説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】ラベリング位置を適切に決定することができる磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】予備撮影手段が、撮影の対象の内部状態を示す画像、例えば頭部の断層像P1を予備撮影し、検出手段が、予備撮影された画像P1における所定の部位、例えば脳をテンプレートマッチング等により検出し、決定手段が、検出された部位の位置・大きさ等の幾何学的情報、例えばマッチングされたテンプレートT′の位置や拡大縮小率に基づいて、ラベリングする位置LPを幾何学的に決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(imaging)装置に関し、特に、スピン(spin)をラベリング(labeling)する磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置では、マグネットシステム(magnet system)の内部空間、すなわち、静磁場を形成した撮影空間に撮影の対象を搬入し、勾配磁場および高周波(RF:radio
frequency)磁場を印加して対象内のスピンを励起して磁気共鳴信号を発生させ、その受信信号に基づいて画像を再構成する。
【0003】
パーフュージョン(perfusion)撮影、例えばASL(Arterial Spin Labeling)と呼ばれる撮影法では、予め、血流の上流側においてスピンに磁気的なラベリングを行い、このラベリングされたスピンが関心領域に流入して発生する磁気共鳴信号を撮影に利用する。ラベリングはタギング(tagging)とも呼ばれるが、本書ではラベリングで統一する。
【0004】
ラベリングは、スピンのインバージョン(inversion)によって行われる。脳血流の灌流を撮影する場合、スピンのインバージョンは対象の頸部において行われ、脳の所望のスライス(slice)についてのパーフュージョン画像が撮影される。パーフュージョン画像は、ラベリング有りの断層像であるラベル(label)画像と、ラベリング無しの断層像であるコントロール(control)画像との差分画像として求められる(例えば、特許文献1,[0004]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4051232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ラベリングを行う位置(面)は、ユーザ(user)により解剖学的知識に基づいて経験的に定められるが、一般的に、ウイリス動脈輪(図17参照)よりも下部の、分岐や屈曲の少ない領域内の位置が望ましい。このラベリング位置の決定が適切でないと、ラベリング位置が分岐や屈曲の多いウイリス動脈輪などと重なり、正確なラベリングが行えなくなる恐れがある。特に、初心者のユーザにとっては、このような失敗が比較的起こりやすい。
【0007】
このような事情により、ラベリング位置を適切に決定することができる磁気共鳴イメージング装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点の発明は、対象の内部のスピンをラベリングするラベリング手段と、前記ラベリングされたスピンが発生する磁気共鳴信号に基づいて、前記対象の内部状態を示す画像を本撮影する本撮影手段とを備えている磁気共鳴イメージング装置であって、前記対象の内部状態を示す画像を予備撮影する予備撮影手段と、前記予備撮影手段により予備撮影された画像における所定の部位または解剖学的特徴点を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された部位または解剖学的特徴点の幾何学的情報に基づいて、前記ラベリングする位置または領域を決定する決定手段とをさらに備えている磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0009】
ここで、「内部状態」には、組織の解剖学的構造、血管走行状態、血流状態などを含む。
【0010】
第2の観点の発明は、前記対象の内部状態が、該対象の頭部の内部状態である上記第1の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0011】
第3の観点の発明は、前記検出手段が、脳を検出する上記第2の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0012】
第4の観点の発明は、前記決定手段が、前記脳の位置および大きさに基づいて、前記ラベリングする位置または領域を決定する上記第3の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0013】
第5の観点の発明は、前記決定手段が、前記脳の位置および大きさに基づいて、イメージング領域をさらに決定する上記第4の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0014】
第6の観点の発明は、前記対象の内部状態が、該対象の体幹部の内部状態である上記第1の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0015】
第7の観点の発明は、前記検出手段が、所定の臓器または腫瘍を検出する上記第6の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0016】
第8の観点の発明は、前記予備撮影手段が、アンギオ(angio)画像を予備撮影し、前記検出手段が、血管を検出する上記第1の観点、第2の観点または第6の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0017】
第9の観点の発明は、前記決定手段が、前記血管の位置、分岐および曲率の少なくとも1つに基づいて、前記ラベリングする位置または領域を決定する上記第8の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0018】
第10の観点の発明は、前記本撮影手段が、パーフュージョン画像を本撮影する上記第1の観点から第9の観点のいずれか一つの観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
上記観点の発明によれば、予備撮影された画像における所定の部位または解剖学的特徴点の幾何学的情報に基づいてラベリングする位置または領域を決定するので、その所定の部位または解剖学的特徴点と一定の位置関係にある、ラベリング位置に適した位置または領域を、ラベリング位置または領域として決定することができ、ラベリング位置または領域を適切に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第一実施形態の磁気共鳴イメージング装置のブロック(block)図である。
【図2】第一実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理に関わる部分の機能ブロック図である。
【図3】第一実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理を示すフロー図である。
【図4】プレスキャン(pre-scan)画像の一例を示す図である。
【図5】モデル(model)脳のテンプレート(template)の一例を示す図である。
【図6】プレスキャン画像上でのテンプレートマッチングの一例を示す図である。
【図7】ラベリングプレーン(labeling plane)の決定の一例を示す図である。
【図8】イメージング領域の決定の一例を示す図である。
【図9】ラベル画像撮影用のパルスシーケンス(pulse sequence)を示す図である。
【図10】コントロール画像撮影用のパルスシーケンスを示す図である。
【図11】kスペース(k-space)の概念を示す図である。
【図12】第二実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理に関わる部分の機能ブロック図である。
【図13】第二実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理のフロー図である。
【図14】アンギオ投影画像の一例を示す図である。
【図15】頭部血管における主要な血管の検出の一例を示す図である。
【図16】頭部血管の幾何学的情報に基づくラベリングプレーンの決定の一例を示す図である。
【図17】ウイリス動脈輪の位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して発明の実施形態を詳細に説明する。なお、これにより、発明の実施形態が限定されるものではない。
【0022】
(第一実施形態)
図1に磁気共鳴イメージング装置のブロック図を示す。同図に示すように、磁気共鳴イメージング装置は、マグネットシステム100を有している。マグネットシステム100は、主磁場コイル(coil)部102、勾配コイル部106およびRFコイル部108を有している。これら各コイル部は概ね円筒状の形状を有しており、互いに同軸的に配置されている。マグネットシステム100の概ね円柱状の内部空間(ボア:bore)に、撮影の対象1がクレードル(cradle)500に搭載されて図示しない搬送手段により搬入および搬出される。対象1の頭部はRFコイル部108内に収容されている。
【0023】
主磁場コイル部102は、マグネットシステム100の内部空間に静磁場を形成する。静磁場の方向は、概ね対象1の体軸の方向に平行である。すなわち、いわゆる水平磁場が形成される。主磁場コイル部102は、例えば超伝導コイルを用いて構成されている。なお、超伝導コイルに限らず常伝導コイル等を用いて構成してもよい。
【0024】
勾配コイル部106は、互いに垂直な3軸すなわちスライス軸、位相軸および周波数軸の方向において、それぞれ静磁場強度に勾配を持たせるための3つの勾配磁場を発生させる。
【0025】
静磁場空間における互いに垂直な座標軸をX,Y,Zとしたとき、いずれの軸もスライス軸とすることができる。その場合、残り2軸のうちの一方を位相軸とし、他方を周波数軸とする。また、スライス軸、位相軸および周波数軸は、相互間の垂直性を保ったままX,Y,Z軸に関して任意の傾きを持たせることも可能である。磁気共鳴イメージング装置では、対象1の体軸の方向をZ軸方向とする。
【0026】
スライス軸方向の勾配磁場をスライス勾配磁場ともいう。位相軸方向の勾配磁場を位相エンコード(encode)勾配磁場またはフェーズエンコード(phase encode)勾配磁場ともいう。周波数軸方向の勾配磁場をリードアウト(read
out)勾配磁場ともいう。リードアウト勾配磁場は、周波数エンコード勾配磁場と同義である。このような勾配磁場の発生を可能にするために、勾配コイル部106は、図示しない3系統の勾配コイルを有している。以下、勾配磁場を単に勾配ともいう。
【0027】
RFコイル部108は、静磁場空間に対象1の体内のスピンを励起するための高周波磁場を形成する。以下、高周波磁場を形成することをRF励起信号の送信ともいう。また、RF励起信号をRFパルスともいう。RFコイル部108は、また、励起されたスピンが生じる電磁波すなわち磁気共鳴信号を受信する
勾配コイル部106には、勾配駆動部130が接続されている。勾配駆動部130は、勾配コイル部106に駆動信号を与えて勾配磁場を発生させる。勾配駆動部130は、勾配コイル部106における3系統の勾配コイルに対応して、図示しない3系統の駆動回路を有している。
【0028】
RFコイル部108には、RF駆動部140が接続されている。RF駆動部140はRFコイル部108に駆動信号を与えてRFパルスを送信し、対象1の体内のスピンを励起する。
【0029】
RFコイル部108には、データ(data)収集部150が接続されている。データ収集部150は、RFコイル部108が受信した受信信号をサンプリング(sampling)によって取り込み、それをディジタルデータ(digital
data)として収集する。
【0030】
勾配駆動部130、RF駆動部140およびデータ収集部150には、シーケンス制御部160が接続されている。シーケンス制御部160は、勾配駆動部130ないしデータ収集部150をそれぞれ制御して磁気共鳴信号の収集を遂行する。
【0031】
シーケンス制御部160は、例えばコンピュータ(computer)等を用いて構成されている。シーケンス制御部160は、図示しないメモリ(memory)を有している。メモリは、シーケンス制御部160用のプログラム(program)および各種のデータを記憶している。シーケンス制御部160の機能は、コンピュータがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0032】
データ収集部150の出力側は、データ処理部170に接続されている。データ収集部150が収集したデータが、データ処理部170に入力される。データ処理部170は、例えばコンピュータ等を用いて構成されている。データ処理部170は、図示しないメモリを有している。メモリは、データ処理部170用のプログラムおよび各種のデータを記憶している。
【0033】
データ処理部170は、シーケンス制御部160に接続されている。データ処理部170は、シーケンス制御部160の上位にあってそれを統括する。磁気共鳴イメージング装置の機能は、データ処理部170がメモリに記憶されたプログラムを実行することによりを実現される。
【0034】
データ処理部170は、データ収集部150が収集したデータをメモリに記憶する。メモリ内にはデータ空間が形成される。このデータ空間は、フーリエ(Fourier)空間(2次元と3次元が考えられるが、本例では2次元フーリエ空間)を構成している。以下、フーリエ空間をkスペースともいう。データ処理部170は、kスペースのデータを逆フ−リエ変換することにより画像を再構成する。
【0035】
マグネットシステム100、勾配駆動部130、RF駆動部140、データ収集部150、シーケンス制御部160およびデータ処理部170からなる部分は、発明における撮影手段の一例である。
【0036】
データ処理部170には、表示部180および操作部190が接続されている。表示部180は、グラフィックディスプレー(graphic display)等で構成されている。操作部190はポインティングデバイス(pointing-device)を備えたキーボード(keyboard)等で構成されている。
【0037】
表示部180は、データ処理部170から出力される再構成画像および各種の情報を表示する。操作部190は、使用者によって操作され、各種の指令や情報等をデータ処理部170に入力する。使用者は表示部180および操作部190を通じてインタラクティブ(interactive)に磁気共鳴イメージング装置を操作する。
【0038】
第一実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理について説明する。
【0039】
図2に、第一実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理に関わる部分の機能ブロック図を示す。また、図3に、第一実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理のフロー(flow)図を示す。
【0040】
図2に示すように、第一実施形態による磁気共鳴イメージング装置は、プレスキャン実行部601、脳検出部602、ラベリングプレーン決定部603、イメージング領域決定部604、パーフュージョン撮影実行部605、および画像表示・記憶制御部606を備えている。
【0041】
ステップS1では、プレスキャン実行部601が、プレスキャンを実行する。プレスキャンとは、パーフュージョン撮影に用いる撮影条件を設定する上で必要な情報を収集するために、対象1を予備撮影することである。ここでは、種々の計測と共に、対象1の頭部のコロナル(coronal)断層像またはサジタル(sagittal)断層像をプレスキャン画像として取得する。
【0042】
図4に、プレスキャン画像の一例として、対象1の頭部のサジタル断層像P1を示す。
【0043】
ステップS2では、脳検出部602が、プレスキャン画像上で脳の位置・向き・大きさを検出する。例えば、プレスキャン画像に画像フィルタ等を適用して、エッジ成分を表すエッジ画像を生成する。そのエッジ画像上に、脳の標準的な形状を有しているモデル脳のテンプレートを重ね合せ、平行移動、回転、拡大縮小を行ってテンプレートマッチングを行う。
【0044】
図5に、モデル脳のテンプレートの一例を示す。このテンプレートTにおいて、点Oは中心点、直線HはテンプレートTに対する水平線、直線VはテンプレートTに対する垂直線である。テンプレートTは、この中心点Oを中心に、平行移動、回転、拡大縮小が行われる。
【0045】
図6に、テンプレートマッチングの一例を示す。この例では、対象1の頭部のサジタル断層像P1上でテンプレートTを平行移動、回転、拡大縮小してマッチングしている。マッチングされたテンプレートT′の位置、回転角度、拡大縮小率から、脳の位置・向き・大きさが検出される。
【0046】
ステップS3では、ラベリングプレーン決定部603が、検出された脳の幾何学的情報を基にラベリングプレーンを決定する。
【0047】
図7に、ラベリングプレーンの決定の一例を示す。ここでは、マッチングされたテンプレートT′の中心点Oから垂直線Vに沿って、距離α・ΔV1だけ下方(−Z軸方向)に移動した点を点Lvとし、この点Lvを通るXY面をラベリングプレーンLPに決定する。ここで、αはテンプレートT′の拡大縮小率、ΔV1は予め定められた第1距離で、拡大縮小率α=1、つまり拡大縮小する前の大きさのテンプレートTが表すモデル脳に対する最適なラベリングプレーンと垂直線Vとの交差位置の、中心点Oからの距離である。最適なラベリングプレーンは、例えば、頭部血管の分岐や屈曲の少ない位置であり、一般的に、ウイリス動脈輪の下部から下方に数cmの位置、例えば1〜10〔cm〕程度の位置である。第1距離ΔV1は、このような解剖学的な情報から予め定められる。したがって、上記のようにして決定したラベリングプレーンLPは、検出された対象1の脳に対して、最適なラベリングプレーンとなる。
【0048】
ステップS4では、イメージング領域決定部604が、検出された脳の幾何学的情報を基にイメージング領域を決定する。
【0049】
図8に、イメージング領域の決定の一例を示す。ここでは、マッチングされたテンプレートT′の中心点Oから垂直線Vに沿って、距離α・ΔV2だけ上方(+Z軸方向)に移動した点Ruを、イメージング領域IRの上端の位置とする。ここで、ΔV2は、予め定められた第2距離で、拡大縮小率α=1の大きさのテンプレートTが表すモデル脳に対する最適なイメージング領域の上端と垂直線Vとの交差位置の、中心点Oから距離である。また、マッチングされたテンプレートT′の中心点Oから垂直線Vに沿って、距離α・ΔV3だけ下方(−Z軸方向)に移動した点Rdを、イメージング領域IRの下端の位置とする。ここで、ΔV3は予め定められた第3距離で、拡大縮小率α=1の大きさのテンプレートTが表すモデル脳に対する最適なイメージング領域の下端と垂直線Vとの交差位置の、中心点Oからの距離である。すなわち、点Ruから点RdまでのZ軸方向における範囲の領域を、イメージング領域IRとして決定する。
【0050】
ここで、最適なイメージング領域は、例えば、最適なラベリングプレーンから数cm上部の位置より上方(脳血流の下流側)の脳全体を含む領域である。第2距離ΔV2および第3距離ΔV3は、このような解剖学的情報から予め定められる。したがって、上記のようにして決定したイメージング領域IRは、検出された対象1の脳に対して、最適なイメージング領域となる。
【0051】
ステップS5では、パーフュージョン撮影実行部605が、パーフュージョン撮影を実行する。
【0052】
図9および図10に、パーフュージョン撮影に用いるパルスシーケンスの一例を示す。このパルスシーケンスによるパーフュージョン撮影は、CASL(Continuous Arterial Spin Labeling)と呼ばれる。CASLやPASLなどのASLでは、ラベリング有りの断層像であるラベル画像と、ラベリングなしの断層像であるコントロール画像とを撮影し、これらの画像の差分画像としてパーフュージョン画像を求める。
【0053】
図9は、ラベル画像撮影用のパルスシーケンス、図10は、コントロール画像撮影用のパルスシーケンスである。パルスシーケンスは左から右に進行する。両図において、(1)は高周波磁場のパルスシーケンスを示す。(2)〜(4)はいずれも勾配磁場のパルスシーケンスを示す。(2)はスライス勾配、(3)は周波数エンコード勾配、(4)は位相エンコード勾配である。なお、静磁場は一定の磁場強度で常時印加されている。
【0054】
図9のパルスシーケンスでは、先ず、ラベリングプレーンLPのスピンのラベリングが行われる。ラベリングは、所定のデューティレシオ(duty ratio)で所定回数印加される矩形波のインバージョンパルスによって行われる。これによって、動脈血中のスピンについてインバージョンによるラベリングが行われる。ラベリングされたスピンは動脈を通じてイメージング領域IRに灌流する。
【0055】
スピンのラベリングには、マグネットシステム100、勾配駆動部130、RF駆動部140およびシーケンス制御部160が関与する。
【0056】
ラベリングの後に、イメージング領域IRについて撮影が行われる。撮影は、エコープラナー・イメージング(EPI:Echo Planar Imaging)によって行われる。すなわち、イメージング領域IRについて90°パルスによるスピン励起が行われる。90°励起の所定時間後に180°励起を行い、次いで周波数エンコード勾配Gfreqおよび位相エンコード勾配Gphaseを所定のシーケンスで印加して、複数のスピンエコー(spin
echo)すなわちビューデータ(view data)を逐次収集する。このようにして得られたビューデータが、データ処理部170のメモリに収集される。メモリにはkスペースが形成される。このkスペースはラベル画像用のkスペースである。
【0057】
図10のパルスシーケンスでは、先ず、ラベリングプレーンLPのスピンのRF励起が行われる。RF励起は、所定のデューティレシオで所定回数印加される正弦波のRFパルスによって行われる。
【0058】
このRFパルスの信号強度は、図9のパルスシーケンスにおけるインバージョンパルスと同等であるが、正弦波であるために全体としてスピンのインバージョンは行われない。このRF励起は、イメージング領域IR上でのスピンのサチュレーション(saturation)効果を、図9のインバージョンパルスと同じにするために行われる。
【0059】
このようなスピン操作の後に、イメージング領域について撮影が行われる。撮影は、EPIによって行われる。すなわち、イメージング領域IRについて90°パルスによるスピン励起が行われる。90°励起の所定時間後に180°励起を行い、次いで周波数エンコード勾配Gfreqおよび位相エンコード勾配Gphaseを所定のシーケンスで印加して、複数のスピンエコーすなわちビューデータを逐次収集する。このようにして得られたビューデータが、データ処理部170のメモリに収集される。メモリにはkスペースが形成される。このkスペースはコントロール画像用のkスペースである。
【0060】
図11に、kスペースの概念図を示す。kスペースにおいて横軸kxは周波数軸であり、縦軸kyは位相軸である。同図において複数の横長の長方形がそれぞれビューデータを表す。長方形内に記入された数字は位相エンコード量を表す。位相エンコード量はπ/Nで正規化してある。Nは64〜512である。位相エンコード量は位相軸kyの中心で0である。中心から両端にかけて位相エンコード量が次第に増加する。増加の極性は互いに逆である。
【0061】
このようなkスペースが、ラベル画像とコントロール画像についてそれぞれ形成される。データ処理部170は、それらkスペースのビューデータをそれぞれ逆フーリエ変換して、ラベル画像およびコントロール画像をそれぞれ再構成する。
【0062】
データ処理部170は、さらに、ラベル画像とコントロール画像との差分画像を求める。差分画像は、インバージョンすなわちラベリングされたスピンが生じる磁気共鳴信号だけに基づく画像となる。これによって、差分画像はパーフュージョン画像となる。
【0063】
ステップS6では、画像表示・記憶制御部606が、パーフュージョン画像を、表示部180に表示させるとともに、その画像データをメモリに記憶させる。
【0064】
(第二実施形態)
第二実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理について説明する。
【0065】
図12に、第二実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理に関わる部分の機能ブロック図を示す。また、図13に、第二実施形態の磁気共鳴イメージング装置によるパーフュージョン撮影処理のフロー図を示す。
【0066】
図12に示すように、第二実施形態による磁気共鳴イメージング装置は、プレスキャン実行部601、アンギオ撮影実行部607、頭部血管検出部608、ラベリングプレーン決定部603、イメージング領域決定部604、パーフュージョン撮影実行部605、および画像表示・記憶制御部606を備えている。アンギオ撮影実行部607および頭部血管検出部608を除く他の各部は、第一実施形態における同名の各部と略同様の機能を有している。
【0067】
ステップS11では、プレスキャン実行部601が、プレスキャンを実行する。
【0068】
ステップS12では、アンギオ撮影実行部607が、プレスキャンとは別のもう1つの予備撮影として、アンギオ撮影を実行する。アンギオ撮影とは、対象1の内部状態を表す画像として、頭部血管の走行状態を表すアンギオ画像を撮影することである。ここでは、一例として、断面が異なる幾つかのコロナル断層像をアンギオ画像として取得する。そして、これらコロナル断層像に対して、最大画素値をAP方向に投影するMIP処理を施し、各コロナル断層像がAP方向すなわちY軸方向に重ねて投影されたアンギオ投影画像を生成する。
【0069】
図14に、アンギオ投影画像の一例を示す。このアンギオ投影画像P2には、頭部血管の太いものや細いものまで種々含まれている。
【0070】
ステップS13では、頭部血管検出部608が、アンギオ投影画像上で頭部血管における主要な血管を検出する。例えば、アンギオ投影画像P2に2値化処理を施して細い血管やノイズを除去した後、モフォロジー(Morphology)処理を施して血管の連続性を補正し、比較的太い血管を主要な血管として検出する。
【0071】
図15に、頭部血管における主要な血管の検出の一例を示す。この例では、総頸動脈CCA、内頸動脈ICA、外頸動脈ECAおよび推骨動脈VAが主要な血管として検出されている。
【0072】
ステップS14では、ラベリングプレーン決定部603が、検出された頭部血管の幾何学的情報を基にラベリングプレーンを決定する。
【0073】
図16に、頭部血管の幾何学的情報に基づくラベリングプレーンの決定の一例を示す。この例では、まず、血管の直線性や太さを基に、アンギオ投影画像P2上で検出された頭部血管の中で、最も太く、Z軸方向に略平行に走る血管である総頸動脈CCAを特定する。次に、血管の分岐点の位置や太さを基に、総頸動脈CCAの下流側にある内頸動脈ICAを特定する。次に、その内頸動脈ICAにおいて、所定の曲率あるいは所定の角度(例えば70°)を超えて大きく屈曲している点のうち最も上流側の屈曲点Qを検出する。そして、この屈曲点Qの代表的な位置、例えば、左右いずれかの屈曲点の位置や、左右屈曲点の平均位置から、実空間上で数cm分に相当する距離ΔZ、例えば1〜10〔cm〕程度分だけ下方(−Z軸方向)に移動した点を点Lbとし、この点Lbを通るXY面をラベリングプレーンLPに決定する。内頸動脈ICAの屈曲点Qの位置は、Z軸方向においてウイリス動脈輪の下端に近いため、このようにして決定されるラベリングプレーンLPは、ウイリス動脈輪の下部数cmの位置となり、血管の分岐や屈曲の少ない、ラベリングプレーンとして最適な位置となる。なお、ラベリングプレーンを決める基準点となる点Lbは、総頸動脈CCAが内頸動脈ICAと外頸動脈ECAとに分かれる分岐点より下流側となるように調整するとよい。これは、外頸動脈ECAが脳の外側を這う動脈であり、通常のパーフュージョン撮影では、このような動脈の血流に対してはラベリングが不要なためである。
【0074】
ステップS15では、イメージング領域決定部604が、イメージング領域を決定する。イメージング領域は、例えば、第一実施形態と同様にプレスキャン画像を基に自動で決定する。
【0075】
ステップS16では、パーフュージョン撮影実行部605が、パーフュージョン撮影を実行する。
【0076】
ステップS17では、画像表示・記憶制御部606が、パーフュージョン画像を、表示部180に表示させるとともに、その画像データをメモリに記憶させる。
【0077】
以上、上記の実施形態によれば、予備撮影された画像における所定の部位の幾何学的情報に基づいてラベリングする位置を決定するので、その所定の部位と一定の位置関係にある、ラベリング位置に適した位置を、ラベリング位置として決定することができ、ラベリング位置を適切に決定することができる。
【0078】
また、上記の実施形態によれば、ラベリングされたスピンの信号強度を実際に測定して適切なラベリング位置を調整するのと違い、位置決定までの時間が短い。
【0079】
なお、発明の実施形態は、上記の実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更・追加等が可能である。
【0080】
例えば、第一実施形態では、点Lv,点Ru,点Rdは、テンプレートT′の中心点OからテンプレートT′に対する垂直線Vに沿って所定距離分だけ移動した点として決定しているが、テンプレートT′の回転角度がさほど大きくならない場合には、テンプレートT′の回転を無視し、中心点OからZ軸方向に沿って所定距離分だけ移動した点として決定してもよい。
【0081】
また、第一実施形態では、プレスキャン画像およびモデル脳のテンプレートを2次元としているが、これらを3次元にすることもできる。
【0082】
また、第二実施形態では、頭部血管の幾何学的情報を基にラベリングプレーンを決定する方法として、アンギオ投影画像から頭部動脈を検出し、内頸動脈の屈曲点に対して所定の位置関係にある面をラベリングプレーンとして決定する方法を用いているが、他の血管における屈曲の変化や分岐点などを基に、ラベリングプレーンを決定するようにしてもよい。また、これらのラベリングプレーンを決定する方法は、水平方向(X軸方向,Y軸方向)、垂直方向(Z軸方向)、または斜め方向に走る所定の血管など、頭部の他の血管にも角度等を調整して適用することができる。
【0083】
また、上記の実施形態では、予備撮影された画像上で脳や頭部血管を検出し、その幾何学的情報を基にラベリングプレーンを決定しているが、予備撮影された画像上で頭蓋骨、鼻骨、咽頭部、脳幹など、血管の分岐や屈曲の少ない領域、例えばウイリス動脈輪の下部から下方に数cmの領域と略決まった位置関係にある部位や解剖学的特徴点を検出し、その幾何学的情報を基にラベリングプレーンを決定してもよい。
【0084】
また、上記の実施形態では、イメージング領域は、検出された脳の幾何学的情報を基に自動で決定しているが、もちろんユーザが手動で決定するようにしてもよい。
【0085】
また、上記の実施形態では、頭部に対するパーフュージョン撮影を例に説明しているが、もちろん、発明は、体幹部に対するパーフュージョン撮影にも適用できる。この場合、体幹部の内部状態を表すコントラスト画像やアンギオ画像を予備撮影し、その予備撮影された画像上でラベリングするのに適した位置と略決まった位置関係にある所定の部位や解剖学的特徴点、例えば心臓、腎臓、肝臓、横隔膜、血管などの臓器や腫瘍、あるいはこれらの位置や大きさ、形状などを特徴付ける解剖学的特徴点などを検出する。そして、その検出された部位や解剖学的特徴点の幾何学的情報、例えば位置、向き、大きさなどを基に、ラベリングプレーンを決定する。
【0086】
また、上記の実施形態では、ラベリングプレーンを決定した後にイメージング領域を決定しているが、決定の順番は逆であってもよい。
【0087】
また、上記のようなラベリング位置の決定は、CASLによるパーフュージョン撮影ばかりでなく、例えばPASL(Pulse Arterial Spin Labeling)、EPISTAR(Echo Planar Imaging and Signal Targeting with Alternating Radio Frequency)、QUIPSS II(Quantitative Imaging of Perfusion Using a Single Subtraction II)等によるパーフュージョン撮影に適用することが可能である。
【0088】
また、上記の実施形態では、ラベリング位置を決定しているが、ラベリング領域を決定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 対象
100 マグネットシステム
102 主磁場コイル部
106 勾配コイル部
108 RFコイル部
130 勾配駆動部
140 RF駆動部
150 データ収集部
160 シーケンス制御部
170 データ処理部
180 表示部
190 操作部
500 クレードル
601 プレスキャン実行部
602 脳検出部
603 ラベリングプレーン決定部
604 イメージング領域決定部
605 パーフュージョン撮影実行部
606 画像表示・記憶制御部
607 アンギオ撮影実行部
608 頭部血管検出部
IR イメージング領域
LP ラベリングプレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の内部のスピンをラベリングするラベリング手段と、
前記ラベリングされたスピンが発生する磁気共鳴信号に基づいて、前記対象の内部状態を示す画像を本撮影する本撮影手段とを備えている磁気共鳴イメージング装置であって、
前記対象の内部状態を示す画像を予備撮影する予備撮影手段と、
前記予備撮影手段により予備撮影された画像における所定の部位または解剖学的特徴点を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された部位または解剖学的特徴点の幾何学的情報に基づいて、前記ラベリングする位置または領域を決定する決定手段とをさらに備えている磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記対象の内部状態は、該対象の頭部の内部状態である請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記検出手段は、脳を検出する請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記脳の位置および大きさに基づいて、前記ラベリングする位置または領域を決定する請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記決定手段は、前記脳の位置および大きさに基づいて、イメージング領域をさらに決定する請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記対象の内部状態は、該対象の体幹部の内部状態である請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記検出手段は、所定の臓器または腫瘍を検出する請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記予備撮影手段は、アンギオ画像を予備撮影し、
前記検出手段は、血管を検出する請求項1、請求項2または請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記決定手段は、前記血管の位置、分岐および曲率の少なくとも1つに基づいて、前記ラベリングする位置または領域を決定する請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記本撮影手段は、パーフュージョン画像を本撮影する請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−61074(P2012−61074A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206420(P2010−206420)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】