説明

硫化物塩の生成方法

【課題】パルプ製造におけるアルカリ回収工程において、簡便な方法で、効率的にアルカリ溶液中に硫化ナトリウムや二硫化ナトリウムなどの硫化物塩を生成させる方法を提供すること。
【解決手段】硫化ナトリウムを10質量%以上含むアルカリ溶液に硫黄を添加し混合することで、硫化ナトリウムや二硫化ナトリウムなどの硫化物塩を効率的に生成させることができる。また、上記方法にて硫化ナトリウムを10質量%以上含むアルカリ溶液が、緑液である硫化物塩の生成方法であると好ましい。さらに、上記方法において、溶液中に含まれる硫化ナトリウム量に対する硫黄の添加量が、0.5質量%以下である硫化物塩の生成方法であると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフトパルプ製造におけるアルカリ回収工程における硫化物塩の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラフトパルプ製造工程において使用される蒸解薬液は、水酸化ナトリウムおよび硫化ナトリウムを含むアルカリ水溶液であり、一般的に白液と呼ばれる。この白液を用い、通常クラフト蒸解にて求められる、白液添加量、反応温度、圧力、時間、白液中の硫化ナトリウム含有率等の条件の下、木材チップの蒸解を行う。クラフト蒸解後にパルプと分離されて発生する黒液は、蒸解時に発生したリグニン等の有機成分とナトリウム塩、カルシウム塩を始めとする無機成分からなる。黒液は濃縮後、薬品回収ボイラーの燃料として利用される。ボイラーでの燃焼後に残った無機成分はスメルトと呼ばれ、希薄なアルカリ水溶液である弱液に溶解し緑液とする。この緑液は、苛性化工程にて白液に転換され、再び蒸解薬液として利用される。
【0003】
上記硫化ナトリウム含有率とは、溶液中に含まれる水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウムの合計質量に対する硫化ナトリウム質量の割合を示すものである。なお、これらの質量は、ナトリウム質量を基準として酸化ナトリウム換算された質量である。これに似たものとして、硫化度があるが、これは溶液中の酸化ナトリウム換算した水酸化ナトリウムと硫化ナトリウム合計濃度に対する酸化ナトリウム換算した硫化ナトリウム濃度をパーセント表示した数字である。硫化ナトリウム含有率や硫化度が高くなることで蒸解反応が促進されることが広く知られている。
【0004】
また、蒸解工程ならびに回収ボイラー、苛性化工程は一つの循環系にあることから、蒸解工程ならびに薬品回収工程での黒液、緑液、白液、弱液のいずれかのアルカリ水溶液中の硫化ナトリウム含有率を上げることで、結果的に蒸解薬液である白液中の硫化ナトリウム含有率を高くすることができる。
【0005】
蒸解薬液中の硫化ナトリウム含有率を高くするためには、白液中に硫黄を添加して硫化ナトリウムを生成させる方法がある。その際、白液中に均一に硫黄を分散させるために、硫黄を溶融させた後に白液に添加する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。しかし、硫黄の溶融や添加、分散に専用の設備が必要であり、容易には実施することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−119084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情を鑑みたものであって、簡便な方法で、効率的にアルカリ溶液中に硫化ナトリウムや二硫化ナトリウムなどの硫化物塩を生成させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために検討した結果、
本発明は、クラフトパルプ製造におけるアルカリ回収工程において、溶液中のアルカリ量に対して硫化ナトリウムを10質量%以上含むアルカリ溶液に硫黄を添加することを特徴とする硫化物塩の生成方法である。
【0009】
また、上記方法にて硫化ナトリウムを10質量%以上含むアルカリ溶液が、緑液である硫化物塩の生成方法であると好ましい。さらに、上記方法において、溶液中に含まれる硫化ナトリウム量に対する硫黄の添加量が、0.5質量%以下である硫化物塩の生成方法であると好ましい。
【発明の効果】
【0010】
硫化ナトリウムを10%以上含むアルカリ溶液に硫黄を添加し混合することで、硫化ナトリウムや二硫化ナトリウムなどの硫化物塩を効率的に生成させることができ、特にアルカリ溶液が緑液の場合にはより効果的である。簡易な方法でアルカリ溶液中の硫化物塩の濃度を高くすることができ、蒸解工程で使用する白液中の硫化ナトリウム含有率が高くなることでパルプ製造効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるアルカリ回収工程とは、クラフト蒸解後にパルプと分離されて発生する黒液を回収ボイラーにて燃焼させ、その後に残った無機成分からアルカリ分を回収する工程である。
【0012】
本発明におけるアルカリ溶液とは、クラフトパルプ製造工程ならびにアルカリ回収工程で用いられる緑液、白液、黒液、弱液と称されるナトリウム塩を主体としたアルカリ分を含む水溶液である。
【0013】
本発明における溶液中のアルカリ濃度に対して硫化ナトリウムを10質量%以上含むとは、硫化ナトリウム質量(酸化ナトリウム換算)がアルカリ溶液中の水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウムの合計のアルカリ質量(酸化ナトリウム換算)に対して10質量%以上含むことを意味しており、10質量%未満のアルカリ溶液では硫黄の溶解性が低いため、本発明の硫化物塩の生成方法では効率が悪くなる傾向がある。
【0014】
アルカリ溶液に含まれる硫化ナトリウム濃度は、高い程好ましいが、実際の工程においては5〜40質量%の範囲であることが多い。
【0015】
硫黄の添加量は、アルカリ溶液中に含まれる硫化ナトリウム量に対し、0.5質量%(硫黄換算として)以下とすることが望ましい。0.5質量%を超える量では、硫黄の溶解が不十分となり未溶解物が発生しやくなるため効率的ではなくなることがある。
【0016】
硫黄は、粉末状やフレーク状のものを用いることができるが、できるだけ細かいものを用いた方が溶解しやすく有利である。硫黄は乾燥状態のままアルカリ溶液に添加すれば良い。添加方法は連続あるいは間欠のいずれでも良いが、アルカリ溶液中に含まれる硫化ナトリウム量に対して0.5質量%以下となるように、連続的に添加することが好ましい。
【0017】
硫黄の添加場所として、アルカリ回収工程において通常装備されている緑液や弱液のタンク、回収ボイラーのディゾルバータンクなど既存の設備を活用することができるが、アルカリ溶液に硫黄を均一に分散させるためには、アジテーターあるいは循環ポンプ等の攪拌装置を有するタンクに添加することが望ましい。この条件を満たす場所としてディゾルバータンクが有効である。
【0018】
ディゾルバータンクに添加するためには、直接添加する他、スメルトの希釈のためにディゾルバータンクに送られる弱液のタンクに添加する方法でも良い。また、一部の緑液あるいは弱液などを抜き出して硫黄を添加した後、元の緑液や弱液に戻す方法でも良い。
【0019】
硫黄の溶解には温度が高い方が有利であり、アルカリ溶液の温度が高い程、迅速な硫化物塩の生成が期待できる。一般に40℃以上の温度であることが好ましい。
【0020】
目標とする硫化物塩の生成量は、パルプ製造工程中の特に蒸解工程の条件によって異なり、当業者が適宜設定することができる。アルカリ溶液中の硫化物塩の濃度を測定するなどしながら、添加する硫黄の量や添加時間、添加頻度等の条件を適宜設定すれば良い。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例および比較例を説明する。
【0022】
三菱製紙株式会社八戸工場において採取した緑液中の全アルカリ量、硫化ナトリウム量を米国Tappi Standard Methods T624 os−68方法に基づき測定し、これに水酸化ナトリウムと蒸留水を適宜加えることによりアルカリ量に対する硫化ナトリウム量の割合が異なるアルカリ溶液を調製した。このアルカリ溶液1000mLを攪拌しながら60℃に保ち、表1に示す割合で硫黄を添加したときの溶液中の硫化ナトリウム含有率を同様の方法で測定し、硫化ナトリウム含有率の上昇ポイントと、1時間後にアルカリ溶液をろ紙でろ過した際の残渣を未溶解の硫黄として定量し硫黄溶解度を算出してこれを掲げて比較を行った。ここで示す、硫化ナトリウム含有率の上昇ポイントとは、硫黄を添加する前のアルカリ溶液中の硫化ナトリウム含有率(仮にAと定義する)に対して、硫黄を添加した後のアルカリ溶液中の硫化ナトリウム含有率(仮にBと定義する)の比率を意味しており、B/Aの値を百分率で示したものである。
【0023】
【表1】

【0024】
結果、アルカリ溶液中に含まれる硫化ナトリウム量に対し、添加する硫黄の量が0.5質量%より多い場合、溶液中の硫化ナトリウム含有率の上昇ポイントは高いが未溶解の硫黄が発生した。このことは、実機の場合は、ドレックスあるいはグリッドとして未溶解の硫黄が除去されてしまうことを示しており、効率的ではない。一方、添加する硫黄の量が0.5質量%以下の場合、未溶解の硫黄が発生することなく、溶液中の硫化ナトリウム含有率を上昇させることができた。
【0025】
実施例に示す通り、硫黄を添加することで硫化物塩が生成したことにより硫化ナトリウム含有率の高いアルカリ溶液を簡易にかつ効率的に生成することができた。このことから、硫化ナトリウム含有率の高い白液を簡単な方法で生成することが可能であることは明らかであり、実機においてはこれにより、クラフトパルプの製造効率を向上させることができる。
【0026】
本発明に示す、硫化ナトリウムを含むアルカリ溶液に対し硫黄を添加するだけという簡単な方法で、硫化物塩を生成させ、パルプ製造工程で使用する緑液ならびに白液中の硫化ナトリウム含有率を簡単な方法にて上昇させることに貢献できる。
【0027】
本発明は、クラフトパルプ製造工程において使用する白液中の硫化ナトリウム含有率を上昇させることを可能とする方法であり、蒸解工程での収率向上や消費アルカリ量の低減などの効果をもたらすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプ製造におけるアルカリ回収工程において、溶液中のアルカリ量に対して硫化ナトリウムを10質量%以上含むアルカリ溶液に硫黄を添加することを特徴とする硫化物塩の生成方法。
【請求項2】
前記硫化ナトリウムを10質量%以上含むアルカリ溶液が、緑液である請求項1記載の硫化物塩の生成方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液中に含まれる硫化ナトリウム量に対する硫黄の添加量が、0.5質量%以下である請求項1または2記載の硫化物塩の生成方法。

【公開番号】特開2010−229602(P2010−229602A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80193(P2009−80193)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】