を測定した結果である。
【図8】複数本の硫化亜鉛ナノベルトが電極間に渡し掛けられた2種類(a、b)の紫外線検知センサーで、左側は低倍率SEM像、中央が電流−電圧特性曲線、右側が320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流を測定した結果である。但し、bにおける硫化亜鉛ナノベルトの数はaの場合よりも多い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔発明の更に詳しい説明〕
先ず、本発明の「ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト」の製造法を説明する。製造工程は、上述したように、次のステップ(1)〜(4)を含む。
(1)加熱炉にセットした筒状加熱管の中央部に硫化亜鉛粉末を置き、その下流側に金薄膜付きシリコン基板を置く。
(2)前記筒状加熱管中の酸素が除去されるまで、その筒状加熱管中へ、不活性ガスを導入する。
(3)不活性ガスを所定の流速で導入しながら、加熱炉を17±5℃/minの昇温速度で室温から1000〜1200℃まで昇温させたのち、その温度で一定時間保つ。
(4)放冷後、金薄膜付きシリコン基板上に堆積した堆積物を回収する。
【0014】
ここで、筒状加熱管としては、内径20mm〜50mm程度、長さ100cm〜150cm程度の石英管が好ましく、これを加熱炉の中にセットして用いる。加熱炉は縦型(垂直方向)としてもよいが、通常は取り扱いやすさの点から横型(水平方向)が好ましく、また、加熱炉の有効加熱部の長さは上記筒状加熱管よりも短い約50cm程度のものが通常用いられる。
用いる硫化亜鉛粉末の純度は好ましくは99%以上のもの、更に好ましくは99.9%以上のものとする。純度が低いと、結晶中に欠陥が生じやすくなるからである。
【0015】
用いる不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素ガス等の不活性ガスが用いられるが、酸素不含の点及びコストの点からアルゴンが好ましく用いられる。
工程(2)における加熱炉中への不活性ガス(通常はアルゴン)の導入は、加熱炉中における酸素の除去を主目的としている。そのためには、比較的多量の不活性ガス/アルゴンを長時間流す必要がある。例えば、内径5.5cm、長さ45cmの加熱炉を使用した場合には、500sccmを越える流量(線速度として21cm/minを越える速度)が好ましい。線速度21cm/min未満の流速では、加熱炉中に酸素が残存したり、酸素を除去する時間が長くなり生産効率が悪くなる。不活性ガス/アルゴンの導入を線速度21cm/min以上の流速で行えば、処理時間は3時間で十分である。
【0016】
加熱炉中の酸素が完全に除去された後、不活性ガス/アルゴンを流したまま、加熱炉を、好ましくは17±5℃/min、更に好ましくは17±2℃/minの昇温速度で、1000〜1200℃の温度範囲になるまで加熱する。ここで、1200℃を越えて加熱すると硫化亜鉛の昇華温度よりもずっと高温であるため蒸発速度が早すぎて良質の単結晶が生成されない。1000℃よりも低い温度ではほとんど昇華せず生産効率が悪くなる。
【0017】
また、工程(3)における、加熱炉の加熱を開始してからの不活性ガス/アルゴンの供給は、外部からの酸素の侵入防止とキャリアガスとしての役目であるので、その流量(流速)は工程(2)における不活性ガス/アルゴンの流量(流速)よりも低い、線速度として2〜20cm/minの流速が好ましい。20cm/minを越える流速であると、下流に設けた金薄膜(触媒作用を有する)付きシリコン基板への生成物の堆積量が減る傾向となる。2cm/minよりも少ない流速では酸素が混入する恐れがある。
加熱炉が1000〜1200℃の温度に達したら、引き続いて同じ流量(流速)の不活性ガス/アルゴンを流したまま、その温度を一定時間、例えば、10分〜50分間維持する。
その後、不活性ガス/アルゴンの供給(導入)及び加熱炉の加熱を止め、放冷する。金薄膜付きシリコン基板に目的物(ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト)が堆積しているので、これを回収する。
【0018】
このようにして、本発明の陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域に特徴的に存在する「ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト」が得られる。陰極線ルミネッセンスによる前記紫外域の発光ピークは、通常は、337nm付近(337±4nm)に存在している。また、可視域の発光ピークは、通常は、550nm付近(550±10nm)に存在するが、その発光ピーク前記紫外域の発光ピークに比べ低く幅広い。
【0019】
製造条件、例えば、加熱炉の室温から1000〜1200℃(到達最高温度)への昇温速度、到達最高温度、到達最高温度での維持時間、不活性ガス/アルゴンの流速等により、得られる硫化亜鉛ナノベルトの形態は多少変動するが、代表的な硫化亜鉛ナノベルトとして、長さが15〜100μm、幅100nm〜5μm、厚さ10nm〜50nmのものが得られる。
【0020】
得られた硫化亜鉛ナノベルトは、これを光電変換部材とする紫外線検知センサーに利用できる。この紫外線検知センサーは、既に述べたように、通常は、以下の(a)〜(c)、すなわち、
(a)絶縁層に覆われたSi基板、
(b)前記絶縁層上に置かれた本発明の硫化亜鉛ナノベルト、及び
(c)前記硫化亜鉛ナノベルトの上に形成された2つの分離された金属電極、
を含んで構成される。
ここで、2つの分離された金属電極間を渡し掛けるように置かれる硫化亜鉛ナノベルトの本数は一本とすることもできるが、感度及びレスポンスの安定性を高めるためには複数本が好ましい。また、2つの分離された金属電極間の間隔(距離)は、1μm〜100μmとすることができ、また、一つの金属電極の幅及び奥行は各々50μm〜500μmとすることができるが、いずれも小さいよりも大きいほど感度及び安定性が高い傾向になる。
【0021】
用いるSi基板としては、シリコン単結晶を約1mmの厚みに切断したシリコンウエハが好ましく用いられ、また、それを覆う絶縁層としてはシリコンウエハを熱酸化して得られる二酸化珪素(SiO)膜が好ましく用いられる。前記SiO膜の代わりに、Al膜等の絶縁膜を用いることもできる。
このとき、SiO膜やAl膜の厚みは、好ましくは、200nmから600nmの範囲である。
【0022】
用いる電極は、好ましくは、Crの層がAuの層の下に設けられたAu/Cr構成とする。Cr層は、硫化亜鉛ナノベルトとの接着性を高めるために設けるものであり、そのCr層の厚さは好ましくは5nmから15nmの範囲である。また、Auの層の厚さは好ましくは50nmから150nmの範囲である。
【0023】
上記紫外線検知センサーは、先に述べたように、次の(i)及び(ii)のステップを経て製造できる。
(i)絶縁層で覆われたSi基板上に、上記本発明の硫化亜鉛ナノベルトを分散させる;
(ii)光リソグラフィーを用いて前記Si基板上にレジストパターンを形成し、金属電極用の金属材料を前記Si基板及び前記レジストパターン上に電子ビームデポジションし、その後にリフトオフプロセスを行うことにより、前記ナノベルトの上に金属電極をパターン形成する。
具体的には、実施例で更に詳しく説明する。
【実施例】
【0024】
<実施例1>
(1)硫化亜鉛ナノベルトの調製
純度99.99%、粒子径10μm以下の硫化亜鉛粉末(アルドリッチ社製)を入れたアルミナボートを内径36mm(管の断面積は10.2cm)、長さ150cmの石英管を有する横型電気炉(有効加熱部の長さ:45cm)の中央部に配置した。厚さ3nmの金薄膜付きのシリコンウエハ(2mm×6mm)を前記アルミナボートから10mm下流側に設置した。炉内の酸素を徹底的に除去するために、初めに流量500sccm(線速度としては49cm/min)のアルゴンガスを3時間流した。次に、アルゴンガスの流量を100sccm(線速度としては9.8cm/min)に絞り、電気炉の温度を1時間かけて1100℃まで上げ(昇温速度は17.8℃/min)、この温度に30分間保った。その後、電気炉を室温まで冷却した。金薄膜付きのシリコンウエハ上に白色のウール状生成物が堆積していた。
【0025】
(2)得られた硫化亜鉛ナノベルトの分析・評価
図1a、bに生成した白色ウール状物質の走査型電子顕微鏡像を示した。図1aの像からは、硫化亜鉛ナノベルトは100μm程度の長さを有することが分かり、また、図1bの像からはその先端が細くなっていることが分かる。
【0026】
図2aは、白色ウール状物質の透過型電子顕微鏡像である。図2a及び図示しない他の像から、得られた硫化亜鉛ナノベルトの幅は200nmから1μmまでの範囲にあることが分かった。また、図2bにこの白色ウール状物質のエネルギー分散型X線分析の結果を示したが、亜鉛と硫黄のシグナルが現れており、その化学組成は純粋な硫化亜鉛であることが分かる。なお、この図に現れている銅のシグナルは試料を取り付ける際に用いた銅グリッドに由来するものである。
【0027】
得られた硫化亜鉛ナノベルトの陰極線ルミネッセンススペクトルの測定結果を図3aに示した。この図から、波長337nmにおける強い発光ピークと共に波長550nmに弱い発光ピークを有することが分かる。得られた硫化亜鉛ナノベルトの種々の位置における陰極線ルミネッセンススペクトルの測定結果を図3bに示した。この図から、硫化亜鉛ナノベルトのどの位置においてもスペクトルはほとんど同じ波長と強度を有し、ほぼ均質であることが裏付けられた。
【0028】
(3)紫外線検知センサーの作製
先に得られた硫化亜鉛ナノベルトを、厚さ300nmの熱酸化した二酸化珪素膜の付いたシリコンウエハ(基板)の上に載せ、フォトマスクを置いてレジストパターンを形成したのち、金属電極用のクロム及び金を前記Si基板及び前記レジストパターン上に電子ビームデポジションし、その後にリフトオフプロセスを行うことにより、前記硫化亜鉛ナノベルトの上に金/クロム(100nm/10nm)電極のパターンを形成し、紫外線検知センサーを作製した(図4)。
【0029】
図4aは、紫外線検知素子アレイの光学顕微鏡像であり、図4bは、硫化亜鉛ナノベルトを用いた紫外線検知センサーの構造を示す概念図(斜視図)である。図4bに示すように、紫外線検知センサーは下側よりシリコンウエハ、二酸化珪素膜、硫化亜鉛ナノベルト、金/クロム電極からなる構成である。また、図4c及び図示しない他の走査型電子顕微鏡像から、硫化亜鉛ナノベルトの厚さは約20nm、幅は約400nmであった。また、二つの電極間の距離は約4μmである。
【0030】
(4)紫外線検知センサーの評価
500Wのキセノンランプを用いて、320nmから630nmまでの異なった波長の光を照射して電流−電圧特性を測定した。図4dは、波長600nmの光を照射した場合、及び波長320nmの光を照射した場合での電流−電圧特性曲線である。この図から、320nmの紫外光照射で電流が流れ、600nmの可視光照射では電流がほとんど流れないことが分かる。
【0031】
また、上記紫外線検知センサーに10Vの電圧を印加しつつ、各波長の光を照射したときに流れる電流を測定し規格化したものを、図5aに示した。この結果から、400nm以上の可視光領域と300nm付近の紫外光領域とでは、感度でおよそ3桁の違いがあることが分かる。すなわち、本発明の紫外線検知センサーは、(可視光領域の光には反応せずに)紫外領域及び短波長域の光のみを感知することが分かる。
図5bに、波長320nmの紫外光をオン、オフさせたときに発生した電流を測定した結果を示した。表1は、その測定結果を元に、それぞれのON時、OFF時の電流値を示した。波長320nmの紫外線が当たっていると電流が流れ、その紫外線が当たらないと電流が流れないことが確認できた。ただ、波長320nmの紫外線が当たっているときの電流値がやや不安定であった。
【0032】
【表1】

【0033】
<実施例2>
(i)硫化亜鉛ナノベルトの調製・評価
実施例1と同様に操作して、金薄膜付きのシリコンウエハ上に白色のウール状生成物を得た。得られた硫化亜鉛ナノベルトは典型的には約1μm幅から約2μm幅(厚みは20〜40nm)であった。
また、電気炉の温度を1時間かけて室温から1100℃までに上げるときに、アルゴンガス流量の100sccmから50sccmへの切換えを5分ごとに繰り返し行なうと、図6cに示すようなノコギリ状の硫化亜鉛ナノベルトが得られた。
(ii)紫外線検知センサーの作製・評価
図6は、一つの電極の幅が10μm、二つの電極間の距離は2μmの3種類(a、b、c)の紫外線検知センサーで、左側は光学顕微鏡像、中央が電流(I)−電圧(V)特性曲線、右側が320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流を測定した結果である。また、aは一本の(幅1〜2μmの)硫化亜鉛ナノベルトを電極間にほぼ直交するように渡し掛け、bは一本の(幅1〜2μmの)硫化亜鉛ナノベルトを電極間に斜めに渡し掛け、cでは(幅1〜2μmの)ノコギリ状の硫化亜鉛ナノベルトを電極間に渡し掛けたものである。これら3種類の紫外線検知センサー間で大きな特性の差は認められなかった。しかし、実施例1で作製した紫外線検知センサー(図4、5)に比べて、電流−電圧特性曲線の傾斜が大きく、また、320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流値も大きく、感度が高いことが分かる。これは、光に晒される硫化亜鉛ナノベルトの表面積が大きいためと推定している。
【0034】
<実施例3>
紫外線検知センサーの作製・評価
硫化亜鉛ナノベルトとしては先の実施例2で得られた約1μm幅から約2μm幅(厚みは20〜40nm)の直線状の硫化亜鉛ナノベルトを用いた。距離が約50μmの二つの電極間に一本の(幅1〜2μmの)硫化亜鉛ナノベルトを渡して紫外線検知センサーとした。図7aは低倍率SEM像、図7bが電流−電圧特性曲線、図7cが320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流を測定した結果である。図7b及び図7cから分かるように、電流−電圧特性曲線の傾斜は図6に比べて大きく、また、320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流値も図6に比べて大きく、更に感度が高まっていることが分かる。
【0035】
<実施例4>
紫外線検知センサーの作製・評価
硫化亜鉛ナノベルトとしては先の実施例2で得られた約1μm幅から約2μm幅(厚みは20〜40nm)の直線状の硫化亜鉛ナノベルトを用いた。距離が狭いところで約2〜3μm、大きいところでの約50μmの二つの電極間に、複数本の硫化亜鉛ナノベルトを電極間に渡し掛し、(a、b)2種類の紫外線検知センサーを作製した(ただし、aの場合よりもbの場合のほうが渡し掛けた硫化亜鉛ナノベルトの本数は多い)。図8は各々の紫外線検知センサーで、左側は低倍率SEM像、中央が電流−電圧特性曲線、右側が320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流を測定した結果である。この図から、渡し掛けた硫化亜鉛ナノベルトの本数が多いほど、電流−電圧特性曲線の傾斜が大きく、また、320nmの波長の光をオン、オフさせたときの光電流値も大きく、したがって感度が高いことが分かる。
また、この図8bを、実施例1の図5bと比べると、紫外線検知感度は約50倍高まり、また、320nmの波長の光をオン、オフさせたときのレスポンスも非常に安定となったことが分かる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】Yun−Yue Lin、ほか、Appl.Phys.Lett.、92巻、233301頁、2008年。
【非特許文献2】Ying−Chun Zhu、ほか、Appl.Phys.Lett.、82巻、1769頁、2003年。
【非特許文献3】Xiaosheng Fang、ほか、Adv.Mater.、19巻、2593頁、2007年。
【非特許文献4】Xiaosheng Fang、ほか、Adv.Funct.Mater.、15巻、63頁、2005年。
【非特許文献5】Yong Ding、ほか、Chem.Phys.Lett.、398巻、32頁、2004年。
【非特許文献6】Changhao Liang、ほか、J.Phys.Chem. B、108巻、9728頁、2004年。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域に特徴的に存在する、ベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルト。
【請求項2】
前記発光ピークは337±4nmに存在する、請求項1の硫化亜鉛ナノベルト。
【請求項3】
陰極線ルミネッセンスによる可視域の発光ピークは、前記紫外域に存在する発光ピークに比べ低く幅広い、請求項1又は2の硫化亜鉛ナノベルト。
【請求項4】
前記可視域における発光ピークは550±10nmに存在する、請求項3の硫化亜鉛ナノベルト。
【請求項5】
陰極線ルミネッセンスによる発光ピークが紫外域に特徴的に存在するベルト状に単結晶化した硫化亜鉛ナノベルトの製造法で、次のステップを含む製造法:
(1)加熱炉にセットした筒状加熱管の中央部に硫化亜鉛粉末を置き、その下流側に金薄膜付きシリコン基板を置く。
(2)前記筒状加熱管中の酸素が除去されるまで、その筒状加熱管中へ、不活性ガスを導入する。
(3)不活性ガスを所定の流速で導入しながら、加熱炉を17±5℃/minの昇温速度で室温から1000〜1200℃まで昇温させたのち、その温度で一定時間保つ。
(4)放冷後、金薄膜付きシリコン基板上に堆積した堆積物を回収する。
【請求項6】
前記工程(3)における不活性ガスの流速は、前記工程(2)における不活性ガスの流速よりも低く、線速度として2〜20cm/minである、請求項5の製造法。
【請求項7】
紫外光を受けて、その光の強さに応じた強さの電気を発生する光電変換部材を有する紫外線検知センサーであって、その光電変換部材として請求項1〜4のいずれかの硫化亜鉛ナノベルトが用いられている紫外線検知センサー。
【請求項8】
以下の(a)〜(c)を含んで構成される紫外線検知センサー。
(a)絶縁層に覆われたSi基板、
(b)前記絶縁層上に置かれた請求項1〜4のいずれかの硫化亜鉛ナノベルト、及び
(c)前記硫化亜鉛ナノベルトの上に形成された2つの分離された金属電極。
【請求項9】
前記絶縁層はSiOまたはAlである、請求項8の紫外線検知センサー。
【請求項10】
前記絶縁層の厚さは200nmから600nmの範囲である、請求項8又は9の紫外線検知センサー。
【請求項11】
前記電極は、Crの層がAuの層の下に設けられたAu/Cr構成である、請求項8〜請求項10のいずれかの紫外線検知センサー。
【請求項12】
前記Auの層の厚さは50nmから150nmの範囲であり、前記Crの層の厚さは5nmから15nmの範囲である、請求項11の紫外線検知センサー。
【請求項13】
以下の(i)及び(ii)のステップを有する紫外線検知センサーの製造法。
(i)絶縁層で覆われたSi基板上に、請求項1〜4のいずれかの硫化亜鉛ナノベルトを分散させる;
(ii)光リソグラフィーを用いて前記Si基板上にレジストパターンを形成し、金属電極用の金属材料を前記Si基板及び前記レジストパターン上に電子ビームデポジションし、その後にリフトオフプロセスを行うことにより、前記ナノベルトの上に金属電極をパターン形成する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−12244(P2011−12244A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274154(P2009−274154)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月26日 インターネットアドレス「http://www3.interscience.wiley.com/journal/10008336/home」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】