説明

磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置

【課題】 信頼性に優れ温度依存性も小さく、かつ残留磁化のない磁性体として機能する磁性構造体を提供する。
【解決手段】
容器10と、該容器10内部に閉じ込められた複数の粒状強磁性体20と、前記容器10に振動を加えることによって、前記複数の粒状強磁性体20をそれぞれ運動させる振動装置30とを備える磁性構造体とする。気密性および耐圧性を有さない容器10を用いて構成することが可能な、残留磁化の殆どない磁性体として機能する磁性構造体40を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留磁化が殆どない磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、絶縁型の直流電流センサの代表的なものとしてホール素子型の電流センサがある。ホール素子型の電流センサは、透磁率の高い軟磁性材のリングの一部を切除して隙間を持つヨークを形成し、この隙間にホール素子を挟み込んだ構造になっている。ところが、ヨークを構成する軟磁性材にはヒステリシス特性があるため残留磁化が生じ、この残留磁化がオフセット誤差の原因となっている。センサ出力のオフセット量は、センサ稼動中に計測することが事実上不可能なため、センサを連続的に使用しなければならない用途においては、大きな問題となる。
【0003】
このような問題を解決するために、残留磁化の要因は軟磁性材の磁壁にある点に着眼し、磁壁をもたない磁性流体を用いてコアを形成した電流センサが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1にて提案された電流センサによれば、容器に封入した磁性流体をコアとして用いていることから、コアの残留磁化が殆どないため、オフセット誤差が殆どない優れた特性を有する電流センサを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4310373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にて提案された電流センサは、磁性流体を容器に封入する必要があるため、容器に気密性が要求されるとともに、温度変化により磁性流体が膨張/収縮して容器へ加わる圧力が変動するため、その対策が必要となるという問題があった。また、磁性流体は微細な磁性粉と溶液を混合したものであるため、磁性特性に温度依存性が生じるという問題点もあった。
【0006】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、気密性および耐圧性を有さない容器を用いて構成することが可能な、残留磁化が殆どない磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁性構造体は、容器と、該容器内部に閉じ込められた複数の粒状強磁性体と、前記容器に振動を加えることによって、前記複数の粒状強磁性体をそれぞれ運動させる振動装置とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の磁性構造体は、上記構成において、前記容器内部が複数の空間に分割されており、該複数の空間の各々に複数の前記粒状強磁性体が閉じ込められていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の磁性部品は、コイルと、前記複数の粒状強磁性体の少なくとも一部が前記コイ
ルの内側に位置するように配置された前記磁性構造体とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の磁気センサ装置は、前記磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の電流センサ装置は、前記容器が環状に形成されているとともに、少なくとも該容器に振動が加えられた状態において該容器の全体に渡って分布するように前記複数の粒状強磁性体が配置された前記磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備え、前記容器が形成する環の内側を通過するように、測定対象の電流が流れる導電路が配置されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁性構造体は、容器と、容器内部に閉じ込められた複数の粒状強磁性体と、容器に振動を加えることによって、複数の粒状強磁性体をそれぞれ運動させる振動装置とを備える。このような構成を備える磁性構造体においては、容器に加えられている振動によって複数の粒状強磁性体がそれぞれランダムな方向に不規則に運動しているが、外部磁界が加わると、それぞれの瞬間において磁気モーメントの方向が外部磁界の方向に近い粒状強磁性体の割合が増加して、全体として外部磁界の方向に磁化する。そして、外部磁界が0になると、各々の粒状強磁性体の磁気モーメントが元のランダムな方向に戻るので、時間平均をとると複数の粒状強磁性体の磁気モーメントの総和は殆ど0になり、容器および複数の粒状強磁性体からなる構造体の残留磁化は殆ど0になる。このようにして、本発明の磁性構造体によれば、残留磁化の殆どない磁性体として機能する磁性構造体を得ることができる。また、粒状強磁性体を用いることから、容器に粒状強磁性体よりも小さな孔があっても問題ないため、気密性および耐圧性を有さない容器を用いて構成することが可能な磁性構造体を得ることができる。
【0013】
また、本発明の磁性構造体は、容器内部が複数の空間に分割されており、複数の空間の各々に複数の粒状強磁性体が閉じ込められているようにしてもよい。このような構成を備える磁性構造体によれば、複数の空間を容器内部の全体に渡って分布するように配置して、各々の空間の中に複数の粒状強磁性体を閉じ込めることができるので、複数の粒状強磁性体を容器内部の全体に渡って分布させることが容易な磁性構造体を得ることができる。
【0014】
上述した構成を備える本発明の磁性部品によれば、コイルの内側に位置する磁性構造体の残留磁化が殆どないので、精度の高い磁気センサ素子や磁力をゼロにすることが可能な電磁石として機能する磁性部品を得ることができる。
【0015】
上述した構成を備える本発明の磁気センサ装置によれば、コイルのインダクタを測定することにより外部磁界を測定することができるので、オフセット誤差が殆どない高精度の磁気センサ装置を得ることができる。
【0016】
上述した構成を備える本発明の電流センサ装置によれば、コイルのインダクタを測定することにより導電路を流れる電流を測定することができるので、オフセット誤差が殆どない高精度の電流センサ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1の例の磁性構造体を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示す磁性構造体を模式的に示す平面図である。
【図3】図1に示す磁性構造体のB−H曲線を模式的に示すグラフである。
【図4】図1に示す磁性構造体のμ−H曲線を模式的に示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の第2の例の磁性部品を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態の第3の例の磁気センサ装置を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施の形態の第4の例の電流センサ装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置を添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態の第1の例)
図1は本発明の実施形態の第1の例の磁性構造体を模式的に示す斜視図である。また、図2は図1に示す磁性構造体を模式的に示す平面図である。なお、図1および図2においては、構造を分かりやすくするために、内部を透視した状態を示している。
【0020】
本例の磁性構造体40は、図1および図2に示すように、容器10と、複数の粒状強磁性体20と、振動装置30とを備えている。複数の粒状強磁性体20は、容器10の内部に閉じ込められている。また、容器10は2つの分割壁11により3つの空間に分割されており、複数の空間の各々にほぼ同量の粒状強磁性体20が閉じ込められている。振動装置30は、容器の下に配置されており、容器10に振動を加えることによって、複数の粒状強磁性体20をそれぞれ運動させる。本例の磁性構造体では、振動装置30によって、容器10に対して重力が作用する方向であるz方向に振動を加えている。これにより、複数の粒状強磁性体20のそれぞれが、重力に逆らって動き、互いに衝突を繰り返しながらランダムな方向に不規則に運動している状態になっている。
【0021】
このような構成を備える本例の磁性構造体40によれば、各粒状強磁性体20の磁気モーメントが0でなくても、振動装置30による振動により、外部磁界がないときに各磁気モーメントの総和を0にすることが出来る。一般に、磁気モーメントを持つ微小磁石が自由に動ける状態ではエネルギーの安定状態を保つために磁気モーメントが揃う方向に並ぶ。しかし、強制的に振動を与える場合、各粒状強磁性体20はお互いに激しくぶつかり合い、ランダムな方向を向かせることが出来る。この状態から、例えばx方向に外部磁界を徐々に作用させると、それぞれの瞬間において、磁気モーメントの方向がx方向に近い粒状強磁性体20の数が徐々に増加して、磁性構造体40全体としてx方向の磁束密度が大きくなる。そして、振動装置30によって加えられた振動に完全に打ち勝つときこの磁性構造体40は磁束密度が飽和する。この状態から、外部磁界を徐々に弱めて行くと、各々の粒状強磁性体20の磁気モーメントの方向が徐々にばらばらになり、外部磁界が0になると、各粒状強磁性体20の磁気モーメントの方向はランダムになる。特定の瞬間では磁気モーメントの総和が特定の方向を向くこともあり得るが、その大きさは非常に小さく、時間平均をとると、各粒状強磁性体20の磁気モーメントの総和は殆ど0になる。よって、残留磁化は殆ど0になる。このようにして、本例の磁性構造体40によれば、残留磁化が殆どなく、ヒステリシスの殆どない磁化曲線を示す磁性構造体を得ることができる。
【0022】
本例の磁性構造体40における容器10および複数の粒状強磁性体20からなる構造体の磁界Hと磁束密度Bとの関係を図3のグラフに示す。グラフにおいて、横軸は磁界Hを示し、縦軸は磁束密度Bを示す。本例の磁性構造体40は残留磁化が殆どないので、磁化Bと磁界Hとの関係は、図3に示すようなtanh(H)型の曲線を示す。また、透磁率μをdB/dHで定義すると、本例の磁性構造体40における容器10および複数の粒状強磁性体20からなる構造体の磁界Hと透磁率μとの関係は、図4のグラフに示すような曲線となる。グラフにおいて、横軸は磁界Hを示し、縦軸は透磁率μを示す。
【0023】
図3および図4のグラフに示したような本例の磁性構造体40の特性は、容器10の形状、粒状強磁性体20の形状,材料および充填率に依存し、さらには振動装置30が容器10に加え
る振動の振幅および周波数にも依存する。よって、これらの調整により、利用するシステムに適したB−H曲線を得ることも可能である。
【0024】
また、図4のグラフに示したμ−H曲線によれば、磁界Hが0の場合は磁性構造体40における容器10および複数の粒状強磁性体20からなる構造体の透磁率はμであるが、磁界Hが大きくなるにつれて減少して、H=Hのときにはμ=μとなり、磁界Hと透磁率μとが1対1に対応する。従って、磁性構造体40の透磁率の変化によって、磁性構造体40に加えられた磁界Hの強度を推定することが出来る。
【0025】
また、本例の磁性構造体40によれば、粒状強磁性体20を用いることから、容器10に粒状強磁性体20よりも小さな孔があっても問題ないため、気密性および耐圧性を有さない容器10を用いて構成することが可能な磁性構造体40を得ることができる。
【0026】
さらに、本例の磁性構造体40によれば、特許文献1にて提案された従来の電流センサのように、熱膨張の大きい液体を使用していないため、温度変化による特性変化の小さい磁性構造体40を得ることができる。
【0027】
またさらに、本例の磁性構造体40によれば、容器10の内部が複数の空間に分割されており、複数の空間の各々に複数の粒状強磁性体20が閉じ込められていることから、複数の粒状強磁性体20を容器10の内部の全体に渡って分布させることが容易な磁性構造体40を得ることができる。
【0028】
本例の磁性構造体40において、粒状強磁性体20は軟質磁性体が望ましく、振動装置30により容器10に加えられる振動によって自由に運動させるためには、その大きさは10μmから1mm程度が望ましい。また、粒の形状は球状に近い方が望ましく、出来るだけ均一な粒形のものが望ましい。さらに、容器10に対する粒状強磁性体20の充填率が100%である
と強制振動をかけても粒状強磁性体20がランダムに動けないので、その充填率は50%から80%程度がよい。またさらに、容器10のz方向の厚みはy方向の幅よりも薄い方が望ましい。
【0029】
本例の磁性構造体40において、容器10は様々な材料で形成可能であるが、内部の粒状強磁性体20が激しく壁面にぶつかり合うので耐久性の良いセラミックス材料が適している。また、本例では密閉型の容器を示したが、粒状強磁性体20が容器10から出ないほどの小さな穴を開けることにより、容器内の温度が上昇してもその圧力を一定に保つことが出来るため、破裂の危険が無い。
【0030】
また、振動装置30は、容器10を充分な強さで振動させることができればどのようなものでも構わないが、例えば、圧電体を用いて振動装置30を構成することにより、小型の磁性構造体40を得ることができる。
【0031】
(実施の形態の第2の例)
図5は本発明の実施形態の第2の例の磁性部品を模式的に示す斜視図である。なお、図5においては、構造をわかりやすくするために、振動装置30の図示を省略している。また、本例においては、上述した実施の形態の例と異なる部分について説明し、同一の構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0032】
本例の磁性部品70は、図5に示すように、図1に示した実施の形態の第1の例の磁性構造体40と、コイル50とを備えており、容器10にコイル50が巻かれている。そして、複数の粒状強磁性体20の少なくとも一部がコイル50の内側に位置するように配置されている。振動装置30はコイル50の外側に容器10に接触するように配置されているが図示を省略してい
る。
【0033】
このような構成を備える本例の磁性部品70によれば、コイル50のコアとして、残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、例えば、磁化を殆ど0にすることが可能な電磁石を得ることができる。
【0034】
また、本例の磁性部品70においては、前述したように、磁界Hに対応して磁性構造体40の透磁率が変化し、磁性構造体40の透磁率の変化に対応してコイル50のインダクタンスが変化する。よって、本例の磁性部品70によれば、コイル50のインダクタンスの変化によって、磁界Hを検知する磁気センサ素子として機能する磁性部品70を得ることができる。
【0035】
さらに、本例の磁性部品70によれば、コイル50のコアとして、残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、残留磁化に起因するオフセット誤差の殆どない磁気センサ素子として機能する磁性部品70を得ることができる。
【0036】
(実施の形態の第3の例)
図6は本発明の実施形態の第3の例の磁気センサ装置を模式的に示す図である。なお、図6においては、構造をわかりやすくするために、振動装置30の図示を省略している。また、本例においては、上述した実施の形態の第3の例と異なる部分について説明し、同一の構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0037】
本例の磁気センサ装置は、図6に示すように、図5に示した実施の形態の第2の例の磁性部品70とインダクタンス測定装置60とを備えている。また、インダクタンス測定装置60は、4つの抵抗素子65〜68と、可変容量キャパシタ61と、交流発生装置62と、電流検出装置63とを備えている。
【0038】
抵抗素子65,コイル50,抵抗素子66,抵抗素子67および抵抗素子68がループを形成するように順次直列に接続されており、さらに、抵抗素子67に可変容量キャパシタ61が並列に接続されている。そして、抵抗素子65および抵抗素子66の接続点と抵抗素子67および抵抗素子68の接続点との間に電流検出装置63が接続されているとともに、抵抗素子65および抵抗素子68の接続点と、抵抗素子67および抵抗素子68の接続点との間に交流発生装置62が接続されている。このようにして、Maxwellブリッジが構成されている。
【0039】
コイル50のyz面における断面積(容器10のyz面における断面積に一致する。)をS、コイル50の巻き数をN、コイル50のx方向の長さをAとし、外部磁界Hが磁性構造体40に作用しているときの透磁率をμとすると、コイル50部の自己インダクタンスLはμの関数と成り、μS/Aで近似することができる。
【0040】
インダクタンス測定装置60において、交流発生装置62により交流を流すと、一般には電流検出装置63に電流が流れる。しかし、このブリッジが平衡条件を満たす場合電流検出装置63に電流が流れない。この平衡条件は、抵抗素子65の抵抗値をR、抵抗素子66の抵抗値をR、抵抗素子67の抵抗値をR、抵抗素子68の抵抗値をR、可変容量キャパシタ61の容量値をCとすると、R=R=L/Cである。このとき、交流発生装置62による交流の周波数には無関係となる。従って、予め抵抗素子65〜68の抵抗値を調整しておき、可変容量キャパシタ61を調整することにより未知のインダクタンスLを検出することができ、透磁率μを求めることが出来る。また、予めこの磁性構造体40における容器10および複数の粒状強磁性体20からなる構造体の図4に示すようなμ−H曲線を算出しておけば、この求められた透磁率μの値から外部磁界Hの大きさを求めることが出来る。
【0041】
このような構成を備える本例の磁気センサ装置によれば、コイル50のコアとして、残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、残留磁化に起因するオフセット誤差の殆どない磁気センサ装置を得ることができる。
【0042】
(実施の形態の第4の例)
図7は本発明の実施形態の第4の例の電流センサ装置を模式的に示す図である。なお、図6においては、構造をわかりやすくするために、振動装置30の図示を省略している。また、本例においては、上述した実施の形態の第3の例と異なる部分について説明し、同一の構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0043】
本例の電流センサ装置は、図7に示すように、容器10が環状に形成されているとともに、少なくとも容器10に振動が加えられた状態において容器10の全体に渡って分布するように複数の粒状強磁性体20が配置された磁性部品70と、コイル50に接続されたコイル50のインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置60とを備えている。コイル50は、環状に形成された容器10の一部に巻き付けられて構成されている。インダクタンス測定装置60は、可変容量キャパシタ61、交流発生装置62および電流検出装置63を備えている。また、容器10が形成する環の内側を通過するように、測定対象の電流Iが流れる導電路80が配置されている。インダクタンス測定装置60と環状の容器10に巻かれたコイル50とが接続され、コイル50のインダクタンスLと可変容量キャパシタ61とでLCの直列共振回路を形成している。
【0044】
本例の電流センサ装置において、コイル50の断面積(環状の容器10の断面積に一致する。)をS、コイル50の平均の長さをA、コイル50の巻き数をN、測定対象の電流Iによる環状の容器10につくる磁界をHに対する透磁率をμとすると、コイル50における自己インダクタンスLは透磁率μの関数となり、L=μS/Aで表せる。インダクタンス測定装置60において、交流発生装置62により交流を流すと、電流検出装置63に電流が流れる。このときの電流の振幅は、コイル50における自己インダクタンスL,可変容量キャパシタ61の容量値C,および交流発生装置62の角周波数ωにより変動し、ω√(LC)=1の関係にあるとき直列共振を起こし、最大の電流振幅となる。従って、電流検出装置63で検出される電流の振幅が最大になるように、可変容量キャパシタ61の容量値および交流発生装置62の角周波数ωの少なくとも一方を調整することにより、コイル50のインダクタンスLを検出することが出来る。このインダクタンスLから前述の磁気センサ装置と同様にして測定対象の電流Iによる磁界Hを求めることが出来る。結局、H=NI/Aの関係から測定対象の電流Iを検出することが出来る。
【0045】
このような構成を備える本例の電流センサ装置によれば、コイル50のコアとして、残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、残留磁化に起因するオフセット誤差の殆どない電流センサ装置を得ることができる。
【0046】
(変形例)
本発明は前述した実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0047】
例えば、前述した実施形態の例においては、環状の容器10の断面形状を矩形としたが、円または楕円であっても構わない。
【0048】
また、外部磁界Hによる透磁率μの計測手法として、MaxwellブリッジやLC共振を用いたインダクタンス測定装置を示したが、このような手法に限らず、特許文献1に示されているような磁気ブリッジを用いた手法でも検出可能である。
【0049】
さらに、上述した実施の形態の例においては、コイル50内の透磁率からコイル50を貫く磁界および導電路80を流れる電流を算出する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、実施の形態の第3の例の磁気センサ装置において、コイル50を貫く磁界Hを変化させたときのコイル50のインダクタンスの変化を測定して、コイル50を貫く磁界Hとコイル50のインダクタンスとの対応関係を示すデータを保存しておけば、コイル50のインダクタンスに基づいてコイル50を貫く磁界Hの大きさを得ることができる。同様に、実施の形態の第4の例の電流センサ装置において、導電路80を流れる電流Iを変化させたときのコイル50のインダクタンスの変化を測定して、導電路80を流れる電流Iとコイル50のインダクタンスとの対応関係を示すデータを保存しておけば、コイル50のインダクタンスに基づいて導電路80を流れる電流Iの値を得ることができる。このようにすると、振動装置30をコイル50内に配置した場合等に計算が複雑になるのを防止することができる。
【符号の説明】
【0050】
10:容器
20:粒状強磁性体
30:振動装置
40:磁性構造体
50:コイル
60:インダクタンス測定装置
70:磁性部品
80:導電路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、該容器内部に閉じ込められた複数の粒状強磁性体と、前記容器に振動を加えることによって、前記複数の粒状強磁性体をそれぞれ運動させる振動装置とを備えることを特徴とする磁性構造体。
【請求項2】
前記容器内部が複数の空間に分割されており、該複数の空間の各々に複数の前記粒状強磁性体が閉じ込められていることを特徴とする請求項1に記載の磁性構造体。
【請求項3】
コイルと、前記複数の粒状強磁性体の少なくとも一部が前記コイルの内側に位置するように配置された請求項1または請求項2に記載の磁性構造体とを備えることを特徴とする磁性部品。
【請求項4】
請求項3に記載の磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備えることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項5】
前記容器が環状に形成されているとともに、少なくとも該容器に振動が加えられた状態において該容器の全体に渡って分布するように前記複数の粒状強磁性体が配置された請求項3に記載の磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備え、前記容器が形成する環の内側を通過するように、測定対象の電流が流れる導電路が配置されることを特徴とする電流センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174850(P2011−174850A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39965(P2010−39965)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】