説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】呼吸動モニタ等のためにNMR信号を取得する領域が、撮像領域と重なる場合であっても、画質の劣化や呼吸周期等の検出能の低下を防ぐことのできるMRI装置を提供する。
【解決手段】撮像範囲301の複数のスライスについてNMR信号を順に取得する撮像動作と、所定の励起領域204を励起してNMR信号を検出するモニタ動作とを交互に繰り返し行う。撮像範囲301の一部がモニタ用励起領域204と重複する場合、モニタ動作の直前の撮像スライスおよび直後の撮像スライスとしては、モニタ用励起領域204とは重複しないスライスを選択する。これにより、重複領域を撮像動作とモニタ動作により連続励起することが避けられるため、連続励起によるNMR信号の変調を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸動をモニタしながら、撮像を行う磁気共鳴イメージング(以下、MRI)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置において被検体の画像を撮像する際に、呼吸性体動によるアーチファクトを防止するため、呼吸動を検出しながら撮像を行う方法がある。この撮像方法では、画像作成用の核磁気共鳴(NMR)信号の取得動作と、呼吸動モニタ用のNMR信号の取得動作とを1組にして繰り返し行う。取得された呼吸動モニタ用のNMR信号から横隔膜の位置を検出し、横隔膜の位置が予め定めた許容範囲内である場合には、同じ組で取得した画像作成用のNMR信号を画像再構成に使用する。また、冠状動脈等の心拍性体動のある部位を撮像する場合には、心電図波形に同期して画像作成用NMR信号の取得動作と呼吸動モニタ用NMR信号取得動作とを行うことにより、心拍性体動と呼吸性体動の両者を除去した画像を取得することが可能である。
【0003】
特許文献1には、心拍周期に同期して画像作成用NMR信号と呼吸動モニタ用NMR信号とを取得する撮像方法において、位相エンコード情報を変更するタイミングを心拍周期と呼吸周期とに基づいて最適化することにより、撮像時間の短縮を図ることが開示されている。
【特許文献1】特開平9−106864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
呼吸動モニタ用のNMR信号を取得するための励起領域204は、図9のように呼吸による横隔膜の移動範囲を含むように設定する必要がある。このため、励起領域204には、横隔膜に隣接する肝臓および肺の一部が含まれ、撮像領域701が肝臓全体、肺全体、または胸部全体等の場合、撮像領域701の一部にモニタ用励起領域204が重なる。撮像領域701とモニタ用励起領域204とが重なる部分は、短時間に呼吸動モニタ用NMR信号取得および画像作成用NMR信号取得動作により2回励起され、1回のみ励起された場合とは磁化の励起状態が異なる。このため、呼吸動モニタ用NMR信号取得と画像作成用NMR信号取得とをこの順に行う場合、短時間に2回の励起を受けるモニタ用励起領域204は、周辺領域とは異なるNMR信号強度を示し、再構成された画像の画質が劣化することがある。一方、画像作成用NMR信号取得と呼吸動モニタ用NMR信号取得とをこの順に行う場合には、モニタ用励起領域204で取得されるNMR信号が2回の励起の影響を受けるため、呼吸動の検出精度が低下する可能性がある。特許文献1に記載の技術では、モニタ用励起領域204が2回の励起を受けることは全く考慮されていない。
【0005】
本発明の目的は、呼吸動モニタ等のためにNMR信号を取得する領域が、撮像領域と重なる場合であっても、画質の劣化や呼吸周期等の検出能の低下を防ぐことのできるMRI装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によれば以下のようなMRI装置が提供される。すなわち、静磁場を発生する静磁場発生部と、傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部と、高周波磁場を発生する高周波磁場発生部と、被検体から発生する核磁気共鳴信号を検出する信号検出部と、傾斜磁場発生部と高周波磁場発生部と信号検出部とを制御して所定のパルスシーケンスを実行させる制御部とを有するMRI装置であり、パルスシーケンスは、所定の撮像範囲内の複数のスライスについて核磁気共鳴信号を順に取得する第1信号取得動作と、第1信号取得動作とは異なる目的で被検体の所定の励起領域を励起して核磁気共鳴信号を検出する第2信号取得動作とを交互に繰り返し行うものである。制御部には、第1信号取得動作における撮像範囲のスライス撮像順を定める撮像順決定部が配置されている。撮像順決定部は、撮像範囲の一部が第2信号取得動作の励起領域と重複する場合、第2信号取得動作時の時間的近傍における撮像スライスとして、第2信号取得動作の励起領域とは重複しないスライスを選択する。これにより、重複領域を第1および第2信号取得動作により連続励起することが避けられるため、連続励起によるNMR信号の変調を防止できる。
【0007】
上述の第1信号取得動作は、1回の動作で3以上のk枚のスライスについて順に核磁気共鳴信号を取得する動作であり、撮像順決定部は、第2信号取得動作の励起領域と重複するスライスを、第2番目から第k−1番目のいずれかで撮像するように撮像順に決定することにより、連続励起を避ける構成とすることができる。
【0008】
上述の第2信号取得動作は、体動をモニタするために前記励起領域から信号を取得する動作を用いることが可能である。
【0009】
上述の撮像順決定部は、例えば以下の(1)〜(4)の処理により撮像順を決定する構成にすることができる。
(1)第2信号取得動作の前記励起領域と重複するスライス領域を求め、
(2)撮像範囲の全スライス数nから、第1信号取得動作が1回の動作で信号を取得するスライス数aと、全スライスの信号取得に必要な繰り返し動作回数bを求め、
(3)第1〜第nスライスの第1スライスからb枚おきにa枚のスライスを順に選択することにより、第1回の第1信号取得動作で撮像する仮スライス撮像順を決定し、仮スライス撮像順の各スライスの位置を、前記(1)の処理で求めた前記重複スライス領域と全スライスの中央との距離gに相当するスライス数だけずらすことにより第1回の第1信号取得動作で撮像する真のスライス撮像順を決定し、
(4)前記(3)で求めた真のスライス撮像順を1スライスづつ順にずらすことにより、第2〜第b回の第1信号取得動作で撮像するスライス撮像順を決定する。
【0010】
また、撮像順決定部が定めたスライス撮像順を示す画面をディスプレイに表示する構成にすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照し説明する。
まず、第1の実施の形態のMRI装置の構成について図1を用いて説明する。第1の実施の形態のMRI装置は、撮像空間に静磁場を発生する静磁場発生装置101、患者などの被検体102を搭載し、撮像空間に配置するためのベッド103と、高周波磁場(RF)パルスを被検体102に印加し、核磁気共鳴(NMR)信号を検出するための高周波磁場(RF)コイル104、ならびに、撮像空間にX方向、Y方向、Z方向の傾斜磁場をそれぞれ発生させる傾斜磁場発生コイル105、106、107を有している。
【0012】
RFコイル104には、RFパルスを発生させるための高周波電流を供給する高周波電源108と、受信したNMR信号を増幅する増幅器114が接続されている。高周波電源108には、変調器113と、高周波信号を発振する発振器112が接続されている。増幅器114には、増幅後の信号をA/D変換し検波する受信器115が接続されている。受信器115が検出したNMR信号は、計算機118に受け渡される。計算機118は、内蔵するCPUが記憶媒体117に格納されている画像再構成プログラムを読み込んで実行することにより、受信器115から受け取ったNMR信号と、接続されている記憶媒体117に格納されている撮影条件などのデータとを参照して画像再構成を行う。再構成した画像は、計算機に接続されているディスプレイ119に表示される。また、傾斜磁場発生コイル105、106、107には、それぞれ電流を供給するための傾斜磁場電源109、110、111が接続されている。
【0013】
傾斜磁場電源109、110、111、発振器112、高周波電源108、増幅器114および受信器115は、これらの動作を制御するシーケンサ116に接続されている。計算機118は、記憶媒体117に予め格納されているパルスシーケンス作成プログラムを読み込んで実行することにより、所望の撮像方法を実現するために所定のタイミングで各部を動作させる撮像パルスシーケンスを作成し、シーケンサ116に受け渡す。また、計算機118内には、時空間マップ作成部118aが配置されており、撮像パルスシーケンスにおいて撮像するスライス順を定める時空間マップを作成する。時空間マップ作成部118aの動作について後で詳しく説明する。
【0014】
シーケンサ116は、計算機118から受け取った撮像パルスシーケンスに従って、各部に所定のタイミングで制御信号を出力して動作させ、パルスシーケンスを実現する。パルスシーケンスのパラメータとなる具体的な撮像条件は、予め設定された条件および入力部121によりオペレータより受け付けた条件を用いる。また、シーケンサ116には、被検体102である患者に取り付けられた心電計120が接続され、その出力信号を受け取っており、心拍周期に同期させてパルスシーケンスを行うことが可能である。
【0015】
パルスシーケンス実行時の各部の動作について簡単に説明する。入力部121を介してオペレータにより指定された撮影条件に従い、計算機118は撮像パルスシーケンスを作成し、シーケンサ116に受け渡す。シーケンサ116は、傾斜磁場電源109〜111に制御信号を送信し、傾斜磁場コイル105〜107により撮像空間に所望の方向の傾斜磁場を発生させる。同時に、発振器112および変調器113に命令を送信して所定の高周波磁場波形を生成させ、この波形を持つ電流信号を高周波電源108により生じさせ、高周波磁場コイル104に送る。これにより高周波磁場コイル104はRFパルスを発生し、被検体102に印加する。被検体102から発生したNMR信号は、高周波磁場コイル104により受信された後、増幅器114で増幅され、受信器115でA/D変換と検波が行われる。なお、心拍周期に同期させる場合には、心電計120からの信号に同期して、傾斜磁場の印加およびRFパルスの印加を行う。検波されたNMR信号は、計算機118において処理され、横隔膜位置の検出および画像再構成が行われ、画像再構成等の結果はディスプレイ119に表示される。
【0016】
本実施の形態の撮像パルスシーケンスのタイムチャートを図2(a)に示す。この撮像パルスシーケンスは、呼吸性体動によるアーチファクトを防止するために、呼吸周期モニタ用NMR信号取得動作(以下ナビゲートシーケンスと呼ぶ)201と、画像作成用NMR信号取得動作(以下撮像シーケンスと呼ぶ)202とをこの順番で一組として、周期Twで繰り返し行うシーケンスである。なお、図2(a)の撮像パルスシーケンスは、心電同期は行わない。
【0017】
ナビゲートシーケンス201の励起領域(以下ナビ用励起領域と称する)204は、図3に示した横隔膜206を含む領域であり、この領域のNMR信号を取得することにより横隔膜206の位置を検出する。一方、撮像シーケンス202の撮像領域301は、胸部全体であり、一部がナビ用励起領域204と重なっている。撮像領域301には、体軸方向にn枚のスライスが設定されている。撮像シーケンス202は、高速撮像方法によって、1周期Twで予め定めた複数枚(a枚)のスライスについて画像再構成に必要なk空間を全て埋めるNMR信号を取得する。よって、1周期の撮像シーケンス202でa枚のスライスについて画像再構成が可能になる。
【0018】
しかしながら、計算機118は、ナビゲートシーケンス201で取得したNMR信号から励起領域204内の横隔膜206の位置を検出し、検出した横隔膜206の位置が予め定めたゲートウインドウ207から外れている場合には、その周期Twの撮像シーケンス202で取得したNMR信号は破棄し、その周期Twで撮像したa枚のスライスの画像再構成には使用せず、横隔膜206の位置がゲートウインドウ207内に位置する場合にのみ、取得したNMR信号を画像再構成に使用する。従って、横隔膜206の位置がゲートウインドウ207内に位置する状態で、全てのスライスについてNMR信号が取得できるまで、図2(a)の撮像パルスシーケンスを繰り返し行う。
【0019】
なお、ナビゲートシーケンス201および撮像シーケンス202の撮像方法としては所望の撮像方法を用いることができるが、呼吸周期(5秒前後)を考慮すると周期Twは1秒以下に設定することが望ましい。このため、撮像シーケンス202の撮像方法としては、1秒間に枚数aのスライスについて撮像が可能な高速撮像方法を用いる。例えばエコプラナーイメージング法や高速グラディエントエコー法等を用いることができる。エコプラナーイメージング法を用いる場合には、傾斜磁場電源109〜111として傾斜磁場コイル105〜107への供給電流を高速反転させることが可能なものを用いる。なお、ここでは、1周期の撮像シーケンス202でa枚のスライスについて画像再構成に必要なk空間を全て埋めるNMR信号を取得する構成について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、1周期でa枚のスライスについてそれぞれk空間の一部分ずつNMR信号を取得し、数周期でk空間を埋めるように撮像することも可能である。
【0020】
このような撮像パルスシーケンスにおいて、撮像領域301は、ナビ用励起領域204と一部重なっているため、撮像領域301の第1〜第nスライスのうちナビ用励起領域204と重複するスライスは、連続して2回励起されると画質劣化、或いはナビゲート用NMR信号の精度低下が生じる可能性がある。そこで、本実施の形態では、計算機118に備えた時空間マップ作成部(撮像順決定部)118aが図4(a)のように撮像するスライスの順番を定めた時空間マップを予め作成し、この時空間マップにしたがって撮像パルスシーケンスを実行することにより、2回の励起の影響を解消する。
【0021】
図4(a)の時空間マップについて、具体的に説明する。この時空間マップは、ナビゲートシーケンス201の励起位置(励起領域204)とその励起タイミング、および、撮影シーケンス202の撮像スライス面とその励起タイミングを実線で示したものである。図4(a)において、左端に示した縦軸310は、被検体102の体軸方向を示す空間座標軸であり、図3に示した縦軸310と同様に、励起されるスライス面とナビ用励起領域204の位置を示す。一方、図4(a)の横軸は、時間軸である。なお、図4(a)では、撮像領域301の全スライス数n=15、ナビゲートシーケンスの励起領域204と重複するスライスは、第7スライスから第10スライスの4枚、1回の撮影シーケンス201で撮像されるスライス数5枚とした例を示している。
【0022】
本実施の形態では、図4(a)のように、ナビゲートシーケンス201の直前・直後に、ナビ用励起領域204と重なるスライス面(第7〜第10スライス)の撮影(励起)を避けるように時空間マップを作成している。すなわち、ナビゲートシーケンス201の直前および直後には、必ず、ナビ用励起領域204とは重ならないスライス面(第1〜6もしくは第11〜15スライス)を撮像し、ナビ用励起領域204と重なるスライス面は、ナビゲートシーケンス201から1スライス分の撮像時間以上離れたタイミングで撮像する。これにより、同じ領域をナビゲートシーケンス201と撮像シーケンス202により2回連続して励起することがないため、撮像シーケンス202で取得される画像の画質劣化や、ナビゲート信号の精度低下を防止することができる。
【0023】
比較例として、一般的な手法として、第1〜第10スライスを順に撮像していく場合の時空間マップを図4(b)に示す。図4(b)の時空間マップにおいては、ナビゲートシーケンス201の直前に、励起領域204と重複する第10スライスが撮像されるため、直後のナビゲートシーケンス201で取得されるナビゲート信号の精度低下の可能性がある。
【0024】
このように本実施の形態のMRI装置の撮像方法では、撮像の指示を受けた段階で、時空間マップ作成部118aが、同じ領域を2回連続して励起しないように予め時空間マップを作成する。計算機118による撮像手順は図5のフローチャートに示したようになる。まず、MRI装置の計算機118は、入力部121を介してユーザから呼吸動モニタを行う撮像の指示を受けた場合には、ステップ501において、ディスプレイ119に撮像条件の入力を促す画面等を表示し、ナビゲートシーケンス201の励起領域204の位置および撮像領域301およびそのスライス数Snの入力を入力部121を介して受け付ける。例えば、スライス数Snは、数値データとして入力され、位置決め用の被検体画像を用いて、被検体画像上でその位置合わせを行うことにより撮像領域301の設定を受け付ける。ナビ用励起領域204も同様に、位置決め用の被検体画像を用いて、その上で位置指定を受けることにより受け付ける。同時に、適用する撮像方法の種類(グラディエントエコー法かエコプラナーイメージング法か等)、RFパルスの繰り返し時間TR、取得エコー数等の撮像条件の設定も受け付ける。
【0025】
次のステップ502において、計算機118は、ユーザに選択を促す画面をディスプレイ119に表示し、2回連続励起することを避けるようにスライス撮像順番を最適化した時空間マップ(図4(a))に沿って撮像するか、もしくは、図4(b)に示した一般的なスライス順に撮像するか、ユーザの選択を受け付ける。ユーザが図4(a)のようにスライス撮像順番を調整した時空間マップでの撮像を選択した場合には、ステップ503に進む。ステップ503では、計算機118内の時空間マップ作成部118aが時空間マップを作成する。時空間マップ作成部118aは、計算機118とは別途備えることも可能であるが、本実施の形態では、計算機118内のメモリに格納された時空間マップ作成用プログラムを計算機118内のCPUが読み込んで実行することにより、時空間マップ計算部118aとして動作し、図4(a)のような時空間マップを作成する。
【0026】
ステップ503における時空間マップの作成動作を図6のフローを用いてさらに具体的に説明する。まず、図4(a)の時空間マップの縦軸(空間座標軸310)を決定する(ステップ601)。縦軸である空間座標軸310は2つの構成要素からなる。第1は撮影シーケンス202におけるスライス数Snおよびその範囲であり、第2はナビゲートシーケンス201における励起領域204の位置である。これらは図5のステップ502で受け付けた情報を用いて求める。すなわち、スライス数Snおよびその位置、ならびにナビゲートシーケンス202の励起領域204の位置から、ナビ用励起領域204と重なるスライスの枚数Smとその位置を求める。以上により、時空間マップの空間座標軸が決定される(ステップ601)。
【0027】
次に、横軸である時間軸を決定する(ステップ602)。このために、まず、ナビゲートシーケンス201の実行周期Twと、一周期Tw内の撮像シーケンス202で撮像するスライス数aと、全スライス数Snの取得が完了するまでの繰り返し回数bを導出する必要がある。一般的に呼吸周期は5秒前後であることから、撮像効率がよく、しかも、呼吸周期を精度良く検出するために、ナビゲートシーケンス201を500msから1秒の頻度で実行することが望ましい。周期Twは、Tn+Ts×aで表すことができる。ここでTnは、ナビゲートシーケンス201の実行に要する時間であり、Tsは、撮影シーケンス202において1スライスあたりの撮影時間Tsである。時間Tnおよび時間Tsは、それぞれ適用する撮像方法の種類、RFパルス繰り返し時間TR、取得エコー数などのステップ501で入力された撮影条件を予め定めておいた数式に代入することにより求める。求めた時間Tnおよび時間Tsを用いて、以下の式を満足する整数a、bの組み合わせを求める。これにより、スライス数aと、全スライス数Snの取得が完了するまでの繰り返し回数bを算出することができる。
0.5<Tn+Ts×a<1.0 かつ Sn/a=b
ただし、TnとTsの単位は秒である。なお、設定した全スライス数Snの値によっては、Sn/a=bの値を整数にすることができない場合もあり得るが、この場合は、繰り返し回数bの小数点以下を繰り上げ、整数にする。
【0028】
以上により、図4(a)の時空間マップの横軸(時間軸)が決定される。決定された空間座標軸と時間軸を用いて時空間マップを作成する。既に説明した様に、時空間マップ作成の目的は、ナビ用励起領域204と重なるスライス面を、ナビゲートシーケンス201の直前および直後の撮影シーケンス202で撮影しないことであり、これにより撮影シーケンスにおけるスライスの取得順序を最適化することである。以下、最適化を実現するデータ処理方法を、図6のフローチャートと図7の時空間マップ上の励起対象スライス位置とを対比させて説明する。
【0029】
まず、図7(a)のように第1スライスS1と第nスライスSnの中央位置を中心としてSm枚のスライス厚さの領域を設定し、これを仮のナビ用励起領域704とする。Smの値は、ステップ601で求めたナビ用励起領域204と重なるスライス枚数Smを用いる。つぎに、撮影シーケンス202において最初に撮影するスライスを第1スライスS1に設定し、以降、ステップ602で求めた繰り返し数bおきに、順番にa枚のスライスを選択し、これをこのナビゲートシーケンス201で順に撮像するスライスとして仮設定する。これにより、仮の時空間マップが一周期Tw分作成される(ステップ603)。これにより、例えばSn=15枚,Sm=4、a=5、b=3とすると、図7(a)のように第1,第4,第7,第10,第13スライスが仮スライスとして選択される。
【0030】
つぎに、ステップ603で定めた仮のナビ用励起領域704と、ステップ601で決定した真のナビ用励起領域204との距離gを算出する(ステップ604、図7(a))。
【0031】
ステップ603で設定した仮の時空間マップの仮の励起領域704と仮のスライスとの位置関係を保ったまま、図7(b)のように仮の励起領域704と仮のスライスの全体を空間座標軸方向に距離gだけ移動させ、仮のナビ用励起領域704を真のナビ用励起領域204と一致させる(ステップ605)。例えば距離gが、スライス厚1枚分である場合には、図7(b)のように一致後のスライス位置は、第2,第5、第8、第11、第14スライスとなる。これにより、繰り返し回数1回目の時空間マップが作成される。なお、距離gが大きく、移動後の先頭スライス又は最終スライスがスライスS1〜Snの範囲を超える場合、例えばgがスライス厚3枚分であり一致後のスライス位置は、第4、第7、第10、第13、第16スライスとなるような場合には、Sn=15を超えるスライスについて、そのスライス位置からSnを差し引く(16−Sn)を計算し、差し引き後のスライス位置(第1スライス)を選択する。
【0032】
つぎに、繰り返し回数1回目の時空間マップを用いて、2回目以降C回目では、各スライス位置に(C−1)を加えることにより、C回目の繰り返し回数の時空間マップを作成する(ステップ606)。例えば、繰り返し1回目のスライスが、図7(b)のように第2,第5、第8、第11、第14スライスである場合には、繰り返し2回目および3回目のスライスは、図7(b)のように第3、第6、第9、第12、第15スライスおよび第4、第7、第10、第13、第16スライスとなる。全スライス数Snを超えるスライス位置については、ステップ605と同様にSnを差し引き、差し引き後の位置とする。以上により、繰り返し回数bまでの時空間マップを作成する。
【0033】
図5のステップ505において、計算機118はステップ606で作成された時空間マップのスライス位置およびタイミングを、シーケンサ116に受け渡し、撮像パルスシーケンスを実行させる。計算機118は、取得されたナビゲートシーケンス201のNMR信号からナビ用撮像領域204の横隔膜の位置を検出し、横隔膜の位置が図2(a)のように所定のゲートウインドウ207内である場合には、その周期Twで取得した撮像シーケンス202で取得したNMR信号を画像再構成に使用し、ゲートウインドウ207から外れている場合にはそのNMR信号を廃棄する。全てのスライスの画像再構成のNMR信号が取得できるまで、時空間マップに従って繰り返し撮像パルスシーケンスを実行する。このとき計算機118は、図8のような被検体における撮像スライス位置とそのスライス撮像順序を示す画像を示し、最適化されたスライス順に撮像を行っていることをユーザに報知する。
【0034】
このようにナビ用励起領域204を含むスライス面を、ナビゲートシーケンス201の直前・直後には撮影しないことにより、2回の連続励起によって再構成画像およびナビゲート用信号のいずれかに影響が生じることを防止できる。よって、2回励起によるアーチファクトを防止した再構成画像を得ることができるとともに、呼吸動モニタを精度良く行うことができる。
【0035】
一方、図5のフローのステップ502において、ステップ502でユーザが撮像スライス順を最適化する撮像方法を望まなかった場合には、ステップ504に進み、図4(b)のようにスライス順通りに撮像を行う一般的なスライス撮像順の時空間マップを作成し、ステップ505ではそれに沿って撮像を行う。
【0036】
なお、ステップ604において距離gの大きさが、一スライスの整数分ではない場合、ステップ605において1スライス未満の端数の処理は、例えば繰り上げて1スライス分移動しても良いし、あるいは、端数相当の厚さ分、撮影領域301を移動してもよい。例えば、仮のスライス位置が図7(a)のように第1、第4、第7、第10、第13スライスである場合、距離gが0.5スライスである場合には、移動後のスライス位置は、第1.5スライスから第13.5スライスとなるが、これを繰り上げて図7(b)のように第2、第5、第8、第11、第14スライスに決定することができる。
【0037】
つぎに、第2の実施の形態のMRI装置について説明する。
上述した第1の実施の形態では、心電同期を行わず呼吸動モニタをする構成であったが、第2の実施の形態では、図2(b)のように心電計120から取得した信号のR波203に同期して遅延時間Td後にナビゲートシーケンス201と撮像シーケンス202を行う。第1の実施の形態で説明したように、ナビゲートシーケンス201の周期Twは1秒以下に設定されているので、R波からの遅延時間Tdを適切に設定することにより、一般的な心拍周期1秒に同期してナビゲートシーケンス201と撮像シーケンス202を実行することができる。これにより、呼吸性体動のみならず、心拍性体動によるアーチファクトを除去することができるため、冠状動脈等の撮像に適している。
【0038】
なお、心臓収縮期には撮像シーケンス202を行わず心臓拡張期にのみ撮像シーケンス202を実施する場合等、特定の心時相での撮像をユーザが望む場合には、1スライスあたりの撮影時間Tsと撮像スライス数aとを掛けたTs×aが、特定の心時相区間内に収まるように撮像スライス数aを設定する。この他の構成については、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
【0039】
なお、第1および第2の実施の形態においては、ナビゲートシーケンス201と撮像シーケンス202をこの順に一組として繰り返し行う構成であったが、撮像シーケンス202、ナビゲートシーケンス201の順に行う構成にすることも可能である。
【0040】
また、第1および第2の実施の形態においては、時空間マップ作成部118aが、ナビゲートシーケンス201の直前および直後の両方について、ナビ用励起領域204と重なるスライスの撮像を避けるように時空間マップを作成する例について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば心臓収縮期には撮像シーケンス202を行わない場合のように、撮像シーケンス202とその直後のナビゲートシーケンス201、または直前のナビゲートシーケンス201との間に時間が空いている場合には、時間を空けて行われるナビゲートシーケンス201と連続して撮像するスライスについては、ナビ用励起領域204を含むスライスの撮像を許容するよう時空間マップを作成する構成にすることも可能である。この場合、心臓収縮期等の時間が経過することにより、連続励起の影響が低減するためである。
【0041】
上述してきた実施の形態では、励起領域204を横隔膜の位置に設定する場合について説明したが、胸部・腹部の体脂肪を含む領域を励起領域204としてNMR信号を取得するナビゲートシーケンス201に対しても本発明を用いることができる。また、上述の実施の形態では、ナビゲートシーケンス201は、呼吸動をモニタするシーケンスであったが、ナビゲートシーケンス201に代えて、所定の領域204を励起するシーケンスであれば呼吸動モニタに限らず本発明を適用することができる。例えば、太い血管中の血液や脳脊髄液からのNMR信号を抑圧するプリサチュレーションシーケンスをナビゲーションシーケンスに代えて用いることができる。この場合、血液の緩和時間T1に基づきプリサチュレーションシーケンスの頻度を決定する。スライス順の決定等は、第1の実施の形態と同様の処理で決定することができる。このように、本発明によれば撮像シーケンスとそれ以外のシーケンスを併用し、かつ両方シーケンスでNMR信号を取得する撮像に適用することができ、両シーケンスで取得するNMR信号のS/N低下を防止する効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1の実施の形態のMRI装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】(a)は、第1の実施の形態のナビゲートシーケンス201および撮像シーケンス202のタイミングと横隔膜の変化との関係を示す説明図、(b)は、第2の実施の形態の心電図のR波203に同期させた場合のナビゲートシーケンス201および撮像シーケンス202のタイミングを示す説明図。
【図3】第1の実施の形態においてナビ用励起領域と撮像領域301との位置関係を示す説明図。
【図4】(a)は、第1の実施の形態で作成した最適化したスライス順の時空間マップを示す説明図、(b)はスライス順に撮像する一般的な撮像方法を時空間マップに示した説明図。
【図5】第1の実施の形態の撮像手順を示すフローチャート。
【図6】第1の実施の形態の図5のステップ503の時空間マップの作成手順を詳細に示すフローチャート。
【図7】(a)〜(c)は、第1の実施の形態の時空間マップの作成手順を示す説明図。
【図8】第1の実施の形態において、撮像手順が最適化されていることをユーザに示す画面の内容を示す説明図。
【図9】従来の呼吸動モニタを行う場合の励起領域204と撮像スライス205との関係を示す説明図。
【符号の説明】
【0043】
101・・・静磁場発生装置、102・・・被検体、103・・・ベッド、104・・・高周波磁場コイル(RFコイル)、105・・・X方向傾斜磁場コイル、106・・・Y方向傾斜磁場コイル、107・・・Z方向傾斜磁場コイル、108・・・高周波磁場電源、109・・・X方向傾斜磁場コイル、110・・・Y方向傾斜磁場コイル、111・・・Z方向傾斜磁場コイル、112・・・発振器、113・・・変調装置、114・・・増幅器、115・・・受信器、116・・・制御装置、117・・・記憶媒体、118・・・計算機、118a・・・時空間マップ作成部(撮像順決定部)119・・・ディスプレイ、120・・・心電計、121・・・入力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を発生する静磁場発生部と、傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部と、高周波磁場を発生する高周波磁場発生部と、被検体から発生する核磁気共鳴信号を検出する信号検出部と、前記傾斜磁場発生部と前記高周波磁場発生部と前記信号検出部とを制御して所定のパルスシーケンスを実行させる制御部とを有し、
前記パルスシーケンスは、所定の撮像範囲内の複数のスライスについて核磁気共鳴信号を順に取得する第1信号取得動作と、前記第1信号取得動作とは異なる目的で前記被検体の所定の励起領域を励起して前記核磁気共鳴信号を検出する第2信号取得動作とを交互に繰り返し行うものであり、
前記制御部は、前記第1信号取得動作における前記撮像範囲のスライス撮像順を定める撮像順決定部を有し、該撮像順決定部は、前記撮像範囲の一部が前記第2信号取得動作の前記励起領域と重複する場合、前記第2信号取得動作時の時間的近傍における撮像スライスとして、前記第2信号取得動作の励起領域とは重複しないスライスを選択することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記第1信号取得動作は、1回の動作で3以上のk枚のスライスについて順に核磁気共鳴信号を取得する動作であり、前記撮像順決定部は、前記第2信号取得動作の前記励起領域と重複するスライスを、第2番目から第k−1番目のいずれかで撮像するように撮像順を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気共鳴イメージング装置において、第2信号取得動作は、体動をモニタするために前記励起領域から信号を取得する動作であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記撮像順決定部は、
(1)前記第2信号取得動作の前記励起領域と重複するスライス領域を求める処理と、
(2)前記撮像範囲の全スライス数nから、前記第1信号取得動作が1回の動作で信号を取得するスライス数aと、全スライスの信号取得に必要な繰り返し動作回数bを求める処理と、
(3)第1〜第nスライスの第1スライスからb枚おきにa枚のスライスを順に選択することにより、第1回の第1信号取得動作で撮像する仮スライス撮像順を決定し、仮スライス撮像順の各スライスの位置を、前記(1)の処理で求めた前記重複スライス領域と全スライスの中央との距離gに相当するスライス数だけずらすことにより第1回の第1信号取得動作で撮像する真のスライス撮像順を決定する処理と、
(4)前記(3)で求めた真のスライス撮像順を1スライスづつ順にずらすことにより、第2〜第b回の第1信号取得動作で撮像するスライス撮像順を決定する処理
とを実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記撮像順決定部が定めたスライス撮像順を示す画面をディスプレイに表示することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−320527(P2006−320527A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146470(P2005−146470)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】