磁性素子の製造方法及び磁性素子
【課題】好ましい直流電流重畳特性を有する磁性素子を得ることのできるように改善された注型法及びそれにより製造された磁性素子を提供すること。
【解決手段】ケース(容器:型)20a内にコイル30aを配置した状態で磁性体粉末と樹脂との混合物(40a)をケース20a内に流し込む。次いで、コイル30aの内側を通り且つコイル30aの軸に平行である区間(20a)を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に混合物を硬化させて磁気コア40aを形成することにより、磁性素子10aを得る。
【解決手段】ケース(容器:型)20a内にコイル30aを配置した状態で磁性体粉末と樹脂との混合物(40a)をケース20a内に流し込む。次いで、コイル30aの内側を通り且つコイル30aの軸に平行である区間(20a)を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に混合物を硬化させて磁気コア40aを形成することにより、磁性素子10aを得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性素子の製造方法とそれによって製造される磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
容器(型)内にコイルを配置した状態で磁性体粉末と樹脂を混合してなる混合物を容器内に流し込み、混合物を磁気コアとして加熱硬化させることにより、磁性素子を製造する方法(所謂、「注型法」)が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特に、特許文献1の製造方法においては、加熱硬化の際にコイルに通電することにより、混合物の硬化の促進を図ることとしている(特許文献1の0007段落及び特許文献2の第4頁左上欄最下段落参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−135549号公報
【特許文献2】特開昭48−1724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の製造方法によると、好ましい直流電流重畳特性を有する磁性素子が得られない。そのため、特許文献1や特許文献2の磁性素子は、車載用のインバータ等の電源回路に用いられるリアクトル等の大電流が流れる用途には不向きである。
【0006】
そこで、本発明は、好ましい直流電流重畳特性を有する磁性素子を得ることのできるように改善された注型法及びそれにより製造された磁性素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、第1の磁性素子の製造方法として、
容器内にコイルを配置した状態で、磁性体粉末と樹脂との混合物を前記容器内に流し込む注型ステップと、
前記コイルの内側を通る区間であって前記コイルの軸に平行である区間を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に前記混合物を硬化させて磁気コアを形成する硬化ステップと
を備える磁性素子の製造方法が得られる。
【0008】
また、本発明によれば、第2の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に延びる通電部材とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、第3の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記底部と接触し且つ上方に向かって延びるように前記容器内に通電部材を配置した状態で、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記容器の前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、第4の磁性素子の製造方法として、第2又は第3の磁性素子の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを2カ所以上にて並列接続して前記電気経路に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第5の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材収容部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材収容部内に通電部材を挿入し且つ当該通電部材に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、第6の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記筒部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記筒部の内側を通るように導線を前記容器に対して巻き付けた状態で前記導線に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0013】
更に、本発明によれば、第7の磁性素子の製造方法として、第6の磁性素子の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記導線は、前記容器に対して2ターン以上巻き付けられる
磁性素子の製造方法が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に向かって延びる通電部材とを有するケースと、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有するケースと、
前記底部と接触するように前記ケース内に配置され、前記底部から上方に向かって延びる通電部材と、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、
筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記通電部材収容部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、
筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記筒部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【発明の効果】
【0018】
コイルの内側を通る区間であってコイルの軸と平行な区間を含む電気経路に対して通電すると、コイルを上方から見た場合に区間の周りを周回するような磁界が発生して、混合物内の磁性体粉末の配置などに影響を与えるものと予想される。例えば、磁性体粉末が球形でなかった場合には、その形状に起因して磁性体粉末の配向が行われるものと予想され、磁性体粉末が球形であった場合には、串団子のように連なって整列するものと予想される。更に、上述の電気経路に通電したことにより生じる磁界は、磁性素子の動作時の磁界(「動作磁界」)と直交しているので、磁性体粉末の多くは動作磁界と直交する方向に配向・整列されているものと予想される。かかる磁性体粉末の配向・整列によれば、磁性素子の動作中における磁気抵抗を上げることができるため、優れた直流電流重畳特性を有する磁性素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態による磁性素子を示す斜視図である。
【図2】図1の磁性素子を構成するケース(容器:型)とコイルとを示す斜視図である。
【図3】図1の磁性素子をIII--III線に沿って示す断面図である。
【図4】図1の磁性素子の製造方法における通電状態を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態による磁性素子を示す斜視図である。
【図6】図5の磁性素子を構成するケース(容器:型)とコイルとを示す斜視図である。
【図7】図5の磁性素子をVII--VII線に沿って示す断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態による磁性素子を示す斜視図である。
【図9】図8の磁性素子を構成するケース(容器:型)とコイルとを示す斜視図である。
【図10】図8の磁性素子をX--X線に沿って示す断面図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態による磁性素子の製造方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態による磁性素子の製造方法は、注型ステップと硬化ステップとの2つのステップを備えている。注型ステップにおいては、容器(型)内にコイルを配置した状態で磁性体粉末と樹脂との混合物を容器内に流し込む。硬化ステップにおいては、コイルの内側を通り且つコイルの軸に平行な区間を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に混合物を硬化させて磁気コアを形成する。
【0021】
上述したような電気経路に対して通電することでコイルの軸の周りに周回するような磁界を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うことにより、良好な直流電流重畳特性を有する磁性素子を得ることができる。以下、複数の実施の形態による磁性素子の製造方法について、特に、電気経路の形成に関する具体的構造を主として、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1乃至図3を参照すると、本発明の第1の実施の形態による磁性素子10aは、ケース(容器:型)20aと、コイル30aと、磁気コア40aとを備えている。
【0023】
ケース20aは、導電性材料からなるものであり、図2及び図3に示されるように、外周壁部22aと、外周壁部22aの下端を塞ぐ底部24aと、底部24aから上方に向かって延びる通電部材26aとを備えている。即ち、本実施の形態による通電部材26aは、外周壁部22a及び底部24aと一体形成されている。また、通電部材26aは、底部24aの中心近傍に位置している。
【0024】
コイル30aは、絶縁された平角線(本実施の形態においては、平角銅線)をエッジワイズ巻きして得られる略円筒形の形状を有するエッジワイズコイルを有している。特に、本実施の形態によるコイル30aにおいては、エッジワイズコイルの耐電圧特性を向上させるなどの観点から、エッジワイズコイルを絶縁樹脂で包含してある。
【0025】
このコイル30aは、その内側に通電部材26aが位置するように(即ち、コイル30aにより通電部材26aを径方向において取り囲むように)ケース20a内に配置される。本実施の形態においては、コイル30aをケース20a内に配置した状態において、コイル30aの軸が垂直方向に沿っており且つ通電部材26aの軸と一致するように延びている。
【0026】
磁気コア40aは、磁性体粉末と樹脂とを混合して得られるスラリー状の混合物を硬化してなるものである。磁性体粉末としては、例えば、金属系の粉末などを用いることができる。具体的には、Fe−Si6.5%材のガスアトマイズ粉末又は水アトマイズ粉末などのダスト粉末を用いることができる。樹脂としては、例えば、熱硬化性の液状の樹脂などを用いることができる。具体的には、樹脂は、スラリーにしたときの流動性を確保する観点から低粘度のものが好ましい。この種の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂などがある。混合物には、透磁率の調整のために、アルミナ粉末やシリカ粉末などを混合することとしてもよい。
【0027】
磁気コア40aは、上述したようにケース20a内にコイル30aを配置した状態において混合物をケース20a内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0028】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に通電部材26aに対して電気を通し、それによってコイル30aの軸の周りを周回するような磁界(図3の矢印参照)を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10aの磁気コア40aでは、周方向(コイル30aの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10aは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0029】
通電部材26aへの具体的な通電は、通電部材26aと外周壁部22aとを底部24a以外の手段で接続し、外周壁部22a、底部24a及び通電部材26aを通る電気経路を構成した上で、その電気経路に電気を流すことで行われる。この際、通電部材26aと外周壁部22aとを接続する経路が一つだけであると、漏れ磁束が生じ、全周に亘って周回する磁界が作れない恐れがある。従って、通電部材26aと外周壁部22aとは2カ所以上にて並列に接続しつつ給電することが好ましい。かかる観点から本実施の形態においては、図4に示されるように、4ヶ所にて並列に接続しつつ給電している。
【0030】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10aは、ケース20a内に立設された通電部材26aを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10aは、車載用のインバータ等の電源回路に用いられるリアクトル等の大電流が流れる用途に適している。
【0031】
(第2の実施の形態)
上述した第1の実施の形態による磁性素子10aにおいて通電部材26aはケース(容器:型)20aの一部として形成されていたものであったが(図3参照)、図5乃至図7に示されるように、本発明の第2の実施の形態による磁性素子10bはケース(容器:型)20bとは別体である(特に、図7参照)。
【0032】
詳しくは、図5乃至図7を参照すると、本実施の形態による磁性素子10bは、ケース(容器:型)20bと、通電部材26bと、コイル30bと、磁気コア40bとを備えている。
【0033】
ケース20bは、導電性材料からなるものであり、図6及び図7に示されるように、外周壁部22bと、外周壁部22bの下端を塞ぐ底部24bとを備えている。
【0034】
通電部材26bは、底部24bと接触し且つ底部24bから上方に向かって延びるようにケース20b内に配置されている。本実施の形態による通電部材26bは、ボビンに類する形状を有しており、底部24bの中心近傍に位置している。
【0035】
コイル30bは、第1の実施の形態によるコイル30aと同じものである。このコイル30bは、その内側に通電部材26bが位置するように(即ち、コイル30bにより通電部材26bを径方向において取り囲むように)ケース20b内に配置される。本実施の形態においては、コイル30bをケース20b内に配置した状態において、コイル30bの軸が垂直方向に沿っており且つ通電部材26bの軸と一致するように延びている。
【0036】
磁気コア40bは、第1の実施の形態による磁気コア40aと同じ材料からなる。この磁気コア40bは、上述したようにケース20b内にコイル30bを配置した状態において混合物をケース20b内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0037】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に通電部材26bに対して電気を通し、それによってコイル30bの軸の周りを周回するような磁界(図7の矢印参照)を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10bの磁気コア40bでは、周方向(コイル30bの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10bは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0038】
通電部材26bへの具体的な通電は、通電部材26bと外周壁部22bとを底部24b以外の手段で接続し、外周壁部22b、底部24b及び通電部材26bを通る電気経路を構成した上で、その電気経路に電気を流すことで行われる。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の理由から、通電部材26bと外周壁部22bとは2カ所以上にて並列に接続しつつ給電することが好ましい。
【0039】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10bは、ケース20b内に配置固定された通電部材26bを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10bは、第1の実施の形態と同様に、大電流が流れる用途に適している。
【0040】
(第3の実施の形態)
上述した第1及び第2の実施の形態による磁性素子10a,10bの製造方法においては、磁性素子10a,10bの一部である通電部材26a,26bに電流を流していたが(図3及び図7参照)、図10に示されるように、本発明の第3の実施の形態による磁性素子10cの製造方法においては、磁性素子10cとは別体の通電部材50を用い、その通電部材50に電流を流すことにより、磁界を発生させることとしている。
【0041】
詳しくは、図8乃至図10を参照すると、本実施の形態による磁性素子10cは、ケース(容器:型)20cと、コイル30cと、磁気コア40cとを備えている。
【0042】
ケース20cは、図9及び図10に示されるように、筒状の通電部材収容部26cと、外周壁部22cと、通電部材収容部26cと外周壁部22cとを接続する底部24cとを備えている。通電部材収容部26cは、底部24cから上方に向かって延びており、且つ、底部24cの中心近傍に位置している。
【0043】
コイル30cは、第1の実施の形態によるコイル30aと同じものである。このコイル30cは、その内側に通電部材収容部26cが位置するように(即ち、コイル30cにより通電部材収容部26cを径方向において取り囲むように)ケース20c内に配置される。本実施の形態においては、コイル30cをケース20c内に配置した状態において、コイル30cの軸が垂直方向に沿っており且つ通電部材収容部26cの軸と一致するように延びている。
【0044】
磁気コア40cは、第1の実施の形態による磁気コア40cと同じ材料からなる。この磁気コア40cは、上述したようにケース20c内にコイル30cを配置した状態において混合物をケース20c内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0045】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に通電部材収容部26c内に通電部材50を挿入し、その通電部材50に対して電気を通し、それによってコイル30cの軸の周りを周回するような磁界(図10の矢印参照)を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10cの磁気コア40cでは、周方向(コイル30cの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10cは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0046】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10cは、ケース20cを垂直方向において貫通する通電部材収容部26cを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10cは、第1の実施の形態と同様に、大電流が流れる用途に適している。
【0047】
(第4の実施の形態)
上述した第1乃至第3の実施の形態による磁性素子10a,10b,10cの製造方法においては、通電部材26a,26b,50に電流を流していたが(図3、図7及び図10参照)、他の手段によって磁界を発生させることとしてもよい。
【0048】
図11を参照すると、本発明の第4の実施の形態による磁性素子10dは、ケース(容器:型)20dに導線60を巻き付け、その導線60を用いて磁界を発生させることとしている。
【0049】
詳しくは、図11を参照すると、本実施の形態による磁性素子10dは、ケース20dと、コイル30dと、磁気コア40dとを備えている。
【0050】
ケース20dは、筒部26dと、外周壁部22dと、筒部26dと外周壁部22dとを接続する底部とを備えている。筒部26dは、底部から上方に向かって延びており、且つ、底部の中心近傍に位置している。
【0051】
コイル30dは、第1の実施の形態によるコイル30aと同じものである。このコイル30dは、その内側に筒部26dが位置するように(即ち、コイル30dにより筒部26dを径方向において取り囲むように)ケース20d内に配置される。本実施の形態においては、コイル30dをケース20d内に配置した状態において、コイル30dの軸が垂直方向に沿っており且つ筒部26dの軸と一致するように延びている。
【0052】
磁気コア40dは、第1の実施の形態による磁気コア40aと同じ材料からなる。この磁気コア40dは、上述したようにケース20d内にコイル30dを配置した状態において混合物をケース20d内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0053】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に筒部26dの内側を通るように導線60をケース20dに対して巻き付けた状態で、その導線60に対して電気を通し、それによってコイル30dの軸の周りを周回するような磁界を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10dの磁気コア40dでは、周方向(コイル30dの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10dは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0054】
導線60が1ターンだけであると、漏れ磁束が生じてしまい、全周に亘って周回する磁界が作れない恐れがある。従って、導線60はケース20dに対して2ターン以上巻き付けられることが好ましい。かかる観点から本実施の形態においては、ケース20dに対して8ターン巻き付けられている。
【0055】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10dは、ケース20dを垂直方向において貫通する筒部26dを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10dは、第1の実施の形態と同様に、大電流が流れる用途に適している。
【0056】
上述した第1乃至第4の実施の形態においては、磁性素子10a〜10dのケース20a〜20dと混合物を注型する容器(型)とが同一である場合について説明してきたが、本発明はこれに限定されるわけではない。例えば、離型性のある容器(型)内にコイルを配置した状態でその容器(型)内に混合物を流し込んだ後、混合物を硬化させて抜き出して、容器(型)とは異なるケースに組み込むこととしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10a,10b,10c,10d 磁性素子
20a,20b,20c,20d ケース(容器:型)
22a,22b,22c,22d 外周壁部
24a,24b,24c 底部
26a,26b 通電部材
26c 通電部材収容部
26d 筒部
30a,30b,30c,30d コイル
40a,40b,40c,40d 磁気コア(混合物)
50 通電部材
60 導線
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性素子の製造方法とそれによって製造される磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
容器(型)内にコイルを配置した状態で磁性体粉末と樹脂を混合してなる混合物を容器内に流し込み、混合物を磁気コアとして加熱硬化させることにより、磁性素子を製造する方法(所謂、「注型法」)が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特に、特許文献1の製造方法においては、加熱硬化の際にコイルに通電することにより、混合物の硬化の促進を図ることとしている(特許文献1の0007段落及び特許文献2の第4頁左上欄最下段落参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−135549号公報
【特許文献2】特開昭48−1724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の製造方法によると、好ましい直流電流重畳特性を有する磁性素子が得られない。そのため、特許文献1や特許文献2の磁性素子は、車載用のインバータ等の電源回路に用いられるリアクトル等の大電流が流れる用途には不向きである。
【0006】
そこで、本発明は、好ましい直流電流重畳特性を有する磁性素子を得ることのできるように改善された注型法及びそれにより製造された磁性素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、第1の磁性素子の製造方法として、
容器内にコイルを配置した状態で、磁性体粉末と樹脂との混合物を前記容器内に流し込む注型ステップと、
前記コイルの内側を通る区間であって前記コイルの軸に平行である区間を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に前記混合物を硬化させて磁気コアを形成する硬化ステップと
を備える磁性素子の製造方法が得られる。
【0008】
また、本発明によれば、第2の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に延びる通電部材とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、第3の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記底部と接触し且つ上方に向かって延びるように前記容器内に通電部材を配置した状態で、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記容器の前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、第4の磁性素子の製造方法として、第2又は第3の磁性素子の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを2カ所以上にて並列接続して前記電気経路に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第5の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材収容部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材収容部内に通電部材を挿入し且つ当該通電部材に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、第6の磁性素子の製造方法として、第1の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記筒部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記筒部の内側を通るように導線を前記容器に対して巻き付けた状態で前記導線に通電する
磁性素子の製造方法が得られる。
【0013】
更に、本発明によれば、第7の磁性素子の製造方法として、第6の磁性素子の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記導線は、前記容器に対して2ターン以上巻き付けられる
磁性素子の製造方法が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に向かって延びる通電部材とを有するケースと、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有するケースと、
前記底部と接触するように前記ケース内に配置され、前記底部から上方に向かって延びる通電部材と、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、
筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記通電部材収容部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、
筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記筒部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子が得られる。
【発明の効果】
【0018】
コイルの内側を通る区間であってコイルの軸と平行な区間を含む電気経路に対して通電すると、コイルを上方から見た場合に区間の周りを周回するような磁界が発生して、混合物内の磁性体粉末の配置などに影響を与えるものと予想される。例えば、磁性体粉末が球形でなかった場合には、その形状に起因して磁性体粉末の配向が行われるものと予想され、磁性体粉末が球形であった場合には、串団子のように連なって整列するものと予想される。更に、上述の電気経路に通電したことにより生じる磁界は、磁性素子の動作時の磁界(「動作磁界」)と直交しているので、磁性体粉末の多くは動作磁界と直交する方向に配向・整列されているものと予想される。かかる磁性体粉末の配向・整列によれば、磁性素子の動作中における磁気抵抗を上げることができるため、優れた直流電流重畳特性を有する磁性素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態による磁性素子を示す斜視図である。
【図2】図1の磁性素子を構成するケース(容器:型)とコイルとを示す斜視図である。
【図3】図1の磁性素子をIII--III線に沿って示す断面図である。
【図4】図1の磁性素子の製造方法における通電状態を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態による磁性素子を示す斜視図である。
【図6】図5の磁性素子を構成するケース(容器:型)とコイルとを示す斜視図である。
【図7】図5の磁性素子をVII--VII線に沿って示す断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態による磁性素子を示す斜視図である。
【図9】図8の磁性素子を構成するケース(容器:型)とコイルとを示す斜視図である。
【図10】図8の磁性素子をX--X線に沿って示す断面図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態による磁性素子の製造方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態による磁性素子の製造方法は、注型ステップと硬化ステップとの2つのステップを備えている。注型ステップにおいては、容器(型)内にコイルを配置した状態で磁性体粉末と樹脂との混合物を容器内に流し込む。硬化ステップにおいては、コイルの内側を通り且つコイルの軸に平行な区間を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に混合物を硬化させて磁気コアを形成する。
【0021】
上述したような電気経路に対して通電することでコイルの軸の周りに周回するような磁界を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うことにより、良好な直流電流重畳特性を有する磁性素子を得ることができる。以下、複数の実施の形態による磁性素子の製造方法について、特に、電気経路の形成に関する具体的構造を主として、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1乃至図3を参照すると、本発明の第1の実施の形態による磁性素子10aは、ケース(容器:型)20aと、コイル30aと、磁気コア40aとを備えている。
【0023】
ケース20aは、導電性材料からなるものであり、図2及び図3に示されるように、外周壁部22aと、外周壁部22aの下端を塞ぐ底部24aと、底部24aから上方に向かって延びる通電部材26aとを備えている。即ち、本実施の形態による通電部材26aは、外周壁部22a及び底部24aと一体形成されている。また、通電部材26aは、底部24aの中心近傍に位置している。
【0024】
コイル30aは、絶縁された平角線(本実施の形態においては、平角銅線)をエッジワイズ巻きして得られる略円筒形の形状を有するエッジワイズコイルを有している。特に、本実施の形態によるコイル30aにおいては、エッジワイズコイルの耐電圧特性を向上させるなどの観点から、エッジワイズコイルを絶縁樹脂で包含してある。
【0025】
このコイル30aは、その内側に通電部材26aが位置するように(即ち、コイル30aにより通電部材26aを径方向において取り囲むように)ケース20a内に配置される。本実施の形態においては、コイル30aをケース20a内に配置した状態において、コイル30aの軸が垂直方向に沿っており且つ通電部材26aの軸と一致するように延びている。
【0026】
磁気コア40aは、磁性体粉末と樹脂とを混合して得られるスラリー状の混合物を硬化してなるものである。磁性体粉末としては、例えば、金属系の粉末などを用いることができる。具体的には、Fe−Si6.5%材のガスアトマイズ粉末又は水アトマイズ粉末などのダスト粉末を用いることができる。樹脂としては、例えば、熱硬化性の液状の樹脂などを用いることができる。具体的には、樹脂は、スラリーにしたときの流動性を確保する観点から低粘度のものが好ましい。この種の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂などがある。混合物には、透磁率の調整のために、アルミナ粉末やシリカ粉末などを混合することとしてもよい。
【0027】
磁気コア40aは、上述したようにケース20a内にコイル30aを配置した状態において混合物をケース20a内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0028】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に通電部材26aに対して電気を通し、それによってコイル30aの軸の周りを周回するような磁界(図3の矢印参照)を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10aの磁気コア40aでは、周方向(コイル30aの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10aは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0029】
通電部材26aへの具体的な通電は、通電部材26aと外周壁部22aとを底部24a以外の手段で接続し、外周壁部22a、底部24a及び通電部材26aを通る電気経路を構成した上で、その電気経路に電気を流すことで行われる。この際、通電部材26aと外周壁部22aとを接続する経路が一つだけであると、漏れ磁束が生じ、全周に亘って周回する磁界が作れない恐れがある。従って、通電部材26aと外周壁部22aとは2カ所以上にて並列に接続しつつ給電することが好ましい。かかる観点から本実施の形態においては、図4に示されるように、4ヶ所にて並列に接続しつつ給電している。
【0030】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10aは、ケース20a内に立設された通電部材26aを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10aは、車載用のインバータ等の電源回路に用いられるリアクトル等の大電流が流れる用途に適している。
【0031】
(第2の実施の形態)
上述した第1の実施の形態による磁性素子10aにおいて通電部材26aはケース(容器:型)20aの一部として形成されていたものであったが(図3参照)、図5乃至図7に示されるように、本発明の第2の実施の形態による磁性素子10bはケース(容器:型)20bとは別体である(特に、図7参照)。
【0032】
詳しくは、図5乃至図7を参照すると、本実施の形態による磁性素子10bは、ケース(容器:型)20bと、通電部材26bと、コイル30bと、磁気コア40bとを備えている。
【0033】
ケース20bは、導電性材料からなるものであり、図6及び図7に示されるように、外周壁部22bと、外周壁部22bの下端を塞ぐ底部24bとを備えている。
【0034】
通電部材26bは、底部24bと接触し且つ底部24bから上方に向かって延びるようにケース20b内に配置されている。本実施の形態による通電部材26bは、ボビンに類する形状を有しており、底部24bの中心近傍に位置している。
【0035】
コイル30bは、第1の実施の形態によるコイル30aと同じものである。このコイル30bは、その内側に通電部材26bが位置するように(即ち、コイル30bにより通電部材26bを径方向において取り囲むように)ケース20b内に配置される。本実施の形態においては、コイル30bをケース20b内に配置した状態において、コイル30bの軸が垂直方向に沿っており且つ通電部材26bの軸と一致するように延びている。
【0036】
磁気コア40bは、第1の実施の形態による磁気コア40aと同じ材料からなる。この磁気コア40bは、上述したようにケース20b内にコイル30bを配置した状態において混合物をケース20b内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0037】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に通電部材26bに対して電気を通し、それによってコイル30bの軸の周りを周回するような磁界(図7の矢印参照)を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10bの磁気コア40bでは、周方向(コイル30bの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10bは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0038】
通電部材26bへの具体的な通電は、通電部材26bと外周壁部22bとを底部24b以外の手段で接続し、外周壁部22b、底部24b及び通電部材26bを通る電気経路を構成した上で、その電気経路に電気を流すことで行われる。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の理由から、通電部材26bと外周壁部22bとは2カ所以上にて並列に接続しつつ給電することが好ましい。
【0039】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10bは、ケース20b内に配置固定された通電部材26bを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10bは、第1の実施の形態と同様に、大電流が流れる用途に適している。
【0040】
(第3の実施の形態)
上述した第1及び第2の実施の形態による磁性素子10a,10bの製造方法においては、磁性素子10a,10bの一部である通電部材26a,26bに電流を流していたが(図3及び図7参照)、図10に示されるように、本発明の第3の実施の形態による磁性素子10cの製造方法においては、磁性素子10cとは別体の通電部材50を用い、その通電部材50に電流を流すことにより、磁界を発生させることとしている。
【0041】
詳しくは、図8乃至図10を参照すると、本実施の形態による磁性素子10cは、ケース(容器:型)20cと、コイル30cと、磁気コア40cとを備えている。
【0042】
ケース20cは、図9及び図10に示されるように、筒状の通電部材収容部26cと、外周壁部22cと、通電部材収容部26cと外周壁部22cとを接続する底部24cとを備えている。通電部材収容部26cは、底部24cから上方に向かって延びており、且つ、底部24cの中心近傍に位置している。
【0043】
コイル30cは、第1の実施の形態によるコイル30aと同じものである。このコイル30cは、その内側に通電部材収容部26cが位置するように(即ち、コイル30cにより通電部材収容部26cを径方向において取り囲むように)ケース20c内に配置される。本実施の形態においては、コイル30cをケース20c内に配置した状態において、コイル30cの軸が垂直方向に沿っており且つ通電部材収容部26cの軸と一致するように延びている。
【0044】
磁気コア40cは、第1の実施の形態による磁気コア40cと同じ材料からなる。この磁気コア40cは、上述したようにケース20c内にコイル30cを配置した状態において混合物をケース20c内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0045】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に通電部材収容部26c内に通電部材50を挿入し、その通電部材50に対して電気を通し、それによってコイル30cの軸の周りを周回するような磁界(図10の矢印参照)を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10cの磁気コア40cでは、周方向(コイル30cの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10cは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0046】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10cは、ケース20cを垂直方向において貫通する通電部材収容部26cを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10cは、第1の実施の形態と同様に、大電流が流れる用途に適している。
【0047】
(第4の実施の形態)
上述した第1乃至第3の実施の形態による磁性素子10a,10b,10cの製造方法においては、通電部材26a,26b,50に電流を流していたが(図3、図7及び図10参照)、他の手段によって磁界を発生させることとしてもよい。
【0048】
図11を参照すると、本発明の第4の実施の形態による磁性素子10dは、ケース(容器:型)20dに導線60を巻き付け、その導線60を用いて磁界を発生させることとしている。
【0049】
詳しくは、図11を参照すると、本実施の形態による磁性素子10dは、ケース20dと、コイル30dと、磁気コア40dとを備えている。
【0050】
ケース20dは、筒部26dと、外周壁部22dと、筒部26dと外周壁部22dとを接続する底部とを備えている。筒部26dは、底部から上方に向かって延びており、且つ、底部の中心近傍に位置している。
【0051】
コイル30dは、第1の実施の形態によるコイル30aと同じものである。このコイル30dは、その内側に筒部26dが位置するように(即ち、コイル30dにより筒部26dを径方向において取り囲むように)ケース20d内に配置される。本実施の形態においては、コイル30dをケース20d内に配置した状態において、コイル30dの軸が垂直方向に沿っており且つ筒部26dの軸と一致するように延びている。
【0052】
磁気コア40dは、第1の実施の形態による磁気コア40aと同じ材料からなる。この磁気コア40dは、上述したようにケース20d内にコイル30dを配置した状態において混合物をケース20d内に流し込み、その混合物を硬化させることにより得られる。
【0053】
本実施の形態においては、この硬化処理の際に又は硬化処理の前に筒部26dの内側を通るように導線60をケース20dに対して巻き付けた状態で、その導線60に対して電気を通し、それによってコイル30dの軸の周りを周回するような磁界を生じさせ、その磁界によって磁性体粉末の配向・整列を行うこととしている。このようにして製造された磁性素子10dの磁気コア40dでは、周方向(コイル30dの巻回されている方向)における透磁率と周方向と直交する方向における透磁率が5%以上異なっている。このため、磁性素子10dは、良好な直流電流重畳特性を呈することができる。
【0054】
導線60が1ターンだけであると、漏れ磁束が生じてしまい、全周に亘って周回する磁界が作れない恐れがある。従って、導線60はケース20dに対して2ターン以上巻き付けられることが好ましい。かかる観点から本実施の形態においては、ケース20dに対して8ターン巻き付けられている。
【0055】
本実施の形態による製造方法により製造された磁性素子10dは、ケース20dを垂直方向において貫通する筒部26dを備えているといった構造的特徴に加えて、上述したように、優れた直流電流重畳特性を有している。従って、磁性素子10dは、第1の実施の形態と同様に、大電流が流れる用途に適している。
【0056】
上述した第1乃至第4の実施の形態においては、磁性素子10a〜10dのケース20a〜20dと混合物を注型する容器(型)とが同一である場合について説明してきたが、本発明はこれに限定されるわけではない。例えば、離型性のある容器(型)内にコイルを配置した状態でその容器(型)内に混合物を流し込んだ後、混合物を硬化させて抜き出して、容器(型)とは異なるケースに組み込むこととしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10a,10b,10c,10d 磁性素子
20a,20b,20c,20d ケース(容器:型)
22a,22b,22c,22d 外周壁部
24a,24b,24c 底部
26a,26b 通電部材
26c 通電部材収容部
26d 筒部
30a,30b,30c,30d コイル
40a,40b,40c,40d 磁気コア(混合物)
50 通電部材
60 導線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内にコイルを配置した状態で、磁性体粉末と樹脂との混合物を前記容器内に流し込む注型ステップと、
前記コイルの内側を通る区間であって前記コイルの軸に平行である区間を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に前記混合物を硬化させて磁気コアを形成する硬化ステップと
を備える磁性素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に延びる通電部材とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記底部と接触し且つ上方に向かって延びるように前記容器内に通電部材を配置した状態で、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記容器の前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを2カ所以上にて並列接続して前記電気経路に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材収容部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材収容部内に通電部材を挿入し且つ当該通電部材に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記筒部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記筒部の内側を通るように導線を前記容器に対して巻き付けた状態で前記導線に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の磁性素子の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記導線は、前記容器に対して2ターン以上巻き付けられる
磁性素子の製造方法。
【請求項8】
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に向かって延びる通電部材とを有するケースと、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【請求項9】
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有するケースと、
前記底部と接触するように前記ケース内に配置され、前記底部から上方に向かって延びる通電部材と、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【請求項10】
筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記通電部材収容部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【請求項11】
筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記筒部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【請求項1】
容器内にコイルを配置した状態で、磁性体粉末と樹脂との混合物を前記容器内に流し込む注型ステップと、
前記コイルの内側を通る区間であって前記コイルの軸に平行である区間を含む電気経路に対して少なくとも一時的に通電しながら又は通電した後に前記混合物を硬化させて磁気コアを形成する硬化ステップと
を備える磁性素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に延びる通電部材とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、導電性材料からなるものであり、且つ、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有しており、
前記注型ステップにおいて、前記底部と接触し且つ上方に向かって延びるように前記容器内に通電部材を配置した状態で、前記コイルの内部に前記通電部材が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記容器の前記外周壁部とを前記底部以外の手段で接続して前記電気経路を構成した上で当該電気経路に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材と前記外周壁部とを2カ所以上にて並列接続して前記電気経路に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記通電部材収容部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記通電部材収容部内に通電部材を挿入し且つ当該通電部材に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の磁性素子の製造方法であって、
前記容器は、筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するものであり、
前記注型ステップにおいて、前記コイルの内部に前記筒部が位置するように前記コイルを前記容器内に配置し、且つ、前記容器内に前記混合物を流し込み、
前記硬化ステップにおいて、前記筒部の内側を通るように導線を前記容器に対して巻き付けた状態で前記導線に通電する
磁性素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の磁性素子の製造方法であって、
前記硬化ステップにおいて、前記導線は、前記容器に対して2ターン以上巻き付けられる
磁性素子の製造方法。
【請求項8】
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部と、前記底部から上方に向かって延びる通電部材とを有するケースと、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【請求項9】
導電性材料からなるケースであって、外周壁部と、前記外周壁部の下端を塞ぐ底部とを有するケースと、
前記底部と接触するように前記ケース内に配置され、前記底部から上方に向かって延びる通電部材と、
前記通電部材を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【請求項10】
筒状の通電部材収容部と、外周壁部と前記通電部材収容部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記通電部材収容部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【請求項11】
筒部と、外周壁部と、前記筒部と前記外周壁部とを接続する底部とを有するケースと、
前記筒部を囲むように前記ケース内に配置されたコイルと、
磁性体粉末と樹脂との混合物を前記ケース内に流し込んで前記コイルが少なくとも部分的に前記混合物に埋設された状態で前記混合物を硬化してなる磁気コアと
を備える磁性素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−33727(P2012−33727A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172352(P2010−172352)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】
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