説明

磁気記録媒体用シリコン基板及びその製造方法並びに磁気記録媒体

【課題】 材質の脆いシリコン基板においても基板端面の欠けや基板の割れが発生し難い基板を、簡素化した工程で製造してコストダウンを促進させ、記憶容量の大きな超小型の磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 シリコン基板の主表面と端面との間のコーナー部に半径0.01mm以上0.05mm以下の曲面を介在させたシリコン基板とする。曲面を形成するには多数のシリコン基板をスペーサを介して積層したシリコン基板積層体を使用して、バッヂ処理によるブラシ研磨を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報機器の記録媒体として使用される小型の磁気記録媒体用シリコン基板及びその製造方法並びに磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年各種情報機器の進展にともない、磁気記録媒体の記憶容量は増大の一途をたどっている。特にコンピュータの外部メモリとして中心的な役割をはたしている磁気ディスクは年々記録容量、記録密度ともに増加しているが、更に高密度な記録を行なうための開発が必要とされている。例えば、ノート型パソコンやパームトップパソコンの開発により、小型で衝撃に強い記録装置が望まれ、そのために、より高密度記録ができ、機械強度の強い小型の磁気記録媒体が望まれている。さらに最近ではナビゲーションシステムや携帯用音楽再生装置にも、超小型の磁気記録媒体を使用したものが採用されるようになってきた。
【0003】
従来より、この磁気記録媒体である磁気ディスク用の基板としては、アルミニウム合金およびその表面にNiPメッキ処理をしたものやガラス基板が採用されている。しかしながら、アルミニウム合金の基板は耐摩耗性,加工性が悪く、この欠点を補うためにNiPメッキ処理を施すが、このNiPメッキ処理を施したものでは反りが生じ易く、かつ高温処理時に磁性を帯びる等の欠点を有する。また、ガラス基板は強化処理時に表面にひずみ層が発生し、圧縮応力が作用し、基板加熱時に反りが生じ易いという問題点がある。
【0004】
より高密度記録が可能な直径1インチ(25.4mmφ)や0.85インチ(21.6mmφ)の超小型の磁気記録媒体の場合、基板の反りは致命的な欠点でてある。超小型の磁気記録媒体の基板としては、より薄くて外力に対して変形し難く、表面が平滑で磁気記録層の形成し易い材質のものが望まれる。
そこで半導体素子基板として多用されているシリコン基板を磁気記録媒体として使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
単結晶シリコンはアルミニウムより比重が小さく、ヤング率が大きく、熱膨脹率が小さくて、高温特性が良く、導電性を有する等の多くの長所があるため、磁気記録媒体用の基板材として好ましいものである。また、基板の直径が小さくなるほど受ける衝撃力も小さくなり、シリコン基板を使用しても耐久性のある磁気記録装置とすることができる。
【0005】
通常、磁気記録媒体用のシリコン基板を製造するには、まず、引き上げ法により単結晶シリコンインゴットを作り、所定の厚みにスライス加工してブランク材とする。
次に、ラッピング加工を施した後中心に貫通円孔を穿孔し、内外周の縁部を砥石等により面取り加工する。さらに、内外周端面や面取り部にポリッシング加工を施して鏡面に仕上げる。最後に主表面をポリッシュ加工して使用される。
シリコン基板は材質が脆いので上記のような製造工程を経るうちに、割れや欠けが生じ易い難点がある。割れや欠けが生じると磁気記録媒体の製造歩留まりが下がるばかりでなく、発生したパーティクルが記録再生時のエラーや記録再生時に磁気ヘッドがクラッシュを引き起こす原因にもなってくる。
脆性材料から割れや欠けの無い磁気記録媒体用の基板を得るために、基板の中心円孔の内周及び基板外周の面取り角度を20度以上24度以下とし、面取り長さを0.03mm以上0.15mm以下に加工する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
図10に従来の磁気記録媒体用のシリコン基板の縦断面図を示す。図10において、基板1の主表面2,3と端面4との間に20度以上24度以下で傾斜させた面取り部5,5を設けてある。図示は省略したが、基板内周部にも同様な面取り部が設けてある。
このような形状の基板とすることにより、製造工程中のハンドリングもしくは落下による基板の欠け、割れ等の欠陥が減少し製造歩留まりが格段に向上するとされている。
【0006】
また、ガラス基板においては、高密度記録を達成するため磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの低浮上化が計られており、記録再生を行う方式もコンタクト・スタート・ストップ(CSS)方式から、ロード・アンロード方式(ランプロード方式)へと徐々に置き換わりつつある。これらの記録再生方式においても、記録再生時のエラーや記録再生時に磁気ヘッドがクラッシュすることのない装着信頼性の高い基板が求められている。
この目的に沿った基板として、基板内外周の端面と面取り部との間、及び基板の主表面と面取に部との間のうちの少なくとも一方に、半径0.003mm以上0.2mm未満の曲面を介在させた基板が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
この基板を使用すれば、移送中のプロセスカセット(製造工程で基板を収納して運搬するためのケース)中でも欠けや割れは発生せず、記録再生時のエラーや、記録再生時に磁気ヘッドがクラッシュすることのない装着信頼性の高い磁気記録媒体が得られるとされている。
【特許文献1】特開平06−76282号公報
【特許文献2】特開平07−249223号公報
【特許文献3】特開2002−100031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、シリコン基板は脆いので、特許文献2や特許文献3に記載された形状の基板では、製造工程で使用するプロセスカセット中でカセットの基板受けに基板端面が載置されているために、移送時の衝撃により基板端面の欠けや基板の割れが発生したり、プロセスカセットとの擦れにより発塵してパーティクルとなって混在し、磁気記録媒体の不良品の発生原因となっている。
また、シリコン基板で従来から採用されている製造方法では、研削砥石を用いて基板を1枚ごとに面取り研削加工した後、基板の積層体を準備して内外端面のコーナー部を曲面加工する方法が行われている。
しかし、この方法では面取り研削加工を基板1枚毎に行うので時間と手間がかかり、コストアップの要因になっている。
さらに、基板端面に面取り部を設けると、それだけ主表面の記録できるエリアの面積が縮小されるので、超小型の磁気記録媒体では記憶容量を確保する上で不利となる。
【0008】
そこで本発明の目的の一つは、材質の脆いシリコン基板においても基板端面の欠けや基板の割れが発生し難い基板を提供して、基板端面からの発塵を防止し、プロセスカセットとのこすれによる発塵を防止できる基板の形状を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、製造工程を簡素化してコストダウンを促進させ、超小型の磁気記録媒体を安価に提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、超小型の磁気記録媒体の情報を記録するエリアの面積をなるべく広く確保し、記憶容量の大きな磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、以下に掲げた、
(1) シリコン基板の主表面と端面との間のコーナー部に半径0.01mm以上0.05mm以下の曲面を介在させた磁気記録媒体用シリコン基板、
(2) 前記主表面と端面との間の曲面が、基板の外周側にある(1)に記載の磁気記録媒体用シリコン基板、
(3) 前記主表面と端面との間の曲面が、基板の内周側にある(1)に又は(2)に記載の磁気記録媒体用シリコン基板、
(4) 前記シリコン基板の端面の表面粗さが、最大高さRmaxで1μm以下である(1)から(3)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体用シリコン基板、
(5) 前記シリコン基板の主表面の表面粗さが、最大高さRmaxで10nm以下である(1)から(4)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体用シリコン基板、
(6) 中心部に円孔を形成した円板状のシリコン基板を、遊離砥粒を含有した研磨液に浸漬し、前記シリコン基板の外周端面及び/又は内周端面を研磨ブラシと回転接触させて研磨する工程を含む磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法、
(7) 前記研磨ブラシと回転接触させて研磨する工程を、内外周を面取り加工した後に行う(6)に記載の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法、
(8) 前記研磨ブラシと回転接触させて研磨する工程を、多数のシリコン基板をスペーサを介して積層したシリコン基板積層体を用いて、バッチで加工する(6)又は(7)に記載の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法、
(9) 前記研磨ブラシとしてポリアミド系樹脂製のブラシを使用する(6)から(8)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法、
(10) 前記(1)から(5)のいずれか1つに記載の磁気記録媒体用シリコン基板の主表面上に、少なくとも磁性層を形成した磁気記録媒体、
の各発明を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、材質の脆いシリコン基板においても基板端面の欠けや基板の割れが発生し難い基板を提供することができ、基板端面からの発塵を防止し、プロセスカセットとのこすれによる発塵を防止できる基板が得られるので、不良品の発生率が低下し、記録・再生時のエラーの発生を防止することができる。また、記憶容量の大きな超小型磁気記録媒体を安価に提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の磁気記録媒体用シリコン基板を切断して見たときの斜視図である。また、図2は図1に示す本発明の磁気記録媒体用シリコン基板の各部寸法を説明する図である。
図1に示すように本発明の磁気記録媒体用シリコン基板1は、ドーナツ状の円板からなっており、円板の表裏に磁気記録を形成するための主表面2,3が有り、円板の最外周に外周端面4が、また円板の中心部の中心円孔の内側に内周端面7が形成されている。そして主表面2,3と外周端面4との間に外周の曲面5,5が形成されており、主表面2,3と内周端面7との間に内周の曲面6,6が形成されている。
これら主表面2,3、外周端面4及び内周端面7は、いずれも鏡面状態に研磨加工されている。
【0012】
本発明の磁気記録媒体用シリコン基板1において、主表面2,3と外周端面4との間の外周の曲面5,5及び主表面2,3と内周端面7との間の内周の曲面6,6の半径Rは0.01mm以上0.05mm以下に形成されている。
このような曲面を設けることにより、材質の脆いシリコン基板においてもコーナー部分が欠けることが無く、割れが発生したりプロセスカセットとの擦れにより発塵してパーティクルとなって混在し、磁気記録媒体の不良品の発生や記録・再生時のエラー発生が少なくなる。
曲面の半径Rが0.01mm未満ではコーナー部分が鋭利になり過ぎて欠け易くなり、曲面を設ける効果が十分発揮されず、半径Rが0.05mmを超えると主表面の記録できるエリアの面積を十分確保することができなくなる。
【0013】
図2に本発明の磁気記録媒体用シリコン基板1の各部の寸法を示す。図においてDは基板の外径、dは基板中心円孔の内径、Tは基板の厚さ、Lは曲面の半径Rの部分を示す。
表1に本発明の対象となる磁気記録媒体用シリコン基板の各部の寸法例を示す。
本発明は0.85インチから3.5インチサイズの基板にまで幅広く適用できるが、表1に示すように直径0.85インチ及び1インチの超小型基板において特に効果を発揮する。いずれのサイズの基板においても、曲面の半径Rは0.01mm〜0.05mmが適当である。
【0014】
【表1】

【0015】
次に、本発明の磁気記録媒体用シリコン基板1の外周部分を拡大して図3に示す。本発明の磁気記録媒体用シリコン基板1の主表面2,3と外周端面4との間に、半径Rが0.01mm以上0.05mm以下の曲面5,5が形成されている。本発明の磁気記録媒体用のシリコン基板には、従来のような面取り部は存在しない。
ここで、曲面の半径Rの測定方法について、図4を用いて説明する。図4に示すように主表面の延長線S1を引き、その延長線S1と曲面S2が離れる位置を起点Aとする。起点Aから10μm離れた主表面及び曲面上の位置をそれぞれ点C、点Bとする。そしてこれらの3点A,B,Cを通る円Oの半径Rを、曲面の半径Rとする。この曲面の半径Rを0.01mm以上0.05mm以下とすれば、シリコン基板のコーナー部分が欠け落ちるのを防ぐことができる。Rが0.01mm未満では角が急激すぎて衝撃に弱く、ハンドリングやぶつけた時に欠け易くなる。Rが0.05mmより大きくなると、情報を記録する主表面の面積が狭くなるので好ましくない。
【0016】
また、本発明の磁気記録媒体用シリコン基板においては、主表面、外周端面及び内周端面を鏡面に研磨加工する。
主表面の表面粗さは、最大高さRmaxで10nm以下とする。また、内外周端面表面粗さは、最大高さRmaxで1μm以下とする。
シリコン基板の中心円孔の直径精度は±20μm以内に抑える必要がある。
【0017】
上記のような半径Rの曲面を有するシリコン基板は、内外周端面を砥石で研削した後、さらに研磨ブラシを用いて研磨することにより得られる。
従来のシリコン基板は、図6に示すように、次のような工程で製造する。すなわち、先ず円板状のシリコン素材に形状精度及び寸法精度の向上を目的としてラッピング加工を施す。ラッピング加工はラッピング装置を用いて2段階行い、面精度を1μm以下、表面粗さをRmaxで4μm以下に仕上げる。
先ず、第1段のラッピング加工を行って内外周端面の表面粗さを、Rmaxで6μm程度とする。次いで、第2段のラッピング加工を行い、面精度を1μm以下、表面粗さをRmaxで4μm以下とする(図6(a),(b)参照)。
次いで、円筒状の砥石を用いて基板の中心部に円孔を穿孔した後、内外周部所定の面取り加工を施す(図6(c2),(c3)参照)。
さらに上記に続いて内外周端面及び面取り部をポリッシュ加工して鏡面に仕上げる(図6(d)参照。)。これらの工程は基板を1枚毎に処理する枚葉処理で加工している。
最後に磁気記録層を設ける主表面をポリッシュ加工する。ポリッシュ加工はそれまでの加工で発生した傷や歪みを除去するために1次ポリッシュと、鏡面に仕上げるための2次ポリッシュ加工の2段階に分けて行う(図6(e),(f)参照。)。
ポリッシュ加工を終えたシリコン基板は充分洗浄した後、検査工程に廻される(図6(g),(h)参照。)。
このようにして磁気記録媒体用のシリコン基板を得ていた。
【0018】
本発明においては図5に示すように、先ず円板状のシリコン素材に形状精度及び寸法精度の向上を目的としてラッピング加工を施す。ラッピング加工はラッピング装置を用いて2段階行う(図5(a),(b)参照)。
次いで、多数枚のシリコン基板を、スペーサを介して束ねてシリコン基板の積層体を準備する(図5(c1)参照)。そして、このシリコン基板の積層体の中心部に円孔を穿孔した後、基板の内外周部に所定の面取り加工を施す(図5(c2),(c3)参照)。
さらに研磨ブラシを使用して内周端面及び外周端面をブラシ研磨する(図5(d)参照。)。本発明の磁気記録用シリコン基板の製造方法では、円孔穿孔から内外週のポリッシュ加工までを、シリコン基板積層体を使用してバッヂ処理で行う。
最後に磁気記録層を設ける主表面をポリッシュ加工する。ポリッシュ加工はそれまでの加工で発生した傷や歪みを除去するため、1次ポリッシュと、鏡面に仕上げるための2次ポリッシュ加工の2段階に分けて行う(図5(e),(f)参照。)。
ポリッシュ加工を終えたシリコン基板は充分洗浄した後、検査工程に廻される(図5(g),(h)参照。)。
本発明の方法では、一度に多数枚の基板を処理するので生産効率が極めて高くなる。
このようにして基板のコーナー部分に曲面を有する本発明の磁気記録媒体用のシリコン基板を得る。
【0019】
上記のように円孔の穿孔から端面のブラシ研磨迄の工程では、図7に示すようなシリコン基板の積層体12を使用して、多数枚のシリコン基板を同時にバッチ処理する。シリコン基板の積層体12は100枚から200枚の多数のシリコン基板1を重ね合わせ、各シリコン基板1の間にスペーサ11を挿入したものである。
シリコン基板の積層体を使用することにより、作業の能率が格段に向上する。
スペーサ11は、シリコン基板1の内周端面7の曲面6,6及び外周端面4の曲面5,5のブラシ研磨による研磨残りを確実に防止するため、及び研磨時におけるシリコン基板の破損を確実に防止するために設けられたもので、その形状はシリコン基板と同じく中心部に円孔を有する円板状とする。具体的には、装着した際にスペーサ11の端部(側面)がシリコン基板1の端面4から0〜2mm程度内側(好ましくは0.5〜2mm程度内側)になるようにする。スペーサの端部をシリコン基板の面取り部の終端から内側にした場合、スペーサの厚さとブラシ毛の線径にもよるが、ブラシ毛がシリコン基板の主表面の領域まで入り込むことによって、主表面と面取部の間の稜線部が丸味を帯びてくる。また、スペーサ11の厚さは、使用するブラシ毛の線径によって適宜調整される。その厚さは、0.1〜0.3mm程度が好ましい。また、スペーサ11の材質としては、ポリウレタン、アクリル、エポキシ、研磨工程で使用する研磨パッドと同じ材料などシリコン基板より軟質な材料等とすることが好ましい。研磨ブラシ又は研磨パッドからの圧力によって生じるシリコン基板の破壊を阻止しうる程度に軟質な材料からなることが望ましい。
【0020】
研磨作業は、まず図示省略の治具にシリコン基板とスペーサを交互に多数挿入し、締め付けカバーを締め込むことによりクランプしてシリコン基板の積層体を構成する。次いで、研磨ブラシをシリコン基板1の中心円孔内に挿入し、ブラシ毛がシリコン基板の内周端面に当接するように、研磨ブラシの押し付け量を調整するする。
研磨ブラシは線径0.05mm〜0.3mm、毛足長1〜10mmのポリアミド系樹脂繊維を螺旋状に束ねたものを使用するのが好ましい。
続いて基板ケース内に適当量の研磨液を満たす。そして図8に示すようにシリコン基板1の積層体12と研磨ブラシ13を上下に移動させながら互いに逆方向に機転させて基板内周面をブラシ研磨する。シリコン基板の積層体12の回転数は60rpm、研磨ブラシ13の回転数は1000〜3000rpm程度とするのが好ましい。
内周面をブラシ研磨することにより、主表面と内周端面との境界接点が半径0.01〜0.05mmの曲面となる。
【0021】
次に、上記内周端面のブラシ研磨後にシリコン基板の外周端面をブラシ研磨する。
図9に示すように、シリコン基板1の積層体12のシリコン基板1の端面に筒状ブラシ15を押し当てる。ブラシ毛16の線径は0.05mm〜0.3mm、毛足長1〜30mmのポリアミド系樹脂繊維を螺旋状に植毛した直径200〜500mmの筒状ブラシ15を使用するのが好ましい。この筒状の研磨ブラシ15をシリコン基板積層体12の外周部分に押し付け、研磨液をシリコン基板積層体の外周部分と研磨ブラシとの接触面に供給しつつ、シリコン基板積層体12を60rpmで、また筒状ブラシ15を700〜1000rpmで互いに逆方向に回転させながら上下に移動させてシリコン基板1の外周端面をブラシ研磨する。
【0022】
ブラシ研磨を終えたシリコン基板は水洗浄して主表面に第1のポリッシング加工を施す。
第1ポリッシング加工は、上記までの加工で残留したキズや歪みを除去することを目的とする。
第1ポリッシング加工には通常用いられる研磨装置を使用し、研磨液として(コロイダルシリカ+水)を使用し、荷重は100g/cm程度、研磨除去量は30μm目標、下定盤回転数:40rpm、上定盤回転数:35rpm、サンギア回転数:14rpm程度、インターナルギア回転教:29rpm程度で行う。
上記第1ポリッシング工程を終えたシリコン基板は水洗して第2ポリッシング加工工程に廻す。
【0023】
次いで、第1ポリッシング加工を終えたシリコン基板の主表面に対して仕上げの第2ポリッシング加工を施す。フィニッシュポリッシングとなる第2ポリッシング加工の研磨条件は研磨液として(コロイダルシリカ+水)を使用し、荷重は100g/cm程度とし、研磨除去量は5μm目標、下定盤回転数:40rpm、上定盤回転数:35rpm、サンギア回転数:14rpm程度、インターナルギア回転教:29rpm程度で行う。
上記第2ポリッシング工程を終えたシリコン基板を、中性洗剤、純水、純水+IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して超音波洗浄する。
【0024】
以上の加工工程を経て、基板の端面及び面取り部が鏡面であり、基板の主表面と端面との間に半径0.01mm以上0.05mm以下の曲面を介在させた磁気記録媒体用シリコン基板が得られる。このシリコン基板は従来型の面取り部が存在しないので、従来の基板よりも記録エリアの面積を広くすることができる。
この磁気記録媒体用シリコン基板は、材質が脆いシリコンであるにもかかわらず基板端面の欠けや基板の割れが発生し難く、基板端面からの発塵を防止し、プロセスカセットとのこすれによる発塵を防止することができる。
また、枚葉加工による面取り加工を省略して、バッチ処理によるブラシ研磨で処理しているので、プロセスが大幅に簡略化され、生産効率が向上してコストダウンに寄与することができる。
【0025】
上述のようにして得られた磁気記録媒体用のシリコン基板の両面に、従来公知の方法に従って、例えば、インライン型スパッタリング装置等を用いてCrMo下地層、CoCrPtTa磁性層、水素化カーボン保護層を順次成膜し、ディップ法によってパーフルオロポリエーテル液体潤滑層を成膜すると磁気記録媒体が得られる。
このようにして得られる本発明の磁気記録媒体は、磁気記録層を有する主表面と端面との間に半径0.01mm以上0.05mm以下の曲面を具備していて、磁気記録媒体端面の欠けや基板の割れが発生し難く、磁気記録媒体端面からの発塵を防止し、プロセスカセットとのこすれによる発塵を防止することができるので、記録再生時のエラーや、記録再生時の磁気ヘッドクラッシュを防ぐのに効果がある。
【実施例】
【0026】
直径21.6mm(呼称:0.85インチ)及び直径25.4mm(呼称:1インチ)のシリコン基板各20枚を使用して、上記のような第1段ラッピング加工、第2段ラッピング加工、円孔加工、内外周部面取り加工、内外周端面ブラシ加工、主表面第1ポリッシング加工及び主表面第2ポリッシング加工を順次施し、主表面の外周側と内周側のコーナー部分に表2に示すような半径0,01mmと半径0.05mmの曲面を有するシリコン基板を作成した。
このうち内外周端面の研削(即ち面取り)加工及びブラシ加工には、シリコン基板の間に直径20.5mm(0.85インチ基板用)または24.5mm(1インチ基板用)、厚さ0.2mmのエポキシ樹脂製のスペーサを挿入したシリコン基板積層体を使用した。
【0027】
内周端面のブラシ加工には、線径0.1mm、毛足長1mmのポリアミド系樹脂繊維を螺旋状に束ねた研磨ブラシを使用し、水に粒度400番のアルミナ砥粒を懸濁させた研磨液を使用した。研磨ブラシをシリコン基板の中心円孔内に挿入し、シリコン基板積層体の回転数を60rpm、研磨ブラシの回転数を1500rpmとして互いに逆方向に回転させて研磨した。
【0028】
次に、上記内周端面のブラシ研磨を終えたシリコン基板の外周端面をブラシ研磨した。
外周端面のブラシ研磨には、ブラシ毛の線径が0.1mm、毛足長20mmのポリアミド系樹脂繊維を螺旋状に植毛した直径300mmの筒状ブラシを使用した。シリコン基板の積層体のシリコン基板端面に研磨用ブラシを押し当て、研磨液をシリコン基板積層体の外周部分と研磨ブラシの接触面に供給しながら、シリコン基板積層体を60rpmで、また筒状ブラシを900rpmで互いに逆方向に回転させ研磨した。
このようにして得られた、0.85インチ、1インチ各々について20枚のシリコン基板の主表面の記録エリアの面積を求めた。
結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
また、シリコン基板の外周端面近傍の仕上がり精度を観察した。
次いで、上記20枚のシリコン基板について、搬送用のカセットに収容して移動する際に想定される振動を与えて基板端面の損傷発生の状況と発塵の様子を調べた。
基板端面の損傷発生の状況は、基板端面を光学顕微鏡により観察して行った。また、搬送用のカセットを使用した発塵テストは、以下のような手順で行った。
(1)カセット内にシリコン基板を収容して、トップカバーを装着してパッキングする。
(2)搬送を想定して、シリコン基板をカセットの底部方向と天井方向に各10回ずつ動かす。
(3)カセットへの脱着を想定して、カセットの溝からシリコン基板を10回出し入れする。
以上の(1),(2),(3)の処理が終了したら、基板外周部でカセット素材であるポリカーボネートパーティクルの発生数を、光学顕微鏡を使用して測定した。測定は0.85インチ、1インチ各々について20枚の基板を観察し、計数されたパーティクルの数を基板の枚数(20枚)で除した値を持って比較した。これらの結果を表3に併記して示す。
【0031】
【表3】

【0032】
(比較例)
比較のため、従来の面取り部を有する基板であって、基板の主表面と面取り部との間に半径0.005mmの曲面を介在させたシリコン基板についても同様の評価をした。これらの結果も表3に併記した。
【0033】
これらの結果から、材質の脆いシリコン基板においては基板の主表面と面取り部との間に半径0.01mm、0.05mmの曲面を設けると、基板端面の欠けや基板の割れが発生し難い基板となり、基板端面からの発塵が防止でき、プロセスカセットとのこすれによる発塵も防止できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の磁気記録媒体用シリコン基板の断面斜視図である。
【図2】図1に示す本発明の磁気記録媒体用シリコン基板の各部寸法を説明する図である。
【図3】図1に示す本発明の磁気記録媒体用シリコン基板の外周部分を拡大して示す図である。
【図4】曲面の半径Rの測定方法を説明する図である。
【図5】本発明のシリコン基板の製造工程を説明する図である。
【図6】従来のシリコン基板の製造工程を説明する図である。
【図7】本発明で使用するシリコン基板積層体の一部を示す図である。
【図8】シリコン基板の中心円孔内周をブラシ研磨する方法を説明する図である。
【図9】シリコン基板の外周をブラシ研磨する方法を説明する図である。
【図10】従来の磁気記録媒体用シリコン基板の縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1・・・・・・磁気記録媒体用シリコン基板、2,3・・・・・・主表面、4・・・・・・外周端面、5・・・・・・外周面取り部、6・・・・・・内周面取り部、7・・・・・・内周端面、 11・・・・・・スペーサ、12・・・・・・シリコン基板積層体、13・・・・・・研磨ブラシ、14,16・・・・・・ブラシ毛、15・・・・・・筒状ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の主表面と端面との間のコーナー部に半径0.01mm以上0.05mm以下の曲面を介在させたことを特徴とする磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項2】
前記主表面と端面との間の曲面が、基板の外周側にあることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項3】
前記主表面と端面との間の曲面が、基板の内周側にあることを特徴とする請求項1に又は請求項2に記載の磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項4】
前記シリコン基板の端面の表面粗さが、最大高さRmaxで1μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項5】
前記シリコン基板の主表面の表面粗さが、最大高さRmaxで10nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用シリコン基板。
【請求項6】
中心部に円孔を形成した円板状のシリコン基板を、遊離砥粒を含有した研磨液に浸漬し、前記シリコン基板の外周端面及び内周端面を研磨ブラシと回転接触させて研磨する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法。
【請求項7】
前記研磨ブラシと回転接触させて研磨する工程を、内外周を面取り加工した後に行うことを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法。
【請求項8】
前記研磨ブラシと回転接触させて研磨する工程を、多数のシリコン基板をスペーサを介して積層したシリコン基板積層体を用いて、バッチで加工することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法。
【請求項9】
前記研磨ブラシとしてポリアミド系樹脂製のブラシを使用することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法。
【請求項10】
前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用シリコン基板の主表面上に、少なくとも磁性層を形成したことを特徴とする磁気記録媒体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−85887(P2006−85887A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232909(P2005−232909)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】