磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置
【課題】加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置に関し、加速度センサを搭載したディスク装置の外乱の補償制御を好適に行うことができるディスク装置の制御方法およびディスク装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを離間して搭載したディスク装置の制御方法であって、2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことを特徴とする。
【解決手段】本発明は一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを離間して搭載したディスク装置の制御方法であって、2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置に関し、一層詳細には、外乱補償制御方法および外乱補償制御部に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、磁気ディスク装置では、磁気ディスクに対して情報の記録および再生を行うために磁気ヘッドの位置決めが行われる。
【0003】
この場合、磁気ディスク装置に外部からの振動等によって外乱が発生すると磁気ヘッドの位置決めに大きな影響を生じる。特に、外乱が回転方向の外乱のときは、磁気ヘッドの駆動機構としてロータリー型のアクチュエータを用いたものでは、アクチュエータの機構上、影響がより大きい。
【0004】
そこで、外乱の影響を補償する方法として、磁気ディスク装置の筐体若しくは回路基板上に加速度センサを搭載し、外部からの振動や磁気ディスク装置自体のシーク反力等によって発生する振動を検出し、検出した情報を用いて外乱が磁気ヘッドの位置決めに与える影響を補償する方法が提案されている。
【0005】
外乱のうちで特に回転方向の外乱(以下、回転外乱という。)の影響を補償する方法として、単一の加速度センサによって回転外乱の角加速度を直接に検出する方式のものがあるが、この場合、センサが高価である、応答周波数が低い、あるいはセンサが比較的大型である等の問題がある。これに対して、上記費用等の観点から、一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを磁気ディスク装置に同一方向に配置し、回転外乱の一軸方向成分を含む一軸方向の振動成分を検出した2つの加速度センサの出力を演算処理することにより一軸方向の外乱とともに回転外乱を求める方式が提案されている。
【0006】
この2つの加速度センサを備えた方式の従来例として、例えば、図1、図2に示す磁気ディスク装置について説明する。
【0007】
2つの加速度センサ1a、1bは、回路基板2の図2中右側端部の2隅に距離L離間して配置されている。
【0008】
磁気ディスク3に記録されたサーボ情報は、磁気ヘッド4で読み込まれる。磁気ヘッド4からのサーボ信号は、再生アンプ5aで増幅した後、サーボ復調回路5bによって位置情報に復調する。サーボ復調回路5bからの位置情報は、マイクロコントローラ6に取り込まれる。
【0009】
一方、加速度センサ1a、1bによって検出された外乱情報もマイクロコントローラ6のA/Dコンバータ6aに取り込まれる。
【0010】
マイクロコントローラ6に取り込まれた位置情報と外乱情報は、メモリ6bに記録されているプログラムを用いてCPU6cによって処理を行い、制御信号を生成する。
【0011】
制御信号は、DAコンバータ6dを介してVCMドライバ7に送られ、VCM8を駆動することにより、外乱を補償した磁気ヘッド4の位置決めを行う。
【0012】
この場合、回転外乱は、角加速度ω(単位:rad/s2)として得られるが、この角加速度ωは、2つの加速度センサの出力G1、G2(単位:G)と距離L(単位:m)とから以下の式によって求められる。ここで、gは重力加速度9.8(単位:m/s2)である。
【0013】
ω=(G1−G2)×g/L外乱を補償した磁気ヘッドの位置決め方法について、さらに図3を参照して説明する。
【0014】
加速度センサ1a、1bによって検出された外乱情報は、フィルタ9aによって処理されてゲインGnを調整した補償信号Sbとされ、通常のフィードバック制御系のコントローラ9bの出力信号Saから補償信号Sbを減算することにより、外乱を打ち消す指令値Sを制御対象9cに与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記した同一方向、すなわち、並進方向の外乱成分を検出する2つの加速度センサの検出値の差分から回転外乱を求める方式の場合、2つの加速度センサに感度のばらつきがあると、並進方向の振動成分をキャンセルすることができず、検出値の差分を誤った回転外乱情報として処理するため、補償の際に誤差を生じる原因となる。
【0016】
また、この不具合とは別に、通常、加速度センサにより検出した回転外乱情報に位相遅れがあると、これも補償の際に誤差を生じる一因となる。
【0017】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、加速度センサを搭載したディスク装置の外乱の補償制御を好適に行うことができるディスク装置の制御方法およびディスク装置を提供することを目的とする。また、本発明は、並進方向の振動成分を検出する2つの加速度センサの検出値の差分から外乱を求めて補償する際に、制御系へ悪影響を及ぼすことなく好適に補償制御することができるディスク装置の制御方法およびディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを離間して搭載したディスク装置の制御方法であって、2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサが離間して搭載されたディスク装置であって、2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行う補償制御部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ディスク装置に互いに離間して配置され、一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことにより、誤った外乱補償を低減でき、よって、ヘッドアクチュエータの制御の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係るディスク装置の制御方法およびディスク装置の好適な実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、加速度センサを備えた磁気ディスク装置を例にとり、図を参照して、以下に説明する。なお、本実施の形態例に係る磁気ディスク装置の基本的な装置構成は図1〜図3に示した従来の磁気ディスク装置と同じであるため、重複する説明を省略する。
【0022】
本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法および制御装置について、図4の装置構成図および図5の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0023】
図4に示すように、ディスク装置は、ディスク装置に作用する外乱の並進方向成分を含む加速度センサ1a、1bの出力に応じて、外乱補償の制御方法、すなわち、リードまたはライト動作中におけるヘッドアクチュエータの制御量の算出シーケンスを変更する補償制御部11を備える。
【0024】
図5を参照して、制御方法を説明する。
【0025】
まず、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する(S1)。前記したように、外乱は一軸方向(並進方向)外乱と回転方向外乱の並進方向成分の双方を含む。
【0026】
ついで、外乱G1、G2が同符号、すなわち、同一方向の加速度であるかどうかを判断する(S2)。ここで、外乱G1、G2が異符号の場合は、回転方向外乱が大きいことが明らかなため、通常の外乱補償制御方式に従う(S3)。すなわち、外乱G1、G2の差により回転方向外乱を算出し、通常の外乱補償制御を行う。一方、外乱G1、G2が同符号の場合は、さらに、外乱(外乱検出値)G1、G2の差(差分)Gsubを算出する(S4)。
【0027】
そして、外乱G1、G2の差Gsubが閾値A以上かどうかを判断する(S5)。ここで、閾値Aは、磁気ディスク装置のマイクロコントローラ6のフィードバック制御系の特性や外乱の振動特性を考慮して、経験的にあるいは実験的に求めて設定することができる。外乱G1、G2の差Gsubが閾値A以上の場合は、回転方向外乱が大きく、センサの感度ばらつきと併進振動成分による悪影響を考慮しても、外乱補償制御が有効に機能するため、通常の外乱補償制御方式に従う(S3)。一方、外乱G1、G2の差Gsubが閾値A未満の場合は、さらに、外乱G1、G2の和(加算値)Gaddを算出する(S6)。
【0028】
そして、外乱G1、G2の和Gaddが閾値B以上かどうかを判断する(S7)。外乱G1、G2の和Gaddが閾値B未満の場合は、併進方向外乱が小さくセンサの感度ばらつきによる悪影響が小さいため、通常の外乱補償制御方式に従う(S3)。一方、外乱G1、G2の和Gaddが閾値B以上の場合は、さらに、並進振動量Pを算出する(S8)。ここで、並進振動量Pは、外乱G1、G2の和Gaddの絶対値から外乱G1、G2の差Gsubの絶対値を引いた値として定義する。この場合、外乱G1、G2の和Gaddの絶対値および外乱G1、G2の差Gsubの絶対値のそれぞれに重み付けを行ってもよい。そして、並進振動量Pの大きさに応じて外乱補償制御方式を変更する(S9)。すなわち、外乱補償ゲインを調整する。
【0029】
なお、上記ステップ6(S6)およびステップ7(S7)において、外乱G1、G2の和Gaddに代えて、外乱G1、G2のいずれか一方を用いてもよい。
【0030】
以上説明した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置によれば、加速度センサ1a、1bの出力に応じて適宜外乱補償の制御方法を変更することにより、回転方向の外乱をフィードフォワード補償制御する際に、フィードバック系に悪影響を及ぼすことが阻止される。特に、ヘッドの駆動機構としてロータリー型のアクチュエータを用いた磁気ディスク装置等において、好適である。
【0031】
本実施の形態の第2の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図6の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
まず、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法に従って、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する工程(S1)から並進振動量Pを算出する工程(S8)までを実施する。
【0033】
ついで、並進振動量Pが閾値α以上かどうかを判断する(S11)。ここで、並進振動量Pの閾値αは、その並進振動量Pに基づいて補償制御を行っても実用的な意味がなく、寧ろ補償制御を行うことがセンサの感度ばらつきによる回転外乱の誤検出により制御系に悪影響を与えると考えられる限界値として、実験等によって適宜設定することができる。
【0034】
そして、並進振動量Pが閾値α未満の場合は、外乱補償ゲインの値を変更することなく、通常の外乱制御方式に従う(図5中S3参照)。一方、並進振動量Pが閾値α以上の場合は、外乱補償ゲインの値を変更し(S12)、外乱補償量Sbを求め(S13)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S14)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S15)。
【0035】
以上説明した本実施の形態の第2の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置と同様の効果を得ることができる。
【0036】
本実施の形態の第3の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図7の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0037】
まず、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法に従って、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する工程(S1)から並進振動量Pを算出する工程(S8)までを実施する。
【0038】
ついで、並進振動量Pが閾値β以上かどうかを判断する(S21)。ここで、並進振動量Pの閾値βは、磁気ディスク装置のマイクロコントローラ6のフィードバック制御系の特性を考慮し、また、振動特性を考慮し、センサの感度ばらつきによる回転外乱の誤検出により、並進振動量Pに基づいて補償制御を行うことが制御系へ悪影響を及ぼすと考えられる限界値として、実験等によって適宜設定することができる。
【0039】
そして、並進振動量Pが閾値β以上の場合は、外乱補償を行うことなく(S22)、すなわち、外乱を打ち消す指令値Sは制御量コントローラ9bの出力信号Saと等価として、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S25)(図3参照)。一方、並進振動量Pが閾値β未満の場合は、上記した本実施の形態の第2の例のステップ13〜15と同様に、外乱補償ゲインの値を変更した後、外乱補償量Sbを求め(S23)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S24)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S25)。
【0040】
以上説明した本実施の形態の第3の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置と同様の効果を得ることができる。
【0041】
本実施の形態の第4の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図8の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0042】
本実施の形態の第4の例に係る磁気ディスク装置の制御方法は、上記本実施の形態の第3の例に係る磁気ディスク装置の制御方法に関連し、並進振動量Pが閾値(スライスレベル)β以上かどうかを判断し(S21)、並進振動量Pが閾値β以上の場合に、磁気ディスク3へのデータの書き込みを停止する(S26)。これにより、既に書き込みされているデータを保護することができる。
【0043】
本実施の形態の第5の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図9の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
この場合、2つの加速度センサ1a、1b出力である外乱G1、G2をサンプリングする毎にデクリメントされるタイマに対して初期値Tncをセットし、タイマ値Tが>0の間は外乱補償を行わないようにする。ここで、初期値Tncは、例えば、初期値Tncの時間内の並進振動量Pが大きいときに、初期値Tncの時間内に外乱補償を行うことがセンサの感度ばらつきによる回転外乱の誤検出により、かえって制御系への悪影響を及ぼすと考えられる限界値を実験等により求めて設定することができる。
【0045】
具体的には、まず、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する(S1)。
【0046】
ついで、タイマ値Tが0を超えるかどうかを判断する(S31)。
【0047】
算出した並進振動量Pが閾値β以上の場合は、タイマ値Tを初期値Tncにセットし(S37)、外乱補償は行わなわず(S33)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S34)。一方、並進振動量Pが閾値β未満の場合は、外乱補償量Sbを求め(S38)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S39)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S34)。
【0048】
以上説明した本実施の形態の第5の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、稼動中のディスク装置の並進振動量が閾値に近い場合に、外乱補償のON/OFFが頻繁に起こることによる制御系への悪影響を回避することができる。本実施の形態の第6の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図10の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。この、第6の例は、上記した第5の例の手順を一部変更し、所定時間(初期値)Tnc内に並進振動量Pが再度閾値β以上になったとき、外乱の補償制御を行わない状態を再度所定時間Tncの間継続するものである。
【0049】
具体的には、まず、本実施の形態の第1の例と同様の手順で、並進振動量Pを算出し(S8)、並進振動量Pが閾値β以上かどうかを判断する(S43)。
【0050】
並進振動量Pが閾値β以上の場合は、タイマ値Tを初期値Tncにセットし(S44)、外乱補償は行わなわず(S45)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S50)。そして、次の出力サンプリングの際に、並進振動量Pが引き続き閾値β以上であれば(S43)、タイマ値Tのデクリメントが行われることなく、再度タイマ値Tを初期値Tncにセットする(S44)。これにより、並進振動量Pが閾値β以上の状態が継続する限り、外乱補償を行わない状態が継続する。
【0051】
一方、並進振動量Pが閾値β未満の場合は、タイマ値Tが0を超えるかどうかを判断する(S46)。そして、タイマ値Tが0を超える場合は、タイマ値Tのデクリメントが行われ(S47 T=T−1)、外乱補償は行わない(S45)。これに対して、タイマ値Tが0の場合は、外乱補償量Sbを求め(S48)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S49)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S50)。
【0052】
以上説明した本実施の形態の第6の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、並進振動量が閾値に近い状態が所定時間を超える場合においても上記本実施の形態の第5の例に係る磁気ディスク装置の制御方法の効果を得ることができる。
【0053】
本実施の形態の第7の例に係る磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置について、図11、図12を参照して説明する。なお、本実施の形態の第7の例を含め、以下に説明する実施例は、補償制御のための補償制御部に設けるフィルタについてのものである。
【0054】
図11の回路構成図に示すように、外乱補償制御のための補償制御部18には、加速度センサの共振点を除去するための高域除去フィルタや加速度センサ1a、1bの出力を増幅する際に直流成分を除去するための低域除去フィルタ等のアナログフィルタ20と、演算回路22と、増幅した補償制御信号を得るための増幅回路24が設けられる。
【0055】
本実施の形態の第7の例においては、さらに、位相進み補償フィルタがディジタルフィルタ26として設けられている。
【0056】
補償制御部18が、ディジタルフィルタ26を除いたアナログフィルタ20、演算回路22、増幅回路24等のみで構成される場合、これらの回路特性に起因して、得られる外乱補償値の位相が外乱の位相とずれることが起こり得る。この位相のずれは、結果として、外乱補償効果の減少を招く。
【0057】
この傾向をシミュレーションしたものを図12のゲイン図に示す。図12中、Aは加速度センサによる補償制御を行わないケースであり、Bはディジタルフィルタを設けずに補償制御を行ったケースであり、Cはディジタルフィルタ26を設けて補償制御を行ったケースである。Aに比べてBでは、位相遅れのない200Hzの周波数附近では大きな補償効果が得られているが、200Hzより低い周波数領域では低域除去フィルタによる位相進みにより、また、200Hzより高い周波数領域では高域除去フィルタや演算時間遅れに起因する位相遅れによって、いずれも補償効果が減少している。これらに対して、Cでは、位相進み補償フィルタの作用で外乱補償値の位相と外乱の位相とが一致する周波数が600Hzに移動し、この周波数において大きな外乱補償効果が得られている。なお、図12中、Dについては後述する。
【0058】
上記した位相進み補償フィルタからなるディジタルフィルタ26のフィルタ設計方法について、図13のフィルタ設計手順のフローチャートに従って説明する。
【0059】
まず、補償対象周波数fcを決定する(S61)。図12中Cの場合、補償対象周波数は600Hzである。
【0060】
ついで、対象周波数fcにおける位相遅れΔωを計算し(S62)、さらに、対象周波数fcにおける位相遅れΔωを補償するフィルタを設計する(S63)。この場合、対象周波数fcを中心周波数とする位相進み補償フィルタの伝達関数F(s)は、以下の式で記述できる。
【0061】
F(s)=(s+2πfc/√γ)/(s+2πfc√γ)
上式においてγの値を変化させることにより、周波数fcにおける位相進み量を調整することができる。この位相補償フィルタによるゲイン変動に対し、外乱補償ゲインを調整する。そして、シミュレーションによる評価を行い(S66)、その結果を判断する(S67)。
【0062】
結果が悪ければ、対象周波数を微調整し、シミュレーションモデルを調整する(S65)。一方、結果が良ければ、実機評価を行い(S68)、その結果を判断する(S69)。
【0063】
そして、結果が悪ければ、対象周波数を微調整し、シミュレーションモデルを調整する(S65)。一方、結果が良ければ、フィルタ設計は終了する。
【0064】
本実施の形態の第8の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図14を参照して説明する。この制御方法は、上記本実施の形態の第7の例に係る磁気ディスク装置の制御方法、すなわち、図12中Cのケースのフィルタ設計に関連して、図11のディジタルフィルタ26に位相進み補償フィルタを高次に設け、複数の補償対象周波数fi(i=1、2…n)について、位相とともにゲインを調整するものである。
【0065】
まず、磁気ディスク装置の設置環境から補償対象周波数を決定する(S81)。
【0066】
ついで、対象周波数fiにおける外乱に対する補償値のゲインずれΔGi、位相遅れΔωiを計算し(S82)、さらに、対象周波数fiにおけるゲインが−ΔGi、位相進みがΔωiとなるフィルタを設計する(S83)。
【0067】
そして、フィルタの安定性を判断し(S84)、不安定であれば、対象周波数fiを調整し、シミュレーションモデルを調整し(S85)、対象周波数fiにおけるゲインずれΔGi、位相遅れΔωiを再計算する(S82)。一方、フィルタが安定であれば、制御効果を検証する(S86)。
【0068】
結果が悪ければ、対象周波数を微調整し、シミュレーションモデルを調整する(S85)。一方、結果が良ければ、フィルタ設計は終了する。
【0069】
このようにして、位相進み補償フィルタを高次に設けた図12中Dのケースでは、約200Hzと約500Hzの2つの周波数において大きな外乱補償効果が得られている。
【0070】
本実施の形態の第9の例に係る磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置について、図15の回路構成図に従って説明する。
【0071】
図15に示すように、補償制御部30には、位相補償フィルタ(ディジタルフィルタ)32とともに、位相補償フィルタ32の前段にノッチフィルタ34が設けられ、さらにノッチフィルタ34と位相補償フィルタ32との間に帯域制限フィルタ36が設けられている。ノッチフィルタ34により加速度センサの共振周波数成分を除去し、帯域制限フィルタ36によりノイズを除去する。
【0072】
上記本実施の形態の第9の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、加速度センサの共振による外乱の誤検出を抑制し、補償制御への悪影響を低減することができる。
【0073】
以上の説明に関してさらに以下のような態様が考えられる。
【0074】
(付記1) 前記2つの加速度センサを前記ディスク装置のディスク面に略平行な並進方向成分を検出するように配置し、該2つの加速度センサの出力の和および出力の差をそれぞれ算出し、該出力の和および出力の差のそれぞれの値に基づいて補償ゲインを調整することを特徴とするディスク装置の制御方法。
【0075】
(付記2) 前記加速度センサによって検出される前記並進方向成分の前記出力の和の絶対値および前記出力の差の絶対値の差に基づいて求めた並進振動量が閾値以上のときには、外乱の補償制御を行わないことを特徴とする付記1記載のディスク装置の制御方法。
【0076】
(付記3) 前記並進振動量が前記閾値以上なったとき、外乱の補償制御を行わない状態を所定時間継続することを特徴とする付記2記載のディスク装置の制御方法。
【0077】
(付記4) 前記所定時間内に前記並進振動量が再度前記閾値以上なったとき、外乱の補償制御を行わない状態を再度所定時間継続することを特徴とする付記3記載のディスク装置の制御方法。
【0078】
(付記5) 前記加速度センサによって検出される前記並進方向成分の前記出力の和の絶対値および前記出力の差の絶対値の差に基づいて求めた並進振動量が閾値以上のときには、データの書き込みを停止することを特徴とする付記1記載のディスク装置の制御方法。
【0079】
(付記6) 前記加速度センサの出力の所定周波数成分の位相およびゲインを調整することを特徴とするディスク装置の制御方法。
【0080】
(付記7) 前記加速度センサの出力の位相を調整するに先立ち、該加速度センサの共振周波数成分を除去することを特徴とするディスク装置の制御方法。
【0081】
(付記8) 前記補償制御部は、位相進み補償フィルタを有することを特徴とするディスク装置。
【0082】
(付記9) 前記補償制御部は、前記位相進み補償フィルタの前段にノッチフィルタをさらに有することを特徴とする付記8記載のディスク装置。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】従来の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置について、一部破断省略して示した回路基板の平面図である。
【図2】従来の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の動作を説明するための図である。
【図3】従来の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の動作を説明するための回路構成図である。
【図4】本実施の形態例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の動作を説明するための図である。
【図5】本実施の形態の第1の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態の第2の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図7】本実施の形態の第3の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態の第4の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図9】本実施の形態の第5の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施の形態の第6の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図11】本実施の形態の第7の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御部を説明するための図である。
【図12】本実施の形態例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の加速度センサの出力のゲイン図である。
【図13】本実施の形態の第7の例のフィルタの設計手順を示すフローチャートである。
【図14】本実施の形態の第8の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御機部を説明するための図である。
【図15】本実施の形態の第9の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御機部を説明するための図である。
【符号の説明】
【0084】
1a、1b 加速度センサ
2 回路基板
3 磁気ディスク
4 磁気ヘッド
6 マイクロコントローラ
7 VCMドライバ
8 VCM
18、30 補償制御部
20 アナログフィルタ
22 演算回路
24 増幅回路
26 ディジタルフィルタ
32 位相補償フィルタ
34 ノッチフィルタ
36 帯域制限フィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置に関し、一層詳細には、外乱補償制御方法および外乱補償制御部に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、磁気ディスク装置では、磁気ディスクに対して情報の記録および再生を行うために磁気ヘッドの位置決めが行われる。
【0003】
この場合、磁気ディスク装置に外部からの振動等によって外乱が発生すると磁気ヘッドの位置決めに大きな影響を生じる。特に、外乱が回転方向の外乱のときは、磁気ヘッドの駆動機構としてロータリー型のアクチュエータを用いたものでは、アクチュエータの機構上、影響がより大きい。
【0004】
そこで、外乱の影響を補償する方法として、磁気ディスク装置の筐体若しくは回路基板上に加速度センサを搭載し、外部からの振動や磁気ディスク装置自体のシーク反力等によって発生する振動を検出し、検出した情報を用いて外乱が磁気ヘッドの位置決めに与える影響を補償する方法が提案されている。
【0005】
外乱のうちで特に回転方向の外乱(以下、回転外乱という。)の影響を補償する方法として、単一の加速度センサによって回転外乱の角加速度を直接に検出する方式のものがあるが、この場合、センサが高価である、応答周波数が低い、あるいはセンサが比較的大型である等の問題がある。これに対して、上記費用等の観点から、一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを磁気ディスク装置に同一方向に配置し、回転外乱の一軸方向成分を含む一軸方向の振動成分を検出した2つの加速度センサの出力を演算処理することにより一軸方向の外乱とともに回転外乱を求める方式が提案されている。
【0006】
この2つの加速度センサを備えた方式の従来例として、例えば、図1、図2に示す磁気ディスク装置について説明する。
【0007】
2つの加速度センサ1a、1bは、回路基板2の図2中右側端部の2隅に距離L離間して配置されている。
【0008】
磁気ディスク3に記録されたサーボ情報は、磁気ヘッド4で読み込まれる。磁気ヘッド4からのサーボ信号は、再生アンプ5aで増幅した後、サーボ復調回路5bによって位置情報に復調する。サーボ復調回路5bからの位置情報は、マイクロコントローラ6に取り込まれる。
【0009】
一方、加速度センサ1a、1bによって検出された外乱情報もマイクロコントローラ6のA/Dコンバータ6aに取り込まれる。
【0010】
マイクロコントローラ6に取り込まれた位置情報と外乱情報は、メモリ6bに記録されているプログラムを用いてCPU6cによって処理を行い、制御信号を生成する。
【0011】
制御信号は、DAコンバータ6dを介してVCMドライバ7に送られ、VCM8を駆動することにより、外乱を補償した磁気ヘッド4の位置決めを行う。
【0012】
この場合、回転外乱は、角加速度ω(単位:rad/s2)として得られるが、この角加速度ωは、2つの加速度センサの出力G1、G2(単位:G)と距離L(単位:m)とから以下の式によって求められる。ここで、gは重力加速度9.8(単位:m/s2)である。
【0013】
ω=(G1−G2)×g/L外乱を補償した磁気ヘッドの位置決め方法について、さらに図3を参照して説明する。
【0014】
加速度センサ1a、1bによって検出された外乱情報は、フィルタ9aによって処理されてゲインGnを調整した補償信号Sbとされ、通常のフィードバック制御系のコントローラ9bの出力信号Saから補償信号Sbを減算することにより、外乱を打ち消す指令値Sを制御対象9cに与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記した同一方向、すなわち、並進方向の外乱成分を検出する2つの加速度センサの検出値の差分から回転外乱を求める方式の場合、2つの加速度センサに感度のばらつきがあると、並進方向の振動成分をキャンセルすることができず、検出値の差分を誤った回転外乱情報として処理するため、補償の際に誤差を生じる原因となる。
【0016】
また、この不具合とは別に、通常、加速度センサにより検出した回転外乱情報に位相遅れがあると、これも補償の際に誤差を生じる一因となる。
【0017】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、加速度センサを搭載したディスク装置の外乱の補償制御を好適に行うことができるディスク装置の制御方法およびディスク装置を提供することを目的とする。また、本発明は、並進方向の振動成分を検出する2つの加速度センサの検出値の差分から外乱を求めて補償する際に、制御系へ悪影響を及ぼすことなく好適に補償制御することができるディスク装置の制御方法およびディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを離間して搭載したディスク装置の制御方法であって、2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサが離間して搭載されたディスク装置であって、2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行う補償制御部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ディスク装置に互いに離間して配置され、一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことにより、誤った外乱補償を低減でき、よって、ヘッドアクチュエータの制御の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係るディスク装置の制御方法およびディスク装置の好適な実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、加速度センサを備えた磁気ディスク装置を例にとり、図を参照して、以下に説明する。なお、本実施の形態例に係る磁気ディスク装置の基本的な装置構成は図1〜図3に示した従来の磁気ディスク装置と同じであるため、重複する説明を省略する。
【0022】
本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法および制御装置について、図4の装置構成図および図5の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0023】
図4に示すように、ディスク装置は、ディスク装置に作用する外乱の並進方向成分を含む加速度センサ1a、1bの出力に応じて、外乱補償の制御方法、すなわち、リードまたはライト動作中におけるヘッドアクチュエータの制御量の算出シーケンスを変更する補償制御部11を備える。
【0024】
図5を参照して、制御方法を説明する。
【0025】
まず、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する(S1)。前記したように、外乱は一軸方向(並進方向)外乱と回転方向外乱の並進方向成分の双方を含む。
【0026】
ついで、外乱G1、G2が同符号、すなわち、同一方向の加速度であるかどうかを判断する(S2)。ここで、外乱G1、G2が異符号の場合は、回転方向外乱が大きいことが明らかなため、通常の外乱補償制御方式に従う(S3)。すなわち、外乱G1、G2の差により回転方向外乱を算出し、通常の外乱補償制御を行う。一方、外乱G1、G2が同符号の場合は、さらに、外乱(外乱検出値)G1、G2の差(差分)Gsubを算出する(S4)。
【0027】
そして、外乱G1、G2の差Gsubが閾値A以上かどうかを判断する(S5)。ここで、閾値Aは、磁気ディスク装置のマイクロコントローラ6のフィードバック制御系の特性や外乱の振動特性を考慮して、経験的にあるいは実験的に求めて設定することができる。外乱G1、G2の差Gsubが閾値A以上の場合は、回転方向外乱が大きく、センサの感度ばらつきと併進振動成分による悪影響を考慮しても、外乱補償制御が有効に機能するため、通常の外乱補償制御方式に従う(S3)。一方、外乱G1、G2の差Gsubが閾値A未満の場合は、さらに、外乱G1、G2の和(加算値)Gaddを算出する(S6)。
【0028】
そして、外乱G1、G2の和Gaddが閾値B以上かどうかを判断する(S7)。外乱G1、G2の和Gaddが閾値B未満の場合は、併進方向外乱が小さくセンサの感度ばらつきによる悪影響が小さいため、通常の外乱補償制御方式に従う(S3)。一方、外乱G1、G2の和Gaddが閾値B以上の場合は、さらに、並進振動量Pを算出する(S8)。ここで、並進振動量Pは、外乱G1、G2の和Gaddの絶対値から外乱G1、G2の差Gsubの絶対値を引いた値として定義する。この場合、外乱G1、G2の和Gaddの絶対値および外乱G1、G2の差Gsubの絶対値のそれぞれに重み付けを行ってもよい。そして、並進振動量Pの大きさに応じて外乱補償制御方式を変更する(S9)。すなわち、外乱補償ゲインを調整する。
【0029】
なお、上記ステップ6(S6)およびステップ7(S7)において、外乱G1、G2の和Gaddに代えて、外乱G1、G2のいずれか一方を用いてもよい。
【0030】
以上説明した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置によれば、加速度センサ1a、1bの出力に応じて適宜外乱補償の制御方法を変更することにより、回転方向の外乱をフィードフォワード補償制御する際に、フィードバック系に悪影響を及ぼすことが阻止される。特に、ヘッドの駆動機構としてロータリー型のアクチュエータを用いた磁気ディスク装置等において、好適である。
【0031】
本実施の形態の第2の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図6の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
まず、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法に従って、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する工程(S1)から並進振動量Pを算出する工程(S8)までを実施する。
【0033】
ついで、並進振動量Pが閾値α以上かどうかを判断する(S11)。ここで、並進振動量Pの閾値αは、その並進振動量Pに基づいて補償制御を行っても実用的な意味がなく、寧ろ補償制御を行うことがセンサの感度ばらつきによる回転外乱の誤検出により制御系に悪影響を与えると考えられる限界値として、実験等によって適宜設定することができる。
【0034】
そして、並進振動量Pが閾値α未満の場合は、外乱補償ゲインの値を変更することなく、通常の外乱制御方式に従う(図5中S3参照)。一方、並進振動量Pが閾値α以上の場合は、外乱補償ゲインの値を変更し(S12)、外乱補償量Sbを求め(S13)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S14)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S15)。
【0035】
以上説明した本実施の形態の第2の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置と同様の効果を得ることができる。
【0036】
本実施の形態の第3の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図7の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0037】
まず、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置の制御方法に従って、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する工程(S1)から並進振動量Pを算出する工程(S8)までを実施する。
【0038】
ついで、並進振動量Pが閾値β以上かどうかを判断する(S21)。ここで、並進振動量Pの閾値βは、磁気ディスク装置のマイクロコントローラ6のフィードバック制御系の特性を考慮し、また、振動特性を考慮し、センサの感度ばらつきによる回転外乱の誤検出により、並進振動量Pに基づいて補償制御を行うことが制御系へ悪影響を及ぼすと考えられる限界値として、実験等によって適宜設定することができる。
【0039】
そして、並進振動量Pが閾値β以上の場合は、外乱補償を行うことなく(S22)、すなわち、外乱を打ち消す指令値Sは制御量コントローラ9bの出力信号Saと等価として、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S25)(図3参照)。一方、並進振動量Pが閾値β未満の場合は、上記した本実施の形態の第2の例のステップ13〜15と同様に、外乱補償ゲインの値を変更した後、外乱補償量Sbを求め(S23)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S24)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S25)。
【0040】
以上説明した本実施の形態の第3の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、上記した本実施の形態の第1の例に係る磁気ディスク装置と同様の効果を得ることができる。
【0041】
本実施の形態の第4の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図8の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0042】
本実施の形態の第4の例に係る磁気ディスク装置の制御方法は、上記本実施の形態の第3の例に係る磁気ディスク装置の制御方法に関連し、並進振動量Pが閾値(スライスレベル)β以上かどうかを判断し(S21)、並進振動量Pが閾値β以上の場合に、磁気ディスク3へのデータの書き込みを停止する(S26)。これにより、既に書き込みされているデータを保護することができる。
【0043】
本実施の形態の第5の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図9の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
この場合、2つの加速度センサ1a、1b出力である外乱G1、G2をサンプリングする毎にデクリメントされるタイマに対して初期値Tncをセットし、タイマ値Tが>0の間は外乱補償を行わないようにする。ここで、初期値Tncは、例えば、初期値Tncの時間内の並進振動量Pが大きいときに、初期値Tncの時間内に外乱補償を行うことがセンサの感度ばらつきによる回転外乱の誤検出により、かえって制御系への悪影響を及ぼすと考えられる限界値を実験等により求めて設定することができる。
【0045】
具体的には、まず、2つの加速度センサ1a、1bにより外乱G1、G2を検出する(S1)。
【0046】
ついで、タイマ値Tが0を超えるかどうかを判断する(S31)。
【0047】
算出した並進振動量Pが閾値β以上の場合は、タイマ値Tを初期値Tncにセットし(S37)、外乱補償は行わなわず(S33)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S34)。一方、並進振動量Pが閾値β未満の場合は、外乱補償量Sbを求め(S38)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S39)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S34)。
【0048】
以上説明した本実施の形態の第5の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、稼動中のディスク装置の並進振動量が閾値に近い場合に、外乱補償のON/OFFが頻繁に起こることによる制御系への悪影響を回避することができる。本実施の形態の第6の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図10の補償制御手順のフローチャートを参照して説明する。この、第6の例は、上記した第5の例の手順を一部変更し、所定時間(初期値)Tnc内に並進振動量Pが再度閾値β以上になったとき、外乱の補償制御を行わない状態を再度所定時間Tncの間継続するものである。
【0049】
具体的には、まず、本実施の形態の第1の例と同様の手順で、並進振動量Pを算出し(S8)、並進振動量Pが閾値β以上かどうかを判断する(S43)。
【0050】
並進振動量Pが閾値β以上の場合は、タイマ値Tを初期値Tncにセットし(S44)、外乱補償は行わなわず(S45)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S50)。そして、次の出力サンプリングの際に、並進振動量Pが引き続き閾値β以上であれば(S43)、タイマ値Tのデクリメントが行われることなく、再度タイマ値Tを初期値Tncにセットする(S44)。これにより、並進振動量Pが閾値β以上の状態が継続する限り、外乱補償を行わない状態が継続する。
【0051】
一方、並進振動量Pが閾値β未満の場合は、タイマ値Tが0を超えるかどうかを判断する(S46)。そして、タイマ値Tが0を超える場合は、タイマ値Tのデクリメントが行われ(S47 T=T−1)、外乱補償は行わない(S45)。これに対して、タイマ値Tが0の場合は、外乱補償量Sbを求め(S48)、制御量Saに外乱補償量Sbを加算して制御量Sを求め(S49)、制御量Sにより制御対象9cを目標位置に移動する(S50)。
【0052】
以上説明した本実施の形態の第6の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、並進振動量が閾値に近い状態が所定時間を超える場合においても上記本実施の形態の第5の例に係る磁気ディスク装置の制御方法の効果を得ることができる。
【0053】
本実施の形態の第7の例に係る磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置について、図11、図12を参照して説明する。なお、本実施の形態の第7の例を含め、以下に説明する実施例は、補償制御のための補償制御部に設けるフィルタについてのものである。
【0054】
図11の回路構成図に示すように、外乱補償制御のための補償制御部18には、加速度センサの共振点を除去するための高域除去フィルタや加速度センサ1a、1bの出力を増幅する際に直流成分を除去するための低域除去フィルタ等のアナログフィルタ20と、演算回路22と、増幅した補償制御信号を得るための増幅回路24が設けられる。
【0055】
本実施の形態の第7の例においては、さらに、位相進み補償フィルタがディジタルフィルタ26として設けられている。
【0056】
補償制御部18が、ディジタルフィルタ26を除いたアナログフィルタ20、演算回路22、増幅回路24等のみで構成される場合、これらの回路特性に起因して、得られる外乱補償値の位相が外乱の位相とずれることが起こり得る。この位相のずれは、結果として、外乱補償効果の減少を招く。
【0057】
この傾向をシミュレーションしたものを図12のゲイン図に示す。図12中、Aは加速度センサによる補償制御を行わないケースであり、Bはディジタルフィルタを設けずに補償制御を行ったケースであり、Cはディジタルフィルタ26を設けて補償制御を行ったケースである。Aに比べてBでは、位相遅れのない200Hzの周波数附近では大きな補償効果が得られているが、200Hzより低い周波数領域では低域除去フィルタによる位相進みにより、また、200Hzより高い周波数領域では高域除去フィルタや演算時間遅れに起因する位相遅れによって、いずれも補償効果が減少している。これらに対して、Cでは、位相進み補償フィルタの作用で外乱補償値の位相と外乱の位相とが一致する周波数が600Hzに移動し、この周波数において大きな外乱補償効果が得られている。なお、図12中、Dについては後述する。
【0058】
上記した位相進み補償フィルタからなるディジタルフィルタ26のフィルタ設計方法について、図13のフィルタ設計手順のフローチャートに従って説明する。
【0059】
まず、補償対象周波数fcを決定する(S61)。図12中Cの場合、補償対象周波数は600Hzである。
【0060】
ついで、対象周波数fcにおける位相遅れΔωを計算し(S62)、さらに、対象周波数fcにおける位相遅れΔωを補償するフィルタを設計する(S63)。この場合、対象周波数fcを中心周波数とする位相進み補償フィルタの伝達関数F(s)は、以下の式で記述できる。
【0061】
F(s)=(s+2πfc/√γ)/(s+2πfc√γ)
上式においてγの値を変化させることにより、周波数fcにおける位相進み量を調整することができる。この位相補償フィルタによるゲイン変動に対し、外乱補償ゲインを調整する。そして、シミュレーションによる評価を行い(S66)、その結果を判断する(S67)。
【0062】
結果が悪ければ、対象周波数を微調整し、シミュレーションモデルを調整する(S65)。一方、結果が良ければ、実機評価を行い(S68)、その結果を判断する(S69)。
【0063】
そして、結果が悪ければ、対象周波数を微調整し、シミュレーションモデルを調整する(S65)。一方、結果が良ければ、フィルタ設計は終了する。
【0064】
本実施の形態の第8の例に係る磁気ディスク装置の制御方法について、図14を参照して説明する。この制御方法は、上記本実施の形態の第7の例に係る磁気ディスク装置の制御方法、すなわち、図12中Cのケースのフィルタ設計に関連して、図11のディジタルフィルタ26に位相進み補償フィルタを高次に設け、複数の補償対象周波数fi(i=1、2…n)について、位相とともにゲインを調整するものである。
【0065】
まず、磁気ディスク装置の設置環境から補償対象周波数を決定する(S81)。
【0066】
ついで、対象周波数fiにおける外乱に対する補償値のゲインずれΔGi、位相遅れΔωiを計算し(S82)、さらに、対象周波数fiにおけるゲインが−ΔGi、位相進みがΔωiとなるフィルタを設計する(S83)。
【0067】
そして、フィルタの安定性を判断し(S84)、不安定であれば、対象周波数fiを調整し、シミュレーションモデルを調整し(S85)、対象周波数fiにおけるゲインずれΔGi、位相遅れΔωiを再計算する(S82)。一方、フィルタが安定であれば、制御効果を検証する(S86)。
【0068】
結果が悪ければ、対象周波数を微調整し、シミュレーションモデルを調整する(S85)。一方、結果が良ければ、フィルタ設計は終了する。
【0069】
このようにして、位相進み補償フィルタを高次に設けた図12中Dのケースでは、約200Hzと約500Hzの2つの周波数において大きな外乱補償効果が得られている。
【0070】
本実施の形態の第9の例に係る磁気ディスク装置の制御方法およびディスク装置について、図15の回路構成図に従って説明する。
【0071】
図15に示すように、補償制御部30には、位相補償フィルタ(ディジタルフィルタ)32とともに、位相補償フィルタ32の前段にノッチフィルタ34が設けられ、さらにノッチフィルタ34と位相補償フィルタ32との間に帯域制限フィルタ36が設けられている。ノッチフィルタ34により加速度センサの共振周波数成分を除去し、帯域制限フィルタ36によりノイズを除去する。
【0072】
上記本実施の形態の第9の例に係る磁気ディスク装置の制御方法によれば、加速度センサの共振による外乱の誤検出を抑制し、補償制御への悪影響を低減することができる。
【0073】
以上の説明に関してさらに以下のような態様が考えられる。
【0074】
(付記1) 前記2つの加速度センサを前記ディスク装置のディスク面に略平行な並進方向成分を検出するように配置し、該2つの加速度センサの出力の和および出力の差をそれぞれ算出し、該出力の和および出力の差のそれぞれの値に基づいて補償ゲインを調整することを特徴とするディスク装置の制御方法。
【0075】
(付記2) 前記加速度センサによって検出される前記並進方向成分の前記出力の和の絶対値および前記出力の差の絶対値の差に基づいて求めた並進振動量が閾値以上のときには、外乱の補償制御を行わないことを特徴とする付記1記載のディスク装置の制御方法。
【0076】
(付記3) 前記並進振動量が前記閾値以上なったとき、外乱の補償制御を行わない状態を所定時間継続することを特徴とする付記2記載のディスク装置の制御方法。
【0077】
(付記4) 前記所定時間内に前記並進振動量が再度前記閾値以上なったとき、外乱の補償制御を行わない状態を再度所定時間継続することを特徴とする付記3記載のディスク装置の制御方法。
【0078】
(付記5) 前記加速度センサによって検出される前記並進方向成分の前記出力の和の絶対値および前記出力の差の絶対値の差に基づいて求めた並進振動量が閾値以上のときには、データの書き込みを停止することを特徴とする付記1記載のディスク装置の制御方法。
【0079】
(付記6) 前記加速度センサの出力の所定周波数成分の位相およびゲインを調整することを特徴とするディスク装置の制御方法。
【0080】
(付記7) 前記加速度センサの出力の位相を調整するに先立ち、該加速度センサの共振周波数成分を除去することを特徴とするディスク装置の制御方法。
【0081】
(付記8) 前記補償制御部は、位相進み補償フィルタを有することを特徴とするディスク装置。
【0082】
(付記9) 前記補償制御部は、前記位相進み補償フィルタの前段にノッチフィルタをさらに有することを特徴とする付記8記載のディスク装置。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】従来の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置について、一部破断省略して示した回路基板の平面図である。
【図2】従来の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の動作を説明するための図である。
【図3】従来の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の動作を説明するための回路構成図である。
【図4】本実施の形態例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の動作を説明するための図である。
【図5】本実施の形態の第1の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態の第2の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図7】本実施の形態の第3の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態の第4の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図9】本実施の形態の第5の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施の形態の第6の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御手順を示すフローチャートである。
【図11】本実施の形態の第7の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御部を説明するための図である。
【図12】本実施の形態例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の加速度センサの出力のゲイン図である。
【図13】本実施の形態の第7の例のフィルタの設計手順を示すフローチャートである。
【図14】本実施の形態の第8の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御機部を説明するための図である。
【図15】本実施の形態の第9の例の加速度センサを搭載した磁気ディスク装置の補償制御機部を説明するための図である。
【符号の説明】
【0084】
1a、1b 加速度センサ
2 回路基板
3 磁気ディスク
4 磁気ヘッド
6 マイクロコントローラ
7 VCMドライバ
8 VCM
18、30 補償制御部
20 アナログフィルタ
22 演算回路
24 増幅回路
26 ディジタルフィルタ
32 位相補償フィルタ
34 ノッチフィルタ
36 帯域制限フィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを離間して搭載したディスク装置の制御方法であって、
前記2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、前記ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことを特徴とするディスク装置の制御方法。
【請求項2】
一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサが離間して搭載されたディスク装置であって、
前記2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、前記ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行う補償制御部を有することを特徴とするディスク装置。
【請求項1】
一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサを離間して搭載したディスク装置の制御方法であって、
前記2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、前記ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行うことを特徴とするディスク装置の制御方法。
【請求項2】
一軸方向の振動を検出する2つの加速度センサが離間して搭載されたディスク装置であって、
前記2つの加速度センサの出力の極性、及び、減算値もしくは加算値が所定の条件のときには外乱補償ゲインを調整し、前記ヘッドアクチュエータの制御量の外乱補償を行う補償制御部を有することを特徴とするディスク装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−221806(P2006−221806A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107459(P2006−107459)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【分割の表示】特願2000−164944(P2000−164944)の分割
【原出願日】平成12年6月1日(2000.6.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【分割の表示】特願2000−164944(P2000−164944)の分割
【原出願日】平成12年6月1日(2000.6.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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