説明

磁性材料の製造方法

【課題】制御の容易な簡素なプロセスによって粒径の揃ったナノレベルのマグネタイト微粒子を製造すること。
【解決手段】本発明によって提供されるマグネタイト微粒子を主体とする磁性材料の製造方法は、沸点200℃以上である脂肪族アミンの液体中に、鉄(III)アセチルアセトナート錯体を添加して原料溶液を調製する工程と、前記原料溶液を加熱し、該溶液中に酸化鉄の粒子核を生成する工程と、前記生成した粒子核を含む溶液を更に加熱し、前記粒子核を成長させて所望する大きさの酸化鉄微粒子を形成する工程と、前記酸化鉄微粒子を回収する工程とを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料の製造に関し、特に、ナノサイズのマグネタイト(四酸化三鉄)微粒子を主体とする磁性材料の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAM(Magnetic Random Access Memory)等の磁気記録媒体、その他のマイクロ磁気デバイスを高性能化するための一手段として、それら電子部品を構成する磁性材料の微細化が挙げられる。強磁性体はその質量が同じ場合、磁性体を構成する粒子サイズを小さくすることによってノイズを低下させ、磁気記録密度をより高くすることが可能となる。このような用途に適する材料として、例えば、強磁性体である四酸化三鉄(Fe:マグネタイト)の微粒子を主体とする磁性材料が挙げられる。
かかるマグネタイト微粒子を適当な溶媒中に均一に分散して成る磁性材料は、外部磁場により制御可能であり、磁気機能性流体(磁性流体、磁気レオロジー流体等ともいわれる)として利用され得る。また、かかる磁性流体は、磁気によって分離され得る薬剤送達のための担体としての利用も検討されている。
【0003】
従来、磁性材料となり得るマグネタイトその他の酸化鉄微粒子(フェライト微粒子)は、鉄イオンを含む水溶液にアルカリを添加することによるいわゆる共沈法が主流であった(非特許文献1,2)。しかし、かかる従来の共沈法で得られる酸化鉄微粒子は粒径が比較的大きく且つ不揃いであるため、外部磁場により制御を行う磁気機能性流体等に使用する微粒子材料としては好ましくない。
また、最近では、生成される微粒子の高品質化を目指して種々の製造方法が提案されている(特許文献1〜3、非特許文献3)。しかし、これらの方法は、鉄(イオン)供給源の他に多種の試薬類(還元剤、界面活性剤、有機溶媒、等)を使用し、また処理工程も煩雑であるためコスト高や低生産性の要因となり得る。
【0004】
【特許文献1】特開2000−54012号公報
【特許文献2】特開2003−239006号公報
【特許文献3】特開2005−175289号公報
【非特許文献1】日本化学会編「コロイド化学I.基礎および分散・吸着」第1版(東京化学同人)、1995年、p.155
【非特許文献2】日本応用磁気学会誌、2003年、第27巻6号、p.721−729
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.、2004年、第126巻、p.14583−14599
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上述した課題を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、使用原料の種類が少なく、且つ、制御の容易な簡素なプロセスによって粒径の揃ったナノレベルの四酸化三鉄(Fe:マグネタイト)微粒子を製造することであり、そのための製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、そのような製造方法により製造した粒径の揃ったナノレベルの四三酸化鉄(Fe:マグネタイト)微粒子(即ちナノ粒子)を提供し、さらに該微粒子から構成される磁性材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明によりマグネタイト(四酸化三鉄、即ちFeをいう。以下同じ。)微粒子を主体とする磁性材料を製造する方法が提供される。
本発明に係る製造方法は、沸点200℃以上である脂肪族アミンの液体中に、鉄(III)アセチルアセトナート錯体を添加して原料溶液を調製する工程、上記原料溶液を加熱し、該溶液中に酸化鉄の粒子核を生成する工程、上記生成した粒子核を含む溶液を更に加熱し、上記粒子核を成長させて所望する大きさの酸化鉄微粒子を形成する工程、および、上記酸化鉄微粒子を回収する工程を包含する。
なお、本明細書において「マグネタイト微粒子を主体とする磁性材料」とは、当該磁性材料(磁性組成物)中に含まれる酸化鉄微粒子(群)がマグネタイト(Fe)を主体に構成される磁性材料をいう。従って、マグネタイト含有量が酸化鉄全体の50質量%を上回るものはここでいう「マグネタイト微粒子を主体とする磁性材料」に包含され得るが、マグネタイト以外の酸化鉄(例えばFeやFeO)含有量が僅かである(例えば酸化物全体の20質量%以下、好ましくは10質量%以下)マグネタイト主体の酸化鉄微粒子を主体とする磁性材料(磁性組成物)が本願における「マグネタイト微粒子から成る磁性材料」の典型例である。
【0007】
かかる構成の製造方法では、上記脂肪族アミンと鉄(III)アセチルアセトナート錯体(Fe(acac))との組み合わせで原料溶液を調製することができる。即ち、原料溶液調製において他の薬剤(化合物)、例えば有機溶媒、錯化剤、界面活性剤を別途使用する必要がない。このため、本発明の製造方法によると、製造工程の簡素化、特に原料溶液の調製プロセスが簡便となり、さらに原料溶液調製に要するコストの低減を実現しつつ目的のマグネタイト微粒子を容易に製造することができる。
【0008】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記脂肪族アミンとして、沸点200℃以上(より好ましくは沸点300℃以上)であるモノアルキル1級アミン(例えばオレイルアミン、ラウリルアミン)を使用する。かかる構成によると、当該アミンと鉄(III)アセチルアセトナート錯体との複合体形成(錯形成)が容易であり、効率よく上記粒子核を生成することができる。
【0009】
また、ここで開示される製造方法の他の好ましい一態様では、上記粒子核生成工程において、前記原料溶液を150℃以上200℃以下の温度域まで加熱し、該温度域(即ち粒子核生成温度域)で所定時間保持することによって上記粒子核を生成する。かかる構成によると、粒子核の生成を促す一方で、生成した粒子核についての粒成長は抑制することができる。このため、原料溶液中の粒子密度を増大させることができる。
次いで好ましくは、上記酸化鉄微粒子形成工程において、上記生成した粒子核を含む溶液を上記粒子核生成温度域を上回り且つ300℃未満で設定される粒子成長のための温度域(即ち粒子成長温度域)まで加熱し、該温度域で所定時間保持する。このことによって、上記高密度に生成した粒子核を比較的短時間に成長させ、均等な粒径(即ち粒径分布の狭い)の微粒子を製造することができる。
【0010】
ここで開示される製造方法として好ましい他の一態様では、上記原料溶液中の上記錯体のモル濃度を0.3〜0.5mol/Lに設定する。かかる濃度範囲に設定することによって、特に平均粒径が10nm以下、特に平均粒径:5nm〜10nm程度の酸化鉄微粒子を製造することが容易となる。従って、ここで開示される製造方法として特に好ましい態様では、上記酸化鉄微粒子形成工程において形成される酸化鉄微粒子の平均粒子サイズは10nm以下である。
【0011】
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造されたマグネタイト微粒子を主体とする磁性材料を提供する。かかる磁性材料の好ましい一態様として、マグネタイト微粒子が液状媒体に分散して成る磁性材料(磁性流体、或いはインク又はペースト状磁性組成物)が挙げられる。
また、本発明は、他の側面として、上述した原料溶液を調製する工程と、粒子核生成工程と、酸化鉄微粒子形成工程とを包含するマグネタイト微粒子の製造方法を提供する。本発明により得られるマグネタイト微粒子(マグネタイト微粒子から成る粉体材料)は磁性材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、錯体やアミン)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、原料溶液の調製方法や加熱方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここで開示される磁性材料製造方法は、上述のとおり、酸化鉄微粒子(マグネタイト微粒子が主体である)を製造するための原料溶液が、沸点200℃以上である脂肪族アミンと、鉄(III)アセチルアセトナート錯体とで構成されればよく、その他の成分は必須ではなく、無くてもよい。
【0013】
本発明の実施に好適なアミンとしては、沸点が200℃以上、好適には300℃以上であり、且つ、室温域(25〜35℃程度、例えば30℃)または室温よりもやや高い温度条件(好ましくは40〜60℃程度、例えば50℃)で液状であるものが、取り扱いが容易であるため好ましい。この種の脂肪族アミンとしては、C数が10〜20程度(例えばC数が12〜18)であるアルキル鎖を有するアミンが好ましく、モノアルキル1級アミンが好ましい。例えば、ラウリルアミン、オレイルアミンが好適例として挙げられる。特に沸点が高いオレイルアミンの使用が好ましい。なお、本発明の実施にあたって使用するアミン(液媒)は、1種のアミン化合物から成る純粋品である必要はなく、何種類かのアミン化合物の混合品であってもよい。例えば市販されるアミン製品であって、上記目的に適うもの、例えば室温域或いは60℃以下の温度で液状であるようなラウリルアミン、オレイルアミン等のモノアルキル1級アミンを主成分とする混合アミン液を好適に使用することができる。
本発明の製造方法では、上記のような脂肪族アミンを錯化剤、界面活性剤、さらには溶媒として機能させることができる。従って、本発明では、これら薬剤や溶媒を別途混合する必要がないため、原料溶液の調製が容易であると共に試薬類の使用を削減して製造コストの低減を実現することができる。
【0014】
本発明では、原料溶液を上記のような適切なアミンと共に構成する錯体として、鉄(III)アセチルアセトナート錯体(Fe(acac))を用いる。かかる錯体は、オレイルアミン等の脂肪族アミンと錯形成し、容易に可溶化する。このため、高濃度に鉄イオン(錯体)を含む原料溶液を容易に調製することができる。また、かかる錯体のアミン溶液では、オレイルアミン等の脂肪族アミンが界面活性剤として機能し、生成された粒子核同士の融合が生じ難い。具体的には、アミン中のアミノ基が溶液中で生じた酸化鉄表面に吸着すると当該アミン中のアルキル鎖による立体障害が生じて粒子相互の融合を抑制することができる。このため、原料溶液(アミン溶液)中で粒径の揃った酸化鉄微粒子を高濃度に製造することができる。
【0015】
次に、原料溶液の調製について詳細に説明する。本発明の実施にあたっては、上述した沸点200℃以上(好適には300℃以上)の脂肪族アミンからなる液(室温で固体のものは融点以上となるように加熱するとよい)に、典型的には粉末状態である鉄(III)アセチルアセトナート錯体を添加し、混合する(可溶化する)ことのみによって原料溶液を極めて容易に調製することができる。
なお、特に必要はないが、上記2成分(脂肪族アミン+鉄(III)アセチルアセトナート錯体)のみから成る原料溶液に種々の任意的成分を含ませることができる。例えば、適当量の有機溶媒(例えば沸点200℃以上の鎖状炭化水素(1−オクタデセン、ヘキサデカン等)あるいは環状炭化水素(ジフェニルエーテル等)類)を添加してもよい。
【0016】
原料溶液を調製する際、アミン液中の鉄(III)アセチルアセトナート錯体のモル濃度(中心金属イオンたる鉄イオンのモル濃度)を0.5mol/L以下とすることが好ましい。このことによって粒径(サイズ)の揃った酸化鉄微粒子(ナノ粒子)を製造することができる。特に、0.3〜0.5mol/Lとなるように当該錯体のアミンへの添加量を調節することが好ましい。かかるモル濃度範囲に設定することによって平均粒径が10nm以下、特に平均粒径が5nm〜10nm程度の粒径(サイズ)の揃った酸化鉄微粒子を容易に効率よく量産することができる。
本明細書において酸化鉄(又はマグネタイト)微粒子(群)に関する「平均粒径」は、当該微粒子が分散してなる組成物を調製後、該組成物をTEM(透過型電子顕微鏡)観察用のグリッド基板上に希薄に分散・担持してTEMによる観察を行うことによって測定・算出した平均粒径と規定することができる。即ち、酸化鉄微粒子と有機溶媒で電子線に対する透過率が異なるため、TEM観察像中で酸化鉄微粒子を識別できる。具体的には、得られた酸化鉄(マグネタイト)微粒子および有機溶媒の面積分布を画像解析により求める。ここで酸化鉄(マグネタイト)微粒子の断面を円形と近似してその面積から当該微粒子の粒径を算出する。次いで算出された粒径分布を所定のサイズ間隔で区切ったヒストグラムで表すとともに、当該得られたヒストグラムの各カラムにおいてその中心値と度数の積を求める。而して各カラムの積の和を度数の総和で除したものを平均粒径とすることができる。その他、動的光散乱法等に基づいて粒径分布および平均粒径を求めることができる。
【0017】
原料溶液を調製後、酸化鉄(マグネタイト)の粒子核を生成させるために原料溶液を加熱する。典型的には、核生成が効率よく行われる150℃以上200℃以下(好ましくは180〜200℃)まで加熱する。次いで、当該温度域で所定時間(典型的には10分〜60分、例えば20〜30分)保持する。これにより、粒子核(種粒子)の形成を促す一方、生成した粒子核の意図しない成長を抑えることができる。即ち、多数の均一的なサイズ(例えば上記TEM観察に基づく粒径算出での平均粒径が5nm以下、例えば2nm〜4nm)の粒子核を原料溶液中に生成することができる。
なお、かかる粒子核生成工程及び酸化鉄微粒子形成工程において、大気中で原料溶液を加熱してもよいが、不活性ガス雰囲気(例えばアルゴンガス等の希ガス或いは窒素ガス雰囲気)中で原料溶液を加熱することが好ましい。例えば、原料溶液を撹拌又は振動させつつAr、N等の不活性ガスを供給して容器内のガス置換を行うとよい。これにより、マグネタイト微粒子を高効率に形成することができる。また、加熱される際の有機溶媒の引火・発火を確実に防止するという観点からも不活性ガスの使用が好ましい。
【0018】
吸湿した原料物質(粉末状錯体原料)の使用等に起因して原料溶液中に水分が含まれる場合があるため、好ましくは、原料溶液を調製した際の室温域(又は60℃程度までのやや高い温度域)から110〜150℃(例えば130℃付近)程度の中間温度域まで加熱した後、暫くの時間(特に限定しないが1時間以下が適当であり、例えば10分〜60分程度が適当である。)原料溶液を攪拌しつつ当該中間温度域に保持する。このことによって、粒子核生成反応を阻害する要因となり得る原料溶液中の水分や溶存酸素を除去することができる。所定時間経過後、上記中間温度域から上記粒子核生成温度域まで加熱するとよい。
【0019】
所定時間後、上記粒子核生成温度域からさらに加熱し、粒子成長温度域(300℃未満)まで昇温する。この場合、緩慢とした昇温ペース(典型的には1〜5℃/1分、例えば1〜2℃/1分)で加熱することが好ましい。次いで、当該温度域で所定時間(特に限定しないが典型的には60分〜180分、例えば90〜120分)保持する。これにより、上記粒子核生成工程において生成した粒子核(種粒子)を成長させ、所望するサイズ(例えば上記TEM観察に基づく粒径算出での粒径が10nm以下、例えば5nm〜10nm)のマグネタイトを主体とする酸化鉄微粒子を製造することができる。
【0020】
酸化鉄微粒子の製造後(反応終了後)、反応液(原料溶液)を室温域まで速やかに冷却(典型的には空冷)する。次いで、好ましくは適当な有機溶媒中に、上記得られた微粒子を回収し、貯蔵する。具体的には、エタノール、プロパノール等の低級アルコールのような極性溶媒を処理溶液に添加して酸化鉄微粒子を沈殿させ、遠心分離により粒子のみを分離・抽出する。こうして得られた微粒子(磁性粉末)をヘキサン、オクタンのようなアルカン(鎖式飽和炭化水素)、或いはトルエンのような芳香族炭化水素、等の無極性有機溶媒中に酸化鉄微粒子(マグネタイトを主体とする磁性ナノ粒子)再分散させるとよい。このような分散液(磁性流体)は、磁気記録媒体その他、種々の磁気デバイス構築用材料(磁性材料)として利用することができる。
【0021】
以下、本発明の好適ないくつかの実施例を説明するが、ここに開示した発明の技術的範囲をこれら実施例として記載したものに限定することを意図したものではない。なお、以下に説明する実施例には、次の試薬類を使用した。
(1)鉄(III)アセチルアセトナート錯体(Fe(acac)3:純度98%)
(2)オレイルアミン(C14〜C20のアルキルアミン混合物中の純度70〜80mol%の市販品)
【0022】
<実施例1>
錯体のモル濃度が0.5mol/Lとなるように、20mmolに相当する量のFe(acac)3と40mLの上記オレイルアミンとを反応容器(マントルヒーター付き300mL容フラスコ)に充填した。その後、スターラー(撹拌子)を用いて原料溶液をよく撹拌しながらフラスコ内に不活性ガスとしてArガスを流してガス置換した。その後、試薬が吸湿している水分を除去するために、撹拌しながら130℃まで徐々に温度を上げ、130℃で30分程度の予備加熱を行った。
30分間の予備加熱終了後、原料溶液を粒子核生成温度域(ここでは180〜200℃)まで還流・加熱した。そして、当該粒子核生成温度域にて20〜30分間保持した。これにより、多数の微小な酸化鉄から成る粒子核が溶液内に生成されたことが確認された。
【0023】
次いで、反応溶液(原料溶液)の温度を粒子成長温度(ここでは270℃)まで高めた。昇温速度は1〜2℃/1分とした。そして、当該粒子成長温度域にて120分間保持した。これにより、上記粒子核(種粒子)を成長させた。
反応終了後、加熱器であるマントルヒーターをフラスコから取り外し、反応容器を室温まで空冷して粒子成長を終了させた。
室温まで冷却後、反応溶液を遠心分離用小型容器(50mL容積の遠沈管)に小分けして入れ、それらにエタノール等の極性溶媒(ここではエタノールと2−プロパノールの容積比1:1の混合液)を加え、酸化鉄微粒子(ナノ粒子)を凝集させた。本実施例では反応溶液10mLに対して極性溶媒を30〜40mL程度加えた。その後、遠沈管を遠心機にセットし、5000〜8000rpmで30〜60分程度遠心分離を行った。
遠心分離後、遠沈管の底あるいは側壁に黒く沈殿した粒子が認められた。遠沈管から透明がかった上澄み液のみを全て捨て、次いで、ヘキサンを遠沈管に加えて粒子を再分散させた後に、再び極性溶媒(エタノールとメタノールの混合液)を上記と同様の要領で加えて微粒子を沈殿させ、再び遠心分離を行った。このような遠心(精製)工程を2〜3回繰り返した。これにより、未反応原料物質、副生成物、余剰のオレイルアミン等を取り除くことができた。最終的に、所定量のヘキサンに酸化鉄微粒子を再分散させた。
【0024】
こうして得られた酸化鉄微粒子をTEMで観察した。即ち、上記ヘキサンに微粒子を分散させた懸濁液をピペットで少量とり、TEM用のグリッド上に滴下し乾燥させた。これにより、溶媒のみが蒸発し、酸化鉄微粒子はグリッド上に担持された。このようにして作製した試料を200kVの加速電圧を有する市販のTEM(株式会社日立製作所製品「HF−2000」)を用いて観察した。そのときの顕微鏡写真を図1の(a)に示す。また、上述したTEM観察に基づく粒径算出法に基づいて得られた粒径分布のヒストグラムを図1の(b)に示す。縦軸は粒径別の粒子数(N)の分布(頻度)で一目盛りは60である。横軸は粒径(nm)である。
図1の(a)と(b)から明らかなように、本実施例において得られた酸化鉄微粒子はほぼ均等な粒径であり、その平均粒径(d)は9.5nm(標準偏差σ=21%)であった。また、回収した酸化鉄微粒子の結晶構造を一般的なX線回折装置によって解析した。結果(チャート)を図2に示す。その結果、同定されたピーク位置とFeのピーク位置が一致した。この結果、得られた酸化鉄微粒子はマグネタイト微粒子であることが確認された。
【0025】
<実施例2>
粒子成長温度を270℃から240℃に変更した以外は、実施例1と同様の材料と手順により処理して酸化鉄微粒子を製造した。得られた微粒子のTEM写真を図3の(a)に示す。また、上述したTEM観察に基づく粒径算出法に基づいて得られた粒径分布のヒストグラムを図3の(b)に示す。縦軸は粒径別の粒子数(N)の分布(頻度)で一目盛りは50である。横軸は粒径(nm)である。本図から明らかなように、本実施例において得られた酸化鉄微粒子についても、実施例1と同様、ほぼ均等な粒径であり、その平均粒径(d)は7.8nm(標準偏差σ=26%)であった。
【0026】
<実施例3>
粒子成長温度を210℃に設定した以外は、実施例1と同様の材料と手順により処理して酸化鉄微粒子を製造した。得られた微粒子のTEM写真を図4の(a)に示す。また、上述したTEM観察に基づく粒径算出法に基づいて得られた粒径分布のヒストグラムを図4の(b)に示す。縦軸は粒径別の粒子数(N)の分布(頻度)で一目盛りは30である。横軸は粒径(nm)である。本図から明らかなように、本実施例において得られた酸化鉄微粒子についても、実施例1と同様、ほぼ均等な粒径であり、その平均粒径(d)は7.1nm(標準偏差σ=27%)であった。
【0027】
<実施例4>
使用する反応溶液中の錯体モル濃度を0.5mol/Lから0.3mol/Lに変更した以外は実施例1と同様の材料と手順により処理して酸化鉄微粒子を製造した。得られた微粒子のTEM写真を図5の(a)に示す。また、上述したTEM観察に基づく粒径算出法に基づいて得られた粒径分布のヒストグラムを図5の(b)に示す。縦軸は粒径別の粒子数(N)の分布(頻度)で一目盛りは100である。横軸は粒径(nm)である。本図から明らかなように、錯体のモル濃度を実施例1〜3よりも低濃度とした本実施例において得られた酸化鉄微粒子についても、実施例1〜3と同様、ほぼ均等な粒径であり、その平均粒径(d)は8.2nm(標準偏差σ=19%)であった。
【0028】
<実施例5>
使用する反応溶液中の錯体モル濃度を0.4mol/Lに変更した以外は実施例4と同様の材料と手順により処理して酸化鉄微粒子を製造した。得られた微粒子のTEM写真を図6の(a)に示す。また、上述したTEM観察に基づく粒径算出法に基づいて得られた粒径分布のヒストグラムを図6の(b)に示す。縦軸は粒径別の粒子数(N)の分布(頻度)で一目盛りは200である。横軸は粒径(nm)である。本図から明らかなように、錯体のモル濃度を実施例4よりも高濃度とした本実施例において得られた酸化鉄微粒子についても、実施例4と同様、ほぼ均等な粒径であり、その平均粒径(d)は8.6nm(標準偏差σ=25%)であった。また、モル濃度の上昇に対応して製造された微粒子数も増加した。
【0029】
<実施例6>
使用する反応溶液中の錯体モル濃度を0.5mol/L(実施例1〜3と同じ)に変更した以外は実施例4,5と同様の材料と手順により処理して酸化鉄微粒子を製造した。得られた微粒子のTEM写真を図7の(a)に示す。また、上述したTEM観察に基づく粒径算出法に基づいて得られた粒径分布のヒストグラムを図7の(b)に示す。縦軸は粒径別の粒子数(N)の分布(頻度)で一目盛りは150である。横軸は粒径(nm)である。本図から明らかなように、錯体のモル濃度を実施例4,5よりも高濃度とした本実施例において得られた酸化鉄微粒子についても、実施例4,5と同様、ほぼ均等な粒径であり、その平均粒径(d)は9.1nm(標準偏差σ=28%)であった。
【0030】
<実施例7>
使用する反応溶液中の錯体モル濃度を1.0mol/Lに変更した以外は実施例4〜6と同様の材料と手順により処理して酸化鉄微粒子を製造した。得られた微粒子のTEM写真を図8の(a)に示す。また、上述したTEM観察に基づく粒径算出法に基づいて得られた粒径分布のヒストグラムを図8の(b)に示す。縦軸は粒径別の粒子数(N)の分布(頻度)で一目盛りは25である。横軸は粒径(nm)である。本図から明らかなように、錯体のモル濃度を実施例6よりも高濃度とした本実施例において得られた酸化鉄微粒子は、モル濃度の上昇に対応して製造された微粒子のサイズが増大傾向にあった。しかし、図8の(b)に示すように、粒径分布がブロードとなり、粒径9.6nmと22nmに粒径分布のピークが二つ認められた。
【0031】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は一実施例で得られた酸化鉄微粒子の形態を示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は粒径分布を示すヒストグラムである。
【図2】一実施例で得られた酸化鉄微粒子についてのX線回折チャートである。
【図3】(a)は他の一実施例で得られた酸化鉄微粒子の形態を示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は粒径分布を示すヒストグラムである。
【図4】(a)は他の一実施例で得られた酸化鉄微粒子の形態を示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は粒径分布を示すヒストグラムである。
【図5】(a)は他の一実施例で得られた酸化鉄微粒子の形態を示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は粒径分布を示すヒストグラムである。
【図6】(a)は他の一実施例で得られた酸化鉄微粒子の形態を示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は粒径分布を示すヒストグラムである。
【図7】(a)は他の一実施例で得られた酸化鉄微粒子の形態を示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は粒径分布を示すヒストグラムである。
【図8】(a)は他の一実施例で得られた酸化鉄微粒子の形態を示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は粒径分布を示すヒストグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネタイト微粒子を主体とする磁性材料を製造する方法であって、以下の工程:
沸点200℃以上である脂肪族アミンの液体中に、鉄(III)アセチルアセトナート錯体を添加して原料溶液を調製する工程;
前記原料溶液を加熱し、該溶液中に酸化鉄の粒子核を生成する工程;
前記生成した粒子核を含む溶液を更に加熱し、前記粒子核を成長させて所望する大きさの酸化鉄微粒子を形成する工程;および
前記酸化鉄微粒子を回収する工程;
を包含する、マグネタイト微粒子を主体とする磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族アミンとして、モノアルキル1級アミンを使用する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記粒子核生成工程において、前記原料溶液を150℃以上200℃以下の温度域まで加熱し、該温度域で所定時間保持することによって前記粒子核を生成する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酸化鉄微粒子形成工程において、前記生成した粒子核を含む溶液を前記粒子核を生成した温度域を上回り且つ300℃未満で設定される粒子成長のための温度域まで加熱し、該温度域で所定時間保持する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料溶液中の前記錯体のモル濃度が0.3〜0.5mol/Lである、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸化鉄微粒子形成工程において形成される酸化鉄微粒子の平均粒径が10nm以下である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造されたマグネタイト微粒子を主成分とする磁性材料。
【請求項8】
前記マグネタイト微粒子が液状媒体に分散して成る請求項7に記載の磁性材料。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−161414(P2009−161414A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3050(P2008−3050)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、財団法人科学技術交流財団『知的創造による地域産学官連携強化プログラム「知的クラスター創世事業」』の対象となる事業に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】