説明

硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤

【課題】原料の入手が簡単で、硼素化合物を使用せずに、PRTR法等の環境基準、省熱貼合による段ボールシートの反りの改善、及び省エネルギーを配慮した、優れた特性の段ボール用接着剤を提供すること。
【解決手段】(1)澱粉系接着剤において、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物を含有することを特徴とする硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤、(2)トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物の含有量が、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩0.05〜5.00重量%及び珪酸塩含有物1〜10重量%である1記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤、(3)トリメタ燐酸塩が、トリメタ燐酸ナトリウム又はトリメタ燐酸カリウムである1又は2記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硼素化合物を含有せず、省熱貼合を可能にする澱粉系段ボール用接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、段ボールの製造に使用される澱粉系接着剤は、ステインホール方式やノーキャリヤ方式と呼ばれる製糊方法で製造されている。
ステインホール方式の接着剤は、キャリヤ部と呼ばれるアルカリ糊化した澱粉糊液と、メイン部と呼ばれる未糊化澱粉の懸濁液との混合物からなっているが、その製法としては、ワンタンク方式とツータンク方式がある。
ツータンク方式は、水に10%程度の澱粉を分散し、苛性ソーダ水溶液を加えて糊化させてキャリア部(糊化澱粉)を作り、別のタンクで多量の澱粉と水を混合・撹拌し、メイン部(未糊化澱粉)を作り、次いで後者のメイン部に前者のキャリアー部を加えて混合した後、硼砂を加えて撹拌して、接着剤とする方法である。
また、ワンタンク方式は、別々のタンクでキャリア部とメイン部を混合・撹拌するのではなく、一つのタンクで行う方式である。
一方、ノーキャリヤ方式の接着剤は、先ず、製糊タンクに水と澱粉(全量)を入れて澱粉分散液を作り、これに苛性ソーダ水溶液を徐々に加えた後、適当な粘度に澱粉が膨潤した時に、硼酸(硼砂)を添加して膨潤を停止し、接着剤とする方法である。
上記のいずれの方式の接着剤も、接着性や接着強度を高めるために、必須成分として硼素化合物(硼砂、硼酸)が含まれている。
【0003】
これらの接着剤の接着機構は、基本的には、貼合工程時に加熱することによってメイン部の未糊化および半糊化した澱粉分を完全に膨潤糊化して、接着力を発現させ、さらに加熱することによって水分を蒸発させ、乾燥により強固な接着を完了することによる。
上記のような澱粉系接着剤は、糊化澱粉と未糊化澱粉の混合物のため、工業的段ボール製造装置(コルゲーター)では、一般的には、蒸気圧13kg/cm前後で180℃程度に加熱することで、段ボール原紙を介して加熱し、未糊化澱粉を糊化して接着力を発現させるとともに、段ボールシートを乾燥している。
未糊化澱粉が糊化して、接着剤が流動性を失う温度を糊化温度と称し、接着剤に関して最も重要な性質の一つである。すなわち、接着剤の糊化温度以下では接着力は発現せず、接着不良が発生する。
段ボール製造工場では、段ボールの用途によって使用する原紙の種類を頻繁に変えているが、原紙の秤量や水分などによって伝熱速度が異なることから、接着剤の糊化温度以上に加熱し、接着力が発現するまで、段ボール製造装置の貼合速度を遅くしなければならない。
この際、段ボール原紙は高温となるため、水分を失い、貼合した段ボールシートは常温に戻るに従い、吸湿し、ライナー間の水分移動から、反りと呼ばれる変形が発生しやすい。
また、接着剤の糊化温度は、取り扱い中の粘度、温度とともに、接着剤の管理項目の中では最も重要であり、アルカリの添加量で調整する。
しかし、接着剤の粘度管理は段ボール工場の担当者が行えるが、糊化温度の管理は事実上無理と言っても良く、厳密な製糊処方に基づき接着剤を調製するか、粘度変化から推測する以外にない。この糊化温度は、使用する澱粉が天然物であるため変化しやすく、また接着剤を調製した後、一定ではなく、経時変化する性質がある。このように糊化温度の変化を把握することが難しいため、これに起因する接着不良がしばしば発生する。
【0004】
以上のことから、澱粉系段ボール用接着剤については、各種の改良がなされている。
例えば、澱粉の水性懸濁液に過剰量のアルカリを加えて全体の澱粉を部分膨潤状態にし、次いで硼酸または硼酸と硼砂を加えることによって膨潤を停止して適度な粘度を有する段ボール用接着剤を得る工程を含むノーキャリア方式による製糊方法において、500m/min以上の周速を有する強力撹拌手段で剪断をかけながら上記部分膨潤化および膨潤停止を行うことを特徴とする段ボール用澱粉接着剤の製糊方法(特許文献1)、澱粉の水性懸濁液に過剰量のアルカリを加えて全体の澱粉を部分膨潤状態にし、次いで硼酸または硼酸と硼砂を加えることによって膨潤を停止して適度な粘度を有する段ボール用接着剤を得る工程を含むノーキャリア方式による製糊方法において、強力攪拌手段で剪断をかけ、且つ、アルカリ添加時にアルカリによる部分的な澱粉の糊化を積極的に進めて、最終的な澱粉接着剤中の溶解澱粉部を全澱粉量の8%以上とすることを特徴とする段ボール用澱粉接着剤の製糊方法(特許文献2)、澱粉系接着剤と、接着剤の全澱粉量に対し0.1重量%以上10重量%未満のコロイド物吸着能を有する微粒状無機物とを含有する段ボール用接着剤(特許文献3)等が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−331202号公報
【特許文献2】特開平9−328664号公報
【特許文献3】特開2001−279204号公報
【0006】
上記の澱粉系接着剤では、接着性や接着強度を高めるための硼砂が不可欠である。しかし、硼砂は、接着剤の物性に大きく影響し、しばしば粘度変化が大きくなり、接着が安定しないなどの原因となる。
また、最近、硼砂等の硼素化合物に対して、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)法の指定や環境基準等からみて、法的規制が強化されることが予想される。また、段ボールシートを製造する際、使用する原液のリサイクル化が進む中、古紙の使用による過加熱状態の貼合から、反りと呼ばれる変形が発生しており、その対策が緊急の課題となっている。
【0007】
そこで、最近、硼砂等の硼素化合物を使用しない、省熱貼合可能な段ボール用接着剤が開発されている。
例えば、約95%〜約50%の澱粉、および乾量基準で約25〜100%の可溶性物質を含有する約5%〜約50%の予備可溶化した乾燥セルロース抽出物、場合によって添加されるアルカリを含有しそして硼素化合物を含有していない、段ボール用接着剤を製造するために水で水和化することのできるドライブレンド組成物(特許文献4)、水に低分子化澱粉と珪酸塩化合物を分散させた分散液に、アルカリを添加して得られる糊液からなる段ボール用接着剤(特許文献5)、非低分子化澱粉に対して、珪酸塩化合物を1.3〜18重量%含有することを特徴とする硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤(特許文献6)等がある。
【0008】
【特許文献4】特開2000−17241号公報
【特許文献5】特開2002−201445号公報
【特許文献6】特開2005−97430号公報
【0009】
しかし、上記の特許文献4の方法は、特殊な成分(予備可溶化した乾燥セルロース抽出物)を用いる点、特許文献5の方法は、澱粉として、低分子化澱粉を用いるものであって、未加工澱粉などの非低分子化澱粉を用いるものではないので、簡便なものとはいえないとともに、初期接着強度が十分でない点、また、特許文献6の方法は、省熱貼合が不可能であるため、段ボールシート製造時に反りが発生する点において、各方法とも改良の余地がある。
【0010】
以上のことから、原料の入手が簡単で、硼素化合物を使用しない、PRTR法等の環境基準及び省熱貼合による段ボールシートの反りの改善、及び省エネルギーを配慮した、優れた特性の段ボール用接着剤の開発が待たれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、原料の入手が簡単で、硼素化合物を使用せずに、PRTR法等の環境基準、省熱貼合による段ボールシートの反りの改善、及び省エネルギーを配慮した、優れた特性の段ボール用接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩化合物を併用すれば、省熱貼合可能な優れた特性の段ボール用接着剤が得られることを知り、更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、以下の発明から構成されるものである。
1.澱粉系接着剤において、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物を含有することを特徴とする硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
2.トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物の含有量が、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩0.05〜5.00重量%及び珪酸塩含有物1〜10重量%である上記1記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
3.トリメタ燐酸塩が、トリメタ燐酸ナトリウム又はトリメタ燐酸カリウムである上記1又は2記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
4.珪酸塩含有物が、ベントナイト、カオリン、ハロサイト又はセリサイトである上記1、2又は3記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
5.ステインホール方式、ノーキャリア方式又はプレミックス方式により段ボールを製造するに際し、接着剤として、上記1、2、3又は4記載の接着剤を用いて貼合処理を行うことを特徴とする段ボールの製造方法。
6.貼合処理が、蒸気圧10kg/cmで行われるものである上記5記載の段ボールの製造方法。
【0014】
本発明の澱粉系段ボール用接着剤は、硼素化合物を使用せず、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物を併用する点に特徴を有する。
従って、本発明は、硼素化合物を使用する澱粉系段ボール用接着剤において、硼素化合物の代わりに、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物を用いた、PRTR法等の環境基準及び省エネルギーに配慮した技術ということができる。
【0015】
本発明は、以下の知見に基づいてなされたものである。
(イ)一般に、疎水コロイドに親水コロイドを加えると、親水コロイドが疎水コロイドの粒子に吸着されてこれを取り囲み、全体が親水コロイドの性質を帯びて安定度を増すと言われている。このように、親水コロイドが疎水コロイドの安定度を増すことを保護作用といい、その際の親水コロイドを保護コロイドという。
ところで、粘土の溶液は疎水コロイドであり、また、澱粉の溶液は親水コロイドであるとされているので、水に澱粉と珪酸塩含有物を分散した場合、該澱粉は親水コロイドを形成し、また、該珪酸塩含有物は疎水コロイドを形成し、全体が安定度を増すこととなる。
その結果、澱粉と珪酸塩含有物は分散液中に安定した状態で分散しているので、該澱粉粒子はアルカリの糊化作用を受け易くなるとともに、得られた糊液中に珪酸塩含有物が均一に分散することになるので、該珪酸塩の接着助剤としての作用はより一層効果的に発揮されることになること知り、先の出願をした(特許文献5)。
しかし、特許文献5の方法は、初期接着性や糊液の粘度適性が十分でなく、ステインホール方式では利用できず、改良の余地があることを知った。
(ロ)ところが、特許文献5の低分子化澱粉の代わりに、未加工澱粉などの非低分子化澱粉を使用すると、固化し、段ボール用接着剤として適した粘度のものが得られず、また、該澱粉を使用して、段ボール用接着剤に適した粘度のものにするためには、澱粉濃度を極めて低くする必要があり(約1/10)、その結果、接着性が極めて弱くなるので、何れも、段ボール用接着剤として不適当である(特許文献5比較例参照)。
(ハ)そこで、特許文献5の方法において、未加工澱粉等の非低分子化澱粉を用いて、段ボール用接着剤を得る方法を模索したところ、珪酸塩化合物を未加工澱粉等の非低分子化澱粉に対して特定量使用すれば、未加工澱粉等の非低分子化澱粉を用いた場合でも、目的とする段ボール用接着剤が得られることを知り、先の出願をした(特許文献6)。
しかし、特許文献6の方法において、省熱貼合を行ったところ、十分な初期接着性が得られず、省熱貼合用としては不適当であることが解った。
(ニ)そこで、上記の特許文献6の問題点の解決を図るため、更に研究を重ねた結果、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩を併用すると、澱粉の種類に関わらず、目的とする省熱貼合が可能な段ボール用接着剤が得られることをつきとめた。
【0016】
本発明では、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物を併用することにより、澱粉の種類に関わらず、省熱貼合可能な、優れた接着特性の段ボール用接着剤が得られるが、このような結果は、トリメタ燐酸塩又は珪酸塩含有物の単独使用ではみられないことからみて、両者の併用による相乗効果によるものと推察される。
何れにしても、本発明は、トリメタ燐酸塩と珪酸塩化合物を併用することにより、硼素化合物を使用しなくても、省熱貼合が可能な澱粉系段ボール用接着剤が得られるという優れた効果が達成し得る。
そして、本発明によれば、段ボールシート製造工程で発生するシートの反りを抑制することが可能であることから、段ボールシートを製函する行程における優れた作業性が達成できるとともに、重油等の省エネルギー化を計ることができるので、経済的にも有利である。
また、本発明の接着剤には、硼素化合物が含有されていないので、青果等の食料品を包装する段ボールシートとして最適である。
【0017】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の澱粉系段ボール用接着剤は、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物含有させることを特徴とするものであり、本接着剤は、水、澱粉、トリメタ燐酸塩、珪酸塩含有物、アルカリ等の成分から構成される。
そこで、上記の接着剤成分及び本発明の接着剤の製法や段ボールの製法等について、以下説明する。
【0018】
(1)澱粉
澱粉としては、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、米澱粉等が使用できる。
加工澱粉としては、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、又は架橋澱粉等が使用できる。
【0019】
(2)トリメタ燐酸塩
トリメタ燐酸塩は、接着剤の省熱貼合の初期接着性を高めて、接着強度を速くする作用、及び接着時に固化した接着剤の凝集接着強度(ゲル強度)を強くする性質を有うするので、本接着剤の主要な構成成分をなすものである。
トリメタ燐酸塩が上記のような優れた特性を発揮するのは、その有する特性(キレート作用等)が寄与しているものと考えられる。
トリメタ燐酸塩としては、トリメタ燐酸ナトリウム又はトリメタ燐酸カリウム等を用いるのがよい。
トリメタ燐酸塩の使用量は、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩0.05〜5.00重量%を用いるのがよい。
【0020】
(3)珪酸塩含有物
本珪酸塩含有物は、接着助剤、即ち、初期接着性を高め、接着速度を速くする作用を有するものであり、上記トリメタ燐酸塩と同様に、本接着剤の主要な構成成分をなすものである。
珪酸塩含有物が上記のような優れた特性を発揮するのは、その有する特性(大きな内部表面積、膨潤力、懸濁力、増粘力、吸着力、結合力、可塑性付与力、フィルム形成力等)が寄与しているものと考えられる。
珪酸塩含有物は、糊液中に安定した状態で分散させるのがよく、そのためには、疎水コロイドを形成するものがよい。
珪酸塩含有物としては、上記のような特性を有するものであれば、その種類は問わない。
例えば、クレーやその構成成分である鉱物等が挙げられる。クレーとしては、ベントナイト、カオリン、酸性白土等が挙げられる。また、鉱物としては、ハロイサイト、スメクタイト、バーミキュライト、セリサイト、パイロフィライト等が挙げられる。鉱物は、天然のものでも、合成のものでも、何れのものでもよい。
珪酸塩含有物の使用量は、澱粉に対して、1〜10重量%にするのが好ましい。1重量%未満であると、接着助剤効果が発揮されないし、また、10重量%を越える量用いると、流動性に問題が生じる恐れがある。
【0021】
(4)アルカリ
アルカリは、糊化温度を低下させる作用等を有するものであり、また、糊液粘度を安定にする作用も有する。
アルカリとしては、通常のもの、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリは、水溶液の状態で使用するのがよい。
アルカリの使用量は、使用する澱粉や温度によって変わるが、通常、全糊液重量に対し0.2〜1.0重量%が好ましい。0.2重量%未満の場合、接着性の低下や糊液粘度が不安定になる。また、1.0重量%を越える量用いても、特に効果の向上は期待できない。
【0022】
(5)接着剤の製造方法
接着剤の製造方法は特に限定されず、通常の方法が採用し得る。
例えば、(a)水に澱粉を分散させた分散液に、アルカリを加えて得た糊化液(キャリア部)に、水を加えた後、このキャリア部に、澱粉(メイン部)、トリメタ燐酸塩、珪酸塩含有物を順次加えて、接着剤を得る方法(ステインホール方式)、(b)水に澱粉とトリメタ燐酸ナトリウム、珪酸塩含有物を分散させた後、アルカリを加え、次いで適度の粘度となった時、酸(硼素化合物は除く)を添加して、接着剤を得る方法(ノーキャリア方式)等がある。
倍水率は、1.5〜4.5で行うのがよい。
【0023】
(6)段ボールの製造方法
本接着剤は、通常の段ボールの製造方法、例えば、ワンタンク若しくはツータンクのステインホール方式、ノーキャリア方式又はプレミックス方式等に適用可能である。
本接着剤の糊化温度は、45〜65℃であるが、本接着剤を用いた場合、通常より低い接着温度で貼合しても、初期接着性や接着強度等に優れた特性を呈するので、省熱貼合が可能になるため、省エネルギー化を計ることができる。
また、貼合処理は、蒸気圧10kg/cm以下で行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
(1)本発明では、澱粉系段ボール用接着剤としての特性、即ち、糊料としての作業性(伸展性)を確保するに適する粘度を有し、しかも、省熱貼合時の初期接着性や接着強度等に優れた特性のものが得られる。
(2)本発明では、従来の澱粉系段ボール用接着剤成分の硼素化合物の代わりに、トリメタ燐酸塩と珪酸塩含有物を使用しても、従来のものと同等又はそれ以上の品質のものを得ることが可能である。
(3)本発明の接着剤には、硼素化合物が含有されていないので、PRTR法等の環境基準に配慮した技術であり、青果等の食料品を包装する段ボールシートとして最適である。
(4)本発明の接着剤は、省熱貼合が可能であるため、重油等の省エネルギー化が期待できるので、経済的に有利である。
(5)本発明は、接着剤成分の硼素化合物に代えて、トリメタ燐酸塩と珪酸塩含有物を使用するだけで、従来の段ボールの製造方法が格別の変更を加えることなく採用し得るので、経済的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施例等により更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例及び比較例の接着剤の粘度及び接着強度の測定は、以下の方法で行った。
1.粘度
全国段ボール連合会のフォードカップ法で測定した。
【0026】
2.接着強度
以下のピン強度の測定方法で行った。
接着剤をガラス板に0.1mmの厚みで塗布した後、段と平行に50mm、直角方向に85mmのAフルート片段ボール(Kライナー280g/m2)の試験片と強化中芯(180g/m2)の片段ボール片を押し付け、中芯段頂に接着剤を移転させた。これに同じ寸法のKライナー(280g/m2)を100℃、180℃の各温度に加熱した鉄板に乗せ、予め決められた時間、2.2kgの荷重をかけた後、リングクラシャー(日本T.M.C株式会社製)を用いて、特定時間経過後の接着強度を測定した。
【0027】
《ステインホール方式》
(実施例1)
40℃の水1700mlにコーンスターチ170gを分散し、スラリーとした後、水60mlに溶解した苛性ソーダ20.9gを撹拌しながら加え、更に20分間撹拌して糊化し、キャリアー部とした。次に、このキャリア部に、メイン部である、40℃の水1040mlを加え、更にコーンスターチ830g、カオリン20g、トリメタ燐酸ナトリウム20gを順次撹拌しながら加えた後、更に20分間撹拌して、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0028】
(実施例2)
実施例1において、カオリン20gの代わりに、ベントナイト20gを用いた以外は、実施例1と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0029】
(実施例3)
実施例1において、カオリン20gの代わりに、ハロサイト20gを使用した以外は、実施例1と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0030】
(実施例4)
実施例1において、カオリン20gの代わりに、セリサイト20gを使用した以外は、実施例1と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
上記の実施例1〜4の評価試験の結果は、表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
(比較例1)
実施例1において、カオリン20g、トリメタ燐酸ナトリウム20gの代わりに、硼砂18.5gを使用した以外は、実施例1と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0033】
(比較例2)
実施例1において、トリメタ燐酸ナトリウム20gの代わりに、硼砂18.5gを使用しない以外は、実施例1と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0034】
(比較例3)
実施例1において、カオリン20gの代わりに、硼砂18.5gを使用した以外は、実施例1と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0035】
(比較例4)
実施例1において、カオリン20gを使用しない以外は、実施例1と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
上記の比較例1〜4の評価試験の結果は、表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
《ノーキャリア方式》
(実施例5)
40℃の水2300mlにコーンスターチ1500gとカオリン20g、トリメタ燐酸ナトリウム20gを分散し、スラリーとした後、水500mlに溶解した水酸化ナトリウム26.0gを撹拌しながら加え、粘度が40秒にとなった時、硫酸3.0gを添加した後、更に20分間撹拌して、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0038】
(比較例5)
実施例5において、カオリン20g、トリメタ燐酸ナトリウム20g、硫酸3gの代わりに、硼酸18.0gを用いた以外は、実施例5と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0039】
(比較例6)
実施例5において、トリメタ燐酸ナトリウム20gを使用しないで、硫酸3gの代わりに、硼酸18.0gを用いた以外は、実施例5と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
【0040】
(比較例7)
実施例5において、カオリン20gを使用しないで、硫酸3gの代わりに、硼酸18.0gを用いた以外は、実施例5と同様に行って、接着剤を得た。
得られた接着剤の評価試験を行った。
上記の実施例5、比較例5〜7の評価試験の結果は、表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
上記の表1〜3の結果から、以下のことが解る。
(1)本発明では、従来の澱粉系段ボール用接着剤成分の硼素化合物の代わりに、トリメタ燐酸塩と珪酸塩含有物を使用すると、従来のものより、省熱貼合が可能となり、優れた品質のものが得られること。
(2)このように、澱粉に対して、特定量のトリメタ燐酸塩と珪酸塩含有物を使用すると、省熱貼合の優れた接着性の段ボール用接着剤が得られるが、このような結果は、トリメタ燐酸塩と珪酸塩含有物の何れか一方でも欠けると、達成できないこと。
(3)従って、本発明において、硼素化合物の代わりに、トリメタ燐酸塩と珪酸塩含有物を使用することにより、澱粉系段ボール用接着剤に優れた接着性と省熱貼合性を付与することができ、しかも、PRTR法等の環境基準を満たすものとなることからみて、両化合物を併用する点には、格別の意義、即ち、発明性があること。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の段ボール用接着剤は、硼素化合物を含有しないので、PRTR法等の環境基準に配慮した技術である。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉系接着剤において、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物を含有することを特徴とする硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
【請求項2】
トリメタ燐酸塩及び珪酸塩含有物の含有量が、澱粉に対して、トリメタ燐酸塩0.05〜5.00重量%及び珪酸塩含有物1〜10重量%である請求項1記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
【請求項3】
トリメタ燐酸塩が、トリメタ燐酸ナトリウム又はトリメタ燐酸カリウムである請求項1又は2記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
【請求項4】
珪酸塩含有物が、ベントナイト、カオリン、ハロサイト又はセリサイトである請求項1、2又は3記載の硼素化合物を含有しない段ボール用接着剤。
【請求項5】
ステインホール方式、ノーキャリア方式又はプレミックス方式により段ボールを製造するに際し、接着剤として、請求項1、2、3又は4記載の接着剤を用いて貼合処理を行うことを特徴とする段ボールの製造方法。
【請求項6】
貼合処理が、蒸気圧10kg/cm以下で行われるものである請求項5記載の段ボールの製造方法。







【公開番号】特開2007−224099(P2007−224099A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44669(P2006−44669)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(592250975)敷島スターチ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】