説明

磁気記録媒体、その製造方法及び磁気記憶装置

【課題】高密度な情報の記録再生が可能な、高保磁力、低ノイズ、高S*かつ信頼性の高い磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】基板11上に、少なくとも二層の非磁性下地膜を介しCo基合金系の磁性膜からなる情報記録層15、15’が配置された磁気記録媒体であり、上記非磁性下地膜の内に最も基板側に配置された第1の非磁性下地膜13、13’が、Crを主成分とし、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta、Yからなる群の少なくとも一種の元素と酸素とを含有する複合膜からなり、上記元素の濃度を1原子%以上、20原子%以下、酸素の濃度を1原子%以上、30原子%以下とするようにした磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気ディスク等の情報記録用磁気記録媒体、その製造方法及び磁気記憶装置に係り、特に面記録が高密度の磁気記録媒体、その製造方法及び磁気記憶装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、磁化を面内方向に反転させて記録する面内磁気記録用の媒体は、Coのような強磁性金属を主成分としたCo基合金系磁性薄膜を情報記録層としている。1平方インチ当たり1ギガビット以上の高密度の情報記録を可能とするためには、この記録層に対して保磁力を高め、媒体ノイズを小さくすることが要求されている。
【0003】一般に、保磁力(Hc)を大きくするためにCoCrPt合金磁性膜中のPt添加量を増し、これを体心立方構造(bcc)のCr又はCrを主成分とする合金系非磁性下地膜上にエピタキシャル成長させる方法が、例えば、ジャーナル・オブ・アプライド・フイジックス,73巻(1993年)第5569〜5571頁(J.Appl.Phys.,vol.73,No.10,(1993)p.5569〜5571)に提案されている。
【0004】また、媒体ノイズ低減のための有効な方法として、媒体をスパッタリングで形成する際、Ar圧を10mTorr以上に増加することより記録層の結晶粒を空間的に分離することにより、磁性結晶粒を磁気的に孤立化させる方法(例えば、アイ・イー・イー・イー トランザクション オン マグネチックス、26巻(1990年)第1578〜1580頁(IEEE Trans.on Magn.,Vol.26,No.5(1990)p.1578〜1580))が知られている。また、CoCrPt磁性膜中のCrの濃度を増してCrを結晶粒界に偏析させる方法(例えば、アイ・イー・イー・イー トランザクション オン マグネチックス、29巻(1993年)第3667〜3669頁(IEEE Trans.on Magn.,Vol.29,No.6(1993)p.3667〜3669))が知られている。
【0005】さらに、媒体ノイズ低減のための手法として、Crを主成分とする非磁性下地膜を2層化し、基板側に配置された第1の下地膜として、X線回析において体心立方構造の(110)配向を主体とする結晶構造を有する非磁性下地膜を膜厚0.5〜8nm形成し、その上に体心立方構造の(200)配向を主体とする第2の非磁性下地膜を膜厚20〜300nm形成する方法が、特開平7−57238号に記載されている。また、静磁気特性や電磁変換特性を向上させる方法として、Crを主成分とする非磁性下地膜に酸素を含有させて結晶配向性を向上させる手法が特開平1−290118号に記載されている。
【0006】さらに、高密度記録を実現するためには、ビット境界の磁化からの反磁界に打ち勝って磁化を記録方向に保持しておくために、保磁力を高くすると同時に、上記記録層の膜厚tと残留磁束密度Brの積Br・tを小さくして反磁界を小さくする必要がある(例えば、アイ・イー・イー・イー トランザクション オンマグネチックス、29巻(1993年)第3670〜3672頁(IEEE Trans.on Magn.,Vol.29,No.6(1993)p.3670〜3672))。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術、すなわち、磁性膜中Pt濃度の増加による高保磁力化は、貴金属であるPtが高価で、製造コストが上昇する問題があった。このため、他の方法により保磁力を向上する技術が求められていた。また、磁性膜の結晶粒を分離したり、Cr濃度を増して低ノイズ化する方法は、保磁力角形比(S*)の値が低下し、その結果、再生出力が低下する問題があった。さらに、上記方法により媒体ノイズを低減すると、保磁力の環境温度に対する変化率を室温(25℃)の保磁力で規格化した値(以下、規格化保磁力温度変化率という)が増加し、低温においては保磁力が増加してオーバーライトが困難となり、高温においては保磁力が低下して再生出力が低下する問題が生じた。従来、低ノイズ化と保磁力温度変化率の低減を両立して実現する手法は知られていなかった。
【0008】また、特開平7−57238号に記載の手法では、基板側に配置された第1の下地膜を0.5〜8nm、好ましくは0.5〜1.5nmという、他の膜に比べて1/10以下の極めて薄い膜厚で形成する必要があり、ディスク面内での膜厚分布の制御や、量産プロセスで大量の磁気記録媒体を一定の品質で製造することが困難であった。また、保磁力を向上したり保磁力温度変化率を低減する効果については記述されていない。
【0009】また、特開平1−290118号に記載の手法では、保磁力やS*を向上できるが、媒体ノイズを低減させたり、保磁力温度変化率を低減する効果は記述されていない。
【0010】以上述べたように、より高密度化を実現するためには、磁性膜中のPt濃度を増加することなく保磁力を向上し、また、S*の値を下げず、規格化保磁力温度変化率を増加することなく媒体ノイズを低減することが必要である。
【0011】さらに、磁気抵抗効果型素子を用いた記録・再生分離型ヘッドと上記磁気記録媒体を、どのように組み合わせることにより高い記録密度を持つ磁気ディスク装置を実現できるかについては、十分に検討されていなかった。前述の1平方インチ当たり1ギガビット以上の記録密度を達成するためには、2.0kOeを超えるHcが必要になることが分かっている。
【0012】本発明の第1の目的は、高密度な情報の記録再生が可能な、高保磁力、高S*、低ノイズ、かつ信頼性の高い磁気記録媒体を提供することにある。本発明の第2の目的は、上記のような高保磁力、高S*、低ノイズの磁気記録媒体の製造方法を提供することである。本発明の第3の目的は、上記のような高保磁力、高S*、低ノイズの磁気記録媒体を用いた信頼性の高い磁気記憶装置を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記第1の目的を達成するために、本発明の磁気記録媒体は、基板上に、少なくとも二層の非磁性下地膜を介し、Co基合金系の磁性膜からなる情報記録層を配置し、上記非磁性下地膜の内の最も基板側に配置された第1の非磁性下地膜を、Crを主成分とし、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta及びYからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素並びに酸素を含有する複合膜とし、上記元素の濃度が1原子%以上、20原子%以下、酸素の濃度が1原子%以上、30原子%以下となるようにしたものである。
【0014】上記非磁性下地膜の内の最も情報記録層側に配置された第2の非磁性下地膜は、Crを主成分とし、Ti、Mo、W及びVからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を、5原子%以上、50原子%以下の濃度で含有する合金からなり、X線回析において体心立方構造の(110)配向を主体とする結晶構造を有することが好ましい。
【0015】さらに、上記第1の非磁性下地膜をX線回析において非晶質とし、膜厚を10nm以上、100nm以下とし、上記第2の非磁性下地膜の膜厚を2nm以上、15nm以下とし、上記磁性膜をX線回析において六方細密充填構造の(10.0)配向の結晶構造とすると、保磁力を向上したり温度変化率を低減する効果が現われるので好ましい。特に、上記第1の非磁性下地膜の平均粒径を2nm以上、30nm以下とすると、媒体ノイズを低く保つことができる。また、上記非磁性下地膜の厚みが10nm以上であれば量産プロセスの制御が容易となり、厚みが100nm以下であれば所望の粒径の範囲に保つことができる。
【0016】上記Zr、Si、Al、Ti、V、Ta、Yからなる群の元素はCrに比べて酸素と結合しやすい性質を有し、複合膜中では主として酸化物の状態で存在する。このように、非磁性下地膜をZr、Si、Al、Ti、V、Ta、Yからなる群の元素の酸化物とCrとの複合膜とすることにより、粒径が小さく、かつ均一化し、X線回析において非晶質膜とすることができる。これは、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta、Yからなる元素群の酸化物がCrの結晶粒の結晶成長を抑制する効果があるためである。これらの酸化物は膜中で偏析して存在すると保磁力の向上や保磁力温度変化率の低減が可能となるので好ましい。
【0017】上記非磁性下地膜の、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta、Yからなる群の元素の酸化物の添加濃度は、上記元素群の合計濃度を1原子%以上、20原子%以下、酸素の濃度を1原子%以上、30原子%以下とすると、X線回析において非晶質構造とすることができる。このような複合膜は、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta、Yからなる群の元素の酸化物とCrからなるターゲットを用いて、スパッタリングすることにより容易に形成できる。また、上記元素の酸化物を2種類以上添加した場合も同様の特性向上が図られる。
【0018】さらに、非磁性下地膜が少なくともに二層以上で構成され、その内の最も基板側に配置された第1の非磁性下地膜が上記複合膜からなり、非磁性下地膜の内の最も情報記録層側に配置された第2の非磁性下地膜を、体心立方構造(bcc)のCrを主成分とする合金からなり、かつ、その(110)結晶格子の大きさが、六方細密充填構造(hcp)のCo合金磁性膜の(10.1)結晶格子の大きさと実質的に整合するように形成すると、Hcを2kOe以上、5kOe以下、S*を0.7以上、0.95以下と高く保つことができ、1Gb/in2以上の高い記録密度においても十分な再生出力が得られるので好ましい。ここで、第2の非磁性下地膜の結晶格子の大きさが、上記磁性膜の結晶格子の大きさと実質的に整合するとは、それらの結晶格子の大きさの差が±5%程度の範囲にあればよいことを意味する。特に、上記第2の非磁性下地膜をCr−Ti或はCr−Mo系合金とし、Ti或はMoの添加濃度を10−20原子%とすると、Co−Cr−Pt系合金磁性膜との結晶格子の整合性が増すとともに、結晶粒径を小さくできるので、媒体ノイズを低減できて好ましい。
【0019】また、上記複合膜からなる非磁性下地膜を形成すると、磁性膜の結晶粒中の、(10.0)面が基板と平行となるように配向成長した結晶粒の比率を増すことができる。その結果、磁性膜の磁化容易軸であるc軸が基板面と平行となり、保磁力や残留磁化角形比(S)の値が向上する。その結果、1Gb/in2以上の高い記録密度においても十分な再生出力が得られる。
【0020】以上述べたような、結晶構造、結晶配向性、格子整合性の改良の結果、保磁力や保磁力温度変化率を改良することができる。特に、上記第2の非磁性下地膜の膜厚を5nm以上、15nm以下とすると、上記保磁力温度変化率は顕著に低減する。その結果、5℃から55℃の温度範囲で保磁力の変化が低減し、オーバーライトや再生出力の変動を低減できて好ましい。
【0021】さらに、上記磁気記録媒体において、総磁性膜厚tを10nm、30nm以下とし、保磁力Hcを2.0kOe以上とすると、磁化遷移領域の磁化の乱れが低減して磁化遷移領域の幅が減少し、高記録密度領域においても高い出力が得られるので好ましい。特にBrtを30Gμm以上、100Gμm以下とすると媒体ノイズが低減し、高い媒体S/Nが得られるので好ましい。また、良好な重ね書き(オーバーライト)特性を保証するためには保磁力Hcは4kOe以下とすることが好ましい。
【0022】さらに、上記磁気記録媒体において、ヘッド走行方向と垂直の方向に測定した媒体保護膜表面の中心線平均粗さRaを0.3nm以上、3nm以下とすると、ヘッド浮上量が0.02μm以上、0.1μm以下でも安定に浮上するため好ましい。また、媒体表面のRaを従来より小さい値とした場合に、CSS動作時の磁気ヘッドの粘着を制御するには、磁性膜上に保護膜を形成した後にマスクを用いてプラズマエッチングすることで表面に高さ20nm以下の微細な凹凸を形成したり、Al等の低融点金属化合物、混合物のターゲットを用いて保護膜表面に微細な突起が生じるように形成したり、或は熱処理によって表面に微細な凹凸を形成すると、CSS動作時にヘッドと媒体の摩擦力が低減でき、ヘッドが媒体に粘着する問題が回避されるので好ましい。
【0023】さらに、Cr、Mo、W、V、Ta、Nb、Zr、Ti、B、Be、C、Ni−P、Ni−Bの少なくとも一つを主たる成分として、膜厚が0.5nm以上、5nm以下である非磁性中間層により、磁性膜を2層以上に多層化すると単層の磁性膜に比べて媒体ノイズがさらに低下するので好ましい。
【0024】さらに、磁性膜の保護層としてカーボン、水素添加カーボン又はカーボンを主たる成分とする非磁性材料を膜厚5〜20nm形成し、さらに吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を膜厚3〜10nm設けることにより信頼性が高く、高密度記録が可能な磁気記録媒体が得られる。保護層にはWC、(W−Mo)−C等の炭化物、(Zr−Nb)−N、Si34等の窒化物、SiO2、ZrO2等の酸化物、或はB、B4C、MoS2、Rh等を用いると耐摺動性、耐食性を向上できるので好ましい。これらの保護膜はマスクを用いて表面をエッチングし、面積比で1〜20%の突起を設けるか、成膜条件、組成等を調節し、保護膜中に異なる相からなる突起物を析出せしめることで、保護膜が磁性膜表面に比べて大きな面粗さを有することがより好ましい。
【0025】また、上記第2の目的を達成するために、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、少なくとも二層の非磁性下地膜を形成し、ついでCo基合金系の磁性膜からなる情報記録層を形成するもので、非磁性下地膜の内の最も基板側に配置された第1の非磁性下地膜の形成を、Crと、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta及びYからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素の酸化物との混合物からなり、上記元素の添加濃度が、1原子%以上、20原子%以下であるターゲットを用い、純Ar中で、酸素ガスを用いずにスパッタリングにより行なうようにしたものである。
【0026】ここで、第1の非磁性下地膜は室温で形成し、その後に基板を150℃以上、400℃以下に加熱してから第2の非磁性下地膜を形成すると、保磁力が向上し、温度変化率を低減するので好ましい。また、媒体を形成するに当たっては、磁性膜を形成する際の基板温度を200℃以上、400℃以下とすると、磁性膜中のCrの偏析が促進されてHcが向上するので好ましい。
【0027】さらに、上記第3の目的を達成するために、本発明の磁気記憶装置は、上記いずれか一の磁気記録媒体と、この磁気記録媒体に情報を記録・再生する磁気ヘッドとを備えるようにしたものである。
【0028】なお、上記の磁気記憶媒体と組み合わせて磁気記憶装置とするための磁気ヘッドとしては、再生素子に磁気抵抗効果型素子を用いた記録・再生分離型ヘッドであることが好ましい。上記の磁気記録媒体は、磁気抵抗効果型素子の特徴である高い再生感度との組み合わせにより、例えば、1平方インチ当たり1ギガビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なS/Nが得られる。
【0029】さらに、この磁気ヘッドの再生部を、互いの磁化方向が外部磁界によって相対的に変化することによって大きな抵抗変化を生じる複数の導電性磁性層とこの導電性磁性層の間に配置された導電性非磁性層を含む磁気抵抗センサによって構成し、かつ、磁性層の厚さtと、記録時における磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの相対的な走行方向に磁界を印加して測定したBrとの積Br・tを30Gμm以上、80Gμm以下とし、上記方向に磁界を印加して測定した上記磁気記録媒体の保磁力Hcを、2.2キロエルステッド以上とすることにより、1平方インチ当たり2ギガビット以上の高密度な情報の記録再生も可能となる。
【0030】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の面内磁気記録媒体の断面構造の模式図である。同図において、11はAl−Mg合金、化学強化ガラス、結晶化ガラス、チタン、シリコン、カーボン又はセラミックス等からなる基板、12及び12’は基板11の両面に形成したNi−P、Ni−W−P等からなる非磁性メッキ層である。Al−Mg合金を基板として用いた場合にはこのようなメッキ層を備えたものを基板として使用する。なお、基板にSi単結晶、ガラス、カーボン等を用いた場合は非磁性メッキ層を形成しなくてもよい。
【0031】また、13及び13’は、Crを主成分とし、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta、Yからなる群の少なくとも一種の元素と酸素とを含有する複合膜からなる第1の非磁性下地膜、14及び14’は、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Mn、Zr、Hf若しくはSiからなる金属又はCr、Mo、W、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Mn、Zr、Hf若しくはSiのいずれかを主成分とする合金からなる第2の非磁性下地膜である。なお、非磁性下地膜を3層とするとき、中間の層にも上記と同じ材質が用いられる。
【0032】さらに、15及び15’は、非磁性下地膜の上に形成したCo−Sm、Co−Ni−Cr、Co−Ni−Pt、Co−Ni−P、Co−Cr−Ta、Co−Cr−Pt、Co−Cr−W、Co−Cr−Si、Co−Cr−Ta−Pt等からなる合金磁性膜からなる情報記録層、16及び16’は、情報記録層の上に形成したカーボン、ボロン、SiO2、ZrO2等からなる非磁性保護膜である。
【0033】このような面内磁気記録媒体を次ぎのようにして作製した。強化ガラス基板、結晶化ガラス基板、Ni−Pをメッキしてその表面を鏡面研磨したAl合金基板等の種々の磁気ディスク用基板を用い、上記磁気記録用媒体を構成する各膜をそれぞれ別々の成膜室で形成する枚葉式スパッタ装置で、タクト時間10秒一定で一枚ずつ順次送り、DCマグネトロンスパッタ法により各膜を形成した。ここで成膜条件は、主真空槽の背圧:5×10-8Torr以下、基板加熱温度:100〜300℃、Arガス圧:5〜30mTorr、投入電力:ターゲットサイズが6インチに対して1〜4kWである。上記種々の基板上に、Crを主成分とする一層以上の非磁性下地膜を形成し、さらに、連続して膜厚10〜30nmの種々の組成のCo、Cr及びTa又はCo、Cr及びPtを主成分とする合金磁性膜を形成し、その上にカーボン保護膜を形成した。そして、これらの膜の磁気特性、結晶学的特性等を評価した。
【0034】また、図2(a)、(b)は、本発明の磁気記憶装置の平面模式図及びそのAA’線断面模式図である。この磁気記憶装置は、一枚又は複数枚の磁気ディスク21と、磁気ディスクの情報記録面に対応した磁気ヘッド23と、磁気ディスクを回転駆動する駆動部22と、磁気ヘッド駆動手段24と、信号処理部25とを有する。前記磁気記録媒体に、磁気ヘッドとして電磁誘導型記録磁気抵抗効果型素子再生の複合ヘッド(MRヘッド)を組み合わせて用いることが好ましい。
【0035】
【実施例】〈実施例1〉外径65mm、内径20mm、厚さ0.6mmのガラスディスク基板に付着し研磨材等の汚れを洗浄して乾燥させた。
【0036】この基板を枚葉式直流マグネトロンスパッタ装置の基板仕込み室に装填して真空に排気した後、当該基板を加熱室、非磁性下地膜形成室、磁性膜形成室、非磁性保護膜形成室及び取り出し室の順に、真空度5×10-8Torr以下の主排気槽を介しながら搬送し、それぞれの室でそれぞれの膜を形成した。
【0037】まず、8mTorrのアルゴン圧のもとで、Zr添加濃度の異なるCr−ZrO2ターゲットに1kWの電力を加えて、膜厚10〜100nmのCr−Zr−O非磁性下地膜を第1の非磁性下地膜として形成した。次いで加熱室で270℃に加熱し、8mTorrのアルゴン圧のもとでCr−20原子%Tiターゲットに4kWの電力を加えて、膜厚2〜15nmのCr−Ti下地膜を第2の非磁性下地膜として形成した。この下地膜の上に、8mTorrのアルゴン圧のもとでターゲットに1.5kWの電力を加えて、Co−20原子%Cr−6原子%Ptからなる膜厚20nmの合金磁性膜を積層した。さらに、この磁性膜の上に10mTorrのアルゴン圧のもとでターゲットに1.5kWの電力を加えて、膜厚10nmのカーボン保護膜を形成した。そして、当該保護膜上に吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を形成して2.5インチ磁気ディスクとした。
【0038】こうして形成した磁気ディスクの静磁気特性(保磁力Hc、角形比S*)や記録再生特性を以下の方法により評価した。静磁気特性は、上記磁気ディスクを、その半径20mmの位置から8mm×8mmの略正方形状に切り出し、片面の磁性膜を削り落とした試料を作製し、振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁界を13kOeとして面内方向の静磁気特製を求めた。また、記録再生特性の評価には、磁気ヘッドとして、記録用にギャップ長0.4μm、トラック幅3.5μm、巻線数17回の薄膜型ヘッド、再生用にシールド間隔0.25μm、トラック幅2.3μmのMRヘッドを有する記録再生分離型ヘッドを用い、線記録密度180kBPIのときのS/Nの値を求めた。
【0039】ZrO2を添加した非磁性複合膜はX線回析において回析ピークは検出されなかった。オージェ電子分光分析により測定した、上記非磁複合下地膜中のZrの濃度と、磁性膜のHcとの関係を図3に示す。Zrの濃度を1原子%以上、20原子%以下とすることにより、Hcを向上できた。また、同試料の媒体ノイズを、Zrを添加しない試料の値で規格化した、規格化媒体ノイズと上記複合下地膜中のZr濃度との関係を図4に示す。Zrの濃度を1原子%以上20原子%以下とすることにより、媒体ノイズを低減できた。また、これらの試料において、Brと磁性膜厚tとの積はBrtは80Gμm、S*はZr添加濃度によらず約0.8と一定であり、S*を減少せずに媒体ノイズを低減できることが確認できた。また、このときの複合下地膜中のオージェ電子分光分析により測定した酸素の濃度は、Zr濃度が増すに従い増加して、1原子%以上、30原子%以下であることが確認された。
【0040】さらに、周囲の温度を5℃から100℃まで変化させながら測定した、規格化保磁力温度変化率(室温の保磁力で規格化)とZr添加濃度との関係を図5R>5に示す。Zrの濃度を1原子%以上、20原子%以下とすることにより、規格化保磁力温度変化率が低減できた。一方、上記第2の非磁性下地膜であるCr−Ti合金下地膜の膜厚を20nm以上にすると、上記保磁力温度変化率の低減効果は減少した。
【0041】さらに、同試料の、線記録密度180kBPIのときのS/Nの値と、上記複合下地膜中のZr濃度との関係を図6に示した。Zrの濃度を1原子%以上、20原子%以下とすることにより、S/Nを向上できた。上記方法により形成された磁気記録媒体をX線回折分析した結果、上記非磁性複合下地膜にZrを添加するに従い、磁性膜の配向が六方晶構造の(10.1)配向から、(10.0)配向に変化し、基板面内方向に磁化容易軸(c軸)が配向するようになった。これに伴い、残留磁化角形比(S)の値が0.8から0.9に向上した。一方、Cr−Ti下地膜の(110)X線回析強度はZr添加濃度が増すに従い減少した。これは、結晶粒の微細化を表している。
【0042】〈実施例2〉実施例1におけるZrの代わりにSi、Al、Ti、V、Ta、Yをそれぞれ10原子%添加した磁気ディスクを製造し、そのHc、規格化ノイズ、線記録密度180kBPIのときのS/N、規格化保磁力温度変化率を評価した。その値を表1に示す。比較例には上記元素群を添加しない場合の特性を示す。
【0043】
【表1】


【0044】いずれの場合も、無添加の試料に比べて特性向上が図られることが確認された。また、各元素の添加濃度を変化させた場合も、実施例1と同様、添加濃度を1原子%以上、20原子%以上、酸素濃度を1原子%以上、30原子%以下とすることにより特性向上が図られた。さらに、上記元素を2種以上添加した場合も同様の特性向上が図られることが確認できた。
【0045】さらに実施例1における第2の非磁性下地膜として、Cr−Tiの代わりに、Cr−20原子%Mo、Cr−20原子%W、Cr−20原子%Vを用いた磁気ディスクを製造し、その特性を評価した。この場合も実施例1の磁気ディスクと略同様の結果が得られた。
【0046】〈実施例3〉実施例1、2と同等の特性を有する磁気ディスクを使用し、CoTaZr合金を記録用磁極材料とし、MRヘッドを用い、図2(a)及び図2R>2(b)に示した磁気記録装置を試作した。このように、上記磁気記録媒体と、MRヘッド及び高精度のヘッド位置決め装置とを組み合わせることにより、1平方インチ当たり1.5ギガビットの面記録密度で記録再生エラー率が10-8の以下の特性が得られた。
【0047】本実施例では、CoTaZr合金を磁極材とする複合型磁気ヘッドを用いた場合について説明したが、NiFe、FeC合金等を記録用磁極材とする複合型磁気ヘッドを用いた場合にも同様な効果が得られる。さらに、上記磁気ヘッドの再生部を、従来の磁気抵抗効果よりも格段に大きい巨大磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗センサによって構成することにより、1平方インチ当たり2ギガビット以上の高い面記録密度で記録再生エラー率が10-8以下の特性が得られた。
【0048】
【発明の効果】本発明によれば、保磁力温度変化率が小さく、1平方インチ当たり1ギガビット以上と極めて高い面記録密度で記録可能な面内磁気記録媒体が得られた。さらにこの磁気記録媒体と組み合わせた磁気記憶装置は、1平方インチ当たり1ギガビット以上と極めて高い面記録密度を有し、高い信頼性を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の磁気記録媒体の縦断面構造図。
【図2】本発明の一実施例の磁気記憶装置の平面模式図及びそのA−A’線縦断面図。
【図3】本発明の一実施例の非磁性複合下地膜中のZrの濃度と、磁性膜Hcとの関係を表す図。
【図4】本発明の一実施例の非磁性複合下地膜中のZrの濃度と、規格化媒体ノイズとの関係を表す図。
【図5】本発明の一実施例の非磁性複合下地膜中のZrの濃度と、規格化保磁力温度変化率の関係を表す図。
【図6】本発明の一実施例の非磁性複合下地膜中のZrの濃度と、線記録密度180kBPIのときのS/Nとの関係を表す図。
【符号の説明】
11…基板
12、12’…非磁性メッキ膜
13、13’…第1の非磁性下地膜
14、14’…第2の非磁性下地膜
15、15’…情報記録層
16、16’…非磁性保護膜
21…磁気ディスク
22…駆動部
23…磁気ヘッド
24…磁気ヘッド駆動手段
25…信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上に、少なくとも二層の非磁性下地膜を介し、Co基合金系の磁性膜からなる情報記録層が配置された磁気記録媒体において、上記非磁性下地膜の内の最も基板側に配置された第1の非磁性下地膜は、Crを主成分とし、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta及びYからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の酸化物を含有する複合膜からなり、前記第1の非磁性下地膜に含有される前記少なくとも一種の元素の濃度が0原子%より大きく20原子%以下とし、情報記録時の前記磁性膜の残留磁束密度Brと厚さtとの積Brtが30Gμm〜80Gμmであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】上記非磁性下地膜の内の最も情報記録層側に配置された第2の非磁性下地膜は、Crを主成分とし、Ti、Mo、W及びVからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を、5原子%以上、50原子%以下の濃度で含有する合金からなり、かつ、体心立方構造の(110)配向を主体とする結晶構造を有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】上記第1の非磁性下地膜は、非晶質であり、その膜厚は、10nm以上、100nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項4】上記第2の非磁性下地膜の膜厚は、2nm以上、15nm以下であることを特徴とする請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項5】基板上に、少なくとも二層の非磁性下地膜を形成し、ついでCo基合金系の磁性膜からなる情報記録層を形成する磁気記録媒体の製造方法であって、上記第1の非磁性下地膜の形成は、Crと、Zr、Si、Al、Ti、V、Ta及びYからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の酸化物との混合物からなり、上記元素の添加濃度が0原子%より大きく、20原子%以下であるターゲットを用い、純Ar中で、酸素ガスを用いずにスパッタリングにより行なうことを特徴とする磁気記録媒体の形成方法。
【請求項6】上記第1の非磁性下地膜を室温で形成し、その後に基板を150℃以上、400℃以下に加熱してから上記第2の非磁性下地膜を形成することを特徴とする請求項5記載の磁気記録媒体の形成方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2003−196824(P2003−196824A)
【公開日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−354502(P2002−354502)
【分割の表示】特願平8−70338の分割
【出願日】平成8年3月26日(1996.3.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】