説明

磁気記録媒体保護層の被覆性評価方法および分析装置

【課題】短時間で、かつ磁気記録媒体の表面全体にわたって保護層の被覆性を評価できる方法およびその方法に用いる分析装置の提供。
【解決手段】本発明は、基板と、金属材料を含む磁性層と、該磁性層の上に形成された炭素系保護層とを少なくとも含む磁気記録媒体を対象とし、磁気記録媒体にコロイド微粒子を付着させる工程と、コロイド微粒子の付着状態を光学的に観察する工程とを含む炭素系保護層の被覆性を評価する方法に関する。また、本発明は、磁気記録媒体に対するコロイド水溶液の塗布手段と、磁気記録媒体を光学的に観察する手段とを含む、炭素系保護層の被覆性を評価する分析装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体保護層の被覆性評価方法および該方法に用いる分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブの記録容量は増大の一途をたどっており、搭載される磁気記録媒体の記録密度も高くなるばかりである。そのような高記録密度記録に対応するために、記録/再生ヘッドの浮上量を低減して、記録/再生ヘッドと磁気記録媒体の磁性層との間の距離(磁気スペーシング)をさらに短縮することが求められている。
【0003】
磁気スペーシングを短縮する手段の1つとして、磁性層の上に形成される保護層、および保護層の上に形成される潤滑層の膜厚を低減することが挙げられる。保護層は、磁性層を保護するための層である。保護層には、(a)磁気記録媒体上を相対的に高速移動しているヘッドが何かの不具合で磁気記録媒体に接触した際に、磁性層がダメージを受けないだけの「硬さ」と、(b)水分および腐食性ガスから磁性層を保護して、金属材料からなる磁性層の腐食を防止する緻密な「被覆性」とが求められる。そして、保護層の上記の(a)および(b)の特性は、「面全体にわたって」均一に得られる必要がある。潤滑層は、磁気記録媒体の最表層であって、ヘッドをスムーズかつ安定して磁気記録媒体上を浮上させるための層である。潤滑層は、潤滑材料を極薄く塗布することによって形成される。
【0004】
ここで、保護層の被覆性を維持しながら、その膜厚を低減する方法が鋭意検討されている。また、そのようにして得られた保護層の被覆性を評価する方法も必要である。
【0005】
たとえば、2×10−3torr(0.27Pa)以下の圧力下、アルゴンおよび水素の混合ガス中でのスパッタ法によって15nm以下の膜厚を有する炭素保護層を形成する方法において、被成膜基板温度を200℃以下とし、混合ガスの全流量に対する水素の流量比を4〜12%とする方法が提案されている(特許文献1参照)。この提案においては以下の2つの方法による被覆性の評価を行っている。第1の方法は、保護層の膜厚が10nmより大きい場合に適用される方法であって、X線光電子分光法により磁気記録媒体の表面の極微小領域を分析して、X線照射により発生する光電子のスペクトルを測定する方法である。この方法は、保護層の被覆性の不充分な箇所では磁性層の構成物質の1つであるCoが検出されるとの考えに基づくものである。第2の方法は、磁気記録媒体を200時間にわたって高温・高湿環境下に放置した後に磁気記録媒体の記録/再生テストを行う方法である。この方法では、信号エラーの検出個数および記録/再生ヘッドの浮上安定性から保護層の被覆性を判断している。
【0006】
しかしながら、第1の方法に関して、保護層の膜厚が6nmの磁気記録媒体においては、保護層が磁性層表面を均一に被覆した場合(すなわち、保護層が十分な被覆性を有している場合)であっても、磁性層のCoに由来する光電子スペクトルが検出される可能性があると記載されている。実際、上記の提案では、保護層の膜厚が6nmの磁気記録媒体に対して第1の方法を適用していない。現在、保護層の膜厚は3nm程度まで減少されており、この方法の適用はさらに困難である。また、磁気記録媒体の表面の極微小領域に対するX線光電子分光法の適用に基づくこの方法は、磁気記録媒体の表面全体にわたって保護層の被覆性を評価するには適当ではない。
【0007】
一方、第2の方法は、長時間にわたる高温・高湿環境下での放置が必要であるため、短時間で被覆性を評価するには適当ではない。
【0008】
膜厚を低減した保護層を形成するための別法として、50〜200sccmの流量の炭化水素ガスおよび0.1〜0.3Aの放電電流を用いるプラズマCVD法によって保護層を形成し、得られた保護層に対してアルゴンガス中でのプラズマ処理および窒素ガスを含有するガス中でのプラズマ処理を施す保護層の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。この提案においては、磁気記録媒体の表面に硝酸水溶液を滴下し、該水溶液中に溶出したCoの量を高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)で測定することによって、保護膜の被覆性を評価している。この方法は、保護層の被覆が不十分な箇所で磁性層中のCoが硝酸水溶液中に溶出する現象に基づくものである。しかしながら、この方法においても、硝酸水溶液の滴下後の放置時間が必要である。また、磁気記録媒体の表面の一部に硝酸水溶液を滴下するため、磁気記録媒体の表面全体にわたって保護層の被覆性を評価するには適当ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−25441号公報
【特許文献2】特開2010−146683公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の状況に鑑み、本発明は、短時間で、かつ磁気記録媒体の表面全体にわたって保護層の被覆性を評価できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の実施形態である炭素系保護層の被覆性を評価する方法は、基板と、金属材料を含む磁性層と、該磁性層の上に形成された炭素系保護層とを少なくとも含む磁気記録媒体を対象とし、磁気記録媒体にコロイド微粒子を付着させる工程と、コロイド微粒子の付着状態を光学的に観察する工程とを含むことを特徴とする。ここで、コロイド微粒子を付着させる工程が、磁気記録媒体をコロイド微粒子を含む水溶液に浸漬すること、あるいは、磁気記録媒体に対してコロイド微粒子を含む水溶液をスピンコートすることを含んでもよい。さらに、コロイド微粒子の付着状態を光学的に観察する工程を、光学的外観検査装置を用いて実施することが望ましい。ここで、観察されるコロイド微粒子の付着状態が、磁気記録媒体の表面に対するコロイド微粒子の付着量、または磁気記録媒体の表面に対するコロイド微粒子の付着位置分布を含んでもよい。ここで、コロイド微粒子が親水性の表面を有することが望ましい。
【0012】
本発明の第2の実施形態である炭素系保護層の被覆性を評価する方法は、磁気記録媒体が炭素系保護層の上に形成された潤滑層をさらに含むことを除いて、第1の実施形態と同様の方法である。
【0013】
本発明の第3の実施形態である炭素系保護層の被覆性を評価するための分析装置は、基板と、金属材料を含む磁性層と、該磁性層の上に形成された炭素系保護層とを少なくとも含む磁気記録媒体を対象とし、磁気記録媒体に対して、コロイド微粒子を含む水溶液を塗布する手段と、磁気記録媒体を光学的に観察する手段とを少なくとも含むことを特徴とする。ここで、磁気記録媒体を光学的に観察する手段として、光学的外観検査装置を用いることが望ましい。また、磁気記録媒体に対するコロイド水溶液の塗布手段が、コロイド水溶液を収容するコロイド溶液槽と、該磁気記録媒体を保持するための垂直方向に移動可能なアームとを含んでもよい。あるいはまた、磁気記録媒体に対するコロイド水溶液の塗布手段は、磁気記録媒体を回転させるための回転手段と、該回転手段に磁気記録媒体を固定するための固定手段と、磁気記録媒体に対してコロイド水溶液を滴下させる滴下手段とを含んでもよい。ここで、コロイド微粒子が親水性の表面を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
前述の構成を採用することによって、炭素系保護層の被覆性の不充分な部分にコロイド微粒子によって形成される突起欠陥を検出することによって、炭素系保護層の被覆性の優劣を短時間で定量化することが可能となる。また、検出される突起欠陥の面内分布を測定することによって、保護層の被覆性の優劣の面内分布を定量化することができる。本発明の方法の所要時間は15〜20分程度であり、従来技術の評価方法と比較して著しく短い。また本発明の方法は、保護層が最表層となる半製品の磁気記録媒体および潤滑層が最表層となる完成品の磁気記録媒体の両方に適用できるため、多品種・多条件の試作品の評価、大量生産段階の完成品の抜き取り検査などにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁気記録媒体の製造および試験の方法の概略を示す流れ図である。
【図2】一般的な磁気記録媒体の層構成を示す断面図であり、(a)は炭素系保護層が最表面となる磁気記録媒体(A)を示す図であり、(b)潤滑層が最表面となる磁気記録媒体(B)および磁気記録媒体(C)を示す図である。
【図3】磁気記録媒体(A)に対するコロイド微粒子の付着工程を説明する図であり、(a)は磁気記録媒体(A)をコロイド水溶液に浸漬した状態を示す図であり、(b)は磁気記録媒体(A)をコロイド水溶液から引き上げた状態を示す図であり、(c)はIIIcで示す領域の拡大断面図である。
【図4】磁気記録媒体(A)に対するコロイド微粒子の付着工程の変形例を示す図である。
【図5】実施例1〜3で得られた磁気記録媒体の光学観察像を示す図であり、(a)は実施例1の磁気記録媒体(A)を示し、(b)は実施例1の磁気記録媒体(A’)を示し、(c)は実施例2の磁気記録媒体(A)を示し、(d)は実施例2の磁気記録媒体(A’)を示し、(e)は実施例3の磁気記録媒体(A)を示し、(f)は実施例3の磁気記録媒体(A’)を示す。
【図6】実施例1〜3の突起欠陥検出数の増加と、比較例1〜3のCo溶出量との相関を示すグラフである。
【図7】比較例4〜6における2回目のグライド試験における、ヘッド位置とピエゾ素子の発生電圧との関係を示すグラフである。
【図8】実施例4〜6の突起欠陥検出数の増加と、比較例4〜6のピエゾ素子の発生電圧の平均値との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および図2を参照して、本発明において用いられる磁気記録媒体、ならびにその製造および試験の方法を説明する。図1は、本発明において用いられる磁気記録媒体の製造および試験の方法の概略を示す流れ図である。図2は、本発明において用いられる磁気記録媒体の構成例を示す図である。本発明で用いられる磁気記録媒体は、基板210と、基板210の上に形成された磁性層230と、磁性層230の上に形成された炭素系保護層240とを少なくとも含む。磁気記録媒体は、基板210と磁性層230との間に下地層220をさらに含んでもよい。あるいはまた炭素系保護層240の上に形成される潤滑層250をさらに含んでもよい。図2(a)に、基板210、下地層220、磁性層230および炭素系保護層240を含む磁気記録媒体(A)200の構成例を示し、図2(b)に、潤滑層250をさらに含む磁気記録媒体(B)202および磁気記録媒体(C)の構成例を示す。
【0017】
第1の工程は、基板研磨・洗浄工程110である。基板210は、ガラス、アルミニウムなどの材料を用いて形成され、望ましくは円環状の形状を有する。本工程においては、基板210の表面を研磨して、基板表面を平坦にすると同時に、その表面粗さを記録/再生ヘッドの浮上に好適な値とする。その後に、洗浄を行って、基板210の表面に残存する研磨材および研磨滓を完全に除去する。
【0018】
第2の工程は、磁性層・保護層形成工程120である。任意選択的に下地層220を形成する場合には、本工程において磁性層230の形成前に下地層220の形成を行う。下地層220、磁性層230および炭素系保護層240の形成は、スパッタ法、CVD法などの当該技術において知られている任意の技術を用いて実施することができる。磁性層230の形成は、スパッタ法を用いて行うことが好ましい。本工程において、図2(a)に示す、炭素系保護層240を最表層とする磁気記録媒体(A)200が得られる。
【0019】
磁性層230は、金属材料を用いて形成することができる。磁性層230の形成に用いることができる金属材料は、CoCr合金(Crの含有量が33at%以下であるもの)、CoおよびPtを少なくとも含む強磁性材料、またはCoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの磁性結晶粒子を、SiO、TiO、Al、AlN、Siなどの非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に分散させたグラニュラー材料を含む。一般的に、磁性層230は、5〜50nm程度の膜厚を有する。
【0020】
炭素系保護層240は、炭素系材料、望ましくはダイヤモンドライクカーボンと呼ばれる硬質炭素材料を用いて形成することができる。前述の磁気スペーシングの短縮の観点から、炭素系保護層240は、磁性層230を保護する機能を損なわない限りにおいて、できる限り小さい膜厚を有することが望ましい。本発明においては、炭素系保護層240が0nmより大きく5nmより小さい膜厚を有することが望ましい。
【0021】
任意選択的に設けてもよい下地層220は、単一の層であってもよいし、複数の層の積層体であってもよい。下地層220を構成する層の例は、垂直磁気記録を行う際に記録ヘッドが発生する磁界を磁性層230に集中させるための軟磁性裏打ち層、磁性層230の結晶構造を制御するための結晶配向制御層などを含む。軟磁性裏打ち層は、たとえばFeTaC、またはセンダスト(FeSiAl)合金のような結晶性軟磁性材料、あるいは、CoZrNbまたはCoTaZrのようなCo合金を含む非晶質軟磁性材料を用いて形成することができる。結晶配向制御層は、Ru、Pt、Ir、Re、Rhなどの金属、ならびに、Ruと、C、Cu、W、Mo、Cr、Ir、Pt、Re、Rh、Ta、Vからなる群から選択される1種または複数種の材料とからなるRu基合金を用いて形成することができる。層構成に依存するが、下地層220は20〜300nmの膜厚(複数層の場合は総膜厚)を有することが望ましい。
【0022】
第3の工程は、潤滑層形成工程130である。炭素系保護層240の上に潤滑層250を形成して、潤滑層250を最表層とする磁気記録媒体(B)202(図2(b)参照)が得られる。潤滑層250は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)などの材料を用いて形成することができる。潤滑層250の形成は、ディップコート法、スピンコート法などの当該技術において知られている任意の方法で、前述の材料を炭素系保護層240の上に塗布し、次いで、一定時間にわたって加熱することにより実施することができる。加熱工程はたとえば100℃の温度において実施することができる。加熱工程は、炭素系保護層240と潤滑層250との結合力を上昇させ、潤滑層250が容易に剥離することを防止する点において有用である。
【0023】
第4の工程は、試験工程140である。本工程においては、主として、以下の2種の試験が実施される。第1の試験はグライド試験であり、磁気記録媒体(B)202の表面上にヘッドの安定浮上を妨げるような突起物が存在しないことを検証する。第2の試験はリード/ライト試験であり、磁気記録媒体(B)202に対する磁気信号の記録および磁気記録媒体(B)202に記録された磁気信号の再生が所定の性能で実施できることを検証する。以後、試験工程140を終了した完成段階の磁気記録媒体を、磁気記録媒体(C)と呼称する。なお、磁気記録媒体(C)は、構造的には磁気記録媒体(B)202と同一である。グライド試験およびリード/ライト試験の両方に合格した磁気記録媒体(C)が、第5の工程である出荷工程150において出荷されることになる。
【0024】
<第1の実施形態>
本実施形態は、磁気記録媒体(A)200において、その炭素系保護層240の被覆性を評価する方法である。本実施形態の方法は、磁気記録媒体(A)200に対してコロイド微粒子342を付着させる工程と、コロイド微粒子342の付着状態を光学的に観察する工程とを含む。
【0025】
最初に、磁性層・保護層形成工程120を終了したままの磁気記録媒体(A)200について、光学式外観検査装置を用いてその表面に存在する突起欠陥の個数を測定する。これは、後述するコロイド微粒子342の付着後の状態との比較を行うためのブランク測定である。
【0026】
次に、磁気記録媒体(A)200の表面に、コロイド微粒子342を付着させる。この付着工程は、たとえば、図3(a)に示すように、磁気記録媒体(A)200が固定されたアーム310を一定の速度で垂直方向に降下させて、磁気記録媒体(A)200をコロイド水溶液340(コロイド溶液槽330に収容されている)に浸漬すること、およびアーム310を一定の速度で垂直方向に引き上げて、図3(b)に示す状態にすることを含む方法で実施することができる。ここで、磁気記録媒体(A)200は、アーム310に設けられたV字型の溝にその内周が引っかかるようにして、アーム310に保持されている。アーム310は、支柱320に対して垂直方向に移動できるように取り付けられている。
【0027】
本発明においては、炭素系保護層240の被覆性が不十分な箇所で磁気記録媒体(A)200の表面に局所的な撥水性低下が起こることを利用する。具体的には、炭素系保護層240の被覆性が不十分であり、磁性層230が露出した微小欠陥242において、磁性層230を構成する金属材料が酸化されて、微小欠陥242の表面を親水性にする。一方、炭素系保護層240は撥水性を有する。したがって、コロイド水溶液340は微小欠陥242に付着してコロイド微粒子342の凝集が起こり、続いて乾燥を行うことによって図3(c)に示すように微小欠陥242にコロイド微粒子342が固着した状態となる。以後、この状態の磁気記録媒体を、磁気記録媒体(A’)200aと呼称する。
【0028】
本発明において、図3に示すような浸漬装置でコロイド水溶液340の付着を行う場合、磁気記録媒体(A)200をコロイド水溶液340中に浸漬する際のアーム310の移動速度、ならびにコロイド水溶液340から磁気記録媒体(A)200を引き上げる際のアーム310の移動速度は、0.5mm/秒〜5mm/秒の範囲内とすることが望ましい。上記の範囲内の移動速度を採用することによって、アーム310のV字型の溝に引っかかっている磁気記録媒体(A)200の揺れを防止し、微小欠陥242においてのみコロイド微粒子342を固着させるのに適切な量のコロイド水溶液を磁気記録媒体(A)200に付着させることができ、かつ実用的な時間で処理を完了することが可能となる。
【0029】
本発明において用いるコロイド微粒子342は、磁気記録媒体(A)200表面の微小欠陥242に付着するために十分に小さい粒径を有することが望ましい。また、後述する光学式外観検査における測定の不安定さを回避するために、コロイド微粒子342が比較的狭い粒径分布を有することが望ましい。さらに、親水性となった微小欠陥242の表面に確実に付着するために、コロイド微粒子342は親水性表面を有することが望ましい。上記の特性を有し、本発明における使用に好適であるコロイド微粒子342は、コロイダルシリカ、ポリスチレンラテックスなどを含む。コロイド微粒子342は、前述の条件に加えて、光学式外観検査で検出できる粒径を有することが望ましく、たとえば50〜500nmの粒径を有することが望ましい。また、コロイド水溶液340中のコロイド微粒子342の濃度は、たとえば0.001体積%〜0.01体積%の範囲内が適当である。
【0030】
磁気記録媒体(A)200に付着したコロイド水溶液340の乾燥は、図3(b)に示した状態で自然乾燥させることが望ましい。あるいはまた、輻射加熱器などの乾燥促進手段を併用して、乾燥を促進してもよい。
【0031】
また、上記で説明した浸漬法によって磁気記録媒体(A)200に対するコロイド水溶液340の付着を行う場合、別法として、図4に示すようにアーム310に複数のV字型の溝を設けて、複数の磁気記録媒体(A)200のコロイド水溶液への浸漬および引き上げを一括して実施することができる。たとえば、多品種および/または多条件の試作品を一括して評価したい場合、この方法を用いて、作業時間を短縮して効率よく評価を行うことが可能となる。
【0032】
上記の浸漬法において磁気記録媒体(A)200に対するコロイド微粒子342の付着を行うために必要な時間は、約10分である。
【0033】
別法として、スピンコート法を用いて磁気記録媒体(A)200に対するコロイド微粒子342の付着を実施してもよい。この場合には、磁気記録媒体(A)200をスピンドルなどの回転手段に取り付けて回転させ、その内周部分にコロイド水溶液340を滴下し、遠心力によってコロイド水溶液340を外側に向かって塗り広げる。この場合にも浸漬法と同様に、コロイド微粒子342を含むコロイド水溶液340が炭素系保護層240の微小欠陥242に選択的に付着し、乾燥の後に突起欠陥を形成する。ここで、磁気記録媒体(A)200の回転速度を200〜3000rpmの範囲内とすることによって、コロイド水溶液340の微小欠陥242への選択的付着を確実にすることが望ましい。また、浸漬法を用いる場合と同様に、コロイド水溶液240の乾燥を、自然乾燥により実施することが望ましい。また、前述の乾燥促進手段を併用してコロイド水溶液240の乾燥を実施してもよい。
【0034】
次に、コロイド微粒子342が付着した磁気記録媒体(A’)200aを光学的に観察する。本工程は、光学式外観検査装置を用いて実施することができる。光学式外観検査装置を用いて磁気記録媒体(A’)200aの表面全体を観察すると、付着したコロイド微粒子342を突起欠陥として検出することができる。検出した突起欠陥の個数を求めることによって、炭素系保護層240の被覆性の優劣を定量化することができる。最初に観察したコロイド微粒子の付着前の状態に比較して突起欠陥の検出個数が増大している場合に、炭素系保護層240の微小欠陥242(すなわち、被覆性が劣る部分)にコロイド微粒子342が付着したと判断することができる。したがって、コロイド微粒子342の付着前後の突起欠陥の検出個数の増加分をもって、被覆性の程度の定量的判断の基準とすることができる。この方法は、磁気記録媒体(A’)200aの表面全体の観察に基づくものであるため、磁気記録媒体の表面全体にわたって炭素系保護層の被覆性を評価するのに適当である。
【0035】
また、光学式外観検査装置を用いた場合には、突起欠陥の個数のみならず、突起欠陥の存在する位置および分布を決定することができる。突起欠陥が検出された位置の分布によって、炭素系保護層の被覆性の優劣の面内分布を評価することができる。この面内分布は、従来技術の極微小領域のX線光電子分光法による分析(特許文献1参照)、および硝酸水溶液の滴下によるCo溶出量の測定(特許文献2参照)の方法で求めることが難しい。よって、この面内分布を評価できることもまた、本発明の重要な利点の1つである。
【0036】
また、光学式外観検査装置を用いる一連の評価に要する時間は、5分程度である。すなわち、本発明の方法は、前述の従来技術の方法に比べて短時間で磁気記録媒体の表面全体にわたる炭素系保護層の被覆性の評価を可能とする。さらに、本実施形態の方法は、炭素系保護層240が形成された段階の磁気記録媒体(A)200、すなわち、製造工程途中の磁気記録媒体における炭素系保護層240の被覆性を評価することができるため、時間的効率に優れるという利点をも有する。
【0037】
<第2の実施形態>
本実施形態の方法は、第1の実施形態で用いた磁気記録媒体(A)200に代えて、潤滑層250が形成された完成品の磁気記録媒体(B)202、またはグライド試験およびリード/ライト試験などの試験を終了した磁気記録媒体(C)を用いて評価を行う方法である。
【0038】
磁気記録媒体(B)202および磁気記録媒体(C)の最表層である潤滑層250は、炭素系保護層240と同様に撥水性である。ここで、磁気記録媒体(B)202および磁気記録媒体(C)において、磁性層230が局所的に親水性になった部分(すなわち、炭素系潤滑層240の被覆性に劣る部分)は、潤滑層250によって被覆されている。しかしながら、潤滑層250の膜厚が極めて小さいために下地となる磁性層230の影響を受け、局所的に親水性になった磁性層230の上の潤滑層250の表面の撥水性も局所的に低下する。このような撥水性の局所的低下により、磁気記録媒体(B)202および磁気記録媒体(C)においても、磁性層230の局所的に親水性になった部分に、コロイド微粒子342が付着・凝集して、突起欠陥を形成する。この突起欠陥を光学式外観検査装置を用いて光学的に観察することによって、炭素系保護層240の被覆性の優劣および被覆性の優劣の面内分布を評価することができる。
【0039】
磁気記録媒体(B)202および磁気記録媒体(C)に対するコロイド水溶液340の塗布、コロイド水溶液340の乾燥、および突起欠陥が形成された磁気記録媒体(B’)および磁気記録媒体(C’)の表面の観察は、第1の実施形態の方法と同様にして実施することができる。また、その所要時間も、第1の実施形態と同様である。
【0040】
本実施形態の方法は、潤滑層250が形成された磁気記録媒体(B)および磁気記録媒体(C)に適用することができるため、従来技術の方法である高温・高湿環境下での放置後にヘッド浮上試験を受けたサンプルに適用できる。また、大量生産段階の磁気記録媒体の抜き取り検査などにも、本実施形態の方法は有用である。
【0041】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態および第2の実施形態の評価方法を行う際に用いることができる評価装置に関する。本実施形態の評価装置は、少なくとも、磁気記録媒体に対するコロイド水溶液の塗布手段と、磁気記録媒体を光学的に観察する手段とを含む。
【0042】
第1の実施形態で説明した浸漬法によってコロイド水溶液の付着を行う場合、磁気記録媒体に対するコロイド水溶液の塗布手段は、図3(a)または図4に示すように、コロイド水溶液340を収容するコロイド溶液槽330と、支柱320と、支柱320に垂直方向に移動可能に取り付けられ、磁気記録媒体を保持するための1つまたは複数のV字型溝を有するアーム310とを含んでもよい。
【0043】
一方、スピンコート法によってコロイド水溶液の付着を行う場合、磁気記録媒体に対するコロイド水溶液の塗布手段は、磁気記録媒体を回転させるための回転手段(スピンドルモータなど)と、該回転手段に磁気記録媒体を固定するための固定手段と、磁気記録媒体に対してコロイド水溶液を滴下させる滴下手段とを含む。必要に応じて、コロイド水溶液を収容するコロイド溶液槽、コロイド溶液槽と滴下手段とを連通する送液手段などをさらに含んでもよい。
【0044】
あるいはまた、本実施形態の装置は、コロイド水溶液の塗布後にコロイド水溶液の乾燥を促進するための手段(輻射加熱器など)をさらに含んでもよい。さらに、磁気記録媒体に対するコロイド水溶液の塗布と、磁気記録媒体の光学的な観察とを離間した位置で行う場合、コロイド水溶液塗布後の磁気記録媒体を塗布手段から光学的に観察する手段へと移動させる移動手段をさらに含んでもよい。
【0045】
また、磁気記録媒体を光学的に観察する手段は、光学的外観検査装置などを含む。さらに、磁気記録媒体を光学的に観察する手段によって得られたデータを処理、集積、表示および/または印刷するためのデータ処理手段をさらに含んでもよい。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
ガラスを母材とする基板210の表面を表面粗さRa(JIS B0601:2001)が約0.1nmになるように研磨した。超音波槽への浸漬とスクラブとを組み合わせて、研磨後の基板210を洗浄した。引き続いて、スパッタ法を用いて、基板210上に、Co,Ta,Ru等からなる軟磁性層を含む膜厚60nmの下地層220を形成した。引き続いて、スパッタ法を用いて、CoCrPt−SiOからなる膜厚20nmのグラニュラー構造の磁性層230を形成した。引き続いて、エチレンガスを原料として用いるプラズマCVD法を用いて、膜厚2.5nmの炭素系保護層240を形成し、磁気記録媒体(A)200を得た。本実施例では成膜時のエチレンガスの流量を5sccmとした。
【0047】
上記のように製造された磁気記録媒体(A)200の表面を、光学式外観検査装置(Candela 6300型(KLA-Tencor社製))で観察したところ、122個の突起欠陥が検出された。光学観察像を図5(a)に示す。この観察に要した時間は5分であった。
【0048】
続いて、図4で示した装置を用いて、磁気記録媒体(A)200に対するコロイド微粒子の塗布を行った。コロイド溶液槽330中に濃度0.005体積%のコロイダルシリカ水溶液を準備した。アーム310に3枚の磁気記録媒体(A)200を保持させ、アーム310を降下速度1mm/秒で垂直に降下させ、磁気記録媒体(A)200をコロイダルシリカ水溶液中に完全に浸漬させた。コロイダルシリカは80nmの平均粒径(BET法により測定)を有した。30秒間の浸漬の後に、アーム310を上昇速度1mm/秒で垂直に上昇させ、磁気記録媒体(A)200を完全に引き上げた。その後に、磁気記録媒体(A)200に付着した水分が乾燥除去されるまで放置して、3枚の垂直磁気記録媒体(A’)200aを得た。浸漬から乾燥までの工程に要した時間は合計10分であった。
【0049】
得られた磁気記録媒体(A’)200aを光学式外観検査装置で観察したところ、5811個の突起欠陥を検出した。光学観察像を図5(b)に示す。この観察に要した時間は5分であった。この観察から明らかなように、コロイダルシリカ微粒子の付着により、突起欠陥の検出個数が5689個増加した。
【0050】
本例において、ブランク測定である光学式外観検査装置による磁気記録媒体(A)200の観察から、コロイダルシリカ微粒子の付着後の磁気記録媒体(A’)200aの観察までの炭素系保護層240の被覆性の評価に要した時間は、合計20分であった。
【0051】
<実施例2>
炭素系保護層240の形成時のエチレンガスの流量を20sccmに変更したことを除いて実施例1の手順を繰り返して、磁気記録媒体(A)の製造および炭素系保護層240の被覆性の評価を行った。
【0052】
製造直後の磁気記録媒体(A)200においては、140個の突起欠陥が検出された。また、コロイダルシリカ微粒子の付着後の磁気記録媒体(A’)200aにおいては、1413個の突起欠陥が検出された。この結果から明らかなように、コロイダルシリカ微粒子の付着により、突起欠陥の検出個数が1273個増加した。磁気記録媒体(A)200の光学観察像を図5(c)に示し、磁気記録媒体(A’)200aの光学観察像を図5(d)に示す。
【0053】
<実施例3>
炭素系保護層240の形成時のエチレンガスの流量を80sccmに変更したことを除いて実施例1の手順を繰り返して、磁気記録媒体(A)の製造および炭素系保護層240の被覆性の評価を行った。
【0054】
製造直後の磁気記録媒体(A)200においては、100個の突起欠陥が検出された。また、コロイダルシリカ微粒子の付着後の磁気記録媒体(A’)200aにおいては、349個の突起欠陥が検出された。この結果から明らかなように、コロイダルシリカ微粒子の付着により、突起欠陥の検出個数が249個増加した。磁気記録媒体(A)200の光学観察像を図5(e)に示し、磁気記録媒体(A’)200aの光学観察像を図5(f)に示す。
【0055】
<比較例1>
実施例1と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(A)200を製造した。続いて、磁気記録媒体(A)200を水平に保持し、その表面の4箇所に濃度3%の硝酸水溶液0.2mlを滴下し、1時間にわたって放置した。放置終了後、表面上の溶液を回収し、ICP−MS法を用いてCo溶出量を測定した。回収された溶液中のCo濃度は、420ppbであった。
【0056】
硝酸水溶液の滴下、放置および回収に要した時間は1時間20分であり、ICP−MS測定に要した時間は15分であった。すなわち、この測定に要した時間は、合計1時間35分であった。
【0057】
<比較例2>
実施例2と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(A)200を製造した。引き続いて、比較例1の手順を用いて、硝酸水溶液によるCo溶出量を測定した。回収された溶液中のCo濃度は、170ppbであった。
【0058】
<比較例3>
実施例3と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(A)200を製造した。引き続いて、比較例1の手順を用いて、硝酸水溶液によるCo溶出量を測定した。回収された溶液中のCo濃度は、0.26ppbであった。
【0059】
<評価1>
ここで、実施例1〜実施例3の磁気記録媒体(A)200および磁気記録媒体(A’)200aで検出された突起欠陥の個数およびその増加数、ならびに従来技術の評価方法を用いた比較例1〜3のCo溶出量を第1表に示す。また、、実施例1〜実施例3の突起欠陥の検出数の増加と比較例1〜3のCo溶出量との相関を図6に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
図6から明らかなように、コロイド微粒子の付着および光学的観察に基づく本発明の方法による炭素系保護層240の被覆性の評価は、従来技術の評価方法である硝酸水溶液によるCo溶出量の測定と良好な相関を示す。このことから、本発明の方法が、炭素系保護層の被覆性の評価方法として有効であることは明らかである。
【0062】
また、前述のように、実施例1〜実施例3の磁気記録媒体(A)200および磁気記録媒体(A’)200aの光学観察像を図5(a)〜(f)に示した。図5(b)から明らかなように、実施例1のコロイド微粒子付着後の磁気記録媒体(A’)200aは、製造直後の磁気記録媒体(A)200に比較して、特に内周側における突起欠陥の増加が著しい。このことは、実施例1の条件で製造された炭素系保護層240は、特に磁気記録媒体の内周側において被覆性が十分ではないことを示す。このような被覆性の優劣の面内分布は、従来技術である硝酸によるCo溶出量の測定では決定することが困難な情報である。
【0063】
また、本発明の方法の実施に必要な時間は、従来技術である硝酸水溶液によるCo溶出量の測定に必要な1時間35分の約1/5である20分である。このことから、本発明の方法が、様々な条件で製造される炭素系保護膜240の被覆性を短時間で効率的に評価することができることがわかる。
【0064】
<実施例4>
実施例2と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(A)200を製造した。引き続いて、ディップコート法を用いて炭素系保護層240の上にPFPE系の液体潤滑剤(Fomblin Z−Tetraol(SolvaySlexis社製))を塗布し、100℃に維持された炉内で30分間にわたって放置して、膜厚1.0nmの潤滑層250を形成し、磁気記録媒体(B)202を得た。さらに、得られた磁気記録媒体(B)202に対してグライド試験およびリード/ライト試験を実施し、両試験に合格した媒体を磁気記録媒体(C)として得た。
【0065】
得られた磁気記録媒体(C)の表面を光学式外観検査装置で観察したところ、125個の突起欠陥が検出された。この観察に要した時間は5分であった。
【0066】
引き続いて、得られた磁気記録媒体(C)を、温度80℃、湿度85%の高温・高湿環境下に24時間にわたって放置する高温・高湿環境試験にかけた。次いで、実施例1と同様の手順によるコロイダルシリカ微粒子の付着を行い、磁気記録媒体(C’)を得た。
【0067】
得られた磁気記録媒体(C’)を光学式外観検査装置で観察したところ、521個の突起欠陥を検出した。この観察から明らかなように、コロイダルシリカ微粒子の付着により、突起欠陥の検出個数が396個増加した。高温・高湿環境試験前の光学外観検査装置による観察、ならびに高温・高湿環境試験後のコロイダルシリカ微粒子の付着および光学式外観検査装置による観察の所要時間は合計20分であった。
【0068】
<実施例5>
高温・高湿環境下の放置時間を48時間に変更したことを除いて、実施例4と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(C)の製造、ならびに高温・高湿環境試験後の炭素系保護層240の被覆性の評価を行った。
【0069】
製造直後の磁気記録媒体(C)の表面を光学式外観検査装置で観察したところ、89個の突起欠陥が検出された。高温・高湿環境試験およびコロイダルシリカ微粒子の付着後の磁気記録媒体(C’)の表面を光学式外観検査装置で観察したところ、1400個の突起欠陥が検出された。この結果から明らかなように、高温・高湿環境試験およびコロイダルシリカ微粒子の付着により、突起欠陥の検出個数が1311個増加した。
【0070】
<実施例6>
高温・高湿環境下の放置時間を96時間に変更したことを除いて、実施例4と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(C)の製造、ならびに高温・高湿環境試験後の炭素系保護層240の被覆性の評価を行った。
【0071】
製造直後の磁気記録媒体(C)の表面を光学式外観検査装置で観察したところ、114個の突起欠陥が検出された。高温・高湿環境試験およびコロイダルシリカ微粒子の付着後の磁気記録媒体(C’)の表面を光学式外観検査装置で観察したところ、3048個の突起欠陥が検出された。この結果から明らかなように、高温・高湿環境試験およびコロイダルシリカ微粒子の付着により、突起欠陥の検出個数が2934個増加した。
【0072】
<比較例4>
実施例4と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(C)の製造、ならびに24時間にわたる温度80℃、湿度85%での高温・高湿環境試験を行った。
【0073】
高温・高湿環境試験終了後に、磁気記録媒体(C)に対してグライド試験およびリード/ライト試験を再度実施した。その結果、磁気記録媒体(C)は、両試験ともに再度合格した。図7(a)に2回目のグライド試験の結果を示す。ここで、グラフの横軸は、浮上しているヘッドの磁気記録媒体(C)上の半径方向の位置を示す。また、グラフの縦軸は、ヘッドに取り付けられたピエゾ素子の発する電圧を示す。ここで、ピエゾ素子が発生する電圧はヘッドが突起物に衝突した場合に上昇する。本例においては、ピエゾ素子の発する電圧は位置測定範囲内において一様に小さく、このことはいずれの位置においてもヘッドが安定して浮上していることを示す。また、ピエゾ素子の発する電圧の平均値は30.50mVであった。
【0074】
<比較例5>
実施例5と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(C)の製造、ならびに48時間にわたる温度80℃、湿度85%での高温・高湿環境試験を行った。高温・高湿環境試験終了後に、磁気記録媒体(C)に対してグライド試験を再度実施した。しかしながら、磁気記録媒体(C)は2回目のグライド試験に合格せず、2回目のリード/ライト試験を実施することができなかった。図7(b)に2回目のグライド試験の結果を示す。本例においては、ピエゾ素子の発する電圧のベースラインの上昇は顕著ではないが、いくつかの位置において電圧の顕著な上昇がみられた。このことは、高温・高湿環境試験の結果、磁気記録媒体(C)の表面上に突起物が発生し、ヘッドの浮上に悪影響を及ぼしていることを示す。また、ピエゾ素子の発する電圧の平均値は92.16mVであった。
【0075】
<比較例6>
実施例6と同様の手順を用いて、磁気記録媒体(C)の製造、ならびに96時間にわたる温度80℃、湿度85%での高温・高湿環境試験を行った。高温・高湿環境試験終了後に、磁気記録媒体(C)に対してグライド試験を再度実施した。しかしながら、磁気記録媒体(C)は2回目のグライド試験に合格せず、2回目のリード/ライト試験を実施することができなかった。図7(c)に2回目のグライド試験の結果を示す。本例においては、ピエゾ素子の発する電圧のベースラインの顕著な上昇が見られると同時に、多くの位置において電圧の顕著な上昇がみられた。このことは、高温・高湿環境試験の結果、磁気記録媒体(C)の表面上に大きな高さを有する多数の突起物が発生し、ヘッドが安定して浮上していないことを示す。また、ピエゾ素子の発する電圧の平均値は267.2mVであった。
【0076】
<評価2>
ここで、実施例4〜実施例6の磁気記録媒体(C)および磁気記録媒体(C’)で検出された突起欠陥の個数およびその増加数、ならびに従来技術の評価方法を用いた比較例4〜6のピエゾ素子発生電圧の平均値を第2表に示す。また、実施例4〜実施例6の突起欠陥の検出数の増加と比較例4〜6のピエゾ素子発生電圧の平均値との相関を図8に示した。
【0077】
【表2】

【0078】
図8から明らかなように、コロイド微粒子の付着および光学的観察に基づく本発明の方法による炭素系保護層240の被覆性の評価は、従来技術の評価方法であるグライド試験(ピエゾ素子の発生電圧の平均値)の測定と良好な相関を示す。このことから、本発明の方法が、炭素系保護層240の上に潤滑層250が形成された磁気記録媒体(B)202および磁気記録媒体(C)に関する炭素系保護層240の被覆性の評価方法として有効であることは明らかである。また、実施例4〜6および比較例4〜6の結果から、高温・高湿環境下における炭素系保護層240の被覆性の変化の評価についても、本発明の方法が有効であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、金属材料を含む磁性層と、該磁性層の上に形成された炭素系保護層とを少なくとも含む磁気記録媒体における炭素系保護層の被覆性を評価する方法であって、
磁気記録媒体にコロイド微粒子を付着させる工程と、
コロイド微粒子の付着状態を光学的に観察する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記磁気記録媒体が、前記炭素系保護層の上に形成された潤滑層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コロイド微粒子を付着させる工程が、磁気記録媒体をコロイド微粒子を含む水溶液に浸漬することを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
コロイド微粒子を付着させる工程が、磁気記録媒体に対してコロイド微粒子を含む水溶液をスピンコートすることを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
コロイド微粒子の付着状態を光学的に観察する工程を、光学的外観検査装置を用いて実施することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
観察されるコロイド微粒子の付着状態が、磁気記録媒体の表面に対するコロイド微粒子の付着量、または磁気記録媒体の表面に対するコロイド微粒子の付着位置分布であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コロイド微粒子が親水性の表面を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
基板と、金属材料を含む磁性層と、該磁性層の上に形成された炭素系保護層とを少なくとも含む磁気記録媒体における炭素系保護層の被覆性を評価するための分析評価装置であって、
磁気記録媒体に対して、コロイド微粒子を含む水溶液を塗布する手段と、
磁気記録媒体を光学的に観察する手段と
を少なくとも含むことを特徴とする分析評価装置。
【請求項9】
磁気記録媒体を光学的に観察する手段が、光学的外観検査装置であることを特徴とする請求項8に記載の分析評価装置。
【請求項10】
磁気記録媒体に対する前記水溶液の塗布手段が、前記水溶液を収容するコロイド溶液槽と、該磁気記録媒体を保持するための垂直方向に移動可能なアームとを含むことを特徴とする請求項8または9に記載の分析評価装置。
【請求項11】
磁気記録媒体に対する前記水溶液の塗布手段が、磁気記録媒体を回転させるための回転手段と、該回転手段に磁気記録媒体を固定するための固定手段と、磁気記録媒体に対して前記水溶液を滴下させる滴下手段とを含むことを特徴とする請求項8または9に記載の分析評価装置。
【請求項12】
前記コロイド微粒子が親水性の表面を有することを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の分析評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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