説明

硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度測定方法、めっき方法及びめっき装置

【課題】簡単な操作により、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度を定量分析することが可能な濃度測定方法、それを用いためっき方法、および、めっき装置を提供することを目的とする
【解決手段】360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長の光を用いて硫酸銅めっき液の吸光度を測定し、前記吸光度から硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度を算出することを特徴とする硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度測定方法を提供する。また、当該測定方法を用いためっき方法、めっき装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度測定方法、めっき方法及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸銅めっき液としては、硫酸銅および硫酸、塩素からなるめっき液に、添加成分としてブライトナー成分(促進剤)、レベラー成分、キャリアー成分を添加したものが一般的に用いられている。そして、上記のレベラー成分の添加剤としてはヤヌスグリーンBに代表される染料系添加剤が多く用いられている。
【0003】
前記硫酸銅めっき液はめっき反応によって、硫酸、塩素イオン濃度が低下し、銅イオン濃度は増加していく。また、添加剤成分も、めっき反応によって徐々に消耗されていく。
【0004】
上記のめっき液を構成する各成分の過不足はめっきの均一性や仕上がり状態に大きく影響を及ぼすため、めっき品質を保持するためには、各成分を一定濃度に管理する必要がある。
【0005】
従来の硫酸銅めっき液の管理方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、硫酸は中和滴定法、塩素イオン、銅イオンは比色法により自動分析管理を行い、その結果に基づいて成分の過不足が調整されていた。
【0006】
そして、染料系添加剤については、実験室的な分析手法としては、非特許文献1のような電気化学分析を用いた定量分析法が知られているが、製造工程ではハルセル試験により得られためっき面の色彩によって添加剤の消耗度を定性的に管理する方法が取られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−187800号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ビアフィリング酸性銅めっき添加剤の電気化学的分析 西谷伴子 他(表面技術協会講演大会講演要旨集 2009年3月2日発行、No.119、191頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した、非特許文献1のような電気化学分析法では、分析に関する専門知識、および高価な分析設備が必要なため、実験室レベルの利用に限られ、実際のめっき品製造工程で使用することは難しかった。また、ハルセル試験は簡易的に行なうことが可能であるが、あくまで色彩による定性的な分析に留まり定量管理が難しいという問題があった。
【0010】
本発明は上記従来技術が有する問題に鑑み、簡単な操作により、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度を定量分析することが可能な濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明は、360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長の光を用いて硫酸銅めっき液の吸光度を測定し、前記吸光度から硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度を算出することを特徴とする硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フレキシブル配線基板(FPC)の製造等で使用される硫酸銅めっき液(酸性銅めっき液)において、めっき液中の染料系添加剤の濃度を簡易な操作で定量分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】酸性銅水溶液、及び、ヤヌスグリーンBを添加した硫酸銅水溶液の吸光度の波長依存性
【図2】図1の結果から作製した、510nm〜585nmの波長の光における検量線
【図3】ブライトナー成分、キャリアー成分を添加した硫酸銅水溶液の吸光度の波長依存性
【図4】本発明に係る第3の実施形態におけるめっき装置の説明図
【図5】本発明に係る実施例における基本組成めっき液の吸光度の波長依存性
【図6】本発明に係る実施例における染料系添加剤についての検量線
【図7】本発明に係る実施例において測定した硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度変化
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[第1の実施形態]
本発明の発明者らは、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤を定量する手段について鋭意検討を行なった結果、硫酸銅等の基本液に含まれる成分が光吸収しない波長域の光を用いて測定した吸光度から染料系添加剤の含有量を算出できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明では硫酸銅めっき液に360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長を有する光を照射して測定した吸光度から、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度を算出する。
【0015】
本実施の形態では、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤濃度の測定方法について以下に説明する。
【0016】
まず、硫酸銅めっき液中の各種成分について説明する。硫酸銅および硫酸、塩素からなるめっき液を基本液(基本組成液)として用いている。そして、基本液にはさらに、添加成分として、析出抑制剤であるレベラー成分、析出促進剤であるブライトナー成分、キャリアー成分等を添加することができる。
【0017】
レベラー成分としては、本発明で分析の対象としている染料系添加剤が挙げられ、染料系添加剤であれば同一または類似した吸光特性を示すことから特に限定されることなく使用できる。染料系添加剤としては例えば、その構造中に窒素を含むヤヌスグリーンB、フェノサフラニン、サフラニン、クリスタルバイオレット、メチルバイオレット等が挙げられる。
【0018】
また、ブライトナー成分、キャリアー成分としては、特に限定されることなく、各種公知の成分を用いることができる。具体的には、ブライトナー成分としては硫黄系添加剤であるビス−(3−スルホプロピル)−ジスルフィド(以下、単にSPSとする)、3メルカプト−1−プロパンスルホン酸(MPS)、3−アミジノチオ−1−プロパンスルホン酸(UPS)等が挙げられる。
【0019】
さらに、キャリアー成分としては、ポリエチレングリコール(以下、単にPEGとする)、ポリプロピレングリコール(PPG)や、PEGとPPGの共重合体などが挙げられる。
【0020】
表面が平坦なめっき皮膜を得るために、硫酸銅めっき液中には、染料系添加剤以外にも上記した添加剤成分を含有することが好ましく、ブライトナー成分である硫黄系添加剤、さらには、キャリアー成分を含有することが好ましい。
【0021】
そして、本実施の形態においては、上記のような成分を有する硫酸銅めっき液の吸光度を測定し、その測定値から染料系添加剤の濃度を算出するものである。吸光度を測定する際には、分光光度計を用いることになるが、分光光度計については、所定の波長域での吸光度を測定できるものであれば特に限定されることなく使用することができる。
【0022】
ここで、硫酸銅水溶液(銅30g/L、硫酸200g/L、塩酸50mg/L)にそれぞれ5〜20mg/Lの間の所定濃度になるように染料系添加剤(ヤヌスグリーンB、図中ではJGBと記載)を添加した硫酸銅水溶液の吸光特性の波長依存性を図1に示す。また、比較のため、硫酸銅水溶液のみの試料についても併せて示している。
【0023】
なお、測定は、光路長が1cmとなる石英ガラスのセルに各試料を充填し、紫外可視分光光度計を用いて行った。以下、吸光度は同様の条件で測定を行っている。
【0024】
図1によると、335nm以上510nm以下の波長領域において、硫酸銅水溶液の吸光度はほぼ0であり、光吸収が起きていないことが分かる。これに対して、ヤヌスグリーンBを添加した試料は、上記波長領域で添加量に比例して吸光度が大きくなっている。特に360nm以上510nm以下の波長領域においては、その添加量に比例して吸光度が大きく変化している。
【0025】
ここで、図1の測定結果から作成した、510〜585nmの各波長の光を用いた場合のヤヌスグリーンBの検量線を図2に示す。
【0026】
図2の結果によると、波長が510nmの光を用いた場合、検量線の切片が0であり、さらには、測定値と検量線との差がほとんどないことが分かる。
【0027】
これに対して、535nm以上の検量線では、切片が0よりも大きくなっている。このため、図2中に示すように、切片が0になるように検量線を引こうとすると、測定値との差が大きくなった。これは、図1からも分かるように、535nm以上の波長領域では硫酸銅水溶液が、光吸収を起こしているためであり、切片の値は硫酸銅の濃度に依存して変動することとなる。このため、535nm以上の波長領域においては、染料系添加剤の濃度を正確に定量することが難しいと考えられる。
【0028】
次に、図3に上記360nm以上510nm以下の波長領域における他の添加成分の吸光特性の波長依存性を示す。ここでは、硫黄系添加剤(ブライトナー成分)であるSPSと、キャリアー成分であるPEGについて、各成分の濃度がそれぞれ1000mg/Lになるように添加した硫酸銅水溶液を用いて測定を行った。これは、通常めっき液に添加する場合よりも非常に高い濃度である。これによると、これらの添加成分は、360nm以上510nm以下の波長領域において光吸収を示さないことがわかる。
【0029】
以上の結果から、360nm以上510nm以下の波長領域で測定した場合、硫酸銅水溶液等のめっき液に含まれる染料系添加剤以外の成分は光吸収を示さず、測定対象である染料系添加剤のみが光吸収を示すことがわかる。このため、上記波長領域の光を用いて測定した吸光度から、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度を精度良く算出することが可能になる。
【0030】
ここで具体的な、硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度測定方法の手順を説明する。まず360nm以上510nm以下の波長領域から、測定に用いる光の波長を選択し、例えば図2に示した波長が510nmの光を用いた場合と同様に、該波長の光についての検量線を作成する。次いで測定したい染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液の吸光度を検量線で用いた光と同じ波長の光により測定し、その測定値と予め作成した上記検量線から濃度を算出することができる。
【0031】
なお、用いる光の波長は、360nm以上510nm以下の範囲から選択されたものであれば限定されないが、図1から分かるように、中でも、460nm以上510nm以下の波長領域においては、染料系添加剤の濃度による吸光度の差が大きくなる。このため、より高精度の濃度の算出が可能となるので、460nm以上510nm以下の波長領域の光を用いて測定することがより好ましい。
【0032】
これまで説明してきたように、本発明の測定方法によれば、従来、定量分析が困難であっためっき液中の染料系添加剤について、特別な操作等を要せずに簡便に定量分析することが可能となる。このため、めっき品製造工程等に適用することによって、めっき液の成分管理を容易に行うことができるようになる。
[第2の実施形態]
本実施の形態では、めっき方法について説明する。
【0033】
具体的には、染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液を用いためっき方法であって以下の(A)〜(C)の工程を有することを特徴とするめっき方法である。
(A)360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長を有する光により前記硫酸銅めっき液の吸光度を測定する工程
(B)測定した前記吸光度から、前記硫酸銅めっき液に含まれている前記染料系添加剤の濃度を算出する工程
(C)算出した前記濃度に基づいて前記硫酸銅めっき液に染料系添加剤を供給する工程。
【0034】
まず、上記めっき方法に用いる装置、材料について説明する。
【0035】
用いるめっき液としては、特にその組成は限定されるものではなく、染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液であれば使用することができる。例えば、第1の実施形態で説明したものと同様に、硫酸銅および硫酸、塩素からなるめっき液に、染料系添加剤、ブライトナー成分(硫黄系添加剤)およびキャリアー成分の添加剤を添加した硫酸銅めっき液を好ましく使用できる。
【0036】
また、用いる電気めっき槽の構造についても特に限定されるものではない。例えば、めっき槽内には染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液が入っており、前記めっき液に浸漬したアノード、カソード、及び、両者を接続し、直流電流を供給する電源部を有する構造が挙げられる。さらに、めっき槽内を攪拌するための攪拌装置等を設けることもできる
そして、本発明は上記した(A)工程において、めっき液の吸光度測定を行うものであるが、吸光度を測定する際に使用する分光光度計としては、所定の波長域での測定を行えるものであれば、特に限定されることなく使用することができる。例えば、紫外可視分光光度計を用いることができる。
【0037】
分光装置の設置形態についても特に限定されるものではなく、分析の頻度、めっき槽の大きさ等によって選択することができる。例えば、手動または自動でめっき液を適宜サンプリングして、分光光度計のセルにこれを供給して測定できるように設置する形態が挙げられる。また、分光光度計の光源部、受光部に接続された光ファイバープローブの測定部をめっき液内に配置、固定してめっき液内で直接吸光度を測定するように設置する形態なども挙げられる。ここでいう光ファイバープローブとは、光源部からの光が光ファイバーを介して、測定部でめっき液を透過し、再度光ファイバーを介して受光部に入るように構成されたものである。
【0038】
本発明は、上記した(A)〜(C)の工程を有するものであるが、これらの工程を行うタイミングについては特に限定されるものではなく、例えばめっき液を準備、調整する際や、めっき工程においてめっき液を管理するために行うことができる。
【0039】
以下に、めっき方法の手順について、上記(A)〜(C)工程をめっき工程中に行った例を用いて説明する。
【0040】
通常のめっき方法と同様に、硫酸銅めっき液内に浸漬した電極間に直流電流を流してめっきを開始する。この際の電流密度等のめっき条件については、目的とするめっき厚、基材の種類等によって、適宜選択される。
【0041】
そして、本実施の形態では、めっき工程の間に、所定の時間間隔で、硫酸銅めっき液に360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長を有する光を照射することよって吸光度を測定する工程を行う。次いで、予め作製しておいた検量線に基づいて、測定した吸光度から染料系添加剤の濃度を算出する工程を行うものである。
【0042】
ここで、吸光度を測定し、染料系添加剤の濃度を算出する間隔、測定条件等については特に限定されるものではなく、用いる基材の大きさ、めっき浴の組成、求められるめっき皮膜表面の平坦度等に応じて選択される。
【0043】
次に、前工程で算出した濃度に基づいて前記硫酸銅めっき液に染料系添加剤を供給する工程を行う。
【0044】
ここで、染料系添加剤の供給量、タイミング等の制御、判断基準は、めっき槽の大きさや、めっき液の組成、要求されるめっき皮膜の平坦度等に応じて選択されるものであり、限定されるものではない。具体的な制御手法の例を挙げると、予め規定しておいた濃度を基準として、算出した染料系添加剤濃度がこれを下回った場合には、めっき槽に染料系添加剤を所定量供給し、上回った場合には、供給することなくめっき工程を続けるとする方法が挙げられる。
【0045】
また、染料系添加剤の下限濃度と、上限濃度をそれぞれ規定しておき、算出された染料系添加剤濃度が下限濃度未満の場合には染料系添加剤の供給を開始し、上限濃度を超えていた場合には、供給を停止、または供給しない方法も挙げられる。
【0046】
それ以外にも、染料系添加剤が入ったタンクと、めっき槽とを配管で接続しておき、算出した濃度に基づいて、前記配管上に設けられたバルブの開度を制御する方法等も挙げられる。
【0047】
以上に説明しためっき方法によれば、硫酸銅めっき液内の染料系添加剤の濃度を、容易に一定の範囲内に維持、調整することができる。このため、得られためっき皮膜の表面に生じる凹凸の数を低減でき、高品質なめっき膜を成膜することが可能となる。
【0048】
なお、ここではめっき工程中に上記(A)〜(C)工程を実施した例を用いて説明を行ったが、これらの工程を行うタイミングは、めっき工程の間に限定されるものではない。例えば、めっき工程開始前、めっき液を調整する際等に染料系添加剤の濃度を算出し、その濃度を調整するために行うこともできる。
【0049】
また、本実施の形態では染料系添加剤の濃度を測定、制御しつつめっきを行うものであるが、めっき液中の他の成分についても各種分析方法によりその濃度を測定して、一定の範囲内になるように制御することが好ましい。
[第3の実施形態]
本実施の形態では、染料系添加剤の濃度を測定しながら電気めっきを行うことができるめっき装置について説明する。
【0050】
構成としては、染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液を用いためっき装置であって、360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長の光によりめっき槽内の硫酸銅めっき液の吸光度を測定する染料系添加剤濃度測定部と、前記吸光度から前記硫酸銅めっき液に含まれている染料系添加剤の濃度を算出し、算出した濃度に基づいて、染料系添加剤槽に対して補給信号を送信する染料系添加剤濃度制御部と、前記染料系添加剤濃度制御部からの補給信号に基づいて、めっき槽に染料系添加剤を供給する染料系添加剤槽とを有することを特徴とするめっき装置である。
【0051】
図4を用いて上記装置の構成について説明する。
【0052】
図4に示すように、本実施の形態に係るめっき装置は、めっき槽10、染料系添加剤濃度測定部11、染料系添加剤濃度制御部12、染料系添加剤槽13から構成されている。
【0053】
ここで、めっき装置を構成する各部材について説明する。
【0054】
まず、めっき槽10は、その構成については特に限定されるものではなく、公知の各種めっき槽を採用することができる。例えば、めっき槽内には染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液が入っており、前記めっき液に浸漬したアノード、カソード、及び、両者を接続し、直流電流を供給する電源部を有する構成が挙げられる。さらに、めっき槽内を攪拌するための攪拌装置等を設けることもできる。
【0055】
次に、染料系添加剤濃度測定部11は、所定の波長を有する光によって、めっき液の吸光度を測定できるように構成されていれば足りる。
【0056】
染料系添加剤濃度測定部の構成例としては、分光光度計および分光光度計内に設けられた測定セルからなる構成が挙げられる。そして、測定セルにめっき槽内のめっき液を循環できるように、測定セルとめっき槽とが配管により接続されていることが好ましい。この場合、めっき槽内のめっき液が、例えば、配管上に設けられたポンプ等により測定セルに循環されているため、めっき液を容易にサンプリングして吸光度測定を行うことができる。
【0057】
また、染料系添加剤濃度測定部の他の構成例としては、分光光度計の光源部及び受光部に接続された光ファイバープローブの測定部をめっき液内に設置、固定する構成も挙げられる。
【0058】
次に、染料系添加剤濃度制御部12は、まず、予め作成しておいた検量線を用いて、染料系添加剤濃度測定部11で測定した吸光度から染料系添加剤濃度を算出する。そして、算出した染料系添加剤濃度に基づいて、染料系添加剤槽13に対して補給信号を送信するように構成されている。
【0059】
ここで、補給信号とは、算出された染料系添加剤濃度に基づいて、染料系添加剤槽13に対して、染料系添加剤の供給についての指令を行う信号であり、その具体的な指令の内容については限定されず、装置の構成等に応じて選択される。
【0060】
補給信号の指令内容としては、例えば、予め規定しておいた規定濃度を基準として、算出した染料系添加剤濃度がこれを下回った場合には、めっき槽に染料系添加剤を所定量供給し、上回った場合には供給することなくめっき工程を続ける旨の指令が挙げられる。
【0061】
また、染料系添加剤の下限濃度と、上限濃度をそれぞれ規定しておき、算出された染料系添加剤濃度が下限濃度未満の場合には染料系添加剤の供給を開始し、上限濃度を超えていた場合には、供給を停止させる旨の指令が挙げられる。
【0062】
さらには、算出された染料系添加剤濃度に応じて、染料系添加剤槽とめっき槽とを接続する配管上に設けられたバルブの開度を変化させる旨の指令等も挙げられる。
【0063】
染料系添加剤槽13は、めっき槽10と接続され、その中に染料系添加剤が貯められているタンクであって、上記のように、染料系添加剤濃度制御部12からの指令に基づいて、めっき槽に対して染料系添加剤の供給を行うものである。
【0064】
以上説明しためっき装置によれば、めっき槽内の染料系添加剤の濃度を簡単に定量測定することが可能であり、測定値に基づいてめっき槽内の染料系添加剤の濃度を精度良く制御することができる。
【0065】
また、本実施の形態では、染料系添加剤の測定、制御装置について説明したが、めっき液中の他の成分、例えばブライトナー成分等についての各種分析、制御装置も付加し、これらの成分についても一定の範囲内になるように制御することが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0067】
まず、湿式銅めっき向けに、表1に示す液組成の硫酸銅めっき液を準備する。
【0068】
次に、吸光度(ABS)とヤヌスグリーンB濃度との関係を示す検量線を作成した。手順としては、まず、ヤヌスグリーンBが未添加の基本組成液と、該基本組成液にヤヌスグリーンBが5mg/L〜30mg/Lの間の所定の濃度になるように添加したものを用意して、各試料について360nm〜510nmの波長域で吸光度を測定した。そして、該測定値を基に検量線を作成した。なお、ここで、基本組成液とは、表1に示す液組成を有しており、ヤヌスグリーンBを添加していないものを意味している。そして、測定した吸光度を図5に示す。図中、ヤヌスグリーンBはJGBと表記している。
【0069】
図5の結果から、添加剤未添加の基本組成液の吸光度(ABS)が0であり、かつ、ヤヌスグリーンBの添加量変化に対して吸光度(ABS)の変位幅が大きい、波長510nmの光により測定することとした。510nmにおける検量線を図6に示す。
【0070】
そして、実際のめっき工程において、めっき液を適宜サンプリング、吸光度を測定して上記検量線によりヤヌスグリーンBの濃度を算出しながら、めっきを行った。
【0071】
ここで、用いた湿式銅めっき向けの硫酸銅めっき液としては、表1に示す液組成の硫酸銅めっき液を用いており、当初用意した硫酸銅めっき液中にはヤヌスグリーンBが18.0mg/L含有されている。そして、めっき工程を行い、ヤヌスグリーンBの測定濃度が12.0mg/L程度にまで低減した場合、濃度が15.0〜16.0mg/LになるようにヤヌスグリーンBを添加して連続的にめっき工程を行った。このめっき工程中のヤヌスグリーンBの濃度変化を図7に示す。
【0072】
図7によると、めっき工程を実施することによって、ヤヌスグリーンBの濃度が低下していることが確認できる。そして、ヤヌスグリーンBの濃度が12.0mg/L程度まで低下した際に、ヤヌスグリーンBを添加すると、その濃度が上昇することも確認できた。つまり、測定が正確に行われていることがわかる。
【0073】
そして、係るめっき工程の結果得られためっき皮膜の表面について調べたところ、めっき工程を通して凹凸が少なく平坦度の高いめっき膜を安定して得られていることが確認できた。
【0074】
【表1】

【符号の説明】
【0075】
10 めっき槽
11 染料系添加剤濃度測定部
12 染料系添加剤濃度制御部
13 染料系添加剤槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長の光を用いて硫酸銅めっき液の吸光度を測定し、前記吸光度から硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度を算出することを特徴とする硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度測定方法。
【請求項2】
前記硫酸銅めっき液中には、添加剤として、染料系添加剤以外に、硫黄系添加剤、キャリアー成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の硫酸銅めっき液中の染料系添加剤の濃度測定方法。
【請求項3】
前記染料系添加剤が、その構造中に窒素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の染料系添加剤の濃度測定方法。
【請求項4】
染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液を用いためっき方法であって以下の(A)〜(C)の工程を有することを特徴とするめっき方法。
(A)360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長を有する光により前記硫酸銅めっき液の吸光度を測定する工程
(B)測定した前記吸光度から、前記硫酸銅めっき液に含まれている前記染料系添加剤の濃度を算出する工程
(C)算出した前記濃度に基づいて前記硫酸銅めっき液に染料系添加剤を供給する工程。
【請求項5】
染料系添加剤を含有する硫酸銅めっき液を用いためっき装置であって、
360nm以上510nm以下の範囲から選択された波長の光によりめっき槽内の硫酸銅めっき液の吸光度を測定する染料系添加剤濃度測定部と、
前記吸光度から前記硫酸銅めっき液に含まれている染料系添加剤の濃度を算出し、算出した濃度に基づいて、染料系添加剤槽に対して補給信号を送信する染料系添加剤濃度制御部と、
前記染料系添加剤濃度制御部からの補給信号に基づいて、めっき槽に染料系添加剤を供給する染料系添加剤槽と、を有することを特徴とするめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−53338(P2013−53338A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192012(P2011−192012)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】