説明

硬化性ポリオルガノシロキサン組成物

【課題】 透明で、光学レンズとして充分な硬さと高い屈折率を有し、LED用および光学レンズ用に適した、線膨張係数が低く、耐衝撃性の高い硬化物を与える硬化性ポリオルガノシロキサン組成物;およびLED用および光学レンズ用に適した硬化物を提供する。
【解決手段】 (A)(1)平均単位式:(CSiO(4−a−b−c)/2で示され、1分子当たり平均3個以上のアルケニル基を有するフェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂;および(2)分子中に2個以上のアルケニル基、およびフェニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサン;(B)SiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位(からなり、分子中に3個以上の、ケイ素原子に結合した水素原子を含むポリアルキルハイドロジェンシロキサン;ならびに(C)白金族金属化合物 白金系金属原子を含む硬化性ポリオルガノシロキサン組成物;ならびにその硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応によって硬化するポリオルガノシロキサン組成物に関し、特に、硬化して、高い屈折率を示し、発光ダイオード(以下、LEDという)の封止剤、レンズなどの光学的用途に適した硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物に関する。また、本発明は、このようなポリオルガノシロキサン組成物を硬化させて得られる硬化物、特に光学用およびLED用に好適な硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂およびシリコーンゴムは、その中間の物性を示すポリマーを含め、耐熱性、耐寒性、電気絶縁性などに加えて、透明なものが得られるため、各種の光学用途に用いられている。特に、LEDの封止、保護、レンズなどの用途に、硬化して、高い硬さを有し、透明な硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物が有用である。特許文献1には、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサン、特に高い屈折率を得るためにフェニル基を有する上記ポリシロキサンを、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンで架橋して得られる樹脂状硬化物が、LEDの保護、接着、波長変更・調整、レンズに用いられることが開示されている。また、特許文献2には、ケイ素原子に結合した1価の炭化水素基のうち、アルケニル基を除いて80%以上がメチル基であり、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンで架橋して得られる樹脂状硬化物が、同様の用途に用いられることが開示されている。
【0003】
また、LED以外においても、透明性とともに耐熱性と耐衝撃性を必要とする光学的レンズとしても、このような硬化物は有用である。特許文献3には、ケイ素原子に結合した1価の炭化水素基の20%以上がフェニル基であり、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンで架橋して得られる樹脂状硬化物が、電気・電子をはじめ各種分野の用途に用いられることが開示されている。
【0004】
このような光学用硬化物、特にレンズは、屈折率が高い材料を用いると、レンズを薄くすることが可能になるなど設計の自由度が大きいので、例えば1.45以上、好ましくは1.50以上の屈折率を有する硬化物が求められている。このような高い屈折率を得るためには、ベースポリマーであるポリオルガノシロキサンのフェニル基含有率を、ケイ素原子に結合した有機基中の25モル%以上にする必要がある。このような高いフェニル基含有率を有するポリオルガノシロキサンは、架橋剤として用いられる通常のポリオルガノハイドロジェンシロキサンとの相溶性がないので、均質で透明な硬化物を得るのに必要な相溶性を得るには、それに組み合わせる架橋剤も、特許文献3の実施例に見られるように、高いフェニル基含有率を必要とする。
【0005】
また、このような樹脂状硬化物は、硬さが必要である。硬化物に必要な硬さを与えるために架橋密度を上げる目的で、ベースポリマーおよび架橋剤の少なくとも一部として、分岐状シロキサン骨格を有するアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンおよびポリオルガノハイドロジェンシロキサンを用いても、後者の量が多いと耐熱性が低く、これを避けるために全体の分岐度を下げると、熱膨張が大きくなって、LEDのケースなどに用いられるプラスチックとの線膨張係数の差が大きく、そのため、熱履歴による内部ひずみが大きくなり、成形した部品やレンズに亀裂が発生する。
【0006】
しかしながら、硬化物に必要な硬さを与えるために架橋密度を上げる目的で、分岐状シロキサン骨格を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを架橋剤として用いようとすると、高いフェニル基含有量の分岐状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、合成および精製が煩雑である。
【0007】
【特許文献1】特開2004−186168号公報
【特許文献2】特開2004−221308号公報
【特許文献3】特開平11−001619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、透明で、光学レンズとして充分な硬さと高い屈折率を有し、LED用および光学レンズ用に適した、線膨張係数が低く、耐衝撃性の高い硬化物を与える硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を、特に合成の困難な架橋剤を用いることなく提供することである。本発明のもう一つの目的は、上記の特性を有し、LED用および光学レンズ用に適した硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、ベースポリマーとして多量のフェニル基を有する直鎖状アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとアルケニル基含有ポリメチルフェニルシロキサン樹脂を用い、架橋剤として、分岐状のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを用いて、付加反応によって硬化させることにより、その課題を達成しうることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(A)(1)平均単位式:
(CSiO(4−a−b−c)/2
(式中、
は、基中に不飽和炭素−炭素結合を含まない非置換または置換の1価の脂肪族炭化水素基を表し;
は、アルケニル基を表し;
aは、a,b,cの合計に対して25〜95%であり;b+cは、a,b,cの合計に対して5〜75%で、そのうちcは、a,b,cの合計に対して10%以下であり;a,b,cの合計が、Si原子1個当たり1.0〜1.9個の範囲である)
で示され、1分子当たり平均3個以上のRを有するフェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂 (A)の50〜95重量%;および
(2)ケイ素原子に結合した有機基中、分子中に2個以上のR(式中、Rは、アルケニル基を表す)を含有し、20〜60%がフェニル基で、残余がメチル基であり、23℃
における粘度が30〜1,000,000mm/sである直鎖状ポリオルガノシロキサン (A)の5〜50重量%;
(B)SiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表す)からなり、分子中に3個以上の、ケイ素原子に結合した水素原子を含むポリアルキルハイドロジェンシロキサン (A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が0.5〜2.0個になる量;ならびに
(C)白金族金属化合物 白金系金属原子を、(A)に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量
を含む硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を硬化させて得られる、LED用および光学レンズ用に適した透明な硬化物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、線膨張係数が小さく、かつ熱衝撃によるクラックを生じない、そして光学用レンズとして充分な硬さと透明性を有する硬化物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)ベースポリマー、(B)架橋剤および(C)硬化触媒を含み、(A)のアルケニル基と(B)のケイ素−水素結合との間の付加反応(ヒドロシリル化反応)によって硬化して、硬化物を与える。(A)としては、(1)フェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂と、(2)直鎖状ポリオルガノシロキサンを併用する。
【0014】
(A)(1)フェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂は、平均単位式:
(CSiO(4−a−b−c)/2
(式中、R、R、a、bおよびcは、前述のとおりである)で示され、分子中に平均3個以上のRを有する、常温で液状または固体のフェニル基含有ポリオルガノシロキサンでである。(A)成分は、ケイ素原子の結合した有機基の數、すなわちa,b,cの合計のケイ素原子に対する比(以下、R/Siという)が、1.0〜1.9、好ましくは1.1〜1.7の範囲の、分岐シロキサン骨格を有するポリオルガノシロキサンである。R/Siが1.0未満のものは合成しにくく、また硬化物が脆い。一方、R/Siが1.9を越えると、架橋密度が減少し、充分な硬さの硬化物が得られない。
【0015】
フェニル基の數aは、合成が容易なことから、フェニル基が存在する各シロキサン単位について、1または2が好ましい。aは、(A)成分全体として、ケイ素原子の結合した有機基、すなわちa,b,cの合計に対して、25〜95%、好ましくは35〜90%である。aが25%未満では、充分な屈折率が得られず、95%を越えると合成しにくく、また立体障害のために充分な硬さが得られない。
【0016】
としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルのようなアルキル基;シクロヘキシルのようなシクロアルキル基;クロロメチル、2−シアノエチル、3,3,3−トリフルオロプロピルのような置換炭化水素基が例示される。これらのうち、合成が容易であって、機械的強度および硬化前の流動性などの特性のバランスが優れていることから、メチル基が最も好ましい。
【0017】
としては、ビニル、アリル、3−ブテニル、5−ヘキセニルなどが例示され、合成が容易で、また硬化前の組成物の流動性や、硬化後の組成物の耐熱性を損ねないという点から、ビニル基が最も好ましい。Rが存在する個々のシロキサン単位におけるcは、合成が容易なことから、1が好ましい。
【0018】
b+cは、a,b,cの合計に対して5〜75%、好ましくは10〜65%である。b+cが5%未満では、合成しにくく、また充分な硬さが得られない。一方、75%を越えると、充分な屈折率が得られない。そのうちcは、(A)成分全体としてa,b,cの合計に対して10%以下であり、かつ1分子当たり平均3個以上である。cが10%を越えると、架橋密度が上がりすぎて、硬化物がもろくなる。また1分子当たり平均3個未満では、硬化して充分な硬さの硬化物を与えることができない。(1)は、液状、半固体または固体であるが、取扱いが容易なことから、液状であることが好ましい。
【0019】
(1)は、硬化物を形成した後に化学的に安定で、耐熱性を保持することから、ケイ素原子に結合したヒドロキシル基やアルコキシ基のようなケイ素官能基が存在しないことが好ましい。このようなケイ素官能基が存在しない(A)成分は、個々のシロキサン単位の対応するオルガノクロロシラン類を共加水分解・縮合させて得られるポリオルガノシロキサンを、水酸化カリウム、カリウムシラノレートのようなアルカリ性物質によって処理し、さらに必要に応じてヘキサメチルジシラザン、1,1−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンのようなシリル化剤で処理して、製造することができる。ここで、1,1−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンを用いることが、この処理で導入されたビニル基が架橋密度の向上に寄与するので好ましい。
【0020】
(2)フェニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは、23℃における粘度が30〜1,000,000mm/sであり、好ましくは50〜100,000mm/s、さらに好ましくは100〜10,000mm/sである。30mm/s未満では充分な剛性を有する硬化物が得られない。一方、1,000,000mm/sを越えると、充分な硬さを有する硬化物が得られない。Rは、分子中に少なくとも2個存在する。Rは、分子末端に存在する方が高い反応性を示すので、Rのうち2個は、両末端に存在することが好ましい。硬化物の高い硬さ、屈折率ならびに耐熱性を付与するために、ケイ素原子に結合した有機基の20〜60%、好ましくは25〜55%がフェニル基である。フェニル基が60%を越えると、他のポリシロキサン成分との相溶性が悪く、光学的に均質な硬化物を与えない。また20%未満では、充分に高い屈折率が得られず、また耐熱性も用途によっては充分ではない。ケイ素原子に結合する残余の有機基は、(2)に比較的低い粘度を与えて取扱いを容易にし、かつ硬化物にポリオルガノシロキサン固有の物性をバランスよく付与することから、メチル基が用いられる。
【0021】
(A)成分中の(1)フェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂と(2)フェニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンの割合は、(1)が50〜95重量%、好ましくは60〜90重量%であり、(2)が5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。このように(1)と(2)を組み合わせて用いることにより、(A)成分は、フェニル基含有量が多いのにかかわらず、(B)成分と相溶して均一な組成物を形成し、硬化物に、透明性と高い屈折率を付与し、かつ優れた機械的性質、特にLED用およびレンズ用の硬化物として必要な硬さと、低い線膨張率を付与することができる。(A)成分中の(1)の割合が50重量%未満では充分な硬さが得られず、95重量%を越えると他のシロキサン成分との相溶性が充分でない。
【0022】
(B)成分は、分子中にSi−H結合を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンであって、該Si−H結合と(A)ベースポリマーのアルケニル基との間のヒドロシリル化反応によって硬化物を与える架橋剤として寄与する。(A)成分と相溶して均質な組成物を形成し、かつ硬化物に高い架橋密度を与え、それによって硬化物に高い硬度と低い線膨張係数を付与することから、SiO4/2単位とR(CHSiO1/2単位(式中、Rは、前述のとおりである)からなる分岐状ポリメチルハイドロジェンシロキサンが選択され、取扱いやすい適切な粘度を有しつつ、上記の目的を達成することから、R(CHSiO1/2単位とSiO4/2単位の比率は、SiO単位1モルに対してR(CHSiO1/2単位1.5〜2.2モルが好ましく、1.8〜2.1モルがさらに好ましい。典型的には、[R(CHSiO1/2[SiO4/2または[R(CHSiO1/210[SiO4/2のように、4〜5個のQ単位が環状シロキサン骨格を形成し、各Q単位に2個のM単位および/またはM単位(ただし、分子中に少なくとも3個はM単位)が結合しているものが、特に好ましい。
【0023】
(B)成分中のRに含まれる、ケイ素原子に直接結合した水素原子の數は、(B)成分全体として、平均1分子当たり3個以上である。平均3個未満では、必要な硬さの硬化物を得るために充分な架橋密度が得られない。Rの残余は、合成が容易で、耐熱性をはじめとするシロキサンの特徴をバランスよく付与することから、メチル基である。
【0024】
(B)成分の量は、(A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の比(H/Vi)が0.5〜2.0になる量、好ましくは0.7〜1.8になる量である。H/Viが0.5未満では充分な物理的性質を有する硬化物が得られず、2.0を越えると、(A)成分との混合物が白濁を生じる傾向があるほか、硬化物中に残存するSi−H結合が多くなり、加熱により重縮合反応が生じ、もろくなるために熱履歴によってクラックを生じやすく、耐熱性および耐熱衝撃性が悪くなる。
【0025】
本発明で用いられる(C)成分の白金系触媒は、(A)成分のアルケニル基と(B)成分のヒドロシリル基との間の付加反応を促進させるための触媒である。白金族金属化合物としては、白金、ロジウム、パラジウムのような白金族金属原子の化合物が用いられ、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応生成物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ケトン錯体、白金−ホスフィン錯体のような白金化合物;ロジウム−ホスフィン錯体、ロジウム−スルフィド錯体のようなロジウム化合物;パラジウム−ホスフィン錯体のようなパラジウム化合物などが例示される。これらのうち、(A)成分への溶解性がよく、触媒活性が良好な点から、白金−ビニルシロキサン錯体が好ましい。
【0026】
(C)成分の配合量は、優れた硬化速度が得られることから、(A)成分に対して、白金族金属原子換算で通常0.1〜1,000重量ppmであり、好ましくは0.5〜200重量ppmである。
【0027】
本発明の組成物に、硬化前の段階で適度の流動性を与え、硬化物にその用途に応じて要求される高い機械的強度を付与するために、硬化物の透明性などの特徴を損なわない範囲で、微粉末の無機質充填剤を添加してもよい。このような無機質充填剤としては、煙霧質シリカ、アークシリカのような乾式微粉末シリカが例示され、煙霧質シリカが好ましい。また、透明性を上げるために、このようなシリカの表面を、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンのようなシラザン化合物;オクタメチルシクロテトラシロキサンのようなポリオルガノシロキサンなどで処理して用いることが好ましい。これらの充填剤の添加量は、組成物の使用目的を損なわないかぎり限定されない。
【0028】
さらに、本発明の組成物には、硬化物の硬さや透明性などの本発明の目的を損なわないかぎり、必要に応じて、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノールのようなアセチレン化合物、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンのような、環ケイ素原子にビニル基が結合したビニル基含有環状シロキサンなどの硬化遅延剤;セリウム化合物のような無色の耐熱性向上剤など、各種の添加剤を配合してもよい。また用途によっては、本発明の組成物を、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解ないし分散させて用いてもよい。
【0029】
本発明の組成物は、(A)〜(C)成分、およびさらに必要に応じて配合される他の成分を、万能混練機、ニーダーなどの混合手段によって均一に混練して調製することができる。なお、(A)(1)成分のうち固体または粘度の極度に高いものは、取扱いを容易にするために、共加水分解をトルエン、キシレンなどの有機溶媒の存在下に行い、以後の工程を有機溶媒溶液として進め、(2)と混合した後、減圧加熱により溶媒を留去して、(A)成分を形成させてもよい。また、安定に長期間貯蔵するために、(B)成分と(C)成分を別途の容器に保存し、たとえば(A)成分の一部および(C)成分を含む主剤部と、(A)成分の残部および(B)成分を含む硬化剤部を、それぞれ別の容器に保存しておき、使用直前に混合し、減圧で脱泡して使用に供してもよい。
【0030】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物を、使用すべき部位に注入、滴下、流延、注型、容器からの押出しなどの方法により、またはトランスファー成形や射出成形による一体成形によって、LEDのような対象物と組み合わせ、室温で放置または加熱して硬化させることにより、硬化物を得ることができる。
【0031】
本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物は、透明で、屈折率が通常1.45以上、好ましくは1.50以上である。このような高い屈折率により、LEDやレンズの設計の自由度を増すことができる。
【0032】
本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物は、線膨張係数が通常3.0×10−4/K以下、好ましくは2.5×10−4/K以下である。このように線膨張係数を低くすることにより、レンズなどをLEDや光学器械などの部品に固定した後の熱履歴や熱衝撃による内部ひずみが緩和され、レンズなどの亀裂を防ぐことができる。
【0033】
本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物は、JIS K6253のタイプAデュロメータによる硬さが通常80以上、好ましくはタイプDデュロメータによる硬さが30以上、さらに好ましくは同40以上の硬度を有し、機械的強度があり、表面に傷がつきにくく、またゴミなどが付着しにくい。また、線膨張係数が低く、かつ温度履歴によるクラックを生じない。したがって、これを成形し、必要に応じてさらに加工することにより、各種の光学的用途、特に発光ダイオード用および光学レンズ用に用いることができる。
【0034】
たとえば、本発明の硬化性組成物を、LEDを搭載した基板に、LEDを封止するように、かつ気泡が残らないように、注型などの方法で送り込み、硬化させて、LEDを内包したレンズの成形品を作製することができる。また、あらかじめ各種の方法で成形したレンズをLED部品にセットし、LEDをそこに嵌め込むか、接着剤で固定することもできる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例において、部は重量部、組成の%は重量%を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
以下、シロキサン単位を、次のような記号で示す。
単位: (CHSiO1/2
単位: (CHHSiO1/2
単位: (CH(CH=CH)SiO1/2
単位: −(CHSiO−
単位: −(CH)HSiO−
単位: −(CH)(CH=CH)SiO−
ff単位: −(C)SiO−
単位: CSiO3/2(3官能性)
単位: SiO4/2(4官能性)
【0037】
実施例および比較例にとして用いるフェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂A−5、および架橋剤として用いるB−1を、下記の合成例1、2のように調製した。
【0038】
合成例1 フェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂A−5
組成式(シロキサン組成の相対モル比)をDDv12ff54f33になるような配合比で、相当するオルガノクロロシラン類のキシレン溶液を調製した。これを撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器中の、撹拌中の過剰の水に滴下して共加水分解し、温度を60℃に保って縮合させた。分液後、有機相に残存する塩化水素を炭酸ナトリウム溶液で中和し、ついで食塩水で3回洗浄し、静置して有機相を硫酸ナトリウムによって脱水し、ポリオルガノシロキサンの50%キシレン溶液を得た。これに水酸化カリウム100ppmを加えて、140℃に4時間加熱し、ついで中和した。さらに、室温でヘキサメチルジシラザンにより処理して、ケイ素原子に結合した残存ヒドロキシル基をM単位に転換させ、キシレンおよび低沸点分を140℃/667Pa{5mmHg}で留去して、粘度500Pa・s{50万cP}のフェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂A−5を調製した。A−5の組成が、シリル化反応で導入された若干のM単位を除いて相対モル比DDv12ff54f33に該当することを、29Si NMRによって確認した。
【0039】
合成例2 架橋剤B−1
トルエン520部、テトラエトキシシラン879部およびジメチルクロロシラン832部を仕込み、均一に溶解させた。これを、撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器に撹拌中の過剰の水に滴下して、副生した塩酸の溶解熱を冷却により除去しつつ、室温で共加水分解と縮合を行った。得られた有機相を、洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、脱水した後、トルエンと副生したテトラメチルジシロキサンを100℃/667Pa{5mmHg}で留去して、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンを調製した。GPCによる平均分子量は800(理論値:776)であり、これとアルカリ滴定によるSi−H結合の分析結果から、得られたシロキサンが近似的にMで示されるポリメチルハイドロジェンシロキサンB−1であることを確認した。
【0040】
実施例および比較例に、上記A−5およびB−1のほか、下記のベースポリマー、架橋剤ならびに触媒を用いた。ただし、A−4,A−6およびB−2は、いずれも比較用である。
A−1:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位およびDff単位からなり、中間単位中30%がDff単位であり、23℃における粘度が4,000mm/sである直鎖状ポリメチルビニルフェニルシロキサン;
A−2:両末端がM単位で封鎖され、中間単位中30%がD単位、30%がDff単位で、残余がD単位であり、23℃における粘度が4,000mm/sである直鎖状ポリメチルビニルフェニルシロキサン;
A−3:両末端がM単位で封鎖され、中間単位中30%がD単位、50%がDff単位で、残余がD単位であり、23℃における粘度が4,000mm/sである直鎖状ポリメチルビニルフェニルシロキサン;
A−4:両末端がM単位で封鎖され、中間単位の10モル%がD単位で、残余がD単位であり、23℃における粘度が200mm/sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
A−6:M単位、M単位およびQ単位からなり、モル単位比がMで示される分岐状の固体ポリメチルビニルシロキサンの60%キシレン溶液;
B−2:平均単位式MD2020Mで示される直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン;
C−1:塩化白金酸をDで示される環状シロキサンと加熱して調製され、白金含有量が2重量%である白金−ビニルシロキサン錯体。
また、硬化遅延剤として、1−エチニル−1−シクロヘキサノールを用いた。表1では、ECHと略記する。
【0041】
実施例1〜4、比較例1〜5
万能混練機を用いて、表1に示す配合比で、(A)ベースポリマーの一部および(C)触媒からなる主剤部、ならびに(A)ベースポリマーの残部、(B)架橋剤および硬化遅延剤を含む硬化剤部を、それぞれ調製した。なお、主剤部と硬化剤部がほぼ重量比で1:1になるように、(A)ベースポリマーの配分を行った。主剤部と硬化剤部を混合し、脱泡して、厚さ6mmのシート状に注型し、150℃のオーブン中で1時間、ついで180℃で1時間加熱して硬化させた。無色透明で、若干の伸びを有する樹脂状の硬化物が得られた。ただし、比較例1は、用いるA−6がキシレン溶液なので、減圧加熱装置および撹拌機を備えた容器にA−3とA−6を仕込み、均一になるまで撹拌・混合した後、A−6に含まれるキシレンを140℃/667Pa{5mmHg}で留去して、液状の(A)成分混合物を調製し、上記の配合に用いた。
【0042】
未硬化の組成物と硬化物との評価を、次のようにして行った。
(1)硬化性試験:未硬化の組成物について、(株)エーアンドディー社製、キュラストメータWR型により、150℃において、t10およびt90を測定した。
(2)硬さ:シートを23℃で24時間放置した後、JIS K6253により、タイプAデュロメータおよびタイプDデュロメータによって硬さを測定した。
(3)光透過率:23℃において、日立製作所製、スペクトロフォトメータU−3410型を使用し、石英セル中の未硬化の組成物(厚さ10mm)について、波長400nmおよび800nmの光の透過率を測定した。
(4)屈折率: 未硬化の組成物の23℃における屈折率を、ATAGO社のアッベ屈折計によって測定した。
(5)線膨張係数:SII社製、熱機械的分析装置TMA/SS6100型によって測定した。
(6)熱衝撃試験:シートを恒温槽に入れて、熱風を送って120℃に15分保ち、ついで冷凍機から冷空気を送って恒温槽を−40℃に15分保ち、これを1,000サイクル繰り返して、クラックの発生の有無を観察した。
【0043】
各実施例および比較例の配合比、ならびに組成物の硬化性と硬化物の物性は、表1に示すとおりであった。なお、配合中、A−6の量は、シロキサン分換算で示す。また、A−1〜A−6は、それぞれ主剤と硬化剤に分けて配合したが、表1の組成は、その合計量を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
比較例1の組成物は、(A)(1)成分の代わりに、フェニル基を含まない分岐状シロキサンであるA−6を用いたもの、比較例2の組成物は、(A)(2)成分の代わりに、フェニル基を含まない直鎖状シロキサンであるA−4を用いたものであり、いずれも(B)成分を含む3種のポリシロキサンを混合した系の相溶性が悪く、白濁して、光学的用途に適さない硬化物を与えた。比較例3の組成物は、H/Viが過大なために、相溶性が悪く、しかも硬化物は、熱衝撃試験によってクラックを生じた。比較例4の組成物は、H/Viが過小なために、線膨張係数の大きい組成物を与えた。比較例5の組成物は、架橋剤として直鎖状のB−2を用いたものであり、相溶性が悪く、硬さの低い硬化物を与えた。
【0046】
それに対して、本発明による実施例1〜4の組成物は、いずれも相溶性に優れており、得られた硬化物は、透明性、硬さ、機械的強度、表面の性質、低い熱膨張など、本発明の目的に適したものであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化物は、特に硬化物の高い硬さを生かして、透明性とともに耐熱性と耐衝撃性を必要とする各種の光学的レンズとして有用である。また、LEDの封止、保護、レンズなどに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(1)平均単位式:
(CSiO(4−a−b−c)/2
(式中、
は、基中に不飽和炭素−炭素結合を含まない非置換または置換の1価の脂肪族炭化水素基を表し;
は、アルケニル基を表し;
aは、a,b,cの合計に対して25〜95%であり;b+cは、a,b,cの合計に対して5〜75%で、そのうちcは、a,b,cの合計に対して10%以下であり;a,b,cの合計が、Si原子1個当たり1.0〜1.9個の範囲である)
で示され、1分子当たり平均3個以上のRを有するフェニル基含有ポリオルガノシロキサン樹脂 (A)の50〜95重量%;および
(2)ケイ素原子に結合した有機基中、分子中に2個以上のR(式中、Rは、アルケニル基を表す)を含有し、20〜60%がフェニル基で、残余がメチル基であり、23℃における粘度が30〜1,000,000mm/sである直鎖状ポリオルガノシロキサン (A)の5〜50重量%;
(B)SiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表す)からなり、分子中に3個以上の、ケイ素原子に結合した水素原子を含むポリアルキルハイドロジェンシロキサン (A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が0.5〜2.0個になる量;ならびに
(C)白金族金属化合物 白金系金属原子を、(A)に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量
を含む硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
が、ビニル基である、請求項1記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
(C)が、白金−ビニルシロキサン錯体である、請求項1または2記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のポリオルガノシロキサン組成物を、硬化させて得られる硬化物。
【請求項5】
屈折率が1.45以上である、請求項4記載の硬化物。
【請求項6】
線膨張係数が3.0x10−4/K以下である、請求項4または5記載の硬化物。
【請求項7】
JIS K6253のタイプAデュロメータによる硬さが80以上である、請求項4〜6のいずれか一項記載の硬化物。
【請求項8】
光学レンズ用である、請求項4〜7のいずれか一項記載の硬化物。
【請求項9】
発光ダイオード用である、請求項4〜8のいずれか一項記載の硬化物。

【公開番号】特開2007−39483(P2007−39483A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222449(P2005−222449)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000221111)ジーイー東芝シリコーン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】