説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 造影Perfusion法において、撮像1回目の画像から安定した信号強度の画像を取得し、造影Perfusion解析手段に用いることができる手段を提供する。
【解決手段】 計測が開始されてから本撮像シーケンスが起動されるまでの間の期間をエコー信号を計測しない予備励起期間として設定できるようにし、同じ繰り返し時間間隔にて同じ高周波パルスを印加する。予備励起を行うことにより、本撮像シーケンスで取得される時系列画像の信号強度を安定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核磁気共鳴(以下、NMRと言う)現象を利用して被検体の任意断面を画像表示する磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置と言う)に関し、特に造影Perfusion撮像において計測開始直後からエコー信号を安定して計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
このようなMRI装置において、被検体に造影剤を注入して、造影剤による磁化率変化を介してT2*コントラストが強調された画像を取得する造影撮像が行われている。つまり、被検体に造影剤が注入されると、毛細血管に到達した造影剤が毛細血管の周囲組織の磁化率を変化させる。その結果、毛細血管の周囲組織に静磁場不均一が生じしてしまう。従って、T2*コントラストを強調するようなシーケンスを用いて毛細血管の周囲組織を撮像すれば、造影剤が滞留する期間に毛細血管の周囲組織からの信号強度が一時的に変化する。そこで、高速撮像シーケンスを用いてこの信号の変化を連続撮像し、画像のピクセル毎の信号変化を解析することにより局所領域の脳血流量、脳血液量、平均通過時間を求めて脳梗塞を診断することができ、この様な方法は造影Perfusion法(特許文献1)と言われている。造影Perfusion法では、連続信号計測が開始され画像再構成が開始された後に造影剤が投与される。
【特許文献1】特開2006-14753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように、造影Perfusion法では、高速撮像シーケンスを用いて連続撮像が行われるが、最初の数回の撮像では、生体組織の磁化が安定状態に到達しておらず信号強度が安定しない場合がある。造影Perfusion解析では、造影剤投与前の信号強度に対して、造影剤投与後の信号強度の変化を調べるため、造影剤投与前の信号強度の不安定は、解析結果に悪影響を及ぼす。このため、信号強度を解析する際には、信号強度の不安定な最初の数回の計測画像を取り除いてから解析を行う必要がある。しかし、このような処理は無駄であり煩雑であるので操作者の負担となっている。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、撮像一回目の画像から造影Perfusion解析に用いることができるような安定した信号強度の画像を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の磁気共鳴イメージング装置は、以下の様に構成される。即ち、
造影剤が注入された被検体の置かれる空間に一定の静磁場を与える静磁場発生手段と、前記被検体に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生手段と、前記被検体の撮像領域を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせる高周波磁場を照射する手段と、前記撮像領域から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信手段と、前記磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成演算する信号処理手段と、前記再構成演算により得られた画像を表示する画像表示手段と、所定のシーケンスに基づいて前記各手段を制御する制御手段と、を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記制御手段は、前記撮像領域から発生する核磁気共鳴信号を安定化させるための予備励起シーケンスを所定期間実行した後に、複数の画像を時系列で取得するための本撮像シーケンスを実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のMRI装置によれば、撮像一回目の画像から造影Perfusion解析に用いることができるような安定した信号強度の画像を取得することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0009】
最初に、本発明を適用したMRI装置の一実施例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1はMRI装置の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、核磁気共鳴(NMR)現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、図1に示すように、MRI装置は静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて構成される。
【0010】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0011】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0012】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0013】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力された高周波パルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調された高周波パルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0014】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
【0015】
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有し、受信系6からのデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0016】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0017】
なお、図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0018】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0019】
次に、以上のようなMRI装置において本発明の一実施例を図2,図3に基づいて説明する。
図2は、本実施例におけるシーケンスの一例として、Gradient EchoタイプのEcho Planner Imagingシーケンス(以下、EPIシーケンスと呼ぶ)を示す。このEPIシーケンスでは、高周波パルス101とスライス選択傾斜磁場パルス102が印加された後に、位相エンコードのオフセットを与える傾斜磁場パルス103と読み出し傾斜磁場パルスのオフセットを与える傾斜磁場パルス104が印加される。次に、位相エンコード傾斜磁場パルス105が離散的に印加されながら、交互に反転する読み出し傾斜磁場106の各周期内で発生するエコー信号108が各々の時間範囲107の間サンプリングされる。
【0020】
以上のEPIシーケンス109が少なくとも1回実行されて、画像再構成に必要なエコー信号群が計測される。このEPIシーケンス109が所定の繰り返し時間間隔(TR)毎に複数回連続して繰り返されて、複数の画像が時系列に取得される。そして、画像毎に所望の同一領域における信号強度が取得されて、その領域の信号強度の時間変化として計測される。
【0021】
図3に、連続して取得される画像の信号強度を安定化するための予備励起を行う例を示す。計測が開始されてシーケンスが起動されるタイミング110から、図2に示したEPIシーケンス109と同様の本撮像シーケンス113が開始されるまでの予備励起期間112に予備励起のための予備励起シーケンス111が実行される。この予備励起シーケンス111は、本撮像シーケンス113と同じ繰り返し時間間隔(TR)で同じ高周波パルスが印加されるシーケンスであれば良いがエコー信号は計測されない。好ましくは、本撮像シーケンスと同一とする。また、予備励起シーケンス111が実行される回数は、以下の(1)式により求めることができる。
予備励起を行う回数=(予備励起期間)/(繰り返し時間間隔(TR) (1)
以上の様に、本撮像開始前に予備励起が行われることにより、生体組織の磁化が安定状態になり、本撮像シーケンスで時系列に取得される複数の画像の信号強度が安定することになる。
【0022】
以上の本発明を適用して造影Perfusion法による造影Perfusion解析を行う場合は、(特許文献1)に記載されているように、例えば、所定の繰り返し時間間隔(TRは1000msec程度)でEPIシーケンスによる上記予備励起シーケンスを所定回数繰り返した後に、静脈から造影剤を急速注入する同時に、同じEPIシーケンスによる本撮像シーケンスを約60〜90sec間連続して行い(所謂、ダイナミック撮像)、撮像領域を連続して撮像して時系列に複数の画像を取得する。あるいは、造影剤は、予備励起シーケンス開始前又は途中から注入されても良い。これにより、本撮像時に取得される各画像の信号強度が安定するので、造影Perfusion解析を安定して行うことが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による磁気共鳴イメージング装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】GEタイプEPIシーケンスの一例。
【図3】予備励起シーケンスを実行する例。
【符号の説明】
【0024】
1 被検体、2 静磁場発生系、3 傾斜磁場発生系、4 シーケンサ、5 送信系、6 受信系、7 信号処理系、8 中央処理装置(CPU)、9 傾斜磁場コイル、10 傾斜磁場電源、11 高周波発信器、12 変調器、13 高周波増幅器、14a 高周波コイル(送信コイル)、14b 高周波コイル(受信コイル)、15 信号増幅器、16 直交位相検波器、17 A/D変換器、18 磁気ディスク、19 光ディスク、20 ディスプレイ、21 ROM、22 RAM、23 トラックボール又はマウス、24 キーボード、101 RF励起パルス、102 スライス選択傾斜磁場、103 位相エンコード傾斜磁場オフセット、104 読み出し方向傾斜磁場オフセット、105 位相エンコード傾斜磁場、106 読み出し方向傾斜磁場、107 サンプリング、108 エコー信号、109 繰り返し時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤が注入された被検体の置かれる空間に一定の静磁場を与える静磁場発生手段と、前記被検体に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生手段と、前記被検体の撮像領域を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせる高周波磁場を照射する手段と、前記撮像領域から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信手段と、前記磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成演算する信号処理手段と、前記再構成演算により得られた画像を表示する画像表示手段と、所定のシーケンスに基づいて前記各手段を制御する制御手段と、を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記制御手段は、前記撮像領域から発生する核磁気共鳴信号を安定化させるための予備励起シーケンスを所定期間実行した後に、複数の画像を時系列で取得するための本撮像シーケンスを実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−252449(P2007−252449A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77919(P2006−77919)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】