磁気特性評価装置および磁気特性測定用試料片
【課題】応力印加状態での磁気特性を評価を可能とする。
【解決手段】試料片を中央部とこれから放射方向に延びる6以上の偶数個の延出部とを有する形状とし、直径方向にある各組の延出部を通る軸を応力印加軸とする。この試料片に対して少なくとも3軸方向より応力を応力印可手段により印加する。その後、応力を印可した状態にて試料片の磁気特性を測定する。圧縮、引張方向だけでなくせん断方向の応力の作用させた状態で磁気特性を評価することができる。
【解決手段】試料片を中央部とこれから放射方向に延びる6以上の偶数個の延出部とを有する形状とし、直径方向にある各組の延出部を通る軸を応力印加軸とする。この試料片に対して少なくとも3軸方向より応力を応力印可手段により印加する。その後、応力を印可した状態にて試料片の磁気特性を測定する。圧縮、引張方向だけでなくせん断方向の応力の作用させた状態で磁気特性を評価することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は磁気特性評価装置および磁気特性測定用試料片、詳しくは簡易型任意応力磁気特性評価システムに関する。特に、各種磁性材料についての応力を考慮した二次元磁気特性を測定可能とする磁気特性評価装置および測定に使用される試料片に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器に用いられる電磁鋼板は応力に対して敏感であり、圧縮応力を加えると磁気特性は劣化し、引張応力を加えるとそれは向上する。電磁鋼板にあって応力と磁気特性との関係を評価することは重要である。すなわち、磁性材料を電気機器等に加工して使用する場合、その製造過程で切断、かしめ、据付等により応力が印加され、残留応力やひずみの影響によって磁性材料の磁気特性が変化してしまう。そのため、応力を考慮した二次元磁気特性の測定技術が要求されている。
従来、二軸応力磁気特性評価システムとしては、非特許文献1である「二軸引張応力下におけるベクトル磁気特性測定システムの応力印加機構の検討」電学論A130巻4号pp403〜408に記載されたものが知られていた。
このものは、十字形に切り出した無方向性電磁鋼板を測定試料片としてその中央部に三軸ひずみゲージを貼り付け、直交する2軸方向から応力をこの試料片に印加したとき、その各方向のひずみ値から応力を求め、応力と磁気特性との関係を求めるものである。
詳しくは、十字形試料片に三軸ひずみゲージを貼り、その上からBコイルを巻き、十字形試料片を上下の試料ホルダで挟み込む。下側の試料ホルダにHコイルを設置する。試料ホルダに励磁コイルをはめ込み、これを下側の励磁ヨークと測定装置の土台に設置し、チャックで十字形試料片を固定した。
磁気特性の測定には、D/Aコンバータによって励磁波形を作成し、電力増幅器を介して試料が励磁される。BコイルとHコイルとから得られた誘起電圧をD/Aコンバータによって取り込み、磁束密度波形が正弦波となるように制御した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「二軸引張応力下におけるベクトル磁気特性測定システムの応力印加機構の検討」電学論A130巻4号pp403〜408 2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来技術にあっては、測定試料片に対して平面内で直交する2軸方向から応力を印加して磁気特性を評価するものであったため、平面内での圧縮応力・引張応力の印加に留まり、せん断方向の応力を同時に印加することができず、より実機状態に即した磁気特性の評価ができないという課題を有していた。
【0005】
そこで、発明者は、鋭意研究の結果、測定試料片に対して少なくとも異なる3軸方向から応力を印加することにより、各種磁性材料についての平面内での圧縮応力・引張応力と同時にせん断応力を印加した状態での磁気特性が測定可能となることを知見してこの発明を完成させた。
【0006】
この発明は、実機に即した応力印加状態での磁気特性を評価可能とした磁気特性評価装置を提供することを目的としている。
この発明は、同じく実機に即した応力印加状態での磁気特性を評価可能とした磁気特性測定用試料片を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、磁性材料の薄板からなる試料片に対して、平面視してその試料片の中央部領域で交差する少なくとも3軸方向からの応力を印加可能な応力印加手段と、この応力印加手段により上記軸方向への応力が印加された状態での上記試料片に対してその磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置である。
応力印加手段としては、試料片についてその軸方向について外力を付加可能なあらゆる手段を適用することができる。例えば試料片の端部をクランプし、この試料片の端部全断面に対して引張・圧縮方向に均一な荷重を印加することができるアクチュエータなどで構成することもできる。なお、加える軸方向の応力としては少なくとも異なる3軸方向とし、例えば4軸でもよい。
磁気特性測定手段は、平面内で直交する2方向から励磁する励磁器を含み、公知のBコイル、Hコイルを備えるものとする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、試料片に対して平面内での圧縮・引張応力とともにせん断応力を同時に印加した状態における磁気特性を測定することができる。
例えば試料片である電磁鋼板について応力印加状態での磁束密度、磁界強度を測定することができ、電磁鋼板の損失を正確に評価することができる。
ここで、平面内で少なくとも3軸方向から外力を試料片に対して印加することで、この試料片の中央部領域において平面内での2次元的な応力(引張・圧縮応力)の印加と同時に、この試料片の中央部領域にあってせん断応力をも印加することができる理由は、以下の通りである。
図16に各応力成分と応力軸に印加した応力成分との関係を示す。各軸に印加する応力と、x成分及びy成分の応力σx,σy,とせん断応力σxyとの関係は次式で与えられる。
ここで、σα,σβ,σγは各軸に印加する応力、α,β,γは応力の印加角度である。上式によれば、3軸方向から応力を同時に印加することによって、x及びy成分の応力だけでなく、せん断応力を制御することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁気特性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する試料片に対して、上記各両端部をそれぞれチャックする少なくとも6個のチャックと、この試料片にあって上記各軸線方向への応力をそれぞれ印加する応力印加手段と、この応力印加手段により1または複数の上記軸線方向に応力が印加された上記試料片に対して磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置である。
試料片は、平面視してその中央部で、その軸線同士が等角度をなして交差する形状、全体として6つのアーム(アームは軸線方向において同一断面を有する)が中央部より60度間隔で延出した形状として形成することができる。また、4軸方向に軸線を有する形状では、8本のアームが45度間隔で放射方向に延出した形状とすることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、試料片に対して少なくとも3つの軸方向から応力を印加することにより、平面的な圧縮・引張応力のみならず、せん断方向の応力を同時的に印加することができる。そして、この印加状態での磁気特性の測定・評価をおこなうことができる。磁気特性測定手段は、平面内での交差する2方向から励磁するとともに、その磁束密度、磁界強度を測定することができるものとする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する磁気特性測定用試料片である。
換言すると、この磁気特性測定用試料片は、一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視したとき以下の形状を有している。すなわち、この面内で同一厚さの試料片の平面形状は、少なくとも3枚の短冊状板片についてその各中央部が重ね合わせるように交差させた結果、これら短冊状板片の各両端部(長手方向両端部)がその中央部(交差部)から放射方向に延び出た形状である。中央部から放射方向(すなわち、対角線方向位置)に複数のアーム状(足状)部分が延出した形状である。
各短冊状板片としては、所定長さ、所定幅の矩形の板片で各板片が同一寸法・同一形状とすることができる。
なお、これら短冊状板片の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状とは、例えば2枚の短冊片を使用したときの十文字形状に対してさらに1枚の短冊片を付加した雪の結晶軸を示す形状や、2枚の短冊片を付加して合計4枚の短冊片を交差させた形状とすることを意味する。
さらに、付言すると、一枚の磁性材料製の薄板であり試料片は、この薄板を打ち抜き、切り出しなどの加工により製作される。その際磁気特性の測定領域である薄板中央部は例えば円形、正六角形、正八角形などとし、この円の中心、六角形の中心などで軸線が交わるようにアーム状の端部を半径方向に延出させることもできる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、上記各軸線が等角度で1点で交差する請求項3に記載の磁気特性測定用試料片である。
例えば十文字形状ではなく、雪の結晶軸方向を示すように6放射方向に各アーム片が延出した形状や、8放射方向にアーム片が突出した形状の試料片が想定することができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4に記載の発明によれば、各種磁性材料について、残留応力やひずみの影響によって変化する磁気特性を評価することが可能になる。また、測定試料片に対してその磁気損失を低減することができる最適な応力条件を算出することが可能となる。さらに、最適な応力を印加した素材を組み立てることにより、例えば低損失な電気機器を開発することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置における試料片を模式的に示す平面図である。
【図2】この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置におけるケースと試料片との配置を模式的に示す平面図である。
【図3】図2におけるA−A線矢視断面図である。
【図4】図2におけるB−B線矢視断面図である。
【図5】この発明の実施例1に係る励磁ヨークとホルダとの位置を模式的に示す断面図である。
【図6】この発明の実施例1に係る試料片と励磁コイルとの配置を模式的に示す平面図である。
【図7】この発明の実施例1に係る試料片と励磁コイルとの配置を模式的に示す正面断面図である。
【図8】この発明の実施例1に係るチャック機構を模式的に示す平面図である。
【図9】図8におけるA−A線矢視断面図である。
【図10】図8におけるB−B線矢視断面図である。
【図11】図8におけるC−C線矢視断面図である。
【図12】この発明の実施例1に係る試料片と励磁ヨークとの他の配置を模式的に示す平面図である。
【図13】この発明の実施例1に係る試料片と励磁ヨークとの他の配置を模式的に示す正面である。
【図14】この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置の主要部を模式的に示す斜視図である。
【図15】この発明に係る試料片の他の例を示す平面図である。
【図16】この発明に係る磁気特性評価装置における応力印加軸と各応力成分の関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施例を図面を参照して具体的に説明する。図1〜図14においてこの発明の一実施例に係る磁気特性評価装置を説明する。なお、図15は測定用試料片の他の形態である3軸を有する試料片を示す。
【実施例1】
【0016】
この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置にあっては、試料片100を保持するホルダ101と、ホルダ101に保持された試料片100に対して平面内で4軸方向の外力を同時的に付加する応力印加手段102(応力制御部)と、同じくこの試料片100に対して磁気特性を測定する磁気特性測定手段103(磁気特性測定装置)とを備えて構成されている。
試料片100は一定厚さの電磁鋼板を所定形状に切り出すことにより形成される。すなわち、試料片100は、平面視して4軸方向の各軸線の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状を有している(図1,図8)。試料片100の中央部領域100Bには厚さ方向に貫通するコイルの挿通孔が形成され、ホルマール線を各方向に試料片に応じて数ターン直交するように巻いたBコイルが設けられる。また、試料片100の上方には、アクリル又は水晶板にホルマール線を使用し、Hyコイル上に直交してHxコイルを巻いたHコイルが配置される。試料片100を平面視した場合、上記各両端部の幅の2等分線である各中心軸(4本の軸線)がその中央部領域100Bの1点(中心)において交差している。よって、この試料片100は、平面内において45度間隔で8放射方向(4本の軸線方向)に延出した形状をなしている。
【0017】
試料片100を水平状態で保持するホルダ101は、下側ケース105と上側ケース104との間に試料片100を挟み込むことにより保持する構成である。これらの上下のケース(円形の板)は、試料片100を挟んだ後、複数の非磁性体のねじ106で締結されることにより、試料片100を水平に支持することとなる。また、円形の上側ケース104の周縁部には補助ヨーク111の挿入口107が8カ所に形成されている。これらの挿入口107は、補助ヨーク111の凹部(突出部分)が挿入されるよう矩形で2個が一組となって面内で8方向にそれぞれ配設されている(図2参照)。
さらに、励磁ヨーク120は図5に示すようにコの字形状を呈しており、その両下端に瞬間接着剤などにより補助ヨーク111がそれぞれ固着されている。この補助ヨーク111の下端部が凹形状となって、その突出片が上記挿入口107にそれぞれ挿入されることにより上方から試料片100の上面に当接してこれを押圧することとなる。なお、図5に示すように励磁コイル110は励磁ヨーク120の上片(ブリッジ部)に巻回されることもある。また、この励磁ヨーク120はホルダ101に保持された試料片100の上側のみに、または下側のみに配置してもよいが、上下に同時に配置することもできる。さらには、この励磁ヨーク120はXY平面(水平面)内で直交するように設ける。すなわち、ホルダ101の上方でコの字形の励磁ヨーク120の上片部120A同士が直交するように配置することができる。
【0018】
図6,図7に示すように、励磁コイル110は、試料片100の延出部100Aを取り囲むように巻き付けられており、この延出部100Aにおいて下側から励磁コイル110の上端がそれぞれ当接する配置とすることができる。なお、励磁コイル110への通電は公知の手段により行う。
また、励磁コイル110は、図12,図13に示すように、励磁ヨーク120の下片(ブリッジ部)120Aに巻回するように配置することもできる。
【0019】
図8〜図11、図14に模式的に示すように、試料片100の長手方向の一端には、試料片100に対して任意の引張荷重及び圧縮荷重を選択的に付与することのできる応力印加手段102が設けられている。応力印加手段102の具体的な構成は限定されないが、試料片100の延出部100Aの端面(断面)全体に荷重を均一に作用させるように構成される。
ここでは、土台131の平坦な上面には平行な一対のガイド(レール)132が固定・配置され、これら一対のレール状のガイド132に一対のチャック台133がそれぞれ跨るように立設されている。チャック台133は対角位置で一対とされ、一対のチャック台133同士は、同時的にスライド可能とされている。
上述の試料片100は8個のチャック台133によって固定される。詳しくは、チャック台133の水平部(対向して一対となる)に試料片100の延出部100A(短冊では両端部)が載置され、これを面押部134により上側から押圧・挟持する構成である。延出部100Aの挟持は、チャック台133がガイドレール132上を外側に向かって移動すると、チャック台133の水平片(歯付き部材)にかみ合っているため、歯車135が回動する(図9では矢印方向)。この歯車135に、垂直移動可能に保持された面押部134の垂直ラック136がかみ合っているため、歯車135が矢印方向に回転すると面押部134が下方に移動しこれが試料片100を水平部との間に押圧することによる。
歯車135は歯車軸137が固定台138に回転自在に支持されることにより、チャック台133の上方に配置されている。一対の固定台138は、それぞれがレール状ガイド132の外側で、図11に示すように、土台131に立設されている。
そして、図9に示すように、一対の重り140が一対のチャック台133(軸線の両端に位置するチャック)をその左右方向から引張する構成とされている(ワイヤおよび軸を介して)。また、この重りによる引張荷重に替えて試料片100に圧縮荷重を作用させる構成とすることもできる。例えば一対の油圧シリンダなどのアクチュエータにより各チャック台を水平面内で左右方向に往復荷重を作用させる構成としても良い。
図8〜図11の構成によれば、一対の重り140の重さによりチャック台133がレールガイド132上をスライドし、互いに離間することで歯車135を介して上側から面押部134が試料片100を押圧することとなる。よって、チャック台133のいずれか一方または全部のチャック台133を各レールガイド132から取り外して試料片100を出し入れすることが可能である。
【0020】
また、試料片100の中央部領域100Bの上面には、三軸ひずみゲージが配置される。三軸ひずみゲージは、例えば試料片100の中央に向かうようにして60度位相をずらして配置された第1〜第3のひずみゲージにより構成され、中央のひずみゲージが試料片100の応力軸方向に沿って配置されることができる。この三軸ひずみゲージにより測定される応力をパラメータの一つとすることとなる。
なお、応力測定は、パソコンなどで構成される制御装置を用いて、波形制御、波形処理、磁束密度B及び磁界強度Hの計算をソフトウェア処理することにより行われる。
【0021】
磁気特性測定装置による磁気特性測定は正弦波磁束条件下で行われる。すなわち、出力で任意の磁束密度が正弦波となるように印加磁界を波形制御して行われる。これにより、磁束密度Bと磁界強度Hとの関係が一意的に定まることになる。測定方法は、まず任意の磁束密度条件を作り出すためのパラメータ(磁束密度Bmax、傾き角φ、軸比α、周波数等)を入力し、設定波形と誘起磁束電圧波形の差分を励磁波形に加えることを波形制御が終了するまで繰り返し行う。波形制御が終了した後に磁束密度Bと磁界強度Hを測定する。
また、時間経過に伴って変化する磁束密度Bと磁界強度Hを、パラメータ(応力及び磁化容易軸からの傾き角、磁束密度、傾き角、軸比、周波数等)とともに記録していく。
【0022】
以上に述べた実施形態の磁気特性評価装置によれば、応力印加手段102により、8方向に延出部が突出した試料片100に対してその8延出部をチャックで保持しながら平面内で4つの異なる軸方向からの任意の引張荷重及び圧縮荷重を付与しつつその磁気特性を測定することができる。このため、試料片100に対してその応力を考慮した二次元磁気特性を測定することができ、各種磁性材料について、残留応力やひずみの影響によって変化する磁気特性を評価等することが可能になる。
【0023】
この磁気特性評価装置における作用について以下説明する。
試料作成工程では、4つの応力軸を有する試料片100(図1参照)を切り出す。無方向性電磁鋼板を用いる。
測定準備工程では、試料片100の中央部領域100Bに3軸ひずみゲージを貼り付ける。また、試料片100の中央部領域100Bである特性評価領域に穴を開け、Bコイルを巻く。なお、穴形成などでのひずみを除去するため熱処理を加えることもできる。
試料設置工程では、試料片100をホルダ101に入れ、所定位置に配設・固定する。各応力印加軸の端部をチャック(チャック台133に面押部134で)で上下より挟み込み固定する。試料片100の上面または下面にHコイルを配置する。試料片100の上下方向および試料片100の左右2方向から励磁可能なように励磁器(コイルとヨーク)を配置する。
制御工程ではこの応力印加状態において試料片100を励磁する。すなわち、応力印加手段102により各応力軸に外部荷重を印加する。3軸ひずみゲージの出力値(各方向のひずみ値)をパソコンPCに取り込み、主応力を算出する。また、パソコンにおいて算出・作成した励磁電圧を、電力増幅器を介して励磁器に印加する。Bコイルの誘起電圧をパソコンに取り込む。誘起電圧が正弦波になるように励磁電圧を調整し、フィードバック制御を行う。
処理工程では、主応力の大きさとその方向とを評価する。電磁鋼板の磁化特性、その損失を評価する。磁束密度と磁界強度とをベクトル量として測定する。
例えばD/Aコンバータを用いて試料片を励磁し、BコイルとHコイルとから得られた誘起電圧をD/Aコンバータによって取り込み、磁束密度波形が正弦波となるよう制御する。これにより、上述のように磁気特性を測定・評価することができる。
なお、上記実施例にあっては上下のケース板(プラスチック板)で試料片を挟持することで、その試料片の撓みを防止することができ、的確に応力を印加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明は、様々な応力印加状態での被測定物の磁気特性を評価することができるため、モータ・変圧器などの電気機器の電磁鋼板の設計にきわめて有用とされる。
【符号の説明】
【0025】
100 試料片、
101 ホルダ、
102 応力印加手段、
103 磁気特性測定手段、
133 チャック台(チャック)。
【技術分野】
【0001】
この発明は磁気特性評価装置および磁気特性測定用試料片、詳しくは簡易型任意応力磁気特性評価システムに関する。特に、各種磁性材料についての応力を考慮した二次元磁気特性を測定可能とする磁気特性評価装置および測定に使用される試料片に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器に用いられる電磁鋼板は応力に対して敏感であり、圧縮応力を加えると磁気特性は劣化し、引張応力を加えるとそれは向上する。電磁鋼板にあって応力と磁気特性との関係を評価することは重要である。すなわち、磁性材料を電気機器等に加工して使用する場合、その製造過程で切断、かしめ、据付等により応力が印加され、残留応力やひずみの影響によって磁性材料の磁気特性が変化してしまう。そのため、応力を考慮した二次元磁気特性の測定技術が要求されている。
従来、二軸応力磁気特性評価システムとしては、非特許文献1である「二軸引張応力下におけるベクトル磁気特性測定システムの応力印加機構の検討」電学論A130巻4号pp403〜408に記載されたものが知られていた。
このものは、十字形に切り出した無方向性電磁鋼板を測定試料片としてその中央部に三軸ひずみゲージを貼り付け、直交する2軸方向から応力をこの試料片に印加したとき、その各方向のひずみ値から応力を求め、応力と磁気特性との関係を求めるものである。
詳しくは、十字形試料片に三軸ひずみゲージを貼り、その上からBコイルを巻き、十字形試料片を上下の試料ホルダで挟み込む。下側の試料ホルダにHコイルを設置する。試料ホルダに励磁コイルをはめ込み、これを下側の励磁ヨークと測定装置の土台に設置し、チャックで十字形試料片を固定した。
磁気特性の測定には、D/Aコンバータによって励磁波形を作成し、電力増幅器を介して試料が励磁される。BコイルとHコイルとから得られた誘起電圧をD/Aコンバータによって取り込み、磁束密度波形が正弦波となるように制御した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「二軸引張応力下におけるベクトル磁気特性測定システムの応力印加機構の検討」電学論A130巻4号pp403〜408 2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来技術にあっては、測定試料片に対して平面内で直交する2軸方向から応力を印加して磁気特性を評価するものであったため、平面内での圧縮応力・引張応力の印加に留まり、せん断方向の応力を同時に印加することができず、より実機状態に即した磁気特性の評価ができないという課題を有していた。
【0005】
そこで、発明者は、鋭意研究の結果、測定試料片に対して少なくとも異なる3軸方向から応力を印加することにより、各種磁性材料についての平面内での圧縮応力・引張応力と同時にせん断応力を印加した状態での磁気特性が測定可能となることを知見してこの発明を完成させた。
【0006】
この発明は、実機に即した応力印加状態での磁気特性を評価可能とした磁気特性評価装置を提供することを目的としている。
この発明は、同じく実機に即した応力印加状態での磁気特性を評価可能とした磁気特性測定用試料片を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、磁性材料の薄板からなる試料片に対して、平面視してその試料片の中央部領域で交差する少なくとも3軸方向からの応力を印加可能な応力印加手段と、この応力印加手段により上記軸方向への応力が印加された状態での上記試料片に対してその磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置である。
応力印加手段としては、試料片についてその軸方向について外力を付加可能なあらゆる手段を適用することができる。例えば試料片の端部をクランプし、この試料片の端部全断面に対して引張・圧縮方向に均一な荷重を印加することができるアクチュエータなどで構成することもできる。なお、加える軸方向の応力としては少なくとも異なる3軸方向とし、例えば4軸でもよい。
磁気特性測定手段は、平面内で直交する2方向から励磁する励磁器を含み、公知のBコイル、Hコイルを備えるものとする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、試料片に対して平面内での圧縮・引張応力とともにせん断応力を同時に印加した状態における磁気特性を測定することができる。
例えば試料片である電磁鋼板について応力印加状態での磁束密度、磁界強度を測定することができ、電磁鋼板の損失を正確に評価することができる。
ここで、平面内で少なくとも3軸方向から外力を試料片に対して印加することで、この試料片の中央部領域において平面内での2次元的な応力(引張・圧縮応力)の印加と同時に、この試料片の中央部領域にあってせん断応力をも印加することができる理由は、以下の通りである。
図16に各応力成分と応力軸に印加した応力成分との関係を示す。各軸に印加する応力と、x成分及びy成分の応力σx,σy,とせん断応力σxyとの関係は次式で与えられる。
ここで、σα,σβ,σγは各軸に印加する応力、α,β,γは応力の印加角度である。上式によれば、3軸方向から応力を同時に印加することによって、x及びy成分の応力だけでなく、せん断応力を制御することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁気特性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する試料片に対して、上記各両端部をそれぞれチャックする少なくとも6個のチャックと、この試料片にあって上記各軸線方向への応力をそれぞれ印加する応力印加手段と、この応力印加手段により1または複数の上記軸線方向に応力が印加された上記試料片に対して磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置である。
試料片は、平面視してその中央部で、その軸線同士が等角度をなして交差する形状、全体として6つのアーム(アームは軸線方向において同一断面を有する)が中央部より60度間隔で延出した形状として形成することができる。また、4軸方向に軸線を有する形状では、8本のアームが45度間隔で放射方向に延出した形状とすることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、試料片に対して少なくとも3つの軸方向から応力を印加することにより、平面的な圧縮・引張応力のみならず、せん断方向の応力を同時的に印加することができる。そして、この印加状態での磁気特性の測定・評価をおこなうことができる。磁気特性測定手段は、平面内での交差する2方向から励磁するとともに、その磁束密度、磁界強度を測定することができるものとする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する磁気特性測定用試料片である。
換言すると、この磁気特性測定用試料片は、一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視したとき以下の形状を有している。すなわち、この面内で同一厚さの試料片の平面形状は、少なくとも3枚の短冊状板片についてその各中央部が重ね合わせるように交差させた結果、これら短冊状板片の各両端部(長手方向両端部)がその中央部(交差部)から放射方向に延び出た形状である。中央部から放射方向(すなわち、対角線方向位置)に複数のアーム状(足状)部分が延出した形状である。
各短冊状板片としては、所定長さ、所定幅の矩形の板片で各板片が同一寸法・同一形状とすることができる。
なお、これら短冊状板片の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状とは、例えば2枚の短冊片を使用したときの十文字形状に対してさらに1枚の短冊片を付加した雪の結晶軸を示す形状や、2枚の短冊片を付加して合計4枚の短冊片を交差させた形状とすることを意味する。
さらに、付言すると、一枚の磁性材料製の薄板であり試料片は、この薄板を打ち抜き、切り出しなどの加工により製作される。その際磁気特性の測定領域である薄板中央部は例えば円形、正六角形、正八角形などとし、この円の中心、六角形の中心などで軸線が交わるようにアーム状の端部を半径方向に延出させることもできる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、上記各軸線が等角度で1点で交差する請求項3に記載の磁気特性測定用試料片である。
例えば十文字形状ではなく、雪の結晶軸方向を示すように6放射方向に各アーム片が延出した形状や、8放射方向にアーム片が突出した形状の試料片が想定することができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4に記載の発明によれば、各種磁性材料について、残留応力やひずみの影響によって変化する磁気特性を評価することが可能になる。また、測定試料片に対してその磁気損失を低減することができる最適な応力条件を算出することが可能となる。さらに、最適な応力を印加した素材を組み立てることにより、例えば低損失な電気機器を開発することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置における試料片を模式的に示す平面図である。
【図2】この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置におけるケースと試料片との配置を模式的に示す平面図である。
【図3】図2におけるA−A線矢視断面図である。
【図4】図2におけるB−B線矢視断面図である。
【図5】この発明の実施例1に係る励磁ヨークとホルダとの位置を模式的に示す断面図である。
【図6】この発明の実施例1に係る試料片と励磁コイルとの配置を模式的に示す平面図である。
【図7】この発明の実施例1に係る試料片と励磁コイルとの配置を模式的に示す正面断面図である。
【図8】この発明の実施例1に係るチャック機構を模式的に示す平面図である。
【図9】図8におけるA−A線矢視断面図である。
【図10】図8におけるB−B線矢視断面図である。
【図11】図8におけるC−C線矢視断面図である。
【図12】この発明の実施例1に係る試料片と励磁ヨークとの他の配置を模式的に示す平面図である。
【図13】この発明の実施例1に係る試料片と励磁ヨークとの他の配置を模式的に示す正面である。
【図14】この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置の主要部を模式的に示す斜視図である。
【図15】この発明に係る試料片の他の例を示す平面図である。
【図16】この発明に係る磁気特性評価装置における応力印加軸と各応力成分の関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施例を図面を参照して具体的に説明する。図1〜図14においてこの発明の一実施例に係る磁気特性評価装置を説明する。なお、図15は測定用試料片の他の形態である3軸を有する試料片を示す。
【実施例1】
【0016】
この発明の実施例1に係る磁気特性評価装置にあっては、試料片100を保持するホルダ101と、ホルダ101に保持された試料片100に対して平面内で4軸方向の外力を同時的に付加する応力印加手段102(応力制御部)と、同じくこの試料片100に対して磁気特性を測定する磁気特性測定手段103(磁気特性測定装置)とを備えて構成されている。
試料片100は一定厚さの電磁鋼板を所定形状に切り出すことにより形成される。すなわち、試料片100は、平面視して4軸方向の各軸線の各両端部がこの中央部から放射方向に延出した形状を有している(図1,図8)。試料片100の中央部領域100Bには厚さ方向に貫通するコイルの挿通孔が形成され、ホルマール線を各方向に試料片に応じて数ターン直交するように巻いたBコイルが設けられる。また、試料片100の上方には、アクリル又は水晶板にホルマール線を使用し、Hyコイル上に直交してHxコイルを巻いたHコイルが配置される。試料片100を平面視した場合、上記各両端部の幅の2等分線である各中心軸(4本の軸線)がその中央部領域100Bの1点(中心)において交差している。よって、この試料片100は、平面内において45度間隔で8放射方向(4本の軸線方向)に延出した形状をなしている。
【0017】
試料片100を水平状態で保持するホルダ101は、下側ケース105と上側ケース104との間に試料片100を挟み込むことにより保持する構成である。これらの上下のケース(円形の板)は、試料片100を挟んだ後、複数の非磁性体のねじ106で締結されることにより、試料片100を水平に支持することとなる。また、円形の上側ケース104の周縁部には補助ヨーク111の挿入口107が8カ所に形成されている。これらの挿入口107は、補助ヨーク111の凹部(突出部分)が挿入されるよう矩形で2個が一組となって面内で8方向にそれぞれ配設されている(図2参照)。
さらに、励磁ヨーク120は図5に示すようにコの字形状を呈しており、その両下端に瞬間接着剤などにより補助ヨーク111がそれぞれ固着されている。この補助ヨーク111の下端部が凹形状となって、その突出片が上記挿入口107にそれぞれ挿入されることにより上方から試料片100の上面に当接してこれを押圧することとなる。なお、図5に示すように励磁コイル110は励磁ヨーク120の上片(ブリッジ部)に巻回されることもある。また、この励磁ヨーク120はホルダ101に保持された試料片100の上側のみに、または下側のみに配置してもよいが、上下に同時に配置することもできる。さらには、この励磁ヨーク120はXY平面(水平面)内で直交するように設ける。すなわち、ホルダ101の上方でコの字形の励磁ヨーク120の上片部120A同士が直交するように配置することができる。
【0018】
図6,図7に示すように、励磁コイル110は、試料片100の延出部100Aを取り囲むように巻き付けられており、この延出部100Aにおいて下側から励磁コイル110の上端がそれぞれ当接する配置とすることができる。なお、励磁コイル110への通電は公知の手段により行う。
また、励磁コイル110は、図12,図13に示すように、励磁ヨーク120の下片(ブリッジ部)120Aに巻回するように配置することもできる。
【0019】
図8〜図11、図14に模式的に示すように、試料片100の長手方向の一端には、試料片100に対して任意の引張荷重及び圧縮荷重を選択的に付与することのできる応力印加手段102が設けられている。応力印加手段102の具体的な構成は限定されないが、試料片100の延出部100Aの端面(断面)全体に荷重を均一に作用させるように構成される。
ここでは、土台131の平坦な上面には平行な一対のガイド(レール)132が固定・配置され、これら一対のレール状のガイド132に一対のチャック台133がそれぞれ跨るように立設されている。チャック台133は対角位置で一対とされ、一対のチャック台133同士は、同時的にスライド可能とされている。
上述の試料片100は8個のチャック台133によって固定される。詳しくは、チャック台133の水平部(対向して一対となる)に試料片100の延出部100A(短冊では両端部)が載置され、これを面押部134により上側から押圧・挟持する構成である。延出部100Aの挟持は、チャック台133がガイドレール132上を外側に向かって移動すると、チャック台133の水平片(歯付き部材)にかみ合っているため、歯車135が回動する(図9では矢印方向)。この歯車135に、垂直移動可能に保持された面押部134の垂直ラック136がかみ合っているため、歯車135が矢印方向に回転すると面押部134が下方に移動しこれが試料片100を水平部との間に押圧することによる。
歯車135は歯車軸137が固定台138に回転自在に支持されることにより、チャック台133の上方に配置されている。一対の固定台138は、それぞれがレール状ガイド132の外側で、図11に示すように、土台131に立設されている。
そして、図9に示すように、一対の重り140が一対のチャック台133(軸線の両端に位置するチャック)をその左右方向から引張する構成とされている(ワイヤおよび軸を介して)。また、この重りによる引張荷重に替えて試料片100に圧縮荷重を作用させる構成とすることもできる。例えば一対の油圧シリンダなどのアクチュエータにより各チャック台を水平面内で左右方向に往復荷重を作用させる構成としても良い。
図8〜図11の構成によれば、一対の重り140の重さによりチャック台133がレールガイド132上をスライドし、互いに離間することで歯車135を介して上側から面押部134が試料片100を押圧することとなる。よって、チャック台133のいずれか一方または全部のチャック台133を各レールガイド132から取り外して試料片100を出し入れすることが可能である。
【0020】
また、試料片100の中央部領域100Bの上面には、三軸ひずみゲージが配置される。三軸ひずみゲージは、例えば試料片100の中央に向かうようにして60度位相をずらして配置された第1〜第3のひずみゲージにより構成され、中央のひずみゲージが試料片100の応力軸方向に沿って配置されることができる。この三軸ひずみゲージにより測定される応力をパラメータの一つとすることとなる。
なお、応力測定は、パソコンなどで構成される制御装置を用いて、波形制御、波形処理、磁束密度B及び磁界強度Hの計算をソフトウェア処理することにより行われる。
【0021】
磁気特性測定装置による磁気特性測定は正弦波磁束条件下で行われる。すなわち、出力で任意の磁束密度が正弦波となるように印加磁界を波形制御して行われる。これにより、磁束密度Bと磁界強度Hとの関係が一意的に定まることになる。測定方法は、まず任意の磁束密度条件を作り出すためのパラメータ(磁束密度Bmax、傾き角φ、軸比α、周波数等)を入力し、設定波形と誘起磁束電圧波形の差分を励磁波形に加えることを波形制御が終了するまで繰り返し行う。波形制御が終了した後に磁束密度Bと磁界強度Hを測定する。
また、時間経過に伴って変化する磁束密度Bと磁界強度Hを、パラメータ(応力及び磁化容易軸からの傾き角、磁束密度、傾き角、軸比、周波数等)とともに記録していく。
【0022】
以上に述べた実施形態の磁気特性評価装置によれば、応力印加手段102により、8方向に延出部が突出した試料片100に対してその8延出部をチャックで保持しながら平面内で4つの異なる軸方向からの任意の引張荷重及び圧縮荷重を付与しつつその磁気特性を測定することができる。このため、試料片100に対してその応力を考慮した二次元磁気特性を測定することができ、各種磁性材料について、残留応力やひずみの影響によって変化する磁気特性を評価等することが可能になる。
【0023】
この磁気特性評価装置における作用について以下説明する。
試料作成工程では、4つの応力軸を有する試料片100(図1参照)を切り出す。無方向性電磁鋼板を用いる。
測定準備工程では、試料片100の中央部領域100Bに3軸ひずみゲージを貼り付ける。また、試料片100の中央部領域100Bである特性評価領域に穴を開け、Bコイルを巻く。なお、穴形成などでのひずみを除去するため熱処理を加えることもできる。
試料設置工程では、試料片100をホルダ101に入れ、所定位置に配設・固定する。各応力印加軸の端部をチャック(チャック台133に面押部134で)で上下より挟み込み固定する。試料片100の上面または下面にHコイルを配置する。試料片100の上下方向および試料片100の左右2方向から励磁可能なように励磁器(コイルとヨーク)を配置する。
制御工程ではこの応力印加状態において試料片100を励磁する。すなわち、応力印加手段102により各応力軸に外部荷重を印加する。3軸ひずみゲージの出力値(各方向のひずみ値)をパソコンPCに取り込み、主応力を算出する。また、パソコンにおいて算出・作成した励磁電圧を、電力増幅器を介して励磁器に印加する。Bコイルの誘起電圧をパソコンに取り込む。誘起電圧が正弦波になるように励磁電圧を調整し、フィードバック制御を行う。
処理工程では、主応力の大きさとその方向とを評価する。電磁鋼板の磁化特性、その損失を評価する。磁束密度と磁界強度とをベクトル量として測定する。
例えばD/Aコンバータを用いて試料片を励磁し、BコイルとHコイルとから得られた誘起電圧をD/Aコンバータによって取り込み、磁束密度波形が正弦波となるよう制御する。これにより、上述のように磁気特性を測定・評価することができる。
なお、上記実施例にあっては上下のケース板(プラスチック板)で試料片を挟持することで、その試料片の撓みを防止することができ、的確に応力を印加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明は、様々な応力印加状態での被測定物の磁気特性を評価することができるため、モータ・変圧器などの電気機器の電磁鋼板の設計にきわめて有用とされる。
【符号の説明】
【0025】
100 試料片、
101 ホルダ、
102 応力印加手段、
103 磁気特性測定手段、
133 チャック台(チャック)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料の薄板からなる試料片に対して、平面視してその試料片の中央部領域で交差する少なくとも3軸方向からの応力を印加可能な応力印加手段と、
この応力印加手段により上記軸方向への応力が印加された状態での上記試料片に対してその磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置。
【請求項2】
一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも一平面内で異なる3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がその中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁気特性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する試料片に対して、上記各両端部をそれぞれチャックする少なくとも6個のチャックと、
この試料片にあって上記各軸線方向への応力をそれぞれ印加する応力印加手段と、
この応力印加手段により1または複数の上記軸線方向に応力が印加された上記試料片に対して磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置。
【請求項3】
一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がその中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する磁気特性測定用試料片。
【請求項4】
上記各軸線が等角度で1点で交差する請求項3に記載の磁気特性測定用試料片。
【請求項1】
磁性材料の薄板からなる試料片に対して、平面視してその試料片の中央部領域で交差する少なくとも3軸方向からの応力を印加可能な応力印加手段と、
この応力印加手段により上記軸方向への応力が印加された状態での上記試料片に対してその磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置。
【請求項2】
一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも一平面内で異なる3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がその中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁気特性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する試料片に対して、上記各両端部をそれぞれチャックする少なくとも6個のチャックと、
この試料片にあって上記各軸線方向への応力をそれぞれ印加する応力印加手段と、
この応力印加手段により1または複数の上記軸線方向に応力が印加された上記試料片に対して磁気特性を測定する磁気特性測定手段とを備えた磁気特性評価装置。
【請求項3】
一定厚さの磁性材料の薄板からなり、平面視して少なくとも3軸方向に軸線を有しこの各軸線方向の各両端部がその中央部から放射方向に延出した形状を有し、この中央部には磁性測定用のコイルの挿通孔が形成され、上記各軸線がこの中央部で交差する磁気特性測定用試料片。
【請求項4】
上記各軸線が等角度で1点で交差する請求項3に記載の磁気特性測定用試料片。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−202974(P2012−202974A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71107(P2011−71107)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(508324433)公益財団法人大分県産業創造機構 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(508324433)公益財団法人大分県産業創造機構 (17)
【Fターム(参考)】
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