説明

磁気シールド構造

【課題】セメント系硬化材の打設時に磁気シールド材が移動しないようにし、磁気シールド材同士の磁気的な連続性を確保する。
【解決手段】セメント系硬化材3を形造る型枠や構造物2と、補強材5との間に、細巾長尺に形成した磁気シールド材1を、適宜間隔づつ離隔して多数本を配して挟持し、補強5材とともにセメント系硬化材3の中に埋設する。磁気シールド材1がこの補強材5に接触するか、隣り合う磁気シールド材1の一方の端部を、他方の磁気シールド材1の端部と重ね合わせて磁気的な連続性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電流に起因する磁気的影響を軽減するための磁気シールド構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電流が流れると磁場が生ずることは知られているが、電車軌道のき電線およびレールのように高圧電流が流れる場所には、強い磁場が発生する。
近年、この磁場で発生する磁気による様々な影響が指摘されている。
例えば、テレビやパソコンのディスプレイなどの電子ビーム応用機器に影響を及ぼし、受信や受像の悪化を招くことがある。
或いは医療精密機器や、電子顕微鏡などの計測機器などの精度にも影響を与えるとも言われている。
更には、磁気が人体にも影響を及ぼし、ある種の病気を引き起こす原因ともなっているとの指摘もある。
【0003】
このような高圧電流が流れる場所近くでの磁気の影響を低減するため、高い透磁率を有する磁気シールド材を使用し、磁場の近くに配設することが採用されている。
磁気がこの磁気シールド材に収束して通過し、周辺へ流れる磁気を減じて、その影響を小さくするものである。
【0004】
出願人は、特開2007−239384号公報にかかる発明を開示している。
当該発明は、磁気シールド材をコンクリートやモルタルなどのセメント系硬化材の中に埋設して、防錆処理が不要で、損傷を受けにくい磁気シールド構造としたものである。
しかしながら、モルタルやコンクリートを型枠などの中へ打設する際に、その重みによって磁気シールド材が移動してしまうことがあった。
そのため、磁気シールド材を、モルタルやコンクリートを補強するための鉄筋や網筋などの補強材に結束して移動しないようにして、それからモルタルやコンクリートを打設していた。
しかしながら、多数本の磁気シールド材を結束するため、その作業手間が膨大で、施工期間が長くなる要因ともなっていた。
【0005】
本発明が他に課題とするのは、磁気シールド材同士の接続である。
磁気シールド材として採用する珪素鋼板は、通常1800mm×900mmの板材で製造され、これを10〜15mm程度の細巾の帯状材に切断して使用する。
つまり、その長手方向の長さは最大1800mmであって、それ以上の長さの磁気シールド材として使用するには、複数本を繋いで使用する必要があった。
この磁気シールド材同士を磁気的に連続させる適切な手段がなかった。
【特許文献1】特開2007−239384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は、セメント系硬化材の打設時に磁気シールド材が移動しないようにすることと、磁気シールド材同士の磁気的な連続性の確保である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる磁気シールド構造は、磁場を低減する磁気シールド構造であって、
セメント系硬化材を打設する型枠又は既存構造物と、補強材との間に、
適宜間隔づつ離隔して多数本の磁気シールド材を配して挟持し、
セメント系硬化材の中に埋設するものである。
本発明にかかる他の磁気シールド構造は、磁気シールド材は、細巾長尺の帯状シールド材を複数枚重ねて一体としてある。
本発明にかかる他の磁気シールド構造は、磁気シールド材を、磁気を発生させる導電線配置方向に直角に配してある。
本発明にかかる他の磁気シールド構造は、補強材が網筋である。
本発明にかかる他の磁気シールド構造は、補強材が磁性材料によって形成されており、複数本のうちの少なくともいずれかの磁気シールド材がこの補強材に接触して、補強材と磁気シールド材の間に磁気が透過するものである。
本発明にかかる他の磁気シールド構造は、補強材が、磁気シールド材の長手方向に連続して配されており、磁気シールド材の長手方向に隣り合う磁気シールド材の一方の端部を、他方の磁気シールド材の端部と重ねるラップ長を取り、つなぎ合わせるものである。
本発明にかかる他の磁気シールド構造は、磁気シールド材として方向性磁気シールド材を使用し、その高透磁率方向を、シールド材の長手方向と一致させるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以上のような構成を有し、次のうちの少なくともいずれか一つの効果を達成するものである。
<a>磁気シールド材は、モルタルやコンクリートなどのセメント系硬化材の中に埋設するため、磁気シールド材の錆付きが防止される。
<b>磁気シールド材を、セメント系硬化材を形造る型枠や構造物表面などの支持物と、補強材との間に配して挟持するため、結束せずともシールド材が移動することがなく、施工の手間が各段と少なくなり、施工期間を短くすることができる。
<c>磁気シールド材として、細巾長尺に形成した磁気シールド材を多数本、適宜間隔づつ離して配するため、打設するセメント系硬化材と既存の構造物などが磁気シールド材の間で連続し、両者の縁切れを生じさせない。
<d>補強筋として網筋を使用することにより、適宜間隔離隔させた多数本のシールド材の上に置くだけで、シールド材を押えることが出来る。
<e>補強材は磁性材料によって形成されており、複数本のうちの少なくともいずれかの磁気シールド材がこの補強材に接触することにより、補強材を経由して電気のように磁気が流れ、磁気的な連続性を確保することができる。
<f>補強材は、長手方向に連続して配し、長手方向に隣り合う磁気シールド材の一方を他方の磁気シールド材と重ねるラップ長を取ることによって、隣り合う磁気シールド材同士の磁性的連続性を保つことができる。
<g>磁気シールド材として方向性磁気シールド材を使用し、その高透磁率方向を、シールド材の長手方向と一致させることにより、磁気の透磁率が更に向上して、より良いシールド効果を得ることができる。
【実施例1】
【0009】
<1> 磁気シールド材
磁気シールド材1としては、透磁率が高く保磁力が小さい材料によって形成してあり、例えば珪素鋼板やパーマロイなど、磁気シールド材1として使用されている材料が広く採用できる。
磁気シールド材1の形状は、様々な形状が採用可能であるが、本発明ではモルタルやコンクリートの中に埋設するため、それら打設したセメント系硬化材が、回り込むように細巾で、長尺の形状が好適である。
従って、棒状や帯状の形状が採用できるが、一般に材料となる珪素鋼板は、その大きさが1800mm×900mmで、厚さが0.3mm程度の板材として製造されるので、これを幅10〜15mm程度の細長い帯状に切断して、それら細長い磁気シールド材1を複数枚を重ねて接着テープなどによって一体の棒状にして使用する。
磁気シールド材1として、製造時に丸棒や角棒状に形成してあるものも、同様に使用可能である。
磁気シールド材1として、その長手方向が高透磁率方向となる方向性磁気シールド材を使用することもある。
【0010】
<2> 支持物
以上の磁気シールド材1を、型枠内や、ボックスカルバート、高架橋、その他既存の構造物などの表面に沿って配置する。
実施例はボックスカルバート2の上に保護層として保護モルタル3を施工する際に、シールド施工した実施した例である。
ボックスカルバート2の上にその長手方向に対して直交する方向に磁気シールド材1を延ばし、ボックスカルバート2の長手方向に適宜間隔づつ離して多数本を並べる。
磁気シールド材1は、養生テープ4によって仮止めしておく。
【0011】
<3> 補強材
セメント系硬化材3を補強するための補強材5を、ボックスカルバート2、磁気シールド材1の上に配置し、磁気シールド材1を挟み込むようにする。
補強筋5としては、通常の鉄筋を現場で配筋してもよいが、鉄筋を縦横に交差させて工場にて溶接した網筋6を使用することもある。
補強材5も磁気シールド材1もセメント系硬化材の中に埋設するため、その下に回り込み易いよう、補強材5は多数空隙がある方が好適であり、網筋6などの材料が好適である。
網筋6であれば、現場で磁気シールド材1の上に置くようにするだけで、ボックスカルバート2との間に、磁気シールド材1を挟み込むことが可能である。
【0012】
<4> セメント系硬化材
ボックスカルバート2の上に保護モルタル3を打設する。
網筋5の下側にも、その網目を通してモルタル3が流れ込むが、網筋5とボックスカルバート2との間に磁気シールド材1を挟み込んでいるため、磁気シールド材1がその重みよって流されたり移動したりすることはない。
磁気シールド材1は、細巾長尺のものを多数本使用するため、モルタル3が磁気シールド材1の間にも回り込んで、モルタル3と既存の構造物2との縁が切れるようなことがない。
【0013】
<5> 軌道
保護モルタル3の上にレール7を敷設して、軌道とする。
軌道の進行方向は、ボックスカルバート2の長手方向であり、つまりは、磁気シールド1の長手方向は、それに対し直交することになる。
【実施例2】
【0014】
<6> 間隔保持材
モルタルやコンクリートを補強筋5と支持物との間に回り込ませるための間隔保持材として、磁気シールド材1を兼用することもある。
軌道躯体8の上に磁気シールド材1を設置し、その上に載せるように、補強材5を設置する。
磁気シールド材1の厚みtを、その重ねる枚数を調整することで、一定以上の厚みtとし、補強筋5を保護モルタル3などの支持物から間隔を空ける。(図2・図3)
【実施例3】
【0015】
<7> 磁気シールド材断面積
図3に示すのは、多数本の磁気シールド材1の全ての断面積を同じにしたものである。
幅が狭い磁気シールド材1はより多くの枚数を重ね、幅が広い磁気シールド材1は、より少ない枚数を重ね、断面積を同じにしたものである。
このように全ての磁気シールド材1の断面積を同じにすることで、一部の磁気シールド材1に磁力線が集中することなく、シールドした全体において万遍無くシールド性能を得ることができる。
実施例では、重ねた枚数を多くした磁気シールド材1は、補強材5の間隔保持材として兼用している。
【実施例4】
【0016】
図4に示すのは、5m幅のコンクリート造の軌道躯体8の上面幅方向一杯をシールドする例であり、1800mmの長さlの磁気シールド材1を3本隣り合わせて並べ、その隣り合う一方のシールド材1の端部を、他方のシールド材1の端部と200mmづつ重ね代rとして重ねた場合である。
方向性珪素鋼板の場合、その高透磁率方向に平行に幅20mmの細巾長尺に形成した磁気シールド材1を5枚重ねて一体とした場合、少なくとも200mmのラップ長を取り、磁気シールド材1をつなげば、1本の磁気シールド材1と同じ効果が得られる。
重ねた部分は、図5に示すように網筋6の網目に逃すことが出来る。
【実施例5】
【0017】
図6に示すのは、隣り合う磁気シールド材1・1の端部を離隔させてあるが、磁気シールド材1・1は、磁気が透過する磁性材料である網筋6に接触してあるため、その磁性材料を経由して磁気的に連続して透磁性を確保できる。
【実施例6】
【0018】
以上の実施例は、磁気シールド材1を水平に敷設する場合であるが、壁などのように支持物が起立したり傾斜したような場合でも、磁気シールド材1を壁に沿って張り、その上から補強材5によって押さえつけるように配することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例の斜視図
【図2】一実施例の縦断面図
【図3】他の実施例の縦断面図
【図4】本発明を実施した軌道の横断面図
【図5】他の実施例の一部横断面図
【図6】他の実施例の一部横断面図
【符号の説明】
【0020】
1:磁気シールド材
2:ボックスカルバート
3:保護モルタル
4:養生テープ
5:補強材
6:網筋
7:レール
8:軌道躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を低減する磁気シールド構造であって、
セメント系硬化材を打設する型枠又は既存構造物と、補強材との間に、
適宜間隔づつ離隔して多数本の磁気シールド材を配して挟持し、
セメント系硬化材の中に埋設したことを特徴とする
磁気シールド構造。
【請求項2】
磁気シールド材は、細巾長尺の帯状シールド材を複数枚重ねて一体としてあることを特徴とする
請求項1記載の磁気シールド構造。
【請求項3】
磁気シールド材は、磁気を発生させる導電線配置方向に直角に配したことを特徴とする
請求項1又は2記載の磁気シールド構造。
【請求項4】
補強材は網筋であることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気シールド構造。
【請求項5】
補強材は磁性材料によって形成されており、複数本のうちの少なくともいずれかの磁気シールド材がこの補強材に接触して、補強材と磁気シールド材の間に磁気が透過することを特徴とする
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気シールド構造。
【請求項6】
補強材は、磁気シールド材の長手方向に連続して配し、磁気シールド材の長手方向に隣り合う磁気シールド材の一方の端部を、他方の磁気シールド材の端部と重ねるラップ長を取り、つなぎ合わせたことを特徴とする
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気シールド構造。
【請求項7】
磁気シールド材として方向性磁気シールド材を使用し、その高透磁率方向を、シールド材の長手方向と一致させたことを特徴とする
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気シールド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−302176(P2009−302176A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152668(P2008−152668)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【Fターム(参考)】