磁気センサ素子および電子方位計
【課題】小型化しても地磁気の検出が可能で、高さが低く、携帯情報端末に搭載可能な磁気センサ素子および電子方位計を提供する。
【解決手段】磁性コア材8にコイル3を巻回して形成された感磁部8aと、その感磁部8aに磁束を導くための集磁部8bとを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子であり、その磁性コア材8の平面形状が2本の平行な集磁部8bの中央部間に感磁部8aの両端が接続したH型をなし、集磁部8bのコイル3が、磁性コア材の上面側と下面側にそれぞれ絶縁層を介して形成された複数個ずつの上コイル薄膜12と下コイル薄膜4とを、その隣接する端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルからなる。
【解決手段】磁性コア材8にコイル3を巻回して形成された感磁部8aと、その感磁部8aに磁束を導くための集磁部8bとを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子であり、その磁性コア材8の平面形状が2本の平行な集磁部8bの中央部間に感磁部8aの両端が接続したH型をなし、集磁部8bのコイル3が、磁性コア材の上面側と下面側にそれぞれ絶縁層を介して形成された複数個ずつの上コイル薄膜12と下コイル薄膜4とを、その隣接する端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子と、その磁気センサ素子を搭載した電子方位計に関し、特に、携帯情報端末に搭載可能な小型のフラックスゲート型の磁気センサ素子と、その磁気センサ素子を3個直交して配置した電子方位計に関する。
【背景技術】
【0002】
電子方位計は、磁気センサなどを用いて電気的に方位を検出できるという特徴を有する。一般的に、複数の磁気センサ素子を配置して電子方位計を構成する。この様に構成した平行フラックスゲート型の磁気センサ素子は、励磁した磁界と平行な磁界に対して線形な出力を示す。よって、直交して配置された複数の磁気センサ素子の出力から得られるデータを演算することによって、基準として決めた方向からの角度、すなわち方位角(azimuth)を算出することができる。この方位角から得られる方位情報は、アナログ又はデジタルの電気信号として処理できるため、例えば携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)のような携帯情報端末や、腕時計、カーナビゲーション装置、航空機の姿勢検出、視覚障害者向けゲーム機など、種々の電子機器への応用が期待されている。
【0003】
特に近年、GPS(Global Positioning System)等を利用した携帯情報端末向けの位置情報提供サービスが始まっている。このサービスによれば、利用者は現在の位置情報を端末上の画面を見ながら判るようになっている。この端末に電子方位計を組み合わせることによって、利用者が今どの方位を向いているのか、あるいは歩行中であればどの方向に向かっているのかが判る。この位置情報と電子方位計に関する情報提供サービスは、今後多くの産業界に新しいビジネスを生み出すものと考えられ、また利用者に有益な情報をもたらす。
【0004】
一方、上述した携帯情報端末は、小型薄型とする傾向にあり、その中に搭載される電子デバイスとしては小型で高さが低いことが求められている。現状で望まれる磁気センサ素子の幅は数mm程度であり、高さは1.5mm以下が必須であり、好ましくは1.0mm以下のサイズが求められている。
【0005】
この様な問題を解決するために、小型化が可能な短冊状の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−184098号公報(第6頁、図1)
【0006】
そこで、図24から図26によってこの特許文献1に記載されている従来の磁気センサ素子の一例を説明する。図24はその磁気センサ素子の構成を示す斜視図、図25はその磁気センサ素子のサイズを示す平面図、図26は側面図である。
【0007】
この磁気センサ素子100は、磁性コア材110としてパーマロイ箔を使用しており、この磁性コア材110が貼り付けられた非磁性基台120の長手方向の中間部の周囲にコイル130を巻回した構成であり、磁性コア材110のコイル130が巻回された中間部を感磁部111、両端部を集磁部112とし、非磁性基台120の両端部に電極パッド140を有する構成となっている。そして、磁性コア材110の長手方向中央部の感磁部111の断面積を両端部の集磁部112より小さくして磁束を集中させ、B−Hカーブ上での偏移量を大きくしている。この様に構成すれば、上記特性を備えたとしても、図25に示す様に、長手方向の長さが3mm、幅0.3mm程度のサイズとすることができる。感磁部111の幅は0.05mm程度にする。
【0008】
そして、図示しないが、基台の水平面上にこのような磁気センサ素子を2個互いに直交する向きに配置した2軸磁気センサ(電子方位計)は、幅がやや大きくなるものの、高さを1mm程度にすることができる。よって、この2軸磁気センサを有する電子方位計は、携帯情報端末への搭載が可能になる。
【0009】
この様に構成された磁気センサ素子を同一面内で一回転させたとき、その磁気センサ素子は正弦曲線波形の出力を示す。2個の磁気センサ素子が90度に直交して配置された2軸磁気センサの2つの出力は、互いに90度位相がずれた出力波形の関係となり、この出力から方位角を算出することができる。この様な平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が磁界に比例した出力を得ることができるのは、以下の検出原理による。
【0010】
まず、磁性コア材に巻回した励磁用コイルに三角波電流を印加する。その三角波電流によって生じた三角波状の磁界により、磁性コアはB−Hカーブに沿って磁化飽和と反転を繰り返す。この磁化が反転するときにパルス状の出力を発生するため、それを検出用コイルによって検出する。そして、三角波電流の周波数が変わらなければ、外部磁界の大きさに応じてそのパルス位置はシフトする。そのパルス発生の時間変化を検出回路で取り出すことによって、外部磁界の大きさに応じた出力を得ることができる。なお、上述した説明ではコイルは励磁用と検出用に分けて記載したが、1つのコイルで兼用することも可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した機能を有する2軸磁気センサである電子方位計を備えた携帯情報端末を傾けた状態(傾斜環境下)で利用者が方位を得ようとした場合に、この電子方位計には以下の問題が生じる。
【0012】
つまり、携帯情報端末の利用者は、様々な使用方法や持ち方をすることが想定され、その際の電子方位計に内蔵された磁気センサ素子が、水平面に対して傾斜した状態で使用される場合がある。このような環境下においては、上述した2軸磁気センサでは正確な方位角を算出することができない。それに対処するには、3つの磁気センサ素子を用意し、それらをを互いに直交する3軸の方向にそれぞれ配置すれば、水平面に対して傾斜した状態で使用されても、正確に方位角を求めることができるようになる。
【0013】
図27に、前述した特許文献1に記載された磁気センサ素子を使用した、3軸磁気センサによる電子方位計の構成例を示す。
図27に示す従来の電子方位計は、エポキシ基台200の表面に、x,y,z軸方向にそれぞれ直交して配置された、x軸磁気センサ素子100xと、y軸磁気センサ素子100yと、z軸磁気センサ素子100zとを有する。また、これら磁気センサ素子を駆動し、磁気センサ素子からの検出信号を処理する磁気センサ用IC300を有する。
【0014】
この様に構成すると、z軸磁気センサ素子100zの長手方向を、水平2軸に配置したx軸磁気センサ素子100x、y軸磁気センサ素子100yに対して垂直に配置する必要が生じる。そのため、電子方位計の高さが少なくとも3mm以上(図25参照)となってしまう。したがって、この様な構成の電子方位計を携帯情報端末に搭載することは、要求される高さ低減を実現できず、好ましくない。
【0015】
そこで、この従来の磁気センサ素子を更に小型化するために、素子の長手方向の長さを短くすることが考えられる。しかし、単に素子サイズを小さくすると、有効な磁束を収束させることが困難になる。つまり、このような形態の磁気センサ素子では、形状効果による反磁界の影響が顕著となり、図24に示した集磁部112で集めた磁束が有効に感磁部111に収束しなくなる。
【0016】
また、図24に示した磁気センサ素子100によって外部の磁束を有効に集めるために、磁性コア材110の端部の幅(集磁部112の幅)を中央部の幅(感磁部111の幅)に比べてさらに大きくすると、非磁性基台120の幅もそれに伴って大きくなってしまう。すると、感磁部111を磁気飽和させるために必要な励磁電流が著しく大きくなってしまい、現実的には磁気飽和させることが困難になる。
【0017】
さらに、磁気センサ素子の長手方向のサイズを小型化する他の手段として、磁性コア材に密接させてコイルを巻回して、非磁性基台120および磁性コア材110の中央部をくびれ形状にすることも考えられる。しかし、この非磁性基台120のくびれ形状等の微細加工は非常に困難である。仮に非磁性基台120にくびれ形状を施せたとしても、中央部の幅(感磁部111の幅)を0.1mm以下にしなくてはならないため、コイルを巻回す際に、そのコイルが非常に破損し易くなる。
【0018】
したがって、図24から図27に示したような従来の磁気センサ素子では、素子の幅を0.3mm程度とするのが適当であり、それ以上小さくすることは地磁気検出を困難にしてしまい、電子方位計を構成するには好ましくない。
【0019】
この発明は上記の問題点に鑑み、小型化しても地磁気の検出が可能な磁気センサ素子と、その磁気センサ素子を3個直交して配置して3軸磁気センサの電子方位計としても、小型で高さを低くでき、携帯情報端末に搭載可能な電子方位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は上記の目的を達成するため、次のように構成した磁気センサ素子と電子方位計を提供する。
【0021】
この発明による磁気センサ素子は、磁性コア材にコイルを巻回して形成された感磁部と、その感磁部の両端にそれぞれ接続され、感磁部に磁束を導くための集磁部とを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子において、
上記集磁部が、前記感磁部の磁性コア材と一体の磁性コア材によって前記感磁部の長手方向と直交する方向に延びて形成された一対の長片状の集磁部であって、その各集磁部の長手方向の中央部が前記感磁部の両端にそれぞれ個別に接続し、磁性コア材の平面形状をH型に形成する。
【0022】
そして、上記コイルが、上記磁性コア材の一方の主面上に形成された上絶縁層における磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の上コイル薄膜と、上記磁性コア材の他方の主面上に形成された下絶縁層における磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の下コイル薄膜とを有し、隣接する下コイル薄膜と上コイル薄膜とをその端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルである。
【0023】
あるいは、上記磁性コア材の集磁部を、上記感磁部を囲む閉ループ状に形成し、その集磁部によって囲まれた空間が感磁部によって略二分されるように、その空間を挟んで対向する2つの部分をそれぞれ感磁部の両端に接続した形状にしてもよい。
その集磁部の平面形状を、正方形又は長方形の枠型に形成することができる。その場合正方形又は長方形の角部を円弧状に形成するとよい。
また、その集磁部の平面形状を、円形、長円形、または楕円形の枠型に形成してもよい。
さらに、上記感磁部の磁性コア材を複数本に分割して、その複数本の磁性コア材に上記コイルを共通に巻回するようにしてもよい。
【0024】
前述した平面形状をH型に形成した磁性コア材は、厚さが均一でありその全体形状は、上記感磁部の長手方向に沿う長さをA、上記集磁部における感磁部の長手方向と直交する方向の長さをBとしたとき、B/Aの値が0.8〜1.5となるように構成するのが望ましい。
さらに、上記感磁部における上記長手方向と直交する方向の長さ(幅)をCとしたとき、C/Bの値が0.033〜0.200となるように上記磁性コア材を形成するとなおよい。
【0025】
また、上記上絶縁層が、上記感磁部の幅方向の両端部に所定の角度の傾斜面を有しているとよい。
【0026】
上記磁性コア材は、スパッタリング法、またはメッキ法により形成された、鉄とニッケルを主成分とするパーマロイ、または鉄とニッケルとコバルトを主成分とする軟磁性膜で構成することができる。
また、上記コイルは、隣接する下コイル薄膜と上コイル薄膜とをその端部で一つ置きに順次連続するように接続して形成された2本の薄膜コイルによる励磁用コイルと検出用コイルとからなるようにしてもよい。
【0027】
この発明による電子方位計は、上述したいずれかの磁気センサ素子を少なくとも2個以上、非磁性基台上に配設して構成する。
その電子方位計は、上記磁気センサ素子が上記非磁性基台上に3個配設し、その各磁気センサ素子を上記感磁部の長手方向が互いに直交する向きに配置して3軸磁気センサを構成することができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明による磁気センサ素子は、小型化しても地磁気の検出が可能であり、この発明による電子方位計は、磁気センサ素子を3個配置して3軸磁気センサとして構成しても、小型で高さを低くすることができ、携帯情報端末に搭載可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔磁気センサ素子の基本的な実施例〕
この発明による磁気センサ素子は、基本的には、軟磁性体からなる磁性コア材と、下コイル層と上コイル層とからなる薄膜コイルとによって構成され、その磁性コア材は、中央部の感磁部と両端部の集磁部とからなる構成を採用したものである。その具体的な構成について、以下の実施例にて図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
まず、この発明による磁気センサ素子の基本的な実施例の構成について説明する。図1は、その磁気センサ素子の概念を示す平面図である。図2は、図1におけるE−E線に沿う断面を拡大して示す断面図である。なお、図1の平面図は、図2に示す保護層14を除いた状態で示している。図3は、図2に示す下コイル薄膜と上コイル薄膜の接続状態を説明するための拡大図である。
【0031】
この磁気センサ素子1は、図1に示すように、軟磁性体からなる磁性コア材8にコイル3を巻回して形成された感磁部8aと、その感磁部8aの両端にそれぞれ接続され、感磁部8aに磁束を導くための集磁部8bとを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子である。
その集磁部8bは、感磁部8aの磁性コア材と一体の磁性コア材8によって感磁部8aの長手方向と直交する方向に延びて形成された一対の長片状の集磁部であって、その各集磁部8bの長手方向の中央部が感磁部8aの両端にそれぞれ個別に接続されている。
【0032】
この磁性コア材8の全体形状は、図1に示す感磁部8aの長手方向であるX方向に沿う長さをA、集磁部8bにおける感磁部8aの長手方向と直交する方向であるY方向の長さをBとしたとき、B/Aの値が0.8〜1.5となるようにするとよい。
また、感磁部8aにおける長手方向と直交するY方向の長さをCとしたとき、C/Bの値が0.033〜0.200となるように形成するとよい。これらの理由については、後述する。
【0033】
この磁気センサ素子1の感磁部8aの断面構造を図2によって説明する。この磁気センサ素子1は、図2に示すように、表面が絶縁された非磁性基台2上に、下絶縁層6を介してパーマロイ箔等の軟磁性体からなる磁性コア材8が配置され、その上に上絶縁層10が形成されている。
コイル3は、磁性コア材8の一方の主面(図2では上面)上に形成された上絶縁層10における磁性コア材8と反対側の面(上面)に設けられた複数個の上コイル薄膜12と、磁性コア材8の他方の主面(図2では下面)上に形成された下絶縁層6における磁性コア材8と反対側の面(下面)に設けられた複数個の下コイル薄膜4とからなる薄膜コイルである。その上絶縁層10及び上コイル薄膜12上には、保護膜14が形成されている。
【0034】
上コイル薄膜12と下コイル薄膜4は導電性のよい金属薄膜である。そして、図3に示すように、隣接する下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とをそれぞれ感磁部8aの幅方向の一端側と他端側とで交互に、且つ一つ置きに順次連続するように接続して、それぞれ磁性コア材8の感磁部8aの周囲を螺旋状に巻回する2本の薄膜コイルが形成されている。図1及び図2において、斜線を施して示した薄膜コイルが励磁用コイル3aであり、斜線を施していない方の薄膜コイルが検出用コイル3bである。
その励磁用コイル3aの両端には電極パッド15,16が、検出用コイル3bの両端には電極パッド17,18が、それぞれ接続されている。
【0035】
そして、この下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とで形成される励磁用コイル3aに、電極パッド15,16間に電圧を印加して励磁電流を流すことによって、磁性コア材8の励磁が行われる。ここで、金属薄膜による励磁用コイル3aが磁気センサ素子1の中央部(感磁部8a)に形成されているのは、その磁性コア材8の励磁が感磁部8aのみで行われるようにするためである。また、図2における下絶縁層6の厚みは数μm程度、磁性コア材8と上コイル薄膜12の上面との間もまた数μm程度とすることができるため、薄膜コイルに流れる励磁電流は、磁性コア材8に有効に印加される。
その励磁電流として三角波電流を流すことにより三角波状の磁界により、磁性コア材8はB−Hカーブに沿って磁化飽和と反転を繰り返し、その磁化が反転するときにパルス状の出力を発生するので、それを検出用コイル3bによって検出する。
【0036】
そして集磁部8bは、感磁部8aに多くの磁束を流入させるために、外部の磁界を集める役割を有し、その集磁部8bのY方向の長さBと磁性コア材8のX方向の長さAの比であるB/Aの値が0.8から1.5となるように構成すれば、磁気センサ素子1を小型化したとしても地磁気を正確に検出することが可能になる。
磁性コア材8は、スパッタリング法またはメッキ法により形成された、鉄(Fe)とニッケル(Ni)を主成分とするパーマロイ、または鉄とニッケルとコバルト(Co)を主成分とする軟磁性膜であるとよい。
【0037】
〔磁気センサ素子の実験による評価〕
ここで、この発明による磁気センサ素子1を小型化した際の磁気特性の評価について説明する。下記表1に、磁気センサ素子1における磁性コア材8のX方向の長さAと、集磁部8bのY方向の長さBをそれぞれ変えたときの評価結果を示した。なお、この評価では、感磁部8aにおけるY方向の長さCを100μmで固定した。
【0038】
【表1】
【0039】
上記表1において、検出信号の状態とは、上述した感磁部8aの磁化が反転した際に検出用コイル3bによって得られる検出信号のSN比(パルス信号の大きさ)と、検出パルス幅(信号の鋭さ)を評価指標としている。検出パルスが大きくてSN比が高く、かつ検出パルスが鋭いものを「○」とし、どちらか一方がやや不十分(△)なものは「△」、どちらか一方が不足(×)なものは「×」とした。
【0040】
表1に示す通り、磁気センサ素子の磁性コア材8のX方向の長さAと、集磁部8bのY方向の長さBの比であるB/Aは、従来技術1(特許文献1に記載の構成:図24〜図26参照)のように、磁性コア材の長さが3000μmのときには0.1で良好な検出信号が得られる。しかし、この素子形態でB/Aを0.1のまま、磁性コア材の素子長さを1000μmに小型化すると(従来技術2)、SN比とともに検出パルス幅も悪くなり、地磁気を検出することが不可能になる。
このように、従来技術1の素子形態は、X方向の長さを1000μm以下の素子にすると、磁気センサ素子として機能しないことが判る。また、表1の「a」のように、B/Aを0.6に設定しても、SN比とともに検出パルス幅も小さいため、地磁気を検出することはできない。
【0041】
一方、この発明による磁気センサ素子の実施例は表1における「b」から「e」に示すものであり、磁性コア材のX方向の長さが1000μmであってもB/Aを0.8から1.5に設定することによって、より好ましくはB/Aを1.0から1.2に設定することによって、良好な検出信号が得られ、地磁気を検出することができることが判る。
また、表1の「f」に示すように、B/Aが1.7になると、SN比は大きいものの、検出パルスが幅広になって感度が鈍くなることが判る。
以上の検討結果から、磁性コア材のX方向の長さが1000μm程度のときは、集磁部8bのY方向の長さBを800μmから1500μmにして、B/Aを0.8から1.5にすることによって、良好な波形の検出信号が得られることが判る。
【0042】
次に、表1に示した磁気センサ素子の磁性コア材のX方向の長さAを800μmとした場合の磁気特性の評価結果を下記表2に示す。この表2は、磁性コア材のX方向の長さAを800μmに固定して、集磁部8bのY方向の長さBをそれぞれ変えたときの評価結果を示す。なお、この評価では、感磁部8aのY方向の長さは100μmに固定している。
この表2における評価結果の○、△、×の意味は表1の場合と同じである。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の「a」に示すように、B/Aを0.6に設定すると、SN比が悪くなるとともに検出パルスが小さくなり、地磁気を検出することはできない。一方、この発明の実施例では、表2の「b」から「e」に示すように、B/Aを0.8から1.5に設定することにより、より好ましくはB/Aを1.0から1.2に設定することによって、良好な検出信号が得られ、地磁気を検出することができることが判る。
また、表2の「f」のように、B/Aを1.7に設定すると、SN比は大きいものの、検出パルスが幅広になって感度が鈍くなることが判る。このように、磁性コア材のX方向の長さAを800μm程度に設定したときも、Aを1000μmに設定したとき(表1参照)と同様に、集磁部8bのY方向の長さBを640μmから1200μmにすることによって、すなわちB/Aを0.8から1.5に設定することによって、良好な波形の検出信号が得られることが判る。
【0045】
なお、上記説明では、検出信号の検出パルス幅が幅広になるという問題点について説明したが、これは分解能、感度といった磁気センサ素子の特性に影響を及ぼすものである。上述した通り、この発明による磁気センサ素子1は、この検出パルスが磁界に応じてシフトすることを動作原理にしているため、その検出パルスが幅広になると、パルスのシフト量が小さくなったり、磁界に対して直線的にシフトしないといった問題が発生する。
【0046】
また、図1に示した集磁部8bにおけるY方向の長さBが長くなりすぎると、指向性の劣化も懸念される。すなわち、X方向にある一定の磁場を検出するはずが、Y方向側からの磁束も流入してくることが考えられる。さらに、集磁部8bにおけるY方向の幅Bが大きくなると、磁気センサ素子の平面方向のサイズが大きくなるため、小型化の点でも当然不利になる。よって、本発明の通り、素子を小型化するにあたって、B/Aを0.8から1.5に設計することで、磁気センサ素子1から良好な検出信号が得られ、正確に地磁気を検出することが可能となる。
【0047】
また、上記の説明では、感磁部8aのY方向の長さを100μmとして説明を行ったが、この発明による磁気センサ素子1では、集磁部8bのY方向の長さBに対して感磁部8aのY方向の長さCを0.033から0.200とすることによっても、小型化しても、十分に磁界(地磁気)を検出することができる。なお、この発明による磁気センサ素子1における磁性コア材8は、全体が略同一の膜厚で形成されているものとする。
【0048】
表3には、磁気センサ素子1における感磁部8aのY方向の長さ(幅)Cと、集磁部8bのY方向の長さBをそれぞれ変えたときの評価結果を示した。なお、磁性コア材8のX方向の長さは800μmで固定している。
【0049】
【表3】
【0050】
表3において、検出信号の状態とは、前述した通り、SN比(パルス信号の大きさ)と、検出パルス幅(信号の鋭さ)を評価指標としている。検出パルスが大きくてSN比が高く、かつパルスが鋭いものを「○」とし、どちらか一方がやや不足する(△)のものは「△」、どちらか一方が足りない(×)ものは「×」とした。
【0051】
表3の「a」に示す様に、感磁部8aのY方向の長さCを250μm、集磁部8bのY方向の長さDを1000μm程度とした場合、すなわち集磁部8bに対して感磁部8aの長さの比C/Bを0.250にすると、SN比は大きいものの、波形としては鈍い幅広な形になってしまい、磁気センサ素子の感度、分解能といった特性が劣化していることが判る。
【0052】
それに対して、表3の「b」に示すように、感磁部8aと集磁部8bのY方向の長さの比C/Dを0.200に設定すると、SN比が良好で、パルス幅もかなり鋭くなり、磁気センサ素子の特性が改善していることが判る。さらに、表3の「c」及び「d」に示すように、感磁部8aと集磁部8bのY方向の長さの比C/Dを0.050〜0.100程度に設定すると、最も検出パルス幅が鋭く、かつSN比も大きく維持することができ、より安定して地磁気を検出することができることが判る。
【0053】
また、表3の「f」のように、感磁部8aのY方向の長さCを25μm、集磁部8bのY方向の長さDを1000μm程度とした場合、すなわち集磁部8bのY方向の長さCに対して感磁部8aのY方向の長さDを0.025に設定すると、磁界の検出に必要なパルス信号の強度が低くなってしまい、SN比が低下して地磁気を検出することができなくなることが判る。それに対して、表3の「e」に示すように、感磁部8aの集磁部8bのY方向の長さに比を0.033に設定すると、SN比が改善して地磁気を検出することが可能になる。
【0054】
以上の結果から、磁気センサ素子を小型化する際に、良好な検出信号が得られ、かつ地磁気を検出するためには、C/Bを0.033から0.200に設定することが好ましいことが判る。
【0055】
このように、この発明の構成によれば、磁気センサ素子1の小型化が可能になる。それは、磁性コア材8がX方向とY方向が所定の範囲に規定されたH型形状を有していることが大きな特徴であり、小型でありながら地磁気の検出に十分な出力を得ることができるものである。また、この磁気センサ素子1が地磁気の検出に十分な出力を有するのは、Y方向の集磁部8bの長さが素子長さに対して適切に設定されるためであり、更にY方向の感磁部8aの長さ(幅)が集磁部8bの長さに対して適切に設定されるためである。
【0056】
また、この発明の構成によれば、コイル3が下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とからなる薄膜コイルによって構成されており、従来の巻線方式とは異なる形態を有している。これにより、特に集磁部8bのY方向の長さを長くした構成においても磁性コア材8を有効に励磁することができ、素子を小型化しても地磁気検出を実現することが可能になる。
【0057】
次に、磁気センサ素子における磁性コア材のX方向の長さAを650μmと小型化した場合において、集磁部8bのY方向の長さBを変えたときの評価結果を表4に示す。なお、図1における感磁部8aのY方向の長さ(幅)は60μmで固定にしている。
【0058】
【表4】
【0059】
図4〜図6は、その測定した検出波形の実験結果を示す。この図中の波形は、コイルに印加する三角波を除いた検出パルス波形のみを示している。なお、これらの図では、上記表4における「i」、「iv」、「vi」の3種の形態における検出パルス波形を示した。
【0060】
表4の「i」に示す、B/Aが0.6である集磁部8bのY方向の長さBが390μmの場合は、図4に示すように、パルスのSN比が悪く、地磁気を検出することは困難である。
一方、この発明の実施例である表4の「ii」から「v」示すように、B/Aを0.8から1.5に設定すると、良好な検出信号が得られ、地磁気を検出することができる。
表4の「iv」の場合は、集磁部8bのY方向長さBを780μmにして、B/Aを1.2に設定したものであり、図5に示すように明瞭な検出パルス波形が得られる。
【0061】
また、表4の「vi」に示すように、B/Aを2.0程度に大きくすると、図6に示すように、SN比は大きいものの、検出パルスは、図5に示した検出パルス波形に比べてやや幅広になっていることが判る。また、この場合は、磁気センサ素子自体がX方向の長さAに比べてY方向の長さBがかなり大きくなるため、小型化という点でも不利になる。
【0062】
次に、上述の場合と同様に、磁気センサ素子における磁性コア材のX方向の長さAを650μmと小型化した場合において、集磁部8bのY方向の長さBを780μmに固定して、感磁部8aのY方向の幅Cを20μm〜200μmまで変えたときの検出パルス波形の評価結果を示す。
【0063】
【表5】
【0064】
また、図7〜図9は、表5中の「vi」、「iii」,および「i」の各例における検出波形の測定結果を示す図4〜図6と同様な波形図である。
この測定結果から、表5の「iii」の場合、すなわち感磁部8aのY方向の幅Cを80μmにして、C/Bを0.1に設定した場合には、図8に示すように明瞭なパルス波形が得られることが判る。
しかし、表5の「i」の場合、すなわち感磁部8aのY方向の幅Cを200μmにして、C/Bを0.25に設定した場合には、図9に示すように、検出パルスのS/N比は高いものの、パルス自体が幅広な形状になってしまい、分解能と感度の点で劣化していることが判る。
【0065】
さらに、表5の「vi」の場合は、感磁部8aのY方向の幅Cを20μmにし、C/Bを0.025に設定した例であるが、図7に示すように、検出パルスは急峻な特性となるが、S/N比は減少してしまうことが判る。また、感磁部8aのY方向の幅Cを20μm程度にすると、再現性良く感磁部8aの幅を製造することが難しくなる。すなわち、磁性膜をメッキによって形成した後に、この発明の実施例のような形状にウェットエッチングによりパターニングする際のパターン精度に起因する問題が生じるのである。もし、やや長い時間エッチングしてしまった場合には、感磁部8aのパターンが消失してしまう場合もあり、安定して形状を制御することが難しくなる。したがって、表5の「vi」に示す形態は、SN比の問題だけでなく、パターン精度の問題があるため好ましくない。
【0066】
この実験結果から、この発明による磁気センサ素子によって、小型化しても良好な検出信号が得られ、地磁気を確実に検出するためには、C/Bを0.033から0.2に設定することが好ましいことが判る。
【0067】
このように、この発明の構成によれば、磁気センサ素子の小型化が可能になる。それは、磁性コア材8がH型形状を有していることが大きな特徴であり、小型でありながら地磁気の検出に十分な出力を有するものである。地磁気の検出に十分な出力を有するのは、集磁部8bのY方向の長さが磁性コア材8のX方向の長さに対して適切に設定されるためであり、さらに感磁部8aのY方向の長さ(幅)が集磁部8bのY方向の長さに対して適切に設定されるためである。
【0068】
〔電子方位計の実施例〕
次に、この発明による磁気センサ素子を備えた電子方位計について図面を用いて説明する。図10は、この発明による磁気センサ素子を用いて構成した電子方位計の概念を示した斜視図である。
【0069】
図10に示すように、この電子方位計20は、エポキシ基台30上に、それぞれ前述したこの発明による磁気センサ素子1と同じ構成の3個の磁気センサ素子であるx軸磁気センサ素子1x、y軸磁気センサ素子1y、およびz軸磁気センサ素子1zと、これらの各磁気センサ素子を駆動するための磁気センサ用IC31を実装配置して構成される。
そのx軸磁気センサ素子1x、y軸磁気センサ素子1y、およびz軸磁気センサ素子1zは、それぞれその感磁部8aの長手方向がx軸、y軸、z軸に沿って互いに直交するように配置されて、3軸磁気センサを構成している。
磁気センサ用IC31によって、これらの各磁気センサ素子1x、1y、1zの励磁用コイル3aに励磁電流を流した時に、検出用コイル3bから出力される検出信号に基いて方位角を演算することができる。
【0070】
そして、ここでは図示しないが、各x軸、y軸、z軸磁気センサ素子1x、1y、1zを保護するために樹脂を被せ、さらに、これらの磁気センサ素子を載置したエポキシ基台30に、磁気センサ用IC31を駆動するための電源端子、各磁気センサ素子の検出信号に基づいて演算した方位角のデータ(信号)を出力するための出力端子などを設けて、電子方位計20のパッケージを構成する。
【0071】
この電子方位計20は、先に表2に示した例のようにz軸磁気センサ素子1zとして高さを800μmとした磁気センサ素子を用いているため、エポキシ基台30の厚みを200μm以下にすることによって、地磁気の検出が可能であり、かつ電子方位計20の全ての高さを1mm以下のサイズにすることが可能になる。
【0072】
このように、この発明による磁気センサ素子を3個搭載して3軸磁気センサの電子方位計を構成することにより、3軸磁気センサの電子方位計を小型化し且つ高さを低くすることができ、携帯情報端末へ搭載することが可能になる。
なお、この発明にによる磁気センサ素子を、2個互いに直交する方向に非磁性基台上に配設して、2軸磁気センサによる電子方位計を構成することもできる。あるいは、この発明にによる磁気センサ素子を、非磁性基台上に4個以上搭載して、より高精度の電子方位計を構成することもできる。
【0073】
〔磁気センサ素子の製造方法〕
次に、この発明による磁気センサ素子の製造方法について、図11〜図15と図2を用いて詳細に説明する。これらの各図は、図1から図3によって説明した磁気センサ素子1の各製造工程を示す図であり、図1におけるE−E線に沿う断面に相当する断面図である。
【0074】
まず、図11に示す非磁性基台2を用意する。その非磁性基台2は、シリコンウェハの表面が約1.0μmのシリコン酸化膜を有する。そのシリコン酸化膜の表面に、図1〜図3に示した下コイル薄膜4及び電極パッド15〜18となる金(Au)膜をメッキで形成するための電極となるAuスパッタ膜を、所定の膜厚で非磁性基台2の上面の全面に形成する。なお、シリコン酸化膜とAu膜とは密着性が弱いため、密着性強化のためにクロム(Cr)膜を中間層として形成するとよい。また、以下の説明では、電極パッド15〜18の記述を省略するが、この電極パッド15〜18は、以下の全ての工程で下コイル薄膜4と同時に処理形成されるものである。
【0075】
次に、図11に示す下コイル薄膜4以外の部位をレジストで覆い、レジストで覆われていない下コイル薄膜4となるパターンに、電解メッキによってAu膜を数μmの厚さに形成する。その後、レジストおよび共通電極のAu膜及びCr膜を剥離、エッチングして、図11に示すように、Au膜による所望の形状の下コイル薄膜4を形成する。
この図中には簡易的に図1と同じターン数の薄膜コイルを形成する数の下コイル薄膜が示されているが、実際には、下コイル薄膜4と後段で示す上コイル薄膜12で形成される薄膜コイルは、例えば厚さが約2μm、幅が5μm、コイルのターン数が50ターン程度である。
【0076】
次に、図12に示すように、下コイル薄膜4と磁性コア材8を絶縁するための下絶縁層6を形成する。この下絶縁層6には感光性のネガ型材料のポリイミドを用いて、厚さを数μmとして下コイル薄膜4を覆うように形成し、約300℃〜350℃で1時間、加熱処理を行う。
【0077】
次に、磁性コア材8となるパーマロイ膜をメッキにより形成するために、図示しない下地となるスパッタ膜を下絶縁層6上に形成する。なお、スパッタ膜を形成する際には、図1におけるY方向に数千(A/m)の一定の静磁界を掛けた状態で成膜を行う。ここで成膜するスパッタ膜の厚さは約0.1μm程度である。
そして、スパッタ膜を形成した後、スパッタ膜の形成を行ったときと同様な磁場中でパーマロイ膜をメッキによって形成する。
【0078】
そのメッキ装置は、膜厚分布が良好になるように配慮された循環式の装置であり、メッキ液には硫酸ニッケル、硫酸鉄等からなる硫酸系のメッキ浴を用いる。メッキ時の磁界もまた、図1におけるY方向に数千(A/m)程度の静磁界を印加できるように、磁石を埋め込んだメッキ治具を用いる。電流密度は25(mA/cm2)であり、約10〜20分の時間条件で、図13に示すように3〜6μm程度の膜厚の磁性コア材8となるパーマロイ膜を得る。
【0079】
そして、図13に示す磁性コア材8のパーマロイ膜を、図1に示したようにH型形状となる感磁部8aと集磁部8bを有する形状にするために、レジストを用いて、H型形状を覆う様にパターニングする。そして、H型形状以外の不要なパーマロイ膜を除去するために、エッチング処理を行う。ここで用いるエッチング液は、塩化第二鉄と塩酸からなるエッチャントであり、攪拌を行いながらエッチングを行うことによって、所望のパターン形状を得ることができる。
【0080】
このようにして形成される磁性コア材8の全体サイズを、例えば図1におけるX方向の幅を800μm、Y方向の幅を1000μmとし、中央の感磁部8aにおけるX方向の長さを600μm、Y方向の幅を100μm、端部の集磁部8bにおけるX方向の幅を100μm、Y方向の長さを1000μmとする。
【0081】
ここで、下コイル薄膜4とともに電極パッドを開口するための下絶縁層6のパターンを形成する。本来、下コイル薄膜4と電極パッドのみを開口するようにレジストをパターン化すれば良いが、下コイル薄膜4と電極パッドがプラズマに曝されるため、磁性コア材8の上面にもレジストが残るようにパターンを形成する。そして、酸素雰囲気中のプラズマ処理により、下コイル薄膜4と電極パッド16上の下絶縁層6であるポリイミド膜の除去を行う。最後にレジストを剥離して図1に示した形状を得ることができる。
【0082】
次に、上絶縁層10形成のためのネガ型感光性のポリイミドを、下コイル薄膜4と磁性コア材8の全表面に均一にスピンコートする。下コイル薄膜4と上コイル薄膜12の接続は、先に示した開口部を通して行うが、上コイル薄膜12を形成する際にこの上絶縁層10端部での段差による配線切れのおそれがあるため、上絶縁層10の端部は滑らかな傾斜を有することが必要となる。まず、下コイル薄膜4と電極パッド部が開口するように、露光、現像処理を施して所望のパターンを有する上絶縁層10を形成する。このときは、上絶縁層10の端部の形状は、矩形形状となっている。
【0083】
その後、ポリイミドで形成された上絶縁層10のキュア(cure)を行う。すると、キュアによってポリイミドが収縮する際にパターン端部形状が自重により滑らかになり、特に開口部外周に位置する上絶縁層10の形状を、傾斜形状とすることができる。なお、この開口部近傍に設けた上絶縁層10の傾斜形状は、これらの工程図には現れていない。このキュアの際も一定の静磁界が図1におけるY方向に印加されるようにしておき、磁性コア材8の磁区の制御を行う必要がある。そして、図14に示すように上絶縁層10を形成する。
【0084】
さらに、図15に示すように、下コイル薄膜4と接続をして磁性コア材8の外周に巻回されたコイルを形成するために、下コイル薄膜4の形成と同様に、メッキによりAu膜を数μmの膜厚で形成して上コイル薄膜12を形成する。ここで得られた構造体は、図1及び図3に示したように、上コイル薄膜12と下コイル薄膜4とが磁性コア材8の感磁部8aの幅方向の端部で順次接続されており、段差エッジ部での配線切れが懸念されるが、上絶縁層10の端部形状が傾斜を有し、さらに段差部分も滑らかになっているために配線パターンを容易に形成することが可能である。
【0085】
また、ここで形成された多数の下コイル薄膜4と上コイル薄膜12からなる薄膜コイルは、図1及び図3に示した実施例のコイル3のように、隣接する下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とをそれぞれ感磁部8aの幅方向の一端側と他端側とで交互に、且つ一つ置きに接続して、それぞれ連続して磁性コア材8の感磁部8aの周囲を螺旋状に巻き回する2本のコイルを形成し、その一方を励磁用コイル3aとし、他方を検出用コイル3bとすることができる。
しかし、隣接する下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とをそれぞれ感磁部8aの幅方向の一端側と他端側とで交互に順次接続して、連続する1本のコイルを形成し、それを励磁用と検出用を兼ねたコイルとして使用するようにしても、その1本のコイルによって磁性コア材8の磁化反転を行うことと検出パルスを取り出すことができる。
【0086】
最後に、図2に示したように、この磁気センサ素子を保護するための保護膜14を、上絶縁層10と上コイル薄膜12を覆うように形成し、この発明による磁気センサ素子1が完成する。なお、保護膜14には電極パッド15〜18の部分を開口しておく。
そして、図10に示したように、この平行フラックスゲート型の磁気センサ素子をエポキシ基台30上に複数個実装して、それぞれ磁気センサ用IC31と配線によって接続すれば、電子方位計20を構成することができる。
【0087】
以上説明したように、この発明による磁気センサ素子は、磁性コア材8及び下コイル薄膜4及び上コイル薄膜12等を薄膜プロセスで作成することが可能であるので、量産化および低コスト化などに適している。
【0088】
なお、上記の実施例では、磁性コア材8として2元系のFe、Ni合金で形成する例で説明を行ったが、実施例に示した浴中に硫酸コバルトなどを添加することにより3元系のFe、Ni、Co合金を形成することも可能である。また、軟磁性のアモルファス材をスパッタすることによって、磁性コア材8を形成してもよい。さらには、それらの軟磁性膜を非磁性膜と積層することによって磁性コア材8を形成するとなおよい。
【0089】
また、上述の説明では、磁気センサ素子1の感磁部に設けたコイル3(励磁用コイル3aと検出用コイル3b、あるいはそれらに兼用の1本のコイル)の端子となる電極パッド15〜18を下コイル薄膜4と同じ平面上に形成するように説明したが、これに限定されるものでなく、例えば、上コイル薄膜12と同じ平面上で、かつ集磁部8bの上に積層して、上絶縁層10上に形成してもよい。
【0090】
〔磁性コア材の他の形状例〕
次に、この発明による磁気センサ素子の磁性コア材の他の形状例について、図16〜図23によって説明する。図16〜図23はその磁気センサ素子の磁性コア材のそれぞれ異なる形状例をコイルと共に示す平面図である。これらの図において、形状は異なっても、その磁性コア材、感磁部、集磁部、およびコイルには、いずれも図1に示した実施例と同じ符号を付している。
【0091】
図16に示す磁性コア材8は、図1に示した実施例の磁性コア材8と同様なH型形状であり、集磁部8bから感磁部8aへ、外部磁束をスムーズに流入させることができる。
図1に示した磁性コア材8と異なるのは、磁性コア材8の感磁部8aとなる部分を図1に示したものより幅の狭い2本の細長い部分に分けて形成している。
図17に示す磁性コア材8も、同様にH型形状であるが、感磁部8aとなる部分をさらに幅の狭い3本の細長い部分に分けて形成している。
【0092】
このように、感磁部8aの磁性コア材の幅を小さくすると、コイル3によって検出されるパルス出力が急峻になり、方位角を検出し易くなる。そのパルス出力は次の式で表すことができる。
e=dΦdt=S*(dB/dt)
e:パルス出力
Φ:磁束
B:磁束密度
S:感磁部の磁性コア材の断面積
【0093】
磁性コア材8の厚さが均一であれば、感磁部8aの磁性コア材の幅が狭いほどその断面積Sが小さくなる。したがって、感磁部8aの磁性コア材の幅を狭くするとパルス出力は急峻になるが、そのパルス出力の値は小さくなる。そのため、幅の狭い磁性コア材を複数本備えることによって、感磁部8a全体での磁性コア材の断面積を増やし、急峻で大きなパルス出力を得ることができるようにする。
感磁部8aを構成する磁性コア材の細長い部分の数は4本以上でもよいが、あまり細くすると製造が困難であるし、破損し易くなるので、2、3本が適当である。なお、コイル3は、その複数本の感磁部8aに跨って共通に、励磁用コイルと検出用コイルを巻回するか、励磁用と検出用に兼用のコイルを巻回する。
【0094】
図18に示す磁性コア材8は、図1に示した実施例の磁性コア材8と同様なH型形状であるが、感磁部8aの両端にそれぞれ接続されている2つの集磁部8bの各両端部を、互いに接近するように内側に直角に折り曲げた形状になっている。このような形状にすることによって、外部磁束をより効率よく集めることができる。
【0095】
図19以降に示す磁性コア材8は、集磁部8bが感磁部8aを囲む閉ループ状に形成されており、その集磁部8bによって囲まれた空間が感磁部8aによって略二分されるように、空間を挟んで対向する2つの部分がそれぞれ感磁部8aの両端に接続されている点で共通している。
図19に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が長方形の枠型に形成されている。集磁部8bの平面形状を長方形に代えて正方形の枠型に形成してもよい。
図20に示す磁性コア材8は、平面形状が長方形の枠型に形成された集磁部8bの各角部が円弧状に形成されている。正方形の枠型に形成された集磁部の場合も各角部を円弧状に形成するとよい。
【0096】
図21に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が円形の枠型に形成されている。
図22に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が楕円形の枠型に形成されている。
図23に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が長円形の枠型に形成されている。
【0097】
このように、磁性コア材8の集磁部8bを閉ループ状に形成すると、コイル3の端子となる電極パッドの配置の自由度が制限されるが、H型形状の場合と比べて、外部磁束を一層効率よく感磁部8aに流入させることができる。すなわち、集磁部8と感磁部8aもループ状に接続されるため、感磁部8aの反磁界を減少させることができる。そのため、磁束の流れがスムーズになり、外部磁束を効率よく感磁部8aに流入させることができる。
特に、図21から図23に示した例のように、集磁部8bの平面形状を円形、楕円形、または長円形にすると、磁束の流れがスムーズになる。
【0098】
磁性コア材8の集磁部8bが長方形又は正方形の枠型場合でも、図20に示した例のように、各角部を丸くして円弧状にすると磁束の流れがスムーズになる。
図18〜図23に示した磁性コア材8においても、その感磁部8aを構成する磁性コア材を、複数本の細長い部分に分割して構成してもよい。その場合もコイル3は複数本の磁性コア材に共通に巻回する。このようにすれば、地磁気の検出感度が向上する。
【0099】
また、説明を分かりやすくするために、図1及び図3において電極パッド15〜18を大き目に図示したが、後の実装が行えるようなサイズであれば、より小さく形成することも可能である。その形成位置も任意に変更できる。図1に示した例では電極パッド15〜18を2つの集磁部8bの間に形成したので、磁気センサ素子の全体サイズを小さくすることができるが、必要に応じて磁性コア材8の外部に電極パッドを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】この発明による磁気センサ素子の基本的な実施例の構成を示す平面図である。
【図2】図1におけるE−E線に沿う断面を拡大して示す断面図である。
【図3】図2に示す下コイル薄膜と上コイル薄膜の接続状態を説明するための拡大図である。
【図4】表4における「i」の場合における検出パルスの波形図である。
【図5】表4における「iv」の場合における検出パルスの波形図である。
【図6】表4における「vi」の場合における検出パルスの波形図である。
【図7】表5における「vi」の場合における検出パルスの波形図である。
【図8】表5における「iii」の場合における検出パルスの波形図である。
【図9】表5における「i」の場合における検出パルスの波形図である。
【図10】この発明による磁気センサ素子を用いて構成した電子方位計の概念を示した斜視図である。
【0101】
【図11】この発明による磁気センサ素子の製造方法を説明するための最初の工程を示す図2と同様な断面図である。
【図12】同じく次の工程を示す断面図である。
【図13】同じくその次の工程を示す断面図である。
【図14】同じくさらに次の工程を示す断面図である。
【図15】同じくさらにその次の工程を示す断面図である。
【0102】
【図16】この発明による磁気センサ素子の磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図17】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図18】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図19】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図20】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図21】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図22】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図23】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【0103】
【図24】従来の磁気センサ素子の構成例を示す斜視図である。
【図25】同じくその磁気センサ素子のサイズを示す平面図である。
【図26】同じくその磁気センサ素子の側面図である。
【図27】従来の3軸磁気センサによる電子方位計の構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
1:磁気センサ素子 1x:x軸磁気センサ素子 1y:y軸磁気センサ素子
1z:z軸磁気センサ素子 2:非磁性基台 3:コイル
3a:励磁用コイル 3b:検出用コイル 4:下コイル薄膜
6:下絶縁層 8:磁性コア材 8a:感磁部 8b:集磁部
10:上絶縁層 12:上コイル薄膜 14:保護膜
15,16,17,18:電極パッド
20:電子方位計 30 エポキシ基台 31:磁気センサ用IC
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子と、その磁気センサ素子を搭載した電子方位計に関し、特に、携帯情報端末に搭載可能な小型のフラックスゲート型の磁気センサ素子と、その磁気センサ素子を3個直交して配置した電子方位計に関する。
【背景技術】
【0002】
電子方位計は、磁気センサなどを用いて電気的に方位を検出できるという特徴を有する。一般的に、複数の磁気センサ素子を配置して電子方位計を構成する。この様に構成した平行フラックスゲート型の磁気センサ素子は、励磁した磁界と平行な磁界に対して線形な出力を示す。よって、直交して配置された複数の磁気センサ素子の出力から得られるデータを演算することによって、基準として決めた方向からの角度、すなわち方位角(azimuth)を算出することができる。この方位角から得られる方位情報は、アナログ又はデジタルの電気信号として処理できるため、例えば携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)のような携帯情報端末や、腕時計、カーナビゲーション装置、航空機の姿勢検出、視覚障害者向けゲーム機など、種々の電子機器への応用が期待されている。
【0003】
特に近年、GPS(Global Positioning System)等を利用した携帯情報端末向けの位置情報提供サービスが始まっている。このサービスによれば、利用者は現在の位置情報を端末上の画面を見ながら判るようになっている。この端末に電子方位計を組み合わせることによって、利用者が今どの方位を向いているのか、あるいは歩行中であればどの方向に向かっているのかが判る。この位置情報と電子方位計に関する情報提供サービスは、今後多くの産業界に新しいビジネスを生み出すものと考えられ、また利用者に有益な情報をもたらす。
【0004】
一方、上述した携帯情報端末は、小型薄型とする傾向にあり、その中に搭載される電子デバイスとしては小型で高さが低いことが求められている。現状で望まれる磁気センサ素子の幅は数mm程度であり、高さは1.5mm以下が必須であり、好ましくは1.0mm以下のサイズが求められている。
【0005】
この様な問題を解決するために、小型化が可能な短冊状の平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−184098号公報(第6頁、図1)
【0006】
そこで、図24から図26によってこの特許文献1に記載されている従来の磁気センサ素子の一例を説明する。図24はその磁気センサ素子の構成を示す斜視図、図25はその磁気センサ素子のサイズを示す平面図、図26は側面図である。
【0007】
この磁気センサ素子100は、磁性コア材110としてパーマロイ箔を使用しており、この磁性コア材110が貼り付けられた非磁性基台120の長手方向の中間部の周囲にコイル130を巻回した構成であり、磁性コア材110のコイル130が巻回された中間部を感磁部111、両端部を集磁部112とし、非磁性基台120の両端部に電極パッド140を有する構成となっている。そして、磁性コア材110の長手方向中央部の感磁部111の断面積を両端部の集磁部112より小さくして磁束を集中させ、B−Hカーブ上での偏移量を大きくしている。この様に構成すれば、上記特性を備えたとしても、図25に示す様に、長手方向の長さが3mm、幅0.3mm程度のサイズとすることができる。感磁部111の幅は0.05mm程度にする。
【0008】
そして、図示しないが、基台の水平面上にこのような磁気センサ素子を2個互いに直交する向きに配置した2軸磁気センサ(電子方位計)は、幅がやや大きくなるものの、高さを1mm程度にすることができる。よって、この2軸磁気センサを有する電子方位計は、携帯情報端末への搭載が可能になる。
【0009】
この様に構成された磁気センサ素子を同一面内で一回転させたとき、その磁気センサ素子は正弦曲線波形の出力を示す。2個の磁気センサ素子が90度に直交して配置された2軸磁気センサの2つの出力は、互いに90度位相がずれた出力波形の関係となり、この出力から方位角を算出することができる。この様な平行フラックスゲート型の磁気センサ素子が磁界に比例した出力を得ることができるのは、以下の検出原理による。
【0010】
まず、磁性コア材に巻回した励磁用コイルに三角波電流を印加する。その三角波電流によって生じた三角波状の磁界により、磁性コアはB−Hカーブに沿って磁化飽和と反転を繰り返す。この磁化が反転するときにパルス状の出力を発生するため、それを検出用コイルによって検出する。そして、三角波電流の周波数が変わらなければ、外部磁界の大きさに応じてそのパルス位置はシフトする。そのパルス発生の時間変化を検出回路で取り出すことによって、外部磁界の大きさに応じた出力を得ることができる。なお、上述した説明ではコイルは励磁用と検出用に分けて記載したが、1つのコイルで兼用することも可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した機能を有する2軸磁気センサである電子方位計を備えた携帯情報端末を傾けた状態(傾斜環境下)で利用者が方位を得ようとした場合に、この電子方位計には以下の問題が生じる。
【0012】
つまり、携帯情報端末の利用者は、様々な使用方法や持ち方をすることが想定され、その際の電子方位計に内蔵された磁気センサ素子が、水平面に対して傾斜した状態で使用される場合がある。このような環境下においては、上述した2軸磁気センサでは正確な方位角を算出することができない。それに対処するには、3つの磁気センサ素子を用意し、それらをを互いに直交する3軸の方向にそれぞれ配置すれば、水平面に対して傾斜した状態で使用されても、正確に方位角を求めることができるようになる。
【0013】
図27に、前述した特許文献1に記載された磁気センサ素子を使用した、3軸磁気センサによる電子方位計の構成例を示す。
図27に示す従来の電子方位計は、エポキシ基台200の表面に、x,y,z軸方向にそれぞれ直交して配置された、x軸磁気センサ素子100xと、y軸磁気センサ素子100yと、z軸磁気センサ素子100zとを有する。また、これら磁気センサ素子を駆動し、磁気センサ素子からの検出信号を処理する磁気センサ用IC300を有する。
【0014】
この様に構成すると、z軸磁気センサ素子100zの長手方向を、水平2軸に配置したx軸磁気センサ素子100x、y軸磁気センサ素子100yに対して垂直に配置する必要が生じる。そのため、電子方位計の高さが少なくとも3mm以上(図25参照)となってしまう。したがって、この様な構成の電子方位計を携帯情報端末に搭載することは、要求される高さ低減を実現できず、好ましくない。
【0015】
そこで、この従来の磁気センサ素子を更に小型化するために、素子の長手方向の長さを短くすることが考えられる。しかし、単に素子サイズを小さくすると、有効な磁束を収束させることが困難になる。つまり、このような形態の磁気センサ素子では、形状効果による反磁界の影響が顕著となり、図24に示した集磁部112で集めた磁束が有効に感磁部111に収束しなくなる。
【0016】
また、図24に示した磁気センサ素子100によって外部の磁束を有効に集めるために、磁性コア材110の端部の幅(集磁部112の幅)を中央部の幅(感磁部111の幅)に比べてさらに大きくすると、非磁性基台120の幅もそれに伴って大きくなってしまう。すると、感磁部111を磁気飽和させるために必要な励磁電流が著しく大きくなってしまい、現実的には磁気飽和させることが困難になる。
【0017】
さらに、磁気センサ素子の長手方向のサイズを小型化する他の手段として、磁性コア材に密接させてコイルを巻回して、非磁性基台120および磁性コア材110の中央部をくびれ形状にすることも考えられる。しかし、この非磁性基台120のくびれ形状等の微細加工は非常に困難である。仮に非磁性基台120にくびれ形状を施せたとしても、中央部の幅(感磁部111の幅)を0.1mm以下にしなくてはならないため、コイルを巻回す際に、そのコイルが非常に破損し易くなる。
【0018】
したがって、図24から図27に示したような従来の磁気センサ素子では、素子の幅を0.3mm程度とするのが適当であり、それ以上小さくすることは地磁気検出を困難にしてしまい、電子方位計を構成するには好ましくない。
【0019】
この発明は上記の問題点に鑑み、小型化しても地磁気の検出が可能な磁気センサ素子と、その磁気センサ素子を3個直交して配置して3軸磁気センサの電子方位計としても、小型で高さを低くでき、携帯情報端末に搭載可能な電子方位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は上記の目的を達成するため、次のように構成した磁気センサ素子と電子方位計を提供する。
【0021】
この発明による磁気センサ素子は、磁性コア材にコイルを巻回して形成された感磁部と、その感磁部の両端にそれぞれ接続され、感磁部に磁束を導くための集磁部とを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子において、
上記集磁部が、前記感磁部の磁性コア材と一体の磁性コア材によって前記感磁部の長手方向と直交する方向に延びて形成された一対の長片状の集磁部であって、その各集磁部の長手方向の中央部が前記感磁部の両端にそれぞれ個別に接続し、磁性コア材の平面形状をH型に形成する。
【0022】
そして、上記コイルが、上記磁性コア材の一方の主面上に形成された上絶縁層における磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の上コイル薄膜と、上記磁性コア材の他方の主面上に形成された下絶縁層における磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の下コイル薄膜とを有し、隣接する下コイル薄膜と上コイル薄膜とをその端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルである。
【0023】
あるいは、上記磁性コア材の集磁部を、上記感磁部を囲む閉ループ状に形成し、その集磁部によって囲まれた空間が感磁部によって略二分されるように、その空間を挟んで対向する2つの部分をそれぞれ感磁部の両端に接続した形状にしてもよい。
その集磁部の平面形状を、正方形又は長方形の枠型に形成することができる。その場合正方形又は長方形の角部を円弧状に形成するとよい。
また、その集磁部の平面形状を、円形、長円形、または楕円形の枠型に形成してもよい。
さらに、上記感磁部の磁性コア材を複数本に分割して、その複数本の磁性コア材に上記コイルを共通に巻回するようにしてもよい。
【0024】
前述した平面形状をH型に形成した磁性コア材は、厚さが均一でありその全体形状は、上記感磁部の長手方向に沿う長さをA、上記集磁部における感磁部の長手方向と直交する方向の長さをBとしたとき、B/Aの値が0.8〜1.5となるように構成するのが望ましい。
さらに、上記感磁部における上記長手方向と直交する方向の長さ(幅)をCとしたとき、C/Bの値が0.033〜0.200となるように上記磁性コア材を形成するとなおよい。
【0025】
また、上記上絶縁層が、上記感磁部の幅方向の両端部に所定の角度の傾斜面を有しているとよい。
【0026】
上記磁性コア材は、スパッタリング法、またはメッキ法により形成された、鉄とニッケルを主成分とするパーマロイ、または鉄とニッケルとコバルトを主成分とする軟磁性膜で構成することができる。
また、上記コイルは、隣接する下コイル薄膜と上コイル薄膜とをその端部で一つ置きに順次連続するように接続して形成された2本の薄膜コイルによる励磁用コイルと検出用コイルとからなるようにしてもよい。
【0027】
この発明による電子方位計は、上述したいずれかの磁気センサ素子を少なくとも2個以上、非磁性基台上に配設して構成する。
その電子方位計は、上記磁気センサ素子が上記非磁性基台上に3個配設し、その各磁気センサ素子を上記感磁部の長手方向が互いに直交する向きに配置して3軸磁気センサを構成することができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明による磁気センサ素子は、小型化しても地磁気の検出が可能であり、この発明による電子方位計は、磁気センサ素子を3個配置して3軸磁気センサとして構成しても、小型で高さを低くすることができ、携帯情報端末に搭載可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔磁気センサ素子の基本的な実施例〕
この発明による磁気センサ素子は、基本的には、軟磁性体からなる磁性コア材と、下コイル層と上コイル層とからなる薄膜コイルとによって構成され、その磁性コア材は、中央部の感磁部と両端部の集磁部とからなる構成を採用したものである。その具体的な構成について、以下の実施例にて図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
まず、この発明による磁気センサ素子の基本的な実施例の構成について説明する。図1は、その磁気センサ素子の概念を示す平面図である。図2は、図1におけるE−E線に沿う断面を拡大して示す断面図である。なお、図1の平面図は、図2に示す保護層14を除いた状態で示している。図3は、図2に示す下コイル薄膜と上コイル薄膜の接続状態を説明するための拡大図である。
【0031】
この磁気センサ素子1は、図1に示すように、軟磁性体からなる磁性コア材8にコイル3を巻回して形成された感磁部8aと、その感磁部8aの両端にそれぞれ接続され、感磁部8aに磁束を導くための集磁部8bとを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子である。
その集磁部8bは、感磁部8aの磁性コア材と一体の磁性コア材8によって感磁部8aの長手方向と直交する方向に延びて形成された一対の長片状の集磁部であって、その各集磁部8bの長手方向の中央部が感磁部8aの両端にそれぞれ個別に接続されている。
【0032】
この磁性コア材8の全体形状は、図1に示す感磁部8aの長手方向であるX方向に沿う長さをA、集磁部8bにおける感磁部8aの長手方向と直交する方向であるY方向の長さをBとしたとき、B/Aの値が0.8〜1.5となるようにするとよい。
また、感磁部8aにおける長手方向と直交するY方向の長さをCとしたとき、C/Bの値が0.033〜0.200となるように形成するとよい。これらの理由については、後述する。
【0033】
この磁気センサ素子1の感磁部8aの断面構造を図2によって説明する。この磁気センサ素子1は、図2に示すように、表面が絶縁された非磁性基台2上に、下絶縁層6を介してパーマロイ箔等の軟磁性体からなる磁性コア材8が配置され、その上に上絶縁層10が形成されている。
コイル3は、磁性コア材8の一方の主面(図2では上面)上に形成された上絶縁層10における磁性コア材8と反対側の面(上面)に設けられた複数個の上コイル薄膜12と、磁性コア材8の他方の主面(図2では下面)上に形成された下絶縁層6における磁性コア材8と反対側の面(下面)に設けられた複数個の下コイル薄膜4とからなる薄膜コイルである。その上絶縁層10及び上コイル薄膜12上には、保護膜14が形成されている。
【0034】
上コイル薄膜12と下コイル薄膜4は導電性のよい金属薄膜である。そして、図3に示すように、隣接する下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とをそれぞれ感磁部8aの幅方向の一端側と他端側とで交互に、且つ一つ置きに順次連続するように接続して、それぞれ磁性コア材8の感磁部8aの周囲を螺旋状に巻回する2本の薄膜コイルが形成されている。図1及び図2において、斜線を施して示した薄膜コイルが励磁用コイル3aであり、斜線を施していない方の薄膜コイルが検出用コイル3bである。
その励磁用コイル3aの両端には電極パッド15,16が、検出用コイル3bの両端には電極パッド17,18が、それぞれ接続されている。
【0035】
そして、この下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とで形成される励磁用コイル3aに、電極パッド15,16間に電圧を印加して励磁電流を流すことによって、磁性コア材8の励磁が行われる。ここで、金属薄膜による励磁用コイル3aが磁気センサ素子1の中央部(感磁部8a)に形成されているのは、その磁性コア材8の励磁が感磁部8aのみで行われるようにするためである。また、図2における下絶縁層6の厚みは数μm程度、磁性コア材8と上コイル薄膜12の上面との間もまた数μm程度とすることができるため、薄膜コイルに流れる励磁電流は、磁性コア材8に有効に印加される。
その励磁電流として三角波電流を流すことにより三角波状の磁界により、磁性コア材8はB−Hカーブに沿って磁化飽和と反転を繰り返し、その磁化が反転するときにパルス状の出力を発生するので、それを検出用コイル3bによって検出する。
【0036】
そして集磁部8bは、感磁部8aに多くの磁束を流入させるために、外部の磁界を集める役割を有し、その集磁部8bのY方向の長さBと磁性コア材8のX方向の長さAの比であるB/Aの値が0.8から1.5となるように構成すれば、磁気センサ素子1を小型化したとしても地磁気を正確に検出することが可能になる。
磁性コア材8は、スパッタリング法またはメッキ法により形成された、鉄(Fe)とニッケル(Ni)を主成分とするパーマロイ、または鉄とニッケルとコバルト(Co)を主成分とする軟磁性膜であるとよい。
【0037】
〔磁気センサ素子の実験による評価〕
ここで、この発明による磁気センサ素子1を小型化した際の磁気特性の評価について説明する。下記表1に、磁気センサ素子1における磁性コア材8のX方向の長さAと、集磁部8bのY方向の長さBをそれぞれ変えたときの評価結果を示した。なお、この評価では、感磁部8aにおけるY方向の長さCを100μmで固定した。
【0038】
【表1】
【0039】
上記表1において、検出信号の状態とは、上述した感磁部8aの磁化が反転した際に検出用コイル3bによって得られる検出信号のSN比(パルス信号の大きさ)と、検出パルス幅(信号の鋭さ)を評価指標としている。検出パルスが大きくてSN比が高く、かつ検出パルスが鋭いものを「○」とし、どちらか一方がやや不十分(△)なものは「△」、どちらか一方が不足(×)なものは「×」とした。
【0040】
表1に示す通り、磁気センサ素子の磁性コア材8のX方向の長さAと、集磁部8bのY方向の長さBの比であるB/Aは、従来技術1(特許文献1に記載の構成:図24〜図26参照)のように、磁性コア材の長さが3000μmのときには0.1で良好な検出信号が得られる。しかし、この素子形態でB/Aを0.1のまま、磁性コア材の素子長さを1000μmに小型化すると(従来技術2)、SN比とともに検出パルス幅も悪くなり、地磁気を検出することが不可能になる。
このように、従来技術1の素子形態は、X方向の長さを1000μm以下の素子にすると、磁気センサ素子として機能しないことが判る。また、表1の「a」のように、B/Aを0.6に設定しても、SN比とともに検出パルス幅も小さいため、地磁気を検出することはできない。
【0041】
一方、この発明による磁気センサ素子の実施例は表1における「b」から「e」に示すものであり、磁性コア材のX方向の長さが1000μmであってもB/Aを0.8から1.5に設定することによって、より好ましくはB/Aを1.0から1.2に設定することによって、良好な検出信号が得られ、地磁気を検出することができることが判る。
また、表1の「f」に示すように、B/Aが1.7になると、SN比は大きいものの、検出パルスが幅広になって感度が鈍くなることが判る。
以上の検討結果から、磁性コア材のX方向の長さが1000μm程度のときは、集磁部8bのY方向の長さBを800μmから1500μmにして、B/Aを0.8から1.5にすることによって、良好な波形の検出信号が得られることが判る。
【0042】
次に、表1に示した磁気センサ素子の磁性コア材のX方向の長さAを800μmとした場合の磁気特性の評価結果を下記表2に示す。この表2は、磁性コア材のX方向の長さAを800μmに固定して、集磁部8bのY方向の長さBをそれぞれ変えたときの評価結果を示す。なお、この評価では、感磁部8aのY方向の長さは100μmに固定している。
この表2における評価結果の○、△、×の意味は表1の場合と同じである。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の「a」に示すように、B/Aを0.6に設定すると、SN比が悪くなるとともに検出パルスが小さくなり、地磁気を検出することはできない。一方、この発明の実施例では、表2の「b」から「e」に示すように、B/Aを0.8から1.5に設定することにより、より好ましくはB/Aを1.0から1.2に設定することによって、良好な検出信号が得られ、地磁気を検出することができることが判る。
また、表2の「f」のように、B/Aを1.7に設定すると、SN比は大きいものの、検出パルスが幅広になって感度が鈍くなることが判る。このように、磁性コア材のX方向の長さAを800μm程度に設定したときも、Aを1000μmに設定したとき(表1参照)と同様に、集磁部8bのY方向の長さBを640μmから1200μmにすることによって、すなわちB/Aを0.8から1.5に設定することによって、良好な波形の検出信号が得られることが判る。
【0045】
なお、上記説明では、検出信号の検出パルス幅が幅広になるという問題点について説明したが、これは分解能、感度といった磁気センサ素子の特性に影響を及ぼすものである。上述した通り、この発明による磁気センサ素子1は、この検出パルスが磁界に応じてシフトすることを動作原理にしているため、その検出パルスが幅広になると、パルスのシフト量が小さくなったり、磁界に対して直線的にシフトしないといった問題が発生する。
【0046】
また、図1に示した集磁部8bにおけるY方向の長さBが長くなりすぎると、指向性の劣化も懸念される。すなわち、X方向にある一定の磁場を検出するはずが、Y方向側からの磁束も流入してくることが考えられる。さらに、集磁部8bにおけるY方向の幅Bが大きくなると、磁気センサ素子の平面方向のサイズが大きくなるため、小型化の点でも当然不利になる。よって、本発明の通り、素子を小型化するにあたって、B/Aを0.8から1.5に設計することで、磁気センサ素子1から良好な検出信号が得られ、正確に地磁気を検出することが可能となる。
【0047】
また、上記の説明では、感磁部8aのY方向の長さを100μmとして説明を行ったが、この発明による磁気センサ素子1では、集磁部8bのY方向の長さBに対して感磁部8aのY方向の長さCを0.033から0.200とすることによっても、小型化しても、十分に磁界(地磁気)を検出することができる。なお、この発明による磁気センサ素子1における磁性コア材8は、全体が略同一の膜厚で形成されているものとする。
【0048】
表3には、磁気センサ素子1における感磁部8aのY方向の長さ(幅)Cと、集磁部8bのY方向の長さBをそれぞれ変えたときの評価結果を示した。なお、磁性コア材8のX方向の長さは800μmで固定している。
【0049】
【表3】
【0050】
表3において、検出信号の状態とは、前述した通り、SN比(パルス信号の大きさ)と、検出パルス幅(信号の鋭さ)を評価指標としている。検出パルスが大きくてSN比が高く、かつパルスが鋭いものを「○」とし、どちらか一方がやや不足する(△)のものは「△」、どちらか一方が足りない(×)ものは「×」とした。
【0051】
表3の「a」に示す様に、感磁部8aのY方向の長さCを250μm、集磁部8bのY方向の長さDを1000μm程度とした場合、すなわち集磁部8bに対して感磁部8aの長さの比C/Bを0.250にすると、SN比は大きいものの、波形としては鈍い幅広な形になってしまい、磁気センサ素子の感度、分解能といった特性が劣化していることが判る。
【0052】
それに対して、表3の「b」に示すように、感磁部8aと集磁部8bのY方向の長さの比C/Dを0.200に設定すると、SN比が良好で、パルス幅もかなり鋭くなり、磁気センサ素子の特性が改善していることが判る。さらに、表3の「c」及び「d」に示すように、感磁部8aと集磁部8bのY方向の長さの比C/Dを0.050〜0.100程度に設定すると、最も検出パルス幅が鋭く、かつSN比も大きく維持することができ、より安定して地磁気を検出することができることが判る。
【0053】
また、表3の「f」のように、感磁部8aのY方向の長さCを25μm、集磁部8bのY方向の長さDを1000μm程度とした場合、すなわち集磁部8bのY方向の長さCに対して感磁部8aのY方向の長さDを0.025に設定すると、磁界の検出に必要なパルス信号の強度が低くなってしまい、SN比が低下して地磁気を検出することができなくなることが判る。それに対して、表3の「e」に示すように、感磁部8aの集磁部8bのY方向の長さに比を0.033に設定すると、SN比が改善して地磁気を検出することが可能になる。
【0054】
以上の結果から、磁気センサ素子を小型化する際に、良好な検出信号が得られ、かつ地磁気を検出するためには、C/Bを0.033から0.200に設定することが好ましいことが判る。
【0055】
このように、この発明の構成によれば、磁気センサ素子1の小型化が可能になる。それは、磁性コア材8がX方向とY方向が所定の範囲に規定されたH型形状を有していることが大きな特徴であり、小型でありながら地磁気の検出に十分な出力を得ることができるものである。また、この磁気センサ素子1が地磁気の検出に十分な出力を有するのは、Y方向の集磁部8bの長さが素子長さに対して適切に設定されるためであり、更にY方向の感磁部8aの長さ(幅)が集磁部8bの長さに対して適切に設定されるためである。
【0056】
また、この発明の構成によれば、コイル3が下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とからなる薄膜コイルによって構成されており、従来の巻線方式とは異なる形態を有している。これにより、特に集磁部8bのY方向の長さを長くした構成においても磁性コア材8を有効に励磁することができ、素子を小型化しても地磁気検出を実現することが可能になる。
【0057】
次に、磁気センサ素子における磁性コア材のX方向の長さAを650μmと小型化した場合において、集磁部8bのY方向の長さBを変えたときの評価結果を表4に示す。なお、図1における感磁部8aのY方向の長さ(幅)は60μmで固定にしている。
【0058】
【表4】
【0059】
図4〜図6は、その測定した検出波形の実験結果を示す。この図中の波形は、コイルに印加する三角波を除いた検出パルス波形のみを示している。なお、これらの図では、上記表4における「i」、「iv」、「vi」の3種の形態における検出パルス波形を示した。
【0060】
表4の「i」に示す、B/Aが0.6である集磁部8bのY方向の長さBが390μmの場合は、図4に示すように、パルスのSN比が悪く、地磁気を検出することは困難である。
一方、この発明の実施例である表4の「ii」から「v」示すように、B/Aを0.8から1.5に設定すると、良好な検出信号が得られ、地磁気を検出することができる。
表4の「iv」の場合は、集磁部8bのY方向長さBを780μmにして、B/Aを1.2に設定したものであり、図5に示すように明瞭な検出パルス波形が得られる。
【0061】
また、表4の「vi」に示すように、B/Aを2.0程度に大きくすると、図6に示すように、SN比は大きいものの、検出パルスは、図5に示した検出パルス波形に比べてやや幅広になっていることが判る。また、この場合は、磁気センサ素子自体がX方向の長さAに比べてY方向の長さBがかなり大きくなるため、小型化という点でも不利になる。
【0062】
次に、上述の場合と同様に、磁気センサ素子における磁性コア材のX方向の長さAを650μmと小型化した場合において、集磁部8bのY方向の長さBを780μmに固定して、感磁部8aのY方向の幅Cを20μm〜200μmまで変えたときの検出パルス波形の評価結果を示す。
【0063】
【表5】
【0064】
また、図7〜図9は、表5中の「vi」、「iii」,および「i」の各例における検出波形の測定結果を示す図4〜図6と同様な波形図である。
この測定結果から、表5の「iii」の場合、すなわち感磁部8aのY方向の幅Cを80μmにして、C/Bを0.1に設定した場合には、図8に示すように明瞭なパルス波形が得られることが判る。
しかし、表5の「i」の場合、すなわち感磁部8aのY方向の幅Cを200μmにして、C/Bを0.25に設定した場合には、図9に示すように、検出パルスのS/N比は高いものの、パルス自体が幅広な形状になってしまい、分解能と感度の点で劣化していることが判る。
【0065】
さらに、表5の「vi」の場合は、感磁部8aのY方向の幅Cを20μmにし、C/Bを0.025に設定した例であるが、図7に示すように、検出パルスは急峻な特性となるが、S/N比は減少してしまうことが判る。また、感磁部8aのY方向の幅Cを20μm程度にすると、再現性良く感磁部8aの幅を製造することが難しくなる。すなわち、磁性膜をメッキによって形成した後に、この発明の実施例のような形状にウェットエッチングによりパターニングする際のパターン精度に起因する問題が生じるのである。もし、やや長い時間エッチングしてしまった場合には、感磁部8aのパターンが消失してしまう場合もあり、安定して形状を制御することが難しくなる。したがって、表5の「vi」に示す形態は、SN比の問題だけでなく、パターン精度の問題があるため好ましくない。
【0066】
この実験結果から、この発明による磁気センサ素子によって、小型化しても良好な検出信号が得られ、地磁気を確実に検出するためには、C/Bを0.033から0.2に設定することが好ましいことが判る。
【0067】
このように、この発明の構成によれば、磁気センサ素子の小型化が可能になる。それは、磁性コア材8がH型形状を有していることが大きな特徴であり、小型でありながら地磁気の検出に十分な出力を有するものである。地磁気の検出に十分な出力を有するのは、集磁部8bのY方向の長さが磁性コア材8のX方向の長さに対して適切に設定されるためであり、さらに感磁部8aのY方向の長さ(幅)が集磁部8bのY方向の長さに対して適切に設定されるためである。
【0068】
〔電子方位計の実施例〕
次に、この発明による磁気センサ素子を備えた電子方位計について図面を用いて説明する。図10は、この発明による磁気センサ素子を用いて構成した電子方位計の概念を示した斜視図である。
【0069】
図10に示すように、この電子方位計20は、エポキシ基台30上に、それぞれ前述したこの発明による磁気センサ素子1と同じ構成の3個の磁気センサ素子であるx軸磁気センサ素子1x、y軸磁気センサ素子1y、およびz軸磁気センサ素子1zと、これらの各磁気センサ素子を駆動するための磁気センサ用IC31を実装配置して構成される。
そのx軸磁気センサ素子1x、y軸磁気センサ素子1y、およびz軸磁気センサ素子1zは、それぞれその感磁部8aの長手方向がx軸、y軸、z軸に沿って互いに直交するように配置されて、3軸磁気センサを構成している。
磁気センサ用IC31によって、これらの各磁気センサ素子1x、1y、1zの励磁用コイル3aに励磁電流を流した時に、検出用コイル3bから出力される検出信号に基いて方位角を演算することができる。
【0070】
そして、ここでは図示しないが、各x軸、y軸、z軸磁気センサ素子1x、1y、1zを保護するために樹脂を被せ、さらに、これらの磁気センサ素子を載置したエポキシ基台30に、磁気センサ用IC31を駆動するための電源端子、各磁気センサ素子の検出信号に基づいて演算した方位角のデータ(信号)を出力するための出力端子などを設けて、電子方位計20のパッケージを構成する。
【0071】
この電子方位計20は、先に表2に示した例のようにz軸磁気センサ素子1zとして高さを800μmとした磁気センサ素子を用いているため、エポキシ基台30の厚みを200μm以下にすることによって、地磁気の検出が可能であり、かつ電子方位計20の全ての高さを1mm以下のサイズにすることが可能になる。
【0072】
このように、この発明による磁気センサ素子を3個搭載して3軸磁気センサの電子方位計を構成することにより、3軸磁気センサの電子方位計を小型化し且つ高さを低くすることができ、携帯情報端末へ搭載することが可能になる。
なお、この発明にによる磁気センサ素子を、2個互いに直交する方向に非磁性基台上に配設して、2軸磁気センサによる電子方位計を構成することもできる。あるいは、この発明にによる磁気センサ素子を、非磁性基台上に4個以上搭載して、より高精度の電子方位計を構成することもできる。
【0073】
〔磁気センサ素子の製造方法〕
次に、この発明による磁気センサ素子の製造方法について、図11〜図15と図2を用いて詳細に説明する。これらの各図は、図1から図3によって説明した磁気センサ素子1の各製造工程を示す図であり、図1におけるE−E線に沿う断面に相当する断面図である。
【0074】
まず、図11に示す非磁性基台2を用意する。その非磁性基台2は、シリコンウェハの表面が約1.0μmのシリコン酸化膜を有する。そのシリコン酸化膜の表面に、図1〜図3に示した下コイル薄膜4及び電極パッド15〜18となる金(Au)膜をメッキで形成するための電極となるAuスパッタ膜を、所定の膜厚で非磁性基台2の上面の全面に形成する。なお、シリコン酸化膜とAu膜とは密着性が弱いため、密着性強化のためにクロム(Cr)膜を中間層として形成するとよい。また、以下の説明では、電極パッド15〜18の記述を省略するが、この電極パッド15〜18は、以下の全ての工程で下コイル薄膜4と同時に処理形成されるものである。
【0075】
次に、図11に示す下コイル薄膜4以外の部位をレジストで覆い、レジストで覆われていない下コイル薄膜4となるパターンに、電解メッキによってAu膜を数μmの厚さに形成する。その後、レジストおよび共通電極のAu膜及びCr膜を剥離、エッチングして、図11に示すように、Au膜による所望の形状の下コイル薄膜4を形成する。
この図中には簡易的に図1と同じターン数の薄膜コイルを形成する数の下コイル薄膜が示されているが、実際には、下コイル薄膜4と後段で示す上コイル薄膜12で形成される薄膜コイルは、例えば厚さが約2μm、幅が5μm、コイルのターン数が50ターン程度である。
【0076】
次に、図12に示すように、下コイル薄膜4と磁性コア材8を絶縁するための下絶縁層6を形成する。この下絶縁層6には感光性のネガ型材料のポリイミドを用いて、厚さを数μmとして下コイル薄膜4を覆うように形成し、約300℃〜350℃で1時間、加熱処理を行う。
【0077】
次に、磁性コア材8となるパーマロイ膜をメッキにより形成するために、図示しない下地となるスパッタ膜を下絶縁層6上に形成する。なお、スパッタ膜を形成する際には、図1におけるY方向に数千(A/m)の一定の静磁界を掛けた状態で成膜を行う。ここで成膜するスパッタ膜の厚さは約0.1μm程度である。
そして、スパッタ膜を形成した後、スパッタ膜の形成を行ったときと同様な磁場中でパーマロイ膜をメッキによって形成する。
【0078】
そのメッキ装置は、膜厚分布が良好になるように配慮された循環式の装置であり、メッキ液には硫酸ニッケル、硫酸鉄等からなる硫酸系のメッキ浴を用いる。メッキ時の磁界もまた、図1におけるY方向に数千(A/m)程度の静磁界を印加できるように、磁石を埋め込んだメッキ治具を用いる。電流密度は25(mA/cm2)であり、約10〜20分の時間条件で、図13に示すように3〜6μm程度の膜厚の磁性コア材8となるパーマロイ膜を得る。
【0079】
そして、図13に示す磁性コア材8のパーマロイ膜を、図1に示したようにH型形状となる感磁部8aと集磁部8bを有する形状にするために、レジストを用いて、H型形状を覆う様にパターニングする。そして、H型形状以外の不要なパーマロイ膜を除去するために、エッチング処理を行う。ここで用いるエッチング液は、塩化第二鉄と塩酸からなるエッチャントであり、攪拌を行いながらエッチングを行うことによって、所望のパターン形状を得ることができる。
【0080】
このようにして形成される磁性コア材8の全体サイズを、例えば図1におけるX方向の幅を800μm、Y方向の幅を1000μmとし、中央の感磁部8aにおけるX方向の長さを600μm、Y方向の幅を100μm、端部の集磁部8bにおけるX方向の幅を100μm、Y方向の長さを1000μmとする。
【0081】
ここで、下コイル薄膜4とともに電極パッドを開口するための下絶縁層6のパターンを形成する。本来、下コイル薄膜4と電極パッドのみを開口するようにレジストをパターン化すれば良いが、下コイル薄膜4と電極パッドがプラズマに曝されるため、磁性コア材8の上面にもレジストが残るようにパターンを形成する。そして、酸素雰囲気中のプラズマ処理により、下コイル薄膜4と電極パッド16上の下絶縁層6であるポリイミド膜の除去を行う。最後にレジストを剥離して図1に示した形状を得ることができる。
【0082】
次に、上絶縁層10形成のためのネガ型感光性のポリイミドを、下コイル薄膜4と磁性コア材8の全表面に均一にスピンコートする。下コイル薄膜4と上コイル薄膜12の接続は、先に示した開口部を通して行うが、上コイル薄膜12を形成する際にこの上絶縁層10端部での段差による配線切れのおそれがあるため、上絶縁層10の端部は滑らかな傾斜を有することが必要となる。まず、下コイル薄膜4と電極パッド部が開口するように、露光、現像処理を施して所望のパターンを有する上絶縁層10を形成する。このときは、上絶縁層10の端部の形状は、矩形形状となっている。
【0083】
その後、ポリイミドで形成された上絶縁層10のキュア(cure)を行う。すると、キュアによってポリイミドが収縮する際にパターン端部形状が自重により滑らかになり、特に開口部外周に位置する上絶縁層10の形状を、傾斜形状とすることができる。なお、この開口部近傍に設けた上絶縁層10の傾斜形状は、これらの工程図には現れていない。このキュアの際も一定の静磁界が図1におけるY方向に印加されるようにしておき、磁性コア材8の磁区の制御を行う必要がある。そして、図14に示すように上絶縁層10を形成する。
【0084】
さらに、図15に示すように、下コイル薄膜4と接続をして磁性コア材8の外周に巻回されたコイルを形成するために、下コイル薄膜4の形成と同様に、メッキによりAu膜を数μmの膜厚で形成して上コイル薄膜12を形成する。ここで得られた構造体は、図1及び図3に示したように、上コイル薄膜12と下コイル薄膜4とが磁性コア材8の感磁部8aの幅方向の端部で順次接続されており、段差エッジ部での配線切れが懸念されるが、上絶縁層10の端部形状が傾斜を有し、さらに段差部分も滑らかになっているために配線パターンを容易に形成することが可能である。
【0085】
また、ここで形成された多数の下コイル薄膜4と上コイル薄膜12からなる薄膜コイルは、図1及び図3に示した実施例のコイル3のように、隣接する下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とをそれぞれ感磁部8aの幅方向の一端側と他端側とで交互に、且つ一つ置きに接続して、それぞれ連続して磁性コア材8の感磁部8aの周囲を螺旋状に巻き回する2本のコイルを形成し、その一方を励磁用コイル3aとし、他方を検出用コイル3bとすることができる。
しかし、隣接する下コイル薄膜4と上コイル薄膜12とをそれぞれ感磁部8aの幅方向の一端側と他端側とで交互に順次接続して、連続する1本のコイルを形成し、それを励磁用と検出用を兼ねたコイルとして使用するようにしても、その1本のコイルによって磁性コア材8の磁化反転を行うことと検出パルスを取り出すことができる。
【0086】
最後に、図2に示したように、この磁気センサ素子を保護するための保護膜14を、上絶縁層10と上コイル薄膜12を覆うように形成し、この発明による磁気センサ素子1が完成する。なお、保護膜14には電極パッド15〜18の部分を開口しておく。
そして、図10に示したように、この平行フラックスゲート型の磁気センサ素子をエポキシ基台30上に複数個実装して、それぞれ磁気センサ用IC31と配線によって接続すれば、電子方位計20を構成することができる。
【0087】
以上説明したように、この発明による磁気センサ素子は、磁性コア材8及び下コイル薄膜4及び上コイル薄膜12等を薄膜プロセスで作成することが可能であるので、量産化および低コスト化などに適している。
【0088】
なお、上記の実施例では、磁性コア材8として2元系のFe、Ni合金で形成する例で説明を行ったが、実施例に示した浴中に硫酸コバルトなどを添加することにより3元系のFe、Ni、Co合金を形成することも可能である。また、軟磁性のアモルファス材をスパッタすることによって、磁性コア材8を形成してもよい。さらには、それらの軟磁性膜を非磁性膜と積層することによって磁性コア材8を形成するとなおよい。
【0089】
また、上述の説明では、磁気センサ素子1の感磁部に設けたコイル3(励磁用コイル3aと検出用コイル3b、あるいはそれらに兼用の1本のコイル)の端子となる電極パッド15〜18を下コイル薄膜4と同じ平面上に形成するように説明したが、これに限定されるものでなく、例えば、上コイル薄膜12と同じ平面上で、かつ集磁部8bの上に積層して、上絶縁層10上に形成してもよい。
【0090】
〔磁性コア材の他の形状例〕
次に、この発明による磁気センサ素子の磁性コア材の他の形状例について、図16〜図23によって説明する。図16〜図23はその磁気センサ素子の磁性コア材のそれぞれ異なる形状例をコイルと共に示す平面図である。これらの図において、形状は異なっても、その磁性コア材、感磁部、集磁部、およびコイルには、いずれも図1に示した実施例と同じ符号を付している。
【0091】
図16に示す磁性コア材8は、図1に示した実施例の磁性コア材8と同様なH型形状であり、集磁部8bから感磁部8aへ、外部磁束をスムーズに流入させることができる。
図1に示した磁性コア材8と異なるのは、磁性コア材8の感磁部8aとなる部分を図1に示したものより幅の狭い2本の細長い部分に分けて形成している。
図17に示す磁性コア材8も、同様にH型形状であるが、感磁部8aとなる部分をさらに幅の狭い3本の細長い部分に分けて形成している。
【0092】
このように、感磁部8aの磁性コア材の幅を小さくすると、コイル3によって検出されるパルス出力が急峻になり、方位角を検出し易くなる。そのパルス出力は次の式で表すことができる。
e=dΦdt=S*(dB/dt)
e:パルス出力
Φ:磁束
B:磁束密度
S:感磁部の磁性コア材の断面積
【0093】
磁性コア材8の厚さが均一であれば、感磁部8aの磁性コア材の幅が狭いほどその断面積Sが小さくなる。したがって、感磁部8aの磁性コア材の幅を狭くするとパルス出力は急峻になるが、そのパルス出力の値は小さくなる。そのため、幅の狭い磁性コア材を複数本備えることによって、感磁部8a全体での磁性コア材の断面積を増やし、急峻で大きなパルス出力を得ることができるようにする。
感磁部8aを構成する磁性コア材の細長い部分の数は4本以上でもよいが、あまり細くすると製造が困難であるし、破損し易くなるので、2、3本が適当である。なお、コイル3は、その複数本の感磁部8aに跨って共通に、励磁用コイルと検出用コイルを巻回するか、励磁用と検出用に兼用のコイルを巻回する。
【0094】
図18に示す磁性コア材8は、図1に示した実施例の磁性コア材8と同様なH型形状であるが、感磁部8aの両端にそれぞれ接続されている2つの集磁部8bの各両端部を、互いに接近するように内側に直角に折り曲げた形状になっている。このような形状にすることによって、外部磁束をより効率よく集めることができる。
【0095】
図19以降に示す磁性コア材8は、集磁部8bが感磁部8aを囲む閉ループ状に形成されており、その集磁部8bによって囲まれた空間が感磁部8aによって略二分されるように、空間を挟んで対向する2つの部分がそれぞれ感磁部8aの両端に接続されている点で共通している。
図19に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が長方形の枠型に形成されている。集磁部8bの平面形状を長方形に代えて正方形の枠型に形成してもよい。
図20に示す磁性コア材8は、平面形状が長方形の枠型に形成された集磁部8bの各角部が円弧状に形成されている。正方形の枠型に形成された集磁部の場合も各角部を円弧状に形成するとよい。
【0096】
図21に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が円形の枠型に形成されている。
図22に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が楕円形の枠型に形成されている。
図23に示す磁性コア材8は、その集磁部8bの平面形状が長円形の枠型に形成されている。
【0097】
このように、磁性コア材8の集磁部8bを閉ループ状に形成すると、コイル3の端子となる電極パッドの配置の自由度が制限されるが、H型形状の場合と比べて、外部磁束を一層効率よく感磁部8aに流入させることができる。すなわち、集磁部8と感磁部8aもループ状に接続されるため、感磁部8aの反磁界を減少させることができる。そのため、磁束の流れがスムーズになり、外部磁束を効率よく感磁部8aに流入させることができる。
特に、図21から図23に示した例のように、集磁部8bの平面形状を円形、楕円形、または長円形にすると、磁束の流れがスムーズになる。
【0098】
磁性コア材8の集磁部8bが長方形又は正方形の枠型場合でも、図20に示した例のように、各角部を丸くして円弧状にすると磁束の流れがスムーズになる。
図18〜図23に示した磁性コア材8においても、その感磁部8aを構成する磁性コア材を、複数本の細長い部分に分割して構成してもよい。その場合もコイル3は複数本の磁性コア材に共通に巻回する。このようにすれば、地磁気の検出感度が向上する。
【0099】
また、説明を分かりやすくするために、図1及び図3において電極パッド15〜18を大き目に図示したが、後の実装が行えるようなサイズであれば、より小さく形成することも可能である。その形成位置も任意に変更できる。図1に示した例では電極パッド15〜18を2つの集磁部8bの間に形成したので、磁気センサ素子の全体サイズを小さくすることができるが、必要に応じて磁性コア材8の外部に電極パッドを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】この発明による磁気センサ素子の基本的な実施例の構成を示す平面図である。
【図2】図1におけるE−E線に沿う断面を拡大して示す断面図である。
【図3】図2に示す下コイル薄膜と上コイル薄膜の接続状態を説明するための拡大図である。
【図4】表4における「i」の場合における検出パルスの波形図である。
【図5】表4における「iv」の場合における検出パルスの波形図である。
【図6】表4における「vi」の場合における検出パルスの波形図である。
【図7】表5における「vi」の場合における検出パルスの波形図である。
【図8】表5における「iii」の場合における検出パルスの波形図である。
【図9】表5における「i」の場合における検出パルスの波形図である。
【図10】この発明による磁気センサ素子を用いて構成した電子方位計の概念を示した斜視図である。
【0101】
【図11】この発明による磁気センサ素子の製造方法を説明するための最初の工程を示す図2と同様な断面図である。
【図12】同じく次の工程を示す断面図である。
【図13】同じくその次の工程を示す断面図である。
【図14】同じくさらに次の工程を示す断面図である。
【図15】同じくさらにその次の工程を示す断面図である。
【0102】
【図16】この発明による磁気センサ素子の磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図17】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図18】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図19】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図20】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図21】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図22】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【図23】同じく磁性コア材の他の形状例を示す平面図である。
【0103】
【図24】従来の磁気センサ素子の構成例を示す斜視図である。
【図25】同じくその磁気センサ素子のサイズを示す平面図である。
【図26】同じくその磁気センサ素子の側面図である。
【図27】従来の3軸磁気センサによる電子方位計の構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
1:磁気センサ素子 1x:x軸磁気センサ素子 1y:y軸磁気センサ素子
1z:z軸磁気センサ素子 2:非磁性基台 3:コイル
3a:励磁用コイル 3b:検出用コイル 4:下コイル薄膜
6:下絶縁層 8:磁性コア材 8a:感磁部 8b:集磁部
10:上絶縁層 12:上コイル薄膜 14:保護膜
15,16,17,18:電極パッド
20:電子方位計 30 エポキシ基台 31:磁気センサ用IC
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性コア材にコイルを巻回して形成された感磁部と、該感磁部の両端にそれぞれ接続され、前記感磁部に磁束を導くための集磁部とを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子において、
前記集磁部が、前記感磁部の磁性コア材と一体の磁性コア材によって前記感磁部の長手方向と直交する方向に延びて形成された一対の長片状の集磁部であって、その各集磁部の長手方向の中央部が前記感磁部の両端にそれぞれ個別に接続されており、
前記コイルは、前記磁性コア材の一方の主面上に形成された上絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の上コイル薄膜と、前記磁性コア材の他方の主面上に形成された下絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の下コイル薄膜とを有し、隣接する前記下コイル薄膜と前記上コイル薄膜とをその端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルである
ことを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項2】
磁性コア材にコイルを巻回して形成された感磁部と、該感磁部の両端にそれぞれ接続され、前記感磁部に磁束を導くための集磁部とを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子において、
前記集磁部が、前記感磁部の磁性コア材と一体の磁性コア材によって前記感磁部を囲む閉ループ状に形成された集磁部であって、該集磁部によって囲まれた空間が前記感磁部によって略二分されるように、該空間を挟んで対向する2つの部分がそれぞれ前記感磁部の両端に接続されており、
前記コイルは、前記磁性コア材の一方の主面上に形成された上絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の上コイル薄膜と、前記磁性コア材の他方の主面上に形成された下絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の下コイル薄膜とを有し、隣接する前記下コイル薄膜と前記上コイル薄膜とをその端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルである
ことを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項3】
前記集磁部の平面形状が、正方形又は長方形の枠型に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ素子。
【請求項4】
前記正方形又は長方形の枠型に形成された集磁部の角部が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ素子。
【請求項5】
前記閉ループ状の磁性体の平面形状が、円形、長円形、または楕円形の枠型に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ素子。
【請求項6】
前記感磁部が、複数本の磁性コア材に共通にコイルを巻回して形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。(感磁部が複数本)
【請求項7】
前記磁性コア材は厚さが均一であり、その全体形状は、前記感磁部の長手方向に沿う長さをA、前記集磁部における前記感磁部の長手方向と直交する方向の長さをBとしたとき、B/Aの値が0.8〜1.5となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子。
【請求項8】
前記磁性コア材は、前記感磁部における前記長手方向と直交する方向の長さをCとしたとき、C/Bの値が0.033〜0.200となるように形成されていることを特徴とする請求項7に記載の磁気センサ素子。
【請求項9】
前記上絶縁層が、前記感磁部の幅方向の両端部に所定の角度の傾斜面を有していることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。
【請求項10】
前記磁性コア材は、スパッタリング法またはメッキ法により形成された、鉄とニッケルを主成分とするパーマロイ、または鉄とニッケルとコバルトを主成分とする軟磁性膜であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。
【請求項11】
前記コイルは、隣接する前記下コイル薄膜と前記上コイル薄膜とをその端部で一つ置きに順次連続するように接続して形成された2本の薄膜コイルによる励磁用コイルと検出用コイルとからなることを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の磁気センサ素子が、少なくとも2個以上非磁性基台上に配設されてなることを特徴とする電子方位計。
【請求項13】
前記磁気センサ素子が前記非磁性基台上に3個配設され、その各磁気センサ素子は前記感磁部の長手方向が互いに直交する向きに配設されて3軸磁気センサを構成していることを特徴とする電子方位計。
【請求項1】
磁性コア材にコイルを巻回して形成された感磁部と、該感磁部の両端にそれぞれ接続され、前記感磁部に磁束を導くための集磁部とを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子において、
前記集磁部が、前記感磁部の磁性コア材と一体の磁性コア材によって前記感磁部の長手方向と直交する方向に延びて形成された一対の長片状の集磁部であって、その各集磁部の長手方向の中央部が前記感磁部の両端にそれぞれ個別に接続されており、
前記コイルは、前記磁性コア材の一方の主面上に形成された上絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の上コイル薄膜と、前記磁性コア材の他方の主面上に形成された下絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の下コイル薄膜とを有し、隣接する前記下コイル薄膜と前記上コイル薄膜とをその端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルである
ことを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項2】
磁性コア材にコイルを巻回して形成された感磁部と、該感磁部の両端にそれぞれ接続され、前記感磁部に磁束を導くための集磁部とを有するフラックスゲート型の磁気センサ素子において、
前記集磁部が、前記感磁部の磁性コア材と一体の磁性コア材によって前記感磁部を囲む閉ループ状に形成された集磁部であって、該集磁部によって囲まれた空間が前記感磁部によって略二分されるように、該空間を挟んで対向する2つの部分がそれぞれ前記感磁部の両端に接続されており、
前記コイルは、前記磁性コア材の一方の主面上に形成された上絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の上コイル薄膜と、前記磁性コア材の他方の主面上に形成された下絶縁層における前記磁性コア材と反対側の面に設けられた複数個の下コイル薄膜とを有し、隣接する前記下コイル薄膜と前記上コイル薄膜とをその端部で順次連続するように接続して形成された薄膜コイルである
ことを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項3】
前記集磁部の平面形状が、正方形又は長方形の枠型に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ素子。
【請求項4】
前記正方形又は長方形の枠型に形成された集磁部の角部が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ素子。
【請求項5】
前記閉ループ状の磁性体の平面形状が、円形、長円形、または楕円形の枠型に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ素子。
【請求項6】
前記感磁部が、複数本の磁性コア材に共通にコイルを巻回して形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。(感磁部が複数本)
【請求項7】
前記磁性コア材は厚さが均一であり、その全体形状は、前記感磁部の長手方向に沿う長さをA、前記集磁部における前記感磁部の長手方向と直交する方向の長さをBとしたとき、B/Aの値が0.8〜1.5となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子。
【請求項8】
前記磁性コア材は、前記感磁部における前記長手方向と直交する方向の長さをCとしたとき、C/Bの値が0.033〜0.200となるように形成されていることを特徴とする請求項7に記載の磁気センサ素子。
【請求項9】
前記上絶縁層が、前記感磁部の幅方向の両端部に所定の角度の傾斜面を有していることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。
【請求項10】
前記磁性コア材は、スパッタリング法またはメッキ法により形成された、鉄とニッケルを主成分とするパーマロイ、または鉄とニッケルとコバルトを主成分とする軟磁性膜であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の磁気センサ素子。
【請求項11】
前記コイルは、隣接する前記下コイル薄膜と前記上コイル薄膜とをその端部で一つ置きに順次連続するように接続して形成された2本の薄膜コイルによる励磁用コイルと検出用コイルとからなることを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の磁気センサ素子が、少なくとも2個以上非磁性基台上に配設されてなることを特徴とする電子方位計。
【請求項13】
前記磁気センサ素子が前記非磁性基台上に3個配設され、その各磁気センサ素子は前記感磁部の長手方向が互いに直交する向きに配設されて3軸磁気センサを構成していることを特徴とする電子方位計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
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【図16】
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【図18】
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【図22】
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【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2007−279029(P2007−279029A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67466(P2007−67466)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
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