説明

磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法

【課題】反転回復法による撮影において予め設定することが必要なインバージョンタイムを、より少ない撮影回数で決定することが可能な制御信号作成方法の提供。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置に於いて、反転回復法による撮影におけるインバージョンタイムTIを決定するためのテスト撮影は、IRプリパルスPirを印加して縦磁化を反転させる複数のスライスをテスト画像のイメージングスラブの広さ方向に一致せず、かつ互いに交差するように設定するIRパルス印加用スライス設定手段と、IRパルス印加用スライス設定手段により設定された複数のスライスに互いに異なるインバージョンタイムTIでそれぞれIRプリパルスPirが印加され、かつイメージングスラブからの信号を収集して前記テスト画像を再構成することができるようにテスト撮影用のシーケンスPir,Pi,Psir,Ps,Psiを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する磁気共鳴信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法に係り、特に、反転回復法による撮影において予め設定することが必要なインバージョンタイムを、より少ない撮影回数で決定することが可能な磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場におけるモニタリング装置として、磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置が利用される。
【0003】
MRI装置は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石内部にセットされた被検体の撮像領域に傾斜磁場コイルでX軸、Y軸、Z軸方向の傾斜磁場を形成するとともにRF(Radio Frequency)コイルから高周波(RF)信号を送信することにより被検体内の原子核スピンを磁気的に共鳴させ、励起により生じた核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)信号を利用して被検体のMR画像を再構成する装置である。
【0004】
このようなMRI装置を用いた心臓検査が近年普及しつつあり、その一つとして心筋遅延造影法(Late EnhancementまたはDelayed Enhancement)がある。
【0005】
心筋遅延造影法は、被検体にMR造影剤を注入した後、一定の遅延時間(15分程度)後に反転回復(IR:Inversion Recovery)法によりT1強調画像を収集することにより心筋梗塞領域を特定し、虚血性心疾患において心筋の梗塞部位を画像化する方法である。
【0006】
このIR法による撮影は、IRシーケンスに従って行われるが、IRシーケンスによる撮像ではRFコイルからイメージング用の高周波信号が被検体に印加される前にIRプリパルスが印加されて、原子核スピンのz軸方向の縦磁化成分が180°反転される。そして、原子核スピンの縦緩和(T1緩和)により縦磁化が回復してくる過程でイメージング用の90°パルスを印加させて、エコー信号であるNMR信号が測定される。
【0007】
ここで、原子核スピンの縦磁化成分の反転状態からの回復速度は、縦緩和により原子核スピンが定常状態に戻る際の時定数T1にのみ依存する。このため、IRプリパルスから90°パルスまでの時間であるインバージョンタイム(TI)を調節することにより、各組織におけるT1の差異を利用してT1強調を行って特定の組織の画像を強調して得ることができる。
【0008】
一方、ガドリウムGdをMR造影剤として被検体に投与すると、一定の遅延時間後には心筋梗塞領域では組織浮腫や心筋細胞膜の障害により、MR造影剤の細胞外液分布容積が正常心筋よりも増大し、心筋梗塞領域と正常領域とでは造影剤濃度が異なるものとなる。さらに、MR造影剤はT1を短縮させる性質があるため、MR造影剤を被検体Pに投与した後にIR法により被検体Pを高速撮影すると、心筋梗塞病変が明瞭な高信号域として描出されることが知られる。
【0009】
このように、IRパルスを用いたT1強調イメージングによって心筋梗塞部位をより明瞭に抽出する手法が各種考案されているが、セグメント化されたグラディエントエコー法による撮影では、TIを適切に調整し、正常心筋からのNMR信号がほぼゼロとなるような撮影条件を用いることで、梗塞部位が最も明瞭に描出されると報告されている(例えば非特許文献1参照)。
【0010】
そこで、従来、グラディエントエコー法による撮影では、正常心筋からのNMR信号がほぼゼロとなるようにTIが調整される。
【0011】
図10は、従来の磁気共鳴イメージング装置を用いたグラディエントエコー法による反転回復(IR)撮影において、インバージョンタイム(TI)を設定するためのシーケンスを示す図である。
【0012】
IR法では、イメージングのための本撮影に先立って、適切なTIを決定するためのテスト撮影が行われる。このテスト撮影は、一般的には心電同期で行われ、試験的に設定したTIを変化させながら複数回に亘って繰返し行われる。
【0013】
すなわち、図10に示すようにECG波形のR波にトリガパルス(Trigger)を設定し、設定したトリガパルスから一定の遅延時間Td(trigger delay)後に非スライス選択でIRプリパルスが被検体に印加され、z軸方向の縦磁化成分が180°反転される。そして、IRプリパルスからTI後にグラディエントエコー法によるテスト画像撮影用のシーケンスが被検体に印加される。このとき、TIは、例えば200ms程度に設定される。
【0014】
続いてTIを220ms程度に設定したテスト撮影が後のR波に同期させて行われる。さらに、同様にTIを200msから300ms程度まで20ms程度のステップで変えながらテスト撮影が行われ、各テスト撮影により得られた心筋のT1強調画像がそれぞれ表示される。
【0015】
そして、ユーザは、TIを変化させて得られた複数の心筋の各T1強調画像を確認し、正常と思われる心筋の信号強度がほぼゼロとなるような画像の撮影に用いられたTIを本撮影用のTIに決定する。しかるのちに、テスト撮影によって決定されたTIを用いてテスト撮影と同じ撮影条件でイメージング用の本撮影が実行される。
【非特許文献1】Simonetti OP et al., Radiology 2001; 218:215-223
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来の磁気共鳴イメージング装置を用いたIR撮影におけるTIの決定方法では、TIを細かいステップで変えてテスト撮影を繰り返すことが必須となり、テスト撮影に時間がかかるという問題がある。さらに、テスト撮影に時間がかかると、その間に心筋における造影剤の濃度が大きく変化してしまい、最適なTIを決定することが困難となるという問題も引き起こされる。
【0017】
また、テスト撮影および本撮影の双方ともに、被検体である患者には息止めをすることが求められる。このため、テスト撮影が長時間に亘ると被検体の息止めのための労力が増加するばかりか、本撮影において息止め不良の誘引に繋がる恐れがある。
【0018】
このような背景から、TIの決定に時間がかかることが、遅延造影画像の画質を低下させる原因の1つとなっている。このため、TIを決定するためのテスト撮影に要する時間の短縮が求められる。
【0019】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、反転回復法による撮影において予め設定することが必要なインバージョンタイムを、より少ない撮影回数で決定することが可能な磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、上述の目的を達成するために、請求項1に記載したように、反転回復法による撮影におけるインバージョンタイムを決定するためのテスト画像を撮影するテスト撮影が可能な磁気共鳴イメージング装置において、IRプリパルスを印加して縦磁化を反転させる複数のスライスを前記テスト画像のイメージングスラブの広さ方向に一致せず、かつ互いに交差するように設定するIRパルス印加用スライス設定手段と、前記IRパルス印加用スライス設定手段により設定された前記複数のスライスに互いに異なるインバージョンタイムでそれぞれ前記IRプリパルスが印加され、かつ前記イメージングスラブからの核磁気共鳴信号を収集して前記テスト画像を再構成することができるように前記テスト撮影用のシーケンスを作成するテスト撮影用シーケンス作成手段とを有することを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法は、上述の目的を達成するために、請求項6に記載したように、反転回復法による撮影におけるインバージョンタイムを決定するためのテスト画像を撮影するテスト撮影が可能な磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法において、IRプリパルスを印加して縦磁化を反転させる複数のスライスを前記テスト画像のイメージングスラブの広さ方向に一致せず、かつ互いに交差するように設定するステップと、前記複数のスライスに互いに異なるインバージョンタイムでそれぞれ前記IRプリパルスが印加され、かつ前記イメージングスラブからの核磁気共鳴信号を収集して前記テスト画像を再構成することができるように前記テスト撮影用のシーケンスを作成するステップとを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法においては、反転回復法による撮影において予め設定することが必要なインバージョンタイムを、より少ない撮影回数で決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0024】
図1は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0025】
磁気共鳴イメージング装置30は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石31と、この静磁場用磁石31の内部に設けられたシムコイル32、傾斜磁場コイルユニット33およびRFコイル34とを図示しないガントリに内蔵した構成である。
【0026】
また、磁気共鳴イメージング装置30には、制御系35と心電図(ECG:Electrocardiography)計測ユニットとしてのECG計測系36とが備えられる。
【0027】
制御系35は、静磁場電源37、傾斜磁場電源38、シムコイル電源29、送信器40、受信器41、シーケンスコントローラ42およびコンピュータ43を具備している。制御系35の傾斜磁場電源38は、X軸傾斜磁場電源38x、Y軸傾斜磁場電源38yおよびZ軸傾斜磁場電源38zで構成される。また、コンピュータ43には、入力装置44、表示装置45、演算装置46および記憶装置47が備えられる。
【0028】
ECG計測系36は、ECGセンサ48とECGユニット49とを具備している。
【0029】
磁気共鳴イメージング装置30の静磁場用磁石31は静磁場電源37と接続され、静磁場電源37から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。静磁場用磁石21は常伝導コイルで構成されることができる他、超伝導コイルで構成される場合も多い。静磁場用磁石21を超伝導コイルで構成した場合、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0030】
静磁場用磁石31の内側には、同軸上に筒状のシムコイル32が設けられる。シムコイル32はシムコイル電源29と接続され、シムコイル電源29からシムコイル32に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0031】
傾斜磁場コイルユニット33は、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33yおよびZ軸傾斜磁場コイル33zで構成され、静磁場用磁石31の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイルユニット33の内側には寝台50が設けられて撮像領域とされ、寝台50には被検体Pがセットされる。RFコイル34はガントリに内蔵されず、寝台50や被検体P近傍に設けられる場合もある。
【0032】
また、傾斜磁場コイルユニット33は、傾斜磁場電源38と接続される。傾斜磁場コイルユニット33のX軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33yおよびZ軸傾斜磁場コイル33zはそれぞれ、傾斜磁場電源38のX軸傾斜磁場電源38x、Y軸傾斜磁場電源38yおよびZ軸傾斜磁場電源38zと接続される。
【0033】
そして、X軸傾斜磁場電源38x、Y軸傾斜磁場電源38yおよびZ軸傾斜磁場電源38zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33yおよびZ軸傾斜磁場コイル33zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0034】
RFコイル34は、送信器40および受信器41と接続される。RFコイル34は、送信器40から高周波信号を受けて被検体Pに送信する機能と、被検体P内部の原子核スピンの高周波信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器41に与える機能を有する。
【0035】
一方、ECG計測系36のECGセンサ48は被検体Pの体表に設けられ、ECG信号を受信して電気信号としてECGユニット49に与える機能を有する。
【0036】
ECGユニット49は、ECGセンサ48から受けたECG信号の電気信号に対してデジタル化処理等の各種処理を施してシーケンスコントローラ42およびコンピュータ43に出力する機能を有する。
【0037】
また、制御系35のシーケンスコントローラ42は、傾斜磁場電源38、送信器40、受信器41およびECGユニット49と接続される。シーケンスコントローラ42は傾斜磁場電源38、送信器40および受信器41を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源38に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源38、送信器40および受信器41を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gzおよび高周波信号を発生させる機能を有する。
【0038】
また、シーケンスコントローラ42は、受信器41からはデジタル化されたNMR信号である生データ(raw data)を受けて、ECGユニット49からはデジタル化されたECG信号をそれぞれ受けてコンピュータ43に与えるように構成される。
【0039】
このため、送信器40には、シーケンスコントローラ42から受けた制御情報に基づいて高周波信号をRFコイル34に与える機能が備えられる一方、受信器41には、RFコイル34から受けたNMR信号に所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化されたNMR信号である生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ42に与える機能とが備えられる。
【0040】
また、コンピュータ43の記憶装置47に保存されたプログラムを演算装置46で実行することにより、コンピュータ43には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、特定の回路を設けてコンピュータ43を構成してもよい。
【0041】
特に、コンピュータ43には、虚血性心疾患において心筋梗塞領域を特定して心筋の梗塞部位を画像化するための心筋遅延造影法による撮影を行うことができるように磁気共鳴イメージング装置30を制御する機能が備えられる。心筋遅延造影法は、被検体PにMR造影剤を注入した後、一定の遅延時間後にIR法に従うIRシーケンスによりT1強調画像を収集する撮影法である。
【0042】
IRシーケンスによる撮像ではRFコイル4に高周波信号としてイメージング用パルス(例えば90°パルス)を印加する前に反転パルス(IRパルス)がIRプリパルスとして印加される。そして、IRプリパルスにより原子核スピンのz軸方向の縦磁化成分を反転させ、励起した核スピンが吸収したエネルギを周囲の分子に熱振動のエネルギとして放出する縦緩和(T1緩和)により縦磁化が回復してくる過程でイメージング用パルスを印加させて、エコー信号であるNMR信号が測定される。
【0043】
このとき、縦磁化成分の反転状態からの回復の速度は、縦緩和により核スピンが定常状態に戻る際の時定数T1にのみ依存する。このため、IRプリパルスからイメージング用パルスまでの時間(反転時間)を調節することにより、各組織におけるT1の差異を利用してT1強調を行って特定の組織の画像を強調して得ることができる。
【0044】
ここで、心筋遅延造影法において被検体Pに投与されるGd系のMR造影剤は、縦緩和時間T1を短縮させる効果があるため、MR造影剤が投与された血液が分布する領域からは強いNMR信号が生じる。そこで、MR造影剤を被検体Pに投与してIR法により撮影すると、心筋梗塞領域では組織浮腫や心筋細胞膜の障害によって、一定の遅延時間後にはMR造影剤の細胞外液分布容積が正常心筋よりも増大するため、心筋梗塞領域が明瞭なNMR信号の高信号域として描出される。そして、IR法により得られた生データを再構成させると、心筋梗塞領域の縦緩和時間T1に応じて強調したコントラストのT1強調画像が得られる。
【0045】
そこで、コンピュータ43には、このような心筋遅延造影法による撮影のためのIRシーケンスを生成してシーケンスコントローラ42に与えることにより、磁気共鳴イメージング装置30を制御する一方、収集された生データをシーケンスコントローラ42から受けて画像を再構成させる機能が備えられる。
【0046】
また、グラディエントエコー法に代表される撮影においては、正常心筋からのNMR信号がほぼゼロとなるようにIRプリパルスからイメージング用パルスまでの時間であるインバージョンタイム(TI)を調整することで、心筋梗塞部位を明瞭に描出できることが知られている。
【0047】
そこで、コンピュータ43には、正常心筋からのNMR信号がほぼゼロとなるようなTIを決定するためのテスト撮影を実行するシーケンスを生成してシーケンスコントローラ42に与えることにより、IR撮影の実行に先立ってテスト撮影を実行させる機能が備えられる。
【0048】
図2は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置30におけるコンピュータ43の機能ブロック図である。
【0049】
コンピュータ43は、プログラムによりIRパルス印加用スライス設定ユニット60、テスト撮影用シーケンス作成ユニット61、心電同期ユニット62、本撮影用シーケンス作成ユニット63、シーケンスコントローラ制御ユニット64、生データデータベース65、画像再構成ユニット66、付帯情報表示ユニット67として機能する。
【0050】
IRパルス印加用スライス設定ユニット60は、正常心筋からのNMR信号がほぼゼロとなるようなTIを決定するためのテスト撮影において、IRプリパルスを印加して縦磁化を反転させるスライスを複数設定する機能と、設定したスライス情報をテスト撮影用シーケンス作成ユニット61に与える機能とを有する。このときIRプリパルスにより励起させる(縦磁化を反転させる)スライスは、少なくともイメージングスラブの広さ方向に一致せず、イメージングスラブと交差するように複数枚設定される。さらに、各スライスも互いに一致せずに交差するように設定される。
【0051】
また、スライスの設定に必要な情報は入力装置44からIRパルス印加用スライス設定ユニット60に与えられる。
【0052】
テスト撮影用シーケンス作成ユニット61は、IRパルス印加用スライス設定ユニット60から受けた各スライスに互いに異なるTIでそれぞれIRプリパルスが印加され、かつイメージングスラブからのデータによりテスト画像を再構成することができるように、複数のIRプリパルスおよびイメージング用パルス並びに傾斜磁場パルスを設定してテスト撮影用のシーケンスを作成する機能と、作成したテスト撮影用のシーケンスを心電同期ユニット62およびシーケンスコントローラ制御ユニット64に与える機能とを有する。
【0053】
心電同期ユニット62は、テスト撮影用シーケンス作成ユニット61からテスト撮影用のシーケンスを受ける一方、ECGユニット49からECG信号を受けて、テスト撮影用のシーケンスを心電同期させてシーケンスコントローラ制御ユニット64に与える機能を有する。
【0054】
本撮影用シーケンス作成ユニット63は、テスト撮影により決定されたTIを用いて遅延造影撮影の本撮影を実行するためのシーケンスを作成してシーケンスコントローラ制御ユニット64に与える機能を有する。
【0055】
シーケンスコントローラ制御ユニット64は、テスト撮影用シーケンス作成ユニット61、心電同期ユニット62または本撮影用シーケンス作成ユニット63から受けたシーケンスをシーケンスコントローラ42に与えることによりテスト撮影や本撮影を実行させる一方、撮影の実行により得られた生データをシーケンスコントローラ42kら受けて生データデータベース65に形成されたk空間(フーリエ空間)に配置する機能を有する。
【0056】
画像再構成ユニット66は、生データデータベース65から生データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより、被検体Pの画像を再構成する機能と、再構成して得られた画像を表示装置45に表示させる機能を有する。また、必要に応じて、再構成して得られた画像を付帯情報表示ユニット67に与えるように構成される。
【0057】
付帯情報表示ユニット67は、画像再構成ユニット66から受けた被検体Pの画像情報に、TI値を表示装置45に表示させるための付帯情報を付加して表示装置45に与えることにより、TI値を表示装置45に表示させる機能を有する。
【0058】
次に磁気共鳴イメージング装置30の作用について説明する。
【0059】
まず予め、心筋遅延造影法による撮影を実行するために、寝台50にセットされた被検体PにガドリウムGd等のMR造影剤が注入されるとともに、一定の遅延時間後にECG計測系36において被検体PのECG信号が呼吸停止下で取得されてコンピュータ43に出力される。すなわち、ECGセンサ48が被検体PのECG信号を受信して電気信号としてECGユニット49に与え、ECGユニット49は、ECG信号の電気信号に対してデジタル化処理等の各種処理を施してシーケンスコントローラ42およびコンピュータ43に与える。
【0060】
また、静磁場電源37から静磁場用磁石31に電流が供給されて撮像領域に静磁場が形成されるとともに、シムコイル電源29からシムコイル32に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0061】
そして、IR法によるイメージングのための本撮影に先立って、IR撮影における適切なTIを決定するためのテスト撮影が望ましくは心電同期で実行される。このテスト撮影はIRパルスを連続的に複数回に亘って異なるTIとなるように被検体Pに印加して、互い異なる複数のスライスを励起させて縦磁化を反転した後、続いてTIの決定に際して参照されるテスト画像生成のための励起パルスをイメージング用パルスとして被検体Pに印加するものである。
【0062】
図3は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置30により、反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定する際の流れを示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0063】
始めに、ステップS1において、IRプリパルスを印加して縦磁化を反転させるスライスがIRパルス印加用スライス設定ユニット60により複数枚設定される。
【0064】
図4は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置30により、反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影を行う際に縦磁化を反転させる複数のスライスを設定した例を示す説明図である。
【0065】
図4に示すように心臓70は心筋71により右心室72と左心室73とが形成された構造である。そして、例えば左心室73を形成する心筋71に梗塞部位74が存在する場合には、視線方向である左心室短軸Aに垂直に医用画像生成用のイメージングスラブが設定される。
【0066】
そして、IRプリパルスにより励起させる(縦磁化を反転させる)スライスSは、少なくともイメージングスラブの広さ方向に一致せず、イメージングスラブと交差するように複数枚設定される。また、各スライスSも互いに一致せずに交差するように設定される。望ましくは、図4に示すように、IRプリパルスにより励起させるスライスSは例えばイメージングスラブに実質的に垂直に8つ設定され、かつ各スライスSは互いに左心室短軸Aで交差するものとされる。
【0067】
そして各スライスSに異なるTI(TI(1)〜TI(8))となるようにテスト画像生成のためのイメージング用パルスが印加されてテスト画像が再構成されることとなるが、このように複数のスライスSをイメージングスラブに垂直で互いに左心室短軸Aで交差するように設定すれば、同じTIを有する領域が左室心74の心筋71上に2箇所現れ、梗塞部位74が存在してゼロでないNMR信号が生じたとしても正常な心筋71からのNMR信号がほぼゼロとなるようなTIをテスト画像の参照により容易に探すことが可能となる。また、IRプリパルスにより励起させる各スライスSをイメージングスラブに垂直に設定すれば、スライスS内外の境界がイメージングスラブに垂直で心筋71を横切る面となるため、スライスS内外の境界を明瞭に画像化することができる。
【0068】
但し、IRプリパルスにより励起させる各スライスSは、イメージングスラブに平行でなく、かつ心筋71と交差する限りは任意に設定することが可能である。
【0069】
そして、IRプリパルスにより励起させるスライスSは、入力装置44からIRパルス印加用スライス設定ユニット60に情報を与えることにより、任意かつ適切に複数枚設定することができる。さらに、IRパルス印加用スライス設定ユニット60により設定されたスライスSは、テスト撮影用シーケンス作成ユニット61に与えられる。
【0070】
次に、ステップS2において、IRパルス印加用スライス設定ユニット60により設定されたスライスにIRプリパルスが互いに異なるTIで印加されるようにテスト撮影用シーケンス作成ユニット61によりテスト撮影用のシーケンスが生成される。
【0071】
図5は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置30を制御するために生成された反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影用のシーケンスの一例を示す図である。
【0072】
尚、図5において、RFはRFコイル34から被検体Pに印加されるRFパルスを、G、G、GはそれぞれX、Y,Z軸方向の傾斜磁場コイル33x、33y、33zに印加される制御パルスを示す。
【0073】
図5に示すようにテスト撮影用のシーケンスは、適切なTIを決定するために参照されるテスト画像を生成するためのイメージング用パルスPiと、このイメージング用パルスPiに先立って被検体Pに連続的に異なるタイミングで印加される複数のIRプリパルスPirとを有する。
【0074】
また、各IRプリパルスPirの印加に同期して、各IRプリパルスPirにより励起させて縦磁化を反転させる固有な方向を持つスライスを選択するためのIR用スライス傾斜磁場パルスPsirが設定される。さらに、IR用スライス傾斜磁場パルスPsirに続いて各IRプリパルスPirの印加による横磁化を消失させるためのスポイラ傾斜磁場パルスPsが設定される。
【0075】
イメージング用パルスPiは、スピン・エコー法やグラディエント・エコー法、エコー・プラナー法など任意のイメージング方法によるパルスとすることができる。イメージング方法に依存して、TIの設定可能な最小値等の条件が変わる。また、図5では、イメージング用パルスPiに同期したイメージング用スライス傾斜磁場パルスPsiによりZ軸に垂直なイメージングスラブが励起されるようにされている。
【0076】
一方、各IRプリパルスPirにより励起させて縦磁化を反転させるスライスはイメージングスラブに垂直で、かつ互いに交差するようにIR用スライス傾斜磁場パルスPsirが設定される。つまり、X軸方向、Y軸方向の傾斜磁場に互いに異なる勾配が与えられるようにIR用スライス傾斜磁場パルスPsirが設定される。従って、一連のIRプリパルスPirによってそれぞれ別の領域が励起される。
【0077】
また、各IRプリパルスPirは、時間的に連続的に異なるタイミングで印加される一方、共通のイメージング用パルスPiが被検体Pに印加されるため、各IRプリパルスPirにより励起されるスライスにおけるTIは互いに異なるものとなる。IRプリパルスPirおよびスポイラ傾斜磁場パルスPsは10ms程度の時間で印加可能であるため、TIのステップは10ms程度に細かく設定することができる。この各TIは入力装置44からテスト撮影用シーケンス作成ユニット61に情報を与えることにより任意に設定可能である。
【0078】
図5は、8つのIRプリパルスPirがそれぞれ互いに異なるTI(1)〜TI(8)となるように設定された例である。尚、TIの基準となるイメージング用パルスPiのタイミングは、イメージング用パルスPiにより異なり、位相エンコードが0付近のデータを収集するタイミングとなる。
【0079】
したがって、図5に示すようなイメージング用パルスPiを実行すれば、図4に示すように8つの異なるスライスSにおいて異なるTIとした心臓70のテスト画像を1回のテスト撮影で得ることができる。さらに、テスト撮影用のシーケンスは、複数種類作成することもできる。すなわち、複数回のテスト撮影により、更に細かくTIを変えてテスト画像を得ることもできる。
【0080】
そして、このようにテスト撮影用シーケンス作成ユニット61により生成されたテスト撮影用のシーケンスは、心電同期ユニット62に与えられる。
【0081】
次に、ステップS3において、心電同期ユニット62によりテスト撮影用のシーケンスが必要に応じてECG信号に同期される。
【0082】
図6は、図5に示すテスト撮影用のシーケンスを心電波形に同期させた例を示す図である。
【0083】
ECGユニット49からは、図6に示すようなECG信号が心電同期ユニット62に与えられる。そして、心電同期ユニット62によりテスト撮影用のシーケンスがECG信号に同期される。ECG信号には、PQRSTと呼ばれるピークが存在し、心電図同期では通常QRS波形のいずれかにトリガポイントが設定される。
【0084】
図6は、トリガポイントをR波に設定し、一定の遅延(ディレイ)時間TD後にテスト撮影用のシーケンスが実行されるようにした例である。尚、図6では、傾斜磁場パルスGzおよびイメージング用パルスとともに印加される傾斜磁場パルスの詳細については省略している。
【0085】
テスト撮影用のシーケンスは、一連のIRプリパルスとイメージング用パルスとで構成されるが、イメージング用パルスにはしばしば撮影領域ごとにセグメント分割されたものが用いられる。この場合、ECG信号に同期して全撮影領域に必要なデータの収集が完了するまで繰返しテスト撮影が実行される。通常は、セグメント分割の分割数だけテスト撮影が繰り返される。テスト撮影を心電同期により繰り返す場合には、図6に示すようにトリガポイントをQRS波形のひとつおきに設定すれば、イメージング用パルスの実行後における縦緩和を十分に進行させる観点から有効である。
【0086】
このようにテスト撮影を心電同期させれば、心臓などの動く臓器において、IRプリパルスにより励起するスライスの位置をほぼ一定にすることができる。これにより、TIが同一の領域からの信号強度の均一化やテスト画像におけるアーチファクトの低減に繋げることが可能となり、より容易に最適なTIを決定することができる。
【0087】
ただし、テスト撮影を心電同期させずに行ってもよい。この場合には、テスト撮影用シーケンス作成ユニット61により生成されたテスト撮影用のシーケンスがシーケンスコントローラ制御ユニット64に与えられる。
【0088】
一方、心電同期ユニット62によりテスト撮影用のシーケンスの心電同期が行われる場合には、心電同期されたテスト撮影用のシーケンスが心電同期ユニット62からシーケンスコントローラ制御ユニット64に与えられる。
【0089】
次に、ステップS4において、シーケンスコントローラ制御ユニット64からシーケンスコントローラ42にテスト撮影用のシーケンスが出力されて、テスト撮影が実行される。すなわち、シーケンスコントローラ42は、テスト撮影用のシーケンスに従って傾斜磁場電源38、送信器40および受信器41を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域にX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gzを形成させるとともに、高周波信号を発生させる。そして、送信器40からRFコイル34に高周波信号が与えられ、RFコイル34から被検体Pに高周波信号が送信される。
【0090】
すなわち、まずRFコイル34から連続的に複数回に亘って反転パルスがIRプリパルスとして順次被検体Pに印加され、異なるスライスが励起される。このため、被検体Pの各スライスにおいて原子核スピンの縦磁化が反転し、時間とともに縦緩和により被検体Pの各組織における原子核スピンの縦磁化は増加する。この際、被検体Pに投与されたGd系のMR造影剤の作用により心筋梗塞領域の縦緩和時間T1が短縮され、心筋梗塞領域の縦磁化は他の心筋領域よりも早く増加する。
【0091】
続いて、イメージング用パルスが実行され、異なるTIで各スライスにイメージング用の励起パルスが印加される。このため、各スライスに含まれる心筋において核磁気共鳴により生じたNMR信号がRFコイル34において受信される。
【0092】
図7は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置30による反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影における各スライスの縦磁化の時間変化を示す図である。
【0093】
図7において、縦軸は縦磁化Mzを示し、横軸は時間tを示す。また、図7中の各実線は各スライスに含まれる正常組織における核スピンの、それぞれの縦磁化Mzの時間的な変化を示すデータである。
【0094】
RFコイル4から複数の、例えば8つのIRプリパルスが時間的に連続して印加されると、各スライスにおいてIRプリパルスがそれぞれ印加されたタイミングで原子核スピンのz軸方向の縦磁化成分Mzが反転される。そして、各スライスにそれぞれ含まれる組織の縦磁化Mzは、IRプリパルスが印加された際に縦磁化成分が反転して負値の縦磁化MIRとなる。さらに、組織の縦磁化Mzは、縦緩和により時間と共に増加して再び正値となり、IRプリパルスの印加前における定常状態における縦磁化M0に回復する。
【0095】
このときの縦磁化Mzの回復の時定数T1は造影剤の濃度に依存し、かつ造影剤の濃度は組織が正常であるか梗塞部位であるかに依存する。
【0096】
一方、各IRプリパルスの印加からそれぞれ異なるTI(1)〜TI(8)後にイメージング用パルスPiが実行されてテスト画像生成用のデータ収集が行われる。このとき、正常組織における縦磁化Mzが最もゼロに近いスライスおよびTIが存在し、このスライスに含まれる組織をテスト画像として画像化すれば、正常部位の信号値がゼロに近く梗塞部位の信号値がゼロでないテスト画像となる。このため、全てのスライスからのNMR信号を元データとしてテスト画像を再構成すれば、最適なTIを決定することができる。
【0097】
そこで、ステップS5において、RFコイル34において受信されたNMR信号が収集されてテスト画像が再構成される。すなわち、受信器41は、RFコイル34からNMR信号を受けて、前置増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅、フィルタリング等の各種信号処理を実行する。そして、受信器41は、NMR信号をA/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器41は、生成した生データをシーケンスコントローラ42に与える。
【0098】
さらに、シーケンスコントローラ42は、受信器41から受けた生データをシーケンスコントローラ制御ユニット64に与え、シーケンスコントローラ制御ユニット64は、生データデータベース65に形成されたk空間に生データを配置する。
【0099】
続いて、画像再構成ユニット66は、生データデータベース65のk空間に配置された生データを読み込んで、フーリエ変換処理等の処理を伴う画像再構成処理を行うことにより、テスト画像を再構成する。この結果、図4に示すようなテスト画像が得られ、得られたテスト画像を表示装置45に与えて表示させることができる。
【0100】
このようにして得られたテスト画像は、各スライスに含まれる心筋のコントラストが互いに異なる画像となる。このため、ユーザは、単一のテスト画像から適切なコントラストのスライスを選択し、選択したスライスにおけるTIを本撮影におけるTIとして決定することができる。ここで、ユーザがより容易にTIを決定することができるように、各スライスにおけるTIの値を表示装置45に表示させることもできる。
【0101】
その場合には、ステップS6において、画像再構成ユニット66から付帯情報表示ユニット67にテスト画像が与えられる。そして、付帯情報表示ユニット67によりTIの値を表示装置45に表示させるための付帯情報がテスト画像に付加された後、ステップS7において、表示装置45に与えられて表示される。
【0102】
図8は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置30による反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影により得られたテスト画像にTIの値を表示させた例を示す図である。
【0103】
図8に示すように、IRプリパルスにより励起した各スライスの位置が矩形領域として表示され、各スライス近傍に各TIの値が表示されるようにすることができる。図8は、8つのスライスについてTIを160msから20msずつ300msまで設定した場合を例示している。
【0104】
図9は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置30による反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影により得られたテスト画像にTIの値を表示させた別の例を示す図である。
【0105】
図9に示すように、IRプリパルスにより励起した各スライスの位置が矩形領域として表示され、各スライス近傍にTIの値と関連付けた符号が表示されるようにすることもできる。図8は、8つのスライスについてTIを160msから20msずつ300msまで設定した場合を例示している。そして、最小のTIの値が160msであり、20msステップで増加させた旨が任意の位置に表示されるとともに、各スライス近傍にS1〜S8の符号が表示されている。
【0106】
各符号S1〜S8とTIの値との関係は、ポップアップ画面等の任意の位置や手段に示すことができる。
【0107】
このように、付帯情報をテスト画像に付加することにより、スライスの位置とともにTIの値を表示させれば、ユーザはコントラストが異なる各スライスのそれぞれのTIを目視により知ることができる。
【0108】
この結果、ステップS8において、ユーザは遅延造影撮影の本撮影にて設定すべき最適なTI値を容易に決定することができる。尚、最適なTI値の決定をテスト画像の信号値に基づいて自動的に情報処理によって行ってもよい。
【0109】
そして、テスト撮影によりTIの値が決定されると、ステップS9において、決定したTIを用いて遅延造影撮影の本撮影が実行される。また、このときの本撮影用のシーケンスは、本撮影用シーケンス作成ユニット63によって生成されるが、IRプリパルスが印加された後、決定したTI後にテスト撮影と同様なイメージング用パルスが印加されるように設定される。この結果、本撮影では、正常心筋からのNMR信号がほぼゼロとなり、梗塞部位を明瞭に描出することができる。
【0110】
以上のような磁気共鳴イメージング装置30によれば、従来は、遅延造影撮影における最適TIの決定のためのテスト撮影を繰り返し複数回に亘って実施していたのに対し、テスト撮影の回数を1回あるいは低減させることができる。この結果、最適なTIをより短時間で決定できることになり、心筋における造影剤の濃度変化を抑制することができる。
【0111】
また、被検体である患者の息止めのための労力を低減させるとともに、本撮影における息止め不良の発生の防止に繋げることができる。そして、結果的には遅延造影画像の画質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図2】図1に示す磁気共鳴イメージング装置におけるコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により、反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定する際の流れを示すフローチャート。
【図4】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により、反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影を行う際に縦磁化を反転させる複数のスライスを設定した例を示す説明図。
【図5】図1に示す磁気共鳴イメージング装置を制御するために生成された反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影用のシーケンスの一例を示す図。
【図6】図5に示すテスト撮影用のシーケンスを心電波形に同期させた例を示す図。
【図7】図1に示す磁気共鳴イメージング装置による反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影における各スライスの縦磁化の時間変化を示す図。
【図8】図1に示す磁気共鳴イメージング装置による反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影により得られたテスト画像にTIの値を表示させた例を示す図。
【図9】図1に示す磁気共鳴イメージング装置による反転回復(IR)撮影のインバージョンタイム(TI)を決定するためのテスト撮影により得られたテスト画像にTIの値を表示させた別の例を示す図。
【図10】従来の磁気共鳴イメージング装置を用いたグラディエントエコー法による反転回復(IR)撮影において、インバージョンタイム(TI)を設定するためのシーケンスを示す図。
【符号の説明】
【0113】
30 磁気共鳴イメージング装置
31 静磁場用磁石
32 シムコイル
33 傾斜磁場コイルユニット
34 RFコイル
36 ECG計測系
37 静磁場電源
38 傾斜磁場電源
39 シムコイル電源
40 送信器
41 受信器
42 シーケンスコントローラ
43 コンピュータ
44 入力装置
45 表示装置
46 演算装置
47 記憶装置
48 ECGセンサ
49 ECGユニット
50 寝台
60 IRパルス印加用スライス設定ユニット
61 テスト撮影用シーケンス作成ユニット
62 心電同期ユニット
63 本撮影用シーケンス作成ユニット
64 シーケンスコントローラ制御ユニット
65 生データデータベース
66 画像再構成ユニット
67 付帯情報表示ユニット
70 心臓
71 心筋
72 右心室
73 左心室
74 梗塞部位
P 被検体
A 左心室短軸
S スライス
Pir IRプリパルス
Pi イメージング用パルス
Psir IR用スライス傾斜磁場パルス
Ps スポイラ傾斜磁場パルス
Psi イメージング用スライス傾斜磁場パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転回復法による撮影におけるインバージョンタイムを決定するためのテスト画像を撮影するテスト撮影が可能な磁気共鳴イメージング装置において、
IRプリパルスを印加して縦磁化を反転させる複数のスライスを前記テスト画像のイメージングスラブの広さ方向に一致せず、かつ互いに交差するように設定するIRパルス印加用スライス設定手段と、
前記IRパルス印加用スライス設定手段により設定された前記複数のスライスに互いに異なるインバージョンタイムでそれぞれ前記IRプリパルスが印加され、かつ前記イメージングスラブからの核磁気共鳴信号を収集して前記テスト画像を再構成することができるように前記テスト撮影用のシーケンスを作成するテスト撮影用シーケンス作成手段と、
を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記テスト撮影の対象となる被検体のECG信号を取得する心電図計測手段と、
前記ECG信号に前記テスト撮影用のシーケンスを同期させる心電同期手段と、
を設けたことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記テスト撮影用のシーケンスの実行により収集されたデータから前記テスト画像を再構成する画像再構成手段と、
前記テスト画像にインバージョンタイムの値を表示させるための付帯情報を付加する付帯情報表示手段と、
を設けたことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記IRパルス印加用スライス設定手段が、前記複数のスライスを前記イメージングスラブに対してそれぞれ実質的に垂直に設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記テスト撮影により決定された前記インバージョンタイムを用いて反転回復法による本撮影を実行するためのシーケンスを作成する本撮影用シーケンス作成手段を有することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
反転回復法による撮影におけるインバージョンタイムを決定するためのテスト画像を撮影するテスト撮影が可能な磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法において、
IRプリパルスを印加して縦磁化を反転させる複数のスライスを前記テスト画像のイメージングスラブの広さ方向に一致せず、かつ互いに交差するように設定するステップと、
前記複数のスライスに互いに異なるインバージョンタイムでそれぞれ前記IRプリパルスが印加され、かつ前記イメージングスラブからの核磁気共鳴信号を収集して前記テスト画像を再構成することができるように前記テスト撮影用のシーケンスを作成するステップと、
を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御信号作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−130062(P2006−130062A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322480(P2004−322480)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】