説明

磁気ヘッド及び磁気記録再生装置

【課題】トラック部に相当する部分又はその一部がトラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体の記録対象の記録領域に限定して確実に磁気信号を記録できる磁気ヘッド及びこのような磁気記録媒体、磁気ヘッドを備える磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】磁気記録再生装置10は、トラック部に相当する部分が記録領域22であり記録領域22の間の部分が非記録領域24である磁気記録媒体12と、主磁極26及び主磁極26におけるクロストラック方向Dcの両側に設置されたサイドシールド28を有する磁気ヘッド14と、を含み、トラック幅をTw、ギャップ幅をGw、磁気ヘッド14における主磁極26の中心26Aとサイドシールド28の主磁極26側の端部28Aとの距離をSとして、次の式(I)
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック部に相当する部分又はその一部がトラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体にデータを記録するための磁気ヘッド及びこのような磁気記録媒体、磁気ヘッドを備える磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク等の磁気記録媒体は、記録層を構成する磁性粒子の微細化、材料の変更、ヘッド加工の微細化等の改良により著しい面記録密度の向上が図られている。又、表面に垂直な方向に磁化するように記録層を配向し、更に記録層の下に軟磁性層を形成することで面記録密度を高めるようにした垂直記録型の磁気記録媒体も実用化されつつあり、今後も一層の面記録密度の向上が期待されている。
【0003】
しかしながら、ヘッドの加工限界、磁界の広がりに起因する記録対象のトラック部の隣の他のトラック部への誤った磁気信号の記録、再生時のクロストークなどの問題が顕在化し、従来の改良手法による面記録密度の向上は限界にきている。
【0004】
尚、面記録密度の向上によるトラック幅の減少に伴って記録ヘッドの幅を小さくしても、記録ヘッドからクロストラック方向に漏れる記録磁界の大きさは減少しないと言われており、面記録密度が高くなる程、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部への誤った磁気信号の記録が生じやすい。
【0005】
これに対し、一層の面記録密度の向上を実現可能である磁気記録媒体の候補として、トラック部に相当する部分又はその一部がトラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体が提案されている。
【0006】
例えば、記録層がトラックパターンに相当する凹凸パターンで形成され記録層の凸部がトラック部の形状で形成された、記録領域がトラック部の形状であるディスクリートトラックメディアや記録層の凸部がトラック部を周方向に分離した形状で形成された、記録領域がトラック部を周方向に分離した形状であるパターンドメディア等の磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
又、例えば記録層の記録領域又は非記録領域のいずれか一方に相当する部分にイオン注入処理や反応ガスによる処理が施され、飽和磁化量が実質的に消失した非記録領域と飽和磁化量を有する記録領域とが形成された磁気記録媒体も提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0008】
このように、記録領域の間に非記録領域が存在することで、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部への誤った情報記録や、隣り合うトラック部の間のクロストーク等が抑制されることが期待される。
【0009】
【特許文献1】特開2006−048860号公報
【特許文献2】特開2006−286085号公報
【特許文献3】特開2002−359138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部への誤った磁気信号の記録等の問題はトラック部に形成された記録領域の形状等の磁気記録媒体側の構成だけでなく、磁気ヘッド側の構成にも影響されるので、トラック部に相当する部分又はその一部が記録領域であり記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体であっても、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部への誤った磁気信号の記録等の問題が生じることがあった。
【0011】
本発明は、この問題点に鑑みてなされたものであって、トラック部に相当する部分又はその一部がトラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体の記録対象のトラック部に限定して確実に磁気信号を記録できる磁気ヘッド及びこのような磁気記録媒体、磁気ヘッドを備える磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、本発明に想到する過程で、まず磁気ヘッドの主磁極におけるクロストラック方向の両側にサイドシールドを設置することを試みた。サイドシールドを設置することで、記録対象のトラック部の上に配置される主磁極から隣の他のトラック部への記録磁界の流れが遮断され、記録対象のトラック部に限定して記録磁界を印加できると考えたためである。
【0013】
しかしながら、このようにサイドシールドを設置しても、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部への記録磁界の流れが充分に抑制されないことがあった。又、サイドシールドを設けない場合よりも、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界が却って増大してしまうこともあった。
【0014】
この原因を解明すべく発明者らは更に鋭意研究を重ねたところ、サイドシールドの設置位置が主磁極に近すぎることが原因であることを突き止めた。より詳細には、磁気ヘッドの主磁極のクロストラック方向の中心が記録対象のトラック部のクロストラック方向の中心の真上に位置する場合に、サイドシールドの主磁極側の端部が記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極側の端部又はこれよりも主磁極側に位置していると、該隣の他のトラック部に印加される記録磁界が充分に抑制されなかったり、サイドシールドを設けない場合よりも該隣のトラック部に印加される記録磁界が却って増大してしまうことを突き止めた。
【0015】
そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、サイドシールドの設置位置が主磁極に近すぎると、主磁極からサイドシールドに流れる記録磁界の比率が過大となって記録磁界がサイドシールドを介して記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に向かうためと推定される。
【0016】
これに対し、発明者らはサイドシールドの主磁極側の端部が記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極側の端部の真上の位置よりも主磁極から離間する側に位置していれば、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果が確実に得られることを見出した。
【0017】
即ち、トラック幅をTw、ギャップ幅をGw、主磁極のクロストラック方向の中心とサイドシールドの主磁極側の端部とのクロストラック方向の距離をSとして、
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足すれば、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界が充分に抑制されることを見出した。
【0018】
即ち、次のような本発明により、上記目的を達成することができる。
【0019】
(1)所定のトラック幅のトラック部及び所定のギャップ幅のギャップ部がクロストラック方向に交互に並んだトラックパターンの前記トラック部に相当する部分の少なくとも一部が前記トラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり該記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体と、前記記録領域に記録磁界を印加するための主磁極及び該主磁極における前記クロストラック方向の両側に設置されたサイドシールドを有する磁気ヘッドと、を含み、前記トラック幅をTw、前記ギャップ幅をGw、前記磁気ヘッドにおける前記主磁極の前記クロストラック方向の中心と前記サイドシールドの前記主磁極側の端部との前記クロストラック方向の距離をSとして、次の式(I)
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【0020】
(2) (1)において、次の式(II)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+300nm 式(II)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【0021】
(3) (1)において、次の式(III)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+100nm 式(III)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【0022】
(4) (1)乃至(3)のいずれかにおいて、次の式(IV)
S≧0.6×Tw+Gw 式(IV)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【0023】
(5) (1)乃至(3)のいずれかにおいて、次の式(V)
S>0.6×Tw+1.1×Gw 式(V)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【0024】
(6) (1)乃至(5)のいずれかにおいて、前記磁気記録媒体は、前記トラックパターンに相当する凹凸パターンで形成された記録層を有し、前記凹凸パターンの凸部が形成された領域が前記記録領域であり、前記凹凸パターンの凹部が形成された領域が前記非記録領域であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【0025】
(7)所定のトラック幅のトラック部及び所定のギャップ幅のギャップ部がクロストラック方向に交互に並んだトラックパターンの前記トラック部に相当する部分の少なくとも一部が前記トラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり該記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体に対して用いられ、前記記録領域に記録磁界を印加するための主磁極と、該主磁極における前記クロストラック方向の両側に設置されたサイドシールドと、を含み、前記トラック幅をTw、前記ギャップ幅をGw、前記主磁極の前記クロストラック方向の中心と前記サイドシールドの前記主磁極側の端部との前記クロストラック方向の距離をSとして、次の式(I)
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【0026】
(8) (7)において、
次の式(II)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+300nm 式(II)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【0027】
(9) (7)において、
次の式(III)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+100nm 式(III)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【0028】
(10) (7)乃至(9)のいずれかにおいて、次の式(IV)
S≧0.6×Tw+Gw 式(IV)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【0029】
(11) (7)乃至(9)のいずれかにおいて、次の式(V)
S>0.6×Tw+1.1×Gw 式(V)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【0030】
尚、本出願において、「所定のトラック幅のトラック部及び所定のギャップ幅のギャップ部がクロストラック方向に交互に並んだトラックパターン」とは、トラック部が同心の円又は円弧の形状であるトラックパターン、及びトラック部が螺旋状の渦巻き形状であるトラックパターンを含む。
【0031】
又、本出願において、「トラック部に相当する部分の少なくとも一部がトラック幅と略等しい幅を有する記録領域である」とは、トラック部の全部が記録領域であり記録領域がトラック部の形状である場合、及びトラック部の一部が記録領域であり記録領域がトラック部を周方向に分割した形状である場合を含む。尚、記録領域がトラック部を周方向に分割した形状である場合、トラックパターンのギャップ部に相当する部分だけでなくトラック部における周方向に分割された記録領域の間の部分も非記録領域である。
【0032】
又、本出願において、「クロストラック方向」という用語は、トラック幅の方向及びギャップ幅の方向に略平行な方向という意味で用いる。
【0033】
又、本出願において、「記録領域」という用語は、記録磁界が印加されることにより磁化反転可能であり、記録された磁気信号を再生可能であるように保持する能力を有する領域という意味で用いる。
【0034】
又、本出願において、「非記録領域」という用語は、磁気信号を保持する能力が記録領域よりも低い領域、又は磁気信号を再生可能であるように保持する能力を実質的に有しない領域という意味で用いる。より具体的には、非記録領域とは、磁気記録媒体に磁気信号を記録した状態において、その領域から発生する磁界が記録領域から発生する磁界よりも小さい領域、又は、その領域から発生する磁界が実質的に存在しない領域を意味する。尚、非記録領域は、非磁性材で記録領域を分離する構成や磁気的な影響を無視しうる程度の材料又は磁気信号を保持する能力が記録領域よりも低い磁性材料で記録領域を分離する構成でもよく、空隙であってもよい。
【0035】
又、本出願において「磁気記録媒体」という用語は、磁気信号の記録、再生に磁気のみを利用するハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク等に限定されず、磁気と光を併用するMO(Magneto Optical)等の光磁気記録媒体、磁気と熱を併用する熱アシスト型の記録媒体も含む意義で用いることとする。
【0036】
又、本出願の式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)においてTw、Gw、Sの単位はnmである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、トラック部に相当する部分又はその一部がトラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体の記録対象の記録領域に限定して確実に磁気信号を記録できる磁気ヘッド及びこのような磁気記録媒体、磁気ヘッドを備える磁気記録再生装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0039】
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置10は、磁気記録媒体12と、磁気記録媒体12に対して磁気信号の記録/再生を行うために磁気記録媒体12の表面に近接して浮上可能であるように設置された磁気ヘッド14と、を備えている。
【0040】
尚、磁気記録媒体12は中心孔12Aを有し、中心孔12Aにおいてチャック16に固定され、該チャック16と共に回転自在とされている。又、磁気ヘッド14は、アーム18の先端近傍に装着され、アーム18はベース20に回動自在に取付けられている。これにより、磁気ヘッド14は磁気記録媒体12の表面に近接して磁気記録媒体12の径方向に沿う円弧軌道で可動とされている。
【0041】
磁気記録媒体12は、略円板形状の垂直記録型のディスクリートトラックメディアで、図2に示されるように周方向に適宜な間隔で設定された複数のサーボ領域SAとこれらサーボ領域SAで仕切られた複数のデータ領域DAに区分けされている。データ領域DAのトラックパターンは所定のトラック幅Twの同心の円弧の形状のトラック部と所定のギャップ幅Gwのギャップ部とがクロストラック方向Dcに交互に並んだパターンである。
【0042】
図3及び4に示されるように、磁気記録媒体12は、トラック部に相当する部分が記録領域22であり、記録領域22の間のギャップ部に相当する部分が記録領域22を磁気的に分離するための非記録領域24である。尚、トラック幅Twは10〜200nmである。又、ギャップ幅Gwも10〜200nmである。
【0043】
磁気ヘッド14は、記録領域22に記録磁界を印加するための主磁極26と、該主磁極26におけるクロストラック方向Dc(磁気記録媒体12の径方向)の両側に設置されたサイドシールド28とを有している。
【0044】
磁気記録再生装置10は、磁気ヘッド14における主磁極26のクロストラック方向Dcの中心26Aとサイドシールド28の主磁極18側の端部28Aとのクロストラック方向Dcの距離をSとして、次の式(I)
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足している。
【0045】
又、磁気記録再生装置10は、次の式(II)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+300nm 式(II)
を満足している。
【0046】
他の構成については本実施形態の理解のために重要とは思われないため、説明を適宜省略することとする。
【0047】
磁気記録媒体12は、基板30と、軟磁性層32と、配向層34と、記録層36と、を有し、これらの層がこの順で基板30の上に形成されている。
【0048】
基板30は、記録層36側の面が鏡面研磨されている。基板30の材料としては、ガラス、NiPで被覆したAl合金、Si、Al等の非磁性材料を用いることができる。
【0049】
軟磁性層32は、厚さが50〜300nmであり、その両面は実質的に平坦である。軟磁性層32の材料としては、Fe合金、Coアモルファス合金、フェライト等を用いることができる。尚、軟磁性層32は、軟磁性を有する層と非磁性層との積層構造であってもよい。
【0050】
配向層34は、厚さが2〜40nmである。配向層40の材料としては、非磁性のCoCr合金、Ti、Ru、RuとTaの積層体、MgO等を用いることができる。
【0051】
記録層36は、データ領域DAにおいてトラックパターンに相当する凹凸パターンで形成されており、凹凸パターンの凸部である記録要素36Aが形成された領域が記録領域22であり、凹凸パターンの凹部が形成された領域が非記録領域24である。具体的には、記録層36は多数の記録要素36Aに分割されており、記録要素36Aはデータ領域DAにおいてトラック部の形状で形成されている。図3及び4はこれを図示したものである。尚、記録層36は、サーボ領域SAにおいて所定のサーボパターンで形成されている(図示省略)。
【0052】
記録層36は、厚さが5〜40nmである。記録層36の飽和磁化量Bsは0.38〜1.0Tであることが好ましい。又、記録層36の厚さ方向の保磁力Hcは275〜560kA/mであることが好ましい。記録層36の材料としては、CoCrPt合金等のCo及びCrを含む合金、Co及びPtを含む合金、Co及びPdを含む合金、Fe及びPtを含む合金、Fe及びCoを含む合金、これらの積層体、SiO等の酸化物材料の中にCoPt等の強磁性粒子をマトリックス状に含ませた材料等を用いることができる。記録層36は、磁気記録媒体12の表面に垂直な方向に磁化されるように配向されている。
【0053】
尚、記録要素36Aの側面は磁気記録媒体12の表面を臨む方向に傾斜したテーパ形状であってもよい。この場合、トラック幅Tw、ギャップ幅Gwは、記録層36の上面の位置における幅である。
【0054】
一方、ギャップ部に相当する記録要素36Aの間の凹部には、充填材38が充填され、記録要素36A及び充填材38の上面は略平坦である。このギャップ部の形状の充填材38が非記録領域24を構成している。充填材30の材料としては、SiO、Al、TiO、MgO、ZrO、フェライト等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物、C(炭素)、CuやCrのような非磁性の金属、樹脂材料等を用いることができる。
【0055】
尚、記録層36及び充填材38の上には、保護層、潤滑層がこの順で形成されてもよいが、これらの層は本実施形態の理解のために重要とは思われないためここでは図示及び説明を省略する。
【0056】
又、基板30と軟磁性層32との間には、下地層や反強磁性層が形成されてもよいが、これらの層も本実施形態の理解のために重要とは思われないためここでは図示及び説明を省略する。
【0057】
図5に示されるように、磁気ヘッド14は、記録ヘッド部40と再生ヘッド部42とを有し、主磁極26及びサイドシールド28は記録ヘッド部40の一部を構成している。
【0058】
記録ヘッド部40は更に、主磁極26よりも前側(磁気記録媒体12の駆動に対する相対的な磁気ヘッド14の進行方向の前側)に設置された補助磁極44と、主磁極26よりも後側(磁気記録媒体12の駆動に対する相対的な磁気ヘッド14の進行方向の後側)に設置されたトレーリングシールド46と、励磁コイル48と、を備えている。尚、図5中の右向きの矢印及び図3中の上向きの矢印は、磁気記録媒体12の進行方向を示す。
【0059】
再生ヘッド部42は、記録ヘッド部40の前側に設置されている。再生ヘッド部42は、MR素子50と、MR素子50よりも前側に設置されたリーディングシールド52と、MR素子50及び補助磁極44の間に設置された中間シールド54と、を備えている。
【0060】
主磁極26は、トラック部の周方向から見て磁気記録媒体12に近接する先端が基端よりも細い形状である。主磁極26の先端のクロストラック方向Dcの主磁極幅PwはTw/2〜2Tw程度であり、3Tw/4〜3Tw/2程度であることが好ましい。又、主磁極幅Pwは、トラックピッチTp=Tw+Gwに対し、0.3Tp〜1.2Tpであり、0.6Tp〜1.0Tpであることがより好ましい。主磁極26の材料の飽和磁化量Bsは1.8〜2.3Tであることが好ましい。又、主磁極26の材料は軟磁性材料であり、その保磁力Hcは0.1〜800A/mであることが好ましい。主磁極26の材料としては、Coを含む合金、Feを含む合金、Fe及びCoを含む合金、Fe及びNiを含む合金、Fe及びNを含む合金、Fe及びAlを含む合金等を用いることができる。主磁極26の下面と記録層36の上面との間の磁気的ギャップは3〜30nmである。
【0061】
尚、図3は、磁気ヘッド14については主磁極26の先端の近傍の断面を示しており、磁気記録媒体12の表面に垂直な方向から見た主磁極26及びサイドシールド28の外形を模式的に示したものである。一方、図3における磁気記録媒体12のハッチングは記録領域22及び非記録領域24を区別するためのものであり、断面を示すものではない。尚、図3において磁気記録媒体12の表面に垂直な方向から見た主磁極26の先端の形状は長方形であるが、主磁極26の先端の形状は後側の辺が前側の辺よりも長い略台形であってもよい。この場合、上述の主磁極幅Pw(主磁極26の先端の幅)は、最大の幅(後側の長い方の辺の長さ)である。
【0062】
サイドシールド28は、トラック部の周方向の長さが、主磁極26のトラック部の周方向の長さの1.1倍〜2倍である。尚、主磁極26側の端部28Aは、トラック部の周方向に略平行である。即ち、クロストラック方向Dcに対して略垂直である。又、サイドシールド28の厚さ(磁気記録媒体12の表面に垂直な方向の厚さ)は50nm〜1μmである。又、サイドシールド28の下面の高さは主磁極26の下面の高さと実質的に等しい。サイドシールド28の材料の飽和磁化量Bsは0.7〜2.3Tであることが好ましい。又、サイドシールド28の材料は軟磁性材料であり、その保磁力Hcは0.1〜800A/mであることが好ましい。サイドシールド28の材料としては、主磁極26と同様にCoを含む合金、Feを含む合金、Fe及びCoを含む合金、Fe及びNiを含む合金、Fe及びNを含む合金、Fe及びAlを含む合金等を用いることができる。
【0063】
次に、磁気記録再生装置10の作用について説明する。
【0064】
磁気記録再生装置10は、トラック幅Tw、ギャップ幅Gw、磁気ヘッド14における主磁極26の中心26Aとサイドシールド28の主磁極26側の端部28Aとの距離Sが、上記式(I)を満足している。
【0065】
即ち、磁気ヘッド14の主磁極26のクロストラック方向Dcの中心が記録対象のトラック部のクロストラック方向Dcの中心の真上に位置する場合に、サイドシールド28の主磁極26側の端部28Aが記録対象のトラック部(記録領域22)の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部28Aよりも主磁極26から離間する側に位置している。
【0066】
従って、サイドシールドが存在しない場合に対し、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果が確実に得られる。
【0067】
又、磁気記録再生装置10は、Tw、Gw、Sが、上記式(II)を満足しているので、サイドシールドが存在しない場合に対して、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果が得られる。
【0068】
サイドシールドが存在しない場合に対して、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果を高めるためには、Tw、Gw、Sが、次の式(III)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+100nm 式(III)
を満足することが好ましい。
【0069】
更に、サイドシールドが存在しない場合に対して、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果を一層高めるためには、Tw、Gw、Sが、次の式(IV)
S≧0.6×Tw+Gw 式(IV)
を満足することが好ましく、次の式(V)
S>0.6×Tw+1.1×Gw 式(V)
を満足することが更に好ましい。
【0070】
式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)の根拠については、後述のシミュレーション例の欄において更に詳細に説明する。
【0071】
尚、上記実施形態において、充填材38の材料として、SiO、Al、TiO、MgO、ZrO、フェライト等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物、C(炭素)、CuやCrのような非磁性の金属、樹脂材料等が例示されているが、化学的に安定で磁気信号を保持する能力が記録領域よりも低い材料、又は、磁気信号を再生可能であるように保持する能力を実質的に有しない材料であれば、充填材38の材料は特に限定されない。例えば、充填材38の材料として、他の非磁性材料や磁気的な影響を無視しうる程度に磁気信号を保持する能力が記録領域よりも低い磁性材料を用いてもよい。
【0072】
又、上記実施形態において、非記録領域24に充填材38が設置されているが、記録層の記録領域又は非記録領域のいずれか一方に相当する部分にイオン注入処理や反応ガスによる処理を施して飽和磁化量が実質的に消失した非記録領域と、飽和磁化量を有する記録領域とを形成してもよい。
【0073】
又、上記実施形態において、磁気記録媒体12は、非記録領域24に充填材38が設置され表面が略平坦であるが、磁気記録媒体12の表面が記録層36の凹凸パターン又はこれに倣った凹凸パターンであっても安定したヘッド浮上高さが得られる場合には、非記録領域24に充填材38を設置せず、非記録領域24を凹部としてもよい。
【0074】
又、上記実施形態において、磁気記録媒体12は基板30の片面に記録層36が形成された片面記録式であるが、基板の両面に記録層を形成した両面記録式の磁気記録媒体についても本発明を適用可能である。
【0075】
又、上記実施形態において、磁気記録媒体12は垂直記録式であるが、面内記録式の磁気記録媒体についても本発明は適用可能である。尚、面内記録式の場合、記録層の下に軟磁性層を形成する必要はない。
【0076】
又、上記実施形態において、磁気記録媒体12は記録領域22がトラック部の形状であるディスクリートトラックメディアであるが、記録領域22がトラック部を周方向に分割した形状であるパターンドメディアについても本発明は適用可能である。
【0077】
又、上記実施形態において、磁気記録媒体12のトラックパターンはトラック部が同心の円弧の形状であるパターンであるが、トラック部が螺旋形状であるトラックパターンの磁気記録媒体にも本発明は当然適用可能である。
【0078】
又、上記実施形態において、記録層36は多数の記録要素36Aに分割されているが、図6に示されるように基板60側の下面が連続し非記録領域24における上面が記録領域22における上面よりも基板30側に凹んだ凹凸パターンの記録層62を有する磁気記録媒体64、図7に示されるように基板70の凹凸パターンの表面に倣って形成された連続した記録層72を有する磁気記録媒体74、図8に示されるように基板80の凹凸パターンの表面の凸部の上面及び凹部の上面に分割されて形成された記録層82を有する磁気記録媒体84、記録層の記録領域又は非記録領域のいずれか一方に相当する部分にイオン注入処理や反応ガスによる処理が施されて飽和磁化量が実質的に消失した非記録領域と飽和磁化量を有する記録領域とが形成された磁気記録媒体にも本発明は当然適用可能である。
【0079】
[シミュレーション例1]
上記実施形態におけるトラック幅Tw、ギャップ幅Gw、主磁極幅Pwを表1に示される値に設定した3種類のシミュレーションモデルA、B、Cを作成した。
【0080】
【表1】

【0081】
他の条件は、以下のように設定した。尚、これらの条件はシミュレーションモデルA、B、Cに共通である。
【0082】
記録層36の飽和磁化量Bs :0.5T
主磁極26の飽和磁化量Bs :2.3T
サイドシールド28の飽和磁化量Bs:1.1T
磁気的ギャップ :10nm
サイドシールド28の厚さ :250nm
【0083】
又、主磁極26のクロストラック方向Dcの中心26Aは記録対象の記録領域22のクロストラック方向Dcの中心の真上に位置するように設定した。
【0084】
これらシミュレーションモデルA、B、Cに、それぞれ磁気ヘッド14における主磁極26の中心26Aとサイドシールド28の主磁極26側の端部28Aとの距離Sを複数の異なる大きさの値に設定してシミュレーションを実行し、記録対象のトラック部(主磁極26の真下のトラック部)の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを計算した。Sと、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさとの関係を表2及び図9に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
尚、図9中の符号A、B、Cは、これらが付された曲線がシミュレーションモデルA、B、Cのデータであることを示す。又、表2及び図9に示される、記録磁界の大きさは、サイドシールドがなく他の条件は本シミュレーション例1と等しく設定された他のシミュレーションモデルについて算出された、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを1として規格化された値である。尚、本シミュレーション例1の計算結果は、このように規格化された値であるので、主磁極26の下面と記録層36の上面との間の磁気的ギャップが例えば3〜30nmの範囲内で変化しても計算結果は殆ど変化しない。又、記録層、主磁極、サイドシールドの磁気特性が変化しても、記録磁界の規格化された計算結果は、本シミュレーション例1の計算結果と同様の傾向を示す。
【0087】
[シミュレーション例2]
上記シミュレーション例1のシミュレーションモデルBに対し、表1に示されるように主磁極幅Pwが異なる値に設定された2種類のシミュレーションモデルD、Eを作成した。他の条件は、シミュレーションモデルBと同じ条件に設定した。
【0088】
これらシミュレーションモデルD、Eに、上記シミュレーション例1と同様に、それぞれ磁気ヘッド14における主磁極26の中心26Aとサイドシールド28の主磁極26側の端部28Aとの距離Sを複数の異なる大きさの値に設定してシミュレーションを実行し、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを計算した。
【0089】
シミュレーションモデルD、Eに関する、Sと、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさとの関係を表3及び図10に示す。又、図10には上記シミュレーションモデルBに関する計算結果も併記する。
【0090】
【表3】

【0091】
尚、図10中の符号B、D、Eは、これらが付された曲線がシミュレーションモデルB、D、Eのデータであることを示す。
【0092】
[シミュレーション例3]
トラック幅Twとギャップ幅Gwとの比が1:1である上記シミュレーション例1のシミュレーションモデルBに対し、表1に示されるようにトラック幅Tw、ギャップ幅Gwが異なる値に設定された2種類のシミュレーションモデルF、Gを作成した。尚、シミュレーションモデルB、F、Gは、トラックピッチに相当する、トラック幅Twとギャップ幅Gwとを合計した値が等しい。他の条件は、シミュレーションモデルBと同じ条件に設定した。
【0093】
これらシミュレーションモデルF、Gに、上記シミュレーション例1と同様に、それぞれ磁気ヘッド14における主磁極26の中心26Aとサイドシールド28の主磁極26側の端部28Aとの距離Sを複数の異なる大きさの値に設定してシミュレーションを実行し、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを計算した。
【0094】
シミュレーションモデルF、Gに関する、Sと、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさとの関係を表4及び図11に示す。又、図11には上記シミュレーションモデルBに関する計算結果も併記する。
【0095】
【表4】

【0096】
尚、図11中の符号B、F、Gは、これらが付された曲線がシミュレーションモデルB、F、Gのデータであることを示す。
【0097】
図9に示されるように、シミュレーションモデルA、B、Cは、いずれもSが所定の値の場合に、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが最小値となり、Sがこれよりも増加しても減少しても、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが増加することがわかった。
【0098】
記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが最小値となるSの値よりもSが小さい範囲では、Sが所定の値以下になると、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが急激に増加する傾向があり、更にSが過度に小さいと、サイドシールドがない場合よりも、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが却って増加する(図9において1.0を超える)ことがわかった。
【0099】
このように、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが急激に増加し始める点に相当する、サイドシールド28の主磁極26側の端部28Aの位置は、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部の真上の位置である。
【0100】
言い換えれば、サイドシールド28の主磁極26側の端部28Aが記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部の真上の位置よりも主磁極26から離間していれば、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果が確実に得られる。
【0101】
サイドシールド28の主磁極26側の端部28Aが記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部の真上の位置する場合、SはTw/2+Gwである。従って、
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足すれば、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果が確実に得られることがわかった。
【0102】
一方、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが最小値となる場合よりもSが増大すると、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさは、サイドシールドがない場合の値(図9において1.0)に収束していく傾向があり、図9の各曲線の右側の端点(シミュレーションモデルAにおいてSが400nmの点、シミュレーションモデルBにおいてSが500nmの点、シミュレーションモデルCにおいてSが600nmの点)では、サイドシールドがない場合の値にほぼ収束し、サイドシールドの効果が得られなくなることがわかった。各シミュレーションモデルにおいて右側の端点に相当するSは4/3×(Tw/2+Gw)+300(nm)で示されることがわかった。従って、
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+300nm 式(II)
を満足すれば、サイドシールドの一定の効果が得られることがわかった。
【0103】
又、シミュレーションモデルAにおいてSが200nmである点、シミュレーションモデルBにおいてSが300nmである点、シミュレーションモデルCにおいてSが400nmである点では、サイドシールドがない場合に対して、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを低減する明確な効果が得られることがわかった。各シミュレーションモデルにおいて、これらの点に相当する点のSは4/3×(Tw/2+Gw)+100(nm)で示されることがわかった。従って、
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+100nm 式(III)
を満足すれば、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを低減する明確な効果が得られることがわかった。
【0104】
又、シミュレーションモデルAにおいてSが80〜100nmである点、シミュレーションモデルBにおいてSが160〜200nmである点、シミュレーションモデルCにおいてSが240〜300nmである点では、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが最小値に近い値となり、サイドシールドがない場合に対し、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを著しく低減する効果が得られることがわかった。
【0105】
各シミュレーションモデルにおいて、このような効果が得られる下限のSはTw/2+Gw+0.1×Tw=0.6×Tw+Gwで示されることがわかった。又、このような効果が得られる上限のSはTw/2+Gw+0.5×Tw=Tw+Gwで示されることがわかった。従って、次の式(IV)、式(VI)
S≧0.6×Tw+Gw 式(IV)
S≦Tw+Gw 式(VI)
を満足すれば、サイドシールドがない場合に対し、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを著しく低減する効果が得られることがわかった。
【0106】
又、磁気ヘッド14の位置は主磁極26の中心26Aと記録対象のトラック部のクロストラック方向Dcの中心とが一致するように制御されるが、実際にはオフトラック(主磁極26の中心26Aと記録対象のトラック部の中心とのクロストラック方向Dcのずれ)とその補正とが繰り返されるため断続的にオフトラックが生じる。
【0107】
一方、サイドシールド28の主磁極26側の端部28Aが記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部の真上の位置又はこれよりも主磁極26側に位置する場合、主磁極26のクロストラック方向Dcの変動に対する記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の変動が大きく、オフトラック量によっては記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界が著しく大きくなる可能性がある。
【0108】
このようなオフトラックに対するマージンを考慮すると、サイドシールド28の主磁極26側の端部28Aが記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部の真上の位置よりも主磁極26側からある程度離間していることが好ましく、この点でも上記式(IV)を満足することが好ましい。
【0109】
尚、シミュレーション例2に係る図10に示されるように、トラック幅Tw、ギャップ幅Gwが等しい場合、主磁極幅Pwが増減しても、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが最小となるSの値、及びこれよりもSが小さい範囲において記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが急激に増大し始めるSの上限値は殆ど変化しないことがわかった。
【0110】
更に、主磁極幅Pwが増減しても、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが最小となるSよりもSが大きい範囲において、記録磁界の大きさがサイドシールドがない場合の値にほぼ収束するSの値(右端の点に相当するSの値)、及びサイドシールドがない場合に対して記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさを低減する明確な効果が得られるSの上限値も殆ど変化しないことがわかった。
【0111】
更に又、主磁極幅Pwが増減しても、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさが最小値に近い値となるSの範囲も殆ど変化しないことがわかった。
【0112】
従って、主磁極幅Pwの値によらず、式(I)、(II)、(III)、(IV)、(VI)を満足すれば、上記の効果が得られることがわかった。尚、主磁極26とサイドシールド28とがクロストラック方向Dcに離間していることが前提である。
【0113】
又、図11に示されるように、トラックピッチに相当する、トラック幅Twとギャップ幅Gwとを合計した値が等しければ、トラック幅Twとギャップ幅Gwとの比が異なっていても、Sと、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の主磁極26側の端部に印加される記録磁界の大きさとの関係は殆ど変化しないことがわかった。
【0114】
又、上記のように磁気ヘッド14の位置は主磁極26の中心26Aと記録対象のトラック部のクロストラック方向Dcの中心とが一致するように制御されるが、実際にはオフトラック(主磁極26の中心26Aと記録対象のトラック部の中心とのクロストラック方向Dcのずれ)とその補正とが繰り返されるため断続的にオフトラックが生じる。オフトラック量の最大値をOwとし、上記式(I)についてOwのマージンを考慮すると、次の式(VII)
S>Tw/2+Gw+Ow 式(VII)
を満足すれば、オフトラック量が最大の場合でも、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果が確実に得られる。
【0115】
又、オフトラック量の最大値Owは、通常トラックピッチの約10%である。即ち、Ow=0.1×(Tw+Gw)である。従って、次の式(V)
S>0.6×Tw+1.1×Gw 式(V)
を満足すれば、オフトラック量が最大の場合でも、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部に印加される記録磁界を抑制する効果が確実に得られる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、トラック部に相当する部分又はその一部がトラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体にデータを記録するための磁気ヘッド及びこのような磁気記録媒体、磁気ヘッドを備える磁気記録再生装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置の概略構造を模式的に示す斜視図
【図2】同磁気記録再生装置の磁気記録媒体の概略構造を模式的に示す平面図
【図3】同磁気記録再生装置の磁気ヘッド及び磁気記録媒体の構造を拡大して模式的に示す平面図
【図4】同磁気ヘッド及び磁気記録媒体の構造を拡大して模式的に示すクロストラック方向に沿う側断面図
【図5】同磁気ヘッド及び磁気記録媒体の構造を拡大して模式的に示すトラック部の周方向に沿う側断面図
【図6】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の構造の他の例を模式的に示すクロストラック方向に沿う側断面図
【図7】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の構造の他の例を模式的に示すクロストラック方向に沿う側断面図
【図8】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の構造の他の例を模式的に示すクロストラック方向に沿う側断面図
【図9】シミュレーション例1に係るサイドシールドの端部の位置と、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の端部に印加される記録磁界の大きさとの関係を示すグラフ
【図10】シミュレーション例2に係るサイドシールドの端部の位置と、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の端部に印加される記録磁界の大きさとの関係を示すグラフ
【図11】シミュレーション例3に係るサイドシールドの端部の位置と、記録対象のトラック部の隣の他のトラック部の端部に印加される記録磁界の大きさとの関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0118】
10…磁気記録再生装置
12、64、74、84…磁気記録媒体
14…磁気ヘッド
22…記録領域
24…非記録領域
26…主磁極
26A…中心
28…サイドシールド
28A…端部
30、60、70、80…基板
32…軟磁性層
34…配向層
36、62、72、82…記録層
38…充填材
Dc…クロストラック方向
Pw…主磁極幅
Tw…トラック幅
Gw…ギャップ幅
S…主磁極の中心とサイドシールドの端部との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のトラック幅のトラック部及び所定のギャップ幅のギャップ部がクロストラック方向に交互に並んだトラックパターンの前記トラック部に相当する部分の少なくとも一部が前記トラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり該記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体と、前記記録領域に記録磁界を印加するための主磁極及び該主磁極における前記クロストラック方向の両側に設置されたサイドシールドを有する磁気ヘッドと、を含み、前記トラック幅をTw、前記ギャップ幅をGw、前記磁気ヘッドにおける前記主磁極の前記クロストラック方向の中心と前記サイドシールドの前記主磁極側の端部との前記クロストラック方向の距離をSとして、次の式(I)
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項2】
請求項1において、
次の式(II)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+300nm 式(II)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項3】
請求項1において、
次の式(III)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+100nm 式(III)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
次の式(IV)
S≧0.6×Tw+Gw 式(IV)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
次の式(V)
S>0.6×Tw+1.1×Gw 式(V)
を満足することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記磁気記録媒体は、前記トラックパターンに相当する凹凸パターンで形成された記録層を有し、前記凹凸パターンの凸部が形成された領域が前記記録領域であり、前記凹凸パターンの凹部が形成された領域が前記非記録領域であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項7】
所定のトラック幅のトラック部及び所定のギャップ幅のギャップ部がクロストラック方向に交互に並んだトラックパターンの前記トラック部に相当する部分の少なくとも一部が前記トラック幅と略等しい幅を有する記録領域であり該記録領域の間の部分が非記録領域である磁気記録媒体に対して用いられ、前記記録領域に記録磁界を印加するための主磁極と、該主磁極における前記クロストラック方向の両側に設置されたサイドシールドと、を含み、前記トラック幅をTw、前記ギャップ幅をGw、前記主磁極の前記クロストラック方向の中心と前記サイドシールドの前記主磁極側の端部との前記クロストラック方向の距離をSとして、次の式(I)
S>Tw/2+Gw 式(I)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項8】
請求項7において、
次の式(II)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+300nm 式(II)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項9】
請求項7において、
次の式(III)
S≦4/3×(Tw/2+Gw)+100nm 式(III)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかにおいて、
次の式(IV)
S≧0.6×Tw+Gw 式(IV)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項11】
請求項7乃至9のいずれかにおいて、
次の式(V)
S>0.6×Tw+1.1×Gw 式(V)
を満足することを特徴とする磁気ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−152850(P2008−152850A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339227(P2006−339227)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】