説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】SSFPを利用して流れる物質のMR画像を取得することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段および画像生成手段を有する。データ収集手段は、同一のフリップ角αおよび一定のTRで複数の励起パルスを印加し、TR内における傾斜磁場SS,PE,RO並びにTEまでにおけるスライス選択用傾斜磁場SSおよびリードアウト用傾斜磁場RO、エコーが生成される中心時刻から次の励起パルスの印加時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場SSおよびリードアウト用傾斜磁場ROの各0次モーメントがそれぞれゼロとなり、かつTR内におけるスライス選択用傾斜磁場SSおよびリードアウト用傾斜磁場ROの少なくとも一方の1次モーメントがゼロでない値となるように傾斜磁場SS,PE,ROを印加し、磁気共鳴データを収集する。画像生成手段は、磁気共鳴データに基づいて画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR:nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に係り、特に、定常状態自由歳差運動(SSFP: Steady State Free Precession)を利用して流れる物質の磁気共鳴(MR: magnetic resonance)画像を取得する磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するNMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングの分野において、定常状態自由歳差運動(SSFP: Steady State Free Precession)を用いた撮像法が知られている。SSFPを利用した高速撮像シーケンスの代表例としては、TrueFISP (fast imaging with steady precession)と呼ばれるシーケンスがある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図1は、従来のTrueFISPシーケンスを示すシーケンスチャートである。
【0005】
図1に示すように従来のTrueFISPシーケンス等のSSFPシーケンスは、同一の励起角度(フリップ角)αでRF励起パルスを一定かつ短い繰り返し時間(TR: repetition time)で印加し、磁化を定常状態にすばやく至らしめるものである。ここで、傾斜磁場は、0次モーメント(時間積分)がゼロとなるように調整されている。また、リードアウト軸方向の傾斜磁場は極性が複数回反転するように制御される。この結果、得られるエコー信号は高いsignal to noise ratio(SNR)を有し、信号強度Sは式(1)で示されるように組織の緩和時間に依存する。
[数1]
S∝1/(1+T1/T2) (1)
【0006】
尚、式(1)は、励起角度αが90度の場合における関係式である。また、T1およびT2はそれぞれ組織の縦緩和時間および横緩和時間である。式(1)に示すようにSSFPシーケンスで得られる信号の強度Sは組織の緩和時間比T1/T2に依存している。このため、心臓のシネ画像をSSFPシーケンスの適用対象とすることがコントラストの観点から最も効果的であることが知られている。また、腹部の血管系の撮像へのSSFPシーケンスの有効性も指摘されている。そして、SSFPシーケンスを用いれば、造影剤を使用することなく血管を描出できることができることから、血管の撮像分野においてSSFPシーケンスが注目されている。
【0007】
ところで、SSFPシーケンスに必要とされる要件には、前述のように傾斜磁場のゼロ次モーメントがゼロになるという要件の他に、RFパルスの位相に関する要件がある。RFパルスの位相に関する最も単純な制御要件は、連続するRFパルスの位相が0度と180度(π radian)を交互に繰り返すというものである。
【0008】
図2は、従来のSSFPシーケンスを用いたスキャンにおける磁化の変化を示す図である。
【0009】
連続するRFパルスの励起角度をαとなるように角度制御し、かつRFパルスの位相が0度と180度を交互に繰り返すように位相制御を行うと、図2に示すベクトル表現のように、磁化の状態は状態(A)と状態(B)とを交互に繰り返す状態となる。
換言すれば、
励起角度 :α, α, α, …
励起パルスの位相:0°, 180°, 0°, …
磁化の状態:(A), (B), (A), …
となるように励起パルスの位相が制御される。
【0010】
図2に示すように、定常状態に至った磁化は静磁場方向からα/2だけずれた状態(A)となる。この磁化の状態(A)において、励起パルスの位相を180°変えて印加すると、磁化の状態は状態(A)から状態(B)に変化する。さらに、磁化の状態(B)において、励起パルスの位相を180°変えて印加すると、磁化の状態は状態(B)から再び状態(A)に戻る。
【0011】
このように、連続する励起パルスの位相を180°変化させることにより、定常状態が効果的に保たれることが分かる。また、このような励起パルスの位相制御により、熱平衡状態にある磁化を定常状態に移行させるために要する時間も短くなることが知られている。
【0012】
SSFPシーケンスは、血流のような流れる物質が存在する部位の撮像にも適用されるが、撮像領域に流れる物質が存在する場合には、特別な配慮がなされる。すなわち、式(2-1)および式(2-2)に示すように、傾斜磁場の0次モーメントがゼロとなるのみならず、傾斜磁場方向に流れる磁化が位相シフトを受けないように、傾斜磁場の1次モーメントもゼロとなるように傾斜磁場が制御される。
[数2]
∫Gdt=0 (2-1)
∫Gtdt=0 (2-2)
ただし、Gは傾斜磁場の強度、tは時間を示す。
【0013】
図3は、従来から知られている位相シフトを説明する図である。
【0014】
図3(a)は、印加される傾斜磁場を示し、図3(b)は、図3(a)に示す傾斜磁場の印加方向に流れる物質における磁化の時間的な位相変化を示す図である。
【0015】
図3に示すように印加される傾斜磁場によって傾斜磁場方向に流れる物質の磁化の位相は変化し、いわゆる位相シフトを受ける。このため、図2に示すような定常状態が維持されないことは明白である。
【0016】
そこで、従来のSSFPシーケンスでは、このような位相シフトを回避して定常状態が維持されるように傾斜磁場が決定される。
【0017】
図4は、従来のSSFPシーケンスにおいて印加される傾斜磁場と傾斜磁場方向に流れる物質の磁化の位相との関係を示す図である。
【0018】
図4(a)は、従来のSSFPシーケンスにおいて印加される傾斜磁場を示し、図4(b)は、図4(a)に示す傾斜磁場の印加方向に流れる物質における磁化の時間的な位相変化を示す図である。
【0019】
図4(a)に示すように、0次モーメントおよび1次モーメントがゼロとなるように傾斜磁場を印加すると、傾斜磁場の印加方向に流れる物質の磁化は図4(b)に示すような位相シフトを受ける。しかし、印加される傾斜磁場の1次モーメントがゼロであることから、図4(b)に示すように位相シフトが相殺されて結果的には流れる物質における磁化には位相シフトが起こらない。
【0020】
このように図3および図4に示す傾斜磁場の0次モーメントは共にゼロであるが図3に示すような傾斜磁場を印加すれば位相シフトが起こる一方、図4に示すような傾斜磁場を印加すれば位相シフトが起こらないことが分かる。つまり、上述したような従来のSSFPシーケンスにおいて、流れる物質の位相シフトを起こさないためには、傾斜磁場の0次モーメントおよび1次モーメントがともにゼロであることが必要である。
【0021】
このため、従来のSSFPシーケンスは、流れる物質の磁化に位相シフトが起こらないように、上述したような種々の条件が満たされるように、注意深く組み立てられる。この結果、臓器のような静止した物質の磁化とともに、血流のような流れる物質の磁化も良好なSNRで描出することが可能である。
【特許文献1】米国特許第4769603号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、従来のSSFPシーケンスによる撮像で得られる画像は、血流等の流れる物質と臓器が重なった画像となる。このため、血流や血管のみに注目する場合には、流れる物質と臓器とが混在していることから血流や血管と臓器とを見分けるのが困難になる恐れがあるという問題がある。
【0023】
また、従来のSSFPシーケンスでは、臓器等の静止している物質の磁化は効果的に定常状態を維持するが、傾斜磁場の制御が不十分であると、流れている物質の磁化の定常状態を良好に維持できない場合があるという問題もある。
【0024】
このため、SSFPを利用して血管や血流等の流れる物質のみを画像化する技術が求められる。
【0025】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、SSFPを利用して流れる物質のMR画像を取得することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、上述の目的を達成するために、同一のフリップ角および一定の繰り返し時間で複数の励起パルスを印加し、前記繰り返し時間内における傾斜磁場並びに励起パルスの印加時刻からエコーが生成される中心時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場、エコーが生成される中心時刻から次の励起パルスの印加時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の各0次モーメントがそれぞれゼロとなり、かつ前記繰り返し時間内におけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の少なくとも一方の1次モーメントがゼロでない値となるように前記傾斜磁場を印加することによって被検体内の流れる物質における核磁気スピンの定常状態自由歳差運動を得るための撮影条件に従って磁気共鳴データを収集するデータ収集手段と、前記磁気共鳴データに基づいて前記流れる物質の画像を生成する画像生成手段とを有するものである。
【0027】
また、本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、上述の目的を達成するために、同一のフリップ角および一定の繰り返し時間で複数の励起パルスを印加し、前記繰り返し時間内における傾斜磁場並びに励起パルスの印加時刻からエコーが生成される中心時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場、エコーが生成される中心時刻から次の励起パルスの印加時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の各0次モーメントがそれぞれゼロとなり、かつ前記繰り返し時間内におけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の少なくとも一方の1次モーメントがゼロでない値となるように前記傾斜磁場を印加することによって被検体内の流れる物質における核磁気スピンの定常状態自由歳差運動を得るための撮影条件のうち、隣接する励起パルスの送信位相の差を変えてプレスキャンを実行することによって互に異なる複数の送信位相の差に対応する複数の磁気共鳴データを収集するプレスキャン手段と、前記複数の磁気共鳴データに基づいてそれぞれ前記流れる物質の複数のプレスキャン画像を生成する画像生成手段とを有するものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置においては、SSFPを利用して流れる物質のMR画像を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0030】
図5は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0031】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21と、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24とを図示しないガントリに内蔵した構成である。
【0032】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0033】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0034】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0035】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24はガントリに内蔵されず、寝台37や被検体P近傍に設けられる場合もある。
【0036】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0037】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0038】
RFコイル24は、送信器29および受信器30と接続される。RFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能と、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0039】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0040】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0041】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0042】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0043】
尚、ECG信号の代わりに脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。
【0044】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0045】
図6は、図5に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0046】
コンピュータ32は、プログラムにより撮影条件設定部40、撮影パラメータ保存部41、シーケンスコントローラ制御部42、k空間データベース43、画像再構成部44、画像データベース45、血流像作成部46として機能する。
【0047】
撮影条件設定部40は、SSFPシーケンスを利用して臓器等の静止している物質からの信号を抑制する一方、血流等の流れる物質からの信号を強調して収集できるような撮影条件を設定する機能と、設定したパルスシーケンスを含む撮影条件をシーケンスコントローラ制御部42に与える機能を有する。撮影条件の設定は、入力装置33からの指示情報に基づいて行うことができる。
【0048】
そのために、撮影条件設定部40は、撮影条件の設定画面を表示装置34に表示させる機能を備えている。そして、ユーザは表示装置34に表示された設定画面を参照して入力装置33に操作を行うことにより、予め準備された撮影部位や撮影条件ごとの複数の撮影プロトコルの中から撮影に用いる撮影プロトコルを選択したり、必要なパラメータ値等の撮影条件を設定することができる。
【0049】
また、この設定画面を通じて、データ収集後における血流像の作成や表示のための差分処理や最大値投影(MIP: Maximum Intensity Projection)処理等の画像処理を自動的に行うか否かも設定できるように構成される。従って、撮影条件設定部40は、入力装置33から画像処理を自動的に行うよう指示情報が入力された場合に、画像処理を自動的に行う指示を血流像作成部46に与えるように構成される。
【0050】
ここでSSFPシーケンスを利用した流れる物質の撮像条件について説明する。以下、主として流れる物質が血流の場合について説明するが、リンパ、脳脊髄液(CSF: cerebrospinal fluid)、消化管内を流れる流体等の血流以外の流れる物質についても同様である。
【0051】
図7は、図5に示す撮影条件設定部40において設定された血流像作成用のSSFPシーケンスの一例を示す図である。
【0052】
図7においてRFはRF励起パルスを、SSはスライス軸方向のスライス選択用傾斜磁場を、PEは位相エンコード軸方向の位相エンコード用傾斜磁場を、ROはリードアウト(読出し)軸方向のリードアウト用傾斜磁場を、それぞれ示す。
【0053】
図7に示すように、血流像作成用のSSFPシーケンスは、同一の励起角度(フリップ角)αのRF励起パルスを一定かつ短いTRで印加し、磁化を定常状態にすばやく至らしめるものである。また、TR間においてスライス軸、位相エンコード軸およびリードアウト軸の3軸方向における傾斜磁場の0次モーメントが、いずれもゼロとなるように各方向の傾斜磁場が制御される。さらに、リードアウト軸およびスライス軸方向の傾斜磁場は、RF励起パルスの印加中心時刻からエコーの中心時刻までのエコー時間(TE: echo time)およびエコーの中心時刻から次のRF励起パルスの印加中心時刻までの間のいずれにおいても、それぞれ0次モーメントがゼロとなるように制御される。
【0054】
さらに、血流像作成用のSSFPシーケンスでは、リードアウト軸方向およびスライス軸方向の少なくとも一方の軸方向における傾斜磁場の1次モーメントがTR内においてゼロではない値を有するように各傾斜磁場が制御される。
【0055】
尚、図7は、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントがゼロでない値に制御される例を示している。以下、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントをゼロでない値に制御する場合について説明する。
【0056】
この場合、リードアウト軸方向の傾斜磁場のTR内における0次モーメントM0および1次モーメントM1は、リードアウト軸方向の傾斜磁場の強度をGとすれば式(3-1)および式(3-2)を満たすことが条件となる。
[数3]
M0=∫Gdt=0 (3-1)
M1=∫Gtdt≠0 (3-2)
【0057】
式(3-2)および図7に示すようにリードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1をゼロでない値に制御すると、リードアウト軸方向に一定の速度vで移動している血流の横磁化は、磁気回転比をγとすると、リードアウト軸方向の傾斜磁場によってγ×M1×vだけ位相シフトを受けることなる。このため、血流から得られる信号と静止している臓器からの信号との間の信号強度に差が生じ、血流からの信号を選択的に強調したコントラストの血流像を得ることが可能となる。
【0058】
ここで、図7に示すように隣接するRF励起パルスの送信位相角の差がπ(180°)の奇数倍ではない値となるように各RF励起パルスの位相角を制御することが望ましい。すなわち、n番目に印加されるRF励起パルスの送信位相角をφ(n)とすると、式(4-1)および式(4-2)に示す条件が満たされるように各RF励起パルスの位相角を制御することが望ましい。
[数4]
φ(n+1)-φ(n)=π+Δφ [radian] (4-1)
Δφ≠2πm (mは整数) (4-2)
ここで、このように各RF励起パルスの位相角を制御することによる効果について図面を用いて説明する。
【0059】
図8は、図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπの奇数倍とした場合の静止している物質の横磁化の変化を示す図であり、図9は、図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπの奇数倍とした場合の流れる物質の横磁化の変化を示す図である。
【0060】
図8および図9は、いずれも実験室系に対して磁化の中心周波数と同じ周波数で回転する系において、XY方向の磁化を静磁場方向から見た図である。
【0061】
図7に示すSSFPシーケンスにおいて、隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφをπの奇数倍となるように、すなわち式(4-1)においてΔφ=2πmとなるように制御すると、臓器等の静止している物質および血流等の流れる物質の横磁化はそれぞれ図8および図9に示すような挙動を示す。
【0062】
すなわち、n番目のRF励起パルスの印加によって図8に示す(n)の位置に静止している物質の横磁化が向いたとすると、n+1番目のRF励起パルスの印加によって静止している物質の横磁化は(n+1)の位置に反転し、横磁化の大きさは励起前後で同じになる。このように静止している物質では磁化の定常状態が良好に維持される。
【0063】
これに対し、リードアウト軸方向に一定の速度vで移動している血流等の流れる物質の横磁化がn番目のRF励起パルスの印加によって図9に示す(n)の位置に向いたとすると、n+1番目のRF励起パルスが印加される直前では、前述のようにリードアウト軸方向の傾斜磁場によりγ×M1×vだけ位相シフトを受けている。この結果、血流等の流れる物質の横磁化は、反転せずに横磁化の大きさRF励起パルスの印加の度に変化する恐れがある。
【0064】
すなわち、隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφをπの奇数倍とすると、血流等の流れる物質の横磁化の大きさが励起毎に変化し、定常状態が十分に維持できない恐れがある。これは、信号強度の変動によるゴーストやボケというアーチファクトの出現やコントラスト自体の変化に繋がる。
【0065】
そこで、式(4-2)に示すように隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφをπの奇数倍と異なる値に設定することによって、このような問題を回避することが可能となる。特に式(5)に示す条件が満たされるように、隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφを制御することにより、血流等の流れる物質の定常状態を良好に維持することが可能となる。
[数5]
Δφ=γ×M1×v (5)
【0066】
すなわち、隣接するRF励起パルスの位相角の差がπ(180°)と血流等の流れる物質における磁化の位相シフト量との和になるように設定することにより血流等の流れる物質の磁化の定常状態をより良好に維持することが可能となる。換言すれば、式(4-1)に示すΔφを、式(5)に示すように、TR内におけるリードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1、リードアウト軸方向に移動している血流の速度vおよび磁気回転比γの積に設定すれば、血流等の流れる物質の磁化の定常状態をより良好に維持することが可能となる。ここで、その理由について図面を用いて説明する。
【0067】
図10は、図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπと流れる物質の位相シフト量との和に設定した場合の静止している物質の横磁化の変化を示す図であり、図11は、図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπと流れる物質の位相シフト量との和に設定した場合の流れる物質の横磁化の変化を示す図である。
【0068】
図10および図11は、いずれも実験室系に対して磁化の中心周波数と同じ周波数で回転する系において、XY方向の磁化を静磁場方向から見た図である。
【0069】
図7に示すSSFPシーケンスにおいて、隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφを血流等の流れる物質の位相シフト量とπとの和になるように、すなわち式(5)が満たされるように制御すると、臓器等の静止している物質および血流等の流れる物質の横磁化はそれぞれ図10および図11に示すような挙動を示す。
【0070】
すなわち、n番目のRF励起パルスの印加によって図10に示す(n)の位置に静止している物質の横磁化が向いたとすると、n+1番目のRF励起パルスの印加によって静止している物質の横磁化は(n+1)の位置に変化する。ここで、n番目のRF励起パルスの送信位相角φ(n)に対してn+1番目のRF励起パルスの送信位相角φ(n+1)はπ+Δφだけ異なるため、n+1番目のRF励起パルスの印加によって静止している物質の横磁化は反転せずに横磁化の大きさが変化する。このため、静止している物質では磁化の定常状態が維持されず、血流像の生成に不要な静止している物質からの信号を抑制することができる。
【0071】
これに対し、リードアウト軸方向に一定の速度vで移動している血流等の流れる物質の横磁化がn番目のRF励起パルスの印加によって図11に示す(n)の位置に向いたとすると、n+1番目のRF励起パルスが印加される直前では、前述のようにリードアウト軸方向の傾斜磁場によりγ×M1×vだけ位相シフトを受けている。しかしながら、n番目のRF励起パルスの送信位相角φ(n)に対してn+1番目のRF励起パルスの送信位相角φ(n+1)はπ+Δφだけ異なり、かつ式(5)に示すように送信位相角φ(n+1)のシフト量Δφは、位相シフト量γ×M1×vと等しくなるように設定されるため、血流等の流れる物質の横磁化はn+1番目のRF励起パルスの印加によって図11の(n+1)の位置に反転することとなる。この結果、血流等の流れる物質の横磁化のみが良好に定常状態を維持することとなる。そして、血流像の生成に必要な血流からの信号のみを選択的に強調することが可能となる。
【0072】
尚、図8、図9、図10および図11は、横磁化の変化を示しているが縦磁化についても同様である。すなわち、隣接するRF励起パルスの位相角の差がπ(180°)と血流等の流れる物質における磁化の位相シフト量との和になるように設定すれば、流れる物質の縦磁化の大きさも一定となり、定常状態を維持させることが可能となる。
【0073】
このように、流れる物質の磁化の位相シフト量γ×M1×vとRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφが等しくなるようにRF励起パルスの送信位相角φを制御すれば、流れる物質の磁化の定常状態をより良好に維持することができる。
【0074】
図12は、図7に示すSSFPシーケンスにおけるRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφの設定方法を説明する図である。
【0075】
図12において横軸は流れる物質の磁化の位相シフト量γ×M1×vを示し、縦軸は、位相シフトを受けた物質から得られる信号の強度を示す。
【0076】
図12に示すように、流れる物質の磁化は、リードアウト軸方向の傾斜磁場によって流速分布に応じた量だけ位相方向にシフトする。このため、信号強度も流れる物質の流速分布に応じた分布を有することとなる。そこで、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφを流れる物質の磁化の平均的あるいは代表的な位相シフト量γ×M1×vと等しくなるように制御すれば良いことになる。
【0077】
ここで、位相シフト量γ×M1×vは、流れる物質のリードアウト軸方向の移動速度vおよびリードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1に比例する。このため、流れる物質のリードアウト軸方向の移動速度vを求め、かつリードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1を適切な値に決定することが必要となる。
【0078】
そこで、まずリードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1の望ましい設定条件について説明する。
【0079】
流れる物質のリードアウト軸方向の移動速度vが典型的な値である場合や、1次モーメントM1を大きく設定しようとすると、式(6)の関係が成立し得る。
[数6]
γ×M1×v>2π (6)
【0080】
式(6)は、信号のリードアウト中に、流れる物質がほぼ1ピクセル以上移動していることを示している。このような場合に単に式(5)の関係が成立するようにRF励起パルスの送信位相角φを制御しただけでは、得られる信号の強度が低下する場合がある。そこで、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1は、流れる物質のリードアウト軸方向の移動速度vの最大値vmaxを指標として、式(7)に示す関係が満たされるように設定することが望ましい。
[数7]
M1<2πγvmax (7)
【0081】
図13は、図6に示す撮影条件設定部40において設定される実用的なリードアウト軸方向の傾斜磁場の一例を示す図であり、図14は、図6に示す撮影条件設定部40において設定される実用的なリードアウト軸方向の傾斜磁場の別の一例を示す図である。
【0082】
例えば図13および図14に示すようにリードアウト軸方向の傾斜磁場を設定すれば、TR内における0次モーメントM0がゼロとなり、かつ1次モーメントM1がゼロでない値となる。図13および図14に示すリードアウト軸方向の傾斜磁場の相違点は、1次モーメントM1の符号が逆であるという点である。
【0083】
尚、SSFPシーケンスの条件が満たされれば、任意の波形にリードアウト軸方向の傾斜磁場を設定することができる。例えばSSFPシーケンスは、リードアウト軸方向の傾斜磁場の極性が少なくとも2回変わることが条件とされるため、リードアウト軸方向の傾斜磁場の極性の反転回数を増加させることもできる。
【0084】
一方、流れる物質のリードアウト軸方向の移動速度vは、任意の方法で予め取得することができる。例えば、流れる物質のリードアウト軸方向の移動速度vを計測するための公知のスキャンを行うことができる。
【0085】
また、別の方法としては、流れる物質の移動速度vは被検体Pが異なっても撮影部位が同一であれば概ね同等であるとみなせる場合があることから撮影部位ごとに予め経験的に流れる物質の移動速度vを求めておきデータベース化することも可能である。ただし、撮影部位ごとに流れる物質の移動速度vを関連付ける代わりに、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφや隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφの適切な値を撮影試験等の任意の手段によって予め求めておき、頭部、胸部、腹部、下肢等の撮影部位ごとに関連付けで求めることも可能である。
【0086】
撮影パラメータ保存部41には、このように予め被検体Pの撮像部位に関連付けられた流れる物質の移動速度v、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφあるいは隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφが保存される。
【0087】
さらに別の方法として、流れる物質の移動速度v、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφあるいは隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφの適切な値を決定するためのプレスキャンを血流像のイメージングスキャンに先立って行うことにより、流れる物質の移動速度v、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφあるいは隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφの適切な値を求める方法も可能であるが、詳細については後述する。
【0088】
さらに、この他の望ましい撮影条件としては、信号の収集タイミングの設定が挙げられる。すなわち、血流の拍出速度が最大となるようなタイミングで信号が収集されるように撮影条件を設定すれば、流れる物質の移動速度vとともに位相シフト量γ×M1×vも大きくなることから、流れる物質からの信号強度の変化を増加させることができる。これにより、静止している物質からの信号に対する流れる物質のコントラストも向上させることが可能である。
【0089】
信号の収集タイミングを制御する場合には、ECGユニット38からのECG信号や図示しないPPG信号検出ユニットからのPPG信号を利用して心電同期或いは脈波同期下においてSSFPシーケンスを実行するようにすれば良い。
【0090】
また、ここまでは、血流像の撮影のために、SSFPシーケンスを用いた単一の撮影条件を設定する場合について説明したが、共通の血流像の撮影のために複数の異なる撮影条件を設定することも効果的である。すなわち、複数の異なる撮影条件を設定し、各撮影条件に従って収集された複数の画像データ間において差分処理を行うことにより、血流等の流れる物質以外の静止した物質からの信号をキャンセルすることができる。これにより、血流等の流れる物質からの信号を選択的に用いて、より良好な描出能で血流等の流れる物質の画像を得ることが可能となる。
【0091】
従って、SSFPを利用しない撮影条件を設定し、上述したようなSSFPを利用した撮影条件およびSSFPを利用しない撮影条件によりそれぞれ得られる複数の画像を差分することによって血流等の流れる物質の画像を生成することもできる。
【0092】
一方、SSFPを利用するが互に異なる複数の撮影条件を設定し、各撮影条件によりそれぞれ得られる複数の画像を差分することによって血流等の流れる物質の画像を生成することもできる。そこで、ここでは、データ収集タイミングを変えて複数の撮影条件を設定する例、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1を変えて複数の撮影条件を設定する例およびRF励起パルスの送信位相角のシフト量Δφを変えて複数の撮影条件を設定する例について説明する。
【0093】
図15は、図6に示す撮影条件設定部40においてデータ収集タイミングを変えて複数の撮影条件を設定した例を示す図である。
【0094】
図15に示すように、心電図同期または脈波同期をかけることにより、データ収集タイミングを制御することができる。すなわち例えばECG信号のR波をトリガとしてトリガから遅延時間T1後に第1のSSFPシーケンス(SSFP1)によるデータ収集が行われ、トリガから遅延時間T1と異なる遅延時間T2後に第2のSSFPシーケンス(SSFP2)によるデータ収集が行われるように撮影条件を設定することができる。そうすると、第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスによる信号の収集タイミングにおいて、血流の速度vが異なる値となる。そして、第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスによる2回の撮影によってそれぞれ得られる画像データI1, I2の差分処理を行うことにより静止した物質からの信号がキャンセルされて血流像を良好に描出することが可能となる。
【0095】
血流像を良好に描出するためには、第1のSSFPシーケンスによるデータ収集タイミングが血流の速度vが速い収縮期等の時相となるように遅延時間T1を設定する一方、第2のSSFPシーケンスによるデータ収集タイミングが血流の速度vが遅い拡張期等の時相となるように遅延時間T2を設定することが望ましい。このように遅延時間T1,T2を設定することにより血流からの信号の差分値を大きくすることができる。
【0096】
すなわち、速い血流の流速の典型値をvmax、遅い血流の流速の典型値をvminとすれば、第1のSSFPシーケンスにおけるRF励起パルスの送信位相角のシフト量Δφ1および第2のSSFPシーケンスにおけるRF励起パルスの送信位相角のシフト量Δφ2は、それぞれ式(8-1)および式(8-2)のように決定することができる。
[数8]
Δφ1=γ×M1×vmax (8-1)
Δφ2=γ×M1×vmin (8-2)
【0097】
このように第1のSSFPシーケンスの遅延時間T1およびRF励起パルスの送信位相角のシフト量Δφ1並びに第2のSSFPシーケンスの遅延時間T2およびRF励起パルスの送信位相角のシフト量Δφ2を設定すれば、血流の速度vが速い時相において大きい信号強度で血流からの信号を収集する一方、血流の速度vが遅い時相において血流の速度vが速い時相よりも小さい信号強度で血流からの信号を収集することができる。つまり、遅延時間が互に異なる第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスによって互に異なる信号強度でそれぞれ血流から信号を収集することができる。
【0098】
一方、静止した物質の磁化は位相シフトを受けないため、静止した物質からは時相に関係なく一定の信号強度で信号が収集される。つまり第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスによって同等な信号強度でそれぞれ静止した物質から信号を収集することができる。従って、2つの異なる時相において収集された信号に基づく2つの画像データI1, I2間において差分処理を行えば、静止した物質からの信号がキャンセルされる一方、血流からの信号のみが抽出される。そして、抽出された血流からの血流信号のみから血流像を作成することが可能となる。
【0099】
次に、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1を変えて複数の撮影条件を設定する例について説明する。
【0100】
リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1を変えて第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスの2つのSSFPシーケンスをそれぞれ撮影条件として設定し、それぞれの撮影条件に従って収集された画像データを差分することによっても、静止した物質からの信号をキャンセルさせる一方、血流等の流れる物質からの信号のみを抽出することが可能である。つまり、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1が異なる複数のSSFPシーケンスを実行してそれぞれ得られる画像の差分を行うことによっても血流等の流れる物質からの信号のみを抽出することができる。
【0101】
例えば、図13および図14に示す波形のリードアウト軸方向の傾斜磁場をそれぞれ第1のSSFPシーケンスの傾斜磁場および第2のSSFPシーケンスの傾斜磁場とすることができる。すなわち、図13に示す波形のリードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントをM1(A)、図14に示す波形のリードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントをM1(B)とすると、式(9)が成立するように第1のSSFPシーケンスのリードアウト軸方向の傾斜磁場および第2のSSFPシーケンスのリードアウト軸方向の傾斜磁場が決定される。
[数9]
M1(A)=-M1(B) (9)
【0102】
ただし、単に第1のSSFPシーケンスの傾斜磁場の1次モーメントM1(A)と第2のSSFPシーケンスの傾斜磁場の1次モーメントM1(B)とが互に異なる値となるように第1のSSFPシーケンスのリードアウト軸方向の傾斜磁場および第2のSSFPシーケンスのリードアウト軸方向の傾斜磁場を制御するようにしてもよい。
【0103】
図13および図14に示す波形のリードアウト軸方向の傾斜磁場をそれぞれ第1のSSFPシーケンスの傾斜磁場および第2のSSFPシーケンスの傾斜磁場とする場合には、第1のSSFPシーケンスにおけるRF励起パルスの送信位相角のシフト量Δφ1および第2のSSFPシーケンスにおけるRF励起パルスの送信位相角のシフト量Δφ2は、同一とすることが効果的である。
【0104】
図16は、図6に示す撮影条件設定部40において送信位相角のシフト量Δφを同一とする一方、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントM1の符号を逆にして第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスを撮影条件として設定した場合における磁化の位相シフトの様子を示す図である。
【0105】
図16において横軸は、横軸は血流等の流れる物質の磁化の位相シフト量γ×M1×vを示し、縦軸は、位相シフトを受けた物質から得られる信号の強度を示す。
【0106】
第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスの実行によって得られる信号強度分布はそれぞれ図16に示すような流れる物質の流速依存性を示すことになる。すなわち、信号の強度が磁化の位相シフトによって流れる物質の流速分布に応じて分布する。この位相シフト量γ×M1×vは、傾斜磁場の1次モーメントM1に比例する。従って、第1のSSFPシーケンスが実行される際には、第1のSSFPシーケンスの傾斜磁場の1次モーメントM1(A)に応じた信号強度分布S(A)が得られる。一方、第2のSSFPシーケンスが実行される際には、第2のSSFPシーケンスの傾斜磁場の1次モーメントM1(B)は、第1のSSFPシーケンスの傾斜磁場の1次モーメントM1(A)の符号を逆にしたものであるため、第1のSSFPシーケンスによって生じた信号強度分布S(A)を反転した信号強度分布S(B)となる。
【0107】
ここで、図16の位相シフト量γ×M1×vがゼロのときの信号強度は、静止した物質からの信号強度S0に対応する。この静止した物質からの信号強度S0は、第1のSSFPシーケンスが実行される場合と第2のSSFPシーケンスが実行される場合とで同一である。従って、第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスの送信位相角のシフト量Δφを第1のSSFPシーケンスによって生じた流れる物質の磁化の平均的あるいは代表的な位相シフト量γ×M1(A)×vと等しくなるように制御すれば、第1のSSFPシーケンスによって撮影された第1の画像データI(A)と第2のSSFPシーケンスによって撮影された第2の画像データI(B)との間の差分処理によって、静止した物質からの信号をキャンセルさせる一方、流れる物質からの信号のみを抽出して血流像を生成することが可能となる。このとき得られる血流像は、第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスの送信位相角のシフト量Δφに対応する信号強度差ΔSに応じた信号強度となる。つまり、傾斜磁場の1次モーメントM1の符号を逆にするという非常に簡易な制御によって、この信号強度差ΔSを十分に得る一方、静止した物質からの信号を差分によりキャンセルすることができる。
【0108】
尚、被検体P内における血流の速度vは、拍動の影響によって時相ごとに異なる。このため、図16に示すような反転した信号強度分布を得るためには、第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスの実行時における血流の速度vを同一とすることが重要となる。従って、心電同期下または脈波同期下において同一のトリガおよび遅延時間で第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスを実行することが望ましい。
【0109】
また、上述した2種類のSSFPシーケンスを用いる2つの例は、式(5)においてそれぞれ流れる物質の速度vおよび傾斜磁場の1次モーメントM1を変えて2つのSSFPシーケンスを設定した例に相当するが、送信位相角のシフト量Δφ自体を変えて2つのSSFPシーケンスを設定することによっても、2つのSSFPシーケンスの実行によって流れる物質の磁化の位相シフト量はγ×M1×vが変わることから差分処理によって静止する物質からの信号を抑制した血流像等の流れる物質の画像を得ることができる。
【0110】
次に、コンピュータ32の他の機能について説明する。
【0111】
シーケンスコントローラ制御部42は、入力装置33からのスキャン開始指示情報を受けた場合に、撮影条件設定部40からSSFPシーケンスを含む撮影条件をシーケンスコントローラ31に与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部42は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース43に形成されたk空間に配置する機能を有する。このため、k空間データベース43には、受信器30において生成された各生データがk空間データとして保存され、k空間データベース43に形成されたk空間にk空間データが配置される。
【0112】
画像再構成部44は、k空間データベース43からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより実空間データである被検体Pの画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース45に書き込む機能を有する。このため、画像データベース45には、画像再構成部44において再構成された画像データが保存される。
【0113】
血流像作成部46は、画像データベース45から必要な画像データを読み込んで、差分処理等の画像処理やMIP処理等の表示処理を行うことによって表示用の血流像データを生成する機能と、生成した血流像データを表示装置34に与えることによって表示装置34に血流像を表示させる機能とを有する。
【0114】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0115】
図17は、図5に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体Pの血流像を撮像する際の手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0116】
まずステップS1において、撮影条件設定部40において、SSFPシーケンスを用いた単一の撮影条件、異なるパラメータの複数のSSFPシーケンスを用いた複数の撮影条件、SSFPシーケンスおよびSSFPシーケンス以外のシーケンスを用いた複数の撮影条件のいずれかが撮影条件として設定される。ここでは、心電同期下においてデータの収集タイミングが異なる2つのSSFPシーケンスを撮影条件として設定する場合および傾斜磁場の1次モーメントM1が異なる2つのSSFPシーケンスを撮影条件として設定する場合について説明する。
【0117】
撮影条件の設定は、表示装置34に表示された設定画面を参照し、入力装置33の操作によって予め準備された関連部位や撮影条件ごとの複数の撮影プロトコルの中から、撮影に用いる撮影プロトコルを選択し、必要なパラメータを入力するのみで行うことができる。
【0118】
従って、ユーザがある撮影部位用のSSFPシーケンスを選択すると、対応する撮影部位に関連付けられた血流の移動速度v、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφあるいは隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφ等のパラメータが撮影パラメータ保存部41から撮影条件設定部40に読み込まれる。また、心電同期撮影のための遅延時間T1, T2や傾斜磁場の1次モーメントM1(A), M1(B)も予め撮影部位ごとの撮影プロトコルとして決定しておくことができる。ただし、これらの各種パラメータをユーザが任意の数値として入力装置33の操作によって設定できるようにすることもできる。各種パラメータの決定方法は上述した通りである。
【0119】
また、設定画面を通じて、血流像の生成のための差分処理やMIP処理を自動的に行う設定を行うこともできる。このような自動画像処理を設定すれば撮影開始後にユーザの操作を要することなく血流像データを生成し、血流像を表示させることができる。
【0120】
次にステップS2において、設定された撮影条件に従ってデータ収集が行われる。
【0121】
そのために、寝台37には被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0122】
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部42に撮影開始指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部42は撮影条件設定部40からSSFPシーケンスを含む複数の撮影条件を取得してシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部42から受けた撮影条件に従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0123】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部42に与え、シーケンスコントローラ制御部42はk空間データベース43に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0124】
尚、k空間データベース43には、異なる遅延時間T1, T2または異なる傾斜磁場の1次モーメントM1(A), M1(B)にそれぞれ対応する2セットのk空間データが保存されることとなる。また、異なる遅延時間T1, T2でデータ収集を行う場合には、例えばECGユニット38において取得されるECG信号を利用して心電同期下でデータ収集が行われる。
【0125】
次にステップS3において、画像再構成部44により画像再構成処理が行われる。すなわち、画像再構成部44は、k空間データベース43からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成し、再構成して得られた画像データを画像データベース45に書き込む。ここで、画像データベース45には、k空間データと同様に、異なる遅延時間T1, T2に対応する2セットの画像データI1, I2または異なる傾斜磁場の1次モーメントM1(A), M1(B)に対応する2セットの画像データI(A), I(B)が保存されることとなる。
【0126】
次にステップS4において、血流像作成部46により血流像データが生成され、表示装置34には、血流像が表示される。すなわち、血流像作成部46は、画像データベース45から異なる遅延時間T1, T2に対応する2セットの画像データI1, I2または異なる傾斜磁場の1次モーメントM1(A), M1(B)に対応する2セットの画像データI(A), I(B)を読み込んで、差分処理を行うことにより、3次元の(3D: three dimensional)血流像データを生成する。また、表示装置34に3D血流像データを表示させるために3D血流像データにMIP処理を施して2次元の(2D: two-dimensional)血流像データを生成する。そいて、生成された2D血流像データが表示装置34に与えられ、血流像が表示装置34に表示される。
【0127】
図18は図5に示す磁気共鳴イメージング装置20により異なる遅延時間T1, T2に設定された2つのSSFPシーケンスによってデータ収集を行う場合におけるデータ収集から血流像の生成までの詳細を示すフローチャートである。尚、図中ステップ番号は図17のステップ番号に対応している。
【0128】
図18に示すようにステップS2(T1)において、第1のSSFPシーケンスにより心電同期下においてR波をトリガとして遅延時間T1としてデータ収集が行われる。一方、ステップS2(T2)において、第2のSSFPシーケンスにより心電同期下においてR波をトリガとして遅延時間T2としてデータ収集が行われる。
【0129】
次に、ステップS3(T1)において、画像再構成部44により、遅延時間T1として収集されたデータに基づく画像再構成処理によって画像データI1が再構成される。一方、ステップS3(T2)において、画像再構成部44により、遅延時間T2として収集されたデータに基づく画像再構成処理によって画像データI2が再構成される。
【0130】
次に、ステップS4(T1, T2)において、血流像作成部46により画像データI1と画像データI2との差分処理が行われ、差分処理の結果|I1-I2|が血流像データとして抽出される。そそして上述したようにMIP処理された血流像データが表示される。
【0131】
図19は図5に示す磁気共鳴イメージング装置20により異なる傾斜磁場の1次モーメントM1(A), M1(B)に設定された2つのSSFPシーケンスによってデータ収集を行う場合におけるデータ収集から血流像の生成までの詳細を示すフローチャートである。尚、図中ステップ番号は図17のステップ番号に対応している。
【0132】
図19に示すようにステップS2(A)において、傾斜磁場の1次モーメントがM1(A)に設定された第1のSSFPシーケンスによりデータ収集が行われる。一方、ステップS2(B)において、傾斜磁場の1次モーメントがM1(B)に設定された第2のSSFPシーケンスによりデータ収集が行われる。
【0133】
次に、ステップS3(A)において、画像再構成部44により、傾斜磁場の1次モーメントをM1(A)として収集されたデータに基づく画像再構成処理によって画像データI(A)が再構成される。一方、ステップS3(B)において、画像再構成部44により、傾斜磁場の1次モーメントをM1(B)として収集されたデータに基づく画像再構成処理によって画像データI(B)が再構成される。
【0134】
次に、ステップS4(A, B)において、血流像作成部46により画像データI(A)と画像データI(B)との差分処理が行われ、差分処理の結果|I(A)-I(B)|が血流像データとして抽出される。そそして上述したようにMIP処理された血流像データが表示される。
【0135】
このようにして、SSFPシーケンスを用いた撮影条件によって静止した物質からの信号を抑制し、血流等の流れる物質の画像のみを選択的に画像化することができる。
【0136】
次に、撮影条件設定時において、流れる物質の移動速度v、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφあるいは隣接するRF励起パルスの位相角の差π+Δφ等のパラメータの適切な値が不明である場合に、パラメータをプレスキャン(preparation scan)によって求める方法について説明する。ここでは、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφを求めるためのプレスキャンを行う方法について説明するが、他のパラメータを求める場合についても同様である。
【0137】
図20は、図5に示す磁気共鳴イメージング装置20によりプレスキャンによって求めたパラメータを用いてイメージングスキャンを行う手順を示す図である。
【0138】
まず、図20(a)に示すように、プレスキャンを実行する。そのために予めRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφを徐々に変化させたK個の値Δφ1, Δφ2, Δφ3, …, ΔφKを決定する。そして、プレスキャンとして、これらの値Δφ1, Δφ2, Δφ3, …, ΔφKを設定したSSFPシーケンスを順次実行する。
【0139】
ここで、プレスキャンは、パラメータであるRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφを求めるためのスキャンであり、血流像を生成するためのスキャンではないため、少なくともパラメータの決定に必要なデータが収集されれば良い。従って、データ収集時間の短縮化、画像処理の簡易化、データサイズの縮小化の観点からは、2D撮影とすることが望ましい。また、RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφを除く撮影条件は、血流像の生成用のイメージングスキャンの撮影条件と一致させることが望ましい。
【0140】
プレスキャンを実行し、各RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφ1, Δφ2, Δφ3, …, ΔφKに応じて収集されたデータから血流像データを生成すると、図20(b)に示すように、それぞれ各RF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφ1, Δφ2, Δφ3, …, ΔφKに対応する血流像データI(Δφ1), I(Δφ2), I(Δφ3), …, I(ΔφK)がプレスキャン画像データとして得られる。そして、これら血流像データI(Δφ1), I(Δφ2), I(Δφ3), …, I(ΔφK)を表示させ、ユーザの目視により最も良好なコントラストとなった血流像データI(Δφopt)を選択することにより、最適なRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφoptを決定することができる。
【0141】
この場合に、入力装置33からの血流像データI(Δφopt)の選択情報が撮影条件設定部40に与えられ、選択された血流像データI(Δφopt)に関連付けられたRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφoptが撮影条件設定部40においてイメージングスキャン用のRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφoptとして設定される。
【0142】
尚、撮影条件設定部40において、閾値処理等の画像処理によって、最も良好なコントラストとなった血流像データI(Δφopt)を複数の血流像データI(Δφ1), I(Δφ2), I(Δφ3), …, I(ΔφK)から自動選択するように構成しても良い。
【0143】
次に、図20(c)に示すように、最適なRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφoptに設定した3D SSFPシーケンスにより血流像の撮影用のイメージングスキャンが上述したように実行される。
【0144】
この結果、被検体Pが異なっても、被検体Pや撮影部位に、より適したRF励起パルスの送信位相角φのシフト量Δφを用いてイメージングスキャンを行うことが可能となる。これにより、より良好な描出能で血流像を表示させることができる。
【0145】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、スライス軸方向およびリードアウト軸方向の少なくとも一方向における傾斜磁場の1次モーメントがゼロでない値となるように設定したSSFPシーケンスを用いて撮影を行うことにより、血流等の流れる物質のみを選択的に画像化できるようにしたものである。
【0146】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、SSFPを利用して流れる物質のみのMR画像を良好なSNRで収集することができる。
【0147】
特に、隣接する励起パルスの送信位相の差を180度の奇数倍ではない値に設定したり、同期撮影の遅延時間や傾斜磁場の1次モーメント等の条件が異なる複数の撮影条件によって取得された画像データを差分することによって、より良好に流れる物質からの信号を選択的に抽出して画像化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】従来のTrueFISPシーケンスを示すシーケンスチャート。
【図2】従来のSSFPシーケンスを用いたスキャンにおける磁化の変化を示す図。
【図3】従来から知られている位相シフトを説明する図。
【図4】従来のSSFPシーケンスにおいて印加される傾斜磁場と傾斜磁場方向に流れる物質の磁化の位相との関係を示す図。
【図5】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図6】図5に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図7】図5に示す撮影条件設定部において設定された血流像作成用のSSFPシーケンスの一例を示す図。
【図8】図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπの奇数倍とした場合の静止している物質の横磁化の変化を示す図。
【図9】図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπの奇数倍とした場合の流れる物質の横磁化の変化を示す図。
【図10】図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπと流れる物質の位相シフト量との和に設定した場合の静止している物質の横磁化の変化を示す図。
【図11】図7に示すSSFPシーケンスにおいて隣接するRF励起パルスの位相角の差をπと流れる物質の位相シフト量との和に設定した場合の流れる物質の横磁化の変化を示す図。
【図12】図7に示すSSFPシーケンスにおけるRF励起パルスの送信位相角のシフト量の設定方法を説明する図。
【図13】図6に示す撮影条件設定部において設定される実用的なリードアウト軸方向の傾斜磁場の一例を示す図。
【図14】図6に示す撮影条件設定部において設定される実用的なリードアウト軸方向の傾斜磁場の別の一例を示す図。
【図15】図6に示す撮影条件設定部においてデータ収集タイミングを変えて複数の撮影条件を設定した例を示す図。
【図16】図6に示す撮影条件設定部において送信位相角のシフト量を同一とする一方、リードアウト軸方向の傾斜磁場の1次モーメントの符号を逆にして第1のSSFPシーケンスおよび第2のSSFPシーケンスを撮影条件として設定した場合における磁化の位相シフトの様子を示す図。
【図17】図5に示す磁気共鳴イメージング装置により被検体Pの血流像を撮像する際の手順を示すフローチャート。
【図18】図5に示す磁気共鳴イメージング装置により異なる遅延時間に設定された2つのSSFPシーケンスによってデータ収集を行う場合におけるデータ収集から血流像の生成までの詳細を示すフローチャート。
【図19】図5に示す磁気共鳴イメージング装置により異なる傾斜磁場の1次モーメントに設定された2つのSSFPシーケンスによってデータ収集を行う場合におけるデータ収集から血流像の生成までの詳細を示すフローチャート。
【図20】図5に示す磁気共鳴イメージング装置によりプレスキャンによって求めたパラメータを用いてイメージングスキャンを行う手順を示す図。
【符号の説明】
【0149】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
38 ECGユニット
40 撮影条件設定部
41 撮影パラメータ保存部
42 シーケンスコントローラ制御部
43 k空間データベース
44 画像再構成部
45 画像データベース
46 血流像作成部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一のフリップ角および一定の繰り返し時間で複数の励起パルスを印加し、前記繰り返し時間内における傾斜磁場並びに励起パルスの印加時刻からエコーが生成される中心時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場、エコーが生成される中心時刻から次の励起パルスの印加時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の各0次モーメントがそれぞれゼロとなり、かつ前記繰り返し時間内におけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の少なくとも一方の1次モーメントがゼロでない値となるように前記傾斜磁場を印加することによって被検体内の流れる物質における核磁気スピンの定常状態自由歳差運動を得るための撮影条件に従って磁気共鳴データを収集するデータ収集手段と、
前記磁気共鳴データに基づいて前記流れる物質の画像を生成する画像生成手段と、
を有する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記データ収集手段は、隣接する励起パルスの送信位相の差を180度の奇数倍ではない値に設定して前記磁気共鳴データを収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ収集手段は、隣接する励起パルスの送信位相の差が前記流れる物質の磁化の位相シフト量と180度の和になるように設定して前記磁気共鳴データを収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記データ収集手段は、前記撮影条件に加えて前記定常状態自由歳差運動を利用しない撮影条件に従って前記磁気共鳴データを収集するように構成され、
前記画像生成手段は、前記撮影条件および前記定常状態自由歳差運動を利用しない撮影条件によりそれぞれ得られる複数の画像を差分することによって前記流れる物質の画像を生成するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記データ収集手段は、心電図または脈波上に設定されたトリガに対して互に異なる複数の遅延時間でそれぞれ磁気共鳴データを収集するように構成され、
前記画像生成手段は、前記複数の遅延時間で収集された前記磁気共鳴データに基づいてそれぞれ得られる複数の画像を差分することによって前記流れる物質の画像を生成するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記データ収集手段は、前記1次モーメントが互に異なる複数の撮影条件に従って前記磁気共鳴データを収集するように構成され、
前記画像生成手段は、前記複数の撮影条件によりそれぞれ得られる複数の画像を差分することによって前記流れる物質の画像を生成するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記データ収集手段は、隣接する励起パルスの送信位相の差が互に異なる複数の撮影条件に従って前記磁気共鳴データを収集するように構成され、
前記画像生成手段は、前記複数の撮影条件によりそれぞれ得られる複数の画像を差分することによって前記流れる物質の画像を生成するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
隣接する励起パルスの送信位相の差を撮像部位に関連付けて保存する記憶手段を更に備え、
前記データ収集手段は、選択された撮像部位に対応する隣接する励起パルスの送信位相の差を前記記憶手段から取得し、取得した隣接する励起パルスの送信位相の差を前記撮影条件として前記磁気共鳴データを収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記撮影条件のうち隣接する励起パルスの送信位相の差を変えてプレスキャンを実行するプレスキャン手段と、
前記プレスキャンによりそれぞれ生成された複数のプレスキャン画像に基づいて前記撮影条件に用いられる隣接する励起パルスの送信位相の差を決定する位相差決定手段とを更に備え、
前記データ収集手段は、決定された前記隣接する励起パルスの送信位相の差を前記撮影条件として前記磁気共鳴データを収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記データ収集手段は、隣接する励起パルスの送信位相の差を、前記繰り返し時間内におけるリードアウト用傾斜磁場の1次モーメント、前記流れる物質のリードアウト軸方向の速度および磁気回転比を乗算して得られる値と180度との和になるように設定して前記磁気共鳴データを収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
同一のフリップ角および一定の繰り返し時間で複数の励起パルスを印加し、前記繰り返し時間内における傾斜磁場並びに励起パルスの印加時刻からエコーが生成される中心時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場、エコーが生成される中心時刻から次の励起パルスの印加時刻までにおけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の各0次モーメントがそれぞれゼロとなり、かつ前記繰り返し時間内におけるスライス選択用傾斜磁場およびリードアウト用傾斜磁場の少なくとも一方の1次モーメントがゼロでない値となるように前記傾斜磁場を印加することによって被検体内の流れる物質における核磁気スピンの定常状態自由歳差運動を得るための撮影条件のうち、隣接する励起パルスの送信位相の差を変えてプレスキャンを実行することによって互に異なる複数の送信位相の差に対応する複数の磁気共鳴データを収集するプレスキャン手段と、
前記複数の磁気共鳴データに基づいてそれぞれ前記流れる物質の複数のプレスキャン画像を生成する画像生成手段と、
を有する磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−142644(P2009−142644A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261419(P2008−261419)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】