説明

磁心用粉末、圧粉磁心およびその製造方法

【課題】比抵抗および強度に優れる圧粉磁心を提供する。
【解決手段】本発明は、軟磁性粒子と、この軟磁性粒子間に形成される粒界相と、からなる圧粉磁心であって、粒界相は、軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する第一無機酸化物からなる低温軟化材(低融点ガラス粒子)からなるマトリックス中に、焼鈍温度よりも高い軟化点を有する第二無機酸化物からなる高温軟化材(シリカやアルミナのナノ粒子)からなる微粒子が分散した複合分散組織であることを特徴とする。粒界相がこのような複合分散組織からなることにより、各軟磁性粒子は、低温軟化材により強固に結合されると共に高温軟化材により所定間隔が保持され絶縁性が確保される。こうして高比抵抗と高強度が高次元で両立した本発明の圧粉磁心が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積比抵抗値(以下単に「比抵抗」という。)および強度に優れる圧粉磁心、その製造に用いられる磁心用粉末および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等、我々の周囲には電磁気を利用した製品が多々ある。これらの製品は交番磁界を利用したものが多く、局所的に大きな交番磁界を効率的に得るために、通常、磁心(軟磁石)をその交番磁界中に設けている。
【0003】
この磁心は、交番磁界中において高磁気特性であるのみならず、交番磁界中で使用する際に高周波損失(以下、磁心の材質に拘らず単に「鉄損」という。)が少ないことが求められる。鉄損には、渦電流損失、ヒステリシス損失および残留損失があるが、特に交番磁界の周波数と共に高くなる渦電流損失の低減を図ることが重要である。
【0004】
そこで、絶縁被覆された軟磁性粒子(磁心用粉末の各粒子)を加圧成形した圧粉磁心の開発、研究が盛んに行われてきた。このような圧粉磁心は、絶縁被膜の存在により高比抵抗で低鉄損であると共に、形状自由度が高く種々の電磁機器に対応し易い。もっとも最近では、圧粉磁心の用途拡大を図るため、比抵抗のみならず、強度や耐熱性の向上も重視されている。このような圧粉磁心に関する提案が、例えば下記のような特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、シリコーン樹脂、ガラスおよびアルミナからなる被膜を表面に形成した軟磁性粒子を加圧成形してなる圧粉磁心を提案している。この圧粉磁心は、シリコーン樹脂をバインダーとしているため、高温で焼鈍等したりすると、比抵抗が急減し得る。ちなみに、この特許文献1には、そのアルミナの形態(粒径等)について一切記載されていない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来の圧粉磁心とは異なり、高比抵抗および高強度を高温域まで安定して発揮し得る圧粉磁心を提供することを目的とする。またその圧粉磁心の製造に適した磁心用粉末およびそれらの製造方法を併せて提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、低融点ガラス等の低温軟化材と微細なシリカ粒子等の高温軟化材からなる粒界相を、軟磁性粒子からなる主相間に形成することにより、非常に高い比抵抗および圧環強度を発現する圧粉磁心が得られることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《圧粉磁心および磁心用粉末》
(1)本発明の圧粉磁心は、軟磁性粒子からなる主相と、該軟磁性粒子間に形成される粒界相と、からなる圧粉磁心であって、前記粒界相は、該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する第一無機酸化物からなる低温軟化材と該焼鈍温度よりも高い軟化点を有する第二無機酸化物からなる高温軟化材とが複合してなることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の圧粉磁心は、高比抵抗および高強度であって、この特性を高温域でも安定して発揮し得る。本発明がこのような優れた効果を発現する理由は必ずしも定かではないが、現状、次のように考えられる。
【0011】
本発明の圧粉磁心は、無機酸化物からなる粒界相によって、主相である軟磁性粒子が保持または結合されると共に軟磁性粒子間の絶縁性が確保される。逆にいえば本発明の圧粉磁心では、耐熱性に劣るバインダー樹脂等を用いる必要がない。このため本発明によれば、高温域でも、高比抵抗および高強度を発揮する圧粉磁心が得られる。
【0012】
この点を詳述すると次の通りである。先ず、圧粉磁心は、磁心用粉末を所望形状に加圧成形して得られる。この際、軟磁性粒子内へ導入させる残留歪み等は、圧粉磁心の保磁力ひいてはヒステリシス損失を増加させるため、加圧成形後の熱処理(焼鈍)により除去されるのが通常である。
【0013】
この焼鈍時、焼鈍温度よりも軟化点の低い低温軟化材が軟化(さらには溶融)して、軟磁性粒子を被包するようになる。この低温軟化材は、軟磁性粒子間の絶縁性に寄与すると共に、バインダーの役割も果たして軟磁性粒子同士の結合を強固にする。さらに軟化等した低温軟化材は、各軟磁性粒子間の隙間(例えば三重点)へ流入等して、各軟磁性粒子のより安定的な保持に寄与する。こうして先ず、低温軟化材により各軟磁性粒子の絶縁性と結合が確保される。
【0014】
もっとも、軟磁性粒子間における低温軟化材の介在量が不十分になると、軟磁性粒子が部分的に直接接触するようになり(図1B参照)、軟磁性粒子間の絶縁性が低下し、ひいては圧粉磁心の比抵抗が低下し得る。このような状態は、焼鈍時に軟化した低温軟化材が軟磁性粒子間から流出することによっても生じ得ると考えられる。
【0015】
ところが本発明の場合、軟磁性粒子間(粒界)には、低温軟化材のみならず、焼鈍温度よりも軟化点の高い高温軟化材が存在している(図1A参照)。この高温軟化材は、焼鈍時にもあまり軟化等せず、少なからず元の形態を保持し、軟磁性粒子間の距離(粒子間距離)を一定以上に保つ。この結果、軟磁性粒子同士が直接接触する事態は大幅に低減され、軟磁性粒子間の絶縁性がより確実に確保されるようになる。
【0016】
ここで低温軟化材に接触している高温軟化材は、高温焼鈍時に、その表面部分が低温軟化材と共に軟化または溶融することもわかっている。この場合、高温軟化材と低温軟化材が、少なくとも界面部分で融合した粒界相が形成される。具体的にいうと、低温軟化材が低融点ガラスであり、高温軟化材がシリカである場合なら、その粒界相は低融点ガラスからなるマトリックス中にシリカからなるシリカ濃化相が分散した複合分散組織が形成され得る。このような場合、高温軟化材が低温軟化材中に単に埋設しているに留まらず、両者が少なくとも界面部分で融合(溶融後に凝固)して一体的に結合した状態となるため、本発明の圧粉磁心は特に高い強度を発現すると考えられる。
【0017】
このように無機酸化物からなる低温軟化材および高温軟化材が、相乗的に作用することにより、高温域まで安定した高比抵抗および高強度を発現する圧粉磁心が得られるようになったと考えられる。
【0018】
《磁心用粉末》
本発明は、上述した圧粉磁心としてのみならず、その製造に適した磁心用粉末としても把握し得る。つまり本発明は、軟磁性粒子と、該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する第一無機酸化物からなる低温軟化材と該焼鈍温度よりも高い軟化点を有する第二無機酸化物からなる高温軟化材とが該軟磁性粒子の表面に付着してなる付着層と、からなることを特徴とする圧粉磁心に用いられる磁心用粉末でもよい。
【0019】
《圧粉磁心の製造方法》
本発明は、さらに上述した圧粉磁心の製造に適した圧粉磁心の製造方法としても把握し得る。つまり本発明は、上述した磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、該成形工程後に得られた成形体を、前記低温軟化材の軟化点以上かつ前記高温軟化材の軟化点未満の温度で焼鈍する焼鈍工程と、を備えることを特徴とする圧粉磁心の製造方法であってもよい。
【0020】
《その他》
(1)本発明でいう「軟化点」は、加熱された無機酸化物の粘度が、温度上昇の過程で107.5dPa・sとなる温度である。このため、本発明でいう軟化点は一般的にいわれるガラス転移点(Tg)とは必ずしも一致しない。ちなみにこの軟化点はJIS R3103−1 ガラスの粘性および粘性定点−第1部:軟化点の測定方法−により特定される。
【0021】
(2)本発明でいう「焼鈍温度」は、加圧成形後の残留歪みや残留応力の除去等を目的として、軟磁性粒子の成形体に対してなされる焼鈍工程における加熱温度である。
【0022】
(3)本発明に係る高温軟化材は、焼鈍時にその一部が軟化または溶融して低温軟化材と一体化した粒界相を形成していると好ましい。但し、高温軟化材が軟化または溶融していない圧粉磁心も、高比抵抗および高強度を発現し得る限り、本発明に含まれる。
【0023】
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。また本明細書に記載した種々の数値や数値範囲内に含まれる数値を任意に組み合わせて「a〜b」のような新たな数値範囲を構成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明の圧粉磁心に係る主相と粒界相とを模式的に示した説明図である。
【図1B】従来の圧粉磁心に係る主相と粒界相とを模式的に示した説明図である。
【図2】一実施例である圧粉磁心を構成する軟磁性粒子の表面近傍を観察した電子顕微鏡写真である。
【図3】種々の圧粉磁心の比抵抗と圧環強度の関係を示す分散図である。
【図4】本発明に係る低温軟化材を熱分析して得られたDTA曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。上述した本発明の構成に本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明に係る圧粉磁心のみならず、その製造に用いる磁心用粉末や製造方法にも適用され得る。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0026】
《軟磁性粒子(軟磁性粉末)》
軟磁性粒子は、8属遷移元素(Fe、Co、Ni等)などの強磁性元素を主成分とすれば足るが、取扱性、入手性、コスト等から純鉄または鉄合金からなると好ましい。鉄合金は、Si含有鉄合金(Fe−Si合金)が好ましい。Siは軟磁性粒子の電気抵抗率を高め、圧粉磁心の比抵抗を向上させ、渦電流損失を低減させるからである。
【0027】
軟磁性粒子は、全体を100質量%としたときにSiを0.2〜4質量%さらには0.8〜3.5質量%含むと好ましい。Siが過少では効果がなく、Siが過多になると、圧粉磁心の磁気的特性や成形性を低下させ得る。鉄合金は、その他にCoやAlを含んでもよい。
【0028】
さらに軟磁性粉末は、複数の粉末を混合した混合粉末でもよい。例えば、純鉄粉とFe−49Co−2V(パーメンジュール)粉、純鉄粉とFe−3Si粉、センダスト(Fe−9Si−6Al)粉と純鉄粉等の混合粉末であってもよい。
【0029】
軟磁性粒子の最適な粒径は、対象とされる圧粉磁心の種類により異なる。通常、軟磁性粒子の粒径は5〜500μm、20〜300μmさらには40〜200μmであると好ましい。粒径が過大では高密度化や渦電流損失の低減化が図り難く、粒径が過小ではヒステリシス損失の低減が図り難い。なお、軟磁性粒子の分級は、篩い分法等により容易に行える。本明細書でいう軟磁性粒子の粒径は、所定のメッシュサイズの篩いによって分級したときに定まる粒径である。
【0030】
軟磁性粒子の製造方法は問わず、軟磁性粒子は粉砕粉でもアトマイズ粉でもよい。アトマイズ粉は、水アトマイズ粉、ガスアトマイズ粉、ガス水アトマイズ粉のいずれでもよい。ガス(水)アトマイズ粉を用いると、絶縁被膜の破壊等が抑制されて比抵抗の高い圧粉磁心が安定して得られ易い。ガス(水)アトマイズ粉の各構成粒子は擬球状をしており、粒子相互間の攻撃性が低くいからである。
【0031】
《低温軟化材》
低温軟化材は、磁心用粉末を加圧成形した成形体の焼鈍温度(軟磁性粒子の焼鈍温度)より低い軟化点を有する(第一)無機酸化物からなる。この無機酸化物は、焼鈍温度以上で、粘度が107.5dPa・s以下となるものであれば、その種類を問わない。
【0032】
このような低温軟化材として、食器やタイル等に使用される、いわゆる低融点ガラスがある。低温軟化材は、硼珪酸鉛系ガラスでもよいが、環境負荷の小さい組成系からなる低融点ガラス、例えば、低温軟化材は、硼珪酸塩系ガラス、珪酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、酸化バナジウム系ガラス等の一種以上であるとより好適である。
【0033】
硼珪酸塩系ガラスの主成分として、例えば、SiO−B−LiO、SiO−B−NaO、SiO−B−CaOなどがある。珪酸塩系ガラスの主成分として、例えば、SiO−LiO、SiO−NaO、SiO−CaO、SiO−MgO、SiO−Al などがある。リン酸塩系ガラスの主成分として、例えば、P−LiO、P−NaO、P−CaO、P−MgO、P−Al などがある。硼酸塩系ガラスの主成分として、例えば、B−LiO、B−NaO、B−CaO、B−MgO、B−Alなどがある。酸化バナジウム系ガラスの主成分として、例えば、V−B、V−B−SiO、V−P、V−B−Pなどがある。
【0034】
これら低融点ガラスは、SiO、NaO、ZnO、B、LiO、SnO、BaO、CaO、Al等の組成を調整することにより、軟化点を焼鈍温度に適した温度に調整可能である。
【0035】
低温軟化材(特に低融点ガラス)は、磁心用粉末全体または圧粉磁心全体を100質量%としたときに、0.3〜4質量%、0.5〜3.5質量%さらには0.7〜3質量%であると好ましい。低温軟化材が過少では圧粉磁心の強度の向上が不十分となり、それが過多では圧粉磁心の磁気特性が低下し得る。
【0036】
なお、低温軟化材は、圧粉磁心の焼鈍後に粒界相を形成すれば足りる。つまり、磁心用粉末の段階または圧粉磁心の焼鈍前の段階では、軟磁性粒子の表面に付着した粒子状で足りる。この低温軟化材の粒子(特に低融点ガラス粒子)は、軟磁性粒子より粒径が小さいと好ましく、例えば、0.5〜90μmさらには1〜50μm程度であるとよい。その粒径が過小では製造や取扱性が困難となり、粒径が過大になると緻密で密着性に優れた粒界相の形成が困難となる。
【0037】
ちなみに低融点ガラス粒子の粒径は、種々の方法により特定できるが、本明細書でいう粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析またはレーザ回折法により特定した。
【0038】
《高温軟化材》
高温軟化材は、焼鈍温度よりも高い軟化点を有する(第二)無機酸化物からなる。この無機酸化物は、焼鈍温度時に粘度が107.5dPa・s超であれば、その種類を問わない。
【0039】
このような高温軟化材として、高融点のセラミックス粒子がある。具体的には、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子等である。このような粒子は、軟磁性粒子同士の直接接触の回避に適した微粒子、例えば、平均粒径が5〜500nmさらには10〜400nmのナノ粒子であると好ましい。この粒径が過大では圧粉磁心が低密度となり、粒径が過小では加圧成形により変形した軟磁性粒子同士の直接接触を十分に回避できない。
【0040】
高温軟化材は、磁心用粉末全体または圧粉磁心全体を100質量%としたときに、0.1〜2.7質量%、0.2〜2.5質量%さらには0.4〜2.3質量%であると好ましい。高温軟化材が過少では圧粉磁心の比抵抗の向上が不十分となり、それが過多では圧粉磁心の強度の低下を招く。
【0041】
高温軟化材が微粒子(さらにはナノ粒子)からなる場合、本発明に係る粒界相は、低温軟化材からなるマトリックス中に、軟磁性粒子よりも粒径の小さい高温軟化材の粒子(微粒子またはナノ粒子)が分散した複合分散組織となる。この場合、本発明の圧粉磁心は、主相である軟磁性粒子の表面が、二種以上の無機酸化物が一体的または不連続的な状態で分布した粒界相(または被膜)により包囲(または被覆)された状態となる(図1A参照)。この点、軟磁性粒子の表面が単一の連続した絶縁層等で被膜されていた従来の圧粉磁心と異なる(図1B参照)。
【0042】
《磁心用粉末の製造》
磁心用粉末は、軟磁性粒子の表面に低温軟化材および高温軟化材を付着させることにより得られる(付着工程)。低温軟化材と高温軟化材を軟磁性粒子の表面に付着させる順序は問わない。つまり、軟磁性粒子の表面に、軟磁性粒子を先に付着させた後に高温軟化材を付着させてもよいし、その逆でもよし、さらには、それらを同時に付着させてもよい。
【0043】
この付着工程は湿式で行っても乾式で行ってもよい。例えば、低温軟化材(特に低融点ガラス粉末)を分散媒に分散させた分散液(スラリー)に、高温軟化材を付着させた軟磁性粒子の粉末を入れて攪拌混合し、その後、その分散媒を蒸発させ乾燥させてもよい(湿式付着工程)。また分散媒を介さずに、高温軟化材を付着させた軟磁性粒子の粉末と低温軟化材とを混合してもよい(乾式付着工程)。さらには、分散媒を介さずに、軟磁性粒子、低温軟化材および高温軟化材を同時に混合してもよい(同時乾式付着工程)。湿式であれば、より均一的な付着が可能になり、乾式であれば乾燥工程を省略できて効率的である。
【0044】
《圧粉磁心の製造》
本発明の圧粉磁心は、所望形状のキャビティを有する金型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、その磁心用粉末を加圧成形して成形体とする成形工程と、その成形体を焼鈍する焼鈍工程とを経て得られる。ここでは成形工程と焼鈍工程について説明する。
【0045】
(1)成形工程
成形工程で軟磁性粒子に印加される成形圧力は問わないが、高圧成形するほど高密度で高磁束密度の圧粉磁心が得られる。このような高圧成形方法として、金型潤滑温間高圧成形法がある。金型潤滑温間高圧成形法は、高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した金型へ前記磁心用粉末を充填する充填工程と、磁心用粉末と金型の内面との間に高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸被膜が生成される成形温度と成形圧力で加圧成形する温間高圧成形工程とからなる。
【0046】
ここで「温間」とは、表面被膜(または絶縁被膜)への影響や高級脂肪酸系潤滑剤の変質などを考慮して、例えば、成形温度を70℃〜200℃さらには100〜180℃とすることをいう。この金型潤滑温間高圧成形法の詳細については、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報など多くの公報に詳細が記載されている。この金型潤滑温間高圧成形法によれば、金型寿命を延しつつも超高圧成形が可能となり、高密度な圧粉磁心を容易に得ることが可能となる。
【0047】
(2)焼鈍工程
焼鈍工程は、成形体中の残留歪みや残留応力の除去を目的としてなされ、これにより圧粉磁心の保磁力やヒステリシス損失の低減が図られる。この際、低温軟化材は軟化し、軟磁性粒子間の間隙等に流動して、軟磁性粒子をより安定的に保持する。
【0048】
焼鈍温度は、軟磁性粒子、低温軟化材および高温軟化材の種類に応じて適宜選択し得る。焼鈍温度は、通常、400〜900℃さらには600〜780℃程度である。加熱時間は0.1〜5時間さらには0.5〜2時間程度が好ましく、加熱雰囲気は不活性雰囲気が好ましい。
【0049】
なお、本発明では、粒界相が無機酸化物から構成され、シリコーン樹脂等を含まないため、高温軟化材の軟化点を超えない範囲内であれば、従来よりも高温の焼鈍ができる。この高温焼鈍によりヒステリシス損失のさらなる低減等を図れる。しかもその際、粒界相の劣化や比抵抗の低減もない。
【0050】
《圧粉磁心》
(1)特性
圧粉磁心の密度は、例えば、軟磁性粒子の真密度(ρ)に対する、圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ)が83%以上、84%以上、85%以上さらに86%以上であると、高磁気特性が得られるので好ましい。
【0051】
圧粉磁心の比抵抗は、形状に依存しない圧粉磁心ごとの固有値であり、比抵抗が大きいほど、渦電流損失の低減を図れる。この比抵抗は、例えば、10μΩ・m以上、10μΩ・m以上さらには10μΩ・m以上であると好ましい。
【0052】
圧粉磁心の強度は、高いほどその用途が拡大して好ましい。例えば、強度の代表的な指標である圧環強度が、20MPa以上、40MPa以上、60MPa以上さらには80MPa以上であるとよい。本発明の圧粉磁心では、従来の圧粉磁心と異なり、軟磁性粒子同士が単に塑性変形によって機械的に結合しているのみならず、低温軟化材により強固に結合している。このため本発明の圧粉磁心は、従来の圧粉磁心よりも高強度である。
【0053】
(2)用途
本発明の圧粉磁心は、その形態を問わず、各種の電磁機器、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等に利用され得る。具体的には、電動機または発電機の界磁または電機子を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心に本発明の圧粉磁心は好適である。ちなみに駆動用モータは自動車等に用いられる。
【実施例】
【0054】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
(原料)
(1)軟磁性粒子
軟磁性粒子(原料粉末)としてSiを含有する鉄合金からなるガス水アトマイズ粉を用意した。用意した軟磁性粒子の組成、粒度は表1Aおよび表2B(両者を併せて単に「表1」という。)に示した。表1に記載の粒度は、所定のメッシュサイズの篩いにより分級して求めたものである。なお、表1中の粒度欄に「〜以下」と記載した軟磁性粒子の場合でも、5μm未満の軟磁性粒子が含まれていなかったことはSEMにより確認している。
【0055】
(2)低融点ガラス粒子(低温軟化材)
軟磁性粒子の表面に付着させる低融点ガラス粒子を次の湿式粉砕により得た。原料として、表2に示す各種の組成(第一無機酸化物)からなるガラスビーズを用意した。なお、表2に示した低融点ガラス粒子A、B、DおよびEは日本琺瑯釉薬株式会社製、低融点ガラス粒子CおよびFは東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製である。
【0056】
粗粉砕したガラスビーズを湿式粉砕機(ダイノーミル:シンマルエンタープライズ社製)のチャンバーへ投入し、攪拌用プロペラを作動させて微粉砕した。この微粉砕したものを回収して乾燥させた。こうして各種の低融点ガラス粒子からなる粉末を得た。得られた低融点ガラス粒子の各粒径は表2に併せて示した。なお、この粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析により測定した。
【0057】
(3)ナノ粒子(高温軟化材)
軟磁性粒子の表面に付着させるセラミックスのナノ粒子(高温軟化材)を用意した。用意したナノ粒子の種類および平均粒径は表1に示した。なお、表1に示したシリカ製ナノ粒子は、いずれも組成がSiOであり、平均粒径15nmのものは株式会社トクヤマ製(品番:QS−10)である。平均粒径300nmのものは株式会社アドマテックス製(品番:SO−E1)である。またアルミナ製ナノ粒子は、組成がAlであり、ビューラー社製(マイクロポリッシュII)である。
【0058】
ナノ粒子の平均粒径の特定方法には、レーザ回折散乱法、沈降法、画像解析法等があるが、本発明ではレーザ回折散乱法によってナノ粒子の平均粒径を特定した。
【0059】
(磁心用粉末の製造)
軟磁性粒子の表面に低融点ガラス粒子およびナノ粒子を、次に示す各方式により付着させた(付着層形成工程)。
【0060】
(1)湿式付着工程
先ず、上述した軟磁性粒子およびナノ粒子の各粉末を入れたチャンバーを容器回転揺動型粉体混合機(愛知電機株式会社製ロッキングミキサー)に取り付けて、各粉末を攪拌混合した。この混合は80rpmの条件で30分間行った。こうしてナノ粒子が表面に付着した軟磁性粒子(これを「一次複合粒子」という。)を得た。
【0061】
次に、上記の低融点ガラス粒子を、その5〜20倍の分散媒(エタノール)に分散させた低融点ガラス分散液を調製した。このときの分散には、超音波撹拌装置を用いた。
【0062】
この低融点ガラス分散液中へ、上述した一次複合粒子の粉末を入れ、分散媒が揮発するまで超音波撹拌装置で攪拌した。この際、低融点ガラス分散液の温度は60〜70℃とした。さらに、この処理後の粉末を130℃の恒温槽に入れて大気雰囲気中で30分間乾燥させた。乾燥後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。こうして軟磁性粒子の表面にナノ粒子および低融点ガラス粒子が付着した複合粒子からなる粉末(磁心用粉末)を得た。
【0063】
(2)乾式付着工程
前述した一次複合粒子と低融点ガラス粒子の各粉末を入れたポリ容器を回転ボールミル(筒井理化学器械株式会社製)に取り付けて攪拌混合した。この混合は60rpmの条件で30分間行った。混合後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。こうして軟磁性粒子の表面にナノ粒子および低融点ガラス粒子が付着した複合粒子からなる磁心用粉末を得た。
【0064】
(3)同時乾式付着工程
軟磁性粒子、ナノ粒子および低融点ガラス粒子の各粉末を同時に入れたポリ容器を、上記の容器回転揺動型粉体混合機に取り付けて攪拌混合した。この混合は80rpmの条件で30分間行った。混合後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。こうして軟磁性粒子の表面にナノ粒子および低融点ガラス粒子が付着した複合粒子からなる磁心用粉末を得た。
【0065】
いずれの場合も磁心用粉末全体を100質量%として、低融点ガラス粒子(低温軟化材)の添加量(m1)およびナノ粒子(高温軟化材)の添加量(m2)を表1にそれぞれ示した。また表1中に示した「付着粒子全体に対する割合」は、両添加量の和(m1+m2)に対するナノ粒子の添加量の割合(m2/(m1+m2))の百分率である。また、表1A中では、湿式付着工程を「湿式」、乾式付着工程を「乾式」、同時乾式付着工程を「同時乾式」と表記した。
【0066】
(4)比較試料の製造
軟磁性粒子の表面に、低融点ガラス粒子またはナノ粒子のいずれか一方のみを付着させた複合粒子からなる磁心用粉末も製造した。低融点ガラス粒子のみの試料は、上述の乾式付着工程と同様に製造した。ナノ粒子のみの試料は、上述の一次複合粒子と同様に製造した。これらの試料をまとめて表1Bの試料No.C1〜C7に示した。
【0067】
また、軟磁性粒子の表面にナノ粒子およびシリコーン樹脂を付着させた複合粒子からなる磁心用粉末も製造した(表3に示す試料No.D1およびD2)。この際の付着は次のようにしておこなった。先ず、シリコーン樹脂を、その50〜80倍の分散媒(エタノール)に溶解し、この溶液とナノ粒子を混合したコーティング液を調製した。次に、このコーティング液に軟磁性粒子を混合し、分散媒が揮発するまで超音波攪拌装置で攪拌した。この際のコーティング液の温度は60〜70℃とした。さらに、この処理後の粉末を恒温槽に入れて大気雰囲気中で30分間乾燥させた。このときの恒温槽の温度は、試料No.D1の場合が130℃、試料No.D2の場合が100℃とした。乾燥後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。なお、シリコーン樹脂には熱硬化型シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製KR−242A)を用いた。ナノ粒子には、平均粒径50nmのシリカ製ナノ粒子とシリカゾル(日産化学工業株式会社製IPA−ST、ナノ粒子濃度30%)を用いた。
【0068】
(圧粉磁心の製造)
(1)充填工程および成形工程
各試料(磁心用粉末)を用いて金型潤滑温間高圧成形法により、リング状(外径:φ39mm×内径φ30mm×厚さ5mm)の成形体を製作した。この成形に際して、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。金型潤滑温間高圧成形法は、具体的には次のようにして行った。
【0069】
所望形状に応じたキャビティを有する超硬製の金型を用意した。この金型をバンドヒータで予め130℃に加熱しておいた。また、この金型の内周面には、予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4Zとした。
【0070】
加熱した金型の内周面に、水溶液に分散させたステアリン酸リチウム(1%)をスプレーガンにて10cm/分程度の割合で均一に塗布した。ここで用いた水溶液は、水に界面活性剤と消泡剤とを添加したものである。界面活性剤には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)6、(EO)10及びホウ酸エステルエマルボンT−80を用い、それぞれを水溶液全体(100体積%)に対して1体積%ずつ添加した。また、消泡剤には、FSアンチフォーム80を用い、水溶液全体(100体積%)に対して0.2体積%添加した。
【0071】
ステアリン酸リチウムには、融点が約225℃で、粒径が20μmのものを用いた。その分散量は、上記水溶液100cmに対して25gとした。これをさらにボールミル式粉砕装置で微細化処理(テフロン(登録商標)コート鋼球:100時間)し、得られた原液を20倍に希釈して最終濃度1%の水溶液として、上記塗布工程に供した。
【0072】
ステアリン酸リチウムが内面に塗布された金型へ、各磁心用粉末を充填した(充填工程)。金型を130℃に保持したまま、基本的に1568MPaの成形圧力で、充填された磁心用粉末を温間加圧成形した(成形工程)。なお、この温間高圧成形に際して、いずれの磁心用粉末も金型とかじり等を生じることがなく低い抜圧で成形体をその金型から取り出すことができた。
【0073】
なお、上述した金型温度(130℃)は、試料No.D1の場合は150℃に、試料No.D2の場合は70℃に変更して行った。
【0074】
(2)焼鈍工程
得られた各成形体に、流量8リットル/分の窒素雰囲気中で、炉内温度を750℃として、1時間保持する焼鈍を施した。但し、試料No.17は900℃で焼鈍した。こうして表1に示す複数の圧粉磁心を得た。
【0075】
《測定》
(1)比抵抗と圧環強度
上記のリング状の圧粉磁心を用いて圧環強度および比抵抗を測定した。圧環強度は、JIS Z 2507に準ずる方法により測定した。比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法により測定した。各測定結果を表1に併せて示した。また各圧粉磁心の比抵抗と圧環強度との相関を図3にプロットした。
【0076】
(2)密度
圧粉磁心の密度は、各試料(試験片)の質量と採寸から求まる体積に基づいて求めた。
【0077】
《観察》
(1)表1Aに示した試料No.2の圧粉磁心の粒界相を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した反射電子組織像を図2に示した。図2中、白色部位は軟磁性粒子であり、灰色部位は低融点ガラス相(低温軟化材相)であり、黒色部位はシリカ(SiO)相(高温軟化材相)である。この図2から、本発明に係る圧粉磁心では、軟磁性粒子の表面に密着してそれを被包する粒界相が、低温軟化材からなるマトリックス中に、高温軟化材からなるナノ粒子が一体化しつつ分散した複合分散組織となっていることが明らかとなった。
【0078】
(2)このような粒界相が形成されることは、低融点ガラス粒子(低温軟化材)のみからなる試料と、この低融点ガラス粒子にナノ粒子(高温軟化材)を加えた試料とについて行った示差熱分析(DTA:Differential Thermal Analysis)の結果からも裏付けられる。これら両試料のDTA曲線を図4に示す。図4に示したグラフの縦軸は、各試料と基準物質との温度差ΔTに相当する電圧差とした。
【0079】
ここで用いた低融点ガラス粒子は、表2に示す硼珪酸塩系ガラス(A)である。低融点ガラス粒子に加えたナノ粒子は、平均粒径15nmのシリカ粒子であり、その混合割合は30質量%とした(試料No.2相当)。なお、混合試料は、低融点ガラス粒子とナノ粒子をメノウ乳鉢で混合して得た。またDTAは、理学電機株式会社製の熱分析装置(TG8120)を用いて、昇温速度10℃/min、大気雰囲気で行った。
【0080】
図4から明らかなように、低融点ガラス粒子のみからなる試料のDTA曲線には軟化点(590℃)付近に安定域が存在するが、混合試料(低融点ガラス粒子+ナノ粒子)のDTA曲線にはそのような安定域が観られなかった。この安定域は、低融点ガラス粒子の軟化もしくは溶融に伴う吸熱反応により生じると考えられる。しかし、混合試料の場合、ナノ粒子(シリカ粒子)が昇温と共に低融点ガラス粒子と反応して徐々に溶解し、上述した吸熱反応が不明確となって安定域が出現しなくなったと考えられる。
【0081】
なお、このような傾向は、硼珪酸塩系ガラス粒子とシリカ粒子とを組み合わせた場合に限らず、他種の低融点ガラス粒子とナノ粒子とを組み合わせた場合も同様と考えられる。何故なら、低融点ガラス粒子の溶融によるナノ粒子の反応は低融点ガラス粒子が先に溶融することで起こる。従って、低融点ガラス粒子の種類によらず、低温軟化材である低融点ガラス粒子の方が、高温軟化材であるナノ粒子より先に軟化あるいは溶融するため、吸熱反応が不明確となって安定域が出現しなくなると考えられるからである。
【0082】
《評価》
(1)表1および図3から試料No.1〜18の圧粉磁心はいずれも、高密度(6.9g/cm 以上)であり磁気特性に優れると共に、圧環強度および比抵抗の両方に優れることがわかった。具体的には、比抵抗が10μΩ・m以上、10μΩ・m以上さらには、10μΩ・m以上のものがあり、圧環強度も20〜89MPaと高強度であった。
【0083】
これらのことは、図3上にプロットした試料No.1〜18のマークが、試料No.C1、C2、C4〜C7、D1およびD2のマークよりも、全体的に右上方向へシフトしていることからもわかる。
【0084】
ちなみに、低融点ガラス粒子の添加量が多いほど圧環強度が増加し、ナノ粒子の添加量が多いほど比抵抗が増加した。この傾向は、軟磁性粒子の粒度、低融点ガラス粒子の種類、ナノ粒子の粒度や種類、付着工程の方式等が異なっても同様であった。
【0085】
(2)試料No.C1および試料No.C4〜C7からわかるように、粒界相が低温軟化材のみからなる場合、圧環強度は高いが比抵抗が極端に低くなった。この傾向は低融点ガラス粒子の種類や添加量が変化しても同様であった。
【0086】
また試料No.C2からわかるように、粒界相が高温軟化材のみからなる場合、比抵抗は高くなるが圧環強度は非常に低くなった。そして試料No.C3からわかるように、高温軟化材が増加すると、超高圧成形しているにもかかわらず、正常な成形体が得られなかった。
【0087】
(3)試料No.D1およびD2からわかるように、粒界相がシリコーン樹脂とシリカ粒子からなる圧粉磁心は、圧環強度が極端に低下することがわかる。これは、焼鈍時に高温軟化材の一部が軟化または溶融しても、シリコーン樹脂と一体化しないためである。また、粒界相にシリコーン樹脂が含まれる圧粉磁心に比べ、本実施例に係る各試料は、高温で焼鈍しても、高い比抵抗と共に十分に大きな圧環強度も保持している。特に試料No.17の圧粉磁心は、従来にない非常に高い温度(900℃)で焼鈍しているにも拘わらず、高い比抵抗と共に大きな圧環強度を発揮している。
【0088】
以上から本発明の圧粉磁心は、軟磁性粒子間の粒界相が低温軟化材および高温軟化材で構成され、それらが相乗的に作用することにより、高比抵抗と高強度を両立し得ることがわかった。さらに本発明の圧粉磁心は、その優れた特性を高温環境下でも安定して発現し得ることもわかった。
【0089】
【表1A】

【0090】
【表1B】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子からなる主相と、
該軟磁性粒子間に形成される粒界相と、
からなる圧粉磁心であって、
前記粒界相は、
該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する第一無機酸化物からなる低温軟化材と該焼鈍温度よりも高い軟化点を有する第二無機酸化物からなる高温軟化材とが複合してなることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記粒界相は、前記低温軟化材からなるマトリックス中に、前記高温軟化材からなり前記軟磁性粒子よりも粒径が小さい微粒子が分散した複合分散組織を有する請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記微粒子は、平均粒径が5〜500nmのナノ粒子である請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記微粒子は、シリカ粒子またはアルミナ粒子である請求項2または3に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記低温軟化材は、低融点ガラスである請求項1〜4のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記低融点ガラスは、硼珪酸塩系ガラス、珪酸塩系ガラスまたはリン酸塩系ガラスの一種以上である請求項5に記載の圧粉磁心。
【請求項7】
前記軟磁性粒子は、純鉄またはケイ素(Si)を含有する鉄合金からなる請求項1〜6のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項8】
前記軟磁性粒子は、粒径が5〜500μmである請求項1または7に記載の圧粉磁心。
【請求項9】
前記高温軟化材と前記低温軟化材は、少なくとも界面部分で融合している請求項1〜8に記載の圧粉磁心。
【請求項10】
前記低温軟化材は、低融点ガラスであり、
前記高温軟化材は、シリカであり、
前記粒界相は、該低融点ガラスからなるマトリックス中に該シリカからなるシリカ濃化相が分散した複合分散組織を有する請求項9に記載の圧粉磁心。
【請求項11】
軟磁性粒子と、
該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する第一無機酸化物からなる低温軟化材と該焼鈍温度よりも高い軟化点を有する第二無機酸化物からなる高温軟化材とが該軟磁性粒子の表面に付着してなる付着層と、
からなることを特徴とする圧粉磁心に用いられる磁心用粉末。
【請求項12】
請求項11に記載の磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、
該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、
該成形工程後に得られた成形体を、前記低温軟化材の軟化点以上かつ前記高温軟化材の軟化点未満の温度で焼鈍する焼鈍工程と、
を備えることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−230948(P2012−230948A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96860(P2011−96860)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】