説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】磁気テープの搬送時に、ガイド、サーボライターの位置規制部、あるいはドライブヘッドなどによるエッジの削れを抑制して塵埃発生を防止し、これによってドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】支持体12上に少なくとも強磁性粉末と結合剤を含む磁性層13を有し、所定のサイズに裁断された磁気記録媒体10であって、磁気記録媒体10の裁断端面15に形成されるせん断領域16は、磁気記録媒体10の厚さtの50%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関し、より詳細には、ドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に高い走行耐久性を有する磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録テープは、高記録密度化に伴い線記録密度が年々飛躍的に向上している。このため、サブミクロンの塵埃がサーボライターやドライブのヘッドに付着すると、サーボ信号あるいは書込み信号にドロップアウトが生じ、信号の書込みが不可能となり、品質エラーが発生する。また、サーボライターの規制部に塵埃が堆積すると、サーボ書込み位置エラーやエッジ変形が助長されて品質エラーが発生する。
【0003】
このため、塵埃発生の無い磁気記録テープを製造することは、商品の要求性能を保証する上で重要である。しかし、磁気記録テープの裁断時に形成されるエッジの凸形状に起因して、搬送ガイド、サーボライターの規制部、ドライブヘッドにおいて多くの塵埃が発生しており、エラー発生の要因として問題となっていた。近年、テープの薄膜化に伴って、エッジの保持面積が減少して面圧が増大する傾向にあり、これによってもガイド搬送系等で擦られて塵埃の発生が助長され、改善が望まれていた。
【0004】
エッジから発生する塵埃の抑制を図った磁気記録テープとして、従来、非拘束側及び拘束側の切断面において、支持体最大凸部の頂点が、塗布層最大凸部の頂点とバック層最大頂点を結んだ線より、外側に出ないようにした磁気テープが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、リファレンスエッジ側で支持体エッジが磁性層エッジよりも幅方向に突出するようにした磁気テープ(例えば、特許文献2参照)や、非拘束側切断面における磁性層最大凸量が、1μm以下とされた磁気テープが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−251331号公報
【特許文献2】特開2005−317068号公報
【特許文献3】特開2005−339593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の磁気テープの形状では、塗布層とバック層の厚みが支持体より薄いため、支持体が突出してしまい、ガイド搬送系等で擦られて塵埃が発生してしまう虞があった。また、特許文献2に記載の磁気テープでは、たとえ塗布層凸部が支持体よりも低くなっていても、凹量が大きいと、凸部のガイド等への接触面積が稼げず、尖った形状となるため、ガイド搬送系等で擦られて塵埃が発生してしまう。また、特許文献3に記載の磁気テープの形状では磁性層が突出しているため、ガイド搬送系等で擦られて塵埃が発生する可能性が大きく、改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、磁気記録テープの搬送時に、ガイド、サーボライターの位置規制部、あるいはドライブヘッドなどによるエッジの削れを抑制して塵埃発生を防止し、これによってドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記磁気記録媒体によって達成される。
(1)支持体上に少なくとも強磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有し、所定のサイズに裁断された磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の裁断端面に形成されるせん断領域は、前記磁気記録媒体の厚さの50%以上である磁気記録媒体。
【0009】
上記構成の磁気記録媒体によれば、磁気記録媒体の裁断端面に形成されるせん断領域が、磁気記録媒体の厚さの50%以上であるので、表面が比較的平滑な、せん断面をガイド、サーボライターの位置規制部、あるいはドライブヘッドなどに接触させてガイドすることにより、接触面積を大きくして面圧を減少させて、走行中に磁気記録媒体から発生する塵埃を防止することができる。
【0010】
また、せん断領域が多くなると、破断によって形成される磁性層又は非磁性層の凸形状が相対的に小さくなり、ガイドやドライブヘッドとの接触による塵埃発生を低減できる。これにより、ドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体とすることができる。
【0011】
(2)前記磁気記録媒体は、磁気記録テープである上記(1)に記載の磁気記録媒体。
【0012】
上記構成の磁気記録媒体によれば、磁気記録媒体が、磁気記録テープであるので、ガイド、サーボライターの位置規制部、あるいはドライブヘッドなどに接触しながら走行する磁気記録テープからの塵埃発生を抑制して、ドロップアウト性能、サーボ性能に優れ、高い走行耐久性を有する磁気記録テープが得られる。
【0013】
(3)前記磁気記録媒体は、リニア記録方式の磁気記録テープである上記(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
【0014】
上記構成の磁気記録媒体によれば、磁気記録媒体は、サーボ信号用トラックが、一方のエッジから所定距離の位置に、長手方向に沿って設けられているリニア記録方式の磁気記録テープであるので、平滑なエッジのせん断面からのサーボ信号用トラック位置を安定させることができ、これによってサーボ特性が向上する。
【0015】
(4)前記支持体は、幅方向のヤング率が8GPa以上である上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【0016】
上記構成の磁気記録媒体によれば、支持体の幅方向のヤング率が8GPa以上であるので、支持体の剛性が高く、磁気記録媒体の必要強度を維持したまま、厚みを薄くすることができ、これによって記憶容量を高めることができる。
【0017】
(5)厚さ7μm以下の前記支持体上に、少なくとも2層からなる薄膜層がコーティングされ、総厚さが9μm以下とされた磁気記録媒体の原反が、幅12.7mm以下のテープ状に裁断された上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【0018】
上記構成の磁気記録媒体によれば、厚さ7μm以下の支持体上に、総厚さが9μm以下となるように、少なくとも2層からなる薄膜層をコーティングした磁気記録媒体の原反を、12.7mm以下の幅に裁断して磁気記録テープとしたので、搬送時にガイド、サーボライターの位置規制部、ドライブヘッドなどでのエッジの削れによる塵埃発生が防止されてサーボ性能、ドロップアウト性能に優れた磁気記録テープとすることができる。
【0019】
(6)回転下刃と、噛合深さ0.05mm〜0.2mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を供給して所定のサイズに裁断された上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【0020】
上記構成の磁気記録媒体によれば、回転下刃と、噛合深さ0.05mm〜0.2mmで回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、磁気記録媒体の原反を供給して所定のサイズに裁断するので、磁気記録媒体の裁断端面に形成されるせん断領域を、磁気記録媒体の厚さの50%以上にすることができる。またこれによって、ガイドやドライブヘッドとの接触による塵埃発生を低減させて、ドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体とすることができる。
【0021】
(7)回転下刃と、噛合深さ0.2mm〜0.5mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を100〜200m/minの速度で供給して所定のサイズに裁断された上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【0022】
上記構成の磁気記録媒体によれば、回転下刃と、噛合深さ0.2mm〜0.5mmで回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、磁気記録媒体の原反を100〜200m/minの速度で供給して所定のサイズに裁断するので、磁気記録媒体の裁断端面に形成されるせん断領域を、磁気記録媒体の厚さの50%以上にすることができる。またこれによって、ガイドやドライブヘッドとの接触による塵埃発生を低減させて、ドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体とすることができる。
【0023】
また、上記目的は、下記磁気記録媒体の製造方法によって達成される。
(8)支持体上に少なくとも強磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有し、所定のサイズに裁断された磁気記録媒体の製造方法であって、
回転下刃と、噛合深さ0.05mm〜0.2mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を供給して所定のサイズに裁断する磁気記録媒体の製造方法。
【0024】
上記の磁気記録媒体製造方法によれば、回転下刃と、噛合深さ0.05mm〜0.2mmで回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、磁気記録媒体の原反を供給して所定のサイズに裁断するようにしたので、磁気記録媒体の裁断端面に形成されるせん断領域が、磁気記録媒体の厚さの50%以上である磁気記録媒体を制作することができる。またこれによって、ガイドやドライブヘッドとの接触による塵埃発生を低減させて、ドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体の製造が可能となる。
【0025】
(9)支持体上に少なくとも強磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有し、所定のサイズに裁断された磁気記録媒体の製造方法であって、
回転下刃と、噛合深さ0.2mm〜0.5mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を100〜200m/minの速度で供給して所定のサイズに裁断する磁気記録媒体の製造方法。
【0026】
上記の磁気記録媒体製造方法によれば、回転下刃と、噛合深さ0.2mm〜0.5mmで回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、磁気記録媒体の原反を100〜200m/minの速度で供給して所定のサイズに裁断するようにしたので、磁気記録媒体の裁断端面に形成されるせん断領域が、磁気記録媒体の厚さの50%以上である磁気記録媒体を制作することができる。またこれによって、ガイドやドライブヘッドとの接触による塵埃発生を低減させて、ドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体の製造が可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、磁気テープの搬送時に、ガイド、サーボライターの位置規制部、あるいはドライブヘッドなどによるエッジの削れを抑制して塵埃発生を防止し、これによりドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る磁気記録媒体およびその製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の磁気記録媒体を裁断する裁断装置の要部斜視図、図2は裁断装置の要部縦断面図、図3は裁断装置の側面図、図4は磁気記録媒体の裁断端面の拡大図である。
【0029】
本発明に係る磁気記録媒体(磁気記録テープ)10は、図1に示すように、幅広の磁気記録媒体の原反11が、裁断端面15に形成されるせん断領域が磁気記録媒体10の厚さの50%以上となるように、裁断装置20によってテープ状に裁断して形成される。
【0030】
図4に示すように、磁気記録媒体の原反11(磁気記録媒体10)は、支持体12の一面上に、強磁性粉末と結晶子を含む磁性層13を有し、他方の面上にバック層14を有する。なお、支持体12と磁性層13との間には、非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を設けることもできる。
【0031】
支持体12としては、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド、ポリベンズオキサゾール等を挙げることができる。支持体の少なくとも一方の面にAlOxやSiOxなど酸化金属膜を設けても良い。
【0032】
磁性層13は、基本的には強磁性粉末及び結合剤から形成されており、通常、潤滑剤、導電性粉末(例、カーボンブラック)、及び研磨剤が含有されている。強磁性粉末としては、例えば、強磁性金属粉末、あるいは板状六方晶フェライト粉末が例示される。結合剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。
【0033】
バック層14は、カーボンブラック、及びモース硬度5〜9の無機質粉末が結合剤中に分散されてなる層であることが好ましい。無機質粉末としては、例えば、α−酸化鉄、α−アルミナ、及び酸化クロム(Cr23)を挙げることができる。また、結合剤としては、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリイソシアネートを組み合わせた構成が例示される。
【0034】
また、非磁性層は、例えば、非磁性無機粉末、カーボンブラック、潤滑剤、結合剤を含有する。非磁性無機粉末としては、酸化チタン、α−アルミナ、α−酸化鉄、又は酸化クロムが挙げられる。また、結合剤は、磁性層の結合剤と同様である。
【0035】
このような磁気記録媒体10は、例えば、厚さ7μm以下の支持体12上に、少なくとも2層からなる薄膜層がコーティングされて、その総厚さtが9μm以下とされた磁気記録媒体の原反11が、裁断装置20によって幅12.7mm以下のテープ状に裁断されて製作される。
【0036】
図1および図2に示すように、裁断装置20は、主に、上下対になった回転上刃21と回転下刃22によって構成されており、この回転上刃21と回転下刃22の間に磁気記録媒体の原反11を通過させることによって、長尺の磁気記録媒体の原反11を長手方向に裁断して幅狭の磁気記録テープ10を製造する。
【0037】
回転下刃22は、例えば、タングステンカーバイト、SKH、サーメット等の金属素材によって円筒状に形成されており、回転軸24が挿通されて一定の間隔で取り付けられている。回転軸24は、不図示のモータによって回転駆動される。回転下刃22は、一方側の側面(図中右側面)が略円形の裁断面22aとして作用するようになっている。各回転下刃22の裁断面22aは、回転軸24の軸方向において、磁気テープ10の幅寸法と同じ間隔で配置されている。
【0038】
一方、回転上刃21は、例えば、タングステンカーバイト等の超硬素材によって薄い円盤状に形成されており、回転軸23に一定の間隔で取りつけられている。回転軸23は、回転下刃22が設けられた回転軸24と平行に配置され、モータによって回転駆動される。各回転上刃21同士の間には、スペーサ25が介在して、回転上刃21が回転軸23の軸方向に一定の間隔で配置されている。
【0039】
回転上刃21は、その下端部が回転下刃22同士の間に形成された隙間に入り込んで(即ち、側方から見て回転上刃21の下端部と、回転下刃22の上端部とがオーバーラップ)配置されている。回転上刃21は、その一方側の側面(図中の左側面)が裁断面21aであり、回転下刃22の裁断面22aと摺接して裁断作用を生じる。
【0040】
回転上刃21は、ばねまたはゴムなどの弾性部材26によってスラスト方向(図2において左方向)に押圧されており、磁気記録媒体の原反11を裁断するときの抵抗によって回転上刃21が回転下刃22から逃げることが防止されて、回転下刃22の裁断面22aと、回転上刃21の裁断面21aとが、常に接触して良好な噛み合わせが維持される。
【0041】
これにより、回転上刃21の裁断面21aが、回転下刃22の裁断面22aと摺接して裁断作用が生じ、磁気記録媒体の原反11を、幅12.7mm以下に裁断して複数本の磁気記録テープ10が制作される。
【0042】
図3に示すように、回転上刃21の中心O1と、回転下刃22の中心O2とを結ぶ線分L上における回転上刃21と回転下刃22とのオーバーラップ量として定義される噛合深さORは、例えば、0.05mm〜0.2mmに設定されている。これは、噛合深さORが0.05mm以下だと、上下刃の振れ精度の影響で裁断中にOR<0となることがあり、磁気記録媒体の原反11の裁断が不十分となって磁気記録テープ10同士が分離されない虞があり、また、噛合深さORが0.2mm以上だと、裁断端面のせん断領域が磁気記録テープ10の厚さtの50%以下となる虞があるからである。
【0043】
ここで、図4から図6を参照して、磁気記録媒体の裁断について詳述する。図5は回転刃によって裁断される磁気記録媒体の側面図、図6は磁気記録媒体が裁断される状態を時間経過に従って示す概念図である。
【0044】
説明の都合上、磁気記録媒体11は、図5に示すように、下面11bが回転下刃22に接触しながら供給されるものとする。磁気記録媒体11は、上面11aが回転上刃21に接触するA点から裁断が開始され、回転上刃21の外周と回転下刃22の外周とが交差するB点で裁断が終了する。詳述すると、磁気記録媒体11の上面11aが回転上刃21に接触すると、図6(a)に示すように、磁気記録媒体11が回転上刃21と回転下刃22とで挟持され、回転上刃21側には圧縮応力が、また回転下刃22側に引っ張り応力が作用する。このとき、磁気記録媒体11は、回転モーメントによって傾く。
【0045】
磁気記録媒体11が、更に回転上刃21と回転下刃22との間に送り込まれて両回転刃21、22間の距離が狭まると、図6(b)に示すように、磁気記録媒体11に作用する応力が次第に増大して圧縮変形が大きくなり、やがてせん断によるクラックが磁気記録媒体11に発生し、次第にこのせん断が進行する。そして、更に両回転刃21、22間の距離が狭まると、図6(c)に示すように、圧縮変形が更に進行し、やがて引っ張り応力が磁気記録媒体11の破断応力に達すると破断し、図6(d)に示すように、裁断されて複数本の磁気記録テープ10となる。
【0046】
このように、せん断作用およびこれに続く破断作用によって裁断された磁気記録テープ10の裁断端面15の形状は、図4に示すように、下面11b側からせん断領域16および破断領域17が形成される回転上刃21側の端面15Aと、上面11a側からせん断領域16および破断領域17が形成される回転下刃22側の端面15Bとで形状が異なる。
【0047】
裁断端面15A、15Bのせん断領域16および破断領域17の大きさは、両回転刃21、22の噛合深さOR、磁気記録媒体11の裁断速度Vなど、裁断条件によって決まり、一般的に、時間をかけてゆっくり裁断すると、せん断領域16の割合が大きくなる。これは、裁断が短時間に行われると、粘弾性の速度依存性によって材料が硬化し、破断が裁断の早い時期から生じるためと考えられる。
【0048】
せん断領域16の表面は比較的平滑であるのに対して、破断領域17の表面は凹凸が大きく荒れていることが多く、走行に伴う塵埃発生を嫌う磁気記録テープ10としては、せん断領域16が大きいことが好ましい。
【0049】
図5に示すように、両回転刃21、22の噛合深さORが小さくなるに従って、AB点間の距離Xが長く、即ち、裁断時間が長くなるので、せん断領域16の割合が大きくなる。従って、噛合深さORは、磁気記録媒体11を裁断可能な範囲内で、小さい方が好ましい。また、同様の理由から、磁気記録媒体11の裁断速度Vは、遅い方がよい。
【0050】
上記したように、塵埃発生を防止する観点から、磁気記録テープ10の厚さtに対するせん断領域16の割合は大きいことが望ましい。出願人は、磁気記録テープ10の厚さtに対するせん断領域16の割合を50%以上とすべく、直径140mmの回転上刃21、直径130mmの回転下刃22(両回転刃共に刃先角度略90°)を用い、回転上刃21と回転下刃22の噛合深さOR、磁気記録媒体11の裁断速度Vを変えながら、厚さ7μm以下の支持体12上に薄膜層をコーティングして総厚さが9μm以下とされた磁気記録媒体11の裁断試験を行った。試験結果を裁断条件と共に(表1)に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、噛合深さOR、および裁断速度Vが小さくなるほど、磁気記録テープ10の厚さtに対するせん断領域16の割合が大きくなっている。噛合深さORが0.5mmであれば裁断速度Vを200m/min以下とすることにより、また、裁断速度Vが400m/minであれば噛合深さORを0.2mm以下、好ましくは0.05mmとすることにより、裁断端面15のせん断領域16が、磁気記録テープ10の厚さtの50%以上になることが分かる。
【0053】
即ち、せん断領域16を磁気記録テープ10の厚さtの50%以上とする裁断条件は、両回転刃21、22の噛合深さOR=0.05mm〜0.2mm、あるいは、噛合深さOR=0.2mm〜0.5mm、且つ磁気記録媒体の原反11の裁断速度V=100〜200m/minである。
【0054】
上記したように、本実施形態の磁気記録媒体およびその製造方法によれば、磁気テープ10の搬送時に、ガイド、サーボライターの位置規制部、あるいはドライブヘッドなどによるエッジの削れを抑制して塵埃発生を防止し、これによりドロップアウト性能、サーボ性能に優れると共に、高い走行耐久性を有する磁気記録媒体10およびその製造方法を提供できる。
【実施例】
【0055】
本発明の効果を確認するため、本発明の磁気記録媒体に係る実施例と、該実施例と比較する比較例について説明する。磁気記録媒体は、実施例及び比較例ともに、
[磁性層塗布液の調製]
針状強磁性合金粉末(Hc 175kA/m(2,200Oe)、BET比表面積(SBET) 70m2/g、長軸長45nm、針状比4、σs125A・m2/kg(emu/g))100部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いでSO3Na含有ポリウレタン溶液(固形分30%、SO3Na含量70μeq/g、重量平均分子量8万)を10部(固形分)加え、更にシクロヘキサノン30部を加えて60分間混練した。
次いで
研磨剤(Al3、粒子サイズ0.3μm 2部
カーボンブラック(粒子サイズ40μm) 2部
メチルエチルケトン/トルエン=1/1 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。これに
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン(MEK) 50部
を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性塗料を調製した。
[非磁性層用非磁性塗布液の調製]
α−Fe23(平均粒径0.15μm、SBET52m2/g、表面処理Al2、SiO2、pH6.5〜8.0)100部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いでSO3Na含有ポリウレタン溶液(固形分30%、SO3Na含量70μeq/g、重量平均分子量8万)15部(固形分)を加え、更にシクロヘキサノンを30部を加えて60分間混練した。
次いで
メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=6/4 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。これに
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン 50部
を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層用塗料を調製した。
[バック層処方]
混練物(1)
カーボンブラックA 粒径 40nm 100部
ニトロセルロース RS1/2 50部
ポリウレタン樹脂 40部
(ガラス転移温度: 50℃)
分散剤 オレイン酸銅 5部
銅フタロシアニン 5部
沈降性硫酸バリウム 5部
メチルエチルケトン 500部
トルエン 500部
上記をロールミルで予備混練した後、
混練物(2)
カーボンブラック B SSA 8.5m2/g 100部
平均粒径 270nm; DBP吸油量 36ml/100g Ph10
ニトロセルロース RS1/2 40部
ポリウレタン樹脂 10部
メチルエチルケトン 300部
トルエン 300部
上記(1)と(2)とをサンドグラインダーで分散し、完成後、以下を添加した。
ポリエステル樹脂 5部
ポリイソシアネート 5部
以上を加えて、バック層用分散液を作成した。
厚さ5μmのポリエチレンナフタレート(縦方向ヤング率6GPa、横方向ヤング率8GPa)の支持体上に、前記非磁性塗料を乾燥厚みが1.4μmになるように塗布、乾燥させ、さらにその上に前記磁性塗料を乾燥厚みが0.1μmとなるように塗布した。磁性塗料が未乾燥状態で5000GのCo磁石と4000Gのソレノイド磁石で磁場配向を行ない溶剤乾燥させた後に、非磁性支持体の反対面のバック層0.5μm塗布乾燥させた。上記塗布品を金属ロールの7段組み合わせたカレンダー機にて処理をおこない、総厚さ7μmとした原反を作成し、幅12.65±0.01mmに裁断したリニア系サーボ方式磁気テープを使用した。また、磁気記録テープの厚さに対するせん断領域の割合は、裁断端面をレーザ顕微鏡で観察して、磁気記録テープの厚さに対するせん断領域の割合を算出した。
【0056】
上記の磁気記録テープを用いたLTOG4システムにより、サーボライターでの1000mあたりのサーボエラー発生回数、ドライブでの300時間走行後における1mあたりのドロップアウト発生回数をカウントして評価した。なお、サーボエラー発生回数は、0回以下を○、5回以上を×、その中間を△とした。また、ドロップアウト発生回数は、100回以下を○、500回以上を×、その中間を△とした。
試験結果を磁気記録テープの厚さに対するせん断領域割合と共に表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示すように、上刃側せん断領域割合および下刃側せん断領域割合が共に50%以上の磁気記録テープを用いた実施例1〜3では、サーボエラー発生回数、ドロップアウト発生回数が少なく良好であったのに対して、上刃側せん断領域割合および下刃側せん断領域割合が共に、あるいは一方が50%以下の磁気記録テープを用いた比較例1〜3では、サーボエラーおよびドロップアウトが多数回発生した。
【0059】
上記の性能試験から、磁気記録テープの厚さに対するせん断領域の割合を50%以上とすることにより、サーボエラーおよびドロップアウトの発生を低減できることが分かり、本発明の有効性が実証された。
【0060】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の磁気記録媒体を裁断する裁断装置の要部斜視図である。
【図2】裁断装置の要部縦断面図である。
【図3】裁断装置の側面図である。
【図4】磁気記録媒体の裁断端面の拡大図である。
【図5】回転刃によって裁断される磁気記録媒体の拡大側面図である。
【図6】磁気記録媒体が裁断される状態を時間経過に従って示す概念図である。
【符号の説明】
【0062】
10 磁気記録テープ(磁気記録媒体)
11 磁気記録媒体の原反
12 支持体
13 磁性層
15(15A,15B) 裁断端面
16 せん断領域
21 回転上刃
22 回転下刃
OR 噛合深さ
V 裁断速度
t 磁気記録媒体の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも強磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有し、所定のサイズに裁断された磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の裁断端面に形成されるせん断領域は、前記磁気記録媒体の厚さの50%以上である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁気記録媒体は、磁気記録テープである請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録媒体は、リニア記録方式の磁気記録テープである請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記支持体は、幅方向のヤング率が8GPa以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
厚さ7μm以下の前記支持体上に、少なくとも2層からなる薄膜層がコーティングされ、総厚さが9μm以下とされた磁気記録媒体の原反が、幅12.7mm以下のテープ状に裁断された請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
回転下刃と、噛合深さ0.05mm〜0.2mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を供給して所定のサイズに裁断された請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
回転下刃と、噛合深さ0.2mm〜0.5mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を100〜200m/minの速度で供給して所定のサイズに裁断された請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
支持体上に少なくとも強磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有し、所定のサイズに裁断された磁気記録媒体の製造方法であって、
回転下刃と、噛合深さ0.05mm〜0.2mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を供給して所定のサイズに裁断する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
支持体上に少なくとも強磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有し、所定のサイズに裁断された磁気記録媒体の製造方法であって、
回転下刃と、噛合深さ0.2mm〜0.5mmで前記回転下刃と噛み合う回転上刃との間に、前記磁気記録媒体の原反を100〜200m/minの速度で供給して所定のサイズに裁断する磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−238334(P2009−238334A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84796(P2008−84796)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】