説明

磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、及び磁気記録再生装置

【課題】FeやCoを含有する材料を容易に腐食させない磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】非磁性基板10上に磁性層30を形成する工程と、磁性層30に凹部65を形成する工程と、凹部65の露出面を覆うように耐食性膜60を形成する工程と、耐食性膜60に覆われた凹部65を埋めるように非磁性層40を形成して、磁気的に分離された磁性層からなる磁気記録パターンを形成する工程と、を有する磁気記録媒体122の製造方法を用いることにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体、及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増している。また、これらの装置に用いられる磁気記録媒体の記録密度は、著しい向上が図られつつある。
特に、MRヘッドおよびPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇はさらに激しさを増している。近年では、さらにGMRヘッドおよびTMRヘッドなども導入されて、1年に約50%ものペースで、面記録密度は増加を続けている。
【0003】
これらの磁気記録媒体については、今後、更に高記録密度を達成することが要求されている。そのために、磁気記録層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では、線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0004】
最新の磁気記録装置においては、トラック密度が110kTPIにも達している。しかし、トラック密度を上げていくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じやすくなる。このことは、そのままBit Error rateの低下につながるため記録密度の向上に対して障害となっている。
【0005】
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかし、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0006】
また、トラック間距離が近づくために、磁気記録装置は極めて高精度のトラックサーボ技術を要求されると同時に、記録を幅広く実行し、再生は隣接トラックからの影響をできるだけ排除するために、記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。
この方法は、トラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難であり、そのために十分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
【0007】
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。
このような技術を、以下にディスクリートトラック法、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と呼ぶ。
【0008】
ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板に磁気記録媒体を形成して、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
この磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成されており、その表面に保護膜を形成したものである。この磁気記録媒体では、凸部領域に周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。
【0010】
この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
【0011】
ディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法と、あらかじめ基板表面に直接、あるいはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法とがある(例えば、特許文献2,特許文献3参照。)。このうち、前者の方法は、しばしば磁気層加工型とよばれ、後者はエンボス加工型とよばれる。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、磁気記録媒体をハードディスクドライブ内で使用する場合、磁気記録媒体の耐食性が問題となる場合があった。すなわち、ハードディスクドライブ内で使用される磁気記録媒体には、FeやCoを含有する材料が用いられるため、これらの物質が環境由来の水等により容易に腐食されて磁気記録媒体の電磁変換特性を低下させたり、腐食物が磁気記録再生ヘッドに付着してヘッドを破損させたりして、問題となる場合があった。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、FeやCoを含有する材料を容易に腐食させない磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、磁性層を物理的に加工して磁気記録パターンを形成する、磁気層加工型の磁気記録媒体において、磁性層の腐食が発生する原因究明に取り組んだところ、磁性層の加工部分において腐食が発生していることを見出した。さらに、その原因について検討したところ、磁性層の加工部分はイオンミリング等により加工表面が活性化し、この活性表面と非磁性材料等の充填物が反応し腐食が発生していることを発見した。
本願発明者は、この腐食を回避すべく鋭意努力検討した結果、磁性層を除去した箇所にクロム等の耐腐食膜を形成することにより磁性層の腐食を低減できることを見出して、本願発明を完成させた。
すなわち、本願発明は下記の構成を採用する。
【0015】
(1) 非磁性基板上に磁性層を形成する工程と、前記磁性層に複数の凹部を形成する工程と、前記凹部の露出面を覆うように耐食性膜を形成する工程と、前記耐食性膜に覆われた前記凹部を埋めるように非磁性層を形成して、磁気的に分離された磁性層からなる磁気記録パターンを形成する工程と、を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(2) 前記耐食性膜が、Cr、Ni、Al、Ti、Ta、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Pt、Auのいずれかの金属膜であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(3) 前記耐食性膜が、Cr膜であることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(4) 前記耐食性膜の成膜をHeガスまたはNeガスを用いたスパッタリング法により行うことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5) 前記非磁性層が、有機ケイ素化合物からなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(6) 前記磁性層に凹部を形成する工程が、前記磁性層上にマスク層とレジスト層をこの順序で積層する工程と、ナノインプリント法により前記レジスト層に窪み部を形成する工程と、エッチング法またはイオンミリング法により前記窪み部を前記磁性層まで深くして前記磁性層に凹部を形成する工程と、からなることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(7) 前記凹部の露出面を覆うように耐食性膜を形成する工程が、前記レジスト層及び前記窪み部を覆うように耐食性膜を形成した後、前記レジスト層及び前記マスク層を誘導結合プラズマ法または反応性イオンプラズマ法により除去することにより、前記凹部の露出面を覆うように形成された耐食性膜を残す工程であることを特徴とする(6)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(8) 非磁性基板上に磁気的に分離された磁性層からなる磁気記録パターンを有する磁気記録媒体であって、前記磁性層には、凹部が設けられており、前記凹部の表面を覆うように耐食性膜が形成されるとともに、前記耐食性膜に覆われた凹部を埋めるように非磁性層が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
(9) (8)に記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動させる磁気ヘッド駆動部と、前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を具備することを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0016】
上記の構成によれば、FeやCoを含有する材料を容易に腐食させない磁気記録媒体を提供することができる。
【0017】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上に磁性層を形成する工程と、前記磁性層に複数の凹部を形成する工程と、前記凹部の露出面を覆うように耐食性膜を形成する工程と、前記耐食性膜に覆われた前記凹部を埋めるように非磁性層を形成して、磁気的に分離された磁性層からなる磁気記録パターンを形成する工程と、を有する構成なので、前記凹部の露出面の磁性層が非磁性層と反応して腐食することを耐食性膜により防止して、耐腐食性を飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性の高い磁気記録媒体を提供することができる。
【0018】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板上に磁気的に分離された磁性層からなる磁気記録パターンを有する磁気記録媒体であって、前記磁性層には、凹部が設けられており、前記凹部の露出面を覆うように耐食性膜が形成されるとともに、前記耐食性膜に覆われた凹部を埋めるように非磁性層が形成されている構成なので、前記凹部の露出面の磁性層が非磁性層と反応して腐食することを防止して、耐食性の高い磁気記録媒体を提供することができる。
【0019】
本発明の磁気記録再生装置は、本発明の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを磁気記録媒体上に移動する磁気ヘッド駆動部と、前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を具備する構成なので、耐環境性の高い磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、ディスクリート型磁気記録媒体を例にして具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態の各々に限定されるものではなく、例えば、これら実施形態の構成要素同士を適宜組み合わせても良い。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態であるディスクリート型磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である磁気記録媒体122は、非磁性基板10上に、軟磁性層15と、中間層20と、磁性層30と、保護層50とがこの順序で形成されて、概略構成されている。また、磁性層30には、凹部65が設けられており、凹部65の露出面65cを覆うように耐食性膜60が形成されるとともに、凹部65を埋めるように非磁性層40が形成されて、非磁性層40により磁気的に分離された磁性層30からなる磁気記録パターンが形成されている。以下、各層の非磁性基板側の面を下面、その反対側の面を上面とする。
【0022】
<非磁性基板>
非磁性基板10としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。中でも、Al合金基板、結晶化ガラス等のガラス製基板またはシリコン基板を用いることが好ましい。
また、非磁性基板10の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましく、中でも0.1nm以下であることがより好ましい。
【0023】
<軟磁性層>
軟磁性層15は、軟磁性材料によって構成される。軟磁性層15に用いられる軟磁性材料としては、例えばFeCo系合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa系合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co系合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等が挙げられる。
【0024】
<中間層>
中間層20の材料としては、Ru等が挙げられる。さらに、磁性層30が垂直磁性層である場合、軟磁性層15と磁性層30との間には、中間層20の代わりに、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの配向制御膜が設けられていてもよい。また、軟磁性層15と磁性層30との間には、前記配向制御膜と中間層20とからなる下地層が設けられていてもよい。
【0025】
<磁性層>
中間層20上には、磁性層30が成膜されている。磁性層30の材料としては、CoCrPt系合金、FePt系合金、CoPt系合金、FePd系合金、CoPd系合金等を挙げることができる。磁性層30の材料は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましく、たとえば、67Co−18Cr−15Pt合金、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−Cr−15Pt−10SiO合金、25Fe−30Co−45Pt合金、38Fe−10Co−Ni−47Pt合金などを挙げることができる。
また、磁性層30には、グラニュラ構造を形成する粒界構成物質として酸化物が添加されていてもよい。グラニュラ構造を形成する酸化物としては、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Cr酸化物、Co酸化物、Ta酸化物およびRu酸化物のいずれか1種以上を含むものであることが好ましい。
磁性層30は、単層であってもよいし2層以上積層されたものであってもよい。
【0026】
磁性層30の厚さは、3nm以上20nm以下が好ましく、5nm以上15nm以下がより好ましい。これにより、再生の際、一定以上の出力を得ることができ、記録再生特性を表す諸パラメーターの劣化を抑制することができる。なお、再生の際に一定以上の出力を得るには、ある程度以上の磁性層30の厚さが必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例である。
磁性層30は、使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。
磁性層30の形成方法としては、スパッタ法などを挙げることができる。
【0027】
磁性層30は、面内磁気記録層でも垂直磁気記録層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには、本実施形態で示した垂直磁気記録層とすることが好ましい。
なお、面内磁気記録媒体用の磁気記録層としては、例えば、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層からなる積層構造を利用できる。
【0028】
磁性層30には、磁性層30を離間するように凹部65が設けられている。この凹部65の露出面65cを覆うように耐食性膜60が形成されている。さらに、耐食性膜60で覆われた凹部65を埋めるように非磁性層40が形成されている。
なお、露出面65cは、磁性層30に凹部65を形成したときに、露出される内壁面および底面である。
【0029】
<非磁性層>
非磁性層40の材料としては、有機ケイ素化合物が好ましい。有機ケイ素化合物は、粘性が低く、硬化時の収縮も少ないとともに、イオンミリング等のエッチング特性も良好であるので、平滑なエッチング面を得ることができる。前記有機ケイ素化合物としては、たとえば、シルセスキオキサン骨格含有化合物などを挙げることができる。
非磁性層40の形成方法は、スピンオングラス(SOG;Spin On Glass)法などが好ましい。スピンオングラス法は、有機ケイ素化合物などを含むガラス成分の塗布液を塗布した後、加熱・焼結して薄膜とする方法である。
非磁性層40の材料として有機ケイ素化合物を用い、スピンオングラス法により形成された膜は、カバレッジ性が非常に良い膜となり、凹部65を埋め、平坦面を有する膜となる。
なお、後述する磁気記録再生装置の磁気ヘッドによって磁性層30への読み書きが可能であれば、非磁性層40は完全な非磁性でなくてもよく、若干の磁性が残留していてもよい。
【0030】
<耐食性膜>
耐食性膜60としては、Fe,Coに比べて耐食性の高い金属膜を用いるのが好ましく、金属膜としてはCr、Ni、Al、Ti、Ta、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Pt、Au等を例示することができるが、この中でCrを用いるのが、耐食性及び磁性層30に対する密着性の点でより好ましい。
耐食性の観点から、耐食性膜60の膜厚は、2nm以上とすることが好ましい。また、磁性層30に対する密着性及び成膜の簡便性の点から、耐食性膜60の形成方法としてはスパッタ法を用いることが好ましい。
磁性層30と非磁性層40との間に耐食性膜60を設けることにより、イオンミリング等により活性化した磁性層30の加工部分、すなわち凹部65の露出面65cの磁性層30が非磁性層40と反応して腐食することを防止することができる。
【0031】
<磁気記録パターン>
非磁性層40により磁気的に分離された磁性層30からなる磁気記録パターンが形成されている。
前記磁気記録パターンは、上面30a側から平面視したときに、非磁性化された非磁性層40により磁性層30が磁気的に分離されてなるパターンであればよい。これにより、本願発明の目的を達することができる。すなわち、図1に示すように、磁性層30は、その下面30b側から平面視したときには、非磁性化された非磁性層40により磁性層30が磁気的に分離されていなくてもよい。
【0032】
記録トラック幅に対応する磁性層30の幅Wは200nm以下であることが好ましく、非磁性層40の幅Lは100nm以下とすることが好ましい。すなわち、トラックピッチP(=W+L)は300nm以下とすることが好ましい。磁性層30の幅W、非磁性層40の幅LおよびトラックピッチPを上記のように狭くすることにより、記録密度を高めることができる。
【0033】
前記磁気記録パターンは、1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアであってもよく、また、磁気記録パターンがトラック状に配置されたメディアや、その他、サーボ信号パターン等であってもよい。
この中で、本願発明は、磁気記録パターンが磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆる、ディスクリート型磁気記録媒体に適用するのが、その製造における簡便性から好ましい。
【0034】
<保護層>
磁性層30上には保護層50が形成されている。保護層50としては、ダイヤモンド状炭素(DLC;Diamond Like Carbon)などの炭素(C)、水素化炭素(HC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層や、SiO、Zr、TiNなどの通常用いられる保護層用の材料を用いることができる。また、保護層50は、2層以上の層から構成してもよい。
【0035】
<潤滑層>
なお、図1には示していないが、保護層50上には潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、通常1〜4nmの厚さとする。
【0036】
次に、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。
図2〜図5は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する工程断面図である。
図2〜図5に示すように、本発明の実施形態である磁気記録媒体122の製造方法は、非磁性基板10上に磁性層30を形成する工程と、磁性層30に凹部65を形成する工程と、凹部65の露出面65cを覆うように耐食性膜60を形成する工程と、凹部65を埋めるように非磁性層40を形成して、磁気的に分離された前記磁性層30からなる磁気記録パターンを形成する工程と、を有する。以下、各工程を順番に説明する。
【0037】
<磁性層を形成する工程>
まず、図2(a)に示すように、非磁性基板10上に、軟磁性層15と、中間層20と、磁性層30とをこの順序で積層する。
例えば、DCスパッタリング法を用いて、FeCoB合金からなる軟磁性層15と、Ruからなる中間層20と、70Co−Cr−15Pt−10SiO合金からなる磁性層30とをこの順序で積層する。
【0038】
<凹部を形成する工程>
次に、図2(b)に示すように、磁性層30上にマスク層32を形成する。
マスク層32の材料としては、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO、Ta、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれる何れか一種以上を含む材料が好ましい。
前記材料はミリングイオン等に対する遮蔽性が高い材料なので、前記材料を用いてマスク層32を形成することにより、ミリングイオン等に対する遮蔽性が高いマスク層32を形成することができる。これにより、磁性層30に高精度の磁気記録パターンを形成することができ、磁気記録パターン形成特性を高めることができる。
さらに、前記材料は、反応性ガスを用いたドライエッチングにより容易に除去することが可能であるため、磁性層30上に残留物を残すことなくマスク層32を除去して、磁性層30上の残留物による汚染を減少させることができる。
【0039】
次に、図2(c)に示すように、マスク層32上にレジスト層42を形成する。
レジスト層42の材料としては、放射線照射により硬化性を有する材料を用いることが好ましい。なお、前記放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0040】
レジスト層42の材料として上記材料を用いた場合、後述するナノインプリント法によりレジスト層42にスタンプ52を押圧してパターン転写後、レジスト層42に放射線を照射することにより、レジスト層42にスタンプ52の形状を精度良く転写することができる。
これにより、後述するマスク層32のエッチング工程で、マスク層32のエッジ部分のダレ無く、マスク層32をエッチングすることができ、さらに、イオンミリングによる注入イオンに対するマスク層32の遮蔽性を向上させることができる。これにより、磁性層30に高精度の磁気記録パターンを形成することができ、磁気記録パターン形成特性を高めることができる。
【0041】
次に、図3(a)に示すように、ナノインプリント法でより、スタンプ52を矢印に示す方向に動かして、スタンプ52の凹凸面をレジスト層42に押し付けた後、引き上げる。これにより、レジスト層42に複数の窪み部61が形成され、磁気記録パターンのネガパターンがレジスト層42に転写される。なお、窪み部61の底面には厚さtのレジスト層42が残されている。
【0042】
窪み部61の底面に残されたレジスト層42の厚さtは、0〜10nmの範囲内とすることが好ましい。
前記厚さtを上記範囲内とすることにより、後述するマスク層32のエッチング工程で、マスク層32のエッジ部分のダレ無く、マスク層32をエッチングすることができ、さらに、イオンミリングによる注入イオンに対するマスク層32の遮蔽性を向上させることができる。これにより、磁性層30に高精度の磁気記録パターンを形成することができ、磁気記録パターン形成特性を高めることができる。
【0043】
スタンプ52を用いてレジスト層42にパターンを転写する工程では、レジスト層42の流動性が高い状態でレジスト層42にスタンプ52を押圧するとともに、その押圧した状態で放射線を照射してレジスト層42を硬化させた後、スタンプ52をレジスト層42から離すことが好ましい。これにより、スタンプ52の凹凸面の形状を精度良く、レジスト層42に転写することができる。
【0044】
スタンプ52を押圧した状態でレジスト層42に放射線を照射する方法としては、非磁性基板10側から放射線を照射する方法、スタンプ52の構成材料として放射線を透過できる物質を選択してスタンプ52側から放射線を照射する方法、スタンプ52の側面側から放射線を照射する方法、固体に対して伝導性の高い熱線のような放射線を用いて、スタンプ52または非磁性基板10から熱伝導により放射線を照射する方法などを挙げることができる。
特に、レジスト層42の材料として、ノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用いることが好ましく、また、スタンプ52の材料として、紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いることが好ましい。
【0045】
次に、図3(b)に示すように、通常のドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリングなどの手法を用いて、窪み部61の底面に残されたレジスト層42及び窪み部61の直下のマスク層32を除去して、窪み部61の深さをレジスト層42及びマスク層32を貫通する深さとする。
【0046】
さらに、図3(c)に示すように、イオンミリング72によって、窪み部61の直下の磁性層30を除去して、窪み部61の深さをレジスト層42、マスク層32及び磁性層30を貫通する深さとする。これにより、磁性層30に凹部65が形成される。
なお、磁性層30の除去方法としては、通常のドライエッチング、反応性イオンエッチングなどの手法を用いることもできる。
【0047】
<耐食性膜を形成する工程>
次に、図4(a)に示すように、窪み部61の露出面61c及びレジスト層42の上面42aを覆うように耐食性膜60を形成する。なお、窪み部61の露出面61cは、窪み部61内のレジスト層42の側壁面と、マスク層32の側壁面と、磁性層30の側壁面及び中間層20の露出された上面とからなる。
磁性層30に対する密着性及び成膜の簡便性の点から、耐食性膜60の形成方法は、スパッタ法を用いることが好ましい。
前記スパッタ法では、HeガスまたはNeガスを用いることが好ましい。これにより、Arガスを用いた場合よりも耐食性の高い耐食性膜を形成することができる。
【0048】
次に、図4(b)に示すように、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)または反応性イオンプラズマなどの反応性プラズマを用いる反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)法を用いて、レジスト層42及び前記マスク層32を除去する。そして、凹部65の露出面65cを覆うように形成された耐食性膜60を残した状態で、磁性層30の上面30aを露出させる。
【0049】
誘導結合プラズマは、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、さらに高周波数の変動磁場によって、そのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマである。
また、反応性イオンプラズマは、プラズマ中にO、SF、CHF、CF、CCl等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。
【0050】
これらの反応性プラズマは、指向性(直進性)の低い活性種であるので、凹部63の内部に前記活性種を接触させて凹部65の内部をエッチングすることなく、上面側のみに前記活性種を接触させて、凹部65の露出面65cに耐食性膜60を保持したまま、レジスト層42及び前記マスク層32を除去することができる。
これにより、凹部65の露出面65cに耐食性膜60を保持したまま、レジスト層42及び前記マスク層32のみを選択的にエッチング除去することができる。
なお、磁性層30の上面に保護層50を設けている場合は、レジスト層42およびマスク層32の除去に際して、保護層52の一部まで含めて除去することが好ましい。
【0051】
なお、ミリングイオンなどのような直進性の高いイオンを用いるイオンミリング法は、レジスト層42及び前記マスク層32のみを選択的にエッチングすることができず、凹部65の露出面65cに設けた耐食性膜60も除去してしまうので、上記のレジスト層4およびマスク層3の除去方法として好ましくない。
【0052】
本実施形態では、図4(a)に示したように、レジスト層42の上面42aおよび窪み部61を覆うように耐食性膜60を形成し、その後、レジスト層42およびマスク層32を除去(リフトオフ)することにより、凹部65の露出面65cにのみ耐食性膜60を残すので、磁性層30の上面30aに耐食性膜60が残存することなく、磁気記録または再生の際に、磁気信号の書き込み又は読み込みを阻害することがない。
【0053】
<磁気記録パターンを形成する工程>
次に、スピンオングラス法などを用いて、図4(c)に示すように、凹部65を埋め、かつ、磁性層30の上面30aを覆うように有機ケイ素化合物などからなる非磁性層40を形成する。
カバレッジ性が非常に良い非磁性層40を形成することにより、凹部65を隙間なく埋め、上面が平坦面となる非磁性層40を形成できる。
【0054】
次に、通常のドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリングなどの手法を用いて、図5(a)に示すように、磁性層30の上面30aが露出するまで非磁性層40を除去する。なお、非磁性層40の上面は平坦面とされているので、直進性の高いエッチング方法を用いても、均一の深さで非磁性層40をエッチング除去することができる。これにより、上面側から平面視したときに、非磁性層40によって磁気的に分離された磁性層30からなる磁気記録パターンが形成される。
【0055】
最後に、スパッタ法もしくはCVD法により、図5(b)に示すように、磁性層30上に保護層50を形成して、本発明の実施形態である磁気記録媒体122を製造する。
保護層50の膜厚は、10nm未満とする必要がある。保護層50の膜厚が、10nmを超える場合には、後述する磁気記録再生装置の磁気ヘッドと磁性層30と間の距離が大きくなり、前記磁気ヘッドが磁性層30から十分な強さの出入力信号を得られなくなる。
【0056】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板10上に磁性層30を形成する工程と、磁性層30に凹部65を形成する工程と、凹部65の露出面65cを覆うように耐食性膜60を形成する工程と、耐食性膜60に覆われた凹部65を埋めるように非磁性層40を形成して、磁気的に分離された磁性層30からなる磁気記録パターンを形成する工程と、を有する構成なので、イオンミリング等により活性化した磁性層30の加工部分、すなわち凹部65の露出面65cの磁性層30が非磁性層40と反応して腐食することを耐食性膜60により防止して、磁気層加工型のパターンメディア等において耐腐食性を飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性の高い磁気記録媒体122を提供することができる。つまり、FeやCoを含有する材料を容易に腐食させない、耐環境性の高いディスクリートラックメディアやビットパターンメディア等の磁気記録媒体を提供することができる。
【0057】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、耐食性膜60が、Cr、Ni、Al、Ti、Ta、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Pt、Auのいずれかの金属膜である構成なので、磁気層加工型のパターンメディア等において耐腐食性を飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性の高い磁気記録媒体122を提供することができる。
【0058】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、耐食性膜60が、Cr膜である構成なので、耐食性膜60と磁性層30との密着性をより高め、磁気層加工型のパターンメディア等において耐腐食性をより飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性のより高い磁気記録媒体122を提供することができる。
【0059】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、耐食性膜60の成膜をHeガスまたはNeガスを用いたスパッタリング法により行う構成なので、耐食性膜60の耐腐食性をより高めることができ、耐環境性のより高い磁気記録媒体122を提供することができる。
【0060】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、非磁性層40が、粘性が低く、硬化時の収縮も少ないとともに、イオンミリング等のエッチング特性も良好な有機ケイ素化合物からなる構成なので、凹部65を埋めて、平坦面を有する非磁性層40を形成することができるとともに、平滑なエッチング面を得ることができる。これにより、磁気層加工型のパターンメディア等において耐腐食性を飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性の高い磁気記録媒体を提供することができる。
【0061】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、磁性層30に凹部65を形成する工程が、磁性層30上にマスク層32とレジスト層42をこの順序で積層する工程と、ナノインプリント法によりレジスト層42に窪み部61を形成する工程と、エッチング法またはイオンミリング法により窪み部61を磁性層30まで深くして磁性層30に凹部65を形成する工程と、からなる構成なので、磁気層加工型のパターンメディア等において耐腐食性を飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性の高い磁気記録媒体122を提供することができる。
【0062】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、凹部65の露出面65cを覆うように耐食性膜60を形成する工程が、レジスト層42及び窪み部61を覆うように耐食性膜60を形成した後、レジスト層42及びマスク層32を誘導結合プラズマ法または反応性イオンプラズマ法により除去することにより、凹部65の露出面65cを覆うように形成された耐食性膜60を残す工程である構成なので、磁気層加工型のパターンメディア等において耐腐食性を飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性の高い磁気記録媒体122を提供することができる。
【0063】
本発明の実施形態である磁気記録媒体122は、非磁性基板10上に磁気的に分離された磁性層30からなる磁気記録パターンを有する磁気記録媒体122であって、磁性層30には、凹部65が設けられており、凹部65の露出面65cを覆うように耐食性膜60が形成されるとともに、耐食性膜60に覆われた凹部65を埋めるように非磁性層40が形成されている構成なので、イオンミリング等により活性化した磁性層30の加工部分、すなわち凹部65の露出面65cの磁性層30が非磁性層40と反応して腐食することを防止して、耐食性の高い磁気記録媒体122を提供することができる。
【0064】
<磁気記録再生装置>
図6は、本発明の実施形態である磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
図6に示すように、本発明の実施形態である磁気記録再生装置101は、本発明の実施形態である磁気記録媒体122と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部123と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド124と、磁気ヘッド124を磁気記録媒体122に対して相対運動させる磁気ヘッド駆動部126、磁気ヘッド124への信号入力と磁気ヘッド124からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号処理部128とを具備したものである。
これらを組み合わせることにより、記録密度の高い磁気記録再生装置101を構成することができる。
【0065】
本願発明で例示したディスクリートトラック型磁気記録媒体122では、記録トラックを磁気的に不連続としたことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0066】
さらに上述の磁気ヘッド124の再生部をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録装置を実現することができる。
また、この磁気ヘッド124の浮上量を0.005μm〜0.020μmと、従来用いられているより低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録装置101を提供することができる。
また、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なSNRが得られる。
【0067】
本発明の実施形態である磁気記録再生装置101は、磁気記録媒体122と、磁気記録媒体122を記録方向に駆動する媒体駆動部123と、磁気記録媒体122に情報の記録再生を行う磁気ヘッド124と、磁気ヘッド123を磁気記録媒体122上に移動する磁気ヘッド駆動部126と、前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部128と、を具備する構成なので、耐環境性の高い磁気記録媒体122を備えた磁気記録再生装置101を提供することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
HD(Hard Disk)用ガラス基板を真空チャンバの内部にセットした後、真空チャンバの内部を、1.0×10−5Pa以下に真空排気した。
なお、前記HD用ガラス基板は、LiSi、Al−KO、MgO−P、Sb−ZnOを構成成分とする結晶化ガラス基板であり、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)が2オングストロームである。
【0069】
次に、DCスパッタリング法を用いて、前記HD用ガラス基板上に軟磁性層としてFeCoB合金、中間層としてRu、磁性層として70Co−Cr−15Pt−10SiO合金の薄膜をこの順序で積層した。なお、FeCoB軟磁性層の膜厚は60nm、Ru中間層の膜厚は10nm、磁性層の膜厚は15nmとした。
【0070】
次に、スパッタ法を用いて、前記磁性層上にTaからなるマスク層を膜厚60nmで形成した。
次に、スピンコート法を用いて、前記マスク層上にレジスト層を膜厚100nmで形成した。レジスト層には、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用いた。
【0071】
次に、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製スタンプを、1MPa(約8.8kgf/cm)の圧力で前記レジスト層に押圧した。そして、押圧した状態で、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上である前記ガラス製スタンプの上部から10秒間照射して、前記レジスト層を硬化させた。その後、前記ガラス製スタンプを前記レジスト層から分離して、前記レジスト層に磁気記録パターンを転写した。
前記レジスト層に転写された磁気記録パターンは、前記レジスト層の凸部が幅120nmの円周状、前記レジスト層の窪み部が幅60nmの円周状であり、前記レジスト層の膜厚は80nm、前記窪み部の底面に残された前記レジスト層の厚さは約5nmであった。
また、前記窪み部内の側壁面が基板面となす角度は、ほぼ90度であった。
【0072】
次に、ドライエッチング法により、前記窪み部の底面に残された前記レジスト層及び前記窪み部の直下の前記マスク層(Ta層)を除去して、前記窪み部の深さをレジスト層及びマスク層を貫く深さとした。
ドライエッチング条件は、前記レジスト層のエッチングに関しては、Oガスを40sccm、圧力0.3Pa,高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間10秒とした。また、前記マスク層のエッチングに関しては、CFガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間30秒とした。
【0073】
さらに、ドライエッチング法により、前記レジスト層の表面側から、前記窪み部の直下の磁性層を4nm除去して磁性層のエッチング深さを4nmとして、前記窪み部の深さをレジスト層、マスク層及び磁性層を貫く深さとした。なお、これにより、前記窪み部の底面側には、磁性層が部分的に除去されてなる凹部が形成された。
前記磁性層のドライエッチング条件は、Arガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間20秒とした。
次に、スパッタリング法によりArガスを用いて、前記凹部の露出面及び前記レジスト層の上面を覆うように耐食性膜(Cr膜)を3nmの膜厚で成膜した。スパッタ圧力は0.6Paとした。
【0074】
次に、RIE法を用いて、前記レジスト層及び前記マスク層を除去して、前記磁性層の上面を露出させた。なお、これにより、前記レジスト層及び前記マスク層に成膜された余分な耐食性膜(Cr膜)も除去されたが、前記凹部の露出面を覆う耐食性膜は保持することができた。
なお、RIEの装置としては、誘導結合プラズマ装置NE550(商品名;アルバック社製)を用いた。また、プラズマ発生に用いるガスおよび条件としては、Oを90cc/分を用い、プラズマ発生のための投入電力は200Wとするとともに、装置内の圧力は0.5Paとして、磁性層を100秒間処理した。
前記RIE処理後、前記凹部の側壁面に残留するCrの膜厚(耐食性膜の膜厚)を測定したところ約2nmであった。
【0075】
次に、スピンコート法を用いて、前記凹部を埋めるように、かつ、前記磁性層の上面を覆うように、非磁性層を形成した。
前記非磁性層の材料としては、シルセスキオキサン骨格有機ケイ素化合物を用い、前記非磁性層の平均膜厚は80nmとした。なお、前記シルセスキオキサン骨格有機ケイ素化合物の粘度は、1171mPa・sであった。
スピンコート条件は、スピンコーター内にセットした基板上にシルセスキオキサン骨格有機ケイ素化合物を0.5ml滴下して、基板を500rpmで5秒間回転させた後、3000rpmで2秒間回転させ、さらに5000rpmで20秒間回転させる条件とした。
【0076】
次に、イオンビームエッチングを用いて、上面側から前記非磁性層をエッチング除去して前記磁性層の上面を露出させた後、更に、前記磁性層の上面から1nm程度の深さまで全面をエッチング除去して、平滑な平坦面とした。これにより、上面側から平面視したときに、非磁性層により磁性層が離間して配列されてなる磁気記録パターンが形成された。
次に、CVD法を用いて、DLC膜からなる保護膜を厚さ4nmで形成した。
最後に、前記保護膜上に潤滑材を塗布して、層厚2nmの潤滑剤層を形成して、実施例の磁気記録媒体を作製した。
【0077】
(実施例2〜16)
耐食性膜の成膜条件(耐食性膜の材料、スパッタガスの種類及び圧力、耐食性膜の膜厚)、磁性層のエッチング深さを表1に示す材料及び値とした他は実施例1と同様にして、実施例2〜16の磁気記録媒体を製造した。
【0078】
(比較例1,2)
表1に示すように、Cr膜からなる耐食性膜を設けない他は実施例1,2と同様にして、比較例1,2の磁気記録媒体を製造した。
【0079】
(耐腐食性(コロージョン)評価)
実施例1〜16および比較例1,2の磁気記録媒体について、耐腐食性評価を実施した。
前記耐腐食性評価では、磁気記録媒体を温度90℃、湿度90%の大気環境下に96時間保持し、その後、この磁気記録媒体の表面に3%の硝酸水溶液を5箇所(100マイクロリットル/箇所)、純水を5箇所(100マイクロリットル/箇所)ずつ滴下し、1時間静置後、これを回収し、この中に含まれるCo量(Coの抽出量)をICP−MSで測定した。なお、ICP−MSでの測定は、Yを200ppt含んだ3%硝酸1ミリリットルを基準液とした。その結果、表1に示す結果(Coの抽出量)が得られた。
表1に、実施例1〜16の磁気記録媒体の耐食性膜の成膜条件(耐食性膜の材料、スパッタガスの種類及び圧力、耐食性膜の膜厚)、磁性層のエッチング深さ、Coの抽出量および比較例1,2の磁性層のエッチング深さ、Coの抽出量についてまとめた。
【0080】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体及び磁気記録再生装置は、磁気層加工型のパターンメディア等において耐腐食性を飛躍的に高めることが可能となり、耐環境性の高い磁気記録媒体を提供することができ、耐環境性の高い磁気記録媒体を製造・利用する産業において利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の製造工程の一例を示す工程断面図である。
【図3】本発明の磁気記録媒体の製造工程の一例を示す工程断面図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体の製造工程の一例を示す工程断面図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体の製造工程の一例を示す工程断面図である。
【図6】本発明の磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
W…磁気記録パターンにおける磁性部幅、L…磁気記録パターンにおける非磁性部幅、P…トラックピッチ、10…非磁性基板、15…軟磁性層、20…中間層、30…磁性層、30a…上面、32…マスク層、40…非磁性層、42…レジスト層、42a…上面、50…保護層、52…スタンプ、60…耐食性膜、61…窪み部、61c…露出面、65…凹部、65c…露出面、72…ミリングイオン、101…磁気記録再生装置、122…磁気記録媒体、123…媒体駆動部、124…磁気ヘッド、126…磁気ヘッド駆動部、128…記録再生信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に磁性層を形成する工程と、
前記磁性層に凹部を形成する工程と、
前記凹部の露出面を覆うように耐食性膜を形成する工程と、
前記耐食性膜に覆われた前記凹部を埋めるように非磁性層を形成して、磁気的に分離された磁性層からなる磁気記録パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記耐食性膜が、Cr、Ni、Al、Ti、Ta、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Pt、Auのいずれかの金属膜であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記耐食性膜が、Cr膜であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記耐食性膜の成膜をHeガスまたはNeガスを用いたスパッタリング法により行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記非磁性層が、有機ケイ素化合物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記磁性層に凹部を形成する工程が、前記磁性層上にマスク層とレジスト層をこの順序で積層する工程と、ナノインプリント法により前記レジスト層に窪み部を形成する工程と、エッチング法またはイオンミリング法により前記窪み部を前記磁性層まで深くして前記磁性層に凹部を形成する工程と、からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記凹部の露出面を覆うように耐食性膜を形成する工程が、前記レジスト層及び前記窪み部を覆うように耐食性膜を形成した後、前記レジスト層及び前記マスク層を誘導結合プラズマ法または反応性イオンプラズマ法により除去することにより、前記凹部の露出面を覆うように形成された耐食性膜を残す工程であることを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
非磁性基板上に磁気的に分離された磁性層からなる磁気記録パターンを有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層には、凹部が設けられており、
前記凹部の露出面を覆うように耐食性膜が形成されるとともに、
前記耐食性膜に覆われた前記凹部を埋めるように非磁性層が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動させる磁気ヘッド駆動部と、
前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、
を具備することを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−108540(P2010−108540A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278444(P2008−278444)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】