説明

磁気共鳴イメージング装置及びこの装置の磁場均一度調整方法

【課題】 超電導磁石の消磁や励磁回数を少なくして、超電導磁石のクエンチの防止および液体ヘリウムなどの寒剤の消費低減を図り、かつシミング調整工数の低減を可能にする。
【解決手段】 円筒状の超電導磁石3により、被検体が配置される円柱状ボア6に均一な静磁場を発生し、前記円柱状ボア6の内周軸方向に前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段を備える。この磁場調整手段は、所要の磁性体シム量を収納した複数の第1シムトレイ1aと、この第1シムトレイ1aの磁性体シム量よりも少ない磁性体シム量を収納した複数の第2シムトレイ1bと、を備え、これらのシムトレイを前記円柱状ボア6の軸中心より、ほぼ同一径の位置に、前記超電導磁石3の周方向に任意の角度間隔に配置する。そして、前記第1のシムトレイ1aを取り付け、前記超電導磁石3を励磁して静磁場の粗調整を行い、この励磁状態を保ったままで、前記第2シムトレイ1bを取り付けて静磁場の微調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴現象を利用して被検体の所望箇所を画像化する磁気共鳴イメージング装置(以下MRI装置という)に関し、特に撮像空間に所望の均一度の静磁場を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、均一の静磁場中の撮像空間に配置された被検体中の核スピンの磁気共鳴現象(以下、「NMR現象」と記す)から得られるNMR信号を計測し、被検体中の各スピン密度分布、緩和時間分布等を断層像として画像表示するものである。MRI装置の磁場発生源としては、前記静磁場を発生する静磁場発生装置と、NMR信号に位置情報を与えるための傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生装置とが用いられる。このとき静磁場発生装置が発生する静磁場の均一度が変動すると、これに重畳される傾斜磁場の直線性が劣化し、位置情報にずれが生じるため、画像上の歪みや欠損等を生じさせ、画像の正確さ、鮮明さを損なうことになり、診断上の大きな障害となる。このため、静磁場の均一度を保持することが非常に重要である。
【0003】
静磁場発生装置は、撮像空間に高均一であり長期間安定かつ高磁場が要求されるため、超電導磁石を使用するのが一般的となっている。さらに、超電導磁石としては、高磁場を発生するのに高効率である円筒形状の磁石が普及している。
【0004】
この円筒型超電導磁石の内部には、低温槽あるいは、液体ヘリウムまたはその他の低温寒剤を封入した低温容器内部に複数個の超電導コイルが配置されている。さらに、低温槽あるいは低温容器の外側には、外部からの熱侵入を断熱するための輻射シールドと真空層を有している。通常、低温槽あるいは低温容器には、低温を維持するための冷凍機が接続されている。
【0005】
また、超電導磁石には、磁場中心近傍の撮像空間において、例えば、磁場の最大値と最小値の差が3ppm以下の高均一な静磁場が要求される。しかし、実際には、超電動磁石の製作時の製作寸法誤差により、前記高均一な静磁場を得ることは困難である。さらに、超電導磁石からの漏洩磁場により超電導磁石周辺に配置されている建築建材の磁化や前記漏洩磁場を抑制するために設けられている磁気シールドなどの強磁性体の影響によっても、均一磁場は乱される(以下、磁場の乱れを不整磁場と称す)。このため、MRI装置用超電導磁石には、撮像空間の磁場を微細に調整する(以下、シミングと記す)手段が備えられている。
【0006】
シミングとは、円筒型超電導磁石の内周部に円柱状の空洞空間(以下、円柱状ボアと記す)を有し、この円柱状ボア内部のほぼ中心位置に、直径が約45〜50cmのほぼ球形である均一磁場空間の磁場均一性を調整する作業である。このシミングを行なうための一つの手段として、高透磁率の磁性材料からなる強磁性体のシム片(以下、磁性体シムと記す)を用いて行なうパッシブシミング手段が特許文献1に開示されている。この手段は、超電導磁石の発生磁場中において、適切な位置に適切な量の磁性体シムを配置し、磁性体シムの磁化により発生する磁場を用いて前記ほぼ球形である磁場空間の磁場の乱れを補正して磁場強度を均一にするものである。
【0007】
前記パッシブシミングは、一般に、幅が数cm、長さが数cm、厚さ画数mm〜数cmの薄板状の、鉄または電磁鋼板などの磁性体シムが用いられる。磁性体シムを収納するシムトレイは、樹脂などの非磁性材料から形成された短冊形状であり、磁性体シムを収納するための複数個のポケットを有している。各シムポケットに磁性体シムを収納したシムトレイは、円柱状ボアの開口側より、挿入され、円柱状ボア内部の、均一磁場空間の周辺に固定される。
【0008】
このとき、円柱状ボアの内周には、ある一定角度毎に、ほぼ均等間隔に、シムトレイを配置する。各シムポケットに配置する磁性体シムの厚さおよび枚数等を変えることで、均一磁場空間の磁場調整することが可能となる。
【0009】
前記シミングは、初めに、磁性体シムを取り付けない状態にて超電導磁石を励磁して、均一磁場空間の多数点における静磁場を計測し、静磁場の均一性を評価する。一般に、静磁場の均一性を示す磁場成分は、Legendre関数展開項を用いて表され、それぞれ各(n,m)項(m、nは0および正の整数)によって称される。このとき、(0,0)項が要求される均一成分であり、その他の項が静磁場の乱れを示す不整磁場成分である。さらに不整磁場成分のうち、m=0(n≠0)である展開項((n,0)項)は、円柱状ボアの中心軸に対し軸対称な磁場成分を有し、これは軸対称成分と称される。これに対して、m≠0(n≠0)である展開項(n,m)項)は非軸対称成分と称される。
【0010】
次に、前記展開項のうち不整磁場成分を可能な限り最小とするように、各シムトレイの各ポケットに配置する磁性体シムの配置位置および配置量を最適化計算により求める。この最適化計算結果に基づき、磁性体シムをシムトレイの各ポケットに配置する。このとき、各シムトレイには、通常、大量の磁性体シムが配置されるため、磁石が励磁状態にある場合、極めて強力な電磁吸引力が働くので、励磁状態のままでシムトレイを取り出して、前記最適化計算により求めたシム量を収容したシムトレイを所望の位置に配置した場合、磁場を調整する作業者の安全性を確保することは極めて困難なものとなる。このため、一旦、超電動磁石を消磁し、大量に磁性体を配置したシムトレイを超電導磁石に設けられたシムトレイ設置箇所に配置する。次に、再度、超電導磁石を励磁して、静磁場強度を計測し、静磁場強度の均一性を評価する。通常は、シムトレイに配置する磁性体シムの磁化のばらつきやシムトレイの製作誤差等に起因する最適化計算の計算精度の影響があるため、所望とする静磁場の均一性を得るには、複数回のシミングが必要となる。このため、再度、磁性体シムの配置量および位置を最適化計算し、超電導磁石の再消磁→磁性体シムの配置→超電導磁石の再励磁→磁場強度の再計測、を所望の静磁場の均一性を得るまで繰り返す。そして、所望の静磁場の均一性が得られたならば、この時の磁性体シム量を備えた各シムトレイを超電導磁石の設置箇所に配置して、シムング作業を終える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-289703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のように、パッシブシミングの過程において、各シムトレイには、磁性体シムが大量に配置されており、超電導磁石が励磁状態にあるときは、前記各シムトレイに強力な電磁吸引力が作用する。このため、磁性体シムの配置作業前、即ち、シミング時における各シムトレイの取り外し、取り付け作業時には、超電導磁石を消磁状態にし、磁性体シムに電磁吸引力が作用しないようにする必要がある。しかし、シミング過程中の消磁や励磁は、超電導磁石のクエンチおよび超電導磁石を超電導状態に保つための液体ヘリウムなどの寒剤を大量に消費する。
【0013】
一般に、超電導状態は、永久電流モードに入ると安定状態となるが、再励磁に際し、電流上昇時や永久電流スイッチの入り切り時などは不安定状態となり、超電導コイルに電流を給電するパワーリードの発熱などによりクエンチに繋がる可能性がある。また、励磁および消磁中は、以下の理由から、大量のヘリウム消費を伴う。すなわち、低温槽内部にある超伝導コイルに給電する際には、常温部から極低温部に接続するパワーリードが使用される。パワーリードには、銅などの導電材料が用いられるが、抵抗を有する銅などの導電材料は、通電中にジュール熱を発生する。このジュール熱によって、超電導コイルがクエンチを発生する場合があるので、極低温付近までパワーリードを冷却し、該パワーリードに用いる銅などの導電材料の抵抗率を十分に低くして前記ジュール熱を抑制する必要がある。
【0014】
前記パワーリードの冷却は、一般には、超電導コイルを冷却している液体ヘリウムなどの寒剤ガスを利用し、これをパワーリードの冷却ガスに使用する。このため、励磁および消磁の際には、寒剤をガス化、即ち蒸発させる。また、パワーリードは、常温部から極低温に接続されるが、数百アンペアの大電流を通電させるため、通電部の断面積を大きくする必要がある。しかし、通電部の断面積を大きくすると、常温部から極低温部に熱を伝達させやすい構造となって、励磁および消磁時には、極低温部の寒剤は蒸発する。
【0015】
このように、励磁および消磁の際には、極低温部の液体ヘリウムなどの寒剤が大量に消費されるので、励磁および消磁完了後には、大量の液体ヘリウムなどの寒剤を補充する必要がある。さらに、励磁完了後の注液に際して、誤って寒剤がガス化した高温のヘリウムなどが、超電導コイルに触れると、超電導コイルはクエンチしてしまい、再度、寒剤の補充、超電導コイルの冷却、励磁を繰り返す必要が生じる。また、前記超電導磁石のクエンチは、装置の据付工数増大の要因となって、据付工程が大幅に遅延し、顧客側が装置を一定期間使用できなくなる。さらに、液体へリウムなどの寒剤を大量に使用する励磁と消磁を繰り返すことは据付費用の増加にもつながる。
【0016】
以上の理由から、シミング過程における、磁性体シムの配置作業に伴う消磁および励磁の回数は最小限とすることが望ましい。しかし、その一方で、前記のように、シミングにおいては、シムトレイに配置する磁性体シムの磁化のばらつきや製作誤差や最適化計算の計算精度等の影響があるため、所望とする静磁場の均一度まで漸近させることが必要となり、複数のシミング回数が必須となっていた。
【0017】
そこで、本発明の目的は、シミング回数を少なくすることによって、超電導磁石の消磁や励磁回数を少なくして、超電導磁石のクエンチの防止および液体ヘリウムなどの寒剤の消費低減を図り、かつシミング調整工数の低減が可能な磁気共鳴イメージング装置及びこの装置の磁場均一度調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、所望の磁性体シム量を収納した第1のシムトレイと、この第1のシムトレイの磁性体シム量よりも少ない磁性体シム量を収納した第2のシムトレイと、の少なくとも二つのシムトレイを用いて、静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石の内周軸方向に前記第1のシムトレイを設置して静磁場を粗調整し、前記超電導磁石を励磁したままで前記第2のシムトレイを設置して静磁場の微調整を行うものである。これにより、超電動磁石の励磁、消磁回数を最小限にすることができ、具体的には以下の手段により達成される。
【0019】
(1)被検体が配置される円柱状ボアに均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、前記円柱状ボアの内周軸方向に前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段と、を備えた磁気共鳴イメージング装置において、前記磁場調整手段は、前記シムトレイが、前記円柱状ボアの軸中心より、ほぼ同一径の位置に、前記円柱状ボアの周方向に沿って複数配置され、かつ、前記シムトレイのうち、収納される磁性体シム量が異なる、少なくとも2種類以上のシムトレイを有し、前記シムトレイは、前記磁性体シムを収容する任意の幅、長さ、深さの分割した複数のポケット群を備えたものである。
【0020】
前記シムトレイは、所要の磁性体シム量を収納した複数の第1シムトレイと、この第1シムトレイの磁性体シム量よりも少ない磁性体シム量を収納した複数の第2シムトレイと、これらのシムトレイを前記円柱状ボアの軸中心より、ほぼ同一径の位置に、前記円筒形状の超電導磁石の周方向に任意の角度間隔に配置する第1のシムトレイ配置手段と、を備えたものである。
【0021】
このように構成された磁場の均一度は、所望の磁性体シム量を収納した第1のシムトレイを前記円柱状ボアの内周軸方向に取り付けて前記超電導磁石を励磁して静磁場の粗調整を行い、この励磁状態を保ったままで、すなわち消磁しないで前記第2シムトレイを設置して静磁場の微調整を行う。この場合、前記第2シムトレイの磁性体シム量は、取り付けの際に、安全上問題の無い電磁吸引力になる値に設定される。
【0022】
本発明による磁気共鳴イメージング装置は、前記シムトレイを以下のように種々変更しても良い。
【0023】
1)前記第2シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数の全部又はこれらのいずれかを、前記第1シムトレイのポケット群と異なる構成にして、前記第2シムトレイに前記第1シムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納する。
【0024】
2)前記第2シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第1シムトレイよりも磁性体シム量が少ない第3シムトレイを更に備え、前記第2シムトレイを配置する位置に該第2シムトレイの一部又は全部を前記第3シムトレイに置き換えて配置する。
【0025】
3)前記第1シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第2シムトレイよりも磁性体シム量が多い第4シムトレイを更に備え、前記第1シムトレイを配置する位置に該第1シムトレイの一部又は全部を前記第4シムトレイに置き換えて配置する。
【0026】
前記(1)の磁気共鳴イメージング装置は、被検体が配置されるボアが円柱形状の空洞空間の場合であるが、本発明は、被検体が感じる開放感に優れた楕円柱状ボアを備えた磁気共鳴イメージング装置にも適用することができる。
【0027】
(2)被検体が配置される楕円柱状ボアに均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、前記楕円柱状ボアの内周軸方向に前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段と、を備え、前記磁場調整手段は、前記シムトレイを、前記楕円柱状ボアの周方向に沿って複数配置され、かつ、前記シムトレイのうち、収納された磁性体シム量が異なる、少なくとも2種類以上のシムトレイを有し、前記シムトレイは、前記磁性体シムを収容する任意の幅、長さ、深さの分割した複数のポケット群を備えたものである。
【0028】
前記シムトレイは、前記複数のポケット群に、所要の磁性体シム量を収納した複数の第5シムトレイと、この第5シムトレイの磁性体シム量よりも少ない磁性体シム量を収納した複数の第6シムトレイと、これらのシムトレイを前記円筒形状の超電導磁石の周方向に任意の角度間隔に配置する第2のシムトレイ配置手段と、を備えたものである。
【0029】
このように構成された磁場の均一度は、所望の磁性体シム量を収納した第1のシムトレイを前記楕円柱状ボアの内周軸方向に取り付けて前記超電導磁石を励磁して静磁場の粗調整を行い、この励磁状態を保ったままで、すなわち消磁しないで前記第2シムトレイを設置して静磁場の微調整を行う。この場合、前記第2シムトレイの磁性体シム量は、取り付けの際に、安全上問題の無い電磁吸引力になる値に設定される。
【0030】
本発明による磁気共鳴イメージング装置は、前記シムトレイを以下のように種々変更しても良い。
【0031】
1)前記第6シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数の全部又はこれらのいずれかを、前記第5シムトレイのポケット群と異なる構成にして、前記第6シムトレイに前記第5シムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納する。
【0032】
2)前記第6シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第5シムトレイよりも磁性体シム量が少ない第7シムトレイを更に備え、前記第6シムトレイを配置する位置に該第6シムトレイの一部又は全部を前記第7シムトレイに置き換えて配置する。
【0033】
3)前記第5シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第6シムトレイよりも磁性体シム量が多い第8シムトレイを更に備え、前記第5シムトレイを配置する位置に該第5シムトレイの一部又は全部を前記第8シムトレイに置き換えて配置する。
【0034】
4)磁性体シムを収納する任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第9のシムトレイを更に備え、前記第5シムトレイ乃至第8シムトレイのいずれかのシムトレイが配置された前記楕円柱状ボアの広い領域である該楕円柱状ボアの上下方向の空き領域に前記第9のシムトレイ又は前記第5シムトレイを配置する。
【0035】
5)前記楕円柱状ボアの広い領域である該楕円柱状ボアの上下方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第10シムトレイを更に備え、前記楕円柱状ボアの上下方向に前記第10シムトレイを前記第5シムトレイに置き換えて配置又は前記第10シムトレイを該シムトレイの長手方向が前記楕円柱状ボアの略周方向に垂直になるように前記楕円柱状ボアの上下方向に配置する。
【0036】
6)前記楕円柱状ボアの広い領域である該楕円柱状ボアの上下方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第11シムトレイと、前記楕円柱状ボアの狭い領域である該楕円柱状ボアの左右方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第12シムトレイと、を更に備え、前記第11シムトレイを該シムトレイの長手方向が前記楕円柱状ボアの略周方向に垂直になるように前記楕円柱状ボアの上下方向に配置し、前記第12のシムトレイを該シムトレイの長手方向が前記楕円柱状ボアの略上下方向又は周方向に沿うように配置する。
【0037】
また、本発明による磁気共鳴イメージング装置の静磁場均一度の調整は、被検体が配置されるボアが円筒状の場合は、下記の(3)によって調整され、楕円筒状の場合は(4)によって調整される・
(3)被検体が配置される円柱状ボアに均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、前記円柱状ボアの内周軸方向に前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置の磁場の均一度を調整する方法であって、前記シムトレイは、前記円柱状ボアの軸中心より、ほぼ同一径の位置に、前記円柱状ボアの周方向に沿って、少なくとも、所要の磁性体シム量を収納する第1のシムトレイと、この第1のシムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納する第2のシムトレイと、備え、前記円柱状ボアの中心磁場強度が所望の磁場強度になるように前記超電導磁石を励磁して静磁場強度を計測する磁場計測工程と、この計測値に基づいて不整磁場成分を算出し、この不整磁場を粗調整するための前記第1のシムトレイに収納する磁性体シム量及びシムの配置位置を算出する磁場粗調整用磁性体シム算出工程と、前記超電導磁石を一時、消磁して、前記磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第1のシムトレイに収納して該第1のシムトレイを前記円柱状ボアに配置する第1シムトレイ配置工程と、前記超電導磁石を再度励磁して静磁場強度を計測し、この計測値に基づき、静磁場強度の微調整を行うための前記第2のシムトレイに収納する磁性体シムの量および配置位置を算出する磁場微調整用磁性体シム算出工程と、この磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第2のシムトレイに収納し、該第2のシムトレイを前記円柱状ボアに配置して前記静磁場の微調整を行う静磁場微調整工程と、を含む。
【0038】
(4)被検体が配置される楕円柱状ボアに均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、前記楕円柱状ボアの内周軸方向に前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置の磁場の均一度を調整する方法であって、前記シムトレイは、前記楕円柱状ボアの周方向に沿って、少なくとも、所要の磁性体シム量を収納する第1のシムトレイと、この第1のシムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納する第2のシムトレイと、備え、前記円柱状ボアの中心磁場強度が所望の磁場強度になるように前記超電導磁石を励磁して静磁場強度を計測する磁場計測工程と、この計測値に基づいて不整磁場成分を算出し、この不整磁場を粗調整するための前記第1のシムトレイに収納する磁性体シム量及びシムの配置位置を算出する磁場粗調整用磁性体シム算出工程と、前記超電導磁石を一時、消磁して、前記磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第1のシムトレイに収納して該第1のシムトレイを前記楕円柱状ボアに配置する第1シムトレ配置工程と、前記超電導磁石を再度励磁して静磁場強度を計測し、この計測値に基づき、静磁場強度の微調整を行うための前記第2のシムトレイに収納する磁性体シムの量および配置位置を算出する磁場微調整用磁性体シム算出工程と、この磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第2のシムトレイに収納し、該第2のシムトレイを前記楕円柱状ボアに配置して前記静磁場の微調整を行う静磁場微調整工程と、を含む。
【0039】
(5)そして、前記磁場微調整用磁性体シム算出工程と前記静磁場微調整工程は、所望の静磁場均一度が得られるまで行われる。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、所要の磁性体シム量を収納した第1のシムトレイと、この第1のシムトレイの磁性体シム量よりも少ない磁性体シム量を収納した第2のシムトレイと、の少なくとも二つのシムトレイを用い、円筒形状の超電導磁石の内周軸方向に配置した前記第1のシムトレイで静磁場を粗調整し、前記超電導磁石を励磁したままで前記第2のシムトレイを配置しで静磁場の微調整を行う。これにより、超電動磁石の励磁、消磁回数を最小限にすることができるので、超電導磁石のクエンチの防止および液体ヘリウムなどの寒剤の消費が少なくなり、かつシミング調整工数の低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による磁気共鳴イメージング装置の磁場空間が円柱状ボアの場合におけるシミング機構を備えた円筒型超電導磁石の概略構成図。
【図2】本発明に用いるシミング機構のシムトレイの構成図。
【図3】本発明による磁気共鳴イメージング装置の磁場空間が円柱状ボアの場合におけるシミング機構の他の実施例図。
【図4】本発明による磁気共鳴イメージング装置の均一磁場空間における磁場強度調整の工程図。
【図5】本発明による磁気共鳴イメージング装置の磁場空間が楕円柱状ボアの場合におけるシミング機構の実施例図。
【図6】本発明による磁気共鳴イメージング装置の磁場空間が楕円柱状ボアの場合におけるシミング機構の他の実施例図。
【図7】本発明による磁気共鳴イメージング装置の磁場空間が楕円柱状ボアの場合におけるシミング機構の他の実施例図。
【図8】本発明による磁気共鳴イメージング装置の磁場空間が楕円柱状ボアの場合におけるシミング機構の他の実施例図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明による磁気共鳴イメージング装置及びこの装置の磁場均一度調整方法の実施形態について図面に基づき説明する。
【0043】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置及びこの装置の磁場均一度調整方法を図1〜図4に基づき説明する。この磁気共鳴イメージング装置の超電導磁石は、高磁場を発生するのに高効率である円筒形状の超電導磁磁石である。この円筒型超電導磁石の概略構成図としての外観斜視図を図1に示す。
【0044】
図1において、円筒型超電導磁石3は、真空容器4の内部に収容された液体ヘリウムなどの寒剤を蓄えた極低温槽内(図示省略)にメインコイルである超電導コイル(図示省略)が収容され、軸方向(Z軸)5に沿った円筒型超電導磁石3の円柱状ボア6の内部空間に、ほぼ球形であり、被検者を撮像する撮像空間である概ね均一である磁場空間7を有する。円柱状ボア6に沿った真空容器4の内面には、円筒型超電導磁石3の周方向にほほ等角度間隔に設けられた穴(図示省略)に、複数の短冊形状の、磁性体シム量が異なる第1シムトレイ1aと第2シムトレイ1bとを有する複数のシムトレイ群1を挿入して着脱可能に固定する(第1の配置手段)パッシブシム機構を有している。なお、前記シムトレイ群1は、真空容器4の円柱状ボア6に収容される傾斜磁場コイル8内部に配置される場合もある。
【0045】
前記シムトレイ群1は、真空容器4の内面位置において、磁場調整時のシムトレイの取り付け、取り外し作業を容易に行うために、Z軸方向に滑らかに移動させることが可能な構造とすることが望ましく、Z軸方向に配置される磁性体シム量が異なる磁性体シムを収容する分割した複数のポケットを有する。前記シムトレイ群1は、例えば、図2に示すように、第1シムトレイ1aにおけるポケット群11aの幅、長さ、深さ、またはポケット数のいずれかが、第2シムトレイ1bにおけるポケット群11bより大きい寸法を有し、第1シムトレイ1aの磁性体シム量を第2シムトレイ1bの磁性体シム量より多くする。
【0046】
なお、図示はしないが、図1の第1シムトレイ1aより磁性体シム量の少ないシムトレイは第2シムトレイ1bに限定するものではなく、前記第1シムトレイ1aよりも磁性体シム量が少ないという条件を満たすものであれば、複数の第2シムトレイを備える構成でも良い。例えば、第2シムトレイ1bのポケット11b群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちの少なくともいずれかが異なるシムトレイを第3シムトレイとし、この第3シムトレイを前記第2シムトレイ1bに置き換えて配置する構成でも良いし、あるいは前記第2シムトレイ1bのうちの任意の位置に第3シムトレイを配置する構成でも良い。このように構成することにより、磁場の最適化計算に基づいて、より詳細な磁場調整が可能となり、磁場強度の均一性の向上、磁場調整作業工数低減に寄与するものとなる。
【0047】
同様に、第1シムトレイ1aの磁性体シム量が、前記第2シムトレイ1bの磁性体シム量よりも多いという条件を満たすものであれば、複数の第1シムトレイを備える構成でも良い。例えば、第1シムトレイ1aのポケット11a群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちの少なくともいずれかが異なるシムトレイを第4シムトレイとし、この第4シムトレイを前記第1シムトレイ1aに置き換えて配置する構成でも良いし、あるいは前記第1シムトレイ1aのうちの任意の位置に第4シムトレイを配置する構成でも良い。このように構成することにより、磁場の最適化計算に基づいて、より詳細な磁場調整が可能となり、磁場強度の均一性の向上、磁場調整作業工数低減に寄与するものとなる。
【0048】
このように、本発明の第1の実施形態は、磁性体シム量の多い第1シムトレイ1aを用いて空間磁場強度の粗調整を行い、この粗調整を行った第1シムトレイ1aに加えて、該第1シムトレイ1aよりも磁性体シム量の少ない第2シムトレイ1bを配置して、前記粗調整時よりも磁性体シム量を多くして、空間磁場強度の微調整を行うものである。
【0049】
このように構成された第2シムトレイ1bの各ポケットに収容する磁性体シム量を微調整して、磁場空間7の静磁場均一度を目標値となるように調整する。
これにより、微調整時には、磁性体シム量の少ないシムトレイを用いるので、このシムトレイに作用する電磁吸引力を小さくすることができる。したがって、超電導磁石を消磁しないで、すなわち励磁したままでシムトレイの取り外し、取り付けができるので、クウエンチを発生させることなく、磁場強度調整が可能となる。
【0050】
なお、図1には、シムトレイとして、16本の第1シムトレイ1aと16本の第2シムトレイ1bで構成された例を示しているが、これらの組み合わせは同数に限らず、第1シムトレイ1aの磁性体シム量が、第2シムトレイ1bの磁性体シム量よりも多いという条件を満たすものであれば、第2シムトレイ1bの本数を少なくし、ほぼ周方向にほぼ等間隔に配置してもよい。また、その逆に第2シムトレイ1bの本数を多くし、ほぼ周方向にほぼ等間隔に配置してもよい。図3は、前記実施形態のうち、20本の第1シムトレイ101aと12本の第2シムトレイ101bから構成された場合についての例である。
【0051】
次に、本発明による磁気共鳴イメージング装置のパッシブシム機構によるシミング工程について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0052】
(1)先ず、第1シムトレイ1a及び第2シムトレイ1bを配置しないで、均一磁場空間7の中心磁場強度が所望の磁場強度になるように、超電導磁石3を励磁する。(ステップS21)。
【0053】
(2)次に、図1に示した均一磁場空間7における磁場強度を計測する(ステップS22)。一般に、超電導磁石3の内部は、該超電導磁石3の製作上の誤差や設計上発生する誤差磁場、即ち不整磁場(不均一)成分を有する。このとき、例えば、直径30cmの球面上において、磁場強度の最大および最小のピーク値の差が数100ppmとなっているとすると、前記不整磁場成分を正確に計測するために、例えば静磁場空間の円弧方向に24点、それと直行する周方向に24点の合計586点の評価点における磁場を計測する。この計測結果に基づき、例えばLegendre関数展開項を用いて不整磁場成分を正確に計算する。
【0054】
(3)前記の計算結果に基づき、磁性体シムの量および配置位置を正確に算出する(ステップS23)。このとき、磁性体シムの配置は、第1シムトレイ1aのポケット群11aのみに配置するという制約条件を設定して、磁性体シムの配置位置を計算する。したがって、第2シムトレイ1bは配置しない。
【0055】
(4)次に、超電導磁石3を一時、消磁状態とする(ステップS24)。
【0056】
(5)第1シムトレイ1aのポケット群11aに磁性体シムを配置する(ステップS工程25)。
【0057】
(6)次いで、超電導磁石3を再度、励磁する(ステップS26)。
【0058】
(7)前記ステップS22と同様に、均一磁場空間7の磁場強度を計測する(ステップS27)。ここまでの第1シムトレイ1aを使用した工程、即ち磁場強度の粗調整により、例えば、直径30cmの球面上において、磁場強度の最大および最小のピーク値の差が数100ppmから数10ppmに小さくなって、静磁場均一度は向上する。
【0059】
(8)次に、ステップS27において計測した結果に基づき、第2シムトレイ1bに収納する磁性体シムの量および配置位置を正確に算出する(ステップS28)。
【0060】
このとき、磁性体シムの配置は、第2シムトレイ1bのポケット群11bのみに配置するという制約条件を設定して、磁性体シムの配置位置を計算する。したがって、計算時には第1シムトレイ1aは配置しなくても良いし、あるいは、配置した状態でも良い。
【0061】
本磁場強度の均一度の調整は、第1シムトレイ1aを配置し、超電導磁石3が励磁状態のままで、空間磁場の磁場強度の最大および最小のピーク値の差が目標とする値、すなわち磁場強度の均一度になるまで、第2シムトレイ1bの取り付け、取り外し作業を繰り返すので、この作業を安全に行えるようにするために、電磁吸引力が十分小さくなるよう、第2シムトレイ1bの磁性体シム量を十分少ない量に、予め設計しておく。さらに、第2シムトレイ1bの磁性体シム量は、例えば、直径30cmの球面上において、磁場強度の最大および最小のピーク値の差が数10ppmから目標値である数ppmまで補正可能となるよう、十分な磁性体シム量を有するように設計する。すなわち、第2シムトレイ1bの磁性体シム量は、電磁吸引力と磁場補正可能量が最適となるように設計する。
【0062】
このように、シムトレイ群1の第1シムトレイ1aの間にほぼ等間隔に第2シムトレイ1bを超電導磁石3の周方向に配置することにより、磁場均一度の補正可能量が第2シムトレイ1bのほうが少ないものの、第1シムトレイ1a群と第2シムトレイ1b群による調整可能な不整磁場成分は、ほぼ同種類となる。そこで、第1シムトレイ1a群による磁場強度の粗調整により残留する不整磁場成分の量を、第2シムトレイ1b群の補正可能量以下になるように設計することにより、原理上、規格値である目標とする静磁場均一度を達成することが可能になる。
【0063】
すなわち、第1シムトレイ1a群により粗磁場調整を行い、これに第2シムトレイ1b群を追加して残留する不整磁場成分を微調整する。
【0064】
(9)第2シムトレイ1bに前記ステップS28において算出した磁性体シムの量及び配置位置に基づき、磁性体シムを収納する(ステップS29)。
【0065】
(10)前記ステップS22およびステップS27と同様に、均一磁場空間の磁場強
度を計測する(ステップS30)。
【0066】
ここまでの第2シムトレイ1bを使用した磁場の微調整により、例えば、直径30cmの球面上において、磁場強度の最大および最小のピーク値の差が数10ppmから数ppmまで、静磁場均一度は向上している。
【0067】
(11)そして、例えば、空間磁場均一度が規格値(例えば3ppm)以内になるまで、工程S28、S29、S30を繰り返す(ステップS31、S32)。
【0068】
以上により、目標とする磁場強度の均一度を達成することができる。すなわち、従来のように、第1シムトレイ1aを取り外し、この第1シムトレイ1aよりもシム量の異なるシムトレイを取り付けるために、超電導磁石3を一時消磁し、前記第1シムトレイ1aとシム量異なるシムトレイを取り付け、再び超電導磁石3を励磁しなければならない。このため、クエンチが発生し、液体ヘリュウム等の寒剤の補給が必要となる。そこで、本発明は、前記のように、励磁状態のままで磁場強度を調整するために、第1シムトレイ1aを取り外さないで、第1シムトレイ1aよりも磁性体シム量が少ない第2シムトレイ1bを追加する。
【0069】
これにより、電磁吸引力が小さいままで、全体のシム量を多くすることができるので、磁場均一度を微調整することができる。
【0070】
このように、磁場調整中にクエンチのリスクや液体ヘリウムなどの寒剤の浪費
を伴う超電導磁石の消磁および励磁をすることなく、励磁したままで何度も微調整を繰り返すことにより、規格値以内の静磁場均一度を達成することが可能になる。さらに、シムトレイに配置する磁性体シムの磁化のばらつきおよび製作誤差に起因する最適化計算の計算精度の影響を、複数回の微調整により、最小限にすることが可能となり、規格値以内の高均一な静磁場空間を得ることが可能となって、得られるMRI画像を高画質なものとすることができる。
【0071】
また、粗調整を行う前記ステップS23において、第1シムトレイ1aのみでなく、第2シムトレイ1bも用い、この第2シムトレイ1bの収容シム量を、例えば第2シムトレイ1bに収容できる全収容量の半分の磁性体シム量とし、この磁性体シム量を第2シムトレイ1bに配置すべき位置および量を計算して、この計算で求めた磁性体シム量を第2シムトレイ1bに収容して前記第1シムトレイ1aと共に配置して磁場強度の粗調整を行う。そして、前記第2のシムトレイ1bに収容すべき残りの磁性体シム量の配置位置およびシム量を計算し(ステップS28)、この計算結果に基づく磁性体シム量の配置位置およびシム量を第2のシムトレイ1bに収納して(ステップS29)、磁場強度の微調整を行う。これにより、微調整作業が短縮されるので、よりシミング作業の収束性の向上を図ることができる。
【0072】
なお、ステップS28における第2シムトレイ1bの磁性体シム量を算出する際に、前回のシミングまでに配置した磁性体シム量を積算しておき、次回の磁性体シムの配置時において、第2シムトレイ1bの配置可能量を上回る場合、即ち励磁状態において第2シムトレイを着脱することが安全上問題となる場合は、一度消磁して、第1シムトレイ1aによる磁場強度の粗調整に戻るようにしてもよい。これにより、電磁吸引力による不慮の事故を防止して、シミング作業における安全性の向上を図ることが可能になる。
【0073】
さらに、第2シムトレイ1bには、非磁性体の着脱専用治具を使用することで、励磁状態において安全に着脱することが可能になる。
【0074】
また、さらに第1シムトレイ1aには大きな電磁吸引力が作用するので、超電導磁石3が励磁状態では第1シムトレイ1aの着脱を不可とする、前記着脱専用治具の取付けを不可とする構造にすることにより、さらにシミング作業の安全性の向上を図ることが可能になる。
【0075】
また、さらに、一度シミングを実施した後に、磁気シールドの追加工事や磁性体を有する超電導磁石周辺ユニットの追加および入り替など超電導磁石周辺の磁場環境に変化あった後に、静磁場均一度が変化し、規格値を超過する場合がある。このときは、前記パッシブシム機構によるシミング工程において、静磁場均一度を微調整する場合に、ステップS27からシミングを開始することで、消磁および励磁をせずに、容易に磁場強度の微調整が可能となり、磁場調整工数の低減に寄与するものとなる。
【0076】
以上の説明では、励磁状態で第2シムトレイ1bを配置して磁場の微調整を行なう例を説明したが、励磁せずに、第1シムトレイ1と第2シムトレイ1bの配置位置を計算で求めて配置した後に、励磁を行っても良い。
【0077】
≪第2の実施形態≫
上記図1の超電導磁石3は、被検者を配置する均一磁場空間が円柱状の空洞空間の場合であるが、本発明はこれに限定するものではなく、特開2001-327478号公報に開示されているような、均一磁場空間が楕円柱状の空洞空間を有する超電導磁石44を用いたMRI装置にも適用することができる。これは、図5に示すように、傾斜磁場コイル88を、被検者が配置されるメインコイル内部の、特に左右方向の空間を広げたもので、このような空間にすることにより被検者が感じる開放感を向上させることができる。
【0078】
以下、シムトレイ及びその配置について、楕円柱状の内部空間を有する楕円筒状の傾斜磁場コイルを用いた例について説明する。図5〜図8は、円柱状ボア66内に配置される傾斜磁場コイル88が、径方向内側に配置されて楕円筒状のメインコイル(図示省略)と、径方向外側に配置されて円筒状のシールドコイル(図示省略)とを組み合わせて成る場合に、メインコイルとシールドコイル間に、磁性体シム部材を、シムトレイに収容して配置する例である。
【0079】
このような構成においては、メインコイルとシールドコイル間の間隔は、上下方向が左右方向よりも広くなる。なお、逆に、左右方向が上下方向よりも広くなるように、楕円筒状のメインコイルと円筒状のシールドコイルとを組み合わせて傾斜磁場コイルを構成しても良い。
【0080】
図5は、円筒型超電導磁石33の周方向にほほ等角度間隔に設けられた穴(図示省略)に、複数の短冊形状の、磁性体シム量が異なる第5シムトレイ101aと第6シムトレイ101bとを有する複数のシムトレイ群を挿入して着脱可能に固定した(第2の配置手段)パッシブシム機構を有する、均一磁場空間が前記図3に示した円柱状の場合に対応した例である。すなわち、20本の第5シムトレイ101aと12本の第6シムトレイ101bから構成された場合についての例で、磁性体シム量の多い第5シムトレイ101aを用いて磁場強度の粗調整を行い、超電導磁石33を励磁したままで、前記第5シムトレイ101aよりも少ない磁性体シム量の第6シムトレイ101bを配置して、磁場強度の微調整を行う。これにより、被検体が感じる開放感の向上に適した超電導磁石の内部空間が楕円柱状となる場合においても、超電導磁石の内部空間が円柱状となる場合と同様の効果を得ることが可能になる。なお、図5の例では、シムトレイ数が第5シムトレイ101aの方が多い場合であるが、本発明は、この例に限定するものではなく、第5シムトレイ101aの磁性体シム量が、第6シムトレイ101bの磁性体シム量よりも多いという条件を満たすものであれば、第5シムトレイ101aと第6シムトレイ101bの本数はどのような組合せでも良い。
【0081】
なお、図5の変形例として、種々あるが、代表例として以下の(1)〜(3)を挙げておく。
【0082】
(1)前記第6シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数の全部又はこれらのいずれかを、前記第5シムトレイのポケット群と異なる構成にして、前記第6シムトレイに前記第5シムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納する。
【0083】
(2)前記第6シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第5シムトレイよりも磁性体シム量が少ない第7シムトレイを更に備え、前記第6シムトレイを配置する位置に該第6シムトレイの一部又は全部を前記第7シムトレイに置き換えて配置する。
【0084】
(3)前記第5シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第6シムトレイよりも磁性体シム量が多い第8シムトレイを更に備え、前記第5シムトレイを配置する位置に該第5シムトレイの一部又は全部を前記第8シムトレイに置き換えて配置する。
【0085】
前記図5の実施例において、上下方向のメインコイルとシールドコイル間に、第5シムトレイ101a及び第6シムトレイ101bを配置しても、該上下方向に空きが生じる。このため、左右方向の磁場強度の均一性に比べて上下方向の磁場強度の均一性が低下することが考えられる。そこで、図6に示すように、前記上下方向の空き領域に、例えば、4本の第5シムトレイ101aを配置することにより、磁場均一性を左右方向とほぼ同程度にすることができる。これにより、磁場調整時間の短縮を図ることができる。なお、図6の実施例は、第5シムトレイ101aのみを2層に配置する例であるが、第6シムトレイ101bのみ、或いは、第5シムトレイ101aと第6シムトレイ101bとを組み合わせて、2層に配置してもよい。例えば、図示は省略するが、前記上下方向の空き領域に配置した4本の第5シムトレイ101aの間に、第6シムトレイ101bを配置しても良い。
【0086】
あるいは、磁性体シムを収納する任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第9のシムトレイを更に備え、前記第5シムトレイ乃至第8シムトレイのいずれかのシムトレイが配置された前記楕円柱状ボアの広い領域である該楕円柱状ボアの上下方向の空き領域に前記第9のシムトレイを配置する。
【0087】
図7は、メインコイルとシールドコイル間の間隔に合わせて、前記第5シムトレイ101aよりも磁性体シム量の多い第10シムトレイ104aを配置する例を示す。この場合には、左右方向のメインコイルとシールドコイル間に配置される磁性体シム量よりも、上下方向のメインコイルとシールドコイル間に配置される磁性体シム量が多くなる。これにより、2層に配置とする必要がないので、パッシブシム機構を図6の配置例よりも簡素なものにすることができる。
【0088】
さらに、図8に、同じ形状・サイズのシムトレイの配置向きを、メインコイルとシールドコイル間の間隔に合わせて配置する例を示す。この例は、前記楕円柱状ボアの広い領域である該楕円柱状ボアの上下方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第11シムトレイと、前記楕円柱状ボアの狭い領域である該楕円柱状ボアの左右方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第12シムトレイと、を更に備え、前記第11シムトレイを該シムトレイの長手方向が前記楕円柱状ボアの略周方向に垂直になるように前記楕円柱状ボアの上下方向に配置し、前記第12のシムトレイを該シムトレイの長手方向が前記楕円柱状ボアの略上下方向又は周方向に沿うように配置する。このようにシムトレイを配置することにより、メインコイルとシールドコイル間には、効率良くシムトレイを配置することができるので、磁場強度の均一性の向上、磁場調整時間の短縮を図ることができる。
【0089】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態において、内部空間が楕円柱状の楕円筒型傾斜磁場コイルは、被検体が配置されるメインコイル内部の特に左右方向の空間を広げることができ、被検体が感じる開放感を向上させることができる。このような傾斜磁場コイルのメインコイルとシールドコイル間に、図5〜図8に示したように、磁性体シム部材を配置すれば、静磁場均一度を向上させることができる。特に、メインコイルとシールドコイル間の間隔の大きい部分に、その間隔に対応して、多くのシム部材を配置することにより、左右方向の空間を広げつつ、その広がった空間の静磁場均一度を向上させることが可能になる。
【符号の説明】
【0090】
1 シムトレイ群、1a 第1シムトレイ、1b 第2シムトレイ、3、33 超電導磁石、6 円柱状ボア、66 楕円柱状ボア、7 均一磁場空間、11a 第1シムトレイのポケット群、11b 第2シムトレイのポケット群、101a 第5シムトレイ、101b 第6シムトレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体が配置される円柱状ボアを有して、該円柱状ボア均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、前記円柱状ボアの周方向に前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段と、を備えた磁気共鳴イメージング装置において、前記磁場調整手段は、前記シムトレイが、前記円柱状ボアの軸中心より、ほぼ同一径の位置に、前記円柱状ボアの周方向に沿って複数配置され、かつ、前記シムトレイのうち、収納された磁性体シム量が異なる、少なくとも2種類以上のシムトレイを有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記シムトレイは、前記磁性体シムを収容する任意の幅、長さ、深さの分割した複数のポケット群を備えたことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記シムトレイは、所要の磁性体シム量を収納した複数の第1シムトレイと、この第1シムトレイの磁性体シム量よりも少ない磁性体シム量を収納した複数の第2シムトレイとを有し、これらのシムトレイを前記円柱状ボアの軸中心より、ほぼ同一径の位置に、前記円筒形状の超電導磁石の周方向に任意の角度間隔に配置するシムトレイ配置手段と、を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記第2シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数の全部又はこれらのいずれかを、前記第1シムトレイのポケット群と異なる構成にして、前記第2シムトレイに前記第1シムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納したことを特徴とする請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記第2シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第1シムトレイよりも磁性体シム量が少ない第3シムトレイを更に備え、前記第2シムトレイを配置する位置に該第2シムトレイの一部又は全部を前記第3シムトレイに置き換えて配置したことを特徴とする請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記第1シムトレイのポケット群の幅、長さ、深さ、またはポケット数のうちのいずれかが異なる前記第2シムトレイよりも磁性体シム量が多い第4シムトレイを更に備え、前記第1シムトレイを配置する位置に該第1シムトレイの一部又は全部を前記第4シムトレイに置き換えて配置したことを特徴とする請求項4又は5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
被検体が配置される円柱状ボアを有して該円柱状ボアに均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、
楕円状の断面を有するメインコイルと円状の断面を有するシールドコイルとを備えて成る傾斜磁場発生手段と、
前記メインコイルと前記シールドコイルとの間に配置され、前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段と、
を備え、
前記シムトレイは、収納される磁性体シム量又は形状が異なる、少なくとも2種類以上のシムトレイを有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記シムトレイは、前記磁性体シムを収容する任意の幅、長さ、深さの分割した複数のポケット群を備えたことを特徴とする請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記シムトレイは、前記複数のポケット群に、所要の磁性体シム量を収納した複数の第5シムトレイと、この第5シムトレイの磁性体シム量よりも少ない磁性体シム量を収納した複数の第6シムトレイと、これらのシムトレイを前記円筒形状の超電導磁石の周方向に任意の角度間隔に配置する第2のシムトレイ配置手段と、を備えたことを特徴とする請求項8に磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記メインコイルと前記シールドコイル間の幅の広い領域である上下方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第10シムトレイを更に備え、前記上下方向の間に前記第10シムトレイを前記第5シムトレイに置き換えて配置又は前記第10シムトレイを該シムトレイの長手方向が前記メインコイルの略周方向に垂直になるように前記上下方向の間に配置したことを特徴とする請求項9項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記メインコイルと前記シールドコイル間の幅の広い領域である上下方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第11シムトレイと、前記メインコイルと前記シールドコイルの狭い領域である左右方向の間隔に合わせた任意の幅、長さ、深さ、またはポケット数のポケット群を有する第12シムトレイと、を更に備え、前記第11シムトレイを該シムトレイの長手方向が前記メインコイルの略周方向に垂直になるように前記上下方向に配置し、前記第12のシムトレイを該シムトレイの長手方向が前記楕円柱状ボアの略上下方向又は周方向に沿うように配置したことを特徴とする請求項9に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
被検体が配置される円柱状ボアを有して、該円柱状ボアに均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、前記円柱状ボアの内周軸方向に前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段とを備えた磁気共鳴イメージング装置の磁場の均一度を調整する方法であって、前記シムトレイは、前記円柱状ボアの軸中心より、ほぼ同一径の位置に、前記円柱状ボアの周方向に沿って、少なくとも、所要の磁性体シム量を収納する第1のシムトレイと、この第1のシムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納する第2のシムトレイと、備え、前記円柱状ボアの中心磁場強度が所望の磁場強度になるように前記超電導磁石を励磁して静磁場強度を計測する磁場計測工程と、この計測値に基づいて不整磁場成分を算出し、この不整磁場を粗調整するための前記第1のシムトレイに収納する磁性体シム量及びシムの配置位置を算出する磁場粗調整用磁性体シム算出工程と、前記超電導磁石を一時、消磁して、前記磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第1のシムトレイに収納して該第1のシムトレイを前記円柱状ボアに配置する第1シムトレイ配置工程と、前記超電導磁石を再度励磁して静磁場強度を計測し、この計測値に基づき、静磁場強度の微調整を行うための前記第2のシムトレイに収納する磁性体シムの量および配置位置を算出する磁場微調整用磁性体シム算出工程と、この磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第2のシムトレイに収納し、該第2のシムトレイを前記円柱状ボアに配置して前記静磁場の微調整を行う静磁場微調整工程と、を含む磁気共鳴イメージング装置の磁場均一度調整方法。
【請求項13】
被検体が配置される円柱状ボアを有して該円柱状ボアに均一な静磁場を発生する円筒形状の超電導磁石による静磁場発生手段と、
楕円状の断面を有するメインコイルと円状の断面を有するシールドコイルとを備えて成る傾斜磁場発生手段と、
前記メインコイルと前記シールドコイルとの間に配置され、前記静磁場の均一度を調整する磁性体シムを収納したシムトレイによる磁場調整手段と、
を備えた磁気共鳴イメージング装置の磁場の均一度を調整する方法であって、前記シムトレイは、前記メインコイルの周方向に沿って、少なくとも、所要の磁性体シム量を収納する第1のシムトレイと、この第1のシムトレイよりも少ない磁性体シム量を収納する第2のシムトレイと、備え、前記円柱状ボアの中心磁場強度が所望の磁場強度になるように前記超電導磁石を励磁して静磁場強度を計測する磁場計測工程と、この計測値に基づいて不整磁場成分を算出し、この不整磁場を粗調整するための前記第1のシムトレイに収納する磁性体シム量及びシムの配置位置を算出する磁場粗調整用磁性体シム算出工程と、前記超電導磁石を一時、消磁して、前記磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第1のシムトレイに収納して該第1のシムトレイを配置する第1シムトレ配置工程と、前記超電導磁石を再度励磁して静磁場強度を計測し、この計測値に基づき、静磁場強度の微調整を行うための前記第2のシムトレイに収納する磁性体シムの量および配置位置を算出する磁場微調整用磁性体シム算出工程と、この磁場粗調整用磁性体シム算出工程で算出した磁性体シム量を前記第2のシムトレイに収納し、該第2のシムトレイを配置して前記静磁場の微調整を行う静磁場微調整工程と、を含む磁気共鳴イメージング装置の磁場均一度調整方法。
【請求項14】
前記磁場微調整用磁性体シム算出工程と前記静磁場微調整工程は、所望の静磁場均一度が得られるまで行われることを特徴とする請求項12又は13に記載の磁気共鳴イメージング装置の磁場均一度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−115480(P2011−115480A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277237(P2009−277237)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】