説明

硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルムとこれを積層した成形体

【課題】耐摩耗性、耐クラック性、加工性に優れた硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルムとそのフィルムを基材に積層してなる成形体を提供する。
【解決手段】アルキルシリケート及びオルガノシランの少なくとも一方を加水分解縮合して得られるシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物からなり、且つ、その赤外線吸収スペクトルのシロキサン結合に由来するピーク面積/Si−CHに由来するピーク面積の比が16〜21である硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、耐クラック性、加工性に優れた硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルムと該フィルムを基材に積層してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明ガラスの代替として、耐破砕性、軽量性に優れるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明プラスチック材料が広く使用されるようになってきた。しかし、透明プラスチック材料はガラスに比較して耐摩耗性や耐候性が悪く、経時で黄変や白化が起こる。これらの欠点を改良するために、曲率を有する透明プラスチック製成形体を成形し、その後その成形体に紫外線硬化型のアクリル樹脂やシリコーン樹脂の被覆組成物等を塗布する方法が行われているが、作業上煩雑であるという問題がある。
【0003】
そこで、ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型アクリル樹脂組成物が積層されている熱可塑性保護フィルムを三次元成形体に加飾する手法が提案されている特許文献1)。しかしながら、そのアクリル樹脂組成物は成形体への追従性は良好なものの耐摩耗性が充分ではない。
【0004】
また、ポリカーボネートフィルム又はシート面上にアクリル樹脂プライマーを塗布して硬化させた後、オルガノポリシロキサン組成物を塗布し、完全硬化に至らない状態で多層フィルム又はシートを射出成形用金型内に装着し、次いで金型内へ溶融したポリカーボネートを射出し、離型後に後硬化するという手法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、その手法では、基材がポリカーボネートであるため、紫外線から基材を守るための紫外線吸収剤やHALSを含んだプライマー層が必要であるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−240202号公報
【特許文献2】特開平09−24553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリカーボネート基材に適用する際にもプライマー層が必要ではなく、優れた外観、耐摩耗性、耐クラック性、加工性に優れた硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造のシロキサン化合物と特定組成のアクリル樹脂フィルムの組み合わせが、優れた外観、耐摩耗性、耐クラック性に優れていることを見出した。また、赤外吸収スペクトルのシロキサン結合に由来するピーク面積/Si−CH3 に由来するピーク面積が特定の範囲であれば、加工性に優れた積層体を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、
一般式(1)で示されるアルキルシリケート類
【0009】
【化1】

(式中R、R、R、Rは独立して炭素数1〜5のアルキル基または、炭素数1〜4のアシル基を示し、nは3〜20のいずれかの整数を示す。)
及び一般式(2)で示されるオルガノシラン類
【0010】
【化2】

(式中Rは炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、またはイソシアネート基を含有する有機基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基、または、炭素数1〜4のアシル基を示し、aは1〜3の整数を示す。)の少なくとも一方を加水分解縮合して得られたシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物からなり、且つ、その赤外線吸収スペクトルのシロキサン結合に由来するピーク面積/Si−CHに由来するピーク面積の比が16〜21である硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルム(B)にある。
【0011】
また本発明の要旨は、前述のアクリル樹脂フィルムが基材(C)に積層された成形体にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、優れた外観、耐摩耗性、耐クラック性、加工性に優れた硬化性塗膜我積層されたアクリル樹脂フィルム及び当該フィルムを積層した成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の塗膜における赤外吸収スペクトルの例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<シロキサン化合物(A)>
本発明を構成するシロキサン化合物(A)は、一般式(1)で示されるアルキルシリケート類と一般式(2)で示されるオルガノシラン類との少なくとも一方を加水分解・縮合して得られる加水分解・縮合物である。かかるシロキサン化合物は、アルキルシリケート類及びオルガノシラン類の少なくとも一方を予め加水分解・縮合することにより、分子間に架橋構造が形成された高分子量化されたオリゴマーであり、組成物における硬化性の向上と、得られる保護被膜に好適な硬化物の物性を向上させることができる。また、シロキサン化合物が高分子量化したオリゴマーであることにより、硬化時の重縮合による収縮とそれに伴い発生する応力を低減でき、その結果クラックの低減と、基材との被膜密着性を向上することができる。
【0015】
上記シロキサン化合物(A)を形成する一般式(1)で表されるアルキルシリケート類において、式(1)中、R、R、R、R4は独立して炭素原子数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示す。これらの基は、相互に同一でもよいし異なっていてもよい。nは、アルキルシリケート類の繰り返し単位の数を表し、3〜20のいずれかの整数である。nが3以上であれば、アルキルシリケート類の加水分解・縮合により得られるシロキサン化合物の分子量が大きく、得られる硬化性組成物の硬化性、成膜性の低下を抑制することができる。また、nが20以下であれば、加水分解・縮合の際にゲル化を抑制することができる。良好な硬化性、被膜物性が得られ、しかもゲル化の抑制し得ることの点から、nは4〜10(シリカ換算濃度:約51〜54質量%に相当)の整数であることが好ましい。ここで、シリカ換算濃度とは、アルキルシリケート質量とアルキルシリケート類を完全に加水分解し、縮合させた際に得られるSiO2の質量との比を意味する。
【0016】
一般式(1)で示されるアルキルシリケート類としては、具体的に、R〜Rがメチル基であるメチルシリケート、R〜Rがエチル基であるエチルシリケート、R〜Rがイソプロピル基であるイソプロピルシリケート、R〜Rがn−プロピル基であるn−プロピルシリケート、R〜Rがn−ブチル基であるn−ブチルシリケート、R〜Rがn−ペンチル基であるn−ペンチルシリケート、R〜Rがアセチル基であるアセチルシリケート等を例示することができる。これらのうち、入手が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチルシリケート、エチルシリケートが好ましい。
【0017】
上記シロキサン化合物(A)を形成する一般式(2)で表されるオルガノシラン類として、式(2)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、またはイソシアネート基を含有する有機基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基、または、炭素数1〜4のアシル基を示し、aは1〜3のいずれかの整数を示す。式中、R、Rが複数存在する場合、それらは相互に同一であっても異なっていてもよい。Rは、中でも製造が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチル基、エチル基が好ましい。
【0018】
一般式(2)で示されるオルガノシラン類としては、具体的に、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等を挙げることができる。これらのうち、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランを好ましいものとして挙げることができる。本発明においては、これら1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0019】
上記一般式(1)で表されるアルキルシリケート類と一般式(2)で表されるオルガノシラン類の加水分解は、いずれの方法によるものであってもよく、例えば、上記アルキルシリケート類及び上記オルガノシラン類の少なくとも一方をアルコール類と混合し、更に、水をアルコキシル基1モルに対して、例えば0.25〜250モル程度加え、これに塩酸や酢酸などの酸を加えて溶液を酸性(例えばpH2〜5)とし、攪拌する方法によることができる。
【0020】
また、加水分解は上記アルキルシリケート類及び上記オルガノシラン類の少なくとも一方をアルコール類と混合し、さらに水をアルコキシル基1モルに対して、例えば0.25〜250モル程度加えて、例えば30〜100℃等に加熱する方法によることができる。加水分解に際して発生するアルコールは、系外に留去してもよい。加水分解に続く縮合は、加水分解状態にあるアルキルシリケート類やオルガノシラン類を放置することにより進行させることができる。その際、pHを中性付近(例えば、pH6〜7)に制御することにより、縮合の進行を速めることができる。縮合に際して発生する水は、系外に留去してもよい。
【0021】
上記加水分解・縮合における一般式(1)で表されるアルキルシリケート類と一般式(2)で表されるオルガノシラン類とを併用する際の混合比率は、オルガノシラン類1モルに対して、アルキルシリケート類0.01〜1.0モルが好ましく、0.01〜0.1モルがより好ましい。
【0022】
上記シロキサン化合物(A)を硬化させるための開始剤としては、熱硬化系と光硬化系が挙げられる。熱硬化系開始剤としては、例えば、カルボン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、過塩素酸塩、アセチルアセトンの金属錯塩、第四級アンモニウムおよび第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
光硬化系開始剤としては、ジフェニルヨードニウム系化合物、トリフェニルスルホニウム系化合物、芳香族スルホニウム系化合物、ジアゾジスルホン系化合物等が挙げられる。具体例としては、上市されているイルガキュア250(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、製品名)、アデカオプトマーSP−150およびSP−170(旭電化工業(株)製、製品名)、サイラキュアUVI−6970、サイラキュアUVI−6974、サイラキュアUVI−6990およびサイラキュアUVI−6950(米国ユニオンカーバイド社製、製品名)、DAICATII(ダイセル化学工業(株)製、製品名)、UVAC1591(ダイセル・サイテック(株)製、製品名)、CI−2734、CI−2855、CI−2823およびCI−2758(日本曹達(株)製、製品名)、サイラキュアUVI−6992(ダウケミカル日本(株)製、製品名)、サンエイドSI−L85、SI−L110、SI−L145、SI−L150、SI−L160、SI−H15、SI−H20、SI−H25、SI−H40、SI−H50、SI−60L、SI−80LおよびSI−100L(三新化学工業(株)製、製品名)、CPI−100PおよびCPI−101A(サンアプロ(株)製、製品名)が挙げられる。開始剤としては、熱硬化系、光硬化系を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。また、熱と光を併用して使用することもできる。
【0024】
上記開始剤の配合量は特に限定されないが、硬化性成分合計量100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内が好ましい。
【0025】
0.01質量部以上であれば、活性エネルギー線の照射によって十分に硬化し、良好な保護被膜に好適な硬化物が得られる傾向にある。また、10質量部以下であれば、硬化物について、クラックが発生することなく、また着色が抑制され、表面硬度や耐擦傷性が良好となる傾向にある。
【0026】
本発明のシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物には、シロキサン化合物(A)、開始剤、溶剤が含まれ、その他、必要に応じて、無機微粒子、ポリマー、ポリマー微粒子、充填剤、染料、顔料、顔料分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、ゲル粒子、微粒子粉などを含有してもよい。
【0027】
硬化性組成物の塗工膜を形成するには、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、スクリーン、フローコート法、浸漬法等を使用することができる。
【0028】
<赤外吸収スペクトル>
本発明における、シロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物の硬化性塗膜は、FT−IRによる全反射法(ATR;Attenuated Total Reflectance)により測定を行う。図1は、この方法で測定されたシロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルの一例である。
【0029】
シロキサン結合は960〜1240cm−1に吸収を持っており、図1において、1240cm−1での吸光度を示す点cと960cm−1での吸光度を示す点dとを結ぶ線分を線分cdとし、囲まれる面積をシロキサン面積に由来するピーク面積とする。
【0030】
また、Si−CH結合は1250〜1300cm−1に吸収を持っており、図1において、1250cm−1での吸光度を示す点bと1300cm−1での吸光度を示す点aとを結ぶ線分を線分abとし、囲まれる面積をSi−CH結合に由来するピーク面積とする。
【0031】
本発明では、960〜1240cm−1(Si−O−Si伸縮振動)ピーク面積/1250〜1300cm−1(Si−CH伸縮振動)ピーク面積の比を16〜21とする。
【0032】
測定条件としては、Geクリスタルを用い入射角45°、1回反射で測定すれば良く、例えばFT−IR(商品名:「NEXUS470」、サーモニコレー(株)社製)にATR測定用アクセサリー(商品名「FOUNDATION ThunderDome」、スペクトラテック社製)を取り付け、分解能4cm−1、積算回数32回で測定する。また、ピーク面積は任意の方法で求めることができ、例えばFT−IR解析ソフト(商品名「OMNIC」、サーモニコレー(株)社製)の積分ツールを用いて求めることができる。
【0033】
FT−IR面積比が、16以上であれば、フィルムのべたつきがなくフィルムの取り扱いが容易く、21以下であればフィルムの柔軟性が増し、立体物の加工性が良好となる。
【0034】
塗工膜を960〜1240cm−1(Si−O−Si伸縮振動)ピーク面積/1250〜1300cm−1(Si−CH伸縮振動)ピーク面積=16〜21とするための方法としては、特に限定されないが、例えば、塗工膜を温風乾燥機30〜100℃にて5〜30分放置して硬化性塗膜とすることで達成される。
【0035】
上記塗膜の硬化には、真空紫外線、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電子線、β線、γ線、熱などを挙げることができる。これらは、一種類を単独で使用してもよく、異なるものを複数種使用してもよい。異なる複数種を使用する場合は、同時に照射しても、順番に照射することもできる。
【0036】
本発明の硬化性組成物を硬化被膜とする場合、被膜の厚さとして、例えば、0.5〜100μm等を挙げることができる。
【0037】
<アクリル樹脂フィルム(B)>
本発明を構成するアクリル樹脂フィルム(B)は特に限定されない。その中でもより好ましいのは、ゴム含有多段重合体(x)が1〜100質量部とアクリル(共)重合体(y)99〜0質量部との合計100質量部からなるフィルムである。
【0038】
<ゴム含有多段重合体(x)>
本発明に用いられるゴム含有多段重合体(x)は、ゴムの存在下に単量体又は単量体混合物を重合して得られるものである。
【0039】
本発明におけるゴムは、構成成分として架橋性単量体成分を含む、ガラス転移温度が10℃以下の重合体である。その種類は特に限定されないが、例えば、アルキルアクリレート系単量体を重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。
【0040】
本発明で用いるゴムは、1段以上の重合にて得られるものを用いることができる。また、ゴムは何段目で重合しても良い。例えば、ガラス転移点が室温以上である重合体の存在下でゴムを構成する単量体を重合したようなゴムを用いることもできる。
【0041】
以下、上述したゴム含有多段重合体(x)の好ましい例について具体的に説明する。
【0042】
ゴムの製造には、公知のアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートが用いられ、なかでもブチルアクリレート、2―エチルヘキシルアクリレート等が好ましい。
【0043】
また、その使用量は、全ゴム中、5〜100質量%の範囲であるのが好ましい。5質量%以上では、得られるアクリル樹脂フィルムの伸度が向上し、フィルムの成形や加工が容易になる場合がある。より好ましい使用範囲は、10〜90質量%である。
【0044】
ゴムには上記アルキルアクリレートと共重合可能な他のビニル単量体を95質量%以下の範囲で使用してもよく、かかる他のビニル単量体としては、具体的には、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどが好ましく、これらを1種以上使用できる。
【0045】
ゴムに使用される架橋性単量体としては、特に制限はないが、好ましくは、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、フタル酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、マレイン酸ジアリル、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリルシンナメート等が挙げられ、これらを1種以上使用できる。
【0046】
架橋性単量体は、全ゴム中、0.1〜10質量%の範囲で使用することが好ましい。0.1質量%以上で、ゴム層にグラフトされる単量体量が増える。10質量%を超えて使用してもよいが、添加量に見合う効果は発現しない。より好ましい使用範囲は0.3〜7質量%である。
【0047】
ゴムの存在下に重合される単量体としては、アルキルメタクリレートを50質量%以上の量で用いるのが好ましい。アルキルメタクリレートとしては、具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2―エチルヘキシルメタクリレート、シクロへキシルメタクリレート等が挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。特に好ましくはメチルメタクリレートである。
【0048】
さらに、これらと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種を50質量%以下の量で使用でき、かかるビニル単量体としては、具体的には、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。特に好ましくはメチルアクリレートである。
【0049】
単量体又は単量体混合物は、ゴム100質量部に対し10〜400質量部の範囲で使用するのが好ましい、より好ましくは20〜200質量部である。
【0050】
ゴム含有多段重合体(x)は、通常の乳化重合で得られる。なお、重合時に連鎖移動剤、その他の重合助剤等を使用してもよい。連鎖移動剤としては公知のものが使用できるが、好ましくはメルカプタン類である。連鎖移動剤は、ゲル含有量と重合体分子量を制御するために、単量体又は単量体混合物全量100質量部に対して0.1〜3.0質量部の割合で使用するのが好ましい。
【0051】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系およびノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。これらのうちでは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が好ましい。
【0052】
界面活性剤はゴム含有多段重合体(x)の質量平均粒子径、重合体ラテックスの分散安定性等により配合量を決定すればよい。単量体又は単量体混合物全量100質量部に対して0.1〜5.0質量部の割合で配合するのが好ましい。
【0053】
上記界面活性剤の好ましい具体例としては、三洋化成工業社製のNC−718、東邦化学工業社製のフォスファノールRS−610NA,フォスファノールLS−529、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA、花王社製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407(以上いずれも商品名)等が挙げられる。
【0054】
また、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体成分を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体成分を投入する方法、単量体成分中に界面活性剤を仕込んだ後水を投入する方法等が挙げられる。これらのうちでは、水中に単量体成分を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法および水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体成分を投入する方法が、ゴム含有多段重合体(x)を得るための方法としては好ましい。
【0055】
また、乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機;ホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置;膜乳化装置等が挙げられる。
【0056】
また、調製する乳化液としては、W/O型、O/W型のいずれの分散構造のものでもよく、特に水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であるものが好ましい。
【0057】
単量体又は単量体混合物を重合する際に使用する重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤又は酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、レドックス系開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。重合開始剤の添加量は、重合条件等に応じて適宜決められる。また、重合開始剤の添加方法は、水相、単量体相(油相)の片方又は双方に添加する方法のいずれでもよい。
【0058】
ゴム含有重合体(x)の重合方法としては、特に、反応器に仕込んだ硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩及びロンガリットを含む水溶液を重合温度にまで昇温した後、第一段目の単量体混合物及び過酸化物等の重合開始剤を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで、第二段目の単量体混合物の原料である単量体成分を過酸化物等の重合開始剤とともに反応器に供給して重合する方法が好ましい。
【0059】
重合温度は、重合開始剤の種類あるいはその量によって異なるが、通常、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、また、120℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。
【0060】
上記の方法で得られたゴム含有重合体(x)を含む重合体ラテックスは、濾過装置を用いて処理することが好ましい。この濾過処理は、重合中に発生するスケールをラテックスから除去したり、原料又は重合中に外部から混入する夾雑物等を除去したりするための処理である。濾過装置としては、袋状のメッシュフィルターを利用したISPフィルターズ・ピーテーイー・リミテッド社のGAFフィルターシステム、円筒型濾過室内の内側面に円筒型の濾材を配し、濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置或いは濾材が濾材面に対して水平の円運動及び垂直の振幅運動をする振動型濾過装置が好ましい。
【0061】
ゴム含有重合体(x)は、上記の方法で製造した重合体ラテックスからゴム含有重合体(x)を回収することによって製造することができる。重合体ラテックスからゴム含有重合体(x)を回収する方法としては、塩析、酸析凝固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられる。これらの方法によれば、ゴム含有重合体(x)は、粉状で回収される。
【0062】
<アクリル(共)重合体(y)>
アクリル(共)重合体(y)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位50〜100質量%、およびこれと共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位0〜50質量%からなる重合体が好ましい。
【0063】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;炭素数5以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物等が挙げられ、これらを1種以上使用できる。
【0064】
アクリル(共)重合体(y)を得るための重合方法は、特に限定されるものではなく、通常公知の懸濁重合法、乳化重合法等の各種方法が適用される。
【0065】
好ましく使用できるアクリル(共)重合体(y)としては、三菱レイヨン(株)製ダイヤナールBRシリーズ、三菱レイヨン(株)製アクリペットが有り、これらは商業的に入手可能である。
【0066】
<アクリル樹脂>
フィルムを構成するアクリル樹脂は、上述のゴム含有多段重合体(x)とアクリル共重合体(y)との混合物からなるか、またはゴム含有多段重合体(x)のみからなることが好ましい。すなわち、アクリル樹脂においては、ゴム含有多段重合体(x)/アクリル(共)重合体(y)の割合(質量比)が1/99〜100/0であり、両者の合計が100質量部であることが必要である。十分な強度と密着性、加工性を得るためには、ゴム含有多段重合体(x)/アクリル(共)重合体(y)の割合(質量比)が10/90〜100/0であり、両者の合計が100質量部であることが好ましい。
【0067】
アクリル樹脂には、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発砲剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、離型剤、紫外線吸収剤を添加しても良い。
【0068】
アクリル樹脂を直接、または一旦ペレット状に押出成形してから、フィルム状に押出成形することが好ましい。
【0069】
アクリル樹脂フィルムの厚みは、10〜600μmの範囲内であることが好ましいが、搬送時等の取り扱いやすさを考慮すると、30〜200μmの範囲内であることがより好ましい。
【0070】
<基材(C)>
本発明の積層された成形体における基材となる樹脂は、アクリル樹脂フィルムと溶融接着可能なものであることが好ましい。例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂あるいはこれらを主成分とする樹脂が好ましく、特にABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂がより好ましい。
【0071】
<積層方法>
本発明の硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルムは、熱融着できる基材に対しては、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。熱融着しない基材に対しては、接着剤を介して貼り合せることは可能である。また、インサート成形法やインモールド成形法等の公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明について実施例を用いて詳述する。なお、便宜的に「質量部」を「部」、「質量%」を「%」と表記する。
【0073】
[合成例1]
シロキサン化合物(A1)の合成
オルガノシラン類としてメチルトリメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、分子量136)54.0g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、分子量198)6.0gに、イソプロピルアルコール45.0gを加え、攪拌して均一な溶液とした。さらに、水45.0gを加え、攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、加水分解・縮合を行った。その後25℃まで冷却し、24時間攪拌して縮合を進行させ、固形分濃度20%のシロキサン化合物(A1)の溶液150gを得た。なお、本発明における固形分濃度とは、完全に加水分解・縮合させたと仮定した際に得られるシロキサン化合物の溶液全体に対する質量百分率を意味する。
【0074】
[合成例2]
シロキサン化合物(A2)の合成
アルキルシリケート類としてシリカ換算濃度53%のメチルシリケート(コルコート株式会社製、平均約7量体、平均分子量約789、商品名メチルシリケート53A)10.0g、メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、分子量136)20.0gに、イソプロピルアルコール10.0gを加え、攪拌して均一な溶液とした。さらに、水10.0gを加え、攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、加水分解−縮合を行った。その後25℃まで冷却し、24時間攪拌して縮合を進行させた。さらに、γ−ブチロラクトンを加えて全体を76.0gとし、固形分濃度20%のシロキサン化合物(A2)の溶液を得た。
【0075】
[合成例3]
表面修飾コロイダルシリカの合成
撹拌子及びコンデンサーを備えた300mlナス型フラスコに、コロイド状シリカとしてイソプロピルアルコール分散コロイド状シリカ(スノーテックスIPA−ST−L)100g(固形分30g)、オルガノアルコキシシランとしてメチルトリメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、分子量136)6.8g(0.05モル)、純水5.4g(0.3モル)及びイソプロピルアルコール54.5gを仕込み、ウォーターバスを用いて80℃で3時間、加熱・撹拌して加水分解・縮合を行い、縮合物の20%溶液を得た。
【0076】
[製造例1]
アクリル樹脂フィルム(B1)
ゴム含有重合体(x1)22部及び熱可塑性重合体(y1)としてのMMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)78部に、配合剤としてADEKA社製商品名「アデカスタブAO−60」0.1部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この樹脂組成物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30(商品名))に供給し、混練してペレットを得た。
【0077】
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm巾のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度180〜240℃、Tダイ温度240℃の条件で、75μm厚みのアクリル樹脂フィルムを製膜した。
【0078】
<ゴム含有重合体(x1)の製造>
還流冷却器付き重合容器内に脱イオン水310部、乳化剤(モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%とジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%の水酸化ナトリウムの混合物の部分中和物)0.5部、炭酸ナトリウム0.1部、SFS(ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.5部、硫酸第一鉄0.00024部及びEDTA(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)0.00072部の水溶液を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら下記の第1段目の単量体混合物を80℃で200分間にわたって滴下し、その後更に120分間重合を行い、重合体のラテックスを得た。この第1段目の単量体混合物の重合で得られる重合体のFOXの式から求めたTgは−29℃であった。
【0079】
この重合体のラテックスに、引き続いて脱イオン水10部及びSFS0.15部の水溶液を添加し、窒素雰囲気下で攪拌しながら下記のゴム含有重合体(x1)の第2段目の単量体混合物を80℃で100分間にわたって滴下し、その後更に80℃で60分間重合を行い、ゴム含有重合体(x1)のラテックスを得た。この第2段目の単量体混合物の重合で得られる重合体のFOXの式から求めたTgは99℃であった。
【0080】
得られた重合体ラテックス中のゴム含有重合体(x1)を大塚電子(株)製の光散乱光度計DLS−700(商品名)を用い、動的光散乱法で測定したところ、質量平均粒子径は0.12μmであった。
【0081】
得られたゴム含有重合体(x1)の重合体ラテックスを、濾材としてSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して固形分を回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(x1)を得た。ゴム含有重合体(x1)のゲル含有率は84%であり、ゴム含有率は62.5%であった。ゲル含有率は、ゴム含有重合体(x1)をアセトン溶媒中、還流下で抽出処理し、この処理液を遠心分離により分別し、乾燥後、アセトン不溶分の質量を測定し(抽出後質量)、下記式にて算出した。
ゲル含有率(%)=抽出後質量(g)/抽出前質量(g)×100
【0082】
<第1段目の単量体混合物>
n−BA(アクリル酸n−ブチル) 81.0部
St(スチレン) 19.0部
AMA(メタクリル酸アリル) 1.0部
tBH(t−ブチルハイドロパーオキサイド) 0.25部
乳化剤 1.1部
【0083】
<第2段目の単量体混合物>
MMA(メタクリル酸メチル) 57.0部
MA(アクリル酸メチル) 3.0部
n−OM(n−オクチルメルカプタン) 0.2部
t−BH 0.1部
【0084】
[製造例2]
アクリル樹脂フィルム(B2)
ゴム含有重合体(x2)100部に、配合剤としてADEKA社製商品名「アデカスタブLA−31RG」2.1部、ADEKA社製商品名「アデカスタブAO−50」0.1部、及びADEKA社製商品名「アデカスタブLA−57」0.3部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この樹脂組成物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30(商品名))に供給し、混練してペレットを得た。
【0085】
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm巾のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度180〜240℃、Tダイ温度240℃の条件で、50μm厚みのアクリル樹脂フィルムを製膜した。
【0086】
<ゴム含有重合体(x2)の製造>
攪拌機を備えた容器に脱イオン水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD(1,3−ブチレングリコールジメタクリレート)0.2部、AMA0.05部およびCHP(クメンハイドロパーオキサイド)0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業社製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0087】
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水186.5部を投入し、70℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、第1段目重合体(x2−k1)の重合を完結した。続いて、MMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部およびAMA0.25部からなる単量体成分を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、第2段目重合体(x2−k2)を含む重合体(x2−k)を得た。なお、第1段目重合体(x2−k1)単独のTgは−48℃、第2段目重合体(x2−k2)単独のTgは−48℃であった。
【0088】
続いて、MMA6部、n−BA4部およびAMA0.075部からなる単量体成分を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、第3段目重合体(x2−l)を形成させた。なお、第3段目重合体(x2−l)単独のTgは20℃であった。
【0089】
続いて、MMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.19部およびt−BH0.08部からなる単量体成分を140分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、第4段目重合体(x2−m)を形成して、ゴム含有重合体(x2)の重合体ラテックスを得た。なお、第4段目重合体(x2−m)単独のTgは84℃であった。
重合後に測定したゴム含有重合体(x2)の重量平均粒子径は0.12μmであった。
【0090】
得られたゴム含有重合体(x2)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い、濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(x2)を得た。
ゴム含有重合体(x2)のゲル含有率は、60%であった。
【0091】
[実施例1]
[硬化性組成物の調製]
合成例1の目的物(A1)250g(固形分50g)、合成例2の目的物(A2)250g(固形分50g)に、硬化触媒(三新化学工業(株)製、サンエイドSI−100L)4.0g(固形分2.0g)を配合し、レベリング剤としてシリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)0.5g、1−メトキシ−2−プロパノール(PGM)400gを混合し、硬化性組成物を得た。
【0092】
[被膜の形成]
製造例1で得られたアクリル樹脂フィルム状物(B1)250mm角上に実施例1記載の硬化性組成物をバーコーターにて塗工を行った。引き続いて、温風乾燥機にて90℃、30分放置し、溶剤を揮発させ、硬化性組成物からなる塗膜を形成した。その塗膜のFT−IR測定を行ったところ、18.7であった。
【0093】
なお、FT−IRの測定は、ニコレー社製サンダードーム(使用ATR結晶;Ge結晶、赤外光入射角;45度)を取り付けたフーリエ変換赤外吸収分光計(ニコレー社製、商品名:Niclet4700)を用いて測定した。シロキサン結合に由来するピーク面積960cm−1〜1240cm−1/Si−CHに由来するピーク面積1250cm−1〜1300cm−1の値を算出した。
【0094】
得られた硬化性塗膜が積層されたフィルムのフィルム側を、長さ250mm、幅250mm、厚さ3mmのアクリル基材(C)に積層し、SUSプレス板を用いて、加熱温度130℃、圧力7MPaで5分間プレスし、プレス板から剥離してすぐ木型(R100)に乗せて成形した。さらに、高圧水銀灯(株式会社オーク製作所製、紫外線照射装置、ハンディーUV−1200、QRU−2161型)にて、約1,000mJ/cm2の紫外線を照射し、膜厚約5μmの硬化被膜を得た。なお、紫外線照射量は、紫外線光量計(株式会社オーク製作所製、UV−351型、ピーク感度波長360nm)にて測定した。
【0095】
[被膜の評価]
得られた成形体を、以下の方法により評価した。
1)外観
目視にて硬化被膜を有するアクリル板の透明性、白化の有無を観察し、以下の基準により評価した。
○:透明で、白化の欠陥の無いもの(良好)。
×:不透明な部分のあったもの、白化等の欠陥があったもの(不良)。
2)膜厚
Metricon社製MODEL 2010 PRISM COUPLERにて測定。
3)加工性
木型(R100)に乗せて成形した硬化被膜を有するアクリル積層体を、目視にて透明性、クラック、白化の有無を観察し、以下の基準により評価した。
○:透明で、クラック、白化の欠陥の無いもの(良好)。
×:不透明な部分のあったもの、クラック、白化等の欠陥があったもの(不良)。
【0096】
4)被膜密着性
硬化被膜へ、カミソリの刃で1mm間隔に縦横11本ずつの切れ目を入れて100個のマス目を作り、セロハンテープを良く密着させた後、45度手前方向に急激に剥がし、硬化被膜が剥離せずに残存したマス目数を計測して、以下の基準で評価した。
○:剥離したマス目がない(密着性良好)。
△:剥離したマス目が1〜5個(密着性中程度)。
×:剥離したマス目が6個以上(密着性不良)。
5)耐摩耗性
摩耗輪(Calibrase社製:CS−10F)を用い、硬化被膜に荷重500gで300回転テーバー摩耗試験を行い、テーバー摩耗試験後のヘイズ値と試験前のヘイズ値の差△H(%)で評価した。
○:10%以下
×:10%を超える
6)耐クラック性
成形体を温度90℃の熱水に2時間放置して、硬化被膜におけるクラックの発生状況を目視で確認した。
○:クラックの発生なし。
×:クラックの発生あり。
【0097】
その結果、本実施例の硬化被膜は、耐摩耗性、耐クラック性、良好な外観を有していた。
【0098】
評価結果を表1に示す。
【0099】
[実施例2、3]
表1に記載のものを用いること以外は実施例1と同様にして硬化被膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0100】
[実施例4]
表1に記載のものを用いること以外は実施例1と同様にして硬化性組成物を得た。製造例2で得られたアクリル樹脂フィルム状物(B2)250mm角上に実施例4記載の硬化性組成物をバーコーターにて塗工を行った。引き続いて、温風乾燥機にて30℃、60分放置し、溶剤を揮発させ、硬化性組成物からなる塗膜を形成した。その塗膜のFT−IR測定を行ったところ、18.2であった
【0101】
得られた硬化性塗膜が積層されたフィルムのフィルム側を、長さ250mm、幅250mm、厚さ3mmのアクリル基材(C)に積層し、SUSプレス板を用いて、加熱温度130℃、5分予熱をし、130℃、圧力7MPaで5分間プレスし、プレス板から剥離してすぐ木型(R100)に乗せて成形した。成形品を温風乾燥機にて90℃、60分硬化させ硬化被膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0102】
[比較例1]
製造例1で得られたアクリル樹脂フィルム状物(B1)250mm角上に実施例1記載の硬化性組成物をバーコーターにて塗工を行った。引き続いて、温風乾燥機にて90℃、10分放置し、溶剤を揮発させ、硬化性樹脂層を形成した。
【0103】
さらに、高圧水銀灯(株式会社オーク製作所製、紫外線照射装置、ハンディーUV−1200、QRU−2161型)にて、約1,000mJ/cm2の紫外線を照射し、膜厚約5μmの硬化被膜を得た。なお、紫外線照射量は、紫外線光量計(株式会社オーク製作所製、UV−351型、ピーク感度波長360nm)にて測定した。その塗膜のFT−IR測定を行ったところ、22.5であった。
【0104】
上記方法で得られた硬化性塗膜が積層されたフィルムのフィルム側を、長さ250mm、幅250mm、厚さ3mmのアクリル基材(C)に積層し、SUSプレス板を用いて、加熱温度130℃、5分間予熱をし、130℃、圧力7MPaで5分間プレスし、プレス板から剥離してすぐ木型(R100)に乗せて成形した。評価結果を表1に示す。なお、得られた硬化被膜表面にはクラックが発生していたので密着性、耐摩耗性、耐クラック性は評価しなかった。
【0105】
[比較例2]
被膜形成時の乾燥条件を90℃、5分とする以外は実施例1と同様にして硬化被膜を得た。その塗膜のFT−IR測定を行ったところ、13.7であった。評価結果を表1に示す。なお、得られた硬化被膜表面は平滑ではなかったので、密着性、耐摩耗性、耐クラック性は評価しなかった。
【0106】
[比較例3]
シロキサン化合物と開始剤の代わりに表1に記載のアクリル系コーティング剤を用いること以外は実施例1と同様にして硬化被膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
表1の略号は、以下の通りである。
A1:合成例1で得られたシロキサン化合物
A2:合成例2で得られたシロキサン化合物
SI−100L:光感応性酸発生剤(三新化学工業(株)製、サンエイドSI−100L)
L−7001:シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)
PGM:1−メトキシ−2−プロパノール
アクリル系コーティング剤:ペンタエリスリトールテトラアクリレート60部(東亞合成製、M450)、トリメチロールプロパントリアクリレート40部(第一工業製薬製、ニューフロンティアTMPT)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン1.5部
B1:製造例1で得られたアクリル樹脂フィルム
B2:製造例2で得られたアクリル樹脂フィルム
基材(C):三菱レイヨン製アクリライト(登録商標)L 板厚3mm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるアルキルシリケート類
【化1】

(式中R、R、R、Rは独立して炭素数1〜5のアルキル基または、炭素数1〜4のアシル基を示し、nは3〜20のいずれかの整数を示す。)
及び一般式(2)で示されるオルガノシラン類
【化2】

(式中Rは炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、またはイソシアネート基を含有する有機基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基、または、炭素数1〜4のアシル基を示し、aは1〜3の整数を示す。)の少なくとも一方を加水分解縮合して得られたシロキサン化合物(A)を含む硬化性組成物からなり、且つ、その赤外線吸収スペクトルのシロキサン結合に由来するピーク面積/Si−CHに由来するピーク面積の比が16〜21である硬化性塗膜が積層されたアクリル樹脂フィルム(B)
【請求項2】
アクリル樹脂フィルム(B)が、ゴム含有多段重合体(x)1〜100質量部とアクリル(共)重合体(y)99〜0質量部との合計100質量部からなる、請求項1に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアクリル樹脂フィルムが、基材(C)に積層された成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−231169(P2011−231169A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100807(P2010−100807)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】