説明

磁性粒子の作製方法、磁性粒子および磁性材料

【課題】 電磁波を吸収する磁性材料を構成する磁性粒子を効率的に作製する。
【解決手段】 有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを溶媒に混合して溶解し(ステップS1)、反応温度まで昇温し(ステップS2)、その反応温度で反応を行い(ステップS3)、有機金属錯体または金属塩から形成される微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子を生成し、反応後、生成された磁性粒子を回収する(ステップS4)。この磁性粒子はナノグラニュラー構造をとって電磁波を吸収する磁性材料となり、このような磁性粒子を湿式反応で作製することにより、1回の反応で、より多く作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は磁性粒子の作製方法に関し、特に微粒子の周囲が絶縁性物質によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子の作製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年の通信機器は、携帯電話などに代表されるように、小型化・軽量化が一段と進んでおり、それらに搭載される部品にも小型化・軽量化が求められている。通信機器のこのような小型化などに伴い、動作周波数が高まる傾向にある。
【0003】通信機器の高周波数化については、トランスやインダクタあるいは磁気ヘッドといった、通信機器の個々の構成部品に用いられる磁性材料の電気抵抗を高めて磁性材料自体に流れる渦電流を小さくすることにより対応する試みがなされている。このような磁性材料としては、特開昭60−152651号公報および特開平4−142710号公報に、金属とセラミクスを同時にスパッタすることによってセラミクスが分散した非晶質合金膜などが提案されている。
【0004】ところで、通信機器の高周波数化は、通信機器同士が互いに近接して用いられる最近の通信環境にあっては、通信品質が低下するなどの問題を引き起こす場合がある。そのため、通信機器の構成部品に、高周波数領域でより高い透磁率を示す磁性材料を用いて、通信機器から発生する不要な電波を吸収してしまうことにより、通信品質低下防止が図られている。
【0005】通信機器に用いられるこのような電波吸収体で、高周波数領域における高透磁率を実現するためには、電波吸収体を構成する磁性材料に対して、高い飽和磁化、高い電気抵抗を同時に有し、磁性体の異方性磁界、磁歪が小さいことが求められる。これらの性質を同時に達成するための磁性材料の構造として、近年、ナノグラニュラー構造が注目されてきている。この磁性材料は、磁性材料を構成する各磁性粒子の表面が薄い絶縁膜で取り囲まれ、これらの各磁性粒子がネットワーク状につながった構造を有している。この構造により、磁性粒子間に高抵抗の粒界層が形成されて高い電気抵抗が発現されるとともに、超常磁性のような孤立粒子ではない、お互いの磁性粒子が近接した状態で、高周波数領域で高透磁率が実現される。
【0006】近年、ナノグラニュラー構造を有する磁性体薄膜に関し、特開平10−241938号公報では、コバルト(Co)基のナノグラニュラー薄膜について、数百MHzまでの透磁率が開示されている。さらに、Co基合金薄膜についても、同様の透磁率の報告(J. Appl. Phys., Vol87, No.2, 15(2000), P817)がなされている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、これまで報告されているナノグラニュラー構造を有する磁性材料は、スパッタ法を用いた薄膜に限定されているという問題点があった。
【0008】これまでのナノグラニュラー構造を有する磁性体薄膜についての報告値は、一粒子の物性研究のためのものであって、バルク材料では実現されていない。さらに、この磁性体薄膜を用いた応用研究もほとんどなく、特に薄膜では、近傍の電磁波の電波吸収体として、遠方の電磁波の電波吸収体として、いずれの特性をも両立させるのは困難であった。
【0009】また、ナノグラニュラー構造を有する磁性材料を製造する場合、ナノグラニュラー構造を有する磁性体薄膜の作製方法を利用し、スパッタを繰り返し行うことで、100μm程度までの厚膜は作製可能であると思われるが、コストがかかるとともに、製造に長時間を要してしまい、工業的観点からすれば現実的ではない。
【0010】本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、電磁波、特に高周波の電磁波を吸収することのできる磁性材料を構成する磁性粒子を効率的に作製するための磁性粒子の作製方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、表面が絶縁性物質によって取り囲まれた構造を有し、電磁波を吸収する磁性材料を構成する磁性粒子の作製方法であって、有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを溶媒に混合して溶解し、反応温度まで昇温し、反応温度にて、有機金属錯体または金属塩から形成される微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子を生成し、磁性粒子を回収することを特徴とする磁性粒子の作製方法が提供される。
【0012】上記構成によれば、有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを溶媒に混合して溶解し、反応温度まで昇温した後、その反応温度で反応を行う。これにより、有機金属錯体または金属塩の金属から成長して形成される微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子を生成することができる。このように、電磁波を吸収する磁性材料を構成する磁性粒子を、湿式反応により作製することにより、1回の反応で、より多くの磁性粒子が作製されるようになる。
【0013】また、本発明によれば、電磁波を吸収する磁性材料を構成する磁性粒子であって、粒径が1nmないし50nmである微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有することを特徴とする磁性粒子が提供される。
【0014】このような構造を有する磁性粒子は、磁性材料として用いる場合、各磁性粒子がネットワーク状につながった際、磁性粒子間に鎖状高分子による高抵抗の粒界層が存在するナノグラニュラー構造を形成するため、電磁波を吸収する特性を有する磁性材料となる。
【0015】さらに、本発明によれば、電磁波を吸収する磁性材料であって、粒径が1nmないし50nmである微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有し、体積充填率にして30%ないし90%を占める磁性粒子の粉末と、残部を占める高分子材料と、から構成されることを特徴とする磁性材料が提供される。
【0016】このような構成の磁性材料は、例えばシート形状など、任意の形状に成形可能であり、電磁波を吸収させるための各種部品の材料に適用することが可能となる。
【0017】また、本発明によれば、電磁波を吸収する磁性材料であって、粒径が1nmないし50nmである微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子の粉末を圧粉して成ることを特徴とする磁性材料が提供される。
【0018】このように、磁性粒子の粉末が圧粉されることにより、磁性粒子間に鎖状高分子による高抵抗の粒界層が存在するナノグラニュラー構造が形成され、電磁波を吸収する特性が発現されるようになる。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は磁性粒子の作製方法の流れ図である。磁性粒子の作製は、有機金属錯体または金属塩、および鎖状高分子を溶媒に混合して溶解し(ステップS1)、撹拌しながら反応温度まで昇温し(ステップS2)、所定時間、撹拌しながら反応を行い(ステップS3)、有機金属錯体または金属塩から形成される微粒子の周囲が鎖状高分子で取り囲まれた構造を有する磁性粒子を生成させ、反応後、作製された磁性粒子を回収する(ステップS4)ことにより行われる。
【0020】このような磁性粒子の作製方法において、有機金属錯体としては、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)、オクタカルボニル二コバルト(Co2(CO)8)、テトラカルボニルニッケル(Ni(CO)4)などの金属カルボニルや、塩化鉄(II)(FeCl2)、塩化コバルト(II)(CoCl2)、塩化コバルト(III)(CoCl3)、塩化ニッケル(II)(NiCl2)などの金属塩の水溶液、およびこれら金属塩の水和物などを用いる。
【0021】また、鎖状高分子には、カルボニル基を有するポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(以下「PVP」という。)やポリアクリル酸((CH2CH(COOH))n)などを用いる。化学式(1)にPVPの構造を示す。
【0022】
【化1】


【0023】用いる鎖状高分子は、所望の粒子サイズおよび反応条件に応じて適当に選択する。鎖状高分子にPVPを用いた場合、その分子量としては、10000、29000、40000、130000のものが用いられる。
【0024】ここで、溶液中に含まれる有機金属錯体または金属塩の金属の物質量と、同じく溶液中に含まれる鎖状高分子の物質量との比は、1:1〜1:20の範囲で制御するものとする。
【0025】上記の有機金属錯体または金属塩、および鎖状高分子を溶解する溶媒には、高純度アルコールやエーテルを使用することができる。アルコールとしては、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、プロパノール(C3H8OH)が、エーテルとしては、ジエチルエーテル((C2H5)2O)が好適に用いられる。また、このほか、エチレングリコール((CH2OH)2,沸点197.85℃)、ジメチルスルホキシド(沸点189.0℃,以下「DMSO」という。)も好適に用いることができる。化学式(2)にDMSOの構造を示す。
【0026】
【化2】


【0027】さらに、溶媒として、トルエン(C6H5CH3,沸点110.6℃)、ケロシン(沸点150〜280℃)など、反応条件下で、液体状態で存在可能な炭化水素も好適に用いることができる。
【0028】これらの溶媒の量によって、作製される磁性体の特性は若干変化するが、本形態では、溶質である有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを完全に溶解できる量を適量とする。
【0029】このような有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを、所定の条件で反応させることにより磁性粒子を生成する。図2は磁性粒子の生成過程を説明する模式図である。ただし、図2には、Fe基の有機金属錯体または金属塩とPVPとから磁性粒子を生成する場合について示しており、(a)は反応開始前の状態、(b)はFe原子またはFeイオンとPVPの配位状態、(c)はFe粒子の成長状態、(d)は磁性粒子の生成状態をそれぞれ示している。
【0030】溶媒中に溶解しているPVP1が有するピロリドン基の酸素(O)原子には不対電子が存在し、ルイス酸としてはたらく。ここで、図2においては、PVP1の中でルイス酸としてはたらく部位をLで示している。
【0031】まず、図2(b)に示すように、O原子の不対電子を介して、同じく溶媒中に溶解しているFe原子またはFeイオン2がPVP1に配位結合する。反応が進行するにつれ、PVP1に配位したFe原子またはFeイオン2は溶媒中で互いに凝集して成長し、図2(c)に示すように、Fe粒子3が形成されていく。さらに反応が進行すると、Fe粒子3同士あるいはFe粒子3とFe原子またはFeイオン2とが凝集することにより、Fe粒子3がさらに成長する。
【0032】このFe粒子3の成長に伴い、Fe粒子3に配位しているPVP1の形状も次第に変化し、Fe粒子3を取り囲むように変化していく。そして、最終的には、図2(d)に示すように、Fe粒子3がその周囲をPVP1によって取り囲まれた構造の磁性粒子4が生成される。
【0033】このとき生成される磁性粒子4の粒子サイズは、用いる溶媒の種類、反応温度、反応時間、およびPVP1の分子量などで異なり、特に溶媒の種類とその濃度は、粒子サイズに大きく影響する。例えば、溶媒にアルコールを用いた場合、Fe原子またはFeイオン2あるいはFe粒子3が反応の初期段階でPVP1に取り囲まれる傾向があり、そのため、Fe粒子3の粒子成長が阻害され、最終的には0.1nm程度の非常に微細な磁性粒子4が生成される傾向がある。この傾向は、アルコール濃度が高くなるにつれ顕著に現れるようになる。逆に、溶媒濃度を低くすると、最終的には数十nm程度の磁性粒子4が生成されるようになる。このことから、溶媒の種類とその濃度を適当に選択することにより、磁性粒子4の粒子サイズを制御することもできる。
【0034】また、溶媒による制御のほか、PVP1の分子量の大きさによって磁性粒子4の粒子サイズを制御することも可能である。この場合、PVP1の分子量が大きくなることにより、PVP1がFe粒子3の周囲を取り囲むまでの時間が長くなり、その間にFe粒子3の成長が進行するため、最終的な磁性粒子4の粒子サイズが大きくなる。
【0035】なお、図2ではPVP1で周囲が取り囲まれたFe粒子3を生成する場合について述べたが、Co粒子またはニッケル(Ni)粒子を生成する場合にも同様の生成過程を経る。さらに、Co粒子、Ni粒子を生成する場合においては、その際に用いる溶媒の種類と濃度による粒子サイズ制御、あるいはPVP1の分子量による粒子サイズ制御についても、Fe粒子3を生成する場合と同様の効果を示す。
【0036】また、これらFe、CoまたはNiの微粒子とPVPとから成る磁性粒子の生成過程において、約10V/cm程度の電解を反応装置に印加すると、その印加時間により、溶液中に分散している微粒子の密度が変化し、印加時間が長くなると、溶液中に微粒子の密度の高い領域が発生する。この手法を用いることにより、微粒子同士、あるいは金属原子または金属イオンと微粒子との衝突頻度を増すことができ、その結果、磁性粒子の生成速度を増加させることができるようになる。その際、印加する電解の大きさおよび印加時間を適当に選択することにより、磁性粒子の粒子サイズ制御あるいは反応時間の制御も可能になる。
【0037】図3は磁性粒子を作製する反応装置の概略図である。本形態では、磁性粒子作製のための反応容器に三ツ口のフラスコ5を使用し、フラスコ5にある3箇所の口のうち、一箇所には撹拌羽6が設けられ、他の箇所にはノズル7が設けられている。撹拌羽6は、メカニカル撹拌器8により回転され、フラスコ5内に仕込まれる溶液を撹拌することができるようになっている。ノズル7は、フラスコ5外に設置されたアルゴン(Ar)ボンベ9に接続され、フラスコ5内にArガスを流入できるようになっている。また、フラスコ5の残りの口は、フラスコ5内に流入したArガスの排気口10となり、排気口10までの経路の途中には、フラスコ5の加熱により発生する蒸気のフラスコ5外部への放出を防止するため、冷却水を流通可能な冷却器11が設けられている。
【0038】フラスコ5は、水の入った槽12に設置される。そして、電源13により加熱されるヒーター14で、槽12内の水が加熱されることにより、フラスコ5内が略均一に加熱されるようになっている。
【0039】上記構成の反応装置を用いて磁性粒子を作製する。まず、室温にて、フラスコ5に、有機金属錯体または金属塩、鎖状高分子および溶媒を入れ、Arボンベ9のArガスをノズル7からフラスコ5内に連続的に流入させる。このArガスによって、フラスコ5内のガスを置換し、内部をAr雰囲気とする。フラスコ5内にあったガスおよび流入されたArガスは、排気口10から排出されていく。次いで、ヒーター14で槽12内の水を加熱してフラスコ5内を液温30〜50℃、好ましくは略40℃まで加熱し、有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを溶媒中に完全に溶解する。溶解後、さらにヒーター14により、100℃から用いる溶媒の沸点までの間の所定の反応温度へ昇温した後、メカニカル撹拌器8で撹拌羽6を回転させてフラスコ5内の溶液を撹拌して反応を行う。
【0040】反応終了後、フラスコ5を密閉した状態で、フラスコ5ごとAr雰囲気のグローブボックスへと移動させ、生成された磁性粒子を回収する。この場合、まず、グローブボックス内で、フラスコ5の外壁に磁石を近づける。これにより、フラスコ5内の溶液中に分散していた磁性粒子が磁石に吸い付けられるので、この状態のまま、フラスコ5内の液を、例えばフラスコ5を傾けるなどして、取り除く。本形態では、以下、このような磁石を用いた磁性粒子回収方法を磁場選鉱という。この磁場選鉱の後、最後に、残っている溶媒を完全に除去し、生成された磁性粒子を回収する。溶媒の除去は、乾燥速度を速めるために、フラスコ5内を減圧して行ってもよい。
【0041】そして、得られた磁性粒子については、その平均粒径をX線回折測定から求める。さらに、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope,TEM)を用いた観察によっても粒径測定を行う。
【0042】TEM観察の結果、フラスコ5内の溶媒除去後に得られる磁性粒子は、互いに凝集した二次粒子構造になっていて、直径5μm〜200μmの粒状、直径5μm〜200μmで厚みが0.5μm〜5μmのフレーク状、直径5μm〜150μmで厚みが0.1μm〜5μmのディスク形状などの塊状になっている。このような形状の磁性粒子の塊を解砕して磁性粉末を得る。X線回折による磁性粒子の平均粒径の測定は、この解砕後の磁性粉末を用いて行う。平均粒径は、X線回折測定の結果を用いてシェラーの式から求める。さらに、磁性粉末を用いて、飽和磁化測定装置による飽和磁化測定を行う。
【0043】なお、上記の説明では、フラスコ5内にArガスを連続的に流入させ、排気口10から排出させる構成としたが、用いる反応容器の気密性を高めることにより、磁性粒子の作製を回分式で行うこともできる。
【0044】また、磁性粒子の作製は、生成する磁性粒子の酸化防止のためにArガス雰囲気で行うこととしたが、もちろん、これはArガスに限定されるものではなく、他の不活性ガスなど、酸化防止効果のあるガスを使用することもできる。
【0045】次に、本形態の実施例について説明する。
(実施例1)まず、室温にて、有機金属錯体であるFe(CO)5、鎖状高分子であるPVP、および溶媒であるDMSOをフラスコに入れる。ここで、溶液中の物質量の比は、Fe:PVP=1:10とし、溶媒であるDMSOの量は、溶質であるFe(CO)5とPVPとを完全に溶解できる量とする。
【0046】次いで、そのフラスコ内にArガスを流通してフラスコ内のガスを置換してAr雰囲気とする。そして、ヒーターを加熱して液温を40℃とし、Fe(CO)5とPVPとをDMSOに完全に溶解する。溶解後、引き続き反応温度130℃まで加熱し、撹拌して反応を行う。
【0047】反応終了後、フラスコのままAr雰囲気のグローブボックスへ移動し、磁場選鉱により、生成された磁性粒子をフラスコ内に残して残部を取り除く。次いで、フラスコ内に残っている磁性粒子を完全に乾燥して回収する。回収された塊状の磁性粒子を解砕し、磁性粉末を得る。
【0048】図4に実施例1の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が170emu/g、平均粒径が22.0nmである。また、磁性粒子の中心のFe粒子は、粒径が1nm〜50nmである。Fe粒子を取り囲むPVPの厚さは、計算から1nm以下と求めることができ、Fe粒子がごく薄い膜厚のPVPで取り囲まれた磁性粒子が作製される。
【0049】(実施例2)上記の実施例1で述べたFe(CO)5、PVPおよびDMSOを用い、反応温度150℃で反応する。これらの溶液中の物質量、およびその他の手順については、実施例1と同様である。
【0050】実施例2の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を図4に示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が174emu/g、平均粒径が19.0nmである。また、磁性粒子の中心のFe粒子は、粒径が1nm〜50nmである。
【0051】(実施例3)上記の実施例1で述べたFe(CO)5、PVPおよびDMSOを用い、反応温度170℃で反応する。これらの溶液中の物質量、およびその他の手順については、実施例1と同様である。
【0052】実施例3の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を図4に示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が183emu/g、平均粒径が16.4nmである。また、磁性粒子の中心のFe粒子は、粒径が1nm〜50nmである。
【0053】(実施例4)上記の実施例1で述べたFe(CO)5、PVPおよびDMSOを用い、反応温度189℃で反応する。これらの溶液中の物質量、およびその他の手順については、実施例1と同様である。
【0054】実施例4の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を図4に示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が194emu/g、平均粒径が11.5nmである。また、磁性粒子の中心のFe粒子は、粒径が1nm〜50nmである。
【0055】(実施例5)まず、室温にて、有機金属錯体であるCo(CO)8、鎖状高分子であるPVP、および溶媒であるエチレングリコールをフラスコに入れる。ここで、溶液中の物質量の割合は、Co:PVP=1:10とし、溶媒であるエチレングリコールの量は、溶質であるCo(CO)8とPVPとを完全に溶解できる量とする。
【0056】次いで、そのフラスコ内にArガスを流通してフラスコ内のガスを置換してAr雰囲気とする。そして、ヒーターを加熱して液温を40℃とし、Co(CO)8とPVPとをエチレングリコールに完全に溶解する。溶解後、引き続き反応温度130℃まで加熱し、撹拌して反応を行う。
【0057】反応終了後、フラスコのままAr雰囲気のグローブボックスへ移動し、磁場選鉱により、生成された磁性粒子をフラスコ内に残して残部を取り除く。次いで、フラスコ内に残っている磁性粒子を完全に乾燥して回収する。回収された塊状の磁性粒子を解砕し、磁性粉末を得る。
【0058】実施例5の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を図4に示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が108emu/g、平均粒径が19.0nmである。また、磁性粒子の中心のCo粒子は、粒径が1nm〜50nmである。
【0059】(実施例6)上記の実施例5で述べたCo(CO)8、PVPおよびエチレングリコールを用い、反応温度150℃で反応する。これらの溶液中の物質量、およびその他の手順については、実施例5と同様である。
【0060】実施例6の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を図4に示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が111emu/g、平均粒径が12.0nmである。また、磁性粒子の中心のCo粒子は、粒径が1nm〜50nmである。
【0061】(実施例7)上記の実施例5で述べたCo(CO)8、PVPおよびエチレングリコールを用い、反応温度170℃で反応する。これらの溶液中の物質量、およびその他の手順については、実施例5と同様である。
【0062】実施例7の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を図4に示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が122emu/g、平均粒径が10.0nmである。また、磁性粒子の中心のCo粒子は、粒径が1nm〜50nmである。
【0063】(実施例8)上記の実施例5で述べたCo(CO)8、PVPおよびエチレングリコールを用い、反応温度195℃で反応する。これらの溶液中の物質量、およびその他の手順については、実施例5と同様である。
【0064】実施例8の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を図4に示す。得られた磁性粉末は、飽和磁化が113emu/g、平均粒径が13.0nmである。また、磁性粒子の中心のCo粒子は、粒径が1nm〜50nmである。
【0065】図5ないし図8に上記の実施例で得られた反応温度と飽和磁化または平均粒径との関係を示す。ここで、図5は実施例1ないし実施例4で得られた反応温度と飽和磁化の関係、図6は実施例1ないし実施例4で得られた反応温度と平均粒径の関係、図7は実施例5ないし実施例8で得られた反応温度と飽和磁化の関係、図8R>8は実施例5ないし実施例8で得られた反応温度と平均粒径の関係をそれぞれ示す図である。
【0066】Fe粒子の周囲がPVPで取り囲まれた構造の磁性粒子の作製においては、図5に示したように、反応温度が高くなるにつれて飽和磁化が高くなる。一方、平均粒径は、図6に示したように、反応温度が高くなるにつれて小さくなる。
【0067】また、Co粒子の周囲がPVPで取り囲まれた構造の磁性粒子の作製においては、図7に示したように、反応温度が高くなるにつれて飽和磁化が高くなる傾向は見られるものの、Fe粒子の場合に比べると、その上昇は大きくない。一方、平均粒径は、図8に示したように、反応温度が高くなるにつれて小さくなる傾向が認められる。
【0068】以上説明したように、本形態の磁性粒子の作製方法によれば、表面がPVPのような鎖状高分子で取り囲まれた構造を有する磁性粒子を、湿式法により、効率的に作製することができる。このような構造の磁性粒子は、磁性材料として用いる場合、各磁性粒子がネットワーク状につながった際、磁性粒子間に鎖状高分子による高抵抗の粒界層が存在するナノグラニュラー構造を形成する。
【0069】なお、上記の説明では、Fe、CoまたはNiを成分に含む単一金属成分の磁性粒子の作製について述べたが、このほか、出発原料にFe基の有機金属錯体または金属塩とCo基の有機金属錯体または金属塩とを混合して用い、Fe粒子とCo粒子とから成る磁性粒子を作製することもできる。同様に、出発原料にFe基の有機金属錯体または金属塩とNi基の有機金属錯体または金属塩とを混合して用い、Fe粒子とNi粒子とから成る磁性粒子を作製することもできる。その際、FeとCo、あるいはFeとNiの成分比率は、目的とする磁性材料の特性あるいはその用途などに応じて任意に選択可能である。
【0070】上記作製方法によって得られる磁性粒子から成る磁性材料は、ナノグラニュラー構造を有し、電波を吸収する特性を示すので、通信機器の各種部品への応用が可能である。特に、高周波数領域の電磁波も吸収することができるので、その応用形態としては、流動性の良い樹脂に磁性粉末をフィラーとして混合し、ペーストあるいは半導体モールドにすることが好適である。また、高周波パッケージとして半導体装置内部の信号の干渉を防ぐ用途にも用いることができる。
【0071】また、低周波数領域の電磁波の吸収性能は非常に高く、電磁波シールド、インダクタ、トランスといった用途にも好適に用いることができる。さらに、異なる2種以上の磁性粉末を混合して、ある特性を向上させたり、複数の特性を発現させたりすることも可能である。
【0072】応用例のひとつとして、磁性粉末を高分子材料と混合して作製した磁性体シートについて説明する。磁性粉末と高分子材料とから作製される磁性体シートは、体積充填率にして30%から90%(残部は高分子材料)の磁性粉末を含むように高分子材料と混合されて作製される。この磁性体シートを構成する高分子材料としては、ポリ乳酸、ポリベータ・ヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子材料を用いることができ、これにより、廃棄処理などにおける環境負荷の小さい磁性体シートを作製することができる。
【0073】図9に磁性体シートを用いた通信機器から放射される電磁波レベルの測定結果を示す。図9は磁性体シートを通信機器の筐体に装着した場合の機器内部から放射される電磁波レベルの周波数ごとの測定値を示している。さらに、比較のため、磁性体シートを装着しなかった場合における電磁波レベルについても測定している。なお、図9には、磁性体シートを装着しなかった場合に放射される電磁波レベルと、磁性体シートを装着した場合に放射される電磁波レベルとの差も示している。
【0074】図9において、横軸は周波数、縦軸は機器内部から放射される電磁波レベルを示している。通信機器に磁性体シートを装着することにより、放射される電磁波レベルは減少し、この減少量の分、通信機器からの不要な電磁波の放射を低減させることができる。
【0075】この不要な電磁波の放射を低減させる効果は、磁性粉末と高分子材料とから作製された、厚さ10μm〜2mmの磁性体シートに対して同様に認められる。さらに、このような磁性体シートのほか、磁性粉末を高分子材料と混合して、電波吸収体筐体、電波吸収体衝立、電波吸収壁、電波吸収基板、電波吸収成形品、電波吸収パッケージなど、各種電波吸収体部品に利用することができる。
【0076】また、磁性粉末は、その表面がPVPにより取り囲まれて絶縁されているため、そのまま金型に充填して成形することが可能である。その際、磁性粒子が小さいため、成形性は必ずしも良好ではない。しかし、例えばステアリン酸などの適当な潤滑剤を用いて圧粉することにより、ナノグラニュラー構造を有する磁性材料として用いることができるようになる。
【0077】この磁性材料は、磁性粒子の体積充填率が最大60%程度になるが、最適充填率を得られるよう、大きい粒子サイズの磁性粉末と小さい粒子サイズの磁性粉末とを混合することにより、さらに体積充填率を上げることができるようになる。例えば、平均粒径7nmの磁性粉末と平均粒径1nmの磁性粉末とを混合することにより、80%程度の磁性粒子の体積充填率を達成することができるようになる。
【0078】このような磁性材料の応用例として、ICパッケージとして用いた場合について説明する。図10に磁性材料を用いたICパッケージによる電磁波の遮蔽レベルの測定結果を示す。図10には、比較のため、磁性材料を含まないICパッケージの電磁波の遮蔽レベルの測定値についても示している。なお、図10では、磁性材料を含む場合の測定値を太線で、磁性材料を含まない場合の測定値を細線で、それぞれ示している。
【0079】図10において、横軸は周波数、縦軸は電磁波の遮蔽レベルを示している。ICパッケージに磁性材料を含む場合には、磁性材料を含まない場合よりも、全周波数領域にわたって遮蔽効果が高く、高い電磁波シールド効果を示している。特に注目すべきは、高周波数領域における電磁波シールド性能が従来に比べて非常に高くなっている点にある。
【0080】このような磁性材料は、ICパッケージとして使用できるほか、帯域通過フィルター、ハイパスフィルター、ローパスフィルターなどの各種フィルターや、トランス、コモンモードチョークコイル、インダクタなどの各種部品にも利用することができる。
【0081】
【発明の効果】以上説明したように本発明では、有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを溶媒に混合して溶解し、反応温度まで昇温した後、その反応温度で反応して、有機金属錯体または金属塩から形成される微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子を作製する。これにより、電磁波を吸収できる磁性材料となる磁性粒子を、湿式反応により、効率的に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁性粒子の作製方法の流れ図である。
【図2】磁性粒子の生成過程を説明する模式図である。
【図3】磁性粒子を作製する反応装置の概略図である。
【図4】実施例1ないし実施例8の反応条件で得られる磁性粉末の飽和磁化および平均粒径の測定結果を示す図である。
【図5】実施例1ないし実施例4で得られた反応温度と飽和磁化の関係を示す図である。
【図6】実施例1ないし実施例4で得られた反応温度と平均粒径の関係を示す図である。
【図7】実施例5ないし実施例8で得られた反応温度と飽和磁化の関係を示す図である。
【図8】実施例5ないし実施例8で得られた反応温度と平均粒径の関係を示す図である。
【図9】磁性体シートを用いた通信機器から放射される電磁波レベルの測定結果を示す図である。
【図10】磁性材料を用いたICパッケージによる電磁波の遮蔽レベルの測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1……PVP、2……Fe原子またはFeイオン、3……Fe粒子、4……磁性粒子、5……フラスコ、6……撹拌羽、7……ノズル、8……メカニカル撹拌器、9……Arボンベ、10……排気口、11……冷却器、12……槽、13……電源、14……ヒーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面が絶縁性物質によって取り囲まれた構造を有し、電磁波を吸収する磁性材料を構成する磁性粒子の作製方法であって、有機金属錯体または金属塩と鎖状高分子とを溶媒に混合して溶解し、反応温度まで昇温し、前記反応温度にて、前記有機金属錯体または前記金属塩から形成される微粒子の周囲が前記鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子を生成し、前記磁性粒子を回収することを特徴とする磁性粒子の作製方法。
【請求項2】 前記微粒子の粒径は、1nmないし50nmであることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項3】 前記有機金属錯体または前記金属塩の金属と前記鎖状高分子との物質量の比が1:1ないし1:20の範囲であり、好ましくは1:10であることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項4】 前記有機金属錯体は、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)、オクタカルボニル二コバルト(Co2(CO)8)、テトラカルボニルニッケル(Ni(CO)4)からなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項5】 前記金属塩は、塩化鉄(II)(FeCl2)、塩化コバルト(II)(CoCl2)、塩化コバルト(III)(CoCl3)、塩化ニッケル(II)(NiCl2)からなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項6】 前記鎖状高分子は、カルボニル基を有することを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項7】 前記鎖状高分子は、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)であることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項8】 前記鎖状高分子は、ポリアクリル酸であることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項9】 前記溶媒は、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、プロパノール(C3H8OH)、ジエチルエーテル((C2H5)2O)、エチレングリコール((CH2OH)2)、ジメチルスルホキシド((CH3)2S+O-)、トルエン(C6H5CH3)からなる群から1種選択されることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項10】 前記反応温度は、100℃以上前記溶媒の沸点以下であることを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項11】 不活性ガス雰囲気で前記磁性粒子を作製することを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項12】 前記有機金属錯体または前記金属塩、前記鎖状高分子および前記溶媒に対して電解を印加しながら前記磁性粒子を作製することを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の作製方法。
【請求項13】 電磁波を吸収する磁性材料を構成する磁性粒子であって、粒径が1nmないし50nmである微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有することを特徴とする磁性粒子。
【請求項14】 前記微粒子は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項13記載の磁性粒子。
【請求項15】 前記鎖状高分子は、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)であることを特徴とする請求項13記載の磁性粒子。
【請求項16】 前記鎖状高分子は、ポリアクリル酸であることを特徴とする請求項13記載の磁性粒子。
【請求項17】 電磁波を吸収する磁性材料であって、粒径が1nmないし50nmである微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有し、体積充填率にして30%ないし90%を占める磁性粒子の粉末と、残部を占める高分子材料と、から構成されることを特徴とする磁性材料。
【請求項18】 前記高分子材料は、生分解性高分子材料であることを特徴とする請求項17記載の磁性材料。
【請求項19】 厚さが10μmないし2mmのシート形状であることを特徴とする請求項17記載の磁性材料。
【請求項20】 電磁波を吸収する磁性材料であって、粒径が1nmないし50nmである微粒子の周囲が鎖状高分子によって取り囲まれた構造を有する磁性粒子の粉末を圧粉して成ることを特徴とする磁性材料。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2003−92207(P2003−92207A)
【公開日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−283324(P2001−283324)
【出願日】平成13年9月18日(2001.9.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(501367303)
【出願人】(501367314)
【出願人】(501367325)
【Fターム(参考)】