説明

磁力による非接触ウォーム歯車

【課題】完全非接触にて動力伝達を行うことができる機構であり、減速比を大きくとることができる機構を提供する。
【解決手段】近傍に配置した磁性体または電磁石により同極性に磁化された歯を持った歯車を駆動側および/または従動側に配置し、駆動側歯車の歯と従動側の歯の間に隙間をもたせ、磁気引力により非接触で回転運動を伝達する非接触歯車であり、従動側の歯車と駆動側の歯車がウォームとウォームホイールの組合せであるウォーム歯車であることを特徴とする非接触ウォーム歯車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対の歯車が磁力により非接触にてトルクを伝達する歯車において、対の歯車がウォームとウォームホイールである非接触ウォーム歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクを伝達する歯車対において、多くの歯車は、磨耗防止等のための潤滑油を必要とする。しかしながら、食品加工機や精密機器、真空状態で運転する機器などは、潤滑油の飛散の心配のない無潤滑の歯車を求めていた。
また、通常の歯車は、潤滑油を介したりまたは介さなかったりの状態で、歯車対の歯の部分の接触によりトルクを伝達している。このため、摩擦抵抗による伝達効率の低下、磨耗による寿命の低下、接触音の発生が問題となっている。
【0003】
また、回転軸が食い違う歯車のひとつである、いわゆるウォーム歯車は、回転軸が平行な直線である平歯車に比べ、1段で大きく減速できる利点とともに、静粛性に優れる利点から、適所にて普及している。しかしながら、平歯車と比べて、接触面の遷移の違い等、原理的に歯車の駆動時に歯車と歯車の接触力により作用する力が回転力に変えられにくい特徴をもつため、大きな減速比と高トルクの長所を引き換えに、力の伝達効率が低い欠点があった。
【0004】
このため、非接触にて歯車対を駆動する試みがなされており、特に、非接触手段に磁力を用いるものが多く報告されている(特許文献1〜3参照。)。特許文献1〜3が開示する技術は、いずれも平歯車に近く、回転軸が平行となるものである。また、特開平7−177724号公報(特許文献4)では、ウォーム歯車と同じ回転軸をもつ、動力伝達手段であり、歯の代わりに磁石の引力を用いた装置が開示されている。図5に特許文献4の代表図面を示す。
【0005】
【特許文献1】特開2002−218735号公報
【特許文献2】特開2005−233326号公報
【特許文献3】特開2005−253292号公報
【特許文献4】特開平7−177724号公報
【0006】
特許文献1〜3に記載の技術は平歯車に近いため、ウォーム歯車に近い構造をもつものに比べ、減速比を大きくとることや高トルクの発生に不利な技術であった。なお、特許文献3に記載の技術は、図6に示すように、透磁率の高い鋼材からなる歯車を両サイドから磁石で挟み込むことにより歯車を磁化する。このため、磁石の設置は比較的安価に行える利点があり、また、磁気引力を用いるのではなく、磁気斥力(いわゆる反発力)を用いることにより、歯車対を非接触に駆動することを特徴とするが、さらに高トルクの伝達が望まれるものであった。高トルクの発生(大きい減速比の実現)においては、特許文献4に記載の技術が、ウォーム歯車に近い構造の技術であるため、有利な技術と言える。しかしながら、特許文献4に記載の技術は、磁石の配置が複雑なため、製作が容易でない欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものである。本発明の目的は、磁力を用いた非接触の原理で動力伝達をする歯車の実現において、高トルクの発生に有利なウォーム歯車の構造をし、かつ、製作が容易な動力伝達手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係わる本発明は、近傍に配置した磁性体または電磁石により同極性に磁化された歯を有する歯車を駆動側および/または従動側に配置し、駆動側歯車の歯と従動側の歯の間に隙間をもたせ、磁気引力により非接触で回転運動を伝達する非接触歯車であり、従動側の歯車と駆動側の歯車がウォームとウォームホイールの組合せであるウォーム歯車であることを特徴とする非接触ウォーム歯車である。
【0009】
請求項2に係わる本発明は、従動側の歯車がウォームホイールである請求項1に記載の非接触ウォーム歯車である。
【0010】
請求項3に係わる本発明は、従動側の歯車と駆動側の歯車が噛み合わないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触ウォーム歯車である。
【0011】
請求項4に係わる本発明は、従動側および/または駆動側の歯車が磁性体または電磁石で挟み込まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非接触ウォーム歯車である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、歯の部分が同極性に磁化された歯車を用いる非接触歯車において、ウォーム歯車の構造とすることにより、平歯車形状のものよりも減速比を大きくとることや、出力トルクを大きくとることができる。また、従来のウォーム歯車と異なり、非接触であるため、接触面の滑りによる磨耗が起因する効率低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
透磁率の大きい磁性材料SS400からなるウォーム1とウォームホイール2の端面にネオジム製リングマグネット3を装着し、歯先間に磁気引力を発生させて、非接触で動力伝達が可能な磁気引力ウォーム歯車の試験を行った。ウォーム1においては、歯先がN極となるよう、リングマグネット3をN極側がウォーム1に接する形で両端面に配置した。一方、ウォームホイール2においては、歯先がS極となるよう、リングマグネット3をS極側がウォームホイール2に接する形で両端面に配置した。このときの配置概略図を図1(a)に示す。ただし、図中、歯の描写は省略する。また、諸元を表1中に示す。磁束密度測定は電子磁気工業製ガウスメータGM4000とトランスバース型プローブT401を用いて行った。
【0015】
なお、ウォーム1は、ウォーム条数1、ウォーム進み角3°41′29″とし、ウォームホイール2は、歯数20、工具圧力角20°、モジュール4mmとした。また、ウォーム1とウォームホイール2の軸間距離は、両歯車の歯先間距離が1mmになるよう設定した。図2に、歯先部分の拡大写真を示す。ウォーム1をサーボモータ4により駆動し、ウォームホイール2に接続したサーボモータ5によりトルクを計測した。また、運転時間は約50secとした。図3に、試験の概略図を示す。
【0016】
図4に、試験により得られたウォーム側の歯車回転速度Nと最大非接触伝達トルクTとの関係、およびウォーム側の歯車回転速度Nとトルク損失率ΔT/Tとの関係を示す。トルク損失率ΔT/Tは減速比および軸受の摩擦損失トルクを考慮して求めた。なお、図中には、他の実施例、比較例についても記載する。
結果、後述する比較例である従来の接触かみ合いウォーム歯車よりも、N≦300rpmで高い効率を示すことが確認できた。また、かみ合い音についても、比較例である接触かみ合い歯車に比べて20dBほど低いことがわかった。
【実施例2】
【0017】
実施例1の装置において、ウォーム1にリングマグネットを配置せず、ウォームホイール2のみを磁化した場合の試験を行った。このときの配置概略図を図1(b)に示す。ただし、図中、歯の描写は省略する。また、諸元を表1中に示す。
【0018】
図4に、試験により得られたウォーム側の歯車回転速度Nと最大非接触伝達トルクTとの関係、およびウォーム側の歯車回転速度Nとトルク損失率ΔT/Tとの関係を示す。トルク損失率ΔT/Tは減速比および軸受の摩擦損失トルクを差し引いて求めた。
結果、後述する比較例である従来の接触かみ合いウォーム歯車よりも、N≦300rpmで高い効率を示すことが確認できた。また、かみ合い音についても、比較例である接触かみ合い歯車に比べて20dBほど低いことがわかった。
【実施例3】
【0019】
実施例2の装置において、ウォーム1とウォームホイール2の両歯車とも、弦歯厚が5.08mmになるように、歯先円径をピッチ円径まで切削した装置において試験を行った。また、諸元を表1中に示す。なお、ウォーム1とウォームホイール2の軸間距離は、両歯車の歯先間距離が1mmになるよう設定しなおした。
【0020】
図4に試験により得られた、ウォーム側の歯車回転速度Nと最大非接触伝達トルクTとの関係、およびウォーム側の歯車回転速度Nとトルク損失率ΔT/Tとの関係を示す。トルク損失率ΔT/Tは減速比および軸受の摩擦損失トルクを差し引いて求めた。
結果、後述する比較例である従来の接触かみ合いウォーム歯車よりも、N≦300rpmで高い効率を示すことが確認できた。また、ウォームホイール2のトルクが、実施例1〜3と比較例1〜2の中で最大となる0.15Nmを示した。また、かみ合い音についても、比較例である接触かみ合い歯車に比べて20dBほど低いことがわかった。
【0021】
(比較例1)
実施例1との比較のため、比較例1の装置を用いて、実施例1の試験により得られたウォーム側の歯車回転速度Nと最大非接触伝達トルクTに設定し、ウォーム1およびウォームホイール2ともにリングマグネットを配置せず、歯車を磁化しない場合の試験を行った。ただし、ウォーム1とウォームホイール2は接触によりかみ合うよう、軸間距離を設定しなおした。
図4に、試験により得られたウォーム側の歯車回転速度Nと最大非接触伝達トルクTとの関係、およびウォーム側の歯車回転速度Nとトルク損失率ΔT/Tとの関係を示す。
【0022】
(比較例2)
実施例3との比較のため、比較例2の装置を用いて、実施例3の試験により得られたウォーム側の歯車回転速度Nと最大非接触伝達トルクTに設定し、ウォーム1およびウォームホイール2ともにリングマグネットを配置せず、歯車を磁化しない場合の試験を行った。ただし、ウォーム1とウォームホイール2は接触によりかみ合うよう、軸間距離を設定しなおした。
図4に、試験により得られたウォーム側の歯車回転速度Nと最大非接触伝達トルクTとの関係、およびウォーム側の歯車回転速度Nとトルク損失率ΔT/Tとの関係を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
上記実施例の非接触ウォーム歯車は、従動側および/または駆動側の歯車が、同極性に磁化された歯車であり、かつ、ウォーム歯車の構成である。したがって、歯が交互の極にて磁化される場合に比べ、製造が容易である。さらに、ウォーム歯車の構成であることから、減速比を大きくとれ、高トルクを発生することができる。
【0025】
また、従動側の歯車がウォームホイールである非接触ウォーム歯車では、ウォームを駆動側とすることにより、ウォームホイール(従動側の歯車)の高トルク運転が可能である。
【0026】
また、従動側と駆動側の歯車がかみ合わない非接触ウォーム歯車は、高速回転時の歯の接触を防止できるとともに、負荷トルクの増大等で歯と歯の間に滑りが生じる場合においても適用できる。ウォームホイールに過負荷が加わった場合には、ウォームホイールが空転するため、ウォームホイールの過負荷も防止できる。
【0027】
従動側および/または駆動側の歯車が磁性体または電磁石で挟み込まれている非接触ウォーム歯車は、歯車を磁化させる手段として、歯車の両側に磁性体もしくは電磁石を設置する。たとえば、歯車の両側に、中心に孔のある円柱状のリングマグネットを設置することができる。この際、リングマグネットの孔には、歯車の回転軸を通過させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ウォーム、ウォームホイール、リングマグネットの配置概略図である。
【図2】実施例1のウォーム歯車の歯先部分の拡大写真である。
【図3】実施例1における試験装置の概略図である。
【図4】実施例および比較例により得られたデータである。
【図5】従来の非接触歯車の例である。
【図6】従来の非接触歯車の例である。
【符号の説明】
【0029】
1…ウォーム
2…ウォームホイール
3…リングマグネット
4…サーボモータ(駆動側)
5…サーボモータ(測定側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近傍に配置した磁性体または電磁石により同極性に磁化された歯を有する歯車を駆動側および/または従動側に配置し、駆動側歯車の歯と従動側の歯の間に隙間をもたせ、磁気引力により非接触で回転運動を伝達する非接触歯車であり、従動側の歯車と駆動側の歯車がウォームとウォームホイールの組合せであるウォーム歯車であることを特徴とする非接触ウォーム歯車。
【請求項2】
従動側の歯車がウォームホイールである請求項1に記載の非接触ウォーム歯車。
【請求項3】
従動側の歯車と駆動側の歯車が噛み合わない請求項1または請求項2に記載の非接触ウォーム歯車。
【請求項4】
従動側および/または駆動側の歯車が磁性体または電磁石で挟み込まれている請求項1〜3のいずれかに記載の非接触ウォーム歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−239765(P2007−239765A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58912(P2006−58912)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人科学技術振興機構(JST)、受託調査研究(研究課題:地域における産学官連携活動の現状、基準抽出及び促進手法に関する調査研究)、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】