説明

磁気レオロジー組成物及び装置

【課題】狭い設計間隙を採用し、低減されたオフ状態の力及び優れた性能を示す磁気応答組成物を含有する磁気レオロジー装置を提供する。
【解決手段】特に、規定された間隙の磁気レオロジー装置に関し、平均数直径分布が6〜100ミクロンの非球形磁気応答粒子及びその磁気応答粒子間の粒子間摩擦を低減する少なくとも1つの摩擦低減添加物から成ることを特徴とする磁気応答組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、出願番号09/564,129の一部継続出願であって今は米国特許第6,395,193号である同時継続出願番号10/154,706号の一部継続出願である。
【0002】
本発明は、磁界にさらしたときに優れた性能を有する磁気レオロジー組成物に関し、更に詳しくは、本発明は優れた制御性を有する大きな粒子の磁気レオロジー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0003】
磁気レオロジー流体は、磁界分極性粒子成分及び液体キャリヤー成分を含有する磁界応答性流体である。磁気レオロジー流体は振動及び/又はノイズを制御する装置又はシステムに有用である。磁気レオロジー流体は、ダンパ、緩衝器、及び弾性マウントのような種々の装置における減衰を制御するために提案されてきた。それらは、ブレーキ、クラッチ及び弁における圧力及び/又はトルクの制御用にも提案されてきた。磁気レオロジー流体は、高い降伏強さを示して大きな減衰力を発生できるので、多くの用途において電気レオロジー流体よりも優れていると考えられる。
【0004】
粒子成分の組成物は、典型的にミクロンの大きさの磁気応答粒子を含む。磁界の存在下で、磁気応答粒子は分極化されることによって、粒子又は粒子フィブリルの鎖に組織化される。それらの粒子鎖は、流体の見掛け粘度を増して、磁気レオロジー流体の流動開始を誘導するために越えなければならない降伏応力を有する固体塊の発生をもたらす。それらの粒子は、磁界の除去時に非組織化状態に戻って、流体の粘度を下げる。
【0005】
磁気レオロジー流体における磁気応答粒子の多くは、キャリヤー流体内に分散された直径が典型的に1〜10ミクロンの球形の強磁性又は常磁性粒子から成る。小磁性粒子サイズは、懸濁及び小間隙を有する装置の設計を容易にさせる。しかしながら、小サイズの粒子の使用には多くの欠点がある。例えば、磁気レオロジー技術を適用する用途に対して磁気応答微粒子の供給が不十分である。更に、微粒子鉄の使用は、かかる粒子を得るのに使用するプロセスのために使用できる冶金工学の範囲を限定する。最も一般的に使用される鉄であるカルボニル鉄は、鉄ペンタカルボニル塩類から誘導される。それらの粒子は、沈殿によって成長して、縮小しない球形粒子をもたらし、極めて低い炭素含量を有する。或いは、小粒子の代わりに大粒子を使用すると、種々の金属の混合物を作り、次に粒子縮小法によって小さくされる。さらに、小金属粉末は、ミクロンの大きさに近づくと粉塵爆発の危険となるから、加工が困難である。さらに、小直径の磁気応答粒子は大きな粒子より著しく高価である。
【0006】
Levinらの“Some Features of Magnetorheological Effect,”J.Engin.Physics and Thermophysics,70(5):769−772(1997)によると、カルボニル鉄の最も広く使用されて安い粉末は、ミクロンの大きさの球形粒子を含有する。Levinらは、磁界の存在下で分散強磁性相の粒子の広濃度範囲の磁気レオロジー懸濁液の流動学的性質を研究した。その研究の要約は、磁気レオロジー懸濁液における粘性応力増分の制御範囲は強磁性粒子の大きさ及び形状を変える、非磁性粒子をその分散媒体に導入する、及びその媒体をキューリー温度に加熱することによって広げることができると述べている。
【特許文献1】米国特許第5,277,281号
【特許文献2】米国特許第5,354,488号
【特許文献3】米国特許第5,645,752号
【特許文献4】米国特許第5,670,077号
【非特許文献1】Levin et al.“Some Features of Magnetorheological Effect,”J.Engin.Physics and Thermophysics,70(5):769−772(1997)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
安くて大きなサイズで非球形の磁気応答粒子を利用して、磁気レオロジー流体に使用したときに優れた磁気レオロジー特性を示す磁気レオロジー組成物を提供できる技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、平均数直径分布が6〜100ミクロンの非球形磁気応答粒子及び該磁気応答粒子間の粒子間摩擦を低減する少なくとも1つの添加物から成ることを特徴とする磁気レオロジー組成物に関する。該磁気レオロジー組成物の流体実施態様はキャリヤー流体から成る。特に、本発明は、水霧化によって生成される非球形磁気応答粒子、該磁気応答粒子間の粒子間摩擦を低減する少なくとも1つの添加物、及びキャリヤー流体から成る磁気レオロジー流体に関する。
【0009】
また、本発明は、上記磁気レオロジー流体を含有する磁気レオロジー装置に関する。本発明によるダンパ装置は、磁気レオロジー組成物が存在する特定の設計間隙を含む。
【発明の効果】
【0010】
安くて大きなサイズで非球形の磁気応答粒子を利用して、磁気レオロジー流体に使用したときに優れた磁気レオロジー特性を示す磁気レオロジー組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願明細書で使用される用語「力の出力」は、減衰力、トルク、制動力又は装置に依存する類似の力を意味する。「降伏強さ」は降伏応力を超えるのに必要な力である。「降伏応力」は、磁界の存在を受けるとき又は「オン状態」における磁気レオロジー組成物の流動開始を誘導するために超えなければならない応力である。磁界の不在は「オフ状態」と呼ぶ。ここで使用される「オン状態の力」は、磁界の印加の結果として装置の合成力である。「オフ状態の力」は、磁界が印加されないときに装置によって発生される力を意味する。
【0012】
本発明は、狭い設計間隙を用いて磁気レオロジー装置に使用できて、磁界にさらしたときに優れた性能を提供できる磁気レオロジー組成物を提供する。特に、その磁気レオロジー組成物は、磁界にさらしたときに優れたオン状態及びオフ状態の性能を提供する。さらに、本発明は、磁気流体として使用又は磁気流体において減少したオン状態及びオフ状態の力を出す磁気レオロジー組成物を提供する。現在かかる用途に利用される球形、小サイズの磁気応答粒子が高価であるために、磁気レオロジー流体組成物用には大きい、非球形粒子を利用することが長い間望まれてきた。しかしながら、狭い設計間隙で磁気レオロジー流体における不規則形状及び大きな直径サイズの磁気応答粒子の使用は、磁気応答粒子の大きさがあるレベルに増すと変わった出力と予測できない作用をもたらすことが発見された。さらに、大きなサイズで非球形磁気応答粒子が狭い設計間隙に使用されると、粒子間摩擦が生じて、磁気レオロジー組成物の性能特性を下げる。本発明による摩擦低減添加物が組成物に含まれると、低コストで大きな直径の磁気応答粒子を優れた性能をもった磁気レオロジー組成物に使用できることがここに発見された。さらに、不規則又は非球形の磁気応答粒子でもかかる添加物を提供したときは、狭い設計間隙を有する磁気レオロジー装置に利用できて、優れた結果が得られることが発見された。したがって、本発明は、特定のサイズの磁気応答粒子及び粒子間の相互摩擦を低減する添加物から成る組成物を使用する磁気レオロジー装置を提供する。
【0013】
磁気レオロジー流体制御可能ダンパは、固定ハウジング、可動ピストン及び磁界発生器の必須構成要素を有する。そのハウジングは磁気レオロジー(MR)流体の体積を含む。MRダンパは2つの主モードの操作を有する:滑り板及び流動(弁)モード。両モードの構成要素は各MRダンパに存在し、流動又は弁の力要素が優位である。
【0014】
そのダンパはクーロン又はビンガム型のダンパとして機能し、発生する力はピストンの速度に依存しないことが望ましく、低又はゼロ速度で大きな力を発生できる。この独立が、ダンパの制御能を改善し、回路の電流の関数である磁界強さの関数として力を作る。
【0015】
図9は、技術的に周知であって、1994年1月11日に公告された米国特許第5,277,281号に更に詳しく説明されているMR装置のピストン部分の断面側面略図を示す。ピストンはハウジング(図示せず)内に配置されている。ピストンロッド32上のピストンヘッド30は、ハウジングの内径よりも小さい最大直径をもって形成されている。図9において、図示のピストンは、コア要素43に巻かれたコイル40を含み、カップ部材53に載っている。ピストンロッドを介してリード線によるコイルへの電気的接続は示されていないが、その1つは、ピストンロッド32、コイル巻線の第1の端部に接続したリード線及びコイル巻線の他端からの接地リード線を介して延在する導電性ロッドの第1の端部に接続している。図示されていないピストンロッド32の上端は、ダンパに取り付けるために形成されたねじを有する。用途に応じて12〜24ボルトの電圧で0〜4アンペアの範囲内の電流を提供する外部電源はそれらのリード線に接続される。
【0016】
カップ部材53は、各々が内部に形成された所定の間隙を有する複数の通路56を有する。他の実施態様においては、その間隙は環状で提供される。54におけるような1つ以上のシールがカップ部材53の周囲に延在する。カップ部材53は、ねじ付き締付け金具のような締付け手段(図示せず)によってコア要素43に取付けられる。また、コイルはハウジングと提携して、必要ならばさらに固定コイルの可能性を提供する。本発明の装置は、0.1〜0.75mm、好適には0.4〜0.6mmの範囲の予め規定した環状流動間隙を利用する。その間隙は、比較的高いオン状態の力を発生するコンパクトなMR流体装置を提供するために小さいことが望ましい。カルボニル鉄のような粒子成分はこれらの間隙サイズを備えたMR装置に容易に使用され、固着をしない。しかしながら、大きな平均粒子直径(d50)の不規則形状粒子は、0.08〜0.75mm、特に0.08〜0.4mmの間隙サイズの装置においては固着を示し、ピストンの力のスパイク又は不規則の出力を示し、特に低ピストン速度で問題である。
【0017】
本発明に使用される磁気応答粒子は磁気レオロジー活性を示すことが知られている固体である。本発明に有用な典型的粒子成分は、例えば、常磁性、超常磁性又は強磁性化合物からなる。使用できる磁気応答性粒子の例は、鉄、鉄合金、酸化鉄、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、珪素鋼、ニッケル、コバルト、及びそれらの混合物のような材料からなる粒子を含む。酸化鉄はFe及びFeのような全て既知の純酸化鉄、並びに少量のマンガン、亜鉛又はバリウムのような他の元素を含有するものを含む。酸化鉄の特定例はフェライト又は磁鉄鉱を含む。さらに、磁気応答粒子成分は、アルミニウム、シリコン、コバルト、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、タングステン、マンガン及び又は銅を含有する合金のような鉄の既知合金のいずれかから成る。
【0018】
本発明における磁気応答粒子として使用される鉄合金は鉄−コバルト合金及び鉄−ニッケル合金を含む。磁気レオロジー組成物に使用するのに好適な鉄−コバルト合金は、約30:70〜95:5、好適には約50:50〜85:15の範囲内の鉄:コバルト比を有するが、鉄−ニッケル合金は約90:10〜99:1、好適には94:6〜97:3の範囲内の鉄−ニッケル比を有する。鉄合金は、合金の延性及び機械的性質を改善するために少量の他の元素、例えば、バナジウム、クロム、等を含有する。これらの他の元素は典型的に約3.0重量%以下の量で存在する。
【0019】
本発明用に最適の磁気応答粒子は、高鉄含量、一般に少なくとも95%鉄の粒子である。使用する磁気応答粒子は1%以下、好適には0.05重量%以下の炭素が望ましい。特に望ましい実施態様において、磁気応答粒子は、約98%〜99%の鉄及び約1%以下の酸素及び窒素を含有する。かかる粒子は、例えば、溶融鉄の水霧化又はガス霧化によって得られる。これらの特性を持った鉄粒子は市販されている。本発明に有用な磁気応答粒子の例は、Hoeaganes(商標)FPI,1001HP及びATW230を含む。他の好適な粒子は430L及び410Lのようなステンレス鋼を含む。
【0020】
本発明による粒子成分は、典型的に金属粉末の形態である。磁気応答粒の粒度は、磁界を受けたときに多ドメインを示すように選択する必要がある。磁気応答粒子の平均数粒子直径分布は、一般に約6~100ミクロンの間、好適には約10〜60ミクロンの間である。最適実施態様における磁気応答粉末の粒子の平均数粒子直径分布は約15〜30ミクロンである。その粒子成分は、平均数粒子直径分布が示されたとおりである限り種々のサイズの磁気応答粒子を含有する。その粒子成分は直径が少なくとも16ミクロンである粒子を少なくとも約60%有する。好適には、その粒子成分は直径が少なくとも10ミクロンである粒子を少なくとも約70%有する。磁気応答粒子のサイズは、走査電子顕微鏡、レーザ光走査技術によって決定される、又は特定のメッシュサイズを提供する種々のふるいを使用して測定される。
【0021】
本発明の磁気応答粒子は球形であるが不規則又は非球形を有することが望ましい。本発明による非球形磁気応答粒子は分布内のほぼ球形の粒子を若干有する。しかしながら、好適な実施態様においては、約50〜70%以上が不規則形状を有する。図6は、ペンタカルボニル塩から誘導された球形のカルボニル鉄粒子の走査電子顕微鏡写真である。図7は、水霧化によって得られた非球形鉄粒子の走査電子顕微鏡写真である。鉄粒子の含量は図6及び7でほぼ同じであって、約99%鉄、約1%窒素及び1%酸素及び約0.05%以下の炭素を有する。本発明に有用な最適の磁気応答粒子は、少なくとも99%鉄を含有し、水霧化によって得られたサイズ及び形状を有する鉄粒子である。
【0022】
磁気応答粒子は磁気レオロジー組成物に全磁気レオロジー組成物の約60〜90%、好適には約65〜80重量%量で存在する。
【0023】
本発明の磁気レオロジー組成物は、磁気応答粒子間の粒子間摩擦を低減する1つ以上の添加物を含む。かく得られた磁気レオロジー組成物は磁気レオロジー流体組成物に使用された時に優れた性能を与える。特に、油のようなキャリヤー流体及び不規則な形状の大きな鉄粒子から成る磁気レオロジー流体は、ダンパのような装置に使用したときに高いオン状態及びオフ状態の力を有することがわかった。これらの流体は、主としてダンパにおける方向を変える際に生じる性能曲線における散発的ピークも生じる。理想的系において、不規則形状粒子と共に添加物の使用はオフ状態の力を低減してオン状態の力を増す。本発明による添加物の使用は、粒子間の摩擦を低減する添加物なしで非球形磁気応答粒子を含有する磁気応答流体に比較して、オン及びオフ状態の力を下げ、磁気レオロジー流体の性能を改善することがわかった。オン状態の力を低減することは余り望ましくないけれども、かかる低減はオフ状態の力の低減における利点の観点から最小であった。特に、オフ状態の力の低下は約2%〜20%の範囲であり、オン状態の力は約3%〜20%まで低下した。添加物は金属粒子を被覆又は磁気応答粒子を混合して摩擦低減媒体として作用すると考えられる。さらに、これらの添加物は装置の表面と相互作用して流体と装置間に発生する摩擦を低減させると考えられる。
【0024】
粒子間の摩擦の低減に有用な本発明の添加物は、無機モリブデン化合物又はフルオロカーボンポリマーを含む。その摩擦低減添加物は、米国特許第5,354,488号に開示されているような間接摩擦低減特徴を有するガラス質分散剤粒子を除く。さらに、無機モリブデン化合物の組合せ、並びにフルオロカーボンポリマーの混合体も使用できる。これら化合物の適当な組合せも本発明の添加物として使用できる。無機モリブデン化合物は硫化モリブデン又はリン酸モリブデンが望ましい。最適の実施態様における添加物は二硫化モリブデンである。好適なフルオロカーボンポリマーはテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレン−プロピレン重合体、又はヘキサフルオロプロピレンエポキシド重合体である。フルオロカーボンポリマーを利用する最適の実施態様における添加物はポリテトラフルオロエチレンである。摩擦低減添加物は、磁気応答粒子の全重量を基準として約0.1〜10重量%の量で存在する。好適な実施態様における摩擦低減添加物成分は、磁気応答粒子の全重量を基準として、約1〜50重量%、より好適には2〜4重量%の量で存在する。
【0025】
磁気応答粒子及び摩擦低減添加物は実質的に乾燥粉末混合物として提供される。用語「実質的に乾燥」は、粉末が一般に約1%以下の水又は水分を有することを意味する。好適な実施態様における粉末は約0.5%以下の水分を有する。また、磁気応答粒子及び摩擦低減添加物の粉末混合体にキャリヤー流体を添加して磁気レオロジー流体を提供する。
【0026】
本発明の磁気レオロジー組成物は、キャリヤー流体の存在しない乾燥予備混合体として提供する、又は磁気レオロジー流体組成物を提供する通常のようにキャリヤー流体と最初に混合される。磁気レオロジー流体における磁気レオロジー組成物の量は必要な磁気活性及びその流体の粘度に依存する。一般に、磁気レオロジー流体における磁気レオロジー組成物の量は、磁気レオロジー流体の全体積を基準にして約5〜50体積%、好適には約10~30体積%である。
【0027】
キャリヤー流体は磁気レオロジー流体の連続層を形成する流体である。本発明の磁気レオロジー組成物から磁気レオロジー流体を形成するために使用されるキャリヤー流体は、磁気レオロジー流体と共に使用されることが知られているベヒクル又はキャリヤー流体である。磁気レオロジー流体が水性流体である場合、当業者はここに開示の添加物がかかる系に適当であることがわかる。水性系は、例えば、米国特許第5,670,077号に記載されている。水性系を使用する場合、生成される磁気レオロジー流体は任意に1つ以上のチキソトロープ剤、不凍液成分又はさび止め剤、等を含有する。
【0028】
好適な実施態様におけるキャリヤー流体は有機流体、又は油を基剤とした流体である。使用される適当なキャリヤー流体は、天然脂肪油、鉱物油、ポリフェニルエーテル、二塩基酸エステル、ネオペンチルポリオールエステル、リン酸塩エステル、合成シクロパラフィン及び合成パラフィン、不飽和炭化水素油、一塩基酸エステル、グリコールエステル及びエーテル、シリケートエステル、シリコーン油、シリコーン共重合体、合成炭化水素、ペルフッ素化ポリエーテル及びエステル、及びハロゲン化炭化水素、及びそれらの混合物を含む。鉱物油、パラフィン、シクロパラフィン、及び合成炭化水素のような炭化水素は好適なクラスのキャリヤー流体である。合成炭化水素油は、ポリブテンのようなオレフィンのオリゴマー化から誘導の油及び酸触媒化二量体化及び触媒としてトリアルミニウムアルキルを使用したオリゴマー化によって炭素原子数が8~20の高α−オレフィンから誘導の油を含む。かかるポリ−α−オレフィン油は特に好適なキャリヤー流体である。本発明に適当なキャリヤー流体は、技術的に周知の方法によって調製される、その多くはDurasyn(商標)PAO及びChevron Synfluid(商標)PAOのように市販されている。
【0029】
本発明のキャリヤー流体は、典型的に全磁気レオロジー流体の約50~95体積%、好適には約70~90体積%の範囲の量で利用される。
【0030】
磁気レオロジー流体は任意に、チキソトロープ剤、カルボン酸塩石鹸、酸化防止剤、潤滑剤及び粘度調整剤のような他の成分を含みうる。かかる任意の成分は当業者には既知である。例えば、可能なカルボン酸塩石鹸はステアリン酸リチウム、ステアリン酸ヒドロキシリチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、オレイン酸第一鉄、ナフテン酸第一鉄、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸ストロンチウム、及びそれらの混合物を含む。酸化防止剤の例は、ジチオリン酸亜鉛、封鎖フェノール、芳香族アミン類、及び硫化フェノールを含む。潤滑剤の例は、有機脂肪酸及びアミド、ラード油、及び高分子量有機亜リン酸及びリン酸エステルを含む。粘度調整剤はオレフィンの重合体及び共重合体、メタクリレート、ジエン又はアクリレートスチレンを含む。当業者はこれら化合物の中でどれが特定の用途に有用であるかを知っている。存在する場合、これら任意成分の量は典型的に磁気レオロジー流体の全体積を基準にして約0.25〜10体積%の範囲である。好適には、これら任意成分は磁気レオロジー流体の全体積を基準にして約0.5〜7.5体積%の範囲である。
【0031】
任意のチキソトロープ剤は、チキソトロープ・レオロジーを与える剤である。チキソトロープ剤は必要なキャリヤー流体に基いて選択される。磁気レオロジー流体が有機流体であるキャリヤー流体で形成される場合には、かかる系と相溶性のチキソトロープ剤が選択される。かかる有機流体系に有用なチキソトロープ剤は米国特許第5,645,752号に開示されている。上記のカルボン酸塩石鹸のような油溶性金属石鹸を使用することが望ましい。
【0032】
本発明の磁気レオロジー組成物を含有する磁気レオロジー流体の粘度は、磁気レオロジー流体の特定の使用に依存する。当業者は、磁気レオロジー流体に望ましい適用に従って必要な粘度を決定する。
【0033】
本発明の磁気レオロジー組成物から作った磁気レオロジー流体は、ブレーキ、ピストン、クラッチ、ダンパ、練習装置、制御自在の複合構造物及び構造要素を含む多数の装置に使用される。本発明の磁気レオロジー組成物で形成された磁気レオロジー流体は、特にダンパのような例外的な耐久性を必要とする装置用に適する。ここでの用語「ダンパ」は、2つの相対的に可動の部材間の運動を減衰させる装置を意味する。ダンパは、限定ではないが、自動車の緩衝器のような緩衝器を含む。米国特許第5,277,281号及び第5,284,330号に記載されている磁気レオロジーダンパは、本発明の磁気レオロジー組成物の使用によって得られる磁気レオロジー流体を使用できる磁気レオロジーダンパを示している。
【0034】
本発明の磁気応答粒子は多くの方法で得られる。一実施態様において、本発明の磁気応答粒子として使用される金属粉末は水霧化法によって得られる。この方法は本発明による磁気レオロジー組成物の全コストを下げるのに寄与する。水霧化法は、約1600℃以下で熔ける金属から元素及ぶ合金粉末を製造する最も一般的方法として、Powder Metallurgy Science by Randall M.German,2nd.Ed.Chap.3,“Powder Fabrication,”pp.107−110(1984,1999)に記載されている。この方法は、その溶融流に高圧水ジェットを向け、強制的に砕解及び迅速凝固させる工程を含む。迅速冷却のために、粉末の形状は不規則で粗い。図6は水霧化によって得られる粒度及び大きさの例を示す。
【0035】
本発明に好適な磁気応答粒子は水霧化によって得られ、本発明の磁気応答粒子はかかる粒子の調製技術において既知の方法によって得られる。これらの方法は、金属酸化物の還元、粉砕又は磨砕、電着、金属カルボニル分解、迅速凝固、又は溶融法を含む。市販されている種々の金属粉末はストレート鉄粉、還元鉄粉、絶縁還元鉄粉、コバルト粉末、及びUltraFine Powder Technologies社から入手できる48%Fe/50%Co/2%Vのような種々の合金粉末を含む。
【0036】
次の実施例は本発明を説明するなめのものであって、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例1】
【0037】
磁気レオロジー流体は、20%ATW−230鉄(99%鉄、1%以下の酸素、1%以下の窒素及び0.01%炭素を含有する水霧化、不規則形状の大きな粒子粉末)、1%ステアリン酸ヒドロキシリチウム、1%二硫化モリブデン及び残部体積(78%)の商品名Durasynd(商標)162で販売されているポリ−V−オレフィンから誘導された合成炭化水素油を混合することによって調製した。得られた流体は、トラックシート・ダンパで試験した、そして図1aに示したその結果は力(lb) vs速度(秒)の性能曲線を示し、図1bは力(lb) vs相対位置(電圧)の性能曲線を示す。試験操作は、2及び8in/sインチ(5.1及び20.3cm/秒)及び0、1及び2アンペアで1インチ(2.54cm)ストロークでシートダンパにおいて得られた力を測定した。比較例(図4a及び4b)において明白な力のスパイクは、図1a及び1bに示すように磁気レオロジー流体配合物に1%の二硫化モリブデンの添加後に顕著に低下した。オフ状態の力は160lb(72.6kg)から130lb(58.9kg)に減少し、オン状態の力は590lb(267.6kg)から480lb(217.7kg)に減少した。
【実施例2】
【0038】
磁気レオロジー流体は、20%ATW−230鉄、1%ステアリン酸ヒドロキシリチウム、2%二硫化モリブデン及び残部体積(77%)の商品名Durasyn(商標)162で販売されているポリ−V−オレフィンから誘導された合成炭化水素油を混合することによって調製した。得られた流体は、トラックシート・ダンパで試験した、そして図3aに示したその結果は力vs 速度の性能曲線を示し、図3bは力vs相対位置の性能曲線を示す。試験操作は、2及び8in/sインチ(5.1及び20.3cm/秒)及び0、1及び2アンペアで1インチ(2.54cm)ストロークでシートダンパにおいて得られた力を測定した。比較例(図5a及び5b)において明白な力のスパイクは、図3a及び3bに示すように磁気レオロジー流体配合物に2%の二硫化モリブデンの添加後に顕著に低下した。オフ状態の力は160lb(72.6kg)から137lb(62.2kg)に減少し、オン状態の力は590lb(267.6kg)から470lb(213.1kg)に減少した。
【実施例3】
【0039】
磁気レオロジー流体は、20%ATW−230鉄、1%ステアリン酸ヒドロキシリチウム、4g(8%)テフロン及び残部体積(71%)の商品名Durasyn162で販売されているポリ−V−オレフィンから誘導された合成炭化水素油を混合することによって調製した。得られた流体は、トラックシート・ダンパで試験した、そして図4aに示したその結果は力vs速度の性能曲線を示し、図4bは力vs相対位置(lb)の性能曲線を示す。試験操作は、2及び8in/sインチ(5.1及び20.3cm/秒)及び0、1及び2アンペアで1インチ(2.54cm)ストロークでシートダンパにおいて得られた力を測定した。比較例(図5a及び5b)において明白な力のスパイクは、図4a及び4bに示すように磁気レオロジー流体配合物にポリ(テトラフルオロエチレン)(フルオロポリマー)の添加後に顕著に低下した。
【0040】
比較例A
磁気レオロジー流体は、20%ATW−230鉄、1%ステアリン酸ヒドロキシリチウム、及び残部体積(79%)の商品名Durasyn162で販売されているポリ−V−オレフィンから誘導された合成炭化水素油を混合することによって調製した。得られた流体は、トラックシート・ダンパで試験した、そして図5aに示したその結果は図5aに示し、力vs速度の性能曲線を示し、図5bは力vs相対位置の性能曲線を示す。試験操作は、2及び8in/sインチ(5.1及び20.3cm/秒)及び0、1及び2アンペアで1インチ(2.54cm)ストロークでシートダンパにおいて得られた力を測定した。図に示すように、力のスパイク(実線上の点)は、摩擦低下用添加物が存在しないときに明白であった。
【0041】
比較例B
磁気レオロジー流体は、20%ATW−230鉄、1%ステアリン酸ヒドロキシリチウム、0.1%の市販のオルガノモリブデン化合物及び残部体積(77%)の商品名Durasyn162で販売されているポリ−V−オレフィンから誘導された合成炭化水素油を混合することによって調製した。得られた流体は、トラックシート・ダンパで試験した、そして図6aに示したその結果は力vs速度の性能曲線を示し、図6bは力vs相対位置の性能曲線を示す。試験操作は、2及び8in/sインチ(5.1及び20.3cm/秒)及び0、1及び2アンペアで1インチ(2.54cm)ストロークでシートダンパにおいて得られた力を測定した。比較例(図5a及び5b)において明白な力のスパイクは、図6a及び6bに示すように磁気レオロジー流体配合物にオルガノモリブデン化合物の添加後に顕著に低下しなかった。オフ状態の力は160lb(72.6kg)から140lb(63.5kg)に減少し、オン状態の力は590lb(267.6kg)から568lb(257.8kg)と僅か減少した。図6a及び6bに示すように、力のスパイク(実線上の点)は、オルガノモリブデン摩擦低下用添加物が存在するときに明白であった。
【0042】
以上、本発明を特定の実施態様を参照して詳細に記載したが、発明の精神及び範囲を逸脱することなく種々の変化及び改良ができることは当業者には明白である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】磁気レオロジー的に制御した流体によって発生された力と設計間隙との間の逆関係を示すグラフである。
【図2】aは力vs.速度によって測定された実施例1に記載された本発明の実施態様で得られた性能曲線を示すグラフであり、bは力vs.相対位置によって測定された実施例1に記載された本発明の実施態様で得られた性能曲線を示すグラフである。
【図3】aは力vs.速度によって測定された実施例2に記載された本発明の実施態様で得られた性能曲線を示すグラフであり、bは力vs.相対位置によって測定された実施例2に記載された本発明の実施態様で得られた性能曲線を示すグラフである。
【図4】aは力vs.速度によって測定された実施例3に記載された本発明の実施態様で得られた性能曲線を示すグラフであり、bは力vs.相対位置によって測定された実施例3に記載された本発明の実施態様で得られた性能曲線を示すグラフである。
【図5】aは力vs.速度によって測定された比較例Aによって得られた性能曲線を示す比較のグラフであり、bは力vs.相対位置によって測定された比較例Aによって得られた性能曲線を示す比較のグラフである。
【図6】aは力vs.速度によって測定された比較例Bによって得られた性能曲線を示す比較のグラフであり、bは力vs.相対位置によって測定された比較例Bによって得られた性能曲線を示す比較のグラフである。
【図7】球形の還元カルボニル鉄磁気応答粒子の走査電子顕微鏡写真からのディジタル画像である。
【図8】水霧化によって製造された非球形鉄粒子の走査電子顕微鏡写真からのディジタル画像である。
【図9】磁気レオロジーダンパ装置のピストン部分の模式的横断面側面図である。
【符号の説明】
【0044】
30 ピストンヘッド
32 ピストンロッド
40 コイル
43 コア要素
53 カップ部材
54 シール
56 通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均数直径分布が6〜100ミクロンの非球形磁気応答粒子及び該磁気応答粒子間の粒子間摩擦を低減する少なくとも1つの添加物から成ることを特徴とする磁気レオロジー組成物。
【請求項2】
前記添加物が、無機モリブデン化合物、過フッ化炭化水素重合体、又はそれらの混合体である請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項3】
前記添加物が、前記磁気応答粒子の0.1〜10%の量で存在する請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項4】
前記磁気応答粒子及び少なくとも1つの添加物は、乾燥粉末として提供される請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項5】
前記磁気応答粒子は、全磁気レオロジー組成物の60〜90重量%の量で提供される請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項6】
前記磁気応答粒子は、1%以下の炭素を含有する鉄粒子である請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項7】
前記添加物が、硫化モリブデン又はリン酸モリブデンである請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項8】
前記添加物が、二硫化モリブデンである請求項7記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項9】
前記添加物が、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項10】
さらに、天然脂肪油、鉱物油、ポリフェニルエチル、二塩基酸エステル、ネオペンチルポリオールエステル、リン酸エステル、ポリエステル、シクロパラフィン油、パラフィン油、不飽和炭化水素油、合成炭化水素油、ナフテン油、一塩基酸エステル、グリコールエステル、合成炭化水素、過フッ素化ポリエーテル及びハロゲン化炭化水素から成る群から選んだキャリヤー流体から成る請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項11】
さらに、チキソトロープ剤、カルボキシラート石鹸、酸化防止剤、潤滑剤又は粘度調整剤の一つ以上から成る請求項10記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項12】
前記非球形磁気応答粒子は、水霧化によって得られた少なくとも95%の鉄を含有する鉄粒子からなる請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項13】
前記非球形磁気応答粒子は、10〜60ミクロンの平均数直径分布を有する請求項1記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項14】
前記非球形磁気応答粒子は、15〜30ミクロンの平均数直径分布を有する請求項13記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項15】
0.08〜0.75mmの設計間隙を有し、該間隙に請求項10の磁気レオロジー流体組成物を含有することを特徴とする磁気レオロジー的に制御可能なダンパ。
【請求項16】
前記非球形磁気応答粒子が、15〜30ミクロンの平均数直径分布を有する請求項10記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項17】
前記添加物が、フルオロカーボン重合体である請求項10記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項18】
前記添加物が、ポリテトラフルオロエチレンである請求項17記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項19】
キャリヤー流体が、鉱物油、パラフィン油、シクロパラフィン油、ナフテン油又は合成炭化水素油である請求項17記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項20】
前記非球形磁気応答粒子が、10〜60ミクロンの平均数直径分布を有する請求項17記載の磁気レオロジー組成物。
【請求項21】
前記非球形磁気応答粒子が、15〜30ミクロンの平均数直径分布を有する請求項20記載の磁気レオロジー組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−505937(P2006−505937A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549861(P2004−549861)
【出願日】平成14年12月23日(2002.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2002/041376
【国際公開番号】WO2004/042747
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(500201934)ロード コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】