説明

磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び磁気情報記録方法

【課題】外部からの磁界印加機構を必要とせず、且つ近接場光を用いても高密度の記録が可能な磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】本発明に係る磁気記録装置1では、記録トラック121、固定トラック122Aおよび固定トラック122Bは、基板11に対する垂直方向に沿って磁気異方性を有するフェリ磁性体からなり、非磁性体123を介して、記録トラック121を挟む一対の固定トラック122Aおよび固定トラック122Bは互いに逆向きの磁化方向を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体に磁気情報を記録する磁気記録媒体、磁気記録再生装置、及び、磁気情報記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスクに代表される磁気記録媒体に対して、外部から磁界を印加し、磁気情報を記録する磁気記録方式が広く知られている。また、磁性体に対して光照射とともに外部磁界を印加し、磁気情報を記録する光磁気記録方式についても広く知られている。
【0003】
一方で、非特許文献1には、外部から磁界を加えることなく、磁性体への磁気情報記録が行えることが開示されている。具体的には、フェムト秒レーザーを用いて、円偏光パルスを磁性体に照射することにより、円偏光の向きに応じた磁化反転が起こることが記されている。
【0004】
また、光磁気記録分野においては、特許文献1及び2に、外部からの磁界印加が不要な多層記録媒体が開示されている。
【0005】
図10は、特許文献1に記載の多層記録媒体を示す図である。特許文献1に記載の多層記録媒体600は、図10に示すように、垂直異方性を有する磁性層であり、磁気記録層601と、磁化の方向が一方向に揃った補助層602とから構成される。高いパワーのレーザービーム603を照射されることによって、上記補助層602の磁化を上記磁気記録層601に転写して記録を行う。一方、低いパワーのレーザービーム603をすでに記録されている記録マーク605に照射することのよって、消去を行う多層記録媒体である。
【0006】
図11は、特許文献2に記載の多層記録媒体を示す図である。特許文献2に記載の多層記録媒体700は、図11に示すように、磁気記録層701と、この磁気記録層701に静磁的に結合された第1及び第2の補助磁性層703,704とを有する構成である。上記多層記録媒体700に対して2つの異なるパワーレベルの光ビームを照射し、一のパワーレベルで情報の記録を行い、他のパワーレベルで情報の消去を行うものである。
【特許文献1】特開平5−28563号公報(1993年2月5日公開)
【特許文献2】特開平6−162586号公報(1994年6月10日公開)
【非特許文献1】C. D. Stanciu et al, all-Optical Magnetic Recording with Circularly Polarized Light, Physical Review Letters 99 (2007), 047601-1〜047601-4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の磁気記録媒体及び記録方式では、磁気情報の記録に際して外部からの磁界印加を必要とする。それゆえ、これらの磁気記録媒体に磁気情報を記録するためには、磁気記録再生装置に磁界印加機構を設ける必要であり、磁気記録再生装置が複雑化するという問題を有している。さらに、印加磁界の方向を反転させるに当たって、磁界印加機構に用いられるコイルのインダクタンスによって時間遅れが発生するため記録の高速化には限界があるという問題を有している。
【0008】
また、非特許文献1に記載の記録方式では、外部磁界が不要であるため、このような磁気記録再生装置の複雑化及び時間遅れは生じないが、光とスピンとの直接的な相互作用は非常に弱いので、極めて高い強度の円偏光パルスを磁性体に照射する必要がある。それゆえ、これを実現するためにはフェムト秒レーザーのように大掛かりなレーザー装置が必要という問題を有している。
【0009】
さらに、特許文献1及び2に記載の磁気記録媒体では、合計膜厚が100nm以上となるような、多層化した磁性膜を用いる。このため、光(熱)アシスト磁気記録方式に適用されるような近接場光を情報の記録に用いた場合、近接場光の到達範囲が数十nm以下程度と短く、且つ、多層化した磁性膜により熱拡散が起こるため、光源から遠い磁性膜層を十分に加熱することができない。それゆえ、膜厚方向に均一な加熱が実現できず所望の記録特性が得られないという問題を有している。また、上記熱拡散により、光の照射領域に比べて加熱領域が大きくなり、高密度の記録ができなくなるという問題を有している。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、外部からの磁界印加機構を必要とせず、且つ近接場光を用いても高密度の記録が可能な磁気記録媒体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記磁気記録媒体のための磁気記録再生装置及びその磁気記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の磁気記録媒体は、上記課題を解決するために、基板の面方向において、磁気情報を記録する記録トラックと、上記記録トラックに磁界を印加する固定トラックとが非磁性体を介し、交互に連続して配置されている磁気記録媒体であって、上記記録トラック及び上記固定トラックは、上記基板に対する垂直方向に沿って磁気異方性を有するフェリ磁性体からなり、上記非磁性体を介して、上記記録トラックを挟む一対の上記固定トラックは互いに逆向きの磁化方向を有することを特徴としている。
【0012】
上記発明によれば、磁気情報を記録する上記記録トラックは、上記非磁性体を介して、互いに逆向きの磁化を有する一対の上記固定トラックに挟まれた構成である。上記磁気記録媒体は、上記固定トラックに対して光を照射されると、固定トラックから生じる記録磁界が、上記記録トラックに印加されるとともに、上記非磁性体を介することにより、上記記録トラックと上記固定トラックとの間の交換結合力が遮断される。それゆえ、上記記録トラックによる記録磁界の印加により、上記記録トラックの磁化方向が反転され、磁気情報が記録できる。
【0013】
したがって、上記固定トラックが上記記録トラックを内部から印加するため、外部磁界印加機構を必要としない。また、上記磁気記録媒体は、多層化された構造ではなく、単層であるので、近接場光を用いても高密度の記録が可能な単層の磁気記録媒体を提供できる。また、磁気記録媒体内部で生じる磁界を記録に用いるため、フェムト秒レーザー等の高強度の光源を必要としない磁気記録方式/装置を実現することができる。
【0014】
本発明の磁気記録媒体では、上記固定トラックを構成するフェリ磁性体の補償温度が、室温近傍であることが好ましい。
【0015】
ここで、補償温度とは、フェリ磁性体内部における2つの副格子の磁気モーメントが互いに打ち消しあう状態になる温度をいう。
【0016】
上記発明によれば、室温近傍において、上記固定トラックは漏洩磁界を殆ど発生せず、固定トラックの温度が上昇して上記補償温度よりも高温になるに従い、漏洩磁界(記録磁界)を効果的に発生させることができる。なお、上記固定トラックの補償温度は、固定トラックの構成材料の組成比を調整することにより容易に変更可能である。
【0017】
本発明の磁気記録媒体では、上記記録トラックが、ランドおよびグルーブの一方として形成されており、上記固定トラックが、ランドおよびグルーブの他方として形成されていることが好ましい。
【0018】
上記発明によれば、光記録方式や光磁気記録方式において一般的に用いられるトラッキングサーボを活用できる。これにより、記録トラックおよび固定トラックに対して記録又は再生に用いる光ビームを追従させることが容易となり、トラッキング精度を高めることができる。さらに、ランドとグルーブとの境界に側壁部(傾斜部)が存在することにより、上記記録トラックが加熱された場合、その加熱中心と上記固定トラックの加熱中心との距離を離すことができる。このため、各トラック間の熱伝導が抑制されて、上記記録トラックと上記固定トラックとの間の熱干渉を抑えることができ、上記固定トラックの磁化消失を防ぐことができる。
【0019】
本発明の磁気記録媒体では、上記記録トラック及び固定トラックが、スパイラル状に形成されているディスク形状を有しており、上記固定トラックの磁化方向が一周毎に反転して逆向きとなっていることが好ましい。
【0020】
上記発明によれば、固定トラックが示す領域を減少させることができ、面記録密度を高めることができる。例えば、上記記録トラックとこれを挟む一対の上記固定トラックとの3本のトラックを一つの単位として、スパイラル(トリプルスパイラル)を形成する場合に比べて、固定トラックが占める領域を減少させることができる。
【0021】
本発明の磁気記録媒体では、上記固定トラックの磁化方向が反転する箇所同士によって挟まれた領域に、アドレス領域が形成されていることが好ましい。
【0022】
上記発明によれば、上記反転箇所において上記記録トラックに加わる磁界が不安定となることを防ぐことができ、且つ、面積利用効率の高い磁気記録媒体を提供することができる。
【0023】
本発明の磁気記録媒体では、上記記録トラック及び上記固定トラックの幅が、10nm以上、200nm以下の範囲であることが好ましい。
【0024】
上記発明によれば、記録に十分な双極子相互作用を得ることができるともに、面記録密度を高めて、上記記録媒体を小型化することができる。
【0025】
本発明の磁気記録再生装置は、上記磁気記録媒体を記録再生する磁気記録再生装置であって、上記記録トラックと上記固定トラックのそれぞれに対して、少なくとも1つの光を照射する光照射手段を有するものである。
【0026】
上記発明によれば、上記記録トラックに光を照射することによって、記録トラックの加熱を行い、記録トラックの保磁力を弱めて磁化反転可能な状態とすることができる。それと同時に、上記固定トラックに光を照射することによって、記録トラックに漏洩磁界(記録磁界)が生じる程度に固定トラックを加熱することができる。これにより、上記固定トラックから生じる漏洩磁界(記録磁界)が印加される磁界の向きによって、上記記録トラックの磁化方向を決定することができる。それゆえ、外部磁界を印加する機構を必要とせず、高速記録が可能な磁気記録再生装置を実現することができる。
【0027】
本発明の磁気情報記録方法は、上記磁気記録媒体に対して磁気情報を記録する磁気情報記録方法であって、上記記録トラックの一部、及び、上記記録トラックの一部と非磁性体を介して隣り合う上記固定トラックの一部に対して光を照射し、上記記録トラック上において光が照射された第1光照射領域の温度に比べて、上記固定トラック上において光が照射された第2光照射領域の温度が低くなるように、且つ、第1光照射領域の温度がキュリー温度よりも低い温度になるように、照射する光の強度を調整する方法である。
【0028】
上記発明によれば、上記固定トラック上の上記第2光照射領域から、記録磁界を上記記録トラックに印加できるとともに、上記第1光照射領域に印加された記録磁界の向きに応じた磁気情報を記録できる。これにより、外部磁界を印加する機構を必要とせず、高速記録が可能な磁気記録再生方法を実現することができる。
【0029】
本発明の磁気情報記録方法では、上記記録トラックの一部に対して照射する光のスポット径が、上記記録トラックの幅よりも小さいことが好ましい。
【0030】
上記発明によれば、上記記録トラックに照射された光が、上記記録トラックを挟む上記固定トラックにも照射されて、上記固定トラックから不要な漏洩磁界が生じることを防ぐことができる。さらに、上記固定トラックの固定された磁化状態が、上記記録トラックに照射される光による加熱の影響を受けて変化してしまうことを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の磁気記録媒体は、以上のように、基板の面方向において、磁気情報を記録する記録トラックと、磁化方向が固定された固定トラックとが非磁性体を介し、交互に連続して配置されている磁気記録媒体であって、上記記録トラック及び上記固定トラックは、上記基板に対する垂直方向に沿って磁気異方性を有するフェリ磁性体からなり、上記非磁性体を介して、上記記録トラックを挟む一対の上記固定トラックは互いに逆向きの磁化方向を有するものである。
【0032】
それゆえ、上記記録トラックによる記録磁界の印加により、上記記録トラックの磁化方向が反転され、磁気情報が記録できる。したがって、上記固定トラックが上記記録トラックを内部から印加するため、外部磁界印加機構を必要としないという効果を奏する。また、上記磁気記録媒体は、多層化された構造ではなく、単層であるので、近接場光を用いても高密度の記録が可能な単層の磁気記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
〔実施の形態1〕
本発明に係る一実施の形態について、図1乃至4に基づいて説明すれば、以下の通りである。図1は、本実施の形態における磁気記録媒体1を示す斜視図である。図1に示すように、磁気記録媒体1は、平面な基板11の面方向において、磁気記録層12を備えている。
【0034】
基板11の材料としては、特に限定されず、ガラス、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、AlやAl合金等の金属、若しくはAlやAl合金の上にNiPをメッキ法により形成した材料等を用いることができる。
【0035】
磁気記録層12は、磁気情報を記録するための記録トラック121と、上記記録トラック121に磁界を印加する固定トラック122Aとが非磁性体123を介し配置されており、さらに、記録トラック121は非磁性体123を介し配置されている。すなわち、記録トラックと固定トラックと非磁性体を介し、交互に連続して配置されている構成となっている。基板11の面方向における磁気記録層12の周囲には、さらに記録トラック、非磁性体および固定トラックが交互に連続して配置されている。
【0036】
記録トラック121はフェリ磁性体からなり、基板11に対する垂直方向に沿って磁気異方性を有している。しかしながら、磁化方向は固定されていない。それゆえ、磁界の印加により、磁化方向を垂直方向に反転させて情報を記録するものである。
【0037】
また、固定トラック122A及び固定トラック122Bは、記録トラック121と同様にフェリ磁性体からなり、基板11に対する垂直方向に沿って磁気異方性を有している。しかし、記録トラック121とは異なり、磁化の方向は一方向に固定されている。また、記録トラック121を挟む一対の固定トラック122A及び固定トラック122Bは互いに逆向きな方向に磁化方向が固定されている。それゆえ、一対の固定トラック122A及び122Bは、それぞれ逆向きの磁界を、記録トラック121に対して印加することになる。なお、図1における矢印は、N型フェリ磁性体の副格子磁化の向きを表している。
【0038】
記録トラック121、固定トラック122A及び122Bの材料としては、補償温度を有するN型フェリ磁性体を用いることが好適である。具体的には、重希土類金属であるGd,Tb,Dy,Hoの何れか、又は、これら複数と、3d遷移金属であるFe,Co,Niの何れか、又は、これら複数とを組み合わせた、希土類遷移金属合金を用いることが好ましい。
【0039】
希土類遷移金属合金では、組成比を調整することにより、補償温度やキュリー温度等の磁気特性を容易に変更可能である。さらに記録トラック121、固定トラック122A及び122Bには、主にキュリー温度を低くする目的で、添加元素としてAl,Si,Cr等の非磁性金属が含まれていても構わない。なお、記録トラック121並びに固定トラック122A及び122Bの材料は必ずしも上記の希土類遷移金属材料に限定されるものではなく、同様の磁気特性を示すものであれば適用可能である。
【0040】
補償温度を有するN型フェリ磁性体の具体例としては、上記重希土類金属と、3d遷移金属とを20〜50at%:50〜80%程度の組成比で混合した構成、例えば、Tb25Fe63Co12を例示することができる。
【0041】
非磁性体123の材料としては、記録トラック121と固定トラック122A及び122Bとの間の交換結合力を切ることのできるものであれば特に限定されないが、例えば、SiやAl、Mg、Cu、Ta、Ti等の金属元素やこれらの化合物、窒化物、酸化物を適用することができる。
【0042】
また、記録トラック121の両側は、一対の固定トラック122A及び固定トラック122Bが、非磁性体123を介して挟むように配置されている。すなわち、図1に示すように、磁気記録媒体1では、非磁性体123が記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bとの境界部におけるトラック長さ方向に連続して配置されており、非磁性体123により記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bとが分離されている構成である。
【0043】
次に、磁気情報を記録する際の磁気記録媒体1の作用について説明する。まず、記録トラック121に対して光ビーム15Aを照射することにより、記録トラック121の一部を加熱して、加熱領域の磁化を弱めるか、又は少なくとも一部を消失させた上で磁気情報を記録する。
【0044】
このとき、固定トラック122A又は固定トラック122Bから発生する漏洩磁界が記録磁界として用いられる。具体的には、記録トラック121に光ビーム15Aを照射するとともに、一対の固定トラック122Aおよび固定トラック122Bの一方に対して、光ビーム15Aと隣り合うように、光ビーム15Aよりも弱いパワーの光ビーム15Bを照射し、光ビーム15Bを照射した固定トラック122A又は122Bの加熱領域から漏洩磁界を発生させて記録トラック121に印加する。
【0045】
磁気記録媒体1と光ビーム15A,15Bとがトラック長さ方向に相対的に移動し、磁気記録層12が冷却されると、記録トラック121には固定トラック122A又は固定トラック122Bからの漏洩磁界に応じて磁化情報が記録され固定される。このように、磁気記録媒体1は、外部からの磁界印加を必要とせず、磁気記録媒体1の内部に備えられた固定トラック122A又は固定トラック122Bにより生じる漏洩磁界によって、装置内部からの磁界印加を行うことができる磁気記録媒体である。
【0046】
記録トラック121並びに固定トラック122A及び122Bが、補償温度にある場合、希土類金属の副格子と遷移金属の副格子とが互いの磁化を打ち消し合い、見かけ上の磁化は0となる。磁気記録媒体1では、光ビーム15Bを照射しない状態、すなわち、室温近傍の温度において、固定トラック122A及び固定トラック122Bが、補償温度近傍となるように組成を設定しておき、漏洩磁界を殆ど発生しないようにする。これにより、光ビーム15Bが照射されることによって固定トラック122A又は122Bの加熱された箇所は温度上昇して補償温度よりも高温になるに従い(遷移金属副格子の磁化が優勢となり)、漏洩磁界(記録磁界)を発生することができる。
【0047】
なお、「室温近傍の温度」とは具体的には、25℃±20℃以内の温度をいう。
【0048】
図2は、上述した記録原理をより詳しく説明するため、磁気記録媒体1の磁気記録層12に係る模式的断面図である。なお、図2における矢印の長さは、記録トラック121並びに固定トラック122A、及び、固定トラック122Bのトータル磁化の大きさを表している。
【0049】
磁気記録媒体1の記録トラック121並びに固定トラック122A及び固定トラック122Bは、上述のように基板11に対して垂直磁気異方性を有するN型フェリ磁性体であり、図2の(a)に示すように、光ビーム15Bを照射しない状態で、固定トラック122A及び固定トラック122Bが好ましい構成として補償温度近傍となるよう設定されている。
【0050】
記録に際しては、図2の(b)に示すように、記録トラック121に光ビーム15Aが照射された第1光照射領域をキュリー温度近傍まで加熱することにより磁化を弱めるか、又は少なくとも一部を消失させる。これとともに、加熱した記録トラック121と非磁性体123を介して隣り合う一対の固定トラック122Aおよび固定トラック122Bの一方に対して、光ビーム15Aよりも弱いパワーの光ビーム15Bを照射する。同図では、固定トラック122Bに対して照射を行う。固定トラック122Bにおいて光が照射された第2光照射領域の温度を、第1光照射領域温度よりも低く、且つ、キュリー温度よりも低い温度に加熱する。これにより、光ビーム15Bによって加熱された固定トラック122Bは補償温度から離れ、予め固定された向きに応じた漏洩磁界を発生する。
【0051】
固定トラック122Bから発生した漏洩磁界は図2の(b)に円弧状の矢印で示したように、閉ループを組むように生じ、記録トラック121に印加される。磁気記録媒体1と、光ビーム15A及び光ビーム15Bとがトラック長さ方向に相対的に移動し、記録トラック121が冷却される過程で、記録トラック121に印加された磁界の向きに応じて記録トラック121の磁化方向が固定される。
【0052】
すなわち、光ビーム15Bで加熱を行った固定トラック122A又は固定トラック122Bの磁化と、光ビーム15Aで加熱を行った記録トラック121の磁化とが双極子相互作用(静磁気的相互作用)により結合し、固定トラック122Bの磁化の方向と逆向きに磁化される。
【0053】
磁気記録媒体1において、記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bとの境界は、非磁性体123によって分離されているため、記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bとの間では交換結合力が働かず、記録トラック121の磁化は固定トラック122A又は122Bから加えられる記録磁界の方向に揃い易くなっている。同時に、記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bとの境界に磁壁が存在しないため、記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bとの間で磁壁移動が起こる虞が無く、記録トラック121並びに固定トラック122A及び122Bのそれぞれのトラック幅を一定に保つことができる。
【0054】
更には、非磁性体123の幅を、非磁性体123を形成しない場合に記録トラック121と、固定トラック122との境界に生じてしまう磁壁の幅よりも狭く設定すれば、非磁性体123を形成しない場合に比べて記録トラック121と、固定トラック122との間の境界幅を狭く抑えることができる。このようにすれば、磁気記録媒体1の面積利用効率を高められるとともに、固定トラック122と、記録トラック121とを近付けることができ、固定トラック122A又は122Bから記録トラック121に印加される記録磁界を大きくすることができる。
【0055】
図3は、本実施の形態における磁気記録媒体1のトラック配置の一形態を示す平面断面図である。本実施の形態の磁気記録媒体1をスパイラル状に形成されているディスク形状の記録媒体として形成する場合には、図3の(a)に示すように、記録トラック121と、固定トラック122A(又は122B)とのダブルスパイラルを形成し、固定トラック122Aを一周毎に逆向きの磁化方向を有する固定トラック122B(又は122A)に切り替える。これにより、スパイラル状に形成されているディスク形状の磁気記録媒体1を作製できる。このようにすれば、記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bの3本のトラックを一つの単位として、スパイラル(トリプルスパイラル)を形成した場合に比べて、固定トラック122Aおよび固定トラック122Bが占める領域を減らすことができる。それゆえ、面記録密度を高めることができる。
【0056】
さらに、図3の(b)に示すように、固定トラック122Aの磁化方向が一周毎に反転する箇所同士を、アドレス領域24として割り当ててもよい。このようにすれば、上記箇所において記録トラック121に加わる磁界が不安定となることを防ぐことができ、且つ、面積利用効率の高い上記磁気記録媒体1を提供できる。アドレス領域24には、光ビームにより検出可能なピット列やウォブル溝が形成されるか、又は、磁気センサー素子により検出可能な磁気サーボ情報が記録される。
【0057】
上記磁気記録媒体1に照射する光ビーム15A及び光ビーム15Bは、光源から発せられた光をレンズ集光した光ビームを用いることができ、光源の波長よりも小さな微小開口や微小突起形状に光を照射することで得られる近接場光であっても構わない。また、光ビーム15A及び光ビーム15Bは、1つの光源から発せられた光を分岐して上記記録トラック121の幅方向両端近傍に照射できるようにしたものでもよく、複数の光源を用いるものであっても構わない。
【0058】
本実施の形態1の上記磁気記録媒体1の記録トラック121、固定トラック122A及び固定トラック122Bの幅は、記録に十分な双極子相互作用を得る観点と、面記録密度を高める観点から、何れも10nm以上、200nm以下程度とすることが望ましい。
【0059】
記録トラック121を加熱する光ビーム15Aの、磁気記録媒体1上におけるスポット径は、記録トラック121のトラック幅よりも小さくすることがより望ましい。このようにすれば、上記光ビーム15Aの照射によって、上記固定トラック122A及び122Bの上記光ビーム15Bが照射されていない領域から不要な漏洩磁界が生じることを防ぐことができるとともに、上記固定トラック122A及び122Bの磁化状態が上記記録トラック121の加熱の影響を受けて変化してしまうことを防ぐことができる。ただし、光ビーム15Aのスポット径を記録トラック121の幅よりも小さくすることは必ずしも必須ではなく、スポット径が記録トラック幅よりも大きくなる場合には、例えば、固定トラック122A及び122Bの組成を希土類優勢(RE−rich)側にずらしておくことで、光ビーム15Aが照射された状態で固定トラック122A及び固定トラック122Bが補償温度となるよう設定できる。
【0060】
また、上記固定トラック122A及び122Bの磁化が消失しないようにするために、磁気記録層12と積層して、高い熱伝導性を示す金属膜からなる放熱層を形成して、熱勾配を急峻にすることができる。
【0061】
さらに、図4を用いて、本実施の形態における磁気記録媒体1の製造方法を説明する。図4は、磁気記録媒体1の製造過程の一形態を示す図である。まず、図4の(a)に示すように、基板11上に、最終的に上記記録トラック121、固定トラック122A及び固定トラック122Bとなる磁気記録層12(フェリ磁性体部分)を膜厚10nm以上、70nm以下で形成する。膜厚が10nm未満になると、上記記録トラック121、上記固定トラック122A及び122Bの磁化が面内方向に傾く虞が生じる。一方、膜厚が70nmを超えると加熱時に磁気記録層12中の熱分布がブロードになり、記録トラック121加熱時に固定トラック122の磁化を消失させる虞が生じる。
【0062】
続いて、図4の(b)に示すように、磁気記録層12上にレジスト材16を塗布した後、フォトリソグラフィや電子線リソグラフィを用いて記録トラック121と固定トラック122との境界部のレジスト材16を露光し、現像により除去する。
【0063】
続いて、図4の(c)に示すように、上記レジスト材16が除去された箇所の磁気記録層12を、Arイオンエッチングや薬液を用いたウエットエッチング等のエッチング手法により除去する。
【0064】
続いて、図4の(d)に示すように、非磁性体123をスパッタリングまたは蒸着法により形成する。非磁性体123の幅は特に限定するものではないが、例えば2nm以上、10nm以下の範囲内とすることが望ましい。上記範囲にすれば、既存の露光技術や加工技術を用いて製造が可能であり、且つ、非磁性体123を形成させる効果、すなわち、記録トラック121と固定トラック122A及び固定トラック122Bとの交換結合力を遮断する効果を得ることができる。
【0065】
続いて、図4の(e)に示すように、レジスト材16を除去し、必要に応じて磁気記録層12上に、図示しない保護層及び潤滑層を形成する。更に、図4の(f)に示すように、固定トラック122A及び固定トラック122Bの磁化方向を一方向に揃えるための初期化を行う。固定トラック122A及び固定トラック122Bの磁化方向を一方向に揃えるためには、例えば以下のような方法によることができる。
【0066】
すなわち、まず、磁気記録媒体1の全面又は初期化しようとする領域に対して、磁化を揃えようとする方向と同じ向きの外部磁界を印加する。このとき、印加する外部磁界の大きさは磁気記録媒体1の記録トラック121、固定トラック122A及び122Bを構成する磁性材料の保磁力よりも小さく設定する(外部磁界の印加だけでは磁化反転が生じないようにする)。上記外部磁界の印加とともに、磁化方向を揃えようとする固定トラック122A又は固定トラック122Bに対して、光ビームを照射して固定トラック122A又は固定トラック122Bを加熱し、固定トラック122A又は固定トラック122Bの磁性材料の保磁力を外部磁界以下に低下させて磁化方向を揃える。
【0067】
上記光ビームを固定トラック122A又は固定トラック122Bに沿って追従させることにより、磁気記録媒体1の全体に固定トラック122Aおよび固定トラック122Bを形成することができる。磁化方向が逆向きの固定トラック122Aおよび固定トラック122Bを形成するためには、外部磁界の方向を反転させればよい。このような初期化プロセスは例えば公知の光磁気記録装置を用いるか、光記録装置に外部から磁界を印加する機構を加えることで実現可能である。
【0068】
なお、図4に示した製造方法では、レジスト材16をフォトリソグラフィや電子線リソグラフィで露光して用いる例について示したが、この他にも、レジスト材16に対して、予め凹凸形状が形成された型を押し付けて形状を転写するナノインプリント法を用いてもよく、レジスト材16を用いずにFIB(Focused Ion Beam)で加工して記録トラック121と固定トラック122との境界部を削り取ってもよい。
【0069】
〔実施の形態2〕
本発明に係る他の実施の形態2について、図5に基づいて説明すれば、以下の通りである。図5は、本実施の形態に係る磁気記録媒体の他の一形態を示す斜視図である。なお、本実施の形態2において説明すること以外の構成は、上記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、上記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0070】
本実施の形態2の磁気記録媒体は、図5に示すように、ランド及びグルーブが形成された基板を用いており、基板上に形成された記録トラックと固定トラックと、非磁性体とからなる磁気記録層のうち、ランドおよびグルーブの一方を記録トラックとして、他方を固定トラックとして用いる点で実施の形態1と異なる。これ以外の部材や、製造方法については上述の実施の形態1と同じである。
【0071】
本実施の形態2の磁気記録媒体1Aを用いれば、記録トラック121への情報の記録再生の際、及び、固定トラック122A及び固定トラック122Bの磁化方向を揃える際に、光記録方式や光磁気記録方式において一般的に用いられるトラッキングサーボを活用できる。それゆえ、各トラックに対して光ビーム15A及び光ビーム15Bを追従させることが容易となり、トラッキング精度を高めることができる。従って、記録・再生・初期化の動作を確実に行うことができる。
【0072】
さらに、ランドとグルーブとの境界に側壁部(傾斜部)が存在することにより面記録密度を落とさずに記録トラック121の加熱(光ビーム15Aによる)中心と上記固定トラック122A又は122Bの加熱(光ビーム15Bによる)中心との距離を実質的に離すことができる。このため、各トラック間の熱伝導が抑制されて、記録トラック121と上記固定トラック122とに照射される光ビーム15A及び光ビーム15Bによる熱の干渉を抑えることができ、固定トラック122A及び固定トラック122Bの磁化消失を防ぐことができる。
【0073】
本実施の形態2の上記磁気記録媒体1Aに用いられるランド及びグルーブ形状を有する基板11Aは、公知の光ディスクに用いられるランド及びグルーブ形状の基板11並びにその製法を適用できる。ランド面とグルーブ面の高さの差は、固定トラック122A又は固定トラック122Bからの記録磁界が記録トラック121に印加でき、且つ、上記トラッキングサーボが使用可能な大きさに設定されていれば特に限定されない。例えば、20nm以上、100nm以下の範囲とすることが好ましい。
【0074】
図5に示した磁気記録媒体1Aの記録再生に際して、ハードディスクに用いられるような浮上型ヘッドを使用し、記録トラック121から生じる漏洩磁界を磁気抵抗効果素子に代表される磁気センサーを用いて検出する場合には、記録トラック121をランド(基板11Aから遠い平面)上に、固定トラック122をグルーブ(上記基板11に近い平面)上にそれぞれ配置することが望ましい。これにより、記録トラック121を浮上型ヘッドに近付けることができ、高密度記録を行った際にも高い信号強度が得られる磁気記録媒体1を実現することができる。
〔実施の形態3〕
本発明に係る他の実施の形態3について、図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。図6は、実施の形態1及び2における磁気記録媒体の記録再生に適用可能な記録再生装置の光学系の構成を示す図である。なお、本実施の形態3において説明すること以外の構成は、上記実施の形態1及び2と同じである。また、説明の便宜上、上記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。なお、本実施の形態3では、実施の形態1及び2で示した磁気記録媒体1を、ディスク状に形成した場合について示す。
【0075】
磁気記録媒体1の記録再生に用いる記録再生装置400の光学系は、図6に示すように、光源として3つのレーザーダイオード401A,401B及び401Cを有している。記録に際して、上記レーザーダイオード401Aは、記録トラック121への光ビームの照射に、レーザーダイオード401B及び401Cは上記記録トラック121を挟む一対の固定トラック122Aおよび固定トラック122Bのそれぞれへの光ビームの照射に用いられる。
【0076】
磁気記録媒体1は、スピンドル410に固定されて回転駆動される。レーザーダイオード401A,401B及び401Cから発せられた光ビームは、コリメートレンズ402と、ビームスプリッタ403とを通過した後、対物レンズ404によって集光され、コリメートレンズ402への入射角度の違いに応じて、磁気記録媒体1の上記磁気記録層12上の異なる位置に集光照射される。
【0077】
具体的には、上記レーザーダイオード401Aから発せられた光ビームが上記記録トラック121に、上記レーザーダイオード401B及び401Cから発せられた光ビームが上記固定トラック122A及び122B上の一部に、それぞれ照射されるように上記コリメートレンズ402に入射する角度を設定する。記録時には、上記レーザーダイオード401Aと、上記レーザーダイオード401B又は401Cとの一方を発光させることにより、上記記録トラック121及び上記固定トラック122A又は122Bの加熱を行う。
【0078】
このとき、上記レーザーダイオード401B又は401Cから発せられ、上記固定トラック122A又は122Bに照射される光ビーム15Bの強度が、上記レーザーダイオード401Aから発せられ、上記記録トラック121に照射される上記光ビーム15Aの強度よりも弱くなるように、上記レーザーダイオード401A,401B及び401Cからの出射光強度を調整する。このようにして上記固定トラック122A又は122Bから記録磁界を発生させ、固定トラック122A又は122Bよりも高い温度に加熱された上記記録トラック121に磁気情報の記録を行う。上記のように、記録トラックの一部、及び、上記記録トラックの一部と非磁性体を介して隣り合う固定トラックの一部に対して少なくとも1つの光を照射することによって磁気情報の記録を行うことができる。さらに、固定トラック122Aおよび122Bにおける光の照射位置を変更して、磁気情報の記録を繰り返し行うことができる。
【0079】
記録した磁気情報の再生には、光磁気記録方式で一般に用いられる、カー回転角の変化を利用する方法で行うことができる。再生に際しては、上記レーザーダイオード401Aから記録時よりも弱い強度の光を発生させ、上記コリメートレンズ402と、上記ビームスプリッタ403とを通過させた後、上記対物レンズ404によって集光し、上記磁気記録媒体1の上記磁気記録層12に集光照射する。照射された光ビームは、上記記録トラック121の磁化方向に応じて偏波面が回転するカー効果を生じる。上記記録トラック121で反射された光は、再び上記対物レンズ404を通過した後、上記ビームスプリッタ403で光路を変えられ、1/2波長板405と、集光レンズ406と、偏光ビームスプリッタ407とを通過した後、2つのフォトダイオード408で検出される。
〔実施の形態4〕
本発明に係る他の実施の形態4について、図7及び図8に基づいて説明すれば、以下の通りである。本実施の形態4では、上述の実施の形態1及び2の磁気記録媒体1の記録再生に際して、ハードディスクに用いられる浮上型の記録再生ヘッドを使用し、磁気情報の再生には磁気抵抗効果素子に代表される磁気センサーを用いる場合の記録再生装置500について説明する。なお、実施の形態1〜3と同様の部材に関しては、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、本実施の形態においても、磁気記録媒体1をディスク状に形成した場合について示す。
【0080】
図7は、本実施の形態における磁気記録媒体の記録再生に用いる記録再生装置の一形態を示す斜視図である。記録再生装置500は、図7に示すように、磁気記録媒体1、浮上スライダに形成された記録再生ヘッド501、スピンドル506、サスペンションアーム507、ボイスコイルモータ508から構成されている。
【0081】
スピンドル506は、磁気記録媒体1を回転駆動するものである。また、浮上スライダに形成された上記記録再生ヘッド501は、上記サスペンションアーム507に支持されており、上記サスペンションアーム507は、上記ボイスコイルモータ508によって磁気記録媒体1上で駆動する。上記スピンドル506、上記サスペンションアーム507、及び上記ボイスコイルモータ508は従来公知のものを用いることができる。
【0082】
図8は、本実施の形態における磁気記録媒体の記録再生に用いる記録再生装置に適用可能な磁気ヘッドの一形態を示す断面図である。上記記録再生ヘッド501は、上記磁気記録媒体1上にレーザー光を照射するためのレーザーダイオード511と、レーザー光を3つに分割するとともに近接場光551A、551B及び551Cに変換するための近接場光発生部材512、さらに、上記近接場光551B又は551Cを遮断するための遮蔽材513、さらに、磁気記録媒体1から発生する漏洩磁界を検出する図示されない磁気センサーを備えている。
【0083】
近接場光発生部材512は、上記磁気記録媒体1の上記記録トラック121と、上記固定トラック122A及び122Bとに対して、それぞれ上記近接場光551A、551B及び551Cを発生し照射できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、レーザーダイオード511から発せられる光ビームの波長よりも小さなサイズの微小開口や、微小突起形状を適用することができる。
【0084】
上記近接場光発生部材512にはAu,Ag,PtおよびAlから選択される金属を主体とする材料を用いることによって、近接場光551A、551B及び551Cの強度を増幅可能である。上記近接場光発生部材512においては、上記磁気記録媒体1の上記記録トラック121に照射される上記近接場光551A(実施の形態1及び2の光ビーム15Aに対応)の強度に比べて、上記固定トラック122A及び122Bに照射される上記近接場光551B及び551C(実施の形態1及び2の光ビーム15Bに対応)の強度が弱くなるように設定される。
【0085】
具体的には、例えば、微小開口又は微小突起のサイズ、形状を変えることにより発光効率を変化させるか、又は、上記遮蔽材513を上記レーザーダイオード511の波長において半透明の材料(吸収を持つ材料)で形成する。
【0086】
遮蔽材513は、必要に応じて上記近接場光551B又は551Cを遮断するための上記遮蔽材513であって、光ビームの遮断と透過とを可変制御可能な部材である。具体的に例えば、通電により透過率が変わる液晶材料や、微小な遮蔽板の開閉が可能なMEMS(Micro Electro Mechanical System)を用いることができる。
【0087】
磁気記録媒体1への磁気情報の記録に際しては、上記レーザーダイオード511から光ビームを照射するとともに、上記遮蔽材513によって上記近接場光551B又は551Cの何れかを遮蔽し、上記磁気記録媒体1の上記記録トラック121に対して近接場光551Aを、固定トラック122A又は固定トラック122Bの何れかに対して近接場光551B又は551Cを照射する。
【0088】
このようにして上記固定トラック122A又は122Bから記録磁界を発生させ、上記固定トラック122A又は122Bよりも高い温度に加熱された上記記録トラック121に磁気情報の記録がなされる。
【0089】
記録した磁気情報の再生には図示されない磁気センサーが用いられる。磁気センサーには、例えば、従来公知のGMR(Giant Magneto Resistance)素子やTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子を用いることができる。記録トラック121からの漏洩磁界(再生信号に相当)が弱い場合には、遮蔽材513によって近接場光551B及び551Cの両方を遮断した上で、近接場光551Aのみを上記記録トラック121に対して記録時よりも弱い強度で照射し、上記記録トラック121からの漏洩磁界を増強して検出してもよい。
【0090】
なお、上記レーザーダイオード511は、レーザー光が近接場光発生部材512に照射されるものであれば、必ずしも記録再生ヘッド501に備えられている必要はない。例えば、上記サスペンションアーム507に備えられていてもよい。又、レーザー光を上記近接場光発生部材512に照射するにあたり、光導波路やグレーチング形状を利用するものであっても構わない。
【0091】
なお、本発明は、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0092】
以下の実施例において、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0093】
〔実施例1〕
図1に示した、実施の形態1の磁気記録媒体1において、磁気記録層12の磁性体部分(記録トラック121、固定トラック122A及び122B)の補償温度が室温近傍にあり、キュリー温度が260℃、膜厚50nmのTbFeCo磁性膜を用いた場合の例について示す。
【0094】
ここでは、固定トラック122A又は122Bを光ビーム15Bで加熱した際に、記録トラック121に対して印加される磁界の大きさを、固定トラック122の加熱領域に存在する磁極から発せられる磁界を計算することによって求めた。尚、ここでは、記録トラック121と、固定トラック122A及び122Bとの幅を何れも160nmとし、非磁性体123の幅を10nmとした。光ビーム15Bは、波長405nmのレーザー光をレンズ集光した場合を想定してスポット径を580nmとした。光ビーム15Bの照射に伴う磁気記録媒体1上の温度分布はガウス分布とした。各温度における固定トラック122Aおよび固定トラック122Bの磁化量は、実際に作製したTbFeCo膜における磁化量の温度依存性測定の結果を適用した。
【0095】
上記の条件を基にした計算の結果、固定トラック122A又は122Bを130℃に加熱することにより、記録トラック121において、非磁性体123との境界から5nmトラック幅中心方向に入った位置で、400Oe程度の磁界が得られることが分かった。またトラック幅中心方向に15nm入った位置でも250Oe程度の磁界が得られることが明らかとなった。これらの磁界の方向は、光ビーム15Bによって加熱された固定トラック122Aおよび122Bの磁化方向と反対の向きであった。
【0096】
このように、図1に示す磁気記録媒体1においては、固定トラック122A又は122Bを光ビーム15Bによって加熱することにより、記録トラック121に対して加熱した固定トラック122A又は122Bの磁化方向と反対向きの磁界を印加することができ、光ビーム15Aによって記録トラック121の保磁力を、固定トラック122A又は122Bの加熱領域から印加される記録磁界以下になるように昇温することで、固定トラック122の磁化方向と反対向きの磁気情報を記録できる。
【0097】
ここで、記録トラック121については、光ビーム15Aによる加熱に伴って、記録しようとする箇所におけるトラック長さ方向の前後の記録ビットについても、ある程度の温度上昇が起こる。すなわち、トラック長さ方向の前後の記録ビットからも漏洩磁界が加わることとなる。従って、前後の記録ビットの向きが、記録しようとする磁気ビットの向きと同じである場合には、前後の磁気ビットから加わる漏洩磁界よりも大きな磁界を上記固定トラックから発生させるようにする。具体的に例えば、上記光ビーム15A及び15Bの照射強度を、所望の向きの記録ビットが形成されるように調整する。これにより安定な記録ビットの形成が可能となる。
【0098】
一方で、上記トラック長さ方向の前後の記録ビットは、記録しようとするビットとの間で交換結合力を生じ、記録を妨げる方向に作用する。ただし、上記磁気記録媒体1では、上記記録トラック121と、上記固定トラック122A及び122Bとの間が上記非磁性体123で分断されており、記録ビットが上記記録トラック121の両端に達するように形成されることで、閉じた磁壁が形成されるのを回避することができる。従って、上記の交換結合力によって記録した磁区が消滅することを防ぐことができる。更に、キュリー温度近傍もしくはキュリー温度以上に記録トラック121を加熱して記録を行うことで、温度勾配による磁壁移動についても抑制でき、双極子相互作用による安定な記録磁区形成が可能となる。
【0099】
〔実施例2〕
実施例1においては、レンズ集光した上記光ビーム15Bを想定した場合の磁界強度について示したが、光ビーム15A及び15Bに、光ビームの波長よりも小さな微小開口からのしみ出し光や、微小球又は微小突起形状で局在化した近接場光を用いる場合には、スポット径を光ビームの波長よりも小さくでき、より高密度の記録が可能となる。また、スポット径をトラック幅に対して相対的に小さくすれば、上記記録トラック121加熱に伴う上記固定トラック122への熱拡散を抑えることができ、記録時に誤って上記固定トラック122の磁化方向を反転させてしまうことを防ぐことができる。
【0100】
本実施例では、上記光ビーム15A及び15Bに近接場光を用いた場合を想定し、スポット径、上記記録トラック121と、上記固定トラック122A及び122Bとの幅を、いずれも50nmとした場合について、実施例1と同様に固定トラック122から記録トラック121に印加される磁界の大きさを示した。
【0101】
磁気記録層12には実施例1と同じものを用いた。また、非磁性体123の幅は実施例1と同じ10nmとした。その結果、固定トラック122を130℃に加熱することにより、上記記録トラック121の上記非磁性体123との境界から5nmトラック幅中心方向に入った位置で、350Oe程度の磁界が得られることが分かった。またトラック幅中心方向に15nm入った位置でも150Oe程度の磁界が得られることが明らかとなった。これらの磁界の方向は、光ビーム15Bによって加熱された固定トラック122の磁化方向と反対の向きであった。
【0102】
このように、図1の上記磁気記録媒体1においては、トラック幅と同程度のスポット径を有する光ビームを照射する場合にも、記録トラック121に対して上記固定トラック122の磁化方向と反対向きの磁界を印加することができ、光ビーム15Aによって記録トラック121の磁気記録層12の保磁力を印加される磁界以下になるように昇温することで、上記固定トラック122の磁化方向と反対向きの磁気情報を記録できる。また、磁気記録層12の多層化が不要であり、近接場光を用いた記録にも好適な磁気記録媒体である。
【0103】
〔実施例3〕
上記磁気記録媒体1について、外部磁界が存在しない状態で双極子相互作用による磁化反転が可能であることを実際に確認するために、TbFeCoを用いた連続体から成る上記磁気記録層12(非磁性体123は無し)を平滑基板上に作製し、光ビームを照射した結果について説明する。図9は、本実施例における磁気記録媒体の磁化反転の様子を示す図である。本実施例において用いたTbFeCoは補償温度が室温近傍にあり、キュリー温度が180℃、膜厚が35nmであった。
【0104】
磁化反転の測定には、ピコ秒オーダーの時間分解能を持つフェムト秒レーザーを用いたポンプ・プローブ分光法を使用し、磁気光学カー顕微鏡で磁区形状を観察した。上記磁気記録層12には、まず、200Oe程度の外部磁界と、レーザー光の照射とを行い、図9(a)に示すような磁化反転領域が存在する状態を形成した(初期化)。続いて、波長800nmのレーザー光をレンズ集光し、図9(a)の中央部の磁化反転境界部分に照射した。このときのスポット径は1.3μm程度であった。上記レーザー光の集光照射により、図9(b)に示すように、照射から10ps程度の時間で磁化の乱れが生じ、図9(c)に示すように10ns程度の短時間で直径200nm程度の反転磁区が安定形成された。図9(a)で形成した周囲磁区から受ける双極子相互作用により元の磁化方向と逆向きに磁化反転が生じていることがわかる。
【0105】
このように、外部磁界の印加無しに光照射を行うだけで、双極子相互作用による磁化反転が生じ、且つ、10ns程度の時間で記録が完了することが明らかとなった。
【0106】
ここで、図9(c)で確認された反転磁区は、膜面に対して上下両方向の磁区が並んで形成された結果となっている。これは、本実施例3において上記磁気記録層12に照射したレーザー光が単一のレーザー光であり、且つ、図9(a)において予め形成した磁区の境界部にレーザー光を照射したことによるものである。すなわち、加熱された領域(境界部)に対してその両側から同じ強さで記録磁界が印加されたことにより生じた現象である。
【0107】
従って、実施の形態1及び2に示したように、上記磁気記録媒体1において上記記録トラック121に対して上記光ビーム15Aを照射するとともに、隣接する上記固定トラック122Aおよび122Bの一方に上記光ビーム15Bを照射して、上記光ビーム15Bを照射した上記固定トラック122A又は122Bから、漏洩磁界を発生させること、且つ、上記光ビーム15Bが照射されていない側の上記固定トラック122B又は122Aからの漏洩磁界が上記光ビーム15Bを照射した上記固定トラックからの漏洩磁界よりも小さくなるように上記磁気記録層12の補償温度を調整することにより、上記記録トラック121に形成される磁区を一方向にできる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、ハードディスクや光磁気ディスクに代表される磁気記録、光磁気記録分野の記録媒体、記録再生装置に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】実施の形態1における磁気記録媒体を示す斜視図である。
【図2】記録方法を説明するための磁気記録媒体の断面図である
【図3】実施の形態1における磁気記録媒体のトラック配置の一形態を示す平面断面図である。
【図4】実施の形態1における磁気記録媒体の製造工程の一形態を示す図である。
【図5】実施の形態2における磁気記録媒体の他の一形態を示す斜視図である。
【図6】実施の形態3における磁気記録媒体の記録再生に適用可能な記録再生装置の光学系の構成を示す図である。
【図7】実施の形態4における磁気記録媒体の記録再生に用いる記録再生装置の一形態を示す斜視図である。
【図8】実施の形態4における磁気記録媒体の記録再生に用いる記録再生装置に適用可能な磁気ヘッドの一形態を示す断面図である。
【図9】実施例3における磁気記録媒体の磁化反転の様子を示す図である。
【図10】特許文献1に記載の多層記録媒体を示す図である。
【図11】特許文献2に記載の多層記録媒体を示す図である。
【符号の説明】
【0110】
1 磁気記録媒体
11 基板
12 磁気記録層
15A 光ビーム(光)
15B 光ビーム(光)
16 レジスト材
24 アドレス領域
121 記録トラック
122A 固定トラック
122B 固定トラック
123 非磁性体
401A レーザーダイオード(光照射手段)
401B レーザーダイオード(光照射手段)
401C レーザーダイオード(光照射手段)
402 コリメートレンズ
403 ビームスプリッタ
404 対物レンズ
405 1/2波長板
406 集光レンズ
407 偏光ビームスプリッタ
408 フォトダイオード
410 スピンドル
506 スピンドル
500 磁気記録再生装置
501 記録再生ヘッド
506 スピンドル
507 サスペンションアーム
508 ボイスコイルモータ
511 レーザーダイオード
512 近接場光発生部材
513 遮蔽材
514 磁気センサー
551A 近接場光
551B 近接場光
551C 近接場光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の面方向において、磁気情報を記録する記録トラックと、上記記録トラックに磁界を印加する固定トラックとが非磁性体を介し、交互に連続して配置されている磁気記録媒体であって、
上記記録トラック及び上記固定トラックは、上記基板に対する垂直方向に沿って磁気異方性を有するフェリ磁性体からなり、
上記非磁性体を介して、上記記録トラックを挟む一対の上記固定トラックは互いに逆向きの磁化方向を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
上記固定トラックを構成するフェリ磁性体の補償温度が、室温近傍であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記記録トラックが、ランドおよびグルーブの一方として形成されており、
上記固定トラックが、ランドおよびグルーブの他方として形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記記録トラック及び固定トラックが、スパイラル状に形成されているディスク形状を有しており、
上記固定トラックの磁化方向が一周毎に反転して逆向きとなっていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
上記固定トラックの磁化方向が反転する箇所同士によって挟まれた領域に、アドレス領域が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
上記記録トラック及び上記固定トラックの幅が、10nm以上、200nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を記録再生する磁気記録再生装置であって、
上記記録トラックと上記固定トラックのそれぞれに対して、少なくとも1つの光を照射する光照射手段を有することを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体に対して磁気情報を記録する磁気情報記録方法であって、
上記記録トラックの一部、及び、上記記録トラックの一部と非磁性体を介して隣り合う上記固定トラックの一部に対して光を照射し、
上記記録トラック上において光が照射された第1光照射領域の温度に比べて、上記固定トラック上において光が照射された第2光照射領域の温度が低くなるように、且つ、第1光照射領域の温度がキュリー温度よりも低い温度になるように、照射する光の強度を調整することを特徴とする磁気情報記録方法。
【請求項9】
上記記録トラックの一部に対して照射する光のスポット径が、上記記録トラックの幅よりも小さいことを特徴とする請求項8に記載の磁気情報記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−113760(P2010−113760A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285530(P2008−285530)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】