説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】画像のコントラストを向上し、画像品質を向上させる。
【解決手段】各イメージングシーケンスISの実施前に、ナビゲータエコーデータを得るナビゲータシーケンスNSを実施し、そのナビゲータエコーデータに基づいて呼吸運動による横隔膜の変位Nを検出する。そして、その検出された被検体の呼吸運動による変位Nが許容範囲AW内の場合に、撮影領域のイメージングデータを得るイメージングシーケンスISを実施する。その後、複数のイメージングシーケンスISにおいて得られた複数のイメージングデータのそれぞれを、そのイメージングデータのそれぞれを得た第1のイメージングシーケンスIS1と、その第1のイメージングシーケンスIS1の前に実施された第2のイメージングシーケンスIS2との時間間隔に対応した補正係数を用いて補正し、その補正した複数のイメージングデータからスライス画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置に関し、特に、静磁場空間内において被検体の撮影領域を励起するように被検体に電磁波を照射し、その被検体の撮影領域において発生する磁気共鳴信号を得るスキャンを実施した後に、そのスキャンの実施により得られる磁気共鳴信号に基づいて、被検体の画像を生成する磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置は、医療用途、産業用途などのさまざまな分野において利用されている。
【0003】
磁気共鳴イメージング装置は、静磁場空間内の被検体に電磁波を照射することにより、その被検体内のプロトンのスピンを核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)現象によって励起させ、その励起されたスピンにより発生する磁気共鳴(MR)信号を得るスキャンを実施する。そして、そのスキャンにより得られた磁気共鳴信号に基づいて、被検体の断層面についてのスライス画像を生成する。
【0004】
このように磁気共鳴イメージング装置を用いて被検体を撮影する際においてスキャン中に被検体が動いた場合には、生成したスライス画像に体動アーチファクトが発生する場合がある。たとえば、被検体の心臓や腹部を撮影する場合においては、呼吸運動や心拍運動などの体動によって、体動アーチファクトが発生し、画像品質が低下する。
【0005】
この体動アーチファクトの発生による画像品質の低下を防止するために、呼吸運動や心拍運動などの体動に同期させて撮影を実施する方法が提案されている(たとえば、特許文献1,特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−277010号公報
【特許文献2】特開2002−102201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような方法においては、たとえば、周期的な心拍運動による変位を心電信号として検出し、その心電信号に基づいて、被検体の心拍運動が特定の位相である時に、磁気共鳴イメージング装置が被検体を繰り返してスキャンする。このスキャンにおいては、まず、被検体の呼吸運動をモニターするために、たとえば、横隔膜を含む領域を選択的に励起して、ナビゲータエコーデータとしての磁気共鳴信号を得るナビゲータシーケンスを実施する。その後、このナビゲータシーケンスに続いて、スライス画像を生成するスライス位置からイメージングデータとしての磁気共鳴信号を得るイメージングシーケンスを実施する。ここでは、ナビゲータシーケンスによって得られた横隔膜の変位が予め設定した許容範囲(acceptance window)内である場合に、その後のイメージングシーケンスにより得られたイメージングデータをスライス画像のローデータとして選択し、順次、k空間を埋める。具体的には、被検体の心拍数が一般に毎分60回程度であるため、1000msec間隔の周期でナビゲータシーケンスとイメージングシーケンスとのそれぞれを実施してナビゲータエコーデータとイメージングデータとのそれぞれを取得し、ナビゲータエコーデータによる横隔膜の変位が予め設定した許容範囲内においてイメージングデータが取得された場合に、スライス画像の原料となるローデータとして、そのイメージングデータを選択する。そして、このローデータとして選択されたイメージングデータに基づいて、スライス画像を再構成する。
【0008】
しかしながら、被検体の心拍運動に同期するように1秒間隔の周期でRFパルスを発生させてイメージングデータを取得する場合においては、たとえば、血管のT1値が1300msec程度であるために、撮影領域内のプロトンの縦磁化が十分に回復せず、上記のようにして取得されるイメージングデータの信号強度が低くなる場合がある。このため、画像のコントラストが低下し、画像品質を向上させることが困難な場合があった。特に、冠状動脈を撮影する場合においては、この不具合が顕在化する場合があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、画像のコントラストを向上させ、画像品質を向上可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的の達成のために本発明の磁気共鳴イメージング装置は、静磁場空間内において被検体の撮影領域を励起するように前記被検体に電磁波を照射し、前記被検体の撮影領域において発生する磁気共鳴信号をイメージングデータとして得るイメージングシーケンスを複数実施するスキャン部と、前記スキャン部が前記イメージングシーケンスを実施することによって得られる前記複数のイメージングデータに基づいて、前記被検体の画像を生成する画像生成部とを有する磁気共鳴イメージング装置であって、前記被検体の体動による変位を周期的に検出する体動検出部を含み、前記スキャン部は、前記体動検出部によって検出された前記体動による変位が基準範囲内の場合に前記イメージングシーケンスを実施し、前記画像生成部は、前記スキャン部により実施された前記複数のイメージングシーケンスにおいて得られた前記複数のイメージングデータのそれぞれを、前記イメージングデータのそれぞれを得た第1のイメージングシーケンスと、前記第1のイメージングシーケンスの前に実施された第2のイメージングシーケンスとの時間間隔に対応した補正係数を用いて補正した後に、当該補正した複数のイメージングデータに基づいて、前記被検体の画像を生成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、画像のコントラストを向上させ、画像品質を向上可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下より、本発明にかかる実施形態の一例について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明にかかる実施形態において、磁気共鳴イメージング装置1の構成を示す構成図である。
【0014】
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置1は、スキャン部2と、操作コンソール部3とを有する。
【0015】
スキャン部2について説明する。
【0016】
スキャン部2は、図1に示すように、静磁場マグネット部12と、勾配コイル部13と、RFコイル部14と、クレードル15とを有しており、静磁場が形成された撮影空間B内において、被検体SUの撮影領域を励起するように被検体SUに電磁波を照射し、その被検体SUの撮影領域において発生する磁気共鳴信号を得るスキャンを実施する。
【0017】
本実施形態においては、スキャン部2は、後述の操作コンソール部3の体動検出部25によって検出された心電信号に基づいて、被検体SUの心拍運動が特定の位相である時に、被検体SUを繰り返してスキャンする。
【0018】
このスキャンにおいては、まず、被検体SUの呼吸運動をモニターするために、被検体SUにおいて横隔膜を含む領域を選択的に励起し、ナビゲータエコーデータとしての磁気共鳴信号を得るナビゲータシーケンスを実施する。その後、このナビゲータシーケンスに続いて、被検体SUにおいて冠状動脈を含む領域を撮影領域とするイメージングシーケンスを実施し、スライス画像を生成するためのイメージングデータとして、磁気共鳴信号を得る。詳細については後述するが、ここでは、ナビゲータシーケンスの実施によって得られたナビゲータエコーデータに基づいて体動検出部25が検出した呼吸運動による横隔膜の変位が、予め設定した基準範囲内である場合に、このイメージングシーケンスの実施をスキャン部2が行う。つまり、スキャン部2は、被検体SUの心拍運動が各周期において同じ位相であって、被検体SUの呼吸運動による横隔膜の変位が予め設定した基準範囲内である場合に、イメージングシーケンスを順次繰り返して実施する。
【0019】
スキャン部2の各構成要素について、順次、説明する。
【0020】
静磁場マグネット部12は、たとえば、一対の永久磁石により構成されており、被検体SUが収容される撮像空間Bに静磁場を形成する。ここでは、静磁場マグネット部12は、被検体SUの体軸方向に対して垂直な方向Zに静磁場の方向が沿うように静磁場を形成する。なお、静磁場マグネット部12は、超伝導磁石により構成されていてもよい。
【0021】
勾配コイル部13は、静磁場が形成された撮像空間Bに勾配磁場を形成し、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号に空間位置情報を付加する。ここでは、勾配コイル部13は、x方向とy方向とz方向との3系統からなり、撮像条件に応じて、周波数エンコード方向と位相エンコード方向とスライス選択方向とのそれぞれに勾配磁場を形成する。具体的には、勾配コイル部13は、被検体SUのスライス選択方向に勾配磁場を印加し、RFコイル部14がRFパルスを送信することによって励起させる被検体SUのスライスを選択する。また、勾配コイル13は、被検体SUの位相エンコード方向に勾配磁場を印加し、RFパルスにより励起されたスライスからの磁気共鳴信号を位相エンコードする。そして、勾配コイル部13は、被検体SUの周波数エンコード方向に勾配磁場を印加し、RFパルスにより励起されたスライスからの磁気共鳴信号を周波数エンコードする。
【0022】
RFコイル部14は、図1に示すように、被検体SUの撮像領域を囲むように配置される。RFコイル部14は、静磁場マグネット部12によって静磁場が形成される撮像空間B内において、電磁波であるRFパルスを被検体SUに送信して高周波磁場を形成し、被検体SUの撮像領域におけるプロトンのスピンを励起する。そして、RFコイル部14は、その励起された被検体SU内のプロトンから発生する電磁波を磁気共鳴信号として受信する。
【0023】
クレードル15は、被検体SUを載置する台を有する。クレードル部26は、制御部30からの制御信号に基づいて、撮像空間Bの内部と外部との間を移動する。
【0024】
操作コンソール部3について説明する。
【0025】
操作コンソール部3は、図1に示すように、RF駆動部22と、勾配駆動部23と、データ収集部24と、体動検出部25と、制御部30と、画像生成部31と、操作部32と、表示部33と、記憶部34とを有する。
【0026】
操作コンソール部3の各構成要素について、順次、説明する。
【0027】
RF駆動部22は、RFコイル部14を駆動させて撮像空間B内にRFパルスを送信させて高周波磁場を形成する。RF駆動部22は、制御部30からの制御信号に基づいて、ゲート変調器を用いてRF発振器からの信号を所定のタイミングおよび所定の包絡線の信号に変調した後に、そのゲート変調器により変調された信号を、RF電力増幅器によって増幅してRFコイル部14に出力し、RFパルスを送信させる。
【0028】
勾配駆動部23は、制御部30からの制御信号に基づいて、勾配パルスを勾配コイル部13に印加して駆動させ、静磁場が形成されている撮像空間B内に勾配磁場を発生させる。勾配駆動部23は、3系統の勾配コイル部13に対応して3系統の駆動回路(図示なし)を有する。
【0029】
データ収集部24は、制御部30からの制御信号に基づいて、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号を収集する。ここでは、データ収集部24は、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号をRF駆動部22のRF発振器の出力を参照信号として位相検波器が位相検波する。その後、A/D変換器を用いて、このアナログ信号である磁気共鳴信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0030】
本実施形態においては、データ収集部24は、スキャン部2が実施するイメージングシーケンスによってイメージングデータとして得られた磁気共鳴信号を、操作コンソール3のローデータ選択部26へ出力する。また、データ収集部24は、スキャン部2が実施するナビゲータシーケンスによってナビゲータエコーデータとして得られた磁気共鳴信号を、体動検出部25へ出力する。
【0031】
体動検出部25は、コンピュータと、コンピュータに所定のデータ処理を実行させるプログラムとを有しており、スキャン部2がイメージングシーケンスのそれぞれを実施する際に、被検体SUの体動による変位を検出するデータ処理を実施する。
【0032】
本実施形態において、体動検出部25は、被検体SUの心拍運動による変位を、心電計を用いて検出する。
【0033】
そして、これと共に、体動検出部25は、スキャン部2がイメージングシーケンスを実施する前において、被検体SUの体動による変位を周期的に検出する。ここでは、体動検出部25は、被検体SUの心拍運動の周期ごとであって、その心拍運動の各周期において同じ位相の時に、イメージングシーケンスの実施前の呼吸運動によって変化する被検体SUの横隔膜の変位を繰り返し検出する。具体的には、体動検出部25は、スキャン部2がナビゲータシーケンスを実施することによって得られたナビゲータエコーデータに基づいて、スキャン部2がイメージングシーケンスを実施する前に呼吸運動によって動いた横隔膜の変位を検出する。
【0034】
制御部30は、コンピュータと、コンピュータを用いて所定のスキャンに対応する動作を各部に実行させるプログラムとを有しており、各部を制御する。ここでは、制御部30は、操作部32からの操作データが入力され、その操作部32から入力される操作データに基づいて、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とのそれぞれに、所定のスキャンを実行させる制御信号を出力し制御を行うと共に、体動検出部25と画像生成部31と表示部33と記憶部34とへ制御信号を出力し制御を行う。
【0035】
画像生成部31は、コンピュータと、そのコンピュータに所定のデータ処理を実行させるプログラムとを有しており、制御部30からの制御信号に基づいて、被検体SUのスライスについてのスライス画像を再構成する。本実施形態においては、画像生成部31は、スキャン部2がイメージングシーケンスを実施することによって得られる複数のイメージングデータに基づいて、被検体SUのスライス画像を生成する。ここでは、画像生成部31は、スキャン部2により実施された複数のイメージングシーケンスにおいて得られた複数のイメージングデータのそれぞれを、イメージングデータのそれぞれを得た第1のイメージングシーケンスと、その第1のイメージングシーケンスの前に実施された第2のイメージングシーケンスとの時間間隔に対応した補正係数を用いて補正する。その後、その補正した複数のイメージングデータに基づいて、被検体SUのスライス画像を再構成する。そして、画像生成部31は、その再構成したスライス画像を表示部33に出力する。
【0036】
操作部32は、キーボードやポインティングデバイスなどの操作デバイスにより構成されている。操作部32は、オペレータによって操作データが入力され、その操作データを制御部30に出力する。
【0037】
表示部33は、CRTなどの表示デバイスにより構成されており、制御部30からの制御信号に基づいて、表示画面に画像を表示する。たとえば、表示部33は、オペレータによって操作部32に操作データが入力される入力項目についての画像を表示画面に複数表示する。また、表示部33は、被検体SUからの磁気共鳴信号に基づいて生成される被検体SUのスライス画像についてのデータを画像生成部31から受け、表示画面にそのスライス画像を表示する。
【0038】
記憶部34は、メモリにより構成されており、各種データを記憶している。記憶装置33は、その記憶されたデータが必要に応じて制御部30によってアクセスされる。
【0039】
以下より、上記の本発明にかかる実施形態の磁気共鳴イメージング装置1を用いて、被検体SUを撮像する際の動作について説明する。
【0040】
図2は、本実施形態において、被検体SUを撮像する際の動作を示すフロー図である。また、図3は、本実施形態において、被検体SUをスキャンする際のシーケンスを示すシーケンス図であり、横軸が時間軸tである。
【0041】
本実施形態においては、体動検出部25によって検出された心電信号に基づいて、被検体SUの心拍運動が特定の位相である時に、スキャン部2が被検体SUについてのスキャンSを繰り返し実施して磁気共鳴信号を取得する。具体的には、図3に示すように、体動検出部25によって検出された心電信号においてR波51を検出し、そのR波51を検出した時点t0から所定の遅延時間D1を経過後の心臓収縮期に対応した時点t1に、スキャン部2が被検体SUの胸部についてのスキャンSを周期的に繰り返して開始する。たとえば、1秒周期ごとに、このスキャンSを繰り返す。
【0042】
このスキャンSの実施においては、図2と図3とに示すように、まず、ナビゲータシーケンスNSの実施を行う(S11)。
【0043】
ここでは、被検体SUの呼吸運動をモニターするために、スキャン部2が、横隔膜を含む領域のスピンを選択的に励起し、ナビゲータエコーデータとしての磁気共鳴信号を得るナビゲータシーケンスNSをスピンエコー法に基づいて実施する。たとえば、このナビゲータシーケンスNSは、図3に示すように、R波51を検出した時点t0から所定の遅延時間D1を経過後の時点t1から、所定時間D2が経過した時点t2までの間において実施される。
【0044】
図4は、ナビゲータシーケンスNSを示すパルスシーケンス図である。図4においては、RFパルスRFと、x方向の勾配磁場Gxと、z方向の勾配磁場Gzと、y方向の勾配磁場Gyとを示している。なお、ここでは、縦軸が強度を示し、横軸が時間軸を示している。
【0045】
ナビゲータシーケンスNSの実施においては、まず、図4に示すように、90°パルスRF1と共に第1のx方向傾斜磁場Gx1を印加することによって、被検体SUにおいて横隔膜を含む第1のスライス面を選択的に90°励起する。その後、第2のx方向傾斜磁場Gx2を被検体SUに印加することによって位相を戻した後、180°パルスRF2と共に第3のx方向傾斜磁場Gx3と第1のz方向傾斜磁場Gz1とを印加することによって、横隔膜を含む領域において第1のスライス面と交差する第2のスライス面を180°励起する。そして、周波数エンコードするように第1と第2とのy方向勾配磁場Gy1,Gy2を印加し、被検体SUにおいて第1のスライス面と第2のスライス面とが交差する領域からの磁気共鳴信号MR1を、ナビゲータエコーデータとして取得する。
【0046】
そして、このナビゲータシーケンスNSの実施によってナビゲータエコーデータとして得られた磁気共鳴信号MR1を、データ収集部24が収集し、体動検出部25へ出力する。
【0047】
つぎに、横隔膜の変位Nが許容範囲AW内であるか判断する(S21)。
【0048】
ここでは、体動検出部25によって検出された被検体SUの横隔膜の変位N1が許容範囲AW内であるか否かを、制御部30が判断する。
【0049】
具体的には、まず、スキャン部2が上記のようにナビゲータシーケンスNSを実施することによって得られたナビゲータエコーデータに基づいて、スキャン部2がイメージングシーケンスISを実施する前に呼吸運動によって動いた横隔膜の変位N1を、体動検出部25が求める。ここでは、ナビゲータエコーデータを1次元逆フーリエ変換して、横隔膜を含む領域のプロファイルを生成し、そのプロファイルから横隔膜の変位N1を体動検出部25が求める。本実施形態においては、この生成したプロファイルにおいて、高信号強度の部分が腹部に相当し、低信号強度の部分が胸部に相当し、この腹部と胸部とを示す部分の境界部分が横隔膜に相当するために、この横隔膜に相当する境界部分が体軸方向において変化した位置を、体動検出部25が横隔膜の変位N1として求める。
【0050】
その後、この体動検出部25によって検出された被検体SUの横隔膜の変位N1と、予め定められた許容範囲AWの上下限値とを制御部30が比較処理することにより、許容範囲AW内であるか否かを判断する。
【0051】
図5は、本実施形態において、横隔膜の変位N1が許容範囲AW内か否かを判断する様子を示す図であり、横軸が時間軸tであり、縦軸が横隔膜の変位Nを示している。ここで、図5(a)は、横隔膜の変位N1が許容範囲AW内でない場合を示しており、図5(b)は、横隔膜の変位N1が許容範囲AW内である場合を示している。
【0052】
図5(a)に示すように、この横隔膜の変位N1が予め設定した許容範囲AW内でない場合(No)には、図2に示すように、イメージングシーケンスISを実施せずに、心拍運動の次の周期においてナビゲータシーケンスを実施する(S11)。
【0053】
一方で、図5(b)に示すように、この横隔膜の変位N1が予め設定した許容範囲AW内である場合(Yes)においては、図2に示すように、イメージングシーケンスISを実施する(S31)。
【0054】
ここでは、ナビゲータシーケンスNSに続いて、被検体SUにおいて冠状動脈を含む領域を撮影領域とするイメージングシーケンスを実施し、スライス画像を生成するためのイメージングデータとして、磁気共鳴信号を得る。たとえば、グラディエントエコー法によって、このイメージングシーケンスISを、スキャン部2が実施する。このイメージングシーケンスISは、図3に示すように、ナビゲータシーケンスNS1の実施が終了された時点t2から、所定時間D3が経過した時点t3までの間において実施される。そして、このイメージングシーケンスISの実施によってイメージングデータとして得られた磁気共鳴信号を、データ収集部24が収集する。
【0055】
このように、各スキャンSにおいて、ナビゲータシーケンスNSの実施によって得られたナビゲータエコーデータに基づいて体動検出部25が検出した呼吸運動による横隔膜の変位N1が予め設定した許容範囲AW内である場合には、図3の左側にて実線で示すように、イメージングシーケンスISの実施をスキャン部2が行う。一方で、各スキャンSにおいて、ナビゲータシーケンスNSの実施によって得られたナビゲータエコーデータに基づいて体動検出部25が検出した呼吸運動による横隔膜の変位N1が予め設定した許容範囲AW内でない場合には、図3の右側にて破線で示すように、イメージングシーケンスISをスキャン部2は実施しない。つまり、スキャン部2は、被検体SUの心拍運動が各周期において同じ位相であって、被検体SUの呼吸運動による横隔膜の変位が予め設定した基準範囲内である場合に、このイメージングシーケンスISを実施する。
【0056】
つぎに、図2に示すように、イメージングデータの取得完了の判断を実施する(S41)。
【0057】
ここでは、生成するスライス画像のマトリクスに対応するように、イメージングデータをデータ収集部24が収集したかどうかを、制御部30が判断する。たとえば、k空間において全ての位相エンコードステップに対応するようにイメージングデータを得たかどうかを判断する。そして、イメージングデータの全てをデータ収集部24が収集していない場合(No)には、上記の被検体SUのスキャンSを継続するように制御部30が各部を制御する。
【0058】
一方で、必要なイメージングデータの全てをデータ収集部25が収集して取得を完了した場合(Yes)には、図2に示すように、その取得したイメージングデータの補正を行う(S51)。
【0059】
ここでは、スキャン部2により実施された複数のイメージングシーケンスISにおいて得られた複数のイメージングデータIのそれぞれを、各イメージングデータIのそれぞれを得た第1のイメージングシーケンスIS1と、その第1のイメージングシーケンスIS2の前に実施された第2のイメージングシーケンスIS2との時間間隔qに対応した補正係数Rpqを用いて、画像生成部31が補正する。つまり、スキャン部2により実施された複数のイメージングシーケンスISのそれぞれにおいて縦磁化Mzが回復する時間が異なることに起因して発生する各イメージングデータIの信号強度のバラツキを、画像生成部31が補正する。
【0060】
図6は、縦磁化が回復する様子を示す図であり、縦軸が縦磁化の強度Mzであり、横軸が時間tを示している。
【0061】
図6に示すように信号取得後のプロトンの縦磁化は下記の数式(1)に従って回復するために、本実施形態においては、補正係数Rpqを以下の数式(2)のように定義し、第1のイメージングシーケンスIS1にて得られたイメージングデータIと補正係数Rpqとを数式(3)のように画像生成部31が積算処理を施して、補正したイメージングデータHを得る。なお、下記数式において、Mpは、第1のイメージングシーケンスIS1実施前の第2のイメージングシーケンスIS2にて励起された縦磁化の強度であって、図6に示すように、第1時点t1においてp秒間の回復時間が経過した後の縦磁化の強度を示している。そして、Mqは、第1のイメージングシーケンスIS1にて励起を開始する際の縦磁化強度であって、前述の第1時点t1後の第2時点t2においてq秒間の回復時間が経過した後の縦磁化強度を示している。また、Moは、初期磁化を示しており、T1は、撮像領域に含まれる動脈の縦緩和時間を示している。
【0062】
Mq=Mp・exp(−q/T1)+Mo・(1−exp(−q/T1))
・・・(1)
【0063】
Rpq=Mq/Mo
=[Mp・exp(−q/T1)+Mo・(1−exp(−q/T1))]/Mo
・・・(2)
【0064】
H=Rpq・I ・・・(3)
【0065】
つぎに、図2に示すように、スライス画像の生成を行う(S61)。
【0066】
ここでは、上記のようにして補正した複数のイメージングデータを用いて、被検体SUのスライス画像を画像生成部31が再構成する。そして、画像生成部31は、その再構成したスライス画像を表示部33に出力する。
【0067】
以上のように、本実施形態においては、静磁場空間内にて被検体SUの冠状動脈を含む撮影領域を励起するように被検体SUに電磁波を照射し、その被検体SUの撮影領域において発生する磁気共鳴信号をイメージングデータとして得るイメージングシーケンスISをスキャン部2が複数実施する。ここでは、各イメージングシーケンスISの実施前に、被検体SUの横隔膜を含む領域からの磁気共鳴信号をナビゲータエコーデータとして得るナビゲータシーケンスNSを、スキャン部2が実施し、そのスキャン部2がナビゲータシーケンスNSを実施することによって得られたナビゲータエコーデータに基づいて、体動検出部25が、呼吸運動による横隔膜の変位Nを検出する。そして、その体動検出部25によって検出された被検体SUの呼吸運動による変位Nが許容範囲AW内の場合に、被検体SUにおいて冠状動脈を含む領域を撮影領域とするイメージングシーケンスISを、スキャン部2が実施する。
【0068】
この後、スキャン部2がイメージングシーケンスISを実施することによって得られる複数のイメージングデータに基づいて、被検体SUのスライス画像を画像生成部31が生成する。ここでは、スキャン部2により実施された複数のイメージングシーケンスISにおいて得られた複数のイメージングデータのそれぞれを、そのイメージングデータのそれぞれを得た第1のイメージングシーケンスIS1と、その第1のイメージングシーケンスIS1の前に実施された第2のイメージングシーケンスIS2との時間間隔に対応した補正係数を用いて画像生成部31が補正する。そして、その補正した複数のイメージングデータに基づいて、被検体SUのスライス画像を画像生成部31が生成する。
【0069】
このため、本実施形態においては、被検体SUの呼吸運動に応じてイメージングシーケンスを実施してイメージングデータを取得することによって、撮影領域内のプロトンの縦磁化を十分に回復させることができると共に、イメージングシーケンスの実施の時間間隔に応じてイメージングデータを、完全に回復した縦磁化により得られる信号強度に近づくように補正するために、イメージングデータを高い信号強度のローデータとして取得することができる。したがって、本実施形態は、画像のコントラストを向上可能であって、画像品質を向上させることができる。
【0070】
なお、上記の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、本発明の画像診断装置に相当する。また、上記の実施形態のスキャン部2は、本発明のスキャン部に相当する。また、上記の実施形態の体動検出部25は、本発明の体動検出部に相当する。また、上記の実施形態の画像生成部31は、本発明の画像生成部に相当する。また、上記の実施形態の表示部33は、本発明の表示部に相当する。
【0071】
また、本発明の実施に際しては、上記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形例を採用することができる。
【0072】
たとえば、ナビゲータシーケンスの実施に際しては、スピンエコー法のほか、さまざまな撮像方法にて実施を行っても良い。
【0073】
また、たとえば、被検体の体動を検出する際においては、ナビゲータシーケンスの実施に限定されない。たとえば、呼吸運動においては、被検体の胸部にベルトを巻き、そのベルトの伸縮を検知することで、呼吸運動を検出しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明にかかる実施形態において、磁気共鳴イメージング装置1の構成を示す構成図である。
【図2】図2は、本実施形態において、被検体SUを撮像する際の動作を示すフロー図である。
【図3】図3は、本実施形態において、被検体SUをスキャンする際のシーケンスを示すシーケンス図であり、横軸が時間軸である。
【図4】図4は、本実施形態において、ナビゲータシーケンスNSを示すパルスシーケンス図である。
【図5】図5は、本実施形態において、横隔膜の変位N1が許容範囲AW内か否かを判断する様子を示す図である。
【図6】図6は、本実施形態において、縦磁化が回復する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1:磁気共鳴イメージング装置(磁気共鳴イメージング装置)
2:スキャン部(スキャン部)、
3:操作コンソール部、
12:静磁場マグネット部、
13:勾配コイル部、
14:RFコイル部、
15:クレードル、
22:RF駆動部、
23:勾配駆動部、
24:データ収集部、
25:体動検出部(体動検出部)
30:制御部、
31:画像生成部(画像生成部)、
32:操作部、
33:表示部(表示部)、
34:記憶部、
B:撮像空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場空間内において被検体の撮影領域を励起するように前記被検体に電磁波を照射し、前記被検体の撮影領域において発生する磁気共鳴信号をイメージングデータとして得るイメージングシーケンスを複数実施するスキャン部と、前記スキャン部が前記イメージングシーケンスを実施することによって得られる前記複数のイメージングデータに基づいて、前記被検体の画像を生成する画像生成部とを有する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記被検体の体動による変位を周期的に検出する体動検出部
を含み、
前記スキャン部は、前記体動検出部によって検出された前記体動による変位が基準範囲内の場合に前記イメージングシーケンスを実施し、
前記画像生成部は、前記スキャン部により実施された前記複数のイメージングシーケンスにおいて得られた前記複数のイメージングデータのそれぞれを、前記イメージングデータのそれぞれを得た第1のイメージングシーケンスと、前記第1のイメージングシーケンスの前に実施された第2のイメージングシーケンスとの時間間隔に対応した補正係数を用いて補正した後に、当該補正した複数のイメージングデータに基づいて、前記被検体の画像を生成する
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記体動検出部は、前記被検体の呼吸運動による変位を検出する
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記体動検出部は、前記被検体の心拍運動の周期ごとに、前記呼吸運動による変位を検出する
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記体動検出部は、前記被検体の心拍運動の各周期において同じ位相になるように、前記呼吸運動による変位を繰り返し検出し、
前記スキャン部は、前記被検体の心拍運動の各周期において同じ位相になるように、前記イメージングシーケンスを実施する
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記スキャン部は、前記被検体において冠状動脈を含む領域を前記撮影領域として前記イメージングシーケンスを実施する
請求項1から4のいずれかに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記スキャン部は、前記イメージングシーケンスの実施前に、前記磁気共鳴信号をナビゲータエコーデータとして得るナビゲータシーケンスを実施し、
前記体動検出部は、前記スキャン部が前記ナビゲータシーケンスを実施することによって得られた前記ナビゲータエコーデータに基づいて、前記体動による変位を検出する
請求項1から5のいずれかに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記スキャン部は、前記被検体において横隔膜を含む領域について前記ナビゲータエコーデータを得るように前記ナビゲータシーケンスを実施する
請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記画像生成部により生成された前記被検体の画像を表示画面に表示する表示部
を有する
請求項1から7のいずれかに記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−111188(P2007−111188A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304798(P2005−304798)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】