説明

硫化水素含有液の処理方法及び処理装置。

【課題】硫化水素を含有する液から、光触媒反応を用いて硫化水素の分解及び水素の回収をするための方法及び装置を提供する。
【解決手段】硫化水素含有液10を収容した液槽1に、金属硫化物などからなる光触媒をチタン金属基板やITO等の導電性透明基板に担持させた光触媒電極2と、白金、ニッケル等の金属電極3とを浸漬し、光触媒電極2と金属電極3との間に電源5により電圧を印加しつつ、光触媒電極2の光触媒を光20に曝して硫化水素を分解し、水素を発生させる方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素を含有する液から光触媒反応により水素を回収するための方法、並びにそのために使用される装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原料に硫黄を使用する化学工場や、石油精製工場の脱硫設備、廃棄物処理設備等では硫化水素ガスや硫化水素含有液が多量に排出されており、硫化水素から硫黄と水素とを分離して回収し、それぞれを再利用することが環境問題、資源活用の面から強く求められている。
【0003】
例えば、硫化水素ガスを吸収したアルカリ吸収液を電気分解し、正極に硫黄を析出させ、負極で水素ガスを発生させることが行われている(特許文献1参照)。
【0004】
また、電気分解に代えて、光触媒電極と金属電極とを硫化水素含有液に浸漬し、光触媒電極に光を照射して光触媒反応により水素ガスを発生させる方法も知られている。本出願人も先に、光触媒電極を有する液槽と金属電極を有する液槽とを陽イオン交換膜で分離して光触媒電極側の液槽に硫化水素含有液を収容し、光触媒電極と金属電極とを電気的に接続した状態で光触媒電極に光を照射し、光触媒反応により金属電極側の液槽から水素ガスを発生させる方法を提案している(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−171482号公報
【特許文献2】特開2006−307333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電気分解による方法では、陽極と、液中の硫化物イオンまたは水硫化物イオンとの間の電子移動の効率が経時的に悪くなるという問題がある。
【0007】
また、本出願人が提案する方法では、分解効率を高めるために金属電極側の液槽を酸性にすることが行われるが、その場合、陽イオン交換膜が劣化し易くなり、長期安定性の面で懸念がある。陽イオン交換膜が破損すると、光触媒電極側の液槽内の液と金属電極側の液槽内の液とが混合して液全体が酸性になり、有害な硫化水素ガスが発生する。そのため、陽イオン交換膜の破損を防ぐための処置や、陽イオン交換膜が破損した場合でも液全体が酸性にならないようにする処置が別途必要になる。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記従来技術の欠点を克服し、光触媒を用いて高効率で硫化水素の分解及び水素の生成を可能にする方法、並びにこの方法に使用する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下を提供する。
【0010】
(1)硫化水素含有液に、光触媒を担持した光触媒電極と、金属電極とを浸漬し、前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加しつつ前記光触媒を光に曝して水素を発生させることを特徴とする硫化水素含有液の処理方法。
(2)太陽電池で発電して前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加することを特徴とする前記(1)記載の硫化水素含有液の処理方法。
(3)前記光触媒電極に、緑色レーザ光を照射することを特徴とする前記(1)または(2)記載の硫化水素含有液の処理方法。
(4)硫化水素含有液を収容し、かつ、前記硫化水素含有液に光触媒を担持した光触媒電極と、金属電極とが浸漬するように配置された液槽と、
前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加する電源と、
前記光触媒電極に光を照射する光源を備え、
前記硫化水素含有液に前記光触媒電極と前記金属電極とを浸漬し、前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加しつつ前記光触媒を光に曝して水素を発生させることを特徴とする硫化水素含有液の処理装置。
(5)前記電源が太陽電池であることを特徴とする前記(4)記載の硫化水素含有液の処理装置。
(6)前記光源より緑色レーザ光を照射することを特徴とする前記(4)または(5)記載の硫化水素含有液の処理装置。
(7)前記光触媒が金属硫化物を含むことを特徴とする前記(4)〜(6)の何れか1項に記載の硫化水素含有液の処理装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、光触媒反応による分解と電気分解とを複合したものであり、それぞれ単独で分解するよりも硫化水素含有液を効率よく硫黄と水素とに分解でき、しかも電気分解を行うための電源として太陽電池を用いることで、光エネルギーを効率良く使い、クリーンかつ安価に実施することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の硫化水素含有液の処理装置の一例を示す模式図である。図示されるように、液槽1に硫化水素含有液10が収容されており、硫化水素含有液10に浸漬するように光触媒電極2と金属電極3とが対向配置されている。また、光触媒電極2と金属電極3とは、光触媒電極2が陽極で、金属電極3が陰極となるように電源5に接続されている。
【0014】
光触媒電極2は、例えば、チタン等の金属基板やITO等の導電性透明基板の表面に光触媒を担持させたものとすることができる。光触媒は、特に限定されないが、金属硫化物を含むものが好ましい。金属硫化物を含むものが好ましい理由は、硫化水素イオン(HS)が金属硫化物の表面に吸着すると水素発生電位が押し下げられるほか、金属元素の溶出に対してHSによる還元及び自己修復作用が生じ、その結果腐食せず、安定で長寿命の電極が実現するためである。金属硫化物としては、照射光をそのまま光触媒反応に利用することができる硫化カドミウムまたは硫化亜鉛を好適に挙げることができる。
【0015】
また、光触媒の形態としては、粒子状、薄膜状等任意の形状のものを制限なく使用することができる。粒子としては、特開2003−265962号公報及び特開2004−25032号公報に開示されている層状ナノカプセル構造を持つ微粒子が、触媒活性が高く、太陽光はもとよりXe光や緑色レーザ光のような放射照度の高い光に対する耐光性が高いため好ましく、適当なバインダで基材の表面に固定化される。また、薄膜状光触媒は、特開2003−181297号公報に開示されているように、導電性材料からなる基材の表面に光触媒を析出させて、薄膜状に形成したものであり、少量の触媒によって広い面積を持つ光触媒が生成でき、照射角を最適な角度にすることで照射光のエネルギーの変換効率を向上させることができるという利点を有するために、好ましい形状の触媒といえる。
【0016】
金属電極3としては、特に限定されないが、白金、ニッケル等の水素化反応に活性を持つ金属が好ましく、特に白金が好ましい。また、平板でもよく、メッシュ板のように細孔が形成されていてもよい。
【0017】
また、電源5として太陽電池を用いることにより、光エネルギーを効率良く使い、クリーンな運転の実現や運転コストの低減を図ることができる。
【0018】
液槽1は、外部(図では側面)から光20が光触媒電極2に入射するため、透光性であり、例えば透明なガラスや、ポリカーボネート等の樹脂で形成される。但し、光20が硫化水素含有液10の液面上方から照射される場合は、透光性である必要はない。
【0019】
光20は、太陽光等の可視光でもよいが、放射照度が高いことからXe光や緑色レーザ光が好ましく、緑色レーザ光が特に好ましい。
【0020】
上記のように構成された処理装置を使用して、硫化水素含有液10を処理するには、光触媒電極2と金属電極3との間に電圧を印加しながら、光源(図示せず)から光20を照射する。光エネルギーにより、光触媒電極2で硫化水素水中の硫化水素イオン(HS)を水素イオン(H)とポリ硫化物イオン(S2−)に分解する。そして、分解時に発生した電子と水素イオンが金属電極3に移動し、金属電極3が水素イオンを還元して水素ガスを発生する。この分解反応の効率は、分解生成物である水素ガス発生量を測定する、もしくは、光触媒電極2と金属電極3との間の電流値を測定することにより評価される。本発明では、この分解反応を、光触媒電極2と金属電極3との間に電圧を印加して促進させる。
【0021】
処理条件は、硫化水素濃度、光触媒の種類、光20の波長、電極間距離(x)等により適宜設定されるが、例えば光触媒電極にXe光を照射する場合の放射照度は0.01〜1W/cm、緑色レーザ光を照射する場合の放射照度も0.01〜1W/cmが好ましく、光触媒電極と金属電極との間の印加電圧は0.5〜2Vが好ましい。電源5として太陽電池を用いる場合は、前記の印加電圧が得られるような出力のものを用いる。
【0022】
尚、処理装置は、図1に示す構成の他、図2に示すように、光触媒電極2と金属電極3とを直交させて配置してもよく、図3に示すように、金属電極3をメッシュ板で形成し、この金属電極側から光20を入射させてもよい。但し、図1に示すように光触媒電極2と金属電極3とを対向配置し、光触媒電極2に光20を入射させる構成が最も効率が高い。
【0023】
また、硫化水素含有液は、硫酸や硫黄系殺虫剤の製造工場の硫化水素含有廃液、石油の脱硫工程で発生した硫化水素含有廃水、または温泉の廃液等の初めから硫化水素が含まれている被処理液と、水素や硫黄等を必要とする化学工業分野の一方の原料としての硫化水素ガスを処理するために、水等の液体に硫化水素ガスを吹き込んで溶解させた被処理液の両方を包含する。後者の場合は、硫化水素ガスの溶存性を高めるために、水酸化ナトリウムのようなアルカリ剤を添加して硫化水素含有液をアルカリ性にすることは、当業界においては周知のことである。アルカリ性にすることにより、硫化水素イオン(HS)濃度を上げ、水素発生電位を下げることができる。
【0024】
また、下水処理場等で発生する硫化水素ガスを処理することもできる。この場合、下水処理場等で発生する硫化水素を含むガスは二酸化炭素も多く含んでいる。このような硫化水素と二酸化炭素を含むガスを前記の通りアルカリ性液に吹き込んでも、二酸化炭素の影響で硫化水素のアルカリ性液への吸収・溶解効率が低下する。そこで、硫化水素と二酸化炭素とを含むガスを、例えば常温(室温)下で、メチルジエタノールアミン水溶液等に吹き込み、これにより、硫化水素を該メチルジエタノールアミン溶液に吸収・溶解させ、一方、二酸化炭素は該メチルジエタノールアミン溶液に吸収・溶解されずに排出させることができる。次いで、硫化水素を吸収・溶解させたメチルジエタノールアミン溶液を常温よりも高い温度(例えば約70℃)に加温し、空気を吹き込むことにより、該メチルジエタノールアミン溶液から吸収・溶解されていた硫化水素を脱離し、二酸化炭素を(ほとんど)含まない、純度(濃度)の高い硫化水素ガスを得ることができる。また、得られた高純度硫化水素ガスを再度または複数回同処理を繰り返して行うことにより、僅かに残った二酸化炭素をさらに除去し、より高純度の硫化水素ガスを得ることができる。そして、この得られた二酸化炭素を含まない、純度の高い硫化水素ガスをアルカリ性液に吹き込こみ、硫化水素含有液とし処理することができる。
【実施例】
【0025】
以下に、試験例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何等制限を受けるものではない。
【0026】
〔試験例1〕
図1に示すように、透明なアクリル製の液槽に、濃度0.1mol/リットルの硫化水素含有液を収容し、光触媒電極と金属電極とを対向させて硫化水素含有液に浸漬した。電極間の距離は1cmとした。また、光触媒電極と金属電極との間に太陽電池を接続した。尚、光触媒電極及び金属電極は、太陽電池との接続部が硫化水素含有液の液面から露出するように浸漬した。光触媒電極は、特開2004−25032号公報に開示された層状ナノカプセル構造を持つ硫化カドミウム光触媒粒子をバインダと混合し、スキージ法により縦10cm、横4.8cmのチタン基板の表面に塗布・固定化させて作製した。また、金属電極には、チタン基板と同形状の白金のメッシュ板を用いた。また、太陽電池には、縦5.2cm、横3.1cmの領域にアモルファスシリコンが蒸着されたものを用いた。
【0027】
そして、太陽電池シリコン蒸着部に放射照度15.5mW/cmのXe光を照射し、硫化水素含有液に浸漬した光触媒電極の縦3.4cm、横1.8cmの部分に放射照度99.7mW/cmのXe光を照射して光触媒反応を起こさせ、光触媒電極と金属電極との間に流れる電流を測定した。このときの太陽電池の出力電圧は1.0Vであった。
【0028】
次に、比較のために、光触媒電極と金属電極との間に太陽電池を接続せず光触媒電極と金属電極を直結し、他は同一にして電極間に流れる電流を測定した。また、光触媒電極の代わりにチタン基板を電極とし、他は太陽電池を接続することを含めて同一にして電極間に流れる電流を測定した。結果を下表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、太陽電池が有る場合は無い場合に比べて約5倍の電流が流れており、光触媒電極と金属電極との間に電圧を印加しながら光触媒反応を行うことにより、より効率良く硫化水素含有液から水素ガスを発生させることができる。実施例1では、1.3ml/hourの水素ガスを製造することができた。
【0031】
〔試験例2〕
特開2003−181297号公報に記載の化学浴槽析出法(CBD法)に準じて縦7.5cm×横2.6cmのITO基板を硫化カドミウム溶液に浸漬し、ITO基板の表面に硫化カドミウムを析出・固定化させて作製した光触媒電極を用いた以外、試験例1と同一の構成の処理装置を作製した。
【0032】
そして、太陽電池シリコン蒸着部に放射照度15.5mW/cmのXe光を照射し、太陽電池の出力が安定した後、緑色レーザ光を光触媒電極に垂直入射して光触媒反応を起こさせた。緑色レーザ光の放射照度は0.1W/cmとした。その際、光触媒電極と金属電極との間隔(z)を1cm、5cm、10cm、15cmに変え、光触媒電極と金属電極との間に流れる電流を測定した。
【0033】
また、比較のために、光触媒電極と金属電極との間に太陽電池を接続せず光触媒電極と金属電極を直結し、他は同一にして電極間に流れる電流を測定した。結果を下記表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すように、太陽電池が有る場合は無い場合に比べて2倍以上の電流が流れており、光触媒電極と金属電極との間に電圧を印加しながら光触媒反応を行うことにより、より効率良く硫化水素含有液から水素ガスを発生させることができる。
【0036】
〔試験例3〕
光触媒電極と金属電極との配置の違いによる電流発生効率の違いを調べるために、図1に示すような対向配置で、かつ光触媒電極に直接光を照射した場合(電極配置A)、図2に示すような直交配置した場合(電極配置B)、図3に示すような対向配置で、かつ金属電極を透過させて光触媒電極に光を照射した場合C(電極配置C)について、それぞれ電極間に流れる電流を測定した。尚、何れの場合も、光触媒電極、金属電極、硫化水素含有液、太陽電池は試験例2と同一のものを用い、太陽電池に照射するXe光の照射強度も同一であるが、緑色レーザ光の放射照度は、液槽表面で0.1W/cmとした。
【0037】
また、比較のために、光触媒電極と金属電極との間に太陽電池を接続せず、他は同一にして電極間に流れる電流を測定した。
【0038】
結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表3に示すように、光触媒電極と金属電極とを対向配置させ、光触媒電極に直接光を照射する場合が硫化水素含有液の分解に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る硫化水素含有液の処理装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る硫化水素含有液の処理装置の他の例を示す模式図である。
【図3】本発明に係る硫化水素含有液の処理装置の更に他の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1 液槽
2 光触媒電極
3 金属電極
5 電源
10 硫化水素含有液
20 光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素含有液に、光触媒を担特した光触媒電極と、金属電極とを浸漬し、前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加しつつ前記光触媒を光に曝して水素を発生させることを特徴とする硫化水素含有液の処理方法。
【請求項2】
太陽電池で発電して前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加することを特徴とする請求項1記載の硫化水素含有液の処理方法。
【請求項3】
前記光触媒電極に、緑色レーザ光を照射することを特徴とする請求項1または2記載の硫化水素含有液の処理方法。
【請求項4】
硫化水素含有液を収容し、かつ、前記硫化水素含有液に光触媒を担持した光触媒電極と、金属電極とが浸漬するように配置された液槽と、
前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加する電源と、
前記光触媒電極に光を照射する光源を備え、
前記硫化水素含有液に前記光触媒電極と前記金属電極とを浸漬し、前記光触媒電極と前記金属電極との間に電圧を印加しつつ前記光触媒を光に曝して水素を発生させることを特徴とする硫化水素含有液の処理装置。
【請求項5】
前記電源が太陽電池であることを特徴とする請求項4記載の硫化水素含有液の処理装置。
【請求項6】
前記光源より緑色レーザ光を照射することを特徴とする請求項4または5記載の硫化水素含有液の処理装置。
【請求項7】
前記光触媒が金属硫化物を含むことを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載の硫化水素含有液の処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−90466(P2010−90466A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264185(P2008−264185)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(508166671)財団法人航空宇宙技術振興財団 (4)
【Fターム(参考)】