説明

磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、及び磁気記録再生装置

【課題】磁気記録領域で発生する腐食を防ぎ、耐環境性の高い磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】磁性層の磁気記録領域が非磁性層である境界領域により分離された磁気記録媒体である。この磁気記録媒体において、磁気記録領域が凸部で、境界領域が凹部となっている。そして凹凸部上に形成される保護膜として、凸部上のカーボン保護膜が凹部上のカーボン保護膜より厚く形成されていることが特徴である。カーボン保護膜はCVD法により形成される。凹部の境界領域はプラズマ等にさらすことにより非磁性化することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)等に用いられる磁気記録媒体、その製造方法、及び磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の適用範囲は著しく増大されその重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特にMRヘッド、およびPRML技術の導入以来面記録密度の上昇はさらに激しさを増し、近年ではさらにGMRヘッド、TMRヘッドなども導入され1年に約100%ものペースで増加を続けている。これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されており、そのために磁性層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0003】
最新の磁気記録再生装置においては、トラック密度が110kTPIにも達している。しかし、トラック密度を上げていくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じやすくなる。このことはそのままBit Error rateの低下につながるため記録密度の向上に対して障害となっている。
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかし、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0004】
また、トラック間距離が近づくために、磁気記録再生装置は極めて高精度のトラックサーボ技術を要求されると同時に、記録を幅広く実行し、再生は隣接トラックからの影響をできるだけ排除するために記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。この方法ではトラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難であり、そのために十分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
【0005】
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術を以下にディスクリートトラック法、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と呼ぶ。また、同一トラック内のデータ領域を更に分割した、いわゆるパターンドメディアを製造しようとする試みもある。ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板上に磁性層を形成して、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
この磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成されており、その表面に保護膜を形成したものである。この磁気記録媒体では、凸部領域に周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
ディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録層を形成した後に、物理的にトラックを形成する方法と、基板表面に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録層の薄膜形成を行う方法がある(例えば、特許文献2,特許文献3参照。)。
【0007】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、あらかじめ形成した連続した磁性層に窒素、酸素等のイオンを注入し、または、レーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させて形成する方法が開示されている(特許文献4〜6参照。)。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、分離した磁気記録パターンを有する、いわゆる、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアの製造工程においては、磁性層を、酸素やハロゲンを用いた反応性プラズマもしくは反応性イオンに晒すことにより磁気記録パターンを形成する場合や、磁性層にイオン注入を行って磁気記録パターンを有するように加工する場合がある(以後、磁性層改質法とよぶ。)。これらの製造方法の場合、磁性層の表面にマスク層を形成し、このマスク層をフォトリソグラフィー技術によりパターニングし、磁気記録パターンの境界領域にイオン注入等を行い、該箇所の磁気特性を低下させ、または、非磁性化してディスクリートトラックメディアやパターンドメディアを製造する。
【0009】
この方法は、磁性層を物理的に加工して境界領域に非磁性材料を埋め込み、その後、表面を平滑化する製造方法(以後、磁性層加工法とよぶ。)に比べ、製造プロセスを簡略化でき、また、製造プロセスにおける汚染の影響を減らせる点で優れている。一方で、この方法で製造した磁性層の場合、連続した磁性層に対し部分的にイオン照射やイオン注入を行った箇所が、他の箇所に対してわずかに削られ(エッチングされ)、磁気記録パターン部とその周囲の境界領域において表面に段差が生ずる。この段差部分の凹部に他の物質を充填して、その表面を平滑化することも可能ではあるが、このようなプロセスを用いると磁性層加工法に対する磁性層改質法のメリットがなくなってしまう。
【0010】
ここで、磁気記録媒体はその表面に高度な平滑性が求められるが、一方で、若干の凹凸を許容する場合があるとの観点に基づき、磁気記録パターン部とその境界領域の表面に凹凸を残存させる状態で、この膜上にCVD法でカーボン膜を形成してみる。すると、CVD法成膜の特徴から、イオン注入等を行った凹部のカーボン膜厚が、イオン注入等を行わなかった凸部に比べて厚くなる。これは、磁性層でイオン注入等を行った箇所は、その表面上にあれ(極微小な凹凸)があるため、その箇所に反応性ラジカルが付着しやすくなり、この箇所でのカーボンの核形成が優先的になされ、イオン注入箇所のカーボン膜厚が、他の箇所に比べ厚くなるためと考えられる。このようなCVD成膜時における傾向は、磁性層の表面に形成している凹凸を緩和する方向にはたらくため、磁気記録媒体表面の平滑性を高める上では好ましいといえる。
【0011】
磁気記録媒体の表面に形成されるカーボン保護膜は、磁気記録媒体をヘッドの接触から保護する働きに加えて磁性層が大気中の水分等によって腐食(酸化)するのを防ぐ働きがある。本発明者の研究によると、磁気記録領域のカーボン保護膜が境界領域、特に非磁性領域のカーボン保護膜に比べて薄くなると、磁気記録領域の腐食が進行しやすくなることが明らかになった。これは、単に磁気記録領域のカーボン保護膜が薄いために、磁気記録領域の腐食が進行したことに加え、カーボン保護膜厚が磁気記録領域とその境界領域との間で差を持っていることが原因であると考えられた。すなわち、カーボン保護膜が膜厚分布を持ち、かつ、カーボン保護膜の薄い箇所の下に腐食されやすい材料があると、その箇所での腐食が加速されることが明らかになった。
本発明は、このような磁気記録領域で発生する腐食を防ぎ、耐環境性の高い磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意努力研究した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は以下に関する。
(1)磁性層の磁気記録領域を形成する凸部が、境界領域を形成する凹部により分離された磁気記録パターンを有する磁気記録媒体であって、凸部上のカーボン保護膜が凹部上のカーボン保護膜より厚く形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
(2)上記境界領域が、非磁性領域であることを特徴とする上記(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)上記境界領域が、反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらされ、またはイオン注入されたものであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)上記凸部と凹部の段差が0.1nm〜9nmの範囲内であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0013】
(5)カーボン保護膜の凸部上と凹部上の表面の段差が1〜10nmの範囲内であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(6)磁性層の凸部上のカーボン保護膜が、厚さ1〜5nmの範囲内であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)境界領域が酸化物であることを特徴とする上記(1)〜6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(8)連続した磁性層に、凸部を形成する磁気記録領域と凹部を形成する境界領域を有し、必要により境界領域に反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらし、またはイオン注入を行って磁気記録パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法であって、凸部を形成する磁気記録領域と凹部を形成する境界領域の表面にCVD法でカーボン保護膜を形成するに際し、凸部上のカーボン保護膜を、凹部上のカーボン保護膜より厚く形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0014】
(9)非磁性基板上に連続した磁性層を形成する工程、磁性層に磁気記録パターンを形成するためのマスク層を形成する工程、マスク層をパターニングする工程、マスク層を用いて磁性層の境界領域を必要により反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす、またはイオン注入する工程、マスク層を除去する工程、磁気記録パターンの凸部を形成する磁気記録領域および凹部を形成する境界領域の表面にCVD法でカーボン保護膜を、凸部上のカーボン保護膜を、凹部上のカーボン保護膜より厚く形成する工程をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(10)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体又は上記(8)〜(9)のいずれかの製造方法で製造した磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁性層の耐食性が高められ、特に高温高湿環境下において耐環境性の高い磁気記録媒体を生産性高く提供可能となる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、凸部を形成する磁気記録領域が凹部を形成する境界領域により分離された磁気記録パターンを有する磁気記録媒体であって、凸部を形成する磁気記録領域と凹部を形成する境界領域の表面にカーボン保護膜を形成するに際し、該カーボン保護膜の厚さを、磁気記録領域の方を境界領域の方より厚く形成することを特徴とする。凹部の境界領域は
反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらすか、またはイオン注入を行って非磁性化等磁気特性を改質(低下)することが望ましい。
【0017】
本発明の磁気記録媒体は図1に示すように、磁性層には、磁気記録領域100(凸部)とその境界領域200(凹部)により凸凹が形成される。これは、連続した磁性層で境界領域となる箇所にイオン照射やイオン注入等を行う場合は、その箇所がわずかにエッチングされることによる。また、凹凸は境界領域を後述するイオンミリングすることにより形成することもできる。この凹凸を有する膜上にPVD法(物理蒸着法)を用いてカーボン保護膜300を形成する場合は、図1(a)に示すように、そのカーボン保護膜厚は、凹部と凸部において同じとなり、カーボン保護膜は、下の磁性層とほぼ同一の深さの凹凸表面を形成する。
【0018】
一方で、この凹凸を有する磁性層上にCVD法でカーボン膜を形成すると、図1(b)に示すようにCVD法成膜の特徴から、イオン注入等を行った凹部のカーボン膜厚が、イオン注入等を行わなかった凸部に比べて厚くなる。これは、磁性層でイオン注入等を行った箇所は、その表面に極微小な凹凸が形成され、その箇所における反応性ラジカルの付着確率が高まり、この箇所でカーボンの核形成が優先的になされ、イオン注入箇所のカーボン膜厚が、他の箇所に比べ厚くなるためと考えられる。前述のように、このような傾向は、磁性層の表面に形成している凹凸を緩和する方向にはたらくため、磁気記録媒体表面の平滑性を高める上では好ましいといえる。
【0019】
しかしながら、本発明者の研究によると、磁気記録領域のカーボン保護膜が境界領域、特に非磁性領域や酸化物領域のカーボン保護膜に比べて薄くなると、磁気記録領域の腐食が進行しやすくなることが明らかになった。この理由について調べたところ、単に磁気記録領域のカーボン保護膜が薄いために、磁気記録領域の腐食が進行したことに加え、カーボン保護膜厚が磁気記録領域とその境界領域との間で差を持っていることが原因であると考えられた。すなわち、カーボン保護膜が膜厚分布を持ち、かつ、カーボン保護膜の薄い箇所の下に腐食されやすい磁性材料が存在すると、その磁性材料の腐食が急激に進行するのである。
【0020】
そこで本発明は、図1(c)に示すように、磁気記録領域のカーボン保護膜の厚さを、境界領域のカーボン保護膜よりも厚くして、磁気記録領域の耐食性を高め、加えて、境界領域の酸化を進行させることにより磁気記録領域の酸化を遅らせる。ここで境界領域は磁気記録には関係ないため酸化が発生してもそれほどの影響はなく、また、境界領域は酸化物等の非磁性材料である場合が多いので、この場合は酸化が進んでも何ら問題は生じない。なお、本発明において、磁気記録領域のカーボン保護膜厚と境界領域のカーボン保護膜厚を同一とすることも考えられるが、そのような構造を採用すると、磁気記録媒体の製造条件のわずかな変化によりカーボン保護膜厚が分布を持ち、磁気記録媒体の耐環境特性がばらつく可能性が高まる。
【0021】
本発明において、CVD法でカーボン保護膜を形成するに際し、該カーボン保護膜を、磁気記録領域を境界領域より厚く形成する方法としては次が例示できる。
[1]基板にバイアス電圧を印加することにより磁気記録領域の凸部にプラズマを集中させ、凸部のラジカル密度を高め、凸部の成膜速度を高める。
[2]マスク層を除去した後、磁気記録領域および境界領域にイオン注入を行い、両領域におけるラジカルの付着確率を同一にする。その後、その表面にCVD法でカーボン保護膜を成膜するに際し、チャンバ内に均一なプラズマを形成し、磁気記録領域の凸部をプラズマに対して近づけ、凸部の成膜速度を高める。
[3]境界領域のみにマスクを設けてイオン注入を行い、磁気記録領域を境界領域に比べてあらし、磁気記録領域におけるラジカルの付着確率を境界領域に対して高める。
【0022】
本発明の磁気記録媒体の製造方法としては、非磁性基板上に連続した磁性層を形成する工程、磁性層に磁気記録領域を形成するためのマスク層を形成する工程、マスク層をパターニングする工程、マスク層を用いて磁性層の境界領域を反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらし、または、イオン注入する工程、マスク層を除去する工程、磁気記録領域および境界領域の表面にCVD法でカーボン保護膜を形成する工程をこの順で設けるのが製造プロセスの簡便性から好ましい。反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらし、または、境界領域部にイオン注入する工程は場合により省略することも可能である。
本発明において、境界領域を非磁性材料、特に、酸化物の非磁性材料から形成するのが好ましい。酸化物は酸化性の反応性プラズマ等にさらすことにより形成することができる。前述のように、磁気記録領域のカーボン保護膜を厚くし、逆に、境界領域のカーボン保護膜を薄くすると境界領域の腐食を加速する可能性がある。ここで境界領域を非磁性材料とした場合、該箇所は磁気記録には関係がないため腐食が発生してもそれほどの影響はなく、さらに、境界領域を酸化物とした場合は、腐食(酸化)が進んでも何ら問題は生じない。
【0023】
本発明の磁気記録媒体は、図1(c)に示すように、表面に対して垂直方向の断面において、磁気記録領域100の表面側が凸部、境界領域200が凹部を形成し、磁気記録領域のカーボン膜厚500が境界領域の膜厚600より厚くなっている。そして好ましくは、凸部と凹部の段差400が0.1nm〜9nmの範囲内であり、カーボン膜の表面の段差700が1〜10nmの範囲内であり、磁気記録領域のカーボン膜厚500が1〜5nmの範囲内とする。境界領域のカーボン膜厚は好ましくは0.1nm〜4nmの範囲である。磁気記録媒体のカーボン膜厚をこのような構成とすることにより、耐環境性、特に、高温高湿環境下における磁性層の耐食性の高い磁気記録媒体を製造することが可能となると共に、ハードディスクドライブの磁気ヘッドの浮上特性が優れ、また電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を製造することができる。
【0024】
本発明を、図2を用いて製造工程に即して詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体は、例えば、非磁性基板の表面に軟磁性層、中間層、磁気パターンが形成された磁性層、カーボン保護膜を積層した構造を有し、さらに最表面には潤滑膜が形成されている。なお、本発明の磁気記録媒体では、非磁性基板、磁性層、カーボン保護膜以外は適宜設ければ可能である。よって図2では、磁気記録媒体を構成する非磁性基板1、磁性層2、カーボン保護膜9以外の層は省略している。
【0025】
本発明で使用する非磁性基板1としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。中でもAl合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板またはシリコン基板を用いることが好ましい。またこれら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましく、中でも0.1nm以下であることが好ましい。
【0026】
上記のような非磁性基板の表面に形成される磁性層2として、本発明では酸化物を0.5原子%〜6原子%の範囲内で含む磁性層を用いる。磁性層としては、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。例えば、CoCr、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtB−X、CoCrPtB−X−Yに酸化物を添加した合金や、CoCrPt−O、CoCrPt−SiO2、CoCrPt−Cr23、CoCrPt−TiO2、CoCrPt−ZrO2、CoCrPt−Nb25、CoCrPt−Ta25、CoCrPt−Al23、CoCrPt−B23、CoCrPt−WO2、CoCrPt−WO3などのCo系合金が例示される。なお、上記の構成材料中のXは、Ru、W等を示しており、Yは、Cu、Mg等を示している。
【0027】
磁性層の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とする。磁性層は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層の膜厚は再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0028】
通常、磁性層はスパッタ法により薄膜として形成する。本発明の磁気記録媒体は、例えば、図2に示すように、非磁性基板1に、少なくとも磁性層2を形成する工程A、磁性層2の上にマスク層3を形成する工程B、マスク層3の上にレジスト層4を形成する工程C、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターン(記録トラックを分離するため、記録トラックに対応してレジスト層に凹部を形成したものをネガパターンと言う)、スタンプ5を用いて転写する工程D(工程Dにおける矢印はスタンプ5の動きを示す。)、磁気記録パターンのネガパターンに対応する部分(工程Dの図の凹部)のマスクを除去する工程E(工程Dで凹部にレジストが残っている場合(符号8で示す)はレジスト及びマスクの除去工程)、レジスト層4側表面から磁性層2の表層部をイオンミリング6により除去する工程F(符号7は磁性層で部分的にイオンミリングした箇所を示す。また符号dは、磁性層でイオンミリングした深さを示す。)、磁性層をイオンミリング6により除去した箇所を反応性プラズマや反応性イオン10にさらして磁性層の磁気特性を改質する工程を行い、次いでレジスト層4およびマスク層3を除去する工程G、磁性層に不活性ガス11を照射する工程H、磁性層の表面を保護膜9で覆う工程Iを、この順で有する方法により製造することができる。上記はイオンミリングする工程Fを含む好ましい方法であるが、この工程はなくても可能である。この場合はマスクが除去されて磁性層が露出した面が反応性プラズマや反応性イオンにさらされることになる。これによってエッチングされて凹部が形成される。また反応性プラズマや反応性イオン10にさらして磁性層の磁気特性を改質する工程はなくすこともできる。この場合はイオンミリングにより凹部が形成される。
【0029】
本発明の磁気記録媒体の製造方法における工程Bで、磁性層2の上に形成するマスク層3は、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO2、Ta25、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれた何れか一種以上を含む材料で形成することができる。このような材料を用いることにより、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。さらに、これらの物質は、反応性ガスを用いたドライエッチングが容易であるため、図2の工程Hにおいて、残留物を減らし、磁気記録媒体表面の汚染を減少させることができる。
【0030】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、これらの物質の中で、マスク層3として、As、Ge、Sn、Gaを用いるのが好ましく、Ni、Ti、V、Nbを用いるのがより好ましく、Mo、Ta、Wを用いるのが最も好ましい。マスク層3の厚さは一般的には1nm〜20nmの範囲が好ましい。本発明の磁気記録媒体の製造方法では、図2の工程C、Dで示した、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターン転写後の、レジスト層4の凹部の厚さを、0〜10nmの範囲内とするのが好ましい。レジスト層4の凹部の厚さをこの範囲とすることにより、図2の工程Eで示したマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。レジスト層の厚さは一般的には10nm〜100nm程度である。
【0031】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、図2の工程C、Dのレジスト層4に用いる材料を、放射線照射により硬化性を有する材料とし、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、または、パターン転写工程の後に、レジスト層4に放射線を照射するのが好ましい。このような製造方法を用いることにより、レジスト層4に、スタンプ5の形状を精度良く転写することが可能となり、図2の工程Eで示したマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層の注入イオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。本発明の放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0032】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、特に、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、レジスト層の流動性が高い状態で、レジスト層にスタンプを押圧し、その押圧した状態で、レジスト層に放射線を照射することによりレジスト層を硬化させ、その後、スタンプをレジスト層から離すことにより、スタンプの形状を精度良く、レジスト層に転写することが可能となる。レジスト層にスタンプを押圧した状態で、レジスト層に放射線を照射する方法としては、スタンプの反対側、すなわち基板側から放射線を照射する方法、スタンプの材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ側から放射線を照射する方法、スタンプの側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ材料または基板からの熱伝導により放射線を照射する方法を用いることができる。本発明の磁気記録媒体の製造方法では、この中で特に、レジスト材としてノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ材料として紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いるのが好ましい。
【0033】
このような製造方法を用いることにより、磁気記録パターン部の境界領域の磁気特性を低下、例えば保磁力、残留磁化を極限まで低減させることにより磁気記録の際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。前記のプロセスで用いられるスタンパーは、例えば、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したものが使用でき、材料としてはプロセスに耐えうる硬度、耐久性が要求される。たとえばNiなどが使用できるが、前述の目的に合致するものであれば材料は問わない。スタンパーには、通常のデータを記録するトラックの他にバーストパターン、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成できる。
【0034】
本発明では、工程Fに示すように、イオンミリング等により磁性層の表層の一部を除去することが好ましい。本発明のように、磁性層の表層の一部を除去し、その後に、表面を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層の磁気特性を改質させた方が、磁性層の一部を除去しなかった場合に比べ、磁気記録パターンのコントラストがより鮮明になり、また磁気記録媒体のS/Nが向上した。この理由としては、磁性層の表層部を除去することにより、その表面の清浄化・活性化が図られ、反応性プラズマや反応性イオンとの反応性が高まったこと、また磁性層の表層部に空孔等の欠陥が導入され、その欠陥を通じて磁性層に反応性イオンが侵入しやすくなったことが考えられる。
【0035】
本発明で、イオンミリング等により磁性層の表層の一部を除去する深さdは、好ましくは、0.1nm〜5nmの範囲内である。イオンミリングによる除去深さが0.1nmより少ない場合は、前述の磁性層の除去効果が現れず、また、除去深さが5nmより大きくなると、除去した部分に反応性プラズマ等にさらした場合は、これによってもエッチンされるので、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、磁気記録再生装置を製造した際の磁気ヘッドの浮上特性が悪くなる。本発明では、例えば磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を磁気的に分離する領域を、すでに成膜された磁性層を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層の磁気特性を改質(磁気特性の低下)することにより形成することを特徴とする。この反応性プラズマや反応性イオンにさらすことによっても上記のように磁性層はエッチングされるので、イオンミリングと反応性プラズマや反応性イオンにさらす工程を設けた場合は凹部の深さはそれらの合計の深さとなる。この深さは好ましくは0.1〜9nmである。
【0036】
本発明の、分離した磁気記録パターンとは、磁気記録媒体を表面側から見た場合、磁性領域が非磁性化等した境界領域により分離された状態を指す。この場合、磁性層が表面側から見て分離されていれば、磁性層の底部において分離されていなくとも、本発明の目的を達成することが可能であり、本発明の、分離した磁気記録パターンの概念に含まれる。また、本発明の磁気記録パターンとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。
【0037】
この中で本発明は、磁気記録パターンが、磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆる、ディスクリート型磁気記録媒体に適用するのが、その製造における簡便性から好ましい。 本発明で、磁気記録パターンの形成における磁性層の境界領域の改質とは、磁性層をパターン化するために、非磁性化することの他、磁性層の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを指し、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化等を下げることを指す。
【0038】
本発明では、磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を磁気的に分離する箇所を改質する方法の一つとして、成膜された磁性層を反応性プラズマや反応性イオンにさらして磁性層を非晶質化することが挙げられる。また本発明における磁性層の磁気特性の改質は、磁性層の結晶構造の改変によって実現することも含む。 本発明で、磁性層を非晶質化するとは、磁性層の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の形態とすることを指し、より具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることを指す。そしてこの原子配列状態を分析手法により確認する場合は、X線回折または電子線回折により、結晶面を表すピークが認められず、また、ハローが認められるのみの状態とする。
【0039】
本発明の反応性プラズマとしては、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive Ion Plasma)が例示できる。 また、本発明の反応性イオンとは、前述の誘導結合プラズマ、反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンが例示できる。
誘導結合プラズマとは、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、さらに高周波数の変動磁場によってそのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマである。誘導結合プラズマは電子密度が高く、従来のイオンビームを用いてディスクリートトラックメディアを製造する場合に比べ、広い面積の磁性膜において、高い効率で磁気特性の改質を実現することができる。反応性イオンプラズマとは、プラズマ中にO2、SF6、CHF3、CF4、CCl4等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。このようなプラズマを本発明の反応性プラズマとして用いることにより、磁性膜の磁気特性の改質をより高い効率で実現することが可能となる。
【0040】
本発明では、反応性プラズマもしくは反応性イオンが、ハロゲンイオンを含有するのが好ましく、また、ハロゲンイオンが、CF4、SF6、CHF3、CCl4、KBrからなる群から選ばれた何れか1種以上のハロゲン化ガスを反応性プラズマ中に導入して形成したハロゲンイオンであるのが磁性層とプラズマとの反応性を高め、また、形成するパターンをシャープにする上で好ましい。この理由の詳細は明らかではないが、反応性プラズマ中のハロゲン原子が、磁性層の表面に形成している異物をエッチングし、これにより磁性層の表面が清浄化し、磁性層の反応性が高まることが考えられる。また、清浄化した磁性層表面とハロゲン原子とが高い効率で反応することが考えられる。
【0041】
本発明では、成膜された磁性層を好ましくは反応性プラズマ等にさらすことにより磁性層を改質するが、この改質は、磁性層を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の原子またはイオンとの反応により実現するのが好ましい。反応とは、磁性金属に反応性プラズマ中の原子等が侵入し、磁性金属の結晶構造が変化すること、磁性金属の組成が変化すること、磁性金属が酸化すること、磁性金属か窒化すること、磁性金属が珪化すること等が例示できる。
本発明では、その後、工程Gに示すように、レジスト層4およびマスク層3を除去する。この工程は、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチング等の手法を用いることができる。
【0042】
本発明では、その後、工程Hに示すように、工程F、G、Hの工程で活性化した磁性層に不活性ガスを照射し、磁性層を安定化させるのが好ましい。このような工程を設けることにより、磁性層が安定し、高温多湿環境下においても磁性粒子のマイグレーション等の発生が抑制される理由は明らかではないが、磁性層の表面に不活性元素が侵入することにより磁性粒子の移動が抑制されること、または、不活性ガスの照射により、磁性層の活性な表面が除去され、磁性粒子のマイグレーション等が抑制されることが考えられる。
本発明の不活性ガスとしては、Ar、He、Xeからなる群から選ばれた何れか1種以上のガスを用いることが好ましい。これらの元素は安定であり、磁性粒子のマイグレーション等の抑制効果が高いからである。 本発明の不活性ガスの照射は、イオンガン、ICP,RIEからなる群から選ばれた何れかの方法を用いるのが好ましい。この中で特に、照射量の多さの点で、ICP,RIEを用いるのが好ましい。ICP,RIEについては前述したとおりである。
【0043】
本発明では、工程Iに示すようにカーボン保護膜9を形成し、その後潤滑材を塗布して磁気記録媒体を製造する工程を採用するのが好ましい。カーボン保護膜9の形成は、既に述べた通りであるが、一般的にはDiamond Like Carbonの薄膜を、CVD法を用いて成膜するのが特に好ましい。
本発明に用いるCVD法自体およびCVD成膜装置自体は公知であるが、磁気記録領域のカーボン保護膜を境界領域より厚くするため例えば以下のような方法が好ましい態様として挙げることができる。
【0044】
本発明の磁気記録媒体の製造方法の一実施形態を実施するために用いられる製造装置の主要部となるCVD成膜装置は、ディスクを収容するチャンバと、チャンバの両側壁内面に相対向するように設置された電極と、これら電極に高周波電力を供給する高周波電源と、チャンバ内のディスクに接続可能なバイアス電源と、ディスク上に形成するべきカーボン保護膜の原料となる反応ガスの供給源を備えたものとする。
チャンバには、反応ガスをチャンバ内に導入する導入管と、チャンバ内のガスを系外に排出する排気管を接続する。排気管には排気量調節バルブを設け、排気量を調節することによって、チャンバの内圧を任意の値に設定することができるようにする。
【0045】
高周波電源としては、カーボン保護膜形成時に電極に50〜2000Wの電力を供給することができるものを用いるのが好ましい。
また、バイアス電源としては、磁気記録パターン部の凸部にプラズマを集中させ、凸部のラジカル密度を高め、凸部の成膜速度を高めるためには、高周波電源またはパルス直流電源を用いるのが好ましい。これに用いる高周波電源としては、10〜300Wの高周波電力をディスクに印加できるものが好ましい。また、パルス直流電源としては、パルス幅は10〜50000ns、周波数は10kHz〜1GHzの範囲内で、−400〜−10Vの電圧(平均電圧)をディスクに印加することが可能なものを用いるのが好ましい。
カーボン保護膜の上には潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、通常1〜4nmの厚さで潤滑層を形成する。
【0046】
次に、本発明の磁気記録再生装置の構成を図3に示す。本発明の磁気記録再生装置は、上述の本発明の磁気記録媒体30と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部34と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド31と、磁気ヘッド31を磁気記録媒体30に対して相対運動させるヘッド駆動部33と、磁気ヘッド31への信号入力と磁気ヘッド31からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系32とを具備したものである。これらを組み合わせることにより記録密度の高い磁気記録再生装置を構成することが可能となる。磁気記録媒体の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0047】
さらに上述の磁気ヘッドの再生部をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置を実現することができる。またこの磁気ヘッドの浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲内とし、従来より低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置を提供することができる。また、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なSNRが得られる。
【実施例】
【0048】
以下実施例、比較例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1〜7)
HD用ガラス基板をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10-5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板はLi2Si25、Al23−K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)は2オングストロームである。
【0049】
該ガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として65Fe−30Co−5B、中間層としてRu、磁性層として、グラニュラ構造の垂直配向の磁性層を形成した。磁性層の合金組成は、Co−10Cr−20Pt−8(SiO2)(これらはモル比。)とし、膜厚は150Åとした。他の層の膜厚は、FeCoB軟磁性層は600Å、Ru中間層は100Åとした。その上に、スパッタ法を用いてマスク層を形成した、マスク層にはTaを用いて膜厚は60nmとした。その上に、レジストをスピンコート法により塗布した。レジストには、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用いた。また膜厚は100nmとした。
【0050】
その上に、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、スタンプを1MPa(約8.8kgf/cm2)の圧力で、レジスト層に押圧した。その状態で、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上であるガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジストを硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、磁気記録パターンを転写した。レジスト層に転写した磁気記録パターンは、レジストの凸部が幅120nmの円周状、レジストの凹部が幅60nmの円周状であり、レジスト層の層厚は80nm、レジスト層の凹部の厚さは 約5nmであった。また、レジスト層凹部の基板面に対する角度は、ほぼ90度であった。
【0051】
その後、レジスト層の凹部の箇所、および、その下のTa層をドライエッチングで除去した。ドライエッチング条件は、レジストのエッチングに関しては、O2ガスを40sccm、圧力0.3Pa,高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間10秒とし、Ta層のエッチングに関しては、CF4ガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間30秒とした。
【0052】
その後、磁性層でマスク層に覆われていな箇所について、その表面をイオンミリングにより除去した。イオンミリングにより除去した深さは、実施例1は0.1nm、実施例2は1nm、実施例3〜5は4nm、実施例6は6nm、実施例7は11nmとした。イオンミリングにはArイオンを用いた。イオンミリングの条件は、高周波放電力800W、加速電圧500V、圧力0.014Pa、Ar流量5sccm、電流密度0.4mA/cm2とした。イオンミリングを施した表面を反応性プラズマにさらし、その箇所の磁性層について磁気特性の改質を行った。磁性層の反応性プラズマ処理は、アルバック社の誘導結合プラズマ装置NE550を用いた。プラズマの発生に用いるガスおよび条件としては、CF4を90cc/分を用い、プラズマ発生のための投入電力は200W、装置内の圧力は0.5Paとし、磁性層を300秒間処理した。その後、CF4を酸素ガスに変え、磁性層を50秒間処理した。
【0053】
その後、レジスト、マスク層をドライエッチングにより除去した。ドライエッチングの条件は、SF6ガスを100sccm、圧力2.0Pa、高周波プラズマ電力400W、処理時間、300秒とした。その後、磁性層の表面にアルゴンイオン注入を行った。アルゴンイオン注入の条件は、アルゴンガス5sccm、圧力0.014Pa、加速電圧300V、電流密度 0.4mA/cm2、処理時間10秒とした。レジスト、マスク層をドライエッチングにより除去した後の、磁気記録パターンの凹凸段差を表1に示す。
その表面にCVD法にてカーボン(DLC:ダイヤモンドライクカーボン)保護膜を成膜した。成膜はRFプラズマCVD装置を用い、印加電力は、13.56MHzで500W、成膜時間は10秒とした。なお、カーボン保護膜の成膜に際して、基板に、−150V、パルス幅200nm、周波数200kHzの直流パルス電圧を印可した。カーボン保護膜形成後の、カーボン保護膜上部凹凸段差、凸部保護膜厚、凹部保護膜厚を表1に示す。
その後、潤滑剤として、Z−dol 2000を20オングストローム塗布して磁気記録媒体を製造した。
【0054】
この磁気記録媒体の耐環境性評価を実施した。評価は、磁気記録媒体を温度80℃、湿度85%の大気環境下に96時間保持し、その後、磁気記録媒体の表面に生ずる5ミクロンφ以上のコロージョンスポットの数をカウントすることにより行った。
また、この磁気記録媒体の表面に3%の硝酸水溶液を5箇所(100マイクロリットル/箇所)、純水を5箇所(100マイクロリットル/箇所)ずつ滴下し、1時間静置後これを回収し、この中に含まれるCo量をICP−MSで測定した。なお、ICP−MSでの測定は、Yを200ppt含んだ3%硝酸1ミリリットルを基準液とした。評価結果を表1に示す。
(比較例1〜4)
実施例と同様の条件で磁気記録媒体を製造し、耐環境性評価を実施したが、CVDカーボン保護膜の成膜に際して、基板にバイアス電圧を印加しなかった。評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、高記録密度であり、磁気記録領域の耐食性、特に耐環境性が高く、したがって耐久性に優れた磁気記録媒体を、高い生産性で提供することが可能となり産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】磁気記録媒体の断面模式図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】本発明の磁気記録再生装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0058】
1 非磁性基板
2 磁性層
3 マスク層
4 レジスト層
5 スタンプ
6 ミリングイオン
7 部分的に磁性層を除去した箇所
d 磁性層の除去深さ
8 残ったレジスト層
9 保護層
10 反応性プラズマまたは反応性イオン
11 不活性ガス
30 磁気記録媒体
31 磁気ヘッド
32 記録再生信号系
33 ヘッド駆動部
34 媒体駆動部
100 磁気記録領域(凸部)
200 境界領域(凹部)
300 カーボン保護膜
400 凹凸の段差
500 磁気記録領域のカーボン膜厚
600 境界領域のカーボン膜厚
700 凸部と凹部のカーボン膜表面の段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性層の磁気記録領域を形成する凸部が、境界領域を形成する凹部により分離された磁気記録パターンを有する磁気記録媒体であって、凸部上のカーボン保護膜が凹部上のカーボン保護膜より厚く形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
上記境界領域が、非磁性領域であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記境界領域が、反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらされ、またはイオン注入されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記凸部と凹部の段差が0.1nm〜9nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
カーボン保護膜の凸部上と凹部上の表面の段差が1〜10nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
磁性層の凸部上のカーボン保護膜が、厚さ1〜5nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
境界領域が酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
連続した磁性層に、凸部を形成する磁気記録領域と凹部を形成する境界領域を有し、必要により境界領域に反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらし、またはイオン注入を行って磁気記録パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法であって、凸部を形成する磁気記録領域と凹部を形成する境界領域の表面にCVD法でカーボン保護膜を形成するに際し、凸部上のカーボン保護膜を、凹部上のカーボン保護膜より厚く形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
非磁性基板上に連続した磁性層を形成する工程、磁性層に磁気記録パターンを形成するためのマスク層を形成する工程、マスク層をパターニングする工程、マスク層を用いて磁性層の境界領域を必要により反応性プラズマもしくは反応性イオンにさらす、またはイオン注入する工程、マスク層を除去する工程、磁気記録パターンの凸部を形成する磁気記録領域および凹部を形成する境界領域の表面にCVD法でカーボン保護膜を、凸部上のカーボン保護膜を、凹部上のカーボン保護膜より厚く形成する工程をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体又は請求項8〜9のいずれかの製造方法で製造した磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−211777(P2009−211777A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54636(P2008−54636)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】