説明

磁気デバイス及びそれを用いた電源装置

【課題】製造コストを抑えながら所望のインダクタンス値やコアの形状が容易に得られる磁気デバイスを提供する。
【解決手段】この磁気デバイスは、アモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体によって構成された少なくとも1つのコア部材を含み、該少なくとも1つのコア部材の少なくとも1つの面が、他の面とは異なる表面粗さを少なくとも一部において有するように加工された磁性体のコアと、磁性体のコアに磁気的に結合された少なくとも1つの巻線とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体のコアと該コアに巻回された巻線とを有するトランスやチョークコイル等の磁気デバイス、及び、そのような磁気デバイスを用いた電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、電子機器の小型軽量化に伴い、小型軽量で効率良く電力を取り出すことのできるスイッチング電源が広く使用されている。スイッチング電源において、入力側と出力側との間で電気的な絶縁を必要とする場合には、トランスが使用される。一方、入力側と出力側との間で電気的な絶縁を必要としない場合には、トランスの替わりにチョークコイルを使用したチョッパ方式のスイッチング電源も用いられている。特に、インパクトプリンタにおいては、印字ヘッドを駆動するプランジャのソレノイドに十分な電流を供給するために、過負荷状態になっても電流を出力することが可能なスイッチング電源が望まれる。
【0003】
一般に、トランスやチョークコイル等の磁気デバイスのコアとなる磁性体としては、低損失で効率の良いフェライトが用いられる。フェライトは、高い硬度を有しているので(ビッカース硬度H>400)、超音波加工やダイヤモンド研磨等の限られた機械加工しか行うことができなかった。例えば、E字型コア部材の中央脚にギャップを形成するためにも、超音波加工やダイヤモンド研磨等を行うか、NC研削装置を用いた大量処理による研削を行う必要があり、高額な費用を要していた。
【0004】
ところで、フェライトは磁気的に飽和し易いので、コアに巻かれた巻線の電流が一定値を超えると、コアが飽和して磁気特性が低下してしまう。そこで、フェライトよりも飽和磁束密度が高く小型化に適したアモルファス金属の磁性体を磁気デバイスのコアとして使用することが考えられる。その場合には、巻線に流れるピーク電流を大きくすることができるので、プリンタ等の負荷がダイナミックに変動した場合でも、それに対応した電流を出力することが可能となる。
【0005】
アモルファス金属の磁性材料の圧粉コアは、一般に、アモルファス金属の磁性体を粉砕した後に、金型を使用して粉体を圧縮成形することによって形成される。しかしながら、そのような圧粉コアを用いて磁気デバイスを製造したときに、磁気デバイスの仕上がり寸法にばらつきが生じたり、インダクタンス値が設計値から外れることもあり、その磁気デバイスを用いた電源装置において所望の特性が得られないこともある。そのような場合に、金型を作製し直すと、高額な費用を要してしまう。トランスやインダクタの巻線は、流す電流の値によって線径が異なるが、コアの形状や寸法によっては、占積率の制約により所望のターン数の巻き線を巻回することが困難になる場合も生じる。
【0006】
また、アモルファス金属の磁性材料の圧粉コアは、金型のキャビティ内における充填ばらつき等によって成形時に変形し、成形後に金型から離脱される際に変形が幾分元に戻る(スプリングバック)。あるいは、成形に際して表面保護処理を行うこともある。このため、離型後に多少の寸法誤差を有している。通常は、コアの寸法に許容差を設けるが、複数のコア部材をそのままの状態で突き合わせると、余計な磁気ギャップが発生して磁気デバイスのインダクタンス値が大幅に低下すると共に、ガタが生じて振動による唸り(可聴雑音)が発生するおそれがある。同様に、巻線を巻回するボビンのコア挿通孔とコアとのクリアランスを大きくとるとガタが生じ、しかも、磁気デバイスが大型化してしまう。
【0007】
関連する技術として、特許文献1には、磁気回路中のギャップ部を精度良く、しかも容易に作成することができ、安価なトランスコアを作成することができるトランスコアの加工方法が開示されている。この加工方法は、トランスを構成するためのコアに複数の磁気回路構成面を加工すると共に、それらの磁気回路構成面の内の任意の面にギャップ部を形成する加工方法であって、第1の加工用のホイールと、この第1の加工用のホイールの径よりも大きい径の第2の加工用のホイールとを組み合わせて、コアの複数の磁気回路構成面とギャップ部とを同時に加工することを特徴とする。しかしながら、この加工方法も、フェライトのコアを対象としたものであり(請求項3)、比較的大規模な加工装置を必要とするので、設備費用が高額になってしまう。
【特許文献1】特開平8−66857号公報(第1−2頁、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、製造コストを抑えながら所望のインダクタンス値やコアの形状が容易に得られる磁気デバイスを提供することを目的とする。さらに、本発明は、そのような磁気デバイスを用いて小型化及び/又は薄型化が可能な電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る磁気デバイスは、アモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体によって構成された少なくとも1つのコア部材を含み、該少なくとも1つのコア部材の少なくとも1つの面が、他の面とは異なる表面粗さを少なくとも一部において有するように加工された磁性体のコアと、磁性体のコアに磁気的に結合された少なくとも1つの巻線とを具備する。
【0010】
また、本発明の1つの観点に係る電源装置は、本発明に係る磁気デバイスと、スイッチング動作を行うことにより、磁気デバイスの巻線に電流を流すスイッチング素子と、スイッチング素子のスイッチング動作を制御するための制御信号を生成する制御回路とを具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少なくとも1つのコア部材の少なくとも1つの面が、他の面とは異なる表面粗さを有するように加工された磁性体のコアを用いることにより、製造コストを抑えながら所望のインダクタンス値やコアの形状を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
本発明は、磁性体のコアと、該コアに巻回された少なくとも1つの巻線とを有する磁気デバイス(トランスやチョークコイル等)に適用されるが、以下の実施形態においては、そのような磁気デバイスの例として、E字型コア部材とI字型コア部材とが組み合わされて磁性体のコアを構成するトランスについて説明する。
【0013】
また、本発明においては、フェライトよりも飽和磁束密度が高く小型化に適したアモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体のコア部材が用いられる。この磁性材料は、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、又は、ボロン(B)を含んでおり、さらに、シリコン(Si)又はアルミニウム(Al)を含んでいても良い。具体的な材料の例としては、鉄(Fe)及びコバルト(Co)を含むアモルファス合金Fe−Co(60〜80wt%)を用いることができる。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアを示す平面図である。図1の(a)は、離型後のE字型コア部材及びI字型コア部材を模式的に示している。E字型コア部材10及びI字型コア部材20を用いてトランスを製造したときに、トランスの1次側巻線又は2次側巻線から見たインダクタンス値が設計値から外れる場合には、そのトランスを用いた電源装置において所望の特性が得られないことになる。
【0015】
そこで、本実施形態においては、トランスのインダクタンス値を目標値よりも少し高めに設定しておき、図1の(a)における一点鎖線に沿ってE字型コア部材10の中央の脚を加工することにより、トランスのインダクタンス値を微調整している。以下の実施形態においては、加工方法として、機械的な研削が用いられるが、化学的なエッチング等を用いても良い。機械的な研削方法としては、金ヤスリやドレッシングプレート等を用いて研磨したり、砥石を用いて切削したり、金ノコを用いて切断したり、ドリルを用いて穴開けしたり、サンドブラスト、超音波加工、又は、水ジェットを用いて研削したりすることができる。また、コア部材の加工された面が、粘着層、接着層、又は、保護層によって覆われるようにしても良い(以下の実施形態においても同じ)。
【0016】
図1の(b)は、研削後のE字型コア部材及びI字型コア部材を模式的に示している。E字型コア部材10の中央の脚には、斜めに研削された面10aが形成されることになる。研削面においては、金型を用いて圧縮成形された他の面よりも表面粗さの値が大きくなる。具体的には、研削面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となる。
【0017】
従来のフェライトやセンダスト等の磁性材料のコアは、酸化物や金属が焼結されているので後加工が困難であったが、アモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体のコアは、後加工が容易であるので、コアを機械的に研削することによって、磁気デバイスのインダクタンス値や磁気飽和特性やコアの形状を容易に調整することができる。
【0018】
また、フェライトコアの場合には、一般的に、金型を用いて顆粒を成形した後に成形体を焼結してコアが製造されるので、金型の壁面に接するコア表面は高密度となり、コア内部は低密度となり易い。従って、焼結後のフェライトコアの表面を削ると、磁気特性が大きく損なわれる。一方、アモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体のコアの場合には、コアの表面を削っても磁気特性の低下が起こり難い。
【0019】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る磁気デバイスの組立て工程を示す斜視図である。図2に示すように、この磁気デバイスは、E字型コア部材10とI字型コア部材20との間に、1次側巻線(コイル)31及び2次側巻線(コイル)32が回巻されたボビン30を挟み込む構造を有するトランスとして構成される。あるいは、2次側巻線32を省略すれば、磁気デバイスとしてチョークコイルを構成することができる。
【0020】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアの変形例を示す平面図である。図3の(a)は、離型後のE字型コア部材及びI字型コア部材を模式的に示している。この変形例においては、図3の(a)における一点鎖線に沿ってE字型コア部材10の中央の脚を機械的に研削することにより、磁気デバイスのインダクタンス値を微調整している。
【0021】
図3の(b)は、研削後のE字型コア部材及びI字型コア部材を模式的に示している。E字型コア部材10の中央の脚は、階段状に研削された面10bを有することになる。研削面においては、金型を用いて圧縮成形された他の面よりも表面粗さの値が大きくなる。具体的には、研削面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となる。このように、E字型コア部材10の中央の脚を階段状に削ることによって、磁気デバイスのインダクタンス値や磁気飽和特性やコアの形状を容易に調整することができる。
【0022】
次に、本発明の第2の実施形態に係る磁気デバイスについて説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアを示す平面図である。アモルファス金属の磁性材料の圧粉コアを製造する際には、アモルファス金属の磁性体を粉砕した後、金型を用いて磁性材料の粉体を圧縮成形することによって、圧粉コアが形成される。しかしながら、アモルファス金属の磁性材料の圧粉コアは、金型のキャビティ内での充填ばらつき等によって成形時に変形し、成形後に金型から離脱される際に変形が幾分元に戻るので(スプリングバック)、離型後に多少の寸法誤差を有している。成形後に表面の圧粉の離脱を避けるために樹脂コーティングを行う場合もあり、寸法ばらつきの原因にもなる。
【0023】
図4の(a)は、離型後のE字型コア部材及びI字型コア部材を模式的に示している。離型後のE字型コア部材11は、スプリングバックによる寸法誤差を有しており、図4の(a)は、中央の脚が両側の脚よりも長くなっている場合を示している。そのままの状態でE字型コア部材11とI字型コア部材20とを突き合わせると、余計な磁気ギャップが発生してインダクタンス値が大幅に低下すると共に、ガタが生じて振動による唸り(可聴雑音)が発生するおそれがある。また、ボビンとコアとのガタも大きくなる。
【0024】
そこで、図4の(b)に示すように、離型後のE字型コア部材11の中央の脚を機械的に研削することにより、中央の脚の長さを両側の脚の長さに揃えている。その結果、E字型コア部材10の中央の脚は、研削された面11aを有することになる。研削面においては、金型を用いて圧縮成形された他の面よりも表面粗さの値が大きくなる。具体的には、研削面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となる。
【0025】
このように、中央の脚の長さを両側の脚の長さに揃えたことによって、E字型コア部材11とI字型コア部材20とを突き合わせた際に両者を密着させることができるので、余計な磁気ギャップが発生せず、インダクタンス値の大幅な低下を防止することができる。また、ガタが生じないので、振動による唸りが発生するおそれがない。
【0026】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアの第1の変形例を示す平面図である。図5の(a)は、離型後のE字型コア部材及びI字型コア部材を模式的に示している。離型後のE字型コア部材12は、スプリングバックによる寸法誤差を有しているので、図5の(a)に示すように、両側の脚が中央の脚よりも長くなっている。そのままの状態でE字型コア部材12とI字型コア部材20とを突き合わせると、余計な磁気ギャップが発生してインダクタンス値が大幅に低下すると共に、ガタが生じて振動による唸りが発生するおそれがある。
【0027】
そこで、図5の(b)に示すように、離型後のE字型コア部材12の両側の脚を機械的に研削することにより、両側の脚の長さを中央の脚の長さに揃えている。その結果、E字型コア部材12の両側の脚は、研削された面1a及び1bを有することになる。研削面においては、金型を用いて圧縮成形された他の面よりも表面粗さの値が大きくなる。具体的には、研削面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となる。
【0028】
このように、両側の脚の長さを中央の脚の長さに揃えたことによって、E字型コア部材12とI字型コア部材20とを突き合わせた際に両者を密着させることができるので、余計な磁気ギャップが発生せず、インダクタンス値の大幅な低下を防止することができる。また、ガタが生じないので、振動による唸りが発生するおそれがない。
【0029】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアの第2の変形例を示す平面図である。図6に示す第2の変形例においては、離型後のE字型コア部材13の3つの脚を機械的に研削することにより、3つの脚の長さを互いに揃えている。その結果、E字型コア部材13の3つの脚は、研削された面13a〜13cを有することになる。研削面においては、金型を用いて圧縮成形された他の面よりも表面粗さの値が大きくなる。具体的には、研削面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となる。
【0030】
このように、3つの脚の長さを互いに揃えたことによって、E字型コア部材13とI字型コア部材20とを突き合わせた際に両者を密着させることができるので、余計な磁気ギャップが発生せず、インダクタンス値の大幅な低下を防止することができる。また、ガタが生じないので、振動による唸りが発生するおそれがない。
【0031】
ところで、アモルファス金属の磁性材料の成形体を脱バインダのために焼成すると、コアの表面には、カーボン成分、酸化物、又は、窒化物等の処理層が付着する。その結果、コアの表面層は撥液状となり、樹脂が乗り難くなって、樹脂を含む接着剤を用いる場合に接着力が弱くなる傾向にある。そこで、アモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体のコアの表面を機械加工で削ると、研削面が物理的に凹凸のある粗面となるので、アンカー効果が期待できる。また、撥液状の表面層が除去されるので、研削面においては、液体接触角が他の面におけるのと異なることにより、他の面よりも濡れ性を有するようになる。
【0032】
従って、図7に示すように、接合剤40を用いてE字型コア部材13とI字型コア部材20とを接合する場合に、接合剤40が研削面に強く接合するようになる。接合剤40としては、好ましくは、磁性材料の粉末を含む接合剤が用いられ、例えば、樹脂と磁性材料の粉末とを含む接着剤や、ガラス等の低融点の無機材料と磁性材料の粉末とを含む充填剤を用いることができる。ここで、接合剤用の磁性材料としては、例えば、コア部材用のアモルファス金属と同じ材料が用いられる。また、接着剤用の樹脂としては、例えば、エポキシ系、シリコーン系、又は、アクリル系の樹脂が用いられる。そのような接合剤40を用いてE字型コア部材13とI字型コア部材20とを接合することにより、アモルファス金属の圧粉体のもろさを保護すると共に、突合せ面の接合部分における磁気抵抗の増加を抑えることができる。
【0033】
次に、本発明の第3の実施形態に係る磁気デバイスについて説明する。
図8は、本発明の第3の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアを示す斜視図である。本実施形態においては、E字型コア部材14及びI字型コア部材20の外側のエッジ(稜線)を面取り加工すると共に、E字型コア部材14及びI字型コア部材20の外側のコーナーを面取り加工することにより、コアの損耗を防止している。また、これにより、磁気デバイスを組み立てる作業者の手を傷付けるおそれもなくなる。さらに、I字型コア部材20の外側のエッジ及びコーナーが面取りされたことによって形成されるコア部材の加工形状は、E字型コア部材14とI字型コア部材20とを突き合わせる際のオリエンテーションマークとしても利用することができる。
【0034】
加工面においては、金型を用いて圧縮成形された他の面よりも表面粗さの値が大きくなる。好ましくは、加工面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となるようにする。これにより、加工面に、カバー材として樹脂皮膜を接着することが容易になる。
【0035】
次に、本発明の第4の実施形態に係る磁気デバイスについて説明する。
図9は、本発明の第4の実施形態に係る磁気デバイスを示す斜視図である。図9に示すように、この磁気デバイスは、E字型コア部材14とI字型コア部材20との間に、1次側巻線(コイル)及び2次側巻線(コイル)が回巻されたボビン30を挟み込む構造を有するトランスとして構成される。あるいは、2次側巻線を用いず、磁気デバイスとしてチョークコイルを構成することができる。
【0036】
本実施形態においては、コアの露出面をサンドブラスト加工することによって、加工面にける表面粗さの値を、金型を用いて圧縮成形された他の面における表面粗さの値よりも大きくしている。好ましくは、加工面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となるようにする。これにより、含浸樹脂に対する濡れ性が良くなるので、E字型コア部材14とI字型コア部材20との周りに粘着テープ50を巻いたときに、粘着テープ50との密着性が改善される。あるいは、コア部材14又は20の加工された面が、接着層を介して、磁気デバイスが実装される回路基板の部品搭載面に固着されるようにしても良い。
【0037】
また、E字型コア部材14の中央の脚をサンドブラスト加工することによって、中央の脚の表面を粗くすれば、含浸樹脂を含む接着剤を用いてボビン30をE字型コア部材14の中央の脚に強力に接着することができるので、トランスの唸りを低下させることができる。
【0038】
次に、本発明の第5の実施形態に係る磁気デバイスについて説明する。
図10は、本発明の第5の実施形態に係る磁気デバイスの組立て工程を示す斜視図である。図10に示すように、この磁気デバイスは、E字型コア部材14とI字型コア部材21との間に、1次側巻線(コイル)31及び2次側巻線(コイル)32が回巻されたボビン30を挟み込む構造を有するトランスとして構成される。あるいは、2次側巻線を省略すれば、磁気デバイスとしてチョークコイルを構成することができる。
【0039】
本実施形態においては、I字型コア部材21に穴開け加工が施されており、開口61及び62が形成されている。加工面においては、金型を用いて圧縮成形された他の面よりも表面粗さの値が大きくなる。具体的には、加工面における表面粗さの値が、他の面における表面粗さの値の10倍以上となる。このように、I字型コア部材21に開口61及び62が形成されているので、ビスを用いて磁気デバイスを基板に固定することが容易になる。
【0040】
以上の実施形態においては、トランス又はチョークコイルのコアがE字型コア部材とI字型コア部材とを組み合わせることによって構成される場合について説明したが、トランス又はチョークコイルのコアは、2つのE字型コア部材を組み合わせることによって構成されても良いし、その他の形状を有する複数のコア部材を組み合わせることによって構成されても良いし、トロイダルコアのように単一のコア部材によって構成されても良い。
【0041】
次に、本発明に係る磁気デバイスを用いた電源装置の実施形態について説明する。
図11は、本発明の第1の実施形態に係る電源装置の構成を示す図である。第1の実施形態においては、磁気デバイスとしてトランスを用いたスイッチング電源装置を例にとって説明する。
【0042】
図11に示す電源装置は、入力端子1及び2に供給される交流電源電圧を整流及び平滑することにより直流電圧を生成する整流平滑回路110と、1次側巻線31に印加される交流電圧を昇圧又は降圧して2次側巻線32から出力するトランス120と、トランスの1次側巻線31に直列に接続され、パルス状の駆動信号に従ってスイッチング動作を行うことにより1次側巻線31に電流を流すスイッチング素子130と、スイッチング素子130を駆動するための駆動信号を生成する駆動回路140と、トランスの1次側巻線31に流れる電流を検出する1次側電流検出回路150とを有している。
【0043】
さらに、この電源装置は、トランスの2次側巻線32に発生する電圧を半波整流するダイオード161及び整流電圧を平滑するコンデンサ162を含む整流平滑回路160と、コンデンサ162の両端における直流電圧を検出する2次側電圧検出回路170と、整流平滑回路160から出力端子3及び4を介して出力される電流を検出する2次側電流検出回路180と、各種検出回路の検出結果に基づいてスイッチング素子130のスイッチング動作を制御するための制御信号を生成して駆動回路140に供給する制御回路190と、アイソレータ201及び202とを有している。
【0044】
整流平滑回路110は、例えば、ダイオードブリッジとコンデンサとを含んでおり、入力端子1と入力端子2との間に印加される交流電圧をダイオードブリッジによって全波整流し、コンデンサによって平滑する。
【0045】
トランス120は、例えば図2に示すようにE字型コア部材10とI字型コア部材20とを組み合わせることによって構成された磁性体のコア33と、コア33に回巻された1次側巻線31及び2次側巻線32とを有している。1次側巻線31の巻数をN1とし、2次側巻線32の巻数をN2とすると、損失がないとした場合に、1次側と2次側との間の昇圧比は、N2/N1となる。なお、トランス120に付されたドットの記号は、巻線の極性を示している。
【0046】
一般に、スイッチング電源において、トランスの1次側から2次側への電力伝達方式としては、スイッチング素子がオンした時に1次側から2次側に電力を伝達するフォワード方式と、スイッチング素子がオフした時に1次側から2次側に電力を伝達するフライバック方式とがある。本実施形態においては、回路が比較的簡単で部品点数を少なくすることができるフライバック方式を採用している。
【0047】
図11に示すようなフライバック型のスイッチング電源においては、トランスの1次側巻線31と2次側巻線32とが逆極性の関係となっており、スイッチング素子130がオンしている間は、トランス120の1次側電流は増加するが、トランス120の2次側においてはダイオードで逆バイアスされているので2次側電流は流れない。トランス120は、スイッチング素子130がオンしている時に、コア33にエネルギーを蓄える。
【0048】
次に、スイッチング素子130がオフすると、磁場が電流を維持しようとするので、トランス120の電圧極性が反転して、トランス120の2次側において電流が流れる。トランス120の2次側電流は、トランスの2次側巻線32に直列接続されたダイオード161を介してコンデンサ162に充電されることにより、出力端子3と出力端子4との間に直流出力電圧を発生させる。スイッチング素子130としては、例えば、MOSFET(金属酸化物半導体−電界効果トランジスタ)等のパワートランジスタが用いられる。
【0049】
図11において、1次側回路としては、駆動回路140と、1次側電流検出回路150とが該当し、2次側回路としては、2次側電圧検出回路170と、2次側電流検出回路180とが該当する。1次側回路及び2次側回路には、例えば、トランス120の2つの補助巻線によって生成された交流電圧を整流及び平滑して得られた内部電源電圧がそれぞれ供給される。
【0050】
制御回路190は、例えば、DSP(digital signal processor:ディジタル信号プロセッサ)と、DSPに動作を行わせるためのソフトウェア(制御プログラム)が格納されているメモリと、複数のA/D変換器とを内蔵している。DSPには、スイッチング電源装置の制御機能が一体化して収められている。
【0051】
ここで、制御回路190の基準電位は、2次側回路の基準電位と共通になっている。また、出力端子4がアース電位(接地電位)に接続されるので、2次側回路の基準電位はアース電位となるが、1次側回路の基準電位はアース電位からアイソレートされている。従って、1次側電流検出回路150と制御回路190との間には、アイソレータ201が接続され、制御回路190と駆動回路140との間には、アイソレータ202が接続されている。
【0052】
制御回路190は、1次側電流検出回路150、2次側電圧検出回路170、及び、2次側電流検出回路180の内の少なくとも1つから出力される検出信号に基づいてパルス幅変調(PWM)を行うことにより、スイッチング素子130を制御するための制御信号(PWM信号)を生成する。なお、検出回路の数や検出回路が配置される回路部分は、必要に応じて適宜変更することができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係る電源装置について説明する。
図12は、本発明の第2の実施形態に係る電源装置の構成を示す図である。第2の実施形態においては、チョークコイルを用いたPFC(power factor controller:力率改善コントロール回路)を例にとって説明する。
【0054】
図12に示す電源装置は、入力端子1及び2に供給される交流電源電圧を整流する整流回路111と、一端が整流回路111に接続され、巻線に流れる電流によって発生する磁気エネルギーをコアに蓄えるチョークコイル210と、チョークコイル210の他端に接続され、パルス状の駆動信号に従ってスイッチング動作を行うことによりチョークコイル210に電流を流すスイッチング素子130と、スイッチング素子130を駆動するための駆動信号を生成する駆動回路140と、整流回路111からチョークコイル210に入力される電圧を検出する入力電圧検出回路220と、スイッチング素子130に流れる電流を検出するスイッチング電流検出回路230とを有している。
【0055】
さらに、この電源装置は、チョークコイル210の他端に発生する電圧を半波整流するダイオード161及び整流電圧を平滑するコンデンサ162を含む整流平滑回路160と、コンデンサ162の両端における直流電圧を検出する出力電圧検出回路240と、整流平滑回路160から出力端子3及び4を介して出力される電流を検出する出力電流検出回路250と、各種検出回路の検出結果に基づいてスイッチング素子130のスイッチング動作を制御するための制御信号を生成して駆動回路140に供給する制御回路190とを有している。
【0056】
ここで、チョークコイル210としてトランスの1次側巻線を用いる場合には、トランスの2次側巻線を内部電源の生成用に利用することができる。チョークコイル210は、スイッチング素子130がオンしている時に、コアにエネルギーを蓄える。次に、スイッチング素子130がオフすると、磁場が電流を維持しようとするので、チョークコイル210の電流がダイオード161を介してコンデンサ162に流れ、コンデンサ162が充電されることにより、出力端子3と出力端子4との間に直流出力電圧を発生させる。
【0057】
制御回路190は、入力電圧検出回路220、スイッチング電流検出回路230、出力電圧検出回路240、及び、出力電流検出回路250の内の少なくとも1つから出力される検出信号に基づいてパルス幅変調(PWM)を行うことにより、スイッチング素子130を制御するための制御信号(PWM信号)を生成する。なお、検出回路及びA/D変換器の種類や数は、必要に応じて適宜変更することができる。
【0058】
次に、本発明の第3の実施形態に係る電源装置について説明する。
図13は、本発明の第3の実施形態に係る電源装置の構成を示す図である。第3の実施形態においては、交流電圧を整流及び平滑して得られた直流電圧を用いて、モータを駆動するための3相交流電圧を発生するモータ・インバータを例にとって説明する。
【0059】
図13に示す電源装置は、図12に示すPFCに、PFCから出力される直流電圧に基づいてスイッチング動作を行うことにより3相交流電圧を出力するインバータ回路260を追加したものである。
【0060】
図14は、図13に示すインバータ回路の構成例を示す図である。図14に示すように、インバータ回路260は、U相の出力端子に接続されるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子Q1及びQ2と、V相の出力端子に接続されるスイッチング素子Q3及びQ4と、W相の出力端子に接続されるスイッチング素子Q5及びQ6と、それらのスイッチング素子Q1〜Q6にそれぞれ並列に接続されたダイオードD1〜D6と、複数の制御信号に基づいてスイッチング素子Q1〜Q6をそれぞれ駆動するための駆動回路140a〜140fとを含んでいる。スイッチング素子Q1〜Q6は、駆動回路140a〜140fから出力される駆動信号に従って、PFCから出力される直流電圧とU相〜W相の出力端子との間でスイッチング動作を行うことにより、3相交流電圧を出力する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、磁性体のコアと該コアに巻回された巻線とを有するトランスやチョークコイル等の磁気デバイス、及び、そのような磁気デバイスを用いた電源装置において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアを示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る磁気デバイスの組立て工程を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアの変形例を示す平面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアを示す平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアの第1の変形例を示す平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアの第2の変形例を示す平面図である。
【図7】接合剤を用いて接合されたE字型コア部材及びI字型コア部材を拡大して示す平面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る磁気デバイスにおいて用いられるコアを示す斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る磁気デバイスを示す斜視図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る磁気デバイスの組立て工程を示す斜視図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係る電源装置の構成を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る電源装置の構成を示す図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る電源装置の構成を示す図である。
【図14】図13に示すインバータ回路の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1、2 入力端子
3、4 出力端子
10〜14 E字型コア部材
10a、10b、11a、12a、12b、13a〜13c 面
20、21 I字型コア部材
30 ボビン
31 1次側巻線
32 2次側巻線
33 コア
40 接合剤
50 粘着テープ
61、62 開口
110 整流平滑回路
111 整流回路
120 トランス
130 スイッチング素子
140、140a〜140f 駆動回路
150 1次側電流検出回路
160 整流平滑回路
161 ダイオード
162 コンデンサ
170 2次側電圧検出回路
180 2次側電流検出回路
190 制御回路
201、202 アイソレータ
210 チョークコイル
211 巻線
212 コア
220 入力電圧検出回路
230 スイッチング電流検出回路
240 出力電圧検出回路
250 出力電流検出回路
260 インバータ回路
Q1〜Q6 スイッチング素子
D1〜D6 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体によって構成された少なくとも1つのコア部材を含み、該少なくとも1つのコア部材の少なくとも1つの面が、他の面とは異なる表面粗さを少なくとも一部において有するように加工された磁性体のコアと、
前記磁性体のコアに磁気的に結合された少なくとも1つの巻線と、
を具備する磁気デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコア部材の少なくとも1つの面が、機械加工されて他の面における表面粗さよりも粗い表面粗さを有する、請求項1記載の磁気デバイス。
【請求項3】
アモルファス金属の磁性材料を用いて形成された圧粉体によって構成された少なくとも1つのコア部材を含み、該少なくとも1つのコア部材の少なくとも1つの面が、他の面とは異なる液体接触角を少なくとも一部において有し、それにより他の面とは濡れ性を異にするように加工された磁性体のコアと、
前記磁性体のコアに磁気的に結合された少なくとも1つの巻線と、
を具備する磁気デバイス。
【請求項4】
前記磁性体のコアが、トランス又はチョークコイルのコア部材又はトロイダルコアを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気デバイス。
【請求項5】
前記コア部材の加工された面が、粘着層、接着層、又は、保護層によって覆われている、請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気デバイス。
【請求項6】
前記コア部材の加工された面が、接着層を介して、前記磁気デバイスが実装される回路基板に固着されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気デバイス。
【請求項7】
前記磁性体のコアが、複数のコア部材を含み、前記複数のコア部材の突合せ面が、他の面とは異なる表面粗さ又は液体接触角を有するように加工されて、接合剤を用いて互いに接合されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気デバイス。
【請求項8】
前記接合剤が、樹脂とアモルファス金属の磁性材料の粉末とを含む、請求項7記載の磁気デバイス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の磁気デバイスと、
スイッチング動作を行うことにより、前記磁気デバイスの巻線に電流を流すスイッチング素子と、
前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するための制御信号を生成する制御回路と、
を具備する電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−259991(P2009−259991A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106358(P2008−106358)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(502135990)沖パワーテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】