説明

硬化性塗料、耐擦傷性樹脂板及び携帯型情報端末の表示窓保護板

【課題】耐擦傷性が高く、防汚性に優れる硬化被膜を形成しうる硬化性塗料を提供する。
【解決手段】分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)の反応生成物とを含有する硬化性塗料とする。
成分(A):ジイソシアネート化合物を3量化させてなるトリイソシアネート化合物。
成分(B):分子中に水酸基とパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキリデン基からなる群から選ばれる基とを有するポリエーテル化合物。
成分(C):分子中に水酸基と重合性の炭素−炭素二重結合とを有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性塗料、この硬化性塗料による硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板、及びこの耐擦傷性樹脂板を用いてなる携帯型情報端末の表示窓保護板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)などの携帯型電話類が、インターネットの普及とともに、単なる音声伝達機能に加えて、文字情報や画像情報を表示する機能を持った携帯型情報端末として広く普及してきた。また、このような携帯型電話類とは別に、住所録などの機能にインターネット機能や電子メール機能を併せ持つPDA(Personal Digital Assistant)も幅広く使用されている。本明細書では、このような携帯電話やPHS、PDAなどをまとめて“携帯型情報端末”と呼ぶこととする。すなわち、本明細書でいう“携帯型情報端末”とは、人が携行できる程度の大きさであって、文字情報や画像情報などを表示するための窓(ディスプレイ)を有するものを総称する。
【0003】
これらの携帯型情報端末では、液晶やEL(エレクトロルミネッセンス)などの方式により、文字情報や画像情報を表示するようになっているが、その表示窓には、保護板として透明樹脂製のものが一般に用いられている。そして、この保護板には、表面の傷付きを防止するため、硬化性塗料により耐擦傷性(ハードコート性)の硬化被膜を設けることが提案されており、この硬化性塗料としては、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物、すなわち多官能(メタ)アクリレートを含むものが主に検討されている(特許文献1〜9参照)。例えば特許文献4には、分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物とを含む硬化性塗料や、分子中に少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物とを含む硬化性塗料により、耐擦傷性の高い硬化被膜が形成できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−143365号公報
【特許文献2】特開2004−299199号公報
【特許文献3】特開2007−190794号公報
【特許文献4】特開2008− 6811号公報
【特許文献5】特開2008− 49697号公報
【特許文献6】特開2008− 36927号公報
【特許文献7】特開2008−207467号公報
【特許文献8】特開2008−279650号公報
【特許文献9】特開2008−297350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
携帯型情報端末の表示窓保護板は、例えばタッチパネルとした場合、指で直接触れられることが多いため、その硬化被膜には、耐擦傷性に加えて、防汚性、特に耐指紋性が求められる。そこで、本発明の目的は、耐擦傷性が高く、防汚性に優れる硬化被膜を形成しうる硬化性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)の反応生成物とを含有する硬化性塗料を提供する。
【0007】
成分(A):ジイソシアネート化合物を3量化させてなるトリイソシアネート化合物。
成分(B):分子中に水酸基とパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキリデン基からなる群から選ばれる基とを有するポリエーテル化合物。
成分(C):分子中に水酸基と重合性の炭素−炭素二重結合とを有する化合物。
【0008】
また、本発明は、分子中に少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、前記反応生成物とを含有する硬化性塗料を提供する。
【0009】
また、本発明によれば、樹脂基板の少なくとも一方の面に前記硬化性塗料により硬化被膜が形成されてなる耐擦傷性樹脂板も提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、この耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化性塗料によれば、耐擦傷性が高く、防汚性に優れる硬化被膜を形成することができ、この硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板を、携帯型情報端末の表示窓保護板として用いることにより、その表示窓を効果的に保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一つの形態では、硬化性塗料として、分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)の反応生成物とを含有する硬化性塗料〔以下、硬化性塗料(1)ということがある〕を用いる。
【0013】
成分(A):ジイソシアネート化合物を3量化させてなるトリイソシアネート化合物。
成分(B):分子中に水酸基とパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキリデン基からなる群から選ばれる基とを有するポリエーテル化合物。
成分(C):分子中に水酸基と重合性の炭素−炭素二重結合とを有する化合物。
【0014】
また、本発明のもう一つの形態では、硬化性塗料として、分子中に少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、前記反応生成物とを含有する硬化性塗料〔以下、硬化性塗料(2)ということがある〕を用いる。
【0015】
これらの硬化性塗料により、耐擦傷性が高く、防汚性に優れる硬化被膜を形成することができる。
【0016】
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基をいい、その他、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などというときの「(メタ)」も同様の意味である。
【0017】
硬化性塗料に含まれうる上記多官能(メタ)アクリレートの例を、分子中に少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物、分子中に6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物、分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物、及び分子中に3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物に分けて挙げると、まず、分子中に少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の例としては、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、分子中に6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の例としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0018】
また、分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の例としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、分子中に3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の例としては、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
さらに、分子中にm個のイソシアナト基を有する化合物と、分子中に水酸基及びn個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物との反応により得られるウレタン(メタ)アクリレート化合物や、分子中にm個のハロカルボニル基を有する化合物と、分子中に水酸基及びn個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物との反応により得られるエステル(メタ)アクリレート化合物を、分子中にm×n個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の例として挙げることができる。
【0020】
硬化性塗料(1)において、少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物との割合は、両者の合計量100重量部を基準として、通常、前者が5〜95重量部、後者が95〜5重量部であり、好ましくは、前者が30〜70重量部、後者が70〜30重量部である。なお、硬化性塗料(1)には、必要に応じて、上記両者以外の硬化性化合物、例えば、先に例示した如き、分子中に3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物や、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートの如き、分子中に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が含まれていてもよいが、その量は、上記両者の合計量100重量部に対し、通常20重量部以下である。
【0021】
また、硬化性塗料(2)において、少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物との割合は、両者の合計量100重量部を基準として、通常、前者が5〜95重量部、後者が95〜5重量部であり、好ましくは、前者が30〜70重量部、後者が70〜30重量部である。なお、硬化性塗料(2)にも、必要に応じて、上記両者以外の硬化性化合物、例えば、上で例示した如き、分子中に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が含まれていてもよいが、その量は、上記両者の合計量100重量部に対し、通常20重量部以下である。
【0022】
硬化性塗料に、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)の反応生成物を含有させることにより、防汚性に優れる硬化被膜を形成することができる。
【0023】
成分(A):ジイソシアネート化合物を3量化させてなるトリイソシアネート化合物。
成分(B):分子中に水酸基とパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキリデン基からなる群から選ばれる基とを有するポリエーテル化合物。
成分(C):分子中に水酸基と重合性の炭素−炭素二重結合とを有する化合物。
【0024】
成分(A)の3量化原料であるジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートが挙げられる。
【0025】
成分(B)において、パーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基(n−又はイソ)、パーフルオロブチル基(n−、イソ、s−又はt−)が挙げられる。パーフルオロアルキレン基としては、例えば、パーフルオロエチレン基、パーフルオロプロピレン基、パーフルオロトリメチレン基が挙げられる。パーフルオロアルキリデン基としては、パーフルオロメチレン基、パーフルオロエチリデン基、パーフルオロプロピリデン基(n−又はイソ)が挙げられる。
【0026】
成分(B)としては、分子中に1個の水酸基を有するものが好ましく、例えば、一方の末端に水酸基を有し、もう一方の末端にパーフルオロアルキル基を有し、ポリエーテル鎖の酸素原子と酸素原子の間にパーフルオロアルキレン基及び/又はパーフルオロアルキリデン基を有するものが好ましい。
【0027】
成分(C)としては、分子中に1個の水酸基を有するものが好ましく、また、分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するものが好ましく、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)クリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)クリレート、グリセリンジ(メタ)クリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
前記反応生成物は、成分(A)1モルに対し、成分(B)を1〜2モル、成分(C)を1〜2モル、成分(B)及び成分(C)の合計が2モルの割合で反応させたものであるのが好ましい。
【0029】
前記反応生成物は、例えば国際公開第03/002628号パンフレットや特開2006−37024号公報に記載の方法により調製することができる。
【0030】
硬化性塗料(1)中の前記反応生成物の含有量は、少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。また、硬化性塗料(2)中の前記反応生成物の含有量は、少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0031】
硬化性塗料には、必要に応じて、導電性微粒子が含まれていてもよい。導電性微粒子が含まれることにより、帯電防止性能や制電性能を有する硬化被膜を形成することができる。
【0032】
導電性微粒子としては、例えば、酸化アンチモンのような金属酸化物、インジウム/スズの複合酸化物(ITO)、スズ/アンチモンの複合酸化物(ATO)、アンチモン/亜鉛の複合酸化物、リンでドープされた酸化スズなどの各微粒子が挙げられる。
【0033】
導電性微粒子は、その粒子径が0.001〜0.1μmであるのが好ましい。粒子径があまり小さいものは、工業的な生産が難しく、粒子径があまり大きいものを用いると、硬化被膜の透明性が低下するため好ましくない。硬化性塗料(1)中の導電性微粒子の含有量は、少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対して、1〜100重量部であるのが好ましい。また、硬化性塗料(2)中の導電性微粒子の含有量は、少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対して、1〜100重量部であるのが好ましい。この含有量があまり少ないと、十分な帯電防止効果が得られず、あまり多いと、硬化被膜の耐擦傷性が低下したり、成膜性が低下したりするため好ましくない。
【0034】
また、硬化性塗料には、粘度や硬化被膜の厚さなどを調整するため、溶剤が含まれていてもよい。この溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)、2−メチル−1−プロパノール(イソブチルアルコール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)のようなアルコール類、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノールのようなアルコキシアルコール類、ジアセトンアルコールのようなケトール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類などが挙げられる。溶剤の含有量は、基板の材質、形状、塗布方法、目的とする硬化被膜の厚さなどに応じて適宜調整されるが、硬化性塗料(1)においては、少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対し、通常20〜10000重量部である。また、硬化性塗料(2)においては、少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対し、通常20〜10000重量部である。
【0035】
さらに、硬化性塗料には、必要に応じて、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、レベリング剤などの添加剤が含まれていてもよい。レベリング剤が含まれることにより、硬化被膜の平滑性や耐擦傷性を高めることができる。
【0036】
レベリング剤としては、シリコーンオイルが好ましく用いられ、その例としては、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル、シラノール基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル、フェノール基含有シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどが挙げられる。これらシリコーンオイルは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
硬化性塗料(1)中のシリコーンオイルの含有量は、少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対し、通常0.01〜20重量部である。また、硬化性塗料(2)中のシリコーンオイルの含有量は、少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部対し、通常0.01〜20重量部である。この含有量があまり少ないと、目的とする効果が認められ難く、あまり多いと、硬化被膜の強度が低下するため好ましくない。
【0038】
以上説明した硬化性塗料により、樹脂基板の少なくとも一方の面に硬化被膜を形成することにより、耐擦傷性が高く、防汚性に優れる硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板を得ることができる。
【0039】
樹脂基板を構成する樹脂は、透明な熱可塑性樹脂であるのがよく、その例としては、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ環状オレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル−スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)が挙げられる。中でも、メタクリル樹脂は、表面硬度が高く、高い耐擦傷性を有する硬化被膜を設け易いので好ましく、また、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性が高く、割れ難いので好ましい。
【0040】
樹脂基板は、通常の板(シート)やフィルムのように、表面が平面のものであってもよいし、凸レンズや凹レンズなどのように、表面が曲面になっているものであってもよい。また、表面に細かな凹凸などの微細な構造が設けられていてもよい。
【0041】
樹脂基板は、必要に応じて、染料や顔料などにより着色されていてもよいし、酸化防止剤や紫外線吸収剤、ゴム粒子などを含有していてもよい。樹脂基板の厚さは、好ましくは0.1mm以上であり、また3.0mm以下である。
【0042】
樹脂基板は、単層のものであってもよいし、多層構造のものであってもよい。多層構造の樹脂基板としては、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方の面にメタクリル樹脂層が積層されてなるものが好ましく、このメタクリル樹脂層の少なくとも一方には、ゴム粒子を含有させるのがよい。
【0043】
硬化被膜の形成は、樹脂基板の少なくとも一方の面に硬化性塗料を塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで、形成された塗膜を硬化させることにより、行うことができる。
【0044】
硬化性塗料の塗布は、例えば、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ディッピングコート法、スピンコート法、ダイコート法、キャスト転写法、フローコート法、スプレーコート法などの方法により行うことができる。
【0045】
塗膜の硬化は、活性化エネルギー線を照射することにより、好適に行われる。活性化エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線などが挙げられ、硬化性化合物の種類に応じて適宜選択される。活性化エネルギー線として紫外線や可視光線を用いる場合には通常、光重合開始剤が用いられる。
【0046】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−(4−イソプロピルフェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、3−メチルアセトフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−tert−ブチルパーオキシカルボニルベンゾフェノン(BTTB)、2−(ジメチルアミノ)−1−〔4−(モルフォリニル)フェニル〕−2−(フェニルメチル)−1−ブタノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、ベンジルなどが挙げられる。
【0047】
光重合開始剤は、色素増感剤と組合せて用いてもよい。色素増感剤としては、例えば、キサンテン、チオキサンテン、クマリン、ケトクマリンなどが挙げられる。光重合開始剤と色素増感剤との組合せとしては、例えば、BTTBとキサンテンとの組合せ、BTTBとチオキサンテンとの組合せ、BTTBとクマリンとの組合せ、BTTBとケトクマリンとの組合せなどが挙げられる。
【0048】
上記の光重合開始剤は市販されているので、そのような市販品を用いることができる。市販の光重合開始剤としては、例えば、それぞれチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)から販売されている“IRGACURE 651”、“IRGACURE 184”、“IRGACURE 500”、“IRGACURE 1000”、“IRGACURE 2959”、“DAROCUR 1173”、“IRGACURE 907”、“IRGACURE 369”、“IRGACURE 1700”、“IRGACURE 1800”、“IRGACURE 819”、及び“IRGACURE 784”、それぞれ日本化薬(株)から販売されている“KAYACURE ITX”、“KAYACURE DETX−S”、“KAYACURE BP−100”、“KAYACURE BMS”、及び“KAYACURE 2−EAQ”などが挙げられる。
【0049】
硬化性塗料(1)中の光重合開始剤の含有量は、少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の合計100重量部に対し、通常0.1〜10重量部である。また、硬化性塗料(2)中の光重合開始剤の含有量は、少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物100重量部に対し、通常0.1〜10重量部である。この含有量があまり少ないと、光重合開始剤を使用しない場合と比較して硬化速度が大きくならない傾向にある。
【0050】
また、活性化エネルギー線の強度や照射時間は、硬化性化合物の種類やその塗膜の厚さなどに応じて適宜調整される。活性化エネルギー線は、不活性ガス雰囲気中で照射してもよく、この不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスなどが使用できる。
【0051】
こうして形成される硬化被膜の厚さは、1〜10μmであるのが好ましく、より好ましくは2〜6μmである。この厚さがあまり小さいと、耐擦傷性が不十分となることがあり、あまり大きいと、高温高湿下に曝したときに、クラックが発生し易くなる。硬化被膜の厚さは、樹脂基板の表面に塗布する硬化性塗料の面積あたりの量や硬化性塗料に含まれる固形分の濃度を調整することにより、調節することができる。
【0052】
かくして得られる本発明の耐擦傷性樹脂板は、樹脂基板の少なくとも一方の面に、耐擦傷性が高く、防汚性に優れる硬化被膜が形成されており、携帯電話などに代表される携帯型情報端末の表示窓保護板として好適に用いることができる。また、デジタルカメラやハンディ型ビデオカメラなどのファインダー部、携帯型ゲーム機の表示窓保護板など、耐擦傷性が要求される分野での各種部材としても使用できる。
【0053】
本発明の耐擦傷性樹脂板から、携帯型情報端末の表示窓保護板を作製するには、まず必要に応じ、印刷、穴あけなどの加工を行い、必要な大きさに切断処理すればよい。しかるのちに、携帯型情報端末の表示窓にセットすれば、耐擦傷性が高く、防汚性に優れる表示窓とすることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。また、測定方法ないし評価方法は次のとおりである。
【0055】
(硬化被膜の膜厚)
膜厚測定装置〔Filmetrics社のF−20〕を用いて測定した。
【0056】
(耐擦傷性樹脂板の全光線透過率、ヘイズ)
ヘーズ・透過率・反射率計〔(株)村上色彩技術研究所の“HR−100”〕を用いて測定した。
【0057】
(硬化被膜の耐擦傷性)
スチールウール#0000を用いて、2000g/4cm2の荷重で10往復、100往復、以下、100往復刻みで傷付きが目視で確認できるまで擦り、その往復回数で評価した。
【0058】
(硬化被膜の鉛筆硬度)
JIS K5600に準じて、鉛筆硬度試験機〔(株)安田精機製作所〕を用いて評価した。
【0059】
(硬化被膜の接触角)
水、オレイン酸、人工指紋液(JIS K2246記載)の3種類を使用し、接触角計〔協和界面科学(株)式会社の接触角計“CA−X”〕にて測定した。
【0060】
(硬貨被膜のマジックインキのはじき性及び拭き取り性)
三菱鉛筆(株)の油性マーカー“ピース”を用い、3回同じ箇所へ書いて評価した。拭き取りには、旭化成(株)の“ベムコットン”を用いた。はじき性は、はじく:〇、はじかない:×の2段階で評価した。拭き取り性は、3回目まで拭き取り可能:〇、2回目まで拭き取り可能:△、拭き取り不能:×の3段階で評価した。
【0061】
(硬貨被膜の指紋の拭き取り性)
指で触れ、よく拭き取れる:〇、拭き取り難いが、拭き取りは可能:△、拭き取りできない:×の3段階で評価した。
【0062】
実施例1
硬化性化合物としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10部及びペンタエリスリトールテトラアクリレート10部、ヘキサメチレンジイソシアネートを3量化させてなるトリイソシアネート化合物1モルに対し、CF3−CF2−CF2−CF(CF3)−(O−CF2−CF2−CF2)n−OH(n=3〜20)を1モル、エチレングリコールモノアクリレートを2モルの割合で反応させた反応生成物0.4部、光重合開始剤としてチバスペシャリティーケミカルズ(株)の“IRGACURE 184”0.75部及びチバスペシャリティーケミカルズ(株)の“IRGACURE 907”0.25部、シリコーンオイル〔ビックケミー・ジャパン(株)のBYK−307〕0.02部、並びに溶剤としてイソブチルアルコール40部及びプロピレングリコールモノメチルエーテル40部を混合して、硬化性塗料を調製した。
【0063】
この塗料を、厚さ2mm、大きさ100mm×60mmのメタクリル樹脂板〔住友化学(株)の“スミペックスE”〕の一方の面にバーコーター法で塗布した後、室温で1分間乾燥し、さらに60℃で3分間乾燥して、塗膜をメタクリル樹脂板の表面に形成した。次いで、120Wの高圧水銀ランプを用いて0.5J/cm2の紫外線を照射することにより、塗膜を硬化させ、硬化被膜の厚さが4μm又は5μmである耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板を評価した結果を表1に示した。
【0064】
比較例1
硬化性塗料調製の際、前記反応生成物を用いなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って、硬化被膜の厚さが4μmである耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板を評価した結果を表1に示した。
【0065】
比較例2
硬化性塗料調製の際、前記反応生成物0.4部に代えて、CF3−(CF2)5−CH2−CH2−O−C(=O)−CH=CH2 0.3部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、硬化被膜の厚さが5μmである耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板を評価した結果を表1に示した。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個又は5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)の反応生成物とを含有する硬化性塗料。
成分(A):ジイソシアネート化合物を3量化させてなるトリイソシアネート化合物。
成分(B):分子中に水酸基とパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキリデン基からなる群から選ばれる基とを有するポリエーテル化合物。
成分(C):分子中に水酸基と重合性の炭素−炭素二重結合とを有する化合物。
【請求項2】
分子中に少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に3〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)の反応生成物とを含有する硬化性塗料。
成分(A):ジイソシアネート化合物を3量化させてなるトリイソシアネート化合物。
成分(B):分子中に水酸基とパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキリデン基からなる群から選ばれる基とを有するポリエーテル化合物。
成分(C):分子中に水酸基と重合性の炭素−炭素二重結合とを有する化合物。
【請求項3】
樹脂基板の少なくとも一方の面に請求項1又は2に記載の硬化性塗料により硬化被膜が形成されてなる耐擦傷性樹脂板。
【請求項4】
請求項3に記載の耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板。

【公開番号】特開2010−235809(P2010−235809A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86167(P2009−86167)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】