説明

硬化性組成物、硬化物及び積層体

【課題】指紋が付着してもこれが目立ち難いハードコート層を提供する。
【解決手段】ハードコート層1は硬化物で構成してある。硬化物は硬化性組成物に紫外線を照射して硬化させてなる。硬化性組成物は硬化型樹脂を含む。硬化型樹脂は反応性モノマーとグリフィン法によるHLB値が2〜18の非イオン系界面活性剤を含む。反応性モノマーはイソシアヌル酸誘導体を含む。イソシアヌル酸誘導体はイソシアヌル酸骨格に重合性反応基とアルキレンオキシド鎖と環構造から誘導される単位(アルキレンオキシド鎖を除く)とが結合した構造を有する。
アルキレンオキシド鎖はイソシアヌル酸骨格の3つの窒素原子の少なくとも何れかに結合し、環構造から誘導される単位はアルキレンオキシド鎖に結合し、重合性反応基は環構造から誘導される単位に結合して構成されている。環構造はラクトン、ラクタム、シクロオレフィン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シラシクロペンテン、シクロデカン、イソボルニルから選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
シロキサン系化合物を含有するコーティング用組成物の硬化物で構成されるコート層は知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−188557(段落0013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、シロキサン系化合物の影響でコート層に撥水性と撥油性が強く付与される。このため、コート層に指紋が付着した場合、付着した指紋がコート層表面で目立ち、見栄えが劣るという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、指紋が付着してもこれを目立ち難くすることができる被膜を形成可能な硬化性組成物と、この硬化性組成物の硬化物と、この硬化物を含む積層体とを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。
【0007】
本発明に係る積層体はハードコート層を有する。ハードコート層は硬化物で構成してある。硬化物は硬化性組成物を硬化させてなる。硬化性組成物は硬化型樹脂を含む。硬化型樹脂は反応性モノマーを含む。反応性モノマーはイソシアヌル酸誘導体を含む。イソシアヌル酸誘導体は、イソシアヌル酸骨格に重合性反応基とアルキレンオキシド鎖と環構造から誘導される単位(アルキレンオキシド鎖を除く)とが結合した構造を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、指紋が付着してもこれを目立ち難くすることができる。その結果、見栄えが悪くなることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本実施形態に係るハードコート層の表面状態を説明するイメージ図である。
【図2】図2はハードコート層のぬれ張力が低すぎる場合のハードコート層の表面状態を説明するイメージ図である。
【図3】図3はハードコート層のぬれ張力が高すぎる場合のハードコート層の表面状態を説明するイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る硬化性組成物、硬化物、積層体の実施形態を説明する。
【0011】
《硬化性組成物》
本実施形態の硬化性組成物は、樹脂成分を含有する。本実施形態では、樹脂成分は、熱硬化型樹脂又は電離放射線硬化型樹脂の一方又は双方を含む。特に硬化後の被膜硬度に優れるとの観点から、樹脂成分は、少なくとも電離放射線硬化型樹脂を含有することが好ましい。
樹脂成分に好ましく含まれる電離放射線硬化型樹脂は、光重合性モノマー又は光重合性プレポリマーを単独又は併用し、所望により、電離放射線(光)照射により活性ラジカル種を発生させる化合物等(電離放射線(光)重合開始剤)を含有する。
【0012】
本実施形態では、電離放射線硬化型樹脂に含まれる光重合性モノマー(反応性モノマーの一例)として、少なくとも、イソシアヌル酸誘導体(A)を用いる。イソシアヌル酸誘導体(A)は、イソシアヌル酸骨格を持ち、当該イソシアヌル酸骨格に重合性反応基とアルキレンオキシド鎖が結合した構造を有する。
【0013】
なお、本実施形態では、樹脂成分に電離放射線硬化型樹脂を含有させ、反応性モノマーの一例としての光重合性モノマーに後述のイソシアヌル酸誘導体(A)を用いる場合を例示するが、電離放射線硬化型樹脂に代えて、あるいはこれとともに熱硬化型樹脂を樹脂成分に含有させてもよい。樹脂成分に熱硬化型樹脂を含有させる場合、熱重合性モノマーやプレポリマーを単独又は併用し、所望により、後述の熱重合開始剤(D2)、すなわち加熱により活性ラジカル種を発生させる化合物等を含有させる。この場合、熱重合性モノマーとして後述のイソシアヌル酸誘導体(A)を用いてもよい。
【0014】
本発明者らは、硬化後の被膜表面に指紋が付着した場合に、その付着した指紋を目立ち難くする(指紋視認困難度の向上)には、被膜表面に撥水性と撥油性を強く付与するのではなく、適度な親水性と親油性を付与することが有効であるとの知見を得た。この知見に基づいて材料の検討を行ったところ、特定のイソシアヌル酸誘導体(A)を用いることで、硬化後の被膜表面に適度な親水性と親油性を発現させることができることを見出した。
【0015】
本実施形態では、光重合性モノマーに特定のイソシアヌル酸誘導体(A)を含有させて用いることで、硬化後の被膜に適度な親水性と親油性を発現させることができ、被膜表面に対する指紋成分(水性成分と油性成分からなる)の接触度合いが小さくなり過ぎることがなく、指紋成分を被膜表面で適度に濡れ広がらせることができる。その結果、硬化後の被膜表面に指紋が付着した場合でも、その付着した指紋を目立ち難くすることができる(指紋視認困難度の向上)。本実施形態では、こうした指紋視認困難度の向上の他に、硬化後の被膜のハードコート性(被膜硬度)の低下も防止することができる。すなわち、指紋視認困難度の向上とハードコート性の低下防止の各性能をバランスよく両立させることができる。
【0016】
また本発明者らは、特定のイソシアヌル酸誘導体(A)を用いることで、指紋視認困難度の向上とハードコート性の低下防止の作用を備えるほかに、指紋付着後の当該指紋の拭き取り性が良好となり、しかも拭き取り後の指紋成分も目立ち難くすることができることも見出した。
【0017】
本実施形態では、イソシアヌル酸誘導体(A)のイソシアヌル酸骨格に結合される重合性反応基の種類は、特に限定されないが、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基等が挙げられる。これらの中でも、特にアクリロイル基やメタクリロイル基が好ましい。
【0018】
本実施形態では、イソシアヌル酸誘導体(A)のイソシアヌル酸骨格に結合される重合性反応基の数は、特に限定されないが、2つ以上であることが好ましい。イソシアヌル酸骨格の窒素原子に結合される重合性反応基を少なくとも2つ有することで、架橋密度が高まり、これを含有させることによるハードコート性の低下を防止することができる。
【0019】
本実施形態では、イソシアヌル酸誘導体(A)のイソシアヌル酸骨格には、アルキレンオキシドが結合されている。これにより、硬化後の被膜に適度な親水性を発現させることができ、指紋拭き取り性の向上に寄与することができる。本実施形態では、特に、エチレンオキシド(EO)が好ましい。EOを含有させることで、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)などを含有させた場合と比較して硬化後の被膜に適度な親水性を発現させることが容易であり、指紋拭き取り性の向上に、より一層寄与することができる。
【0020】
本実施形態で用いるイソシアヌル酸誘導体(A)のイソシアヌル酸骨格には、閉じた環構造(シクロ環)から誘導される単位が結合されていてもよい。環構造としては、ラクトン、ラクタム、シクロオレフィン(例えばシクロペンテン、シクロヘキセンなど)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シラシクロペンテン、シクロデカン、イソボルニルなどが挙げられる。ラクトンから誘導される単位は例えば(−CO−O−(CH)であり、ラクタムから誘導される単位は例えば(−NH−O−(CH)である。
【0021】
ラクトンとしては特に限定されないが、カプロラクトンが好適に用いられる。カプロラクトンとしては特に限定されず、例えばε−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、γ−カプロラクトン等が挙げられるが、中でもε−カプロラクトンが好ましい。カプロラクトン以外のラクトンとしては特に限定されず、例えばδ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、β−プロピオラクトン等が挙げられる。分子中にラクトンやラクタムなどから誘導される単位を有することで、硬化後の被膜に適度な親油性を発現させることができ、指紋視認困難度の向上に寄与することができる。
【0022】
本実施形態で用いるイソシアヌル酸誘導体(A)の分子量は、200以上5000以下であることが好ましい。分子量の値が大きくなりすぎると、硬化後の被膜のハードコート性が低下するおそれがある。逆に分子量の値が小さくなりすぎると、硬化後の被膜に適度な親水性や親油性を発現させることができなくなる傾向がある。なお、分子量の値は、テトラヒドロフランなど移動相溶媒を用いたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として求められる。
【0023】
本実施形態で用いるイソシアヌル酸誘導体(A)は、グリフィン法によるHLB値が、好ましくは10以上18以下、より好ましくは12を超え15以下である。なお、グリフィン法によるHLB値は、次の計算式で算出される。
【0024】
[数1] HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量
HLB(Hydrophile−Lipophile−Balance。親水性−親油性−バランス)値は、イソシアヌル酸誘導体(A)の特性を示す重要な指数であって、親水性又は親油性の大きさの程度を示す値である。一般にHLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。
【0025】
HLB値が所定範囲に制御されたイソシアヌル酸誘導体(A)を用いることで、硬化後の被膜の親水性が適度に向上する。その結果、硬化後の被膜の表面特性を、後述の範囲に制御しやすくすることができる。指紋は汗を含むため、水分の付着性や濡れ性も耐指紋性を左右する重要なファクターである。そして、被膜表面で指紋を濡れ広がらせることによって指紋による汚れが目立たなくなる効果を発現させるには、硬化後の被膜の表面は適度な親水性を有することがより望ましいのである。
【0026】
本実施形態では、イソシアヌル酸誘導体(A)のHLB値が小さすぎると、硬化後の被膜に適度な親水性を発現させることができないおそれがある。逆にHLB値が大きすぎると、親水性が強くなりすぎ、指紋の拭き取り性が低下する。
【0027】
以上説明したイソシアヌル酸誘導体(A)は、例えば式(1)で表される。
【0028】
【化1】

ここで、式(1)において、Rは式(2)で示される一価の置換基、Rは式(3)で示される一価の置換基、Rは式(4)で示される一価の置換基である。
【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

ここで、式(2)〜式(4)において、A、A及びAはいずれもアルキレン基、好ましくは炭素数が2〜4のアルキレン基、より好ましくはエチレン基である。
【0032】
、R及びRは式(5)で示される一価の置換基である。本発明では、1分子中のA、A及びA並びにR、R及びRはそれぞれ同一であってもよいし、あるいは互いに異なっていてもよい。
【0033】
、n及びnはいずれも3以下(ただし0を含まない)の実数、好ましくは0.5〜1.5の実数である。n、n、nの値が大きいと、指紋の拭き取り性が悪くなる傾向がある。
【0034】
、n及びnの合計(n+n+n)は5以下、好ましくは2.0〜4.0である。(n+n+n)の値が大きいと、指紋の拭き取り性がさらに悪くなる傾向がある。
【0035】
pは4から6までの整数である。p=4のバレロラクトン変性基、p=5のカプロラクトン変性基、及びp=6のエナントラクトン変性基のいずれであってもよい。中でも、特に、p=5のカプロラクトン変性基である場合が好ましい。
【0036】
q、r及びsは、好ましくはいずれも0から1.0までの実数、より好ましくは0.2〜0.5の実数である。q、r及びsの合計(q+r+s)は0.5から3.0までの実数、好ましくは0.5〜2.0の実数、より好ましくは0.5〜1.5の実数である。(q+r+s)の値が大きすぎると、親水性と親油性のバランスが崩れて指紋が目立ちやすくなる傾向がある。逆に(q+r+s)の値が小さすぎると、指紋の拭き取り性が悪くなる傾向がある。
【0037】
なお、q、r及びsは同時に0であってもよい。すなわち、式(1)におけるR、R及びRのいずれも、バレロラクトン変性基(p=4)、カプロラクトン変性基(p=5)及びエナントラクトン変性基(p=6)から選ばれるラクトン変性基を有しない置換基であってもよい。
【0038】
【化5】

ここで、式(5)において、Rは水素原子又はメチル基である。好ましくは水素原子である。
【0039】
上述した式(1)で表されるイソシアヌル酸誘導体(A)の好ましい例としては、A、A及びAがいずれもエチレン基、n、n及びnがいずれも1.0、n、n及びnの合計が3.0、pが5、q、r及びsの合計が1.0(又は2.0)であって、Rが水素原子又はメチル基の化合物である、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド3モル及びε−カプロラクトン1モル(又は2モル)付加物のトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0040】
本実施形態の硬化性組成物中における、イソシアヌル酸誘導体(A)の含有量(固形分換算)は、他の樹脂成分の種類や硬化物としたときの厚みによって異なってくるが、全樹脂成分において、好ましくは1〜60重量%であり、より好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。(A)の含有量が少なすぎると、硬化後の被膜に適度な親水性と親油性を付与することが困難になる傾向があり、逆に(A)の含有量が多すぎると、硬化後の被膜のハードコート性が十分でなくなるおそれがある。
【0041】
本実施形態では、イソシアヌル酸誘導体(A)とともに、光重合性プレポリマー(C)や他の光重合性モノマー(B)を併用することができる。
【0042】
光重合性プレポリマー(C)には、ラジカル重合型とカチオン重合型とがある。
【0043】
ラジカル重合型光重合性プレポリマー(C1)としては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマー(硬質プレポリマー)が、ハードコート性の観点から特に好ましく使用される。
【0044】
アクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等が挙げられる。
【0045】
ウレタンアクリレート系プレポリマーは、例えばポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸との反応でエステル化することにより得ることができる。ポリエステルアクリレート系プレポリマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、又は、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシアクリレート系プレポリマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラックエポキシ樹脂のオキシラン環と、(メタ)アクリル酸との反応でエステル化することにより得ることができる。
【0046】
アクリル系プレポリマーは、被塗布部材の種類や用途等に応じて適宜選択することができる。
【0047】
カチオン重合型光重合性プレポリマー(C2)としては、エポキシ系樹脂やビニルエーテル系樹脂などが挙げられる。エポキシ系樹脂としては、例えばビスフェノール系エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0048】
本実施形態では、これらの光重合性プレポリマー(C)を単独で使用してもよく、また2種以上を組合せて使用することもできる。さらには、架橋硬化性の向上や、硬化収縮の調整等、種々の性能を付与するために、他の光重合性モノマー(B)を加えることが好ましい。
【0049】
他の光重合性モノマー(B)としては、単官能アクリルモノマー(例えば2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等)、2官能アクリルモノマー(例えば1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート等)、3官能以上のアクリルモノマー(例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等)が挙げられる。なお、「アクリレート」には、文字通りのアクリレートの他、メタクリレートも含む。これらの光重合性モノマー(B)は単独で使用してもよく、また2種以上を組合せて使用することもできる。
【0050】
本実施形態の硬化性組成物中に光重合性プレポリマー(C)及び他の光重合性モノマー(B)の少なくとも何れかを含有させる場合の、当該光重合性プレポリマー(C)及び他の光重合性モノマー(B)の合計含有量(固形分換算)は、全樹脂成分において、好ましくは40〜99重量%であり、より好ましくは60〜95重量%、さらに好ましくは80〜90重量%である。
【0051】
電離放射線硬化型樹脂に所望により含まれる光重合開始剤(D1)としては、ラジカル重合型光重合性プレポリマーや光重合性モノマーに対しては、例えばアセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α−アシルオキシムエステル、チオキサンソン類等が挙げられる。カチオン重合型光重合性プレポリマーに対する光重合開始剤としては、例えば芳香族スルホニウムイオン、芳香族オキソスルホニウムイオン、芳香族ヨードニウムイオンなどのオニウムと、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネートなどの陰イオンとからなる化合物が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組合せて使用することもできる。
【0052】
本実施形態の硬化性組成物中に光重合開始剤(D1)を含有させる場合の、当該光重合開始剤(D1)の配合量は、上記(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して、通常0.2〜10重量部の範囲で選ばれる。
【0053】
本実施形態では、上述した樹脂成分を硬化させるに際し、必要に応じて、光重合開始剤(D1)と、熱的に活性ラジカル種を発生させる化合物等(熱重合開始剤)とを併用することができる。熱重合開始剤(D2)としては、例えば、過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチル−パーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0054】
本実施形態では、光重合開始剤(D1)及び所望により添加される熱重合開始剤(D2)とともに、光重合促進剤や紫外線増感剤等を併用することもできる。光重合促進剤としては、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルなどが挙げられる。紫外線増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィンなどが挙げられる。
【0055】
本実施形態では、樹脂成分として、上述した熱硬化型樹脂や電離放射線硬化型樹脂の他、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、熱可塑性樹脂等の他の樹脂を含有させてもよい。
【0056】
本実施形態の硬化性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、必要に応じて、添加成分(E)を適宜配合してもよい。添加成分(E)としては、例えば、表面調整剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、蛍光増白剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤、貯蔵安定剤、架橋剤等が挙げられる。
【0057】
本実施形態では、表面調整剤またはレベリング剤として、例えば非イオン系界面活性剤を配合することが好ましい。本実施形態では、2種類以上の非イオン系界面活性剤を配合することもできる。
【0058】
本実施形態で好ましく用いることのできる非イオン系界面活性剤としては、グリフィン法によるHLB値が、例えば2〜18、好ましくは5〜16、より好ましくは5〜15である。HLB値が適切に制御された非イオン系界面活性剤を配合することで、指紋の拭き取り性が向上する。中でも、HLB値が、好ましくは6〜16、より好ましくは8〜15、さらに好ましくは8.5〜15に制御された特定の非イオン系界面活性剤(以下「第1の非イオン系界面活性剤」とも言う。)を配合することにより、指紋の拭き取り性がさらに向上する。さらに本実施形態では、グリフィン法によるHLB値が、例えば5.5〜9、好ましくは6〜8.5に制御された特定の非イオン系界面活性剤(以下「第2の非イオン系界面活性剤」とも言う。)を、第1の非イオン系界面活性剤とともに併用して配合することが、より好ましい。HLB値が第1の非イオン系界面活性剤よりも低い第2の非イオン系界面活性剤を併用して配合することにより、指紋の拭き取り性を阻害しない範囲で、指紋視認困難度がさらに向上する。
非イオン界面活性剤は水に溶けてイオン性を示さない界面活性剤を総称するが、他の界面活性剤と同様に疎水基(親油基)と親水基との組合せ結合で構成される。
【0059】
このような非イオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸エステルやポリエーテルが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、1価アルコール又は2価以上の多価アルコールと脂肪酸との縮合による脂肪酸エステルが挙げられ、例えば、プロピレングリコールモノステアリン酸エステル、プロピレングリコールモノラウリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ジエチレングリコールモノラウリン酸エステル、グリセロールモノステアリン酸エステル、ソルビタンセスキオレイン酸エステル、ソルビタンモノオレイン酸エステル、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ソルビタンモノパルミチン酸エステル、ソルビタンモノラウリン酸エステル等である。
【0060】
また、脂肪酸エステルとしては、ポリオキシアルキレン付加脂肪酸エステルも挙げられる。非イオン界面活性剤に適したものであれば、公知の脂肪酸エステルに酸化アルキレンを付加重合させて得た公知の非イオン界面活性剤を配合しても良い。付加重合させる酸化アルキレンとしては、酸化エチレン又は酸化プロピレンが好適である。酸化エチレン又は酸化プロピレンは、それぞれ単独で付加重合させてもよく、共重合付加させたものでもよい。ポリオキシアルキレン付加脂肪酸エステルとしては、非イオン界面活性剤に適したものであれば、公知のポリオキシアルキレン付加脂肪酸エステルを配合しても良い。例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレン(4)ソルビタントリステアリン酸エステル、ポリオキシエチレン(5)ソルビタンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレン(5)ソルビタンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレイン酸エステル、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレングリコール400モノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレングリコール400モノモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコール400モノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノラウリン酸エステル等である。
【0061】
なお本実施形態では、脂肪酸エステルやポリエーテル以外の界面活性剤として、ポリオキシエチレンコレステリルエーテルやポリオキシエチレンデシルテトラデシルエーテルなどを使用しても良い。また、上記以外の界面活性剤として、アルキレンオキシド鎖とアルキル基を有する界面活性剤を使用することもできる。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどが挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンモノオレエートの少なくとも何れかが好ましい。
本実施形態において、アルキレンオキシド鎖とアルキル基を有する界面活性剤を用いる場合、その分子中に含まれるアルキレンオキシド(特にエチレンオキシド)のモル数は、例えば1〜5.5、好ましくは2〜4.5モルである。また、アルキレンオキシド鎖とアルキル基を有する界面活性剤を用いる場合、その界面活性剤のグリフィン法によるHLB値は、例えば5.5〜9、好ましくは6〜8.5である。HLB値やアルキレンオキシドのモル数などが適切に制御された所定の界面活性剤を用いることで、指紋の拭き取り性を阻害しない範囲で、指紋油と馴染みやすくなり、指紋視認困難度のさらなる向上が期待される。
【0062】
本実施形態の硬化性組成物中に非イオン系界面活性剤を配合する場合の、当該非イオン系界面活性剤の配合量(界面活性剤を複数種配合する場合には合計配合量)は、樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは1重量部以上である。好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。界面活性剤の配合量が少なすぎると配合の効果がなく、逆に配合量が多すぎると硬化後の被膜のハードコート性が低下するおそれや、被膜の表面付近にまでブリードしてくることにより被膜表面の白化をまねくおそれがある。適量を配合することで、得られる硬化物の指紋の拭き取り性がさらに向上することが期待される。
【0063】
本実施形態の硬化性組成物は、通常は塗料の形態で実現される。有機溶剤系塗料とする場合は、樹脂成分の種類によって適宜選択すればよいが、上述した樹脂成分(必要に応じてさらに添加成分)を、有機溶剤等の希釈溶媒で溶解または分散させた後、必要に応じて添加剤を加えることで、硬化性組成物を製造することができる。有機溶剤としては、特に限定されないが、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル類(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等)、エーテル類(例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、芳香族炭化水素類(例えばベンゼン、トルエン、キシレン等)、アミド類(例えばジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等)が挙げられる。無溶剤系塗料とする場合は、上述した樹脂成分に、必要に応じて添加成分を加えることで、硬化性組成物とすることができる。
【0064】
《硬化物》
本実施形態の硬化物は、上述した硬化性組成物を所望の被塗布対象に塗布し、硬化させることにより得ることができる。
【0065】
被塗布対象としては、ハードコート性(耐擦傷性)と指紋視認困難度の向上効果の付与が望まれる基材である。本実施形態で用いることのできる基材の態様は、特に限定されず、フィルム状、シート状またはプレート状など、いかなる厚みを有するものであってもよい。また、基材は、その表面が、例えば凸凹形状であってもよく、あるいは三次元曲面を有する立体的な形状であってもよい。
【0066】
基材の材質にも特に制限はなく、ガラス板などの硬質基材であってもよいが、本実施形態では、可撓性を持つ樹脂基材であることが好ましい。樹脂基材を構成する樹脂の種類は特に限定されない。例えばフィルム状やシート状で樹脂基材を形成する場合の樹脂としては、例えばアクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、アセチルセルロース、シクロオレフィン等が挙げられる。その一方で、例えばプレート状で樹脂基材を形成する場合の樹脂としては、例えばアクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0067】
本実施形態では、硬化物との接着性を向上させる目的で、基材表面に易接着処理が施してあってもよい。易接着処理としては、例えばプラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理、下引き易接着層の形成等が挙げられる。
【0068】
なお、基材には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、顔料や紫外線吸収剤をはじめ、本実施形態の硬化性組成物に含有させうる添加剤と同様の添加剤を含有させてもよい。
【0069】
被塗布対象に対する硬化性組成物の塗布(コーティング)は、常法によって行えばよく、例えばバーコート、ダイコート、ブレードコート、スピンコート、ロールコート、グラビアコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーン印刷、刷毛塗りなどを挙げることができる。
【0070】
本実施形態では、塗布後の塗膜の厚みが、後述の乾燥、硬化後に、好ましくは0.1μm以上30μm以下程度となるように塗布する。硬化性組成物を被塗布対象に塗布したら、塗布後の塗膜を50〜120℃程度で乾燥させることが好ましい。
【0071】
硬化性組成物の硬化は、塗布後の塗膜に対して、熱によるキュアリングおよび/または電離放射線(光)を照射することによって行うことができる。
【0072】
熱による場合、その熱源としては、例えば、電気ヒーター、赤外線ランプ、熱風等を用いることができる。
【0073】
電離放射線(光)による場合、その線源としては、基材に塗布された硬化性組成物を短時間で硬化可能なものである限り特に制限はない。例えば、赤外線の線源として、ランプ、抵抗加熱板、レーザー等が挙げられる。可視光線の線源として、日光、ランプ、蛍光灯、レーザー等が挙げられる。紫外線(電離放射線)の線源として、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどが挙げられる。こうした紫外線の線源から発せられる100nm〜400nm、好ましくは200nm〜400nmの波長領域の紫外線を照射する。電子線(電離放射線)の線源として、走査型やカーテン型の電子線加速器などが挙げられる。こうした電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射する。
【0074】
電離放射線の照射量は、電離放射線の種類によって異なるが、例えば紫外線の場合には、光量で100〜500mJ/cm程度が好ましく、電子線の場合には、10〜1000krad程度が好ましい。
【0075】
《積層体》
図1に示すように、本実施形態の積層体は、被塗布対象(図示省略)の表面に、ハードコート層1が積層してある。ハードコート層1は、本実施形態の硬化性組成物の硬化物で構成してある。
【0076】
本実施形態のハードコート層1は、上述した特定のイソシアヌル酸誘導体(A)を含む硬化性組成物の硬化物で構成してあるので、その表面特性が適切に制御される。具体的には、本実施形態のハードコート層1は、水に対する接触角が大きく、椿油に対する接触角が小さく、ぬれ張力が所定範囲に調整されていることが好ましい。
【0077】
本実施形態では、ハードコート層1の水に対する接触角が、50°以上に制御されていることが好ましい。より好ましくは70°以上、さらに好ましくは80°以上に制御してある。水に対する接触角が50°以上に制御されることにより、水との接触面積が小さくなる。その結果、指紋における水性成分が離れやすくなり、指紋の拭き取り性が向上する。
【0078】
本実施形態では、ハードコート層1の水に対する接触角が、110°以下に制御されていることが好ましい。より好ましくは100°以下に制御してある。水に対する接触角が110°以下に制御されることにより、水との接触面積が小さくなり過ぎず、付着した指紋を目立ち難くすることができる(指紋視認困難度の向上)。ハードコート層1の水に対する接触角を所定範囲に制御することで、指紋視認困難度の向上の他に、指紋の拭き取り性も高めることができる。
【0079】
本実施形態では、ハードコート層1の椿油に対する接触角が、50°以下に制御されていることが好ましい。より好ましくは40°以下に制御してある。椿油に対する接触角を50°以下に制御することにより、指紋における油性成分が濡れ拡がる。このため、付着した指紋が目立ち難くなり(指紋視認困難度の向上)、さらに拭き取り後の指紋成分も目立ち難くすることができる。
【0080】
なお、水に対する接触角及び椿油に対する接触角の値は、いずれも、JIS−R3257(1999)に準拠した方法で測定した値である。
【0081】
本実施形態では、ハードコート層1のぬれ張力が、27mN/m以上に制御されていることが好ましい。より好ましくは30mN/m以上に制御してある。また、ハードコート層1のぬれ張力が、45mN/m以下に制御されていることが好ましい。より好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは38mN/m以下に制御してある。
【0082】
本発明者らは、上述した特定のイソシアヌル酸誘導体(A)を用いることで、形成される硬化後のハードコート層1のぬれ張力を所定範囲に制御でき、その結果、指紋の拭き取り性を高めることができることを見出した。こうした作用を生ずる理由については必ずしも明らかではない。推測するに、ハードコート層1のぬれ張力を所定範囲に制御した場合、指紋における水性成分2がハードコート層1の表面と適度に馴染み易くなり、ハードコート層1上に水性成分2と油性成分3が適度に混在することとなる。つまり水性成分2の多くがハードコート層1上に形成されることとなるため、指紋成分を拭き取る際に油性成分3がハードコート層1の表面に残存しにくくなる。かつハードコート層1の表面に若干の油性成分3が形成されることとなるため、ハードコート層1の表面の親水性の度合いが強くなり過ぎない。その結果、水性成分2がハードコート層1の表面から離れ難くなることを防止でき、指紋の拭き取り性が高められるのではないかと考えられる。
【0083】
これに対し、図2に示すように、ハードコート層1aのぬれ張力が低すぎると、指紋における油性成分3が水性成分2と同じくらい馴染み易くなるため、油性成分3がハードコート層1aの表面に形成され過ぎる。その結果、指紋を拭き取った後も、油性成分3がハードコート層1aの表面に残存しやすくなり、指紋の拭き取り性が低下してしまうのではないかと考えられる。
【0084】
また、図3に示すように、ハードコート層1bのぬれ張力が高すぎると、指紋における水性成分2が油性成分3よりも馴染み易くなり過ぎ、ハードコート層1bの表面の親水性の度合いが強くなり過ぎる。その結果、ハードコート層1bの表面に形成された水性成分2がハードコート層1bの表面から離れ難くなるため、指紋の拭き取り性が低下してしまうのではないかと考えられる。
【0085】
なお、ぬれ張力の値は、JIS−K6768(1999)に準拠した方法で測定した値である。
【0086】
図1に戻り、本実施形態のハードコート層1は、さらに、鉛筆引っかき値が、H以上に制御されていることが好ましい。より好ましくは2H以上に制御されている。鉛筆引っかき値が所定値以上に制御されることにより、指紋視認困難度の向上や指紋拭き取り性を低下させずに、ハードコート層1の表面がキズつくことを効果的に防止することができる。
【0087】
なお、鉛筆引っかき値は、JIS−K5600−5−4(1999)に準拠した方法で測定した値である。
【0088】
本実施形態のハードコート層1は、さらに、屈折率の値が、1.45〜1.65に制御されていることは好ましい。より好ましくは1.46〜1.52に制御されている。屈折率の値が所定範囲に制御されることにより、ハードコート層1の屈折率と指紋成分の屈折率との差を小さくすることができる。その結果、ハードコート層1に指紋が付着した場合、その付着した指紋がより一層目立ち難くなり(指紋視認困難度のさらなる向上)、さらに拭き取り後の指紋成分も目立ち難くすることができる。
【0089】
本実施形態のハードコート層1は、その厚みが、0.1μm以上30μm以下程度であることが好ましい。ハードコート層1の厚みを0.1μm以上とすることにより、十分な硬度を有する被膜とすることができる。一方で、ハードコート層1の厚みを30μm超としても、被膜硬度がさらに向上するわけではない。またハードコート層1の厚みが厚くなると、被膜の収縮によるカールが発生しやすくなる傾向がある。従って、経済性やカール防止性の観点から30μm以下の厚みとすることが好ましい。
【0090】
本実施形態では、ハードコート層1の厚みを、10μm以下、さらには5μm以下程度の薄膜とすることも可能である。薄膜にしても必要十分な性能を確保することが可能である。
【0091】
なお、本実施形態では、上述の表面特性や物性を得るために、ハードコート層1の表面に、プラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理等の表面処理を施してもよい。
【0092】
図1に示す本実施形態のハードコート層1は、ハードコート性(耐擦傷性)と指紋視認困難度の向上効果の付与が要求される用途、特に各種ディスプレイ(例えばプラズマディスプレイパネルPDP、ブラウン管CRT、液晶ディスプレイLCD、エレクトロルミネッセンスディスプレイELD、フィールドエミッションディスプレイFEDなど)用; ショーケース、時計や計器のカバーガラス用; 建築物(公共施設、一般家屋、ビルなど)、各種車両(自動車、新幹線、電車など)の窓ガラス用; 銀行のATMや切符の券売機等に代表されるタッチパネル方式の電子機器のタッチ面用; などの表面保護に好適なハードコートとして用いられる。
【0093】
なお、電子機器には、上記各種ディスプレイを持つ携帯電話(例えば、PDA(Personal Digital Assistants)機能を盛り込んだ個人用の携帯情報端末も含む)やパーソナルコンピュータなどの情報処理装置を含むことは勿論である。
【0094】
傷付き防止の観点から各種ディスプレイ(タッチパネル方式も含む)の表面に直接ハードコート層(膜)を設けたり、透明基材上にハードコート層を設けたハードコートフィルムを貼着することが行われている。こうした用途に用いられるハードコート層やハードコートフィルムは透明性が高いことから、ハードコート層部分に指紋が付着すると非常に目立ち、また、指紋が付着した部分を布などで拭いても綺麗にならない。
【0095】
これに対し、本実施形態では、ハードコート層の形成成分である硬化性組成物中に特定のイソシアヌル酸誘導体(A)を含有させることにより、硬化後の被膜(硬化物、ハードコート層)の表面に適度な親水性と親油性を付与することができ、被膜表面に対する指紋成分の接触度合いが小さくなり過ぎることがなく、指紋成分を被膜表面で適度に濡れ広がらせることができる。その結果、硬化後の被膜表面に指紋が付着した場合でも、その付着した指紋を目立ち難くすることができる。また本実施形態では、硬化後の被膜のハードコート性の低下も防止することができる。さらに本実施形態では、指紋付着後の当該指紋の拭き取り性が良好となり、しかも拭き取り後の指紋成分も目立ち難くすることもできる。
【実施例】
【0096】
次に、本発明の実施の形態をより具体化した実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施例において「部」、「%」は、特に示さない限り重量基準である。
【0097】
《実験例1》
まず、塗布液(硬化性組成物)を調製した。
【0098】
<塗布液の処方>
・電離放射線硬化型樹脂組成物(固形分100%) 17部
(ビームセット575、荒川化学工業社)
・イソシアヌル酸のエチレンオキサイド3モル及びε−カプロラクトン2モル付加物のトリアクリレート(固形分100%) 3部
(NKエステルA9300、新中村化学工業社、Mw:約700、HLB値:14。ただし、全樹脂成分において15%相当)
・光重合開始剤 0.4部
(イルガキュア651:チバスペシャリティケミカルズ社)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 30部
次に、調製した塗布液を、被塗布対象としての厚み125μmのポリエステルフィルム(コスモシャインA4300:東洋紡績社)の一方の面にバーコーター法により塗布し、乾燥させて塗膜を形成した。
【0099】
次に、形成した塗膜に対し、高圧水銀灯で紫外線を照射し(照射量400mJ/cm)、厚み6μmのハードコート層を有する積層体試料を得た。
【0100】
得られた積層体試料について、下記の方法で、水に対する接触角及び椿油に対する接触角、並びにぬれ張力を測定し、さらに指紋視認困難性、指紋拭き取り性及び鉛筆硬度を評価した。結果を表1に示す。
【0101】
(1)水に対する接触角及び椿油に対する接触角については、いずれも、JIS−R3257(1999)に準拠した方法で、積層体試料のハードコート層上を測定した。
【0102】
(2)ぬれ張力については、JIS−K6768(1999)に準拠した方法で、積層体試料のハードコート層上を測定した。
【0103】
(3)指紋視認困難性については、まず、積層体試料のハードコート層の表面に指の腹を押し当て、指紋を付着させる。次に、指紋付着後の積層体試料の被塗布部材側を対向させて黒地に載せる。次に、三波長蛍光灯下にて、積層体試料のハードコート層側の真上から指紋を観察する。その結果、真上から見ても指紋成分が見えず、斜めから見ても指紋成分が殆ど見えなかったものを「◎◎」、指紋が見えなかったものを「◎」、ほとんど見えなかったものを「○」、若干見えたものを「△」、はっきり見えたものを「×」として評価した。
【0104】
(4)指紋拭き取り性については、まず、積層体試料のハードコート層の表面に指の腹を押し当て、指紋を付着させる。次に、指紋付着後のハードコート層にティッシュ(クリネックス:クレシア社)を接触させて往復させ、指紋を拭き取る。次に、指紋拭き取り後の積層体試料の被塗布部材側を対向させて黒地に載せる。次に、三波長蛍光灯下にて、積層体試料のハードコート層側を斜めから観察し、指紋拭き取り後の状態を観察する。その結果、指紋成分が見えなくなるのに、2往復未満であったものを「◎」、2往復以上3往復未満であったものを「○」、3往復以上5往復未満であったものを「△」、5往復以上であったものまたは指紋成分が見えなくならなかったものを「×」として評価した。
【0105】
(5)鉛筆硬度については、JIS−K5600−5−4(1999)に準拠した方法で、積層体試料のハードコート層表面の鉛筆引っかき値を測定した。そして、得られた測定値が2H以上のものを「◎」、Hのものを「○」、H未満のものを「×」として評価した。
【0106】
《実験例2》
NKエステルA9300の代わりに、Mwが約400のイソシアヌル酸誘導体(固形分100%、商品名:SR368、サートマー社製、HLB値:12)を用いた以外は、実験例1と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
《実験例3》
表面調整剤としての非イオン系界面活性剤(ポリエーテル、商品名:エマルミン110、三洋化成社製、HLB値:13)を0.5部配合した以外は、実験例1と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
《実験例4》
実験例1と比較してNKエステルA9300の配合量を全樹脂成分に対して65%にした。また、実験例3で配合したエマルミン110を同量配合した以外は、実験例1と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
《実験例5》
実験例1と比較してNKエステルA9300の配合量を全樹脂成分に対して0.8%にした。また、実験例4と同様に、実験例3で配合したエマルミン110を同量配合した以外は、実験例1と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
《実験例6》
エマルミン110の代わりに、表面調整剤としての非イオン系界面活性剤(ポリエーテル、商品名:ペレテックスPC−2419、ミヨシ油脂社製、HLB値:6)を用いた以外は、実験例3と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
《実験例7》
エマルミン110の代わりに、表面調整剤としての非イオン系界面活性剤(脂肪酸エステル、商品名:NKエステル A−GLY−20E、新中村化学工業社製、HLB値:16)を用いた以外は、実験例3と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
《実験例8》
NKエステルA9300の代わりに、本発明のイソシアヌル酸誘導体(A)の範疇に含まれないポリエチレングリコールジアクリレート(固形分100%)(NKエステルA−1000、新中村化学工業社、Mw:約1100、HLB値:17)を5部配合した。また、表面調整剤としての非イオン系界面活性剤(ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン、固形分100%、商品名:BYK331、ビックケミー社製)を0.05部配合した。さらに、ビームセット575の配合量を10部とし、イルガキュア651の配合量を0.5部とし、プロピレングリコールモノメチルエーテルの配合量を23部とした以外は、実験例1と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
《実験例9》
0.5部のエマルミン110とともに、表面調整剤としての非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンモノオレエート、商品名:BLAUNON O−200SA、青木油脂工業社製、エチレンオキシドのモル数:4.5、HLB値:8.4)を0.5部配合した以外は、実験例3と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
《実験例10》
0.5部のエマルミン110とともに、表面調整剤としての非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、商品名:BLAUNON EL−1502.2、青木油脂工業社製、エチレンオキシドのモル数:2.2、HLB値:6.3)を0.5部配合した以外は、実験例3と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
《実験例11》
0.5部のエマルミン110とともに、表面調整剤としての非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、商品名:ノニオン E−205S、日油社製、エチレンオキシドのモル数:5、HLB値:9)を0.5部配合した以外は、実験例3と同様の条件で塗布液を調製し、積層体試料を得た。そして実験例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表1に示すように、NKエステルA9300の配合量が多い(実験例4)と、ハードコート層のハードコート性が低下する傾向があることが確認できた。一方で、NKエステルA9300の配合量が少ない(実験例5)と、ハードコート層の親水性と親油性の適度なバランス関係が崩れる傾向にあることが確認できた。また、NKエステルA9300を配合しない(実験例8)と、ハードコート層の親水性と親油性の適度なバランス関係が実験例5よりも顕著に崩れ、指紋視認性及び指紋拭き取り性の双方に劣ることが確認できた。
【0115】
これに対し、イソシアヌル酸誘導体(A)の分子量が適正で、かつ配合量が適切である(実験例1及び2)と、ハードコート層の親水性と親油性の適度なバランス関係を崩すことなく、ハードコート性を低下させることがないことが確認できた。
【0116】
なお、レべリング剤としての非イオン系界面活性剤を配合した場合(実験例3)、実験例1及び2と同様に、ハードコート層の親水性と親油性の適度なバランス関係を崩すことなく、ハードコート性を低下させることがないことが確認できた。これに加え、指紋の拭き取り性がさらに向上した。
【0117】
またレべリング剤を変えても(実験例6,7,9〜11)、同様の効果が得られることが確認できた。特に、実験例3で配合した界面活性剤(第1の非イオン系界面活性剤)とともに、これよりも低いHLB値を持つ特定の界面活性剤(第2の非イオン系界面活性剤)をさらに配合した場合(実験例9〜11)、指紋の抜き取り性を阻害しない範囲で、指紋視認困難度のさらなる向上効果が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0118】
1,1a,1b…ハードコート層(硬化物)、2…水性成分(指紋成分)、3…油性成分(指紋成分)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化型樹脂を含む硬化性組成物であって、
前記硬化型樹脂は、反応性モノマーと、グリフィン法によるHLB値が2〜18の非イオン系界面活性剤を含み、
前記反応性モノマーは、イソシアヌル酸骨格に重合性反応基とアルキレンオキシド鎖と環構造から誘導される単位(アルキレンオキシド鎖を除く)とが結合した構造を有するイソシアヌル酸誘導体を含み、
前記アルキレンオキシド鎖は前記イソシアヌル酸骨格の3つの窒素原子の少なくとも何れかに結合し、前記環構造から誘導される単位は前記アルキレンオキシド鎖に結合し、前記重合性反応基は前記環構造から誘導される単位に結合して構成されており、
前記環構造は、ラクトン、ラクタム、シクロオレフィン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シラシクロペンテン、シクロデカン、イソボルニルから選ばれるものであることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の硬化性組成物であって、
前記イソシアヌル酸誘導体の含有量は、固形分換算で、前記硬化型樹脂を構成する全樹脂成分において1〜20重量%である硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の硬化性組成物であって、
前記イソシアヌル酸誘導体は、分子中に2つ以上の前記重合性反応基を有し、
前記重合性反応基は、アクリロイル基及びメタクリロイル基のいずれかを含む硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項記載の硬化性組成物であって、
前記イソシアヌル酸誘導体は、重量平均分子量が200〜5000である硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項記載の硬化性組成物であって、
前記イソシアヌル酸誘導体は、グリフィン法によるHLB値が10〜18である硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項記載の硬化性組成物であって、
前記イソシアヌル酸誘導体は、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド及びε−カプロラクトン付加物のトリ(メタ)アクリレートである硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項記載の硬化性組成物であって、
前記硬化型樹脂は、前記イソシアヌル酸誘導体以外の反応性モノマー及び、光重合性プレポリマーの少なくとも何れかを含む硬化性組成物。
【請求項8】
請求項7記載の硬化性組成物であって、
前記光重合性プレポリマーは、アクリル系プレポリマーを含む硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1記載の硬化性組成物であって、
前記非イオン系界面活性剤は、グリフィン法によるHLB値が6〜16の第1の非イオン系界面活性剤と、この第1の非イオン系界面活性剤よりも前記HLB値が低く、かつ前記HLB値が5.5〜9の第2の非イオン系界面活性剤とを含む硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1又は9記載の硬化性組成物であって、
前記非イオン系界面活性剤は、アルキレンオキシド鎖とアルキル基を有する界面活性剤を含み、この界面活性剤は、その分子中に1〜5.5モルのアルキレンオキシドを持つとともに、前記HLB値が5.5〜9であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項12】
ハードコート層を有する積層体であって、前記ハードコート層は、請求項11記載の硬化物で構成してある積層体。
【請求項13】
請求項12記載の積層体であって、前記ハードコート層は、水に対する50〜110度の接触角と、椿油に対する50度以下の接触角と、JIS−K6768に準拠して測定された27〜45mN/m以下のぬれ張力とを、有する積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−6693(P2011−6693A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183063(P2010−183063)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【分割の表示】特願2009−534381(P2009−534381)の分割
【原出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】