説明

磁性材料の温度分布評価方法

【課題】熱アシスト記録等で用いられる微小な領域及び短時間の温度変化においても磁性材料の温度分布の評価が可能な方法を提供する。
【解決手段】磁性材料に光照射を行なった後の温度分布を評価する時に、磁性材料に対して少なくとも2段階の強度の光照射を行い、光照射後の磁化領域の変化を検出することにより、温度分布を評価する。
光照射は、熱アシスト記録法による光照射法を用いて良く、磁性材料は、磁気記録媒体の磁気記録層であって良く、また、磁気記録媒体は固定磁気記録に用いられる磁気記録媒体であって良い。
また、磁化領域の変化を固定磁気記録用磁気ヘッドの信号出力の変化により検出することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料に光照射を行なった後の温度分布を評価する方法に関し、より詳細には、ハードディスクドライブの熱アシスト記録法における光照射後の温度分布を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱アシスト記録は、磁気記録媒体の表面に光を照射し、磁気記録媒体の光吸収による加熱を利用して、磁気記録層の保持力Hcを低下させ、磁気ヘッドによる書込みを支援(アシスト)することでより高い記録密度での磁気記録を可能とする技術である(例えば、特許文献1、2等を参照。)。従って、熱アシスト記録においては、磁気記録媒体の磁気記録層をどの程度加熱するかの制御が、適切なデータ書込みを実現するために重要になる。
【0003】
しかしながら、照射する光のスポットサイズが小さいこと、および光の照射時間が短いことから加熱された磁性材料の温度分布を検出することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−210447号公報
【特許文献2】特開2010−129163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱アシスト記録においては、磁気記録媒体の磁気記録層をどの程度加熱するかの制御が、適切なデータ書込みを実現するために重要になる。
しかし高い記録密度を得るためには、加熱用の光源に近接場光などを用いて、記録を行うビットサイズと同程度の大きさである100nmレベルを下回る大きさまで加熱スポット径を小さくする必要がある。またハードディスク装置では磁気記録媒体は高速で回転してデータ記録を行なっている。これらの結果として加熱領域は非常に微小でかつ温度上昇の時間はごく瞬間的なものとなる。
【0006】
このような微小領域でかつ瞬間的な温度上昇のプロファイルを十分な精度で測定する手法は従来存在しなかった。
熱アシスト記録では、回転する磁気記録媒体の表面に光照射を行って磁気記録層を加熱し、加熱により保磁力が低下した部分に磁気ヘッドからの磁場を印加することで記録を行う。
【0007】
磁気記録媒体表面の光照射された部分では、光吸収によるエネルギー利得による温度上昇要因と、光照射範囲から外れた周囲の低温部への熱拡散による温度低下要因が存在し、両者のバランスの拮抗によって実際の温度は定まる。前者は磁気記録媒体の屈折率等の光学的物性、後者は熱伝導率や比熱等の熱学的物性が主な支配要因となり、光源側の条件が同じであっても、磁気記録媒体の層構成が異なることから磁気記録媒体内部の温度分布は異なることになる。
【0008】
熱アシスト記録においては、ヘッドの印加する磁場で磁気データの書き込みが可能な温度以上に磁気記録層の温度を昇温すること、かつ書き込まれた磁気データが磁気記録層が冷却されるまでの間に熱揺らぎによって劣化しないことが要請される。従って、書き込み時の磁気記録媒体温度を精密に制御する必要があり、加熱時の実温度を評価することが重要となる。また温度勾配によって、書き込み領域の境界の揺らぎの程度が変化する。境界の揺らぎは書き込みデータの検出信号に対してノイズ要因となるが、検出信号とノイズの比率によって記録可能な記録密度が決まることから、熱アシスト記録媒体の特性を評価する上で加熱時の温度勾配を知ることは非常に重要である。
【0009】
熱アシスト記録において想定される記録密度においては、記録ビット形成のための加熱箇所は100nmを下回るような、ごくごく微小なスポットである。またハードディスクドライブにおいて、磁気記録媒体は高速で回転しており、このため実際の熱アシスト記録時の温度上昇プロファイルはナノ秒を下回るようなごく短時間での温度上昇・下降をするものとなる。
【0010】
これに対し通常の分析的手法において用いられる光学的手法では分析分解能は検査光波長程度が限界となる。さらに通常の光学的分析では、試験光を照射する時間によって得られるシグナルのS/N比が決まり、対象とする現象の時間スケールが短くなるにつれて評価の精度は照射時間に対応して悪化する。
【0011】
このため実測により磁気記録媒体の表面温度を測定することは非常に困難な課題であり、十分な精度を得られる方法は今まで提案されていない。また加熱時の詳細な温度分布を測定するためには、さらに精度・解像度の高い評価法が必要となり、さらに困難な課題となっている。
【0012】
熱アシスト記録用媒体の記録特性を総括的に評価すれば良い場合は、上述の熱アシスト記録時の加熱スポット径は、必ずしもビットサイズ程度まで絞り込まなければならないとは限らない。この場合は一般に用いられるレーザー光で実現可能な1μm程度のスポット径も使用できる。しかしながら、このサイズのスポット径であっても、やはり従来の評価法で十分な精度の温度上昇プロファイルを求めることは極めて困難な課題であり、未だ実現されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、磁性材料に光照射を行なった後の温度分布を評価する方法に関して、磁性材料に対して少なくとも2段階の強度の光照射を行い、光照射後の磁化領域の変化を検出することにより、温度分布を評価することを特徴とする。
【0014】
光照射は、熱アシスト記録法による光照射法を用いることができる。
また、磁性材料は、磁気記録媒体の磁気記録層であって良く、また、磁気記録媒体は固定磁気記録に用いられる磁気記録媒体であって良い。
【0015】
また、磁化領域の変化を固定磁気記録用磁気ヘッドの信号出力の変化により検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁性材料の温度自体を直接測定するかわりに、磁性材料の磁化状態を測定することにより、高い分解能で温度分布を評価することができる。測定手段として磁気記録用の磁気ヘッドを用いれば測定精度をさらに高めることができる。本発明を熱アシスト記録に適用すれば、熱アシスト記録時の磁気記録媒体中の磁気記録層における温度分布を評価することが可能であり、その温度分布を用いて熱アシスト記録の記録特性評価を高精度で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1のレーザー光強度でレーザー光を照射後の磁性材料の温度分布を説明するためのグラフである。
【図2】レーザー光照射前の初期磁化状態分布を表す模式図である。
【図3】第1のレーザー光強度でレーザー光を照射後の磁性材料の最高到達温度の分布を説明するための平面模式図である。
【図4】第1のレーザー光強度でレーザー光を照射後の磁性材料の磁化状態を説明するための平面模式図である。
【図5】第2のレーザー光強度でレーザー光を照射後の磁性材料の温度分布を説明するためのグラフである。
【図6】第2のレーザー光強度でレーザー光を照射後の磁性材料の最高到達温度の分布を説明するための平面模式図である。
【図7】第2のレーザー光強度でレーザー光を照射後の磁性材料の磁化状態を説明するための平面模式図である。
【図8】磁気記録媒体の構成例を説明するための断面模式図である。
【図9】本発明の温度分布評価方法の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、温度を検知するために、既知のキュリー温度(Tc)を持つ強磁性材料を用いて、温度変化による磁性材料の磁化状態の変化を評価する。磁化状態変化の観察に磁気ヘッドを用いれば測定精度がさらに向上する。
【0019】
また、熱伝導方程式のスケーリング特性を考慮すると、照射レーザーの出力を微小に変化させた場合、熱分布は出力差に比例して相似に変化する点に注目し、温度勾配を定量的に高分解能で評価する方法である。
【0020】
通常の光学的手法等によって温度自体を直接測定する方法に比較して高い分解能で測定することができる。
以下に図面を使用しながら詳細に説明するが、本発明はその趣旨を越えない限り、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図8は、本願発明の適用例として用いることができる磁気記録媒体10の断面模式図で、基板1上に下地層2を介して強磁性材料からなる磁気記録層3が形成されている。保護層4は磁気記録層を保護するための層である。本適用例は磁気記録層を用いて温度を検知することで、熱アシスト記録時における磁気記録層内部の温度分布の検出を行なう例である。記磁気記録層としては、キュリー温度Tcが既知である強磁性材料を用いることが好ましいが、キュリー温度が未知の強磁性材料を基板上に成膜した後、加熱機構を備えた試料振動型磁力計などを用い、当該記録層のキュリー温度を十分な精度で測定されたものであれば、本発明の目的を達成することは可能である。
【0022】
本願発明を磁気記録媒体の熱アシスト記録の加熱実施時における磁気記録層温度分布評価に適用する場合には、加熱前初期状態として磁気記録層に一定の磁化パターンを与えた後、加熱により磁化が失われた領域の大きさを測定することで、キュリー温度到達箇所を特定する。この際、加熱時の投入熱量を一定割合増減させ、それにより磁化消失領域の変化を評価することで、磁気記録層内部における、キュリー温度到達箇所周辺での温度勾配を特定する。
【0023】
この際の磁化消失領域の検出法としては、磁気ヘッドを使用してトラック平均信号出力(Track Average Amplitude。以下、TAAと略す。)を検出する方法等が効果的である。また磁気力顕微鏡による方法も非常に効果的である。これらの検出法を用いることで、磁化消失領域幅をnm単位の分解能で評価することが可能となる。
【0024】
磁性材料の温度変化を磁化状態の評価によって高分解能に求める方法の原理をさらに詳細に説明する。
一般的な強磁性体の性質として、温度が高くなるにつれ、磁性体内部の磁気モーメント同士を揃える方向に束縛する力と、熱エネルギーによる磁気モーメントのゆらぎとが拮抗するようになる。ある温度を越えると磁気モーメント相互の向きがランダムになり、強磁性を保つことができなくなることが知られている。この強磁性を保持できる限界の温度は強磁性のキュリー温度Tcと呼ばれ、キュリー温度は物質固有の物性値であることが知られている。
【0025】
異方性を持つ孤立磁性粒子を瞬間的に加熱し、また瞬間的に冷却する状況を考える。この状況はちょうど熱アシスト記録時のレーザー光による磁気記録媒体の磁気記録層の加熱プロセスに一致する。
【0026】
加熱時の最高到達温度がTc未満の場合、温度が上昇している間、磁性体の内部での磁気モーメント同士の向きは熱揺らぎによって大きなバラつきを持つ。しかし、磁性粒子トータルとして見た時の磁気モーメントは、ランダムなバラツキが平均化されてキャンセルされることによって非常に小さくなってはいるが有限に保たれている。そして、最高到達温度から冷却されるプロセスにおいて、熱揺らぎでバラバラになっていた磁気モーメントの向きは、わずかながらに残った全体の平均的磁気モーメントとの相互作用によって、バラつきの度合いがしだいに減っていくことで磁気モーメントの向きは元の向きに向かって少しずつ回復し、冷却が完了した時点では、加熱前の向きを保ったまま、元の磁化の大きさに回復する。
【0027】
これに対し、加熱時の最高到達温度がTc以上の場合、磁気モーメント同士のばらつきは熱揺らぎによって完全にランダムとなり、相互のキャンセルによって磁性粒子トータルでは全くゼロの状態にまで至っている。この場合、冷却プロセスにおいては、温度がTcを下回った瞬間、揺らぎがたまたま向いていた方向に磁化の成長が始まり、冷却が完了した時点では、磁化の大きさは元に戻るものの、向きについては加熱前の状態に無関係に、ランダムな状態に変化していることになる。
【0028】
現行の磁気記録媒体においては、複数の孤立磁性粒子をクラスター状の束にして磁気データの最小単位である磁気ビットとして記録している。ここで磁性粒子の磁化がランダムに変化するということは、磁気ビットのクラスタートータルとしての磁化がキャンセルされてゼロになることに相当する。垂直記録磁気記録媒体において磁気記録実施時の記録ビットは、記録ビット中の磁気モーメントが磁気記録媒体表面側を向いて揃っている「プラス」の状態と、逆に媒体ディスク基板側を向いて揃っている「マイナス」の状態のいずれかを取っており、「ゼロ」とは厳密に区別される。これらの状態の違いは、磁気ヘッドに備えられた再生素子によって磁気記録媒体からもれ出る磁場を検出することで容易に検出することができる。磁気ヘッドによる磁化状態の検出法として有効な方法の例としては、例えば一定周期のパターンからなる信号で磁気記録を実施した後、再生ヘッドによる漏れ磁場測定によって得られた再生信号パターン中の記録周期と一致する成分のTAAを求める方法がある。上記再生信号の平均振幅は磁気記録層の磁化の大きさに比例し、磁気ビットの単位から見て磁化がゼロになっていれば、信号振幅もゼロになる。より正確にいえば、信号起因の成分はゼロになり、検出系・回路系起因のノイズのみが観測される。
【0029】
このときの磁化パターン測定の分解能は、磁気ヘッドの位置決め制御の分解能のレベルとなる。現行のハードディスクドライブ、あるいは磁気記録媒体の特性を評価するための記録再生評価装置における磁気ヘッドの位置決め機構は、磁気ビットの位置ズレが記録精度に悪影響を与えるため、磁気ビット自体の分解能よりもはるかに高くなるように、nm単位での位置制御ができるように設計されており、これを上記の磁気記録媒体磁化状態検出法に用いることによって、磁化状態を数nm程度の分解能で検出することが可能である。
また上記方法と同等の分解能を実現し得る磁化パターン測定法として、磁気力顕微鏡による方法がある。磁気力顕微鏡は走査型顕微鏡の一種であり、観察プローブの位置制御を行う高精度のピエゾ素子により、数nm程度の分解能を実現することが可能である。
【0030】
上記方法によって得られた磁化パターン測定の結果、磁化がゼロになっている領域と、有限の磁化が残っている領域の境界点が、ちょうど加熱の結果磁気記録層の温度がキュリー温度に達した点とみなすことができ、上記評価法の分解能から、このキュリー温度到達点の位置を数nm程度の分解能で得られることがわかる。
【0031】
次に、光照射後の温度勾配を定量的に算出する方法について説明する。適用例として磁気記録媒体を用いて具体的に説明する。
レーザー光の強度をさらに強めた状態で照射すると、加熱温度が加熱領域全体にわたって上昇するため、Tcを越える領域がより広くなる。このときの消磁領域の増加幅は磁気ヘッドによってnm単位での検出が可能である。
【0032】
ここで、上述の二種類のレーザー光強度の差がごく小さい場合について考える。物質中の熱伝導現象は以下の熱伝導方程式によって定義されることが知られている。
Cv・dT/dt = λΔT
ここで、Cvは物質の比熱、Tは温度、tは時間、λは物質の熱伝導率である。CvとλがTに依存しない定数として扱える場合、この方程式は例えばT=2T1と置いた時も
Cv・d2T1/dt = λΔ2T1
Cv・dT1/dt = λΔT1
と同型になることが知られており、これは物質の熱伝導率と比熱が変化しない条件下であれば、熱流と温度にスケーリングの関係が成り立つことを示している。つまり、熱流の分布が相似で単純に大きさが2倍になったとした時、物質の温度変化の大きさも分布を相似に保ったまま単純に2倍になるとみなすことができる、ということである。一般には物質の熱伝導率と比熱は温度の関数となっており、この関係は成り立たない。ただし、熱流の分布の変化がごく小さい場合、例えば+10%程度であれば、物質の熱伝導率と比熱の変化はごく小さいため、ほぼ変化していないとみなす事ができる。この場合、温度分布の変化率は熱流の変化率に等しいとみなせる。つまり熱流の変化が+10%であれば、熱分布の変化も+10%であるとみなすことができる。例えば、熱アシスト記録においては、レーザー強度を+10%とすることで、分布形状を保ったまま温度上昇を全体的に+10%変化させられることを意味している。
【0033】
ここで、室温300Kの状態で、Tc=600Kの磁気記録層を持つ磁気記録媒体に対し、磁気記録媒体を一定速度で回転させつつ、レーザー光を表面に照射する状況を考える。レーザー光の強度は照射トラックの中心でTcを越える程度の第1の強度とする。具体例として図1にこのときのトラック位置に対する最高到達温度の分布(材料温度−1)を示した。
【0034】
ここで磁気記録層には図2に示す初期磁化状態分布を与えていたとする。図2において、横軸は磁気記録媒体のトラックに直交する方向(クロストラック方向)での位置を表し、縦軸はビット方向、即ちトラック方向の位置を表す。レーザー光照射によって実現される磁気記録層の最高到達温度は図3に示される分布となる。図3中の右下枠内の数値は絶対温度で表示した温度範囲を表している。Tcである600Kを越える温度まで到達している領域では、照射の結果、磁化がゼロになることから、照射後の磁気記録層磁化分布は図4の通りとなる。この磁化分布の形状は、磁気ヘッドによる測定でnm単位の精度で求めることができる。
【0035】
これに対し、照射するレーザー光の強度を+10%増加した第2の強度とした場合を考える。上述の熱伝導方程式のスケーリング則の関係から、温度分布は室温からの上昇分を+10%した形となり、図5のように与えられる(材料温度−2)。Tcを越える範囲の幅は第1の強度の時よりも広がり、ここでは仮に700nmとなったとする。温度分布は図6のようになる。図6で枠内の数値は温度範囲を表す。この条件で、図1の初期磁化状態に同様にレーザー光加熱を行うと、図7のような磁化状態が実現する。
【0036】
ここで、図7の状態において消磁領域境界となっている箇所は、第1のレーザー強度条件時には、(600−300)/(1.1)+300≒573Kに加熱されていた箇所であることが、スケーリング則の関係から導き出すことができる。
【0037】
第1のレーザー強度条件では、トラック中心から300nmの位置が消磁領域境界、つまり600Kに加熱されている位置であり、そこから50nm外側の位置が573Kに加熱されている位置であったことが上の測定から新たに判明した。両者の結果を比較すると、最初のレーザー強度条件時における消磁領域境界周辺での温度勾配は、(600−573)/50=0.54K/nmである、ということが導き出される。
【0038】
このように、まず媒体の磁性層のTcを別途評価したのち、媒体に何らかの初期磁化を行い、消磁が発生するような強度でレーザー光を照射し、消磁領域の幅を測定、ついで強度を微小に変化させ、再び消磁領域の幅を測定、両条件での消磁領域の幅の差を導出、また強度差から消磁境界位置での加熱温度の差を導出、両者の比を取る、という方法で、熱アシスト記録時、もしくは熱アシスト記録特性評価時の、レーザー加熱時消磁領域境界周辺での温度勾配を実験的に高い精度で求めることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の評価方法を実施例を用いてさらに具体的に説明する。本実施例は、磁性材料として磁気記録媒体を用いて熱アシスト記録を行なう場合を例にとっている。図9は温度分布評価方法を説明するためのフローチャートである。
【0040】
まずステップ1で磁気記録媒体10を作製する。磁気記録媒体としては、例えば図8に示す構成の磁気記録媒体を作製する。基板1としては直径2.5インチのガラス基板等を用いることができる。続いて基板上に下地層2を形成する。下地層は単層、積層のいずれでも良い。2層構成としては、例えば、CoFe合金をDCマグネトロンスパッタ法で成膜して軟磁性裏打ち層とし、その上に磁気記録層の結晶成長制御のためにRuをDCマグネトロンスパッタ法で成膜して積層下地層2を形成する。引き続き、磁気記録層3を成膜する。磁気記録層としては慣用の構成を用いることができる。例えばCoCrPt合金をDCマグネトロンスパッタ法で成膜してキュリー温度が700Kの磁気記録層とする。その上に慣用の保護層、例えばダイヤモンドライクカーボンを化学気相成長法で成膜することで保護層4を形成する。
【0041】
次にステップ2で、磁気マーク領域を作製する。上記磁気記録媒体に対し、加熱前初期磁化状態として、磁気ヘッドにより所望の線記録密度で円周状に第1磁気マーク群を形成する。線記録密度は例えば500kFCIとする。次いで第1磁気マーク群から基板の半径方向に磁気ヘッドを移動させたのち、同記録密度で第2磁気マーク群を形成する。この操作を順次繰り返し、後に照射する熱アシスト用レーザー光のスポット径よりも十分広い幅に磁気マーク領域を形成する。なお上記の手順において磁気マーク間には有限の隙間が残るが、同時に磁気ヘッドは有限の記録幅を持つことから、磁気マーク群の形成時の間隔を磁気ヘッドの記録幅と同程度にすることで、ほぼ隙間のない磁気マーク領域を形成することが可能である。例えば記録幅100nmのヘッドを用い、各磁気マーク間を100nmの間隔とし、この操作を100回繰り返し、幅10μm分の磁気マークエリアを形成する。上記の記録条件は本発明の目的を実現しうる範囲で任意に選ぶことが可能である。
【0042】
次にステップ3のレーザー加熱による磁気マークの消磁を行なう。熱アシスト記録で行うように、ディスクを回転させた状態で磁気記録媒体表面に強いレーザー光を照射する。レーザー光スポット径としては例えば5μmとする。レーザー光の波長は例えば830nm等の一般に入手可能な赤色レーザー素子を光源として用いることができる。第1のレーザー光強度としては例えば照射強度140mWで照射を行う。照射箇所は上記の幅10μm分の磁気マークエリアの中心とし、照射時間は照射開始から終了までに磁気記録媒体が一回分回転する時間とする。磁気記録媒体の回転速度を1000rpmとする場合は、照射時間は一回転分にあたる60msecとする。周囲環境の気温は任意であるが、室温(例えば295K(22℃))とすることが好ましい。
【0043】
次いでステップ4の磁気ヘッドによる消磁領域の観察を行う。磁気ヘッドによりレーザー光加熱で磁気マークが消磁された領域の範囲を評価する。記録周期が500kFCIの場合は、これに相当する周期における信号振幅の1トラック分のTAAを基準とし、予め測定しておいたレーザー加熱前のTAAの値と比較し、例えば0.1倍以下にTAAが減少していた領域を消磁領域とする。
【0044】
次いでステップ5として、レーザー光の照射強度を第2の強度に変更してステップ2〜ステップ4の操作を再度実施する。例えばレーザー光の照射強度を154Wと、10%高くした条件で加熱を行い、同様の方法で消磁領域の幅を測定する。
【0045】
次にステップ6として、第1のレーザー光強度と第2のレーザー光強度の両者間で消磁領域の幅の比較を行い、その結果から本評価時における磁気記録層内部での温度分布を求める。
【0046】
第1のレーザー光強度で得られた消磁領域の幅が3.6μm、第2のレーザー光強度で得られた消磁領域の幅が4.0μmであれば、照射中心からの距離で比較すると、第1のレーザー光強度と比較して第2のレーザー光強度では消磁境界の位置が0.2μm分、照射中心から外側に移動していることが容易にわかる。第2のレーザー光強度で消磁境界となった箇所は、第1のレーザー光強度においては、295+{(700−295)/1.1}≒663Kに到達していることがわかる。
【0047】
従って、上記磁気記録媒体に第1のレーザー光強度での加熱を行った時には、消磁境界である照射中心から1.8μmにあたる箇所周辺での温度勾配は、(700−663)/0.2=185 K/μmであることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
1 基板
2 下地層
3 磁気記録層
4 保護層
10 磁気記録媒体
21 ステップ1
22 ステップ2
23 ステップ3
24 ステップ4
25 ステップ5
26 ステップ6


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料に光照射を行なった後の温度分布を評価する方法において、前記磁性材料に対して少なくとも2段階の強度の光照射を行い、光照射後の磁化領域の変化を検出することにより、温度分布を評価することを特徴とする温度分布評価方法。
【請求項2】
前記磁化領域の変化の検出は、前記磁化領域の境界の位置の変化の検出であることを特徴とする請求項1に記載の温度分布評価方法。
【請求項3】
前記光照射は、熱アシスト記録法による光照射であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の温度分布評価方法。
【請求項4】
前記磁性材料は、磁気記録媒体の磁気記録層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の温度分布評価方法。
【請求項5】
前記磁気記録媒体は固定磁気記録に用いられる磁気記録媒体であることを特徴とする請求項4に記載の温度分布評価方法。
【請求項6】
前記磁化領域の変化を固定磁気記録用磁気ヘッドの信号出力の変化により検出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の温度分布評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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