説明

磁気カップリング

【課題】簡単な構成で、相対する磁石によって駆動軸と被駆動軸とが互いに引き合うことで生じる、カップリングロスを軽減できるようにした磁気カップリングを提供することが課題である。
【解決手段】非磁性体からなる隔壁を挟んで相対して設けられた駆動軸と被駆動軸に、互いに引き合う極性となる第1の磁石体を磁石体保持部に保持させた磁気カップリングにおいて、磁石体保持部に第2の磁石体をもたせると共に、少なくとも一部を、駆動軸と被駆動軸の隔壁側軸心をそれぞれ頂点として半径方向に遠ざかるに従い、隔壁との離間距離が大きくなるよう構成して磁気粘弾性流体を保持させ、磁石体保持部の磁力と、磁石体保持部の回転に伴って回転する前記磁気粘弾性流体の表面張力と遠心力とにより、駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ前記隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力を生じさせるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気カップリングに係り、特に、非磁性体からなる隔壁を挟んで相対して設けられた駆動軸と被駆動軸のそれぞれ軸心から所定距離に、前記隔壁を挟んで相対して設けられた互いに引き合う磁石体からなる磁気カップリングにおいて、相対する磁石によって駆動軸と被駆動軸とが互いに引き合うことで生じる軸負荷を軽減できるようにした、磁気カップリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気カップリングは、磁石の引力、斥力を利用し、非接触で駆動軸側駆動力を被駆動軸側に伝える駆動力伝達機構である。この磁気カップリングは、駆動軸と被駆動軸とが非接触であるから、被駆動軸側を外部と完全に隔離した状況でも駆動力伝達が可能である。そのため被駆動軸側を、例えば高圧や真空状態、猛毒物質や放射性物質を収容した容器内など、軸を貫通させると気体や物質が進入したり漏れだしたりする可能性がある場合や、人工心臓のようにモータ側に血液が流れると事故が起きる可能性がある場合、などに用いて好適な駆動力伝達機構である。
【0003】
このように密閉した容器に設けられた被駆動軸に、磁気カップリングによって駆動力を伝えるようにした先行技術としては、例えば特許文献1に示された流体制御用バルブへの駆動力伝達機構がある。この特許文献1に示された技術では、密閉された弁箱を構成する隔壁を挟み、弁箱外側にモータを設けて弁箱内側に設けられた被駆動軸を互いに対面する一対の磁気継手で駆動すると共に、モータ軸と弁箱内側の被駆動軸のそれぞれ軸方向にバネを設け、駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ隔壁側に押圧して弾力的に支持し、作動停止直後の慣性力などで生じる振動や騒音の発生を防止すると共に、振動等に起因する駆動モータや機械部品類の寿命低下を防ぐようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−78152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこの特許文献1に示された駆動力伝達機構では、モータ軸と被駆動軸とは磁気カップリングによって互いに引き合う方向の力も加えられ、さらにモータ軸と被駆動軸のそれぞれをバネにより隔壁側に押圧しているため、例え潤滑油を用いたとしても軸と隔壁との接触により回転エネルギーが消費される。また、摩耗が発生すると共に焼き付く可能性もある。こういったことを防ぐため、軸端が隔壁に接しないようにスラスト側で固定するスラスト軸受けを設けたものも存在するが、この場合も磁気カップリングによる引き合う力でスラスト方向の力が軸受けにかかり、摩擦力が発生してカップリングロスが生じる。
【0006】
そのため本発明においては、非常に簡単な構成で、相対する磁石、または磁性体と磁石によって駆動軸と被駆動軸とが互いに引き合うことで生じる、カップリングロス、即ち軸負荷を軽減できるようにした磁気カップリングを提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明になる磁気カップリングは、
非磁性体からなる隔壁を挟んで相対し、軸心上に配された駆動軸と被駆動軸と、
該駆動軸と被駆動軸のそれぞれにおける前記軸心から半径方向に所定距離隔て、互いに引き合う極性として相対して配された複数の第1の磁石体と、前記駆動軸と被駆動軸のそれぞれに設けられて前記第1の磁石体を保持する磁石体保持部と、からなる磁気カップリングにおいて、
前記それぞれの磁石体保持部における前記軸心周囲領域に配された第2の磁石体と、該第2の磁石体の磁力で保持された磁気粘弾性流体とを有し、前記磁石体保持部は、少なくとも一部に前記隔壁側軸心をそれぞれ頂点として半径方向に遠ざかるに従って隔壁との離間距離が大きくなるよう形成され、
前記磁石体保持部の回転による前記磁気粘弾性流体の遠心力と表面張力及び第2の磁石体の磁力との合力により、前記第1の磁石体の引き合う力に抗して生じる前記駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ前記隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力により、低軸負荷としたことを特徴とする。
【0008】
同様に本発明になる磁気カップリングは、
非磁性体からなる隔壁を挟んで相対し、軸心上に配された駆動軸と被駆動軸と、該駆動軸と被駆動軸のそれぞれにおける前記軸心から半径方向に所定距離隔て、互いに引き合う極性として相対して配された複数の第1の磁石体と、前記駆動軸と被駆動軸のそれぞれに設けられて前記第1の磁石体を保持する磁石体保持部と、からなる磁気カップリングにおいて、
前記磁石体保持部の前記軸心周囲領域における磁力で保持された磁気粘弾性流体を有し、
前記それぞれの磁石体保持部は、少なくとも一部に前記隔壁側軸心をそれぞれ頂点として半径方向に遠ざかるに従って隔壁との離間距離が大きくなるよう形成されていると共に、磁性体を用いて前記軸心周囲領域に前記第1の磁石体により磁力を生じるよう構成され、
前記磁石体保持部の回転による前記磁気粘弾性流体の遠心力と表面張力及び前記磁石体保持部における軸心周囲領域の磁力との合力により、前記第1の磁石体の引き合う力に抗して生じる前記駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ前記隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力により、低軸負荷としたことを特徴とする。
【0009】
磁気粘弾性流体は、一般的に知られているように磁性流体と粘弾性流体とを混合したものであり、このうち磁性流体は、粒子径10nm程度のフェライトなどの強磁性微粒子の表面に界面活性剤を吸着させ、溶媒中に安定分散させた黒色不透明のコロイド溶液である。もう一方の粘弾性流体は、粘性と弾性の性質を併せ持つ非ニュートン流体で、高分子液体の弾性に起因する、回転でズリ変形を与えたときにズリ応力以外に法線応力(回転方向(ラジアル方向)に垂直な方向、即ちスラスト方向の応力)が発生する。
【0010】
そのため、このように磁石体保持部に第2の磁石体による磁力、または第1の磁石体により磁石体保持部軸心周囲領域に生じた磁力により磁気粘弾性流体を保持させ、磁気粘弾性流体保持面を回転させると、粘弾性流体における法線応力効果により回転方向に垂直な方向(スラスト方向)の応力が生じ、駆動軸と被駆動軸の隔壁との接触力が軽減(低軸負荷)されると共に、第2の磁石体による磁力、または第1の磁石体により磁石体保持部軸心周囲領域に生じている磁力は、カップリングの作用もするから、非常に簡単な構成で、カップリングロスを軽減できる磁気カップリングを提供することができる。
【0011】
そして、前記磁気粘弾性流体は、その表面張力と前記第2の磁石体の磁力とによる合力が、前記磁気粘弾性流体の回転により生じる遠心力と重力との合力よりも大きくなるよう設定され、また、前記磁気粘弾性流体は、その表面張力と前記磁石体保持部における軸心周囲領域の磁力とによる合力が、前記磁気粘弾性流体の回転により生じる遠心力と重力との合力よりも大きくなるよう選択されていることで、磁気粘弾性流体を磁石体保持部に保持し続けることができる。
【0012】
さらに、前記磁石体保持部は、前記隔壁側軸心を頂点とした円錐体形状とすることで、磁石体保持部を非常に簡単に形成(工作)することができる。
【0013】
そして、前記磁石体保持部は、前記隔壁側軸心を一端とし、円周方向に弧状に形成することで、駆動軸や被駆動軸から所定距離の円環状部位で磁気粘弾性流体を保持すれば、今度は磁気粘弾性流体の遠心力がスラスト方向応力となり、さらに駆動軸と被駆動軸の隔壁との接触力軽減が可能となる。
【0014】
また、前記磁石体保持部は、非回転状態で1または円環状部を含む複数の位置で前記隔壁と接触するようにすれば、駆動軸と被駆動軸とが非回転状態のときも安定して停止させることができる。
【0015】
そして、前記磁石体保持部が非回転状態で前記隔壁と接触する位置が、前記隔壁側軸心とすることで、駆動軸と被駆動軸とが非回転状態から回転状態になるときも、安定して回転状態にさせることができる。
【0016】
さらに、前記磁石体保持部が前記隔壁側軸心を一端とした弧状に形成され、前記駆動軸と被駆動軸とが非回転状態で前記磁石体保持部が前記隔壁と接触する部位が、前記弧状の円環状部に設けられていれば、駆動軸と被駆動軸とが非回転状態、回転状態のいずれであっても安定した状態にさせることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上記載のごとく本発明になる磁気カップリングは、少なくとも一部に前記隔壁側軸心をそれぞれ頂点として、半径方向に遠ざかるに従って隔壁との離間距離が大きくなるよう形成された磁石体保持部に磁気粘弾性流体を保持させることで、法線応力効果により回転方向に垂直な方向(スラスト方向)の応力が生じ、そのスラスト方向応力によって駆動軸と被駆動軸の隔壁との接触力が軽減されるから、非常に簡単な構成で、カップリングロスを軽減して低軸負荷とした、効率良く駆動力を伝達できると共に長寿命とすることのできる磁気カップリングを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明になる磁気カップリングの実施例1の、(A)が主要部の構成概略、(B)がトルク伝達用の磁石体(第1の磁石体)の配置状態の一例の図であり、図2は本発明になる磁気カップリングの実施例1の、(A)が磁気粘弾性流体を保持した磁石体保持部の拡大構成概略、(B)が磁気粘弾性流体により、駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力を生じさせる原理を説明するための図である。
【0020】
図中、10は本発明の磁気カップリング、11は被駆動軸、12はモータなどの駆動軸、13、14は磁気カップリングを構成する磁石体を保持する磁石体保持部(コーン)、15、15、15、16、16は磁気カップリングを構成する磁石体(以下、第1の磁石体と称する)、17は磁気粘弾性流体、18は隔壁、19は被駆動軸の回転方向、20は駆動軸の回転方向、26は磁気粘弾性流体を保持するための磁石体(以下、第2の磁石体と称する)である。
【0021】
磁石体保持部(コーン)13、14は、第2の磁石体26を軸心周辺領域に配した場合は、ステンレスなどの非磁性体で構成する。この磁石体保持部(コーン)13、14は、図2(A)に拡大構成概略を示したように、駆動軸12と被駆動軸11の隔壁18側軸心をそれぞれ頂点として、少なくとも一部に半径方向に遠ざかるに従って隔壁18との離間距離が大きくなるように構成され、この実施例1では円錐形状としてある。
【0022】
図1に戻って、この磁石体保持部(コーン)13、14における円錐形状部における隔壁18との角度は、図示したように略3°程度が好ましい。そしてこの実施例1の場合は、この磁石体保持部(コーン)13、14における円錐形状部と隔壁18との空隙に、第2の磁石体26による磁力で磁気粘弾性流体を17を保持するようにしてある。
【0023】
磁気カップリングを構成する第1の磁石体15、15、15、16、16は、図1(B)に示したように、駆動軸12と被駆動軸11の軸心から半径方向に所定距離隔てられて所定の角度(この図1(B)では90度)毎に設けられている。隔壁18は、ステンレス、樹脂、セラミックなどで形成されており、これら第1の磁石体15、15、15、16、16は、この隔壁18を挟み、相対した第1の磁石体が逆極性となるように、即ち第1の磁石体15、16の一方がN極なら他方がS極に、第1の磁石体15、15も一方がN極なら他方がS極にという具合に配置され、お互いに引き合うようになっている。なお、この第1の磁石体15、15、15、16、16は、一方を磁石として他方を鉄などの磁性体とし、一方の磁石の磁力で磁性体を引きつけるようにして磁気カップリングを構成しても良い。
【0024】
磁気粘弾性流体17は、一般的に知られているように磁性流体と粘弾性流体とを混合したものであり、このうち磁性流体は、例えばタイホーコウザイ株式会社の製品番号W−41のように、粒子径10nm程度のフェライトなどの強磁性微粒子の表面に界面活性剤を吸着させ、溶媒としての水に安定分散させた黒色不透明のコロイド溶液である。もう一方の粘弾性流体は、粘性と弾性の性質を併せ持つPolyacrylamide(PAA)などの非ニュートン流体であり、例えば三洋化成工業株式会社の名称「サンフロックAH−210P」などの、分子量約1.6×10、濃度7500ppm程度のものを用いる。
【0025】
また、図2(A)に示したように、磁石体保持部(コーン)13、14が、磁気粘弾性流体を保持するための第2の磁石体26により磁力を有することで、磁気粘弾性流体17がこの磁石体保持部(コーン)13、14と隔壁18との空隙に保持され、被駆動軸11と駆動軸12の回転によって磁気粘弾性流体17が回転しても飛散しないようになっている。
【0026】
そして、磁性流体と粘弾性流体とを混合した磁気粘弾性流体は、軸または磁気粘弾性流体保持面に回転を与えてズリ変形を起こしたとき、ズリ応力以外に法線応力(回転方向に垂直な方向、即ちスラスト方向の応力)効果が発生する。純粘性の場合はこのような現象は生じない。
【0027】
また、この磁気粘弾性流体17には、図2(A)に27の番号を付した部分の拡大図である図2(B)に示したように、磁気カップリング10を横置きにして回転させた場合、遠心力21と重力22とが作用する。そのため、磁気粘弾性流体17の表面張力23と、磁気粘弾性流体を保持するための第2の磁石体26の磁気体積力(磁力)24とによる合力が、この遠心力21と重力22との合力よりも大きくなるように選択することで、磁気粘弾性流体17の飛散を防ぐことができる。
【0028】
また、磁石体保持部(コーン)13、14が高速回転して磁気粘弾性流体17も一緒に回転すると、前記した法線応力効果によって25で示したスラスト方向応力が生じ、磁石体保持部(コーン)13、14を隔壁18とは逆方向に押圧するため、駆動軸12と被駆動軸11とがそれぞれ隔壁18から離反させる方向のスラスト応力を受け、隔壁18との接触力が軽減されて、非常に簡単な構成で、カップリングロスを軽減できる低軸負荷磁気カップリングを提供することができる。
【0029】
なお、駆動軸12と被駆動軸11における、それぞれ隔壁18との接触力が軽減されるためには、磁気粘弾性流体17を保持するための磁気粘弾性流体を保持するための第2の磁石体26の磁力と、スラスト方向応力25との合力が、駆動軸12と被駆動軸11(磁石体保持部13、14)を隔壁18離間させ、第1の磁石体15、15、15、16、16の互いに引き合う力と有る点で釣り合うようにする必要がある。
【0030】
このようにすることにより、スラスト軸受けや特許文献1に示されていたように、モータ軸と被駆動軸のそれぞれをバネにより隔壁側に押圧する機構などが不用で、軸(磁石体保持部13、14)と隔壁とが接触することで回転エネルギーが消費されたり、摩耗が発生すると共に焼き付く、といったことが起こることなく、簡単な構成でカップリングロスを軽減した、低軸負荷磁気カップリングを提供することが可能となる。
【0031】
図6は、本発明になる磁気カップリング10の、駆動軸12と被駆動軸11とをそれぞれ隔壁18から離反させる方向のスラスト方向応力を測定した実験装置の構成概略であり、図7はこの図6に示した実験装置により測定した、レオロジー特性のグラフである。
【0032】
図中、61はサーボモータ、62と63はサーボモータ61の駆動力を磁気カップリングに伝えるためのプーリーとタイミングベルト、64はトルクメータ、65はローティティングメータ、66は磁気カップリング、67は前記した磁気粘弾性流体、68は隔壁、69はスラスト方向応力を測定するスラストセンサ、70はダイナモメータ、71はA/Dコンバータ、72は測定結果を蓄積するコンピュータである。
【0033】
この実験に用いた供試流体は、磁性流体が前記したタイホーコウザイ株式会社の製品番号W−41で、密度が1.416[kg/m]、粘度が1.8×10−2[Pa・s]、飽和磁化が30.2[Wb/m]、平均粒子直径10−8[m]、体積濃度10.90[%]、磁気モーメント21.3[Wb・m/kg]、一粒子体積5.24×10−25[m]、数密度2.06×1023[個/m]、である。粘弾性流体は三洋化成工業株式会社の名称「サンフロックAH−210P」などの、分子量約1.6×10、濃度7500ppmのものを用いた。
【0034】
一方、磁気カップリングにおけるトルク伝達用の第1の磁石体15、15、15、16、16は、ネオジウム磁石で残留磁束密度が380mTのものを用い、磁石体間距離を5mm、トルク伝達容量0.55Mnとした。また磁気粘弾性流体を保持するための第2の磁石体26は、ネオジウム磁石、フェライト磁石で残留磁束密度が445mTのものと130mTのものを用いた。磁石体保持部(コーン)13、14は、1.5mm厚のSUS304を用い、円錐形状部における隔壁18との角度を略3°とした。隔壁68は1.5mm厚のSUS304である。
【0035】
図7はこの図6に示した実験装置により測定した、レオロジー特性のグラフである。図7(A)のグラフの横軸は剪断速度(sheer rate γ:回転速度と考えてよい)[1/s]、縦軸は粘度(viscosity η)[Pa・s]で、剪断速度(sheer rate γ)が大きくなるに従い、粘度(viscosity η)が小さくなっているのがわかる。また図7(B)のグラフは、横軸が剪断速度(sheer rate γ)[1/s]、縦軸がN1(回転方向に垂直な方向の法線応力)[Pa]で、剪断速度(sheer rate γ)が大きくなるに従い、N1(回転方向に垂直な方向の法線応力)が大きくなっているのがわかる。すなわち、図7(A)のグラフからは、粘度が剪断速度の増加により減少することが分かり、図7(B)のグラフからは、法線応力が剪断速度の増加により増加していることがわかる。
【実施例2】
【0036】
以上が本発明になる磁気カップリングであるが、本発明は図1に示した実施例1の形態だけでなく、種々の変形が可能である。まず図3は、本発明になる磁気カップリングの実施例2の磁石体保持部の構成概略である。
【0037】
この図3に示した磁気カップリングは、磁石体保持部(コーン)33、34の磁気粘弾性流体保持部35、36を、駆動軸12と被駆動軸11とにおける隔壁18側中心を一端とし、円周方向に弧状としたものである。このようにすると、弧状の磁気粘弾性流体保持部35、36は、磁気粘弾性流体保持部35、36の外縁側が円環状となり、その円環状部位でも磁気粘弾性流体17を保持すれば、今度は磁気粘弾性流体17の遠心力がスラスト方向応力となり、さらに駆動軸12と被駆動軸11の隔壁18との接触力軽減が可能となる。
【0038】
また、磁石体保持部(コーン)33、34が回転していない(非回転状態)とき、磁石体保持部(コーン)33、34の隔壁18側頂点が隔壁18に接するようにすることが一般的であるが、このように磁気粘弾性流体保持部35、36に円環状部が存在する場合、隔壁18に接する部位を円環状部に設けることで、駆動軸と被駆動軸とが非回転状態、回転状態のいずれであっても安定した状態にさせることができる。
【実施例3】
【0039】
図4は実施例3の磁気カップリングの磁石体保持部の構成概略である。この図4に示した実施例3の磁気カップリングは、磁石体保持部(コーン)43、44の磁気粘弾性流体保持部45、46を、駆動軸12と被駆動軸11とにおける隔壁18側中心を凸状として設け、磁石体保持部(コーン)43、44における第1の磁石体15、15、15、16、16が近接できるようにしたものである。このようにすることで、第1の磁石体15、15、15、16、16を近接させることができるから、より強力な磁気カップリングを提供することができる。
【実施例4】
【0040】
図5は実施例4の磁気カップリングの磁石体保持部の構成概略である。今まで説明してきた実施例1乃至4の磁気カップリングは、磁気粘弾性流体を保持するための第2の磁石体26が図1(B)、図2(A)に示したように磁石体保持部(コーン)13、14に設けられていた。しかしこの図5に示した実施例4の磁気カップリングの磁石体保持部53、54は、第2の磁石体26を持たず、その代わりに磁石体保持部53、54を磁性体で形成する。そして、磁気カップリング用の第1の磁石体15、15、15、16、16を、磁石体保持部(コーン)13、14のそれぞれで全て同一極性とし、磁石体保持部53、54に矢印で示したように、第1の磁石体15、15、15、16、16の磁力が磁石体保持部53、54の中を通り、軸心部に集中して磁気粘弾性流体17を保持できるようにしたものである。
【0041】
このようにすることで、磁気粘弾性流体を保持するための第2の磁石体26を磁石体保持部(コーン)13、14に設けた場合、その位置は被駆動軸11、駆動軸12の有る位置であるからドーナツ状の磁石体を用意するか、または被駆動軸11、駆動軸12を第2の磁石体の手前までとする必要があるのに対し、そういった特別な磁石を用意する必要や被駆動軸11、駆動軸12を短くする必要がなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、磁気カップリングにおける駆動軸と被駆動軸のカップリングロスを軽減でき、長寿命の磁気カップリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明になる磁気カップリングの実施例1の、(A)が主要部の構成概略、(B)がトルク伝達用の磁石体の配置状態の一例の図である。
【図2】本発明になる磁気カップリングの実施例1の、(A)が磁気粘弾性流体を保持した磁石体保持部の拡大構成概略、(B)が磁気粘弾性流体により、駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力を生じさせる原理を説明するための図である。
【図3】本発明になる磁気カップリングの実施例2の磁石体保持部の構成概略である。
【図4】本発明になる磁気カップリングの実施例3の磁石体保持部の構成概略である。
【図5】本発明になる磁気カップリングにおける磁石体保持部の磁力を、トルク伝達用第1の磁石体の磁力を用いるようにした実施例の構成概略である。
【図6】本発明になる磁気カップリングの、駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力を測定した実験装置の構成概略である。
【図7】図6に示した実験装置により測定したレオロジー特性のグラフである。
【符号の説明】
【0044】
10 磁気カップリング
11 被駆動軸
12 駆動軸
13、14 磁石体保持部(コーン)
15、15、15、16、16 第1の磁石体
17 磁気粘弾性流体
18 隔壁
19 被駆動軸の回転方向
20 駆動軸の回転方向
26 第2の磁石体
21 遠心力
22 重力
23 表面張力
24 磁気体積力(磁力)
25 スラスト方向応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体からなる隔壁を挟んで相対し、軸心上に配された駆動軸と被駆動軸と、
該駆動軸と被駆動軸のそれぞれにおける前記軸心から半径方向に所定距離隔て、互いに引き合う極性として相対して配された複数の第1の磁石体と、前記駆動軸と被駆動軸のそれぞれに設けられて前記第1の磁石体を保持する磁石体保持部と、からなる磁気カップリングにおいて、
前記それぞれの磁石体保持部における前記軸心周囲領域に配された第2の磁石体と、該第2の磁石体の磁力で保持された磁気粘弾性流体とを有し、前記磁石体保持部は、少なくとも一部に前記隔壁側軸心をそれぞれ頂点として半径方向に遠ざかるに従って隔壁との離間距離が大きくなるよう形成され、
前記磁石体保持部の回転による前記磁気粘弾性流体の遠心力と表面張力及び第2の磁石体の磁力との合力により、前記第1の磁石体の引き合う力に抗して生じる前記駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ前記隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力により、低軸負荷としたことを特徴とする磁気カップリング。
【請求項2】
前記磁気粘弾性流体は、その表面張力と前記第2の磁石体の磁力とによる合力が、前記磁気粘弾性流体の回転により生じる遠心力と重力との合力よりも大きくなるよう設定されていることを特徴とする請求項1に記載した磁気カップリング。
【請求項3】
非磁性体からなる隔壁を挟んで相対し、軸心上に配された駆動軸と被駆動軸と、該駆動軸と被駆動軸のそれぞれにおける前記軸心から半径方向に所定距離隔て、互いに引き合う極性として相対して配された複数の第1の磁石体と、前記駆動軸と被駆動軸のそれぞれに設けられて前記第1の磁石体を保持する磁石体保持部と、からなる磁気カップリングにおいて、
前記磁石体保持部の前記軸心周囲領域における磁力で保持された磁気粘弾性流体を有し、
前記それぞれの磁石体保持部は、少なくとも一部に前記隔壁側軸心をそれぞれ頂点として半径方向に遠ざかるに従って隔壁との離間距離が大きくなるよう形成されていると共に、磁性体を用いて前記軸心周囲領域に前記第1の磁石体により磁力を生じるよう構成され、
前記磁石体保持部の回転による前記磁気粘弾性流体の遠心力と表面張力及び前記磁石体保持部における軸心周囲領域の磁力との合力により、前記第1の磁石体の引き合う力に抗して生じる前記駆動軸と被駆動軸とをそれぞれ前記隔壁から離反させる方向のスラスト方向応力により、低軸負荷としたことを特徴とする磁気カップリング。
【請求項4】
前記磁気粘弾性流体は、その表面張力と前記磁石体保持部における軸心周囲領域の磁力とによる合力が、前記磁気粘弾性流体の回転により生じる遠心力と重力との合力よりも大きくなるよう選択されていることを特徴とする請求項3に記載した磁気カップリング。
【請求項5】
前記磁石体保持部は、前記隔壁側軸心を頂点とした円錐体形状であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載した磁気カップリング。
【請求項6】
前記磁石体保持部は、前記隔壁側軸心を一端とし、円周方向に弧状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載した磁気カップリング。
【請求項7】
前記磁石体保持部は、非回転状態で1または円環状部を含む複数の位置で前記隔壁と接触することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載した磁気カップリング。
【請求項8】
前記磁石体保持部が非回転状態で前記隔壁と接触する位置が、前記隔壁側軸心であることを特徴とする請求項7に記載した磁気カップリング。
【請求項9】
前記磁石体保持部が前記隔壁側軸心を一端とした弧状に形成され、前記駆動軸と被駆動軸とが非回転状態で前記磁石体保持部が前記隔壁と接触する部位が、前記弧状の円環状部に設けられていることを特徴とする請求項7に記載した磁気カップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−41764(P2010−41764A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199076(P2008−199076)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り [研究集会名]第3回複雑流体研究会セミナー(大学院生、若手研究者の発表会)、[主催者名]日本機械学会 流体工学部門複雑流体研究会、[開催日]平成20年6月14日
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】