説明

磁気共鳴撮像法

本発明は、0.001T〜5Tの範囲の磁場強度において20℃〜40℃の範囲の温度でT1値が5秒以上である高T1剤の過分極溶液を用いることによる侵襲型装置の受動的視覚化の方法を提供する。また、本方法に用いるのに特に有用な装置及び器具、並びに本方法の撮像、手術及び治療における使用方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば手術及び治療中の侵襲型装置の磁気共鳴撮像(MRI)並びにこれらの処置で用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線医学における侵襲処置は広く用いられており、一般化しつつある。これらの処置は通常、フルオロスコピィによるフィードバック下でカテーテル、ガイドワイヤ、生検針などの侵襲型器具及び/又は装置を血管に挿入することによって行われる。これらの処置には数時間を要し、患者及び施術者の双方に大量の放射線が照射されることがある。これらの処置では、患者の体内に挿入された侵襲型装置を肉眼で視認できなくなっても医師が装置の位置を知り又は装置を案内できることが望ましい。身体の軟質部位はX線では極く弱いコントラストしか与えないので、高投与量のヨウ素系造影剤を用いて装置の位置を知る必要が多々生じるが、これは特に腎機能の衰えた患者では問題を生じかねない。
【0003】
近年、MRIガイドによる侵襲処置が重要性を増しつつある。かかるMRIガイド式処置は、手術にMRIを統合した術中処置と、治療のガイド、監視及び制御を行うための侵襲処置との二つの範疇に分類できる。術中処置には一般に開放磁石型MRイメージャが必要とされ、MRIを用いて解剖学的構造を画定すると共に組織機能が手術中に変化する様子を監視できるので望ましい。侵襲処置は一般に患者と極く限られた部分でしか接触しないので、従来の閉鎖磁石型MRイメージャを用いることができる。通例、MRIでは、上述のような方法でコントラストを強調して画質の向上した画像を形成する造影剤又はコントラスト強調媒体を用いる。本出願では、「造影剤」及び「コントラスト強調媒体」などの用語は同義に用いられる。
【0004】
MRIガイドによる侵襲処置又は術中処置の成功は一般に、MRI法が患者の体内に挿入された器具及び装置の正確なリアルタイム視覚化が可能か否かに依存する。一般に、大半の侵襲型装置は、機械的必要性から、金属又はポリマー材料製のいずれかである。例えば、ガイドワイヤは、捩れや曲がりを超えてワイヤを押すことができるように、操作者が一方の端(ワイヤ先端から1メートル離れていることが多い)を捻りながら押したときに先端までの全長にわたって剛体として回転し得るように、十分な剛直性を有する必要がある。そのため、ガイドワイヤは通常、鋼の心材に、テフロン(登録商標)被覆した鋼ワイヤを巻回したもので製造されている。しかし、装置が金属製及び/又は導電性であると、装置はRF(無線周波数)照射に対する遮蔽として作用し、RFが装置内部のコントラスト強調媒体又は造影剤に達するのを妨げ、装置周囲の領域に撮像欠陥を生ずる。一方、ポリマー材料製の装置はMR画像では視認できない。そこで、例えば酸化ジソプロシウムのような常磁性材料の帯を組み込んで標識した不導性装置を用いることが示唆されている。かかる標識帯は、画像にアーティファクトを形成する。さらに、器具又は装置に、常磁性造影剤(例えばGdDTPA)又は「血液プール」造影剤、例えば強磁性、フェリ磁性若しくは超常磁性造影剤を充填することも提案されている。しかし、これらのような従来のMR造影剤からの信号強度は、器具の適切な「リアルタイム」追尾には不十分である。さらに、かかる薬剤の毒性のため、生体内には極く限られた量の薬剤しか投与又は放出することができない。この技術だけでなく、事実上プロトン撮像に依拠した技術におけるもう一つの問題は、組織中の水から発生する膨大な背景信号であり、この背景信号のため時間のかかる3Dデータ取得又は動的スライス位置決定のいずれかが必要になる。
【0005】
米国特許第5211166号では、手術器具内部又は近傍にNMR活性核含有化合物を与えることによって手術器具の一部を視覚化することが提案されている。NMR活性核は、水素、リン、炭素、フッ素及び窒素のNMR活性同位体のようなNMRに適した核であればよい。また、常磁性緩和剤を供給して、NMR活性核の信号を動的核分極(DNP)によって増幅し、器具の視認性を向上させる。しかし、この文献に示唆されているように通常のイメージャ磁場強度(>0.2T)でインビボ分極強調を用いて十分な分極を達成することは、RFパルスの組織及び器具材料への透過力が限られているため困難であり、そのため器具の十分な視覚化を達成することも難しい。磁場を高めた場合に起こるもう一つの問題は、装置を包囲する組織の加熱が増すことである。さらに、常磁性緩和剤を生体組織内に放出できる量も、かかる物質の潜在的毒性のためこの方法の制約となっている。
【0006】
国際公開第02/088766号には、医療器具の内部領域又は器具の隣接領域に過分極気体を導入し、NMRを用いて過分極気体を撮像することによって生体内での医療器具の位置を監視する方法が提案されている。過分極気体は合成血漿に溶解することができるが、限られた範囲でしかない。129Xeガス及びHeガスが具体的に記載されている。しかし、これらの気体はスピン密度が低いため、過分極気体のMR感度は、分極及び磁気回転比などのその他要因が類似しているとすると適当な溶媒中の可溶分子内の核の感度よりも著しく低い。
【特許文献1】米国特許第5211166号明細書
【特許文献2】国際公開第02/088766号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、侵襲型装置の受動的視覚化を促進する改良法、並びにかかる方法に用いられる改良型装置、かかる方法のMR撮像、手術及び治療における使用方法を提供するニーズが存在する。従来技術で公知の関連方法には、被検者に多量の放射線を照射すること、MR画像の歪み及びアーティファクトが不可避であること、用いられている造影剤では所望のコントラストが得られないこと又は適当な線量では造影剤が許容外の毒性を有しかねないなどの短所がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今回、視覚化手順の経時的過程で高T1剤(すなわち磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で5秒以上のT1値を有する薬剤)の過分極溶液を用いることによって、侵襲型装置の受動的視覚化を促進できるという予想外の知見が得られた。そこで、本発明は、かかる高T1剤の過分極溶液を用いて侵襲型装置の視覚化を促進する方法を提供する。さらに、これらの方法に用いるのに特に有用な装置及び器具、並びにこれらの方法の撮像、手術及び治療での使用方法を提供する。
【0009】
したがって、第一の態様では、本発明は、ヒト又はヒト以外の動物の身体での侵襲型装置の視覚化を促進する方法を提供するが、当該方法は、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で5秒以上のT1値を有する過分極固体の高T1剤又はその溶液を含む造影剤を用いて実施され、侵襲型装置の視覚化にはMRIが用いられる。
【0010】
さらに他の態様では、本発明は、ヒト又はヒト以外の動物の身体での侵襲型装置の視覚化を促進する方法を提供するが、当該方法は、身体に侵襲型装置を挿入するステップと、少なくとも該装置を含む身体部分のMR画像を形成するステップと、視覚化手順の経時的過程で装置の内部及び適宜該装置を通して造影剤を導入するステップとを備えており、造影剤が、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で5秒以上のT1値を有する高T1剤の過分極固体又は溶液を含んでなることを特徴とする。
【0011】
さらに他の態様では、本発明は、侵襲型装置がヒト又はヒト以外の動物の身体に挿入して、少なくとも該装置を含む身体部分のMR画像を形成する侵襲的MRI又は術中MRIの改良法を提供するが、当該方法は、視覚化手順の経時的過程で装置の画像での視覚化を促進するために装置の内部及び適宜該装置を通して造影剤を導入するステップを含んでおり、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で5秒以上のT1値を有する高T1剤の過分極固体又は溶液を含んだ造影剤を含むことを改良点とする。
【0012】
さらに他の態様では、本発明は、ヒト又はヒト以外の動物の身体に侵襲型装置を挿入して少なくとも該装置を含む身体部分のMR画像を形成して該装置を視覚化する診断、手術又は治療の方法に用いられるMR造影剤の製造に、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で5秒以上のT1値を有する高T1剤の過分極固体又は溶液の使用する方法を提供する。
【0013】
さらに他の態様では、本発明は、本発明の方法に用いるために炭素繊維のような中間導電性材料、例えば炭素繊維複合材で製造された装置を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の観点は特許請求の範囲及び本明細書から明らかとなろう。
【0015】
本出願ではヒト以外の動物の身体としては、哺乳類、鳥類又は爬虫類の身体が挙げられる。「T1」は通常は秒単位で測定される縦緩和時間を意味し、「T」はテスラを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の方法に用いられる造影剤は、高T1剤すなわち磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃でT1値が5秒以上の薬剤の過分極固体又は溶液を含んでなる。かかる薬剤は、例えば国際公開第93/35508号から周知であり、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0017】
適当な高T1剤は、ゼロ以外の核スピンをもつ核(分極性核)を有する核を含んでおり、好ましくは、Hに加えて、19F、Li、13C、15N、29Si及び31Pからなる群から選択される核である。特に好ましくは、高T1剤は13C核、15N核、19F核、29Si核及び31P核からなる群から選択される核を含んでなり、13C核及び15N核が特に好ましい。また、特に少量かつ低濃度でしか体内に投与されない造影剤、又は例えば処置中に装置の内部の閉回路に保持して生体組織と接触しないようにした造影剤であれば、77Se、111Cd、113Cd、115Sn、117Sn、119Sn、123Te、125Te、171Yb、195Pt、199Hg、203Tl、205Tl及び207Pbのような他の核を用いてもよい。
【0018】
好ましい高T1剤は低毒性の生体適合性化合物である。これらの化合物は、固体形態で、例えば適当な溶媒中の分散液として用いてもよいが、高T1剤の溶液(好ましくは生体許容性の溶媒中のもの)が好ましく用いられる。特に好ましい高T1剤は分子量200D(ドルトン)未満の水溶性分子である。本発明の方法に用いられる造影剤は、分極性核を天然存在比で含む高T1剤を含んでなるものであってよい。さらに好ましくは、高T1剤は分子の特定の位置で濃縮される。好ましくは、高T1剤は、分子の1箇所又は複数の特定の位置で13C核及び/又は15N核濃縮されている。さらに他の好ましい実施形態では、これら濃縮高T1剤は重水素でも標識される。好ましい13C濃縮高T1剤は、O、S、C又は二重結合のような1以上のMR不活性核に包囲されている1以上の13C核を含んでなり、例えば高T1剤は、1以上のカルボニル又は四級炭素の位置で濃縮された13Cである。好ましい化合物は、アミノ酸、ペプチド、核酸、炭水化物、及び生体の正常な代謝サイクルで生ずる中間体又は代謝産物のような体内で自然に発生する化合物、並びに認可医薬品である。
【0019】
切除処置に用いられる高T1剤としては、13C濃縮カルボン酸、及びエタノールのようなアルコールがある。代替的には、切除処置を一般的なカルボン酸、及びエタノールのようなアルコールと、標識として添加される少量の分極化合物、例えば13C標識した化合物と共に行うこともできる。治療の方法に用いる場合には、好ましくは13C及び/又は15N濃縮適当な治療薬、例えばF−ウラシル及び受容体ターゲティング薬を高T1剤として用いてよい。
【0020】
本発明の方法に用いられる造影剤は好ましくは、核が濃縮されており、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃でT1緩和時間が10秒以上、好ましくは30秒以上、特に好ましくは60秒を超え、さらに一段と好ましくは100秒を超える高T1剤の過分極固体又は溶液を含んでなる。
【0021】
過分極高T1剤の製法は、例えば国際公開第99/35508号及び国際公開第99/24080号から公知である。好ましい方法は、動的核分極(DNP)法及びパラ水素(PHIP)法を含む。これらの方法を用いることにより、T1が5秒以上の過分極高T1剤を得ることが可能になる。
【0022】
「侵襲型装置」とは、特に限定されないが、バルーンカテーテルを始めとするカテーテル、バルーン、光ファイバー、ガイドワイヤ、穿刺針、例えば生検針、電極、電極リード、インプラント及びステントのような侵襲処置に用いられる任意の侵襲型装置及び器具を意味する。
【0023】
造影剤を充填した装置が特定領域(ROI; region of interest)に達するまで造影剤をRF(無線周波数)照射から遮蔽することが望ましい場合には、炭素繊維複合材のような炭素繊維を含有する材料を用いればよいことが判明している。例えば、炭素繊維材料を含むカテーテルを用いると、カテーテルの配置中に用いられるRF照射による造影剤の脱分極を防ぐ。このように、造影剤はROIに放出されるまで装置の内部で「不可視」の状態に保たれる。さらに、炭素繊維材料は、金属に比べて導電性が低く、撮像中に撮像アーティファクトや組織加熱を生じない。炭素繊維材料製の侵襲型装置が本発明の方法に好適に用いられ、所載の方法に用いられるかかる装置は本発明のさらに他の観点を形成する。
【0024】
本発明の侵襲的処置又は術中処置は、ヒト又はヒト以外の動物の身体の被検査部分の二次元又は好ましくは三次元のプロトン画像の撮影で開始することができる。次いで、侵襲型装置、例えばカテーテルを、脈管構造、例えば大腿動脈、又は組織内に導入する。処置中に装置を視覚化することが望ましい場合には、装置は好ましくは、外部ダクトを通じて造影剤で絶えず充填される。造影剤から得られる信号によって、リアルタイム視覚化、及び3Dプロトン画像での装置の定位が可能になる。特定領域(ROI)のプロトン画像を処置中に更新して、例えば運動を補償することができる。また、装置の体内への導入中に、投与量の造影剤を脈管構造又は組織に注入することも可能である。例えば、動脈へのカテーテルの導入中に、装置から投与量の造影剤を放出することが可能である。このようにして、例えば血流及び器官への血液供給をリアルタイムで検査することが可能になる。カテーテルが特定領域に達したら、動脈の罹患部位でのステントの配置と適宜組合せたバルーンカテーテルによる侵襲処置又は術中処置、例えば経皮経管アンジオグラフィ法(PTCA)を促進するために造影剤を放出することができる。
【0025】
以上の段落で述べた方法は、ヒト又はヒト以外の動物の身体の放射線に特に敏感な被検体又は部分又は解剖学的構造において行われる手術処置及び治療処置に特に好ましい。かかる被検体の例は、例えば妊婦及び幼児であり、かかる部分又は解剖学的構造の例は、例えば生殖器である。女性では、全ての受胎問題の約40%が卵管の閉塞に起因する。従って、本発明の方法を卵管の検査手順に利用して、必要に応じてカテーテルを経膣で挿入することによりかかる閉塞を侵襲的に開口するように卵管を手術することができる。この方法は本発明のさらに他の観点を形成する。
【0026】
所載の方法はまた、固形腫瘍の診断、精密生検及び手術に有用である。具体的には、本発明の方法を用いることにより、現在用いられている標準的な方法よりも遥かに効率よく前立腺及び乳房の腫瘍の標本を採取することができ、これにより軟組織を視覚化すると同時に例えば生検針の高精度ガイドを可能にすることができる。
【0027】
所載の方法はまた、切除処置に用いて、臨床用装置、例えば間質レーザ誘起温熱療法(LITT)、集束超音波及びRF切除の配置を案内することもできる。これらの処置では、用いられている器具を厳密に正確な位置に配置した後に、切除処置、例えば固形腫瘍の破壊を行うことが最も重要である。本発明の方法を用いることにより、カテーテルを厳密に正しい位置に配置して、血管及び周囲組織、並びに切除したい腫瘍又は構造を切除処置中に監視することができる。
【0028】
本発明のさらに他の観点は、単独で又は上述の方法と併用でのいずれかで切除処置に薬品を用いるものである。装置、例えばカテーテルを、RF透過性のカテーテルを造影剤と共に用いるか又は炭素繊維カテーテルを用いるかのいずれかにより正しい位置に配置するときに、カテーテルを、過分極性核を含有する又は濃縮した切除処置に有効な化学物質で充填することができる。かかる化学物質は例えばカルボン酸又はアルコールである。代替的には、通常のカルボン酸又はアルコール、例えばエタノールを、標識としての少量の分極化合物、例えば高T1剤と共に用いて切除を行うことができる。次いで、切除処置をMRIによって監視することができる。例えば13C又は15N濃縮化合物が好ましい。13C濃縮エタノールを過分極させてこの目的に用いることができる。
【0029】
本発明のさらに他の観点は、本発明の方法を治療に用いることに関する。上述のように、カテーテルのような装置を治療を必要とする領域に正確に配置することができ、過分極性化合物、好ましくは13C及び/又は15Nのような分極性核を濃縮した化合物を該当部位に滴下注入することができる。次いで、治療効果をMRIで追跡することができる。化合物の具体例は、例えば13C濃縮F−ウラシル、受容体ターゲティング薬(例えばペプチド)又は殺菌剤、殺真菌薬等がある。ゆえに、造影剤がコントラスト強調媒体及び治療活性媒体の二重の作用を有する。代替的には、治療活性化合物が、造影剤として作用する少量の分極化合物を含有する通常の治療化合物であってもよい。
【0030】
以上に述べた方法の最適な結果を達成するためには、パルスシーケンスのような撮像パラメータを慎重に選択すべきである。最近のMRIスキャナには高速プロトン撮像のための多くの方法が標準装備されており、当業者には、他の核に適するようにソフトウェアを書き換える方法は明らかである。特に適当な方法は、適宜画像のスライドウィンドウ式更新を併用した螺旋型半径方向走査によるk空間サンプリングである。さらに他の選択肢としては、赤緑立体鏡又は多くの公知の立体視手法の任意のものによるリアルタイム立体視を可能にするインタリーブ式立体投影の利用がある。
【0031】
以下、非限定的な実施例及び/又は実施形態によって本発明を例示的に説明する。
【0032】
図1は、本発明に従って過分極高T1剤を含んでなる造影剤と共に用いられるインターベンショナルMRI侵襲型装置(1)の第一の実施形態を示す。侵襲型装置(1)は直径Dmmの中空の細長い本体(3)を含む。本体(3)は中央管腔(5)及び厚みdmmの壁(7)を有する。侵襲型装置(1)は、ヒト又はヒト以外の動物の身体に挿入するためのものであり、このため用いられる目的に応じて、例えば穿刺針として用いたい場合には剛性、カテーテルとして用いたい場合には可撓性といったように剛性にも可撓性にもすることができる。本体(3)は、炭素繊維複合材のような炭素繊維を含有する材料で製造され、かかる材料はRF照射に対して不透過性であることが判明している(後に詳述する)。このことは、炭素繊維複合材は導電率が銅の約600分の1で絶縁性であると一般に考えられていることから、驚くべきことである。
【0033】
本実施形態では、侵襲型装置(1)は、ヒト又はヒト以外の動物身体の体外に配置するためのものであって好ましくは造影剤供給部に連結可能な第一の開いた端部から、ヒト又はヒト以外の動物の身体に配置又は挿入するためのものであって造影剤をROI、例えば血管又は体腔内に放出する起点となる第二の開いた端部まで、過分極高T1剤を含んでなる造影剤を輸送するのに適している。侵襲型装置(1)はRF照射に対して不透過性であるので、過分極高T1剤を含んでなる造影剤は、本体(3)によって遮蔽されている間はRF照射によって脱分極されることがない。
【0034】
処置全体を通じて装置を視覚化することが望ましい場合には、装置の内部の造影剤から十分な信号を与えるようにRF(無線周波数)照射について透過性の材料で装置を製造すべきである。ガラス繊維強化ポリマー材料は、ガイドワイヤ、光ファイバー、電極及び電極リードのような装置に適した物理的特性を有することが公知である。PEEK又はPSUのような他の構造ポリマーも適当な特性を有する。穿刺針及び類似装置は、稠密ジルコニアのようなセラミック材料を、脆性を小さくするために適宜ポリマー層で被覆したもので製造してもよいし、又はガラス繊維強化プラスチック材料で製造してもよい。造影剤を収容するためのキャビティを有しない装置には、好ましくは装置の長さ方向に沿って延在して好ましくは造影剤の循環を促進するキャビティを設けるべきである。カテーテルは例えば、造影剤の循環を可能にする二重壁を設けられていてもよい。処置中に外部ダクトを介して装置に造影剤を再充填することもかかる構成によって可能になる。
【0035】
図3は、本発明の高T1剤を含んだ造影剤と共に用いられるインターベンショナルMRI侵襲型装置(31)の第二の実施形態を示す。侵襲型装置(31)は、直径Dmmの中空の細長い本体(33)及び厚みdmmの壁(37)を含む。本体(33)は第一の管腔(35′)及び第二の管腔(35″)を含んでおり、これらの管腔は両方とも本体(33)の開いた第一の端部(39)から本体(33)の閉じた第二の端部(41)まで延在している。第一の管腔35′及び第二の管腔35″は中央内部の分割壁(43)の両側に形成されており、分割壁(43)は一方の側の本体(33)の内面から好ましくは正反対側の本体(33)の内面まで延在している。
【0036】
内部の分割壁(43)は閉じた第二の端部(41)までの全長にわたって延在している訳ではなく、このため、第一の管腔(35′)及び第二の管腔(35″)は装置(31)の第二の端部(41)の近くでは分割壁(43)の開放部(45)を介して連通している。これにより、例えば開いた第一の端部(39)において第一の管腔(35′)に導入された流体が、第一の管腔(35)の長さ方向に沿って循環し、次いで閉じた第二の端部(41)の近くで又は端部(41)の位置で分割壁(43)の開放部(45)を通過して、第二の管腔(35″)を介して開いた第一の端部(39)まで戻ることが可能になる。侵襲処置時に利用する場合には、装置(31)は好ましくはRF照射に対して透過性の材料で形成され、造影剤、好ましくは過分極高T1剤を含んだ造影剤は、第一の管腔(35′)を介して導入され第二の管腔(35″)を介して抽出されることにより侵襲型装置(31)内を循環する。このようにして、古い造影剤が装置(31)から抽出されるのに伴って新たな造影剤を装置(31)に導入することができる。
【0037】
本発明のさらに他の実施形態では、中空の細長い本体を備えた侵襲型装置に、患者の体内に導入される方の装置の端部まで延在する第三の管腔を設ける。この管腔を用いて、装置を配置するために用いるガイドワイヤを収容することができる。
【0038】
本発明のさらに他の実施形態では、中空の細長い本体並びに第一及び第二の管腔を備えた侵襲型装置(例えば図3に示す装置のようなもの)に、ヒト又はヒト以外の身体の体内に導入される方の装置の端部まで延在する第三の管腔を設ける。この第三の管腔は、ヒト又はヒト以外の身体の体内に導入される方の端部で開放していてよく、器具を収容するために用いることができる。例えば第三の管腔に、一旦、装置が本体の内部の適当な位置まで誘導されると膨張することのできる膨張式バルーンを設けることができる。代替的には、管腔は生検針又はステント等を収容することもできる。かかる装置の一例を図4aに断面図で示す。
【0039】
本発明のもう一つの実施形態では、侵襲型装置に3本よりも多い管腔を設け、うち2本に流体、例えば造影剤の循環を可能にする相互接続を形成し、他のものはヒト又はヒト以外の身体に器具及び/又は流体を導入するのに用いるようにすることができる。かかる装置の一例を図4cに断面図で示す。
【実施例】
【0040】
以下、非限定的な実施例で本発明の特徴を説明する。
【0041】
実施例1
過分極コハク酸ジメチル(1−13C)の水溶液をガラス繊維強化プラスチックのガイドワイヤとして成形された閉ループ内で循環させた。かかる状況でのこの化合物のT1は70秒である。このガイドワイヤをラットの胃に挿入して、毎秒4枚ずつ画像を13Cの周波数で撮像した。画像を色符号化してラットのプロトン画像に重ね合わせ表示した。図5の画像で分かるように、ラットの体内でガイドワイヤが鮮明に見える。
【0042】
実施例2
図2は、直径Dが10mmで壁(7)厚みdが1mmの炭素繊維製本体(3)を備えた侵襲型装置(1)を用いて行った実験の結果を示す。炭素繊維の導電性は約1×10S/mであった(参考:銅は5.9×10S/m)。装置(1)を水を入れたシリンジ内に配置して、2.4T磁石の内部で撮像した。図2aに示すようなエコー時間を1.8msとしたグラディエントエコー画像及び図2bに示すようなエコー時間を5msとした同画像を取得した。いずれのエコー時間でも同様の結果が得られた。侵襲型装置の第二の開いた端部の近くに僅かな磁化率アーティファクト(13)が見られる。装置の管腔(3)からは信号は得られず(但し第二の開いた端部の近くを除く。無線周波数放射線がこの第二の開いた端部から管腔(3)に入る)、侵襲型装置の壁が無線周波数放射線に対して不透過性であることを示している。
【0043】
実施例3
図4a〜4dには、侵襲型装置の可能な実施形態の断面例を示す。
【0044】
図4aは2本の同心管(401、403)で形成された侵襲型装置を示しており、開放系式ウェブ(405)によって内管(403)が外管(401)の中心の所定位置に保持されている。第一の管腔(407)が内管の内側に形成されており、第二の管腔(409)が2本の管(401、403)の間の円環空間によって形成されている。
【0045】
図4bは、2本の同心管(411、413)で形成された侵襲型装置を示しており、2本の連続式ウェブ(415′、415″)によって内管(413)が外管(411)の中心の所定位置に保持されている。第一の管腔(417)が内管(413)の内側に形成されており、第二の管腔(419′)及び第三の管腔(419″)が2本の管(411、413)とウェブ(415′、415″)との間の半円環空間によって形成されている。
【0046】
図4cは、4本の管腔(423)を内部に形成した細長い本体(421)を備えた侵襲型装置を示す。
【0047】
図4dは細長い本体(431)を備えた侵襲型装置を示しており、中央管腔(433)、及び本体(431)の外壁に取り付けられた2本の三日月形管腔(435′、435″)を有している。
【0048】
好ましくは、これらの装置の本体の寸法Dは20mm未満、最も好ましくは10mm未満であって1mmよりも大きく、また装置の本体の寸法d(壁厚)は好ましくはD/5未満であり、最も好ましくはD/10未満である。
【0049】
侵襲型装置のさらに他の実施形態及び変形も特許請求の範囲内で可能である。
【0050】
実施例4
準備
カテーテル(Cobra、M、Fr5のもの、ベルギー、Leuven3001、Terumo Europe N.V.製)をブタの左冠状動脈内に配置した。可動式X線アームを用いて、標準的なX線造影剤を用いたX線撮像によってカテーテルの正確な位置を確認した。図6は、得られたX線アンジオグラムを示す。過分極プロピオン酸ヒドロキシエチル(1−13C)の水溶液を製造して造影剤として用いた。分極は約28%であり、プロピオン酸ヒドロキシエチル(1−13C)の濃度は約0.5Mであった。MR撮像では、1.5テスラのスキャナ(Magnetom Sonata、独国、Erlagen、Siemens Medical Solutions製)に多核拡張部を送受信13Cコイル(独国、Wurzburg、RapidBiomedical製)と共に取り付けたものを用いた。問題となるFOVについての投影角度を選択するためには標準的なプロトン走査を用いた。完全均衡定常状態パルスシーケンスを用いて13C画像を得た。
【0051】
侵襲処置の実施
カテーテルを冠状動脈から引き込むと同時にカテーテルを介して造影剤を注入しながら13C画像(図7に示す)を取得した。次の撮像パラメータを用いた。TR/TE/FA=5.6ms/2.8ms/70°及びFOV/マトリクス=128×256mm/64×128。ゲートは用いず、各々の画像を350msで形成した。図6は、侵襲処置時にカテーテルを視覚化する本発明の方法の能力を明らかに示す。
【0052】
実施例5
実施例4に記載するようにして準備を行った。
【0053】
侵襲処置の実施
カテーテルを介した造影剤の注入中に13C画像を取得した(うち5枚の画像を抜き出して図8に示す)。心ゲートを適用して心臓サイクル当たり1枚の画像を形成した。次の撮像パラメータを用いた。TR/TE/FA=5.1ms/2.6ms/70°、及びFOV/マトリクス=112×256mm/56×128。各々の画像を350msで形成した。図8の画像eは心筋を示しており、アンジオグラフィ法に加えて撮像データから灌流データを抽出することもできることを示している。
【0054】
実施例6
実施例4に記載するようにして準備を行った。
【0055】
侵襲処置の実施
カテーテルを介した造影剤の注入中に13C画像を取得した(うち1枚を図9に示す)。遡行ゲートを適用した。この方法は、同時に取得された心ゲート信号に従って画像データを再編成するものである。心臓サイクル(心収縮期−心拡張期)を22の時相に分割して16を再構成した。1心拍よりも多い心拍からの撮像データが一連の画像の各々に表現されている。空間分解能が2.0×2.0mmである場合には、各々の系列を完了するのに約10心拍が必要であった。次の撮像パラメータを用いた。TR/TE/FA=5.1ms/2.6ms/70°、及びFOV/マトリクス=128×256mm/64×128。全走査時間は8秒間であった。また、過分極でない標準的なプロトン撮像を用いて比較画像系列を取得した。図9aは、心臓サイクルの16時相の系列から得た1枚の13C画像を示す。心筋の灌流が明らかである。対応する過分極でないプロトンスライスを図9bに示す。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の侵襲型装置の第一の実施形態を示す図である。
【図2】実施例2に記載されて用いられている炭素繊維管を示す図である。
【図3】本発明の侵襲型装置の第二の実施形態を示す図である。
【図4a】本発明の侵襲型装置のさらに他の実施形態の断面の模式図である。
【図4b】本発明の侵襲型装置のさらに他の実施形態の断面の模式図である。
【図4c】本発明の侵襲型装置のさらに他の実施形態の断面の模式図である。
【図4d】本発明の侵襲型装置のさらに他の実施形態の断面の模式図である。
【図5】実施例1に記載するようにしてガイドワイヤを挿入したラットの胃を示す図である。
【図6】ブタの左冠状動脈に配置されたカテーテルのX線アンジオグラムを示す図である。
【図7】実施例4に記載するようにしてブタの左冠状動脈からカテーテルを引き込むと同時に過分極高T1剤を含んだ造影剤を注入しているときに得られた一連の13CMR画像を示す図である。
【図8】実施例5に記載するようにしてブタの左冠状動脈に挿入されたカテーテルを介して過分極高T1剤を含んだ造影剤を注入しているときに得られた一連の13CMR画像を示す図である。
【図9a】実施例6に記載するようにしてブタの左冠状動脈に挿入されたカテーテルを介して過分極高T1剤を含んだ造影剤を注入しているときに遡行ゲートを用いて得られた13CMR画像を示す図である。
【図9b】図9aに対応する過分極でないプロトン画像を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1、31 MRI侵襲型装置
3、33、421、431 本体
5、35′、35″、407、409、417、419′、419″、423、433、435′、435″ 管腔
7、37 壁
13 磁化率アーティファクト
39 開いた端部
41 閉じた端部
43 分割壁
45 開放部
401、411 外管
403、413 内管
405、415′、415″ ウェブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又はヒト以外の動物の身体に侵襲型装置を挿入して少なくとも該装置を含む身体部分のMR画像を形成して該装置を視覚化する診断、手術又は治療の方法に用いられるMR造影剤の製造に対する、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で5秒以上のT1値を有する高T1剤の過分極固体又は溶液の使用。
【請求項2】
前記高TI剤がゼロ以外の核スピンをもつ核を含んでなり、好ましくは19F、Li、13C、15N、29Si及び31Pからなる群から選択される核、特に好ましくは13C核、15N核、19F核、29Si核及び31P核からなる群から選択される核、最も好ましくは13C核及び15N核からなる群から選択される核を含んでなる、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記高TI剤が、77Se、111Cd、113Cd、115Sn、117Sn、119Sn、123Te、125Te、171Yb、195Pt、199Hg、203Tl、205Tl及び207Pbからなる群から選択される核を含んでなる、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記高TI剤が、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で10秒以上のT1値を有し、好ましくは30秒以上、さらに好ましくは60秒以上であり、最も好ましくは100秒を超えるT1値を有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記侵襲型装置が、造影剤を保持するキャビティを含んでおり、該キャビティには好ましくは造影剤の循環及び添加を容易にする外部ダクトが取り付けられる、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記侵襲型装置が、炭素繊維を含有する中間導電性材料で製造される、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記侵襲型装置が、ヒト又はヒト以外の動物の身体の組織及び/又は脈管構造に挿入される、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
前記造影剤が治療活性媒体でもある、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
治療活性媒体は侵襲型装置を介して特定領域に滴下注入される、請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記方法が、卵管を検査し、適宜手術する方法である、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
前記方法が、腫瘍の診断及び適宜手術の方法である、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
前記方法が、生検、好ましくは乳房又は前立腺の生検による診断の方法である、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
前記方法が切除処置であって、該切除処置に有効な追加化合物が侵襲型装置を介して導入される、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
侵襲型装置を身体に挿入するステップと、少なくとも該装置を含む身体部分のMR画像を形成するステップと、視覚化手順の経時的過程で装置の内部及び適宜該装置を通して造影剤を導入するステップとを含む、ヒト又はヒト以外の動物の身体での侵襲型装置の視覚化を促進する方法であって、上記造影剤が、磁場強度0.001T〜5T及び温度20℃〜40℃で5秒以上のT1値を有する高T1剤の過分極固体又は溶液を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法において造影剤と共に用いられる侵襲型装置であって、炭素繊維を含有する材料で製造された中空の細長い本体を備える侵襲型装置。
【請求項16】
中空の細長い本体が無線周波数放射線に対して不透過性であることを特徴とする請求項15記載の侵襲型装置。
【請求項17】
中空の細長い本体が炭素繊維複合材で製造されていることを特徴とする請求項15記載の侵襲型装置。
【請求項18】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法において造影剤と共に用いられる侵襲型装置であって、第一の端部と第二の端部を有する中空の細長い本体と、第一の端部から第二の端部まで延在する第一の管腔と、第一の端部から第二の端部まで延在する第二の管腔とを備えており、第一の管腔が第二の端部の近くで第二の管腔と連通していることを特徴とする侵襲型装置。
【請求項19】
3以上の管腔を含むことを特徴とする請求項18記載の侵襲型装置。
【請求項20】
中空の細長い本体が無線周波数放射線に対して不透過性であることを特徴とする請求項18又は請求項19記載の侵襲型装置。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−507871(P2006−507871A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555161(P2004−555161)
【出願日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【国際出願番号】PCT/NO2003/000395
【国際公開番号】WO2004/048988
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(396019387)アメルシャム ヘルス アクスイェ セルスカプ (82)
【Fターム(参考)】